JP4226755B2 - 複合樹脂エマルジヨンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体との複合樹脂エマルジヨンの製造方法、それにより得られる複合樹脂エマルジヨンおよび該複合樹脂エマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加してなる感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンに関する。より詳細には、本発明は、分散安定性に優れ、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体とが良好な複合形態をなして粒状で水性分散媒中に乳化分散しており、しかも乾燥すると、透明性、柔軟性、力学的特性、耐摩耗性、耐候性、耐屈曲性、耐溶剤性、耐加水分解性などの特性に優れる皮膜等を形成し得る複合樹脂エマルジヨンを良好な重合安定性で製造する方法、およびそれにより得られる複合樹脂エマルジヨン、並びに該複合樹脂エマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加してなる感熱ゲル化特性に優れる複合樹脂エマルジヨンに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリウレタンが有する強度、耐摩耗性、耐溶剤性などの特性と、エチレン性不飽和モノマーからなる重合体、特に(メタ)アクリル酸誘導体系重合体が有する耐候性、耐加水分解性、低コストなどの特性を併せ持つ複合樹脂を得る目的で、ポリウレタン系エマルジヨンの存在下にエチレン性不飽和モノマーを乳化重合して複合樹脂エマルジヨンを製造することが提案されている(特開昭62−241902号公報、特開平5−320299号公報、特開平10−30057号公報)。これらの従来技術では、ポリウレタン系エマルジヨンとして、ポリウレタン形成反応を界面活性剤を使用しないで行った、ポリウレタン自身が乳化特性を有する、いわゆるアイオノマー型の“自己乳化性ポリウレタン”のエマルジヨンが用いられており、自己乳化性のポリウレタン系エマルジヨンの代替として有用である。
【0003】
一方、界面活性剤によって分散安定化した強制乳化型のポリウレタン系エマルジヨンの代替としては、強制乳化型ポリウレタン系エマルジヨンの存在下でエチレン性不飽和モノマーを乳化重合した強制乳化型の複合エマルジヨンが好ましい。例えば、織編物等にエマルジヨンを含浸して風合加工などを行う場合、樹脂が織編物等に均一に付着するようにエマルジヨンに感熱ゲル化性を付与することがある。しかしながら、自己乳化型エマルジヨンでは感熱ゲル化性の付与が困難であり、乾燥工程で樹脂が織編物等の表面に移動するいわゆるマイグレーションという現象が起こり、風合の劣ったものしか得られないという問題がある。これらのことから強制乳化型の複合樹脂エマルジヨンの製造が望まれているが、強制乳化型ポリウレタン系エマルジヨンの存在下でエチレン性不飽和モノマーの乳化重合を行うと、重合中にゲル化が起こったり、あるいはエチレン性不飽和モノマーからの重合体のみからなる粒子が大量に生成して、得られる複合樹脂の物性が低下するなどの問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、分散安定性に優れ、しかもポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体とが良好な複合形態の粒子状でエマルジヨン中に乳化分散していてエチレン性不飽和モノマー重合体のみからなる粒子がエマルジヨン中に殆ど存在せず、乾燥したときに透明性、柔軟性、力学的特性、耐摩耗性、耐候性、耐屈曲性、耐溶剤性、耐加水分解性などの特性に優れる皮膜などを形成することのできるポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体との複合樹脂エマルジヨン、および前記複合樹脂エマルジヨンを良好な重合安定性で円滑に製造し得る方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、感熱ゲル化剤を添加したときに、そのままでは直ちに凝固が生じず流動状態を保ち、加熱したときにはゲル化物を円滑に形成し、取り扱い性および感熱ゲル化性に優れ、しかも感熱ゲル化特性の調整が容易で、布帛などの基材の風合付与などに有効に用い得る、感熱ゲル化剤を添加した前記複合樹脂エマルジヨンを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者は鋭意検討を重ねてきた。その結果、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体との複合樹脂のエマルジヨンを製造するに当たって、ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記した従来の自己乳化性ポリウレタンのエマルジヨンを用いる代わりに、特定量の界面活性剤の存在下にイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン骨格中に特定量の中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有する強制乳化型のポリウレタンエマルジヨンを用いると、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体とが良好な複合形態の粒子状でエマルジヨン中に安定に分散し、しかも乾燥したときに透明性、柔軟性、力学的特性、耐摩耗性、耐候性、耐屈曲性、耐溶剤性、耐加水分解性などの特性に優れる皮膜などを形成し得る複合樹脂エマルジヨンが得られることを見出した。
さらに、本発明者は、前記で得られる複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加したものは、感熱ゲル化剤を添加しただけでは凝固などが生じず流動性を保ち、取り扱い性に優れ、一方加熱により速やかにゲル化することを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して複合樹脂エマルジヨンを製造する方法であって、ポリウレタン系エマルジヨン(A)として、下記の要件[1]〜要件[3];
[1] 水性液中で界面活性剤の存在下にイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させて調製したポリウレタン系エマルジヨンである;
[2] ポリウレタン骨格中に、ポリウレタン100g当たり、中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を3〜30mmolの割合で有するポリウレタンのエマルジヨンである;および
[3] ポリウレタン100g当たり界面活性剤を0.5〜10gの割合で含有するポリウレタン系エマルジヨンである;
を満足するポリウレタン系エマルジヨンを用いることを特徴とする複合樹脂エマルジヨンの製造方法である。
【0007】
そして、本発明は、
(2) ポリウレタン系エマルジヨン(A)が、ポリウレタン100g当たり界面活性剤を0.5〜6gの割合で含有する前記(1)の複合樹脂エマルジヨンの製造方法;
(3) ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタン100重量部に対してエチレン性不飽和モノマー(B)を10〜900重量部の割合で用いて乳化重合を行うことからなる前記(1)または(2)の複合樹脂エマルジヨンの製造方法;
(4) エチレン性不飽和モノマー(B)が(メタ)アクリル酸誘導体を主成分とするエチレン性不飽和モノマーである前記(1)〜(3)のいずれかの複合樹脂エマルジヨンの製造方法;
(5) ポリウレタン系エマルジヨン(A)に含まれる界面活性剤の少なくとも一部がアニオン性界面活性剤である前記(1)〜(4)のいずれかの複合樹脂エマルジヨンの製造方法;
(6) ポリウレタン系エマルジヨン(A)中の粒子の平均粒径が500nm以下である前記(1)〜(5)のいずれかの複合樹脂エマルジヨンの製造方法;および、
(7) 乳化重合を、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルおよび2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)から選ばれる1種または2種以上の重合開始剤を用いて行う前記(1)〜(6)のいずれかの複合樹脂エマルジヨンの製造方法;
を好ましい態様として包含する。
【0008】
さらに、本発明は、
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかの製造方法で得られる複合樹脂エマルジヨンである。
そして、本発明は、
(9) 前記(1)〜(7)のいずれかの製造方法で得られる複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加してなる感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では、ポリウレタン系エマルジヨン(A)として、上記した要件[1](水性液中で界面活性剤の存在下にイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させて調製したポリウレタン系エマルジヨンである点)、要件[2](ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を3〜30mmolの割合で有するポリウレタンのエマルジヨンである点)、および要件[3](ポリウレタン100g当たり界面活性剤を0.5〜10gの割合で有するポリウレタン系エマルジヨンである点)を満足するポリウレタン系エマルジヨンを用いることが必要である。
【0010】
すなわち、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)は、まず上記の要件[1]を満足していることが必要であり、要件[1]を満たしていない場合(界面活性剤の不使用下にイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン系エマルジヨンである場合)は、水性液中での分散安定性が著しく劣る。
【0011】
限定されるものではないが、本発明の複合樹脂エマルジヨンの製造方法で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)の好ましい調製法の例としては、
(i)(a)高分子ポリオール、カルボキシル基およびスルホン酸基の少なくとも一方を含有し且つイソシアネート基と反応性の活性水素原子を1個以上有する化合物、並びに有機ポリイソシアネートを反応させて、カルボキシル基および/またはスルホン酸基を骨格中に含有するイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造するか、または(b)分子骨格中にカルボキシル基およびスルホン酸基の少なくとも一方を有する高分子ポリオールと有機ポリイソシアネートを反応させてカルボキシル基および/またはスルホン酸基を骨格中に有するイソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造し;次いで、
(ii)前記(i)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマー(以下「ウレタンプレポリマー」ということがある)の骨格中のカルボキシル基および/またはスルホン酸基を三級アミン、アルカリ金属水酸化物などの塩基性物質で中和した後;
(iii)所定量の界面活性剤の存在下に該中和されたウレタンプレポリマーを水性液中に強制撹拌などにより乳化させた状態でウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させてポリウレタン系エマルジヨン(A)を調製する方法;
を挙げることができる。
【0012】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)を調製するためのウレタンプレポリマーの製造[上記(i)の工程]に用いる上記した高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリエーテルポリオールの1種または2種以上が好ましく用いられる。
【0013】
上記のポリエステルポリオールは、常法にしたがって、例えば、ポリカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのポリカルボン酸成分とポリオール成分を直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応することにより、或いはポリオールを開始剤としてラクトンを開環重合することにより製造することができる。
【0014】
ウレタンプレポリマー製造用のポリエステルポリオールの製造に用い得るポリカルボン酸成分としては、ポリエステルポリオールの製造において一般的に使用されているポリカルボン酸成分を使用でき、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、トリメシン酸などのトリカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体から主としてなり、場合により少量の3官能以上のポリカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を含むものを用いて製造されたものであることが好ましい。
【0015】
ウレタンプレポリマー製造用のポリエステルポリオールの製造に用い得るポリオール成分としては、ポリエステルポリオールの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン、ペンタエリスリトールなどの3官能以上のポリオール挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリオール成分として、脂肪族ジオールからなり、場合により少量の3官能以上のポリオールを含むポリオール成分を用いて製造されたものであることが好ましい。
【0016】
ウレタンプレポリマー製造用のポリエステルポリオールの製造に用い得る前記のラクトンとしては、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0017】
ウレタンプレポリマーの製造に用い得るポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオールとジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるものを挙げることができる。ポリカーボネートポリオールを構成するポリオールとしては、ポリエステルポリオールの構成成分として先に例示したポリオールを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0018】
ウレタンプレポリマーの製造に用い得るポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールおよびカーボネート化合物を反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリカーボネートポリオールとポリオールおよびポリカルボン酸を反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールおよびポリカーボネートポリオールを反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0019】
ウレタンプレポリマーの製造に用い得るポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
ウレタンプレポリマーの製造に用いる高分子ポリオールは、製造の容易性などの点から、その数平均分子量が500〜10,000であることが好ましく、700〜5,000であることがより好ましく、750〜4,000であることがさらに好ましい。
また、ウレタンプレポリマーの製造に用いる高分子ポリオールは、1分子当たりの水酸基数fが、1.0≦f≦4.0の範囲であることが好ましく、2.0≦f≦3.0の範囲であることがより好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)は、上記の要件[2]、すなわちポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を3〜30mmolの割合で有するポリウレタンのエマルジヨンである点を満足することが必要である。この要件[2]を満足するポリウレタン系エマルジヨン(A)を得るためには、ウレタンプレポリマーの製造時に、上記したように、高分子ポリオールと共にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有し且つイソシアネート基と反応性の活性水素原子を1個以上有する化合物を用いるか[上記(i)の工程(a)]、或いは高分子ポリオールとして分子骨格中にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有するものを用いる[上記(i)の工程(b)]のがよく、そのうちでも、上記(i)の工程(a)を経るのが好ましい。
【0022】
上記(i)の工程(a)のウレタンプレポリマー製造工程に用いられる、カルボキシル基および/またはスルホン酸基を有し且つイソシアネート基と反応性の活性水素原子を1個以上有する化合物[以下「カルボキシル基および/またはスルホン酸基含有イソシアネート反応性化合物」ということがある]としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有化合物およびこれらの誘導体;1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸などのスルホン酸基含有化合物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
また、上記(i)の工程(b)のウレタンプレポリマー製造工程に用いる分子骨格中にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有する高分子ポリオールとしては、例えば、上記したポリエステルポリオールの製造時にポリカルボン酸成分と反応させるポリオール成分の一部として、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有化合物またはその誘導体を用いて製造したポリエステルポリオールなどを挙げることができる。
【0024】
上記(i)の工程(a)または工程(b)のいずれの場合にも、上記の(iii)の工程後に、そこで得られるポリウレタン系エマルジヨン(A)において、ポリウレタン骨格中に中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基がポリウレタン100g当たり3〜30mmolの範囲になるようにして、カルボキシル基および/またはスルホン酸基含有イソシアネート反応性化合物を使用するか、或いは分子骨格中にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有する高分子ポリオールを使用することが必要である。
【0025】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)において、ポリウレタン100g当たりの中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基の含有量(中和されたカルボキシル基とスルホン酸基の両方を有する場合は両者の合計量)が3mmol未満であると、ポリウレタン系エマルジヨンの分散安定性が低下し、ポリウレタン系エマルジヨンの存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際に系がゲル化し易くなる。一方、ポリウレタン100g当たりの中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基の含有量が30mmolよりも多いと、ポリウレタン系エマルジヨンの存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際にやはり分散安定性が低下し、しかも得られる複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化特性が失われたり低下したりして、感熱ゲル化剤を添加すると加熱をする前に直ちにゲル化するなどのトラブルを生じ易くなる。
ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタンは、乳化重合時の安定性、得られる複合樹脂エマルジヨンの安定性、感熱ゲル化特性などの点から、ポリウレタン100g当たり、中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を5〜25mmolの割合で有していることが好ましく、7〜22mmolの割合で有していることがより好ましい。また、ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタンは中和されていないカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有していてもよい。
【0026】
ウレタンプレポリマー[すなわちポリウレタン系エマルジヨン(A)調製用のウレタンプレポリマー]の製造に用いる有機ポリイソシアネートとしては、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられている有機ポリイソシアネートのいずれもが使用できるが、分子量500以下の脂環式ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのうちの1種または2種以上が好ましく使用される。そのような有機ジイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
分子骨格中にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を含有するウレタンプレポリマーを製造するに当たっては、各成分の使用割合は、生成するプレポリマーの分子末端がイソシアネート基で封鎖されるような割合であることが必要であり、一般的には、[イソシアネート基と反応性の活性水素原子の総量]:[イソシアネート基]のモル比が、1:1.1〜5の割合になるようにして反応を行うことが好ましい。
ウレタンプレポリマー製造時の温度は特に制限されないが、通常、20〜150℃の温度が好ましく採用される。
【0028】
上記により得られるウレタンプレポリマーを、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどの三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物などのような塩基性化合物で処理することによって、ウレタンプレポリマー分子中のカルボキシル基および/またはスルホン酸基を中和することができる。カルボキシル基および/またはスルホン酸基の中和処理は、ウレタンプレポリマーの製造終了後または乳化時に、塩基性化合物を系に添加することによって簡単に実施することができる。塩基性化合物の添加量は、ウレタンプレポリマーが有するカルボキシル基および/またはスルホン酸基の量に応じて調節するのがよい。
【0029】
次いで、上記で得られる中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有するウレタンプレポリマーに、水性液中で、界面活性剤の存在下に、鎖伸長剤を反応させて、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)を調製する(要件[1])。
【0030】
鎖伸長剤としては、ポリウレタン系エマルジヨンの調製に従来から使用されている鎖伸長剤のいずれもが使用できるが、イソシアネート基と反応性の活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好ましく用いられる。好ましく用いられる鎖伸長剤の具体例としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン及びその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;トリメチロールプロパンなどのトリオール類;ペンタエリスリトールなどのペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
鎖伸長剤の使用量は、[プレポリマー中のイソシアネート基]:[鎖伸長剤中のイソシアネート基と反応性の活性水素原子]のモル比が、1:0.5〜2の範囲内となる量であることが好ましく、1:0.7〜1.5の範囲内となる量であることがより好ましい。
また、ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させるに当たっては、鎖伸長剤をそのまま単独でウレタンプレポリマーの水性エマルジヨン中に添加してもよいが、鎖伸長剤を水に溶解するか、または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に溶解してウレタンプレポリマーの水性エマルジヨンに添加するのが好ましく、それによりウレタンプレポリマーと鎖伸長剤との反応が良好に進行してポリウレタン系エマルジヨン(A)を円滑に調製することができる。さらに、鎖伸長剤は、その一部をウレタンプレポリマーの乳化前に反応させておいてもよい。
【0032】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)の調製に当たっては、ウレタンプレポリマーと鎖伸長剤の反応により生成するポリウレタン100g当たり、界面活性剤が0.5〜10gの範囲内になる量で界面活性剤を使用して鎖伸長反応を行うことが必要であり、0.5〜6gの範囲内になる量で界面活性剤を使用して鎖伸長反応を行うことが好ましく、1〜5gの範囲内になる量で界面活性剤を使用して鎖伸長反応を行うことがより好ましい。
ポリウレタン系エマルジヨン中のポリウレタン100g当たり、界面活性剤の量が0.5gよりも少ないと、ポリウレタン系エマルジヨンの分散安定性が低下して、エチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際に重合安定性の低下、ゲル化が生じ易くなる。一方、ポリウレタン系エマルジヨン中のポリウレタン100g当たり界面活性剤の量が10gよりも多いと、エチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性が低下し、しかもエチレン性不飽和モノマー(B)のみからなる重合体粒子が生成して複合樹脂粒子が生成しにくくなり、目的とする複合樹脂のエマルジヨンが得られなくなり、複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルム等が白濁して透明性が損なわれる。特に、ポリウレタン系エマルジヨン中での界面活性剤の含有量を、ポリウレタン系エマルジヨン中のポリウレタン100g当たり0.5〜6gにすると、複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンにしたときに、複合樹脂エマルジヨンの分散安定性が一層良好になり、しかも感熱ゲル化温度が高くなり過ぎず取り扱い性に優れるので望ましい。
ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤と反応させる際の分散安定性を確保できる限りは、場合によっては、界面活性剤の少量(好ましくは界面活性剤の20%以下)をウレタンプレポリマーと鎖伸長剤との反応後に、ポリウレタン系エマルジヨンに添加してもよい。但し、その場合にも、ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタン100g当たり界面活性剤の量が最終的に0.5〜10gの範囲内になるように調整することが必要である。
【0033】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)の調製時(すなわちウレタンプレポリマーの鎖伸長反応時)に用いる界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、界面活性剤の少なくとも一部がアニオン性界面活性剤からなることがエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性の点から好ましく、界面活性剤の全部がアニオン性界面活性剤であることが好ましい。特に、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムの1種または2種以上がより好ましく用いられる。
【0034】
ウレタンプレポリマーは、乳化分散をし易くするために有機溶媒で希釈してもよく、その際の有機溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。ウレタンプレポリマーの希釈に用いた有機溶媒は、エチレン性不飽和モノマー(B)の乳化重合前または乳化重合後にエマルジヨンから除去することができる。
【0035】
ウレタンプレポリマーを界面活性剤の存在下で水性液体に分散させる方法は特に制限されず、ウレタンプレポリマーを水性液体中に均一に乳化分散させ得る方法であればいずれの方法を採用してもよく、そのうちでも強撹拌などの強い剪断力をかけながらウレタンプレポリマーを水性液体中に乳化分散させる方法などが好ましく採用される。
【0036】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)では、該エマルジヨン中に含まれる粒子の平均粒径が、動的光散乱法により測定し且つキュムラント法で解析して求めたときに、500nm以下であることが複合樹脂エマルジヨンの製造安定性などの点から好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましい。ポリウレタン系エマルジヨン(A)中の粒子の平均粒径が500nmを超えると、ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際に系のゲル化が生じ易くなる。
【0037】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)では、該エマルジヨンの重量に基づいて、ポリウレタン(樹脂固形分)の含有割合が5〜60重量%であることが、エマルジヨンの分散安定性、複合樹脂エマルジヨンの形成性、生産性などの点から好ましく、10〜50重量%であることがより好ましい。
【0038】
上記の要件[1]〜要件[3]を備えるポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して、複合樹脂エマルジヨンを製造する。ここで、本発明における「要件[1]〜要件[3]を備えるポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合し」とは、例えば上記方法または他の方法によって予め製造した、要件[1]〜要件[3]を備えるポリウレタン系エマルジヨン(A)に、エチレン性不飽和モノマー(B)を添加して乳化重合を行うことを意味する。ポリウレタン系エマルジヨン(A)の製造の途中にエチレン性不飽和モノマー(B)を添加したり、該途中で添加したエチレン性不飽和モノマー(B)をポリウレタン系エマルジヨンの製造時に重合することは本発明に包含されない。ポリウレタン系エマルジヨン(A)の製造の途中にエチレン性不飽和モノマー(B)の一部または全部を添加すると、また該途中で添加したエチレン性不飽和モノマー(B)を一部であってもポリウレタン系エマルジヨン(A)の製造の途中に重合させると、エチレン性不飽和モノマー(B)の単独重合体粒子が生成し、目的とする複合樹脂エマルジヨンが得られなくなる。
ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合するに当たっては、ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタン100重量部に対して、エチレン性不飽和モノマー(B)を10〜900重量部の割合で用いることが、得られる複合樹脂エマルジヨンの分散安定性、複合樹脂の強度、耐摩耗性、耐候性、耐加水分解性、コストなどの点から好ましく、エチレン性不飽和モノマー(B)を25〜400重量部の割合で用いることがより好ましい。ポリウレタン100重量部に対して、エチレン性不飽和モノマー(B)の使用割合が10重量部未満であると得られる複合樹脂の耐候性および耐加水分解性が低下し易くなり、コストが高くなり、一方900重量部を超えると得られる複合樹脂の強度および耐摩耗性が低下し易い。
【0039】
複合樹脂エマルジヨンの製造に際して、重合系へのエチレン性不飽和モノマー(B)の供給は、最初の段階でエチレン性不飽和モノマー(B)の全量を供給する方式、重合の進行とともに分割または連続して添加する方式、モノマー組成を重合の段階ごとに変化させる多段供給(多段重合)方式、連続的に変化させるパワーフィード方式などで行うことができる。
また、重合系へのポリウレタン系エマルジヨン(A)の仕込み量およびエチレン性不飽和モノマー(B)の供給量は、乳化重合により得られる複合樹脂エマルジヨン中での固形分(複合樹脂)の含有量が、複合樹脂エマルジヨンの重量に基づいて、10〜60重量%、特に20〜50重量%の範囲内になるような量とすることが、重合安定性、得られる複合樹脂の分散安定性、複合樹脂エマルジヨンの取り扱い性、複合樹脂の物性などの点から好ましい。
【0040】
複合樹脂エマルジヨンの製造に用いるエチレン性不飽和モノマー(B)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸またはその誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸のアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸またはこれらの誘導体;ビニルピロリドンなどの複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル化合物;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、エチレン性不飽和モノマー(B)としては、(メタ)アクリル酸誘導体を主成分とするエチレン性不飽和モノマー、すなわち(メタ)アクリル酸誘導体の割合が50重量%以上であるエチレン性不飽和モノマーが、得られる複合樹脂の耐候性などの点から好ましく用いられ、(メタ)アクリル酸誘導体の割合が60重量%以上、さらには70重量%以上であるエチレン性不飽和モノマーがより好ましく用いられる。
【0041】
複合樹脂エマルジヨンの製造に当たっては、必要に応じて、2官能以上の多官能性エチレン性不飽和モノマーを併用することができ、多官能性エチレン性不飽和モノマーの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの多官能性芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどの2個以上の異なるエチレン性不飽和結合含有化合物;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物などの分子量が1500以下のウレタンアクリレートなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
多官能性エチレン性不飽和モノマーを使用する場合は、エチレン性不飽和モノマー(B)の全重量に対して20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下でのエチレン性不飽和モノマー(B)の乳化重合は、重合開始剤を用いて行う。重合開始剤の重合系への添加は、一括添加、分割添加または連続添加のいずれの方法で行ってもよい。
本発明で用い得る重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシドなどの油溶性過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの油溶性アゾ化合物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などの水溶性アゾ化合物などを挙げることができる、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。また、前記した重合開始剤とともに、還元剤、および必要に応じてキレート化剤を併用したレドックス開始剤系を用いてもよい。還元剤としては、例えば、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート)などのアルカリ金属ホルムアルデヒドスルホキシレート類;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウムなどのピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩;亜リン酸、亜リン酸ナトリウムなどの亜リン酸またはその塩類;ピロ亜リン酸ナトリウムなどのピロ亜リン酸塩;メルカプタン類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムなどのアスコルビン酸またはその塩類;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムなどのエリソルビン酸またはその塩類;グルコース、デキストロースなどの糖類;硫酸第一鉄、硫酸銅などの金属塩などを挙げることができる。キレート化剤としては、例えば、ピロリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩などを挙げることができる。
【0043】
本発明では、上記重合開始剤のうちでも、重合安定性に優れ、しかもエチレン性不飽和モノマー(B)単位のみからなる重合体粒子を殆ど生成することなくポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー(B)よりなる複合樹脂が円滑に得られることから、油溶性重合開始剤が好ましく用いられ、そのうちでもクメンヒドロパーオキシドなどの油溶性の重合開始剤がより好ましく用いられる。特に、油溶性重合開始剤に還元剤および/またはキレート化剤を組み合わせたレドックス開始剤系が好ましく用いられる。
【0044】
重合開始剤の使用量は、エチレン性不飽和モノマー(B)の種類、ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタンに対するエチレン性不飽和モノマー(B)の使用割合などに応じて調節し得るが、一般的には、エチレン性不飽和モノマー(B)の重量に基づいて、0.01〜1重量%の割合であることが、目的とする複合樹脂エマルジヨンが円滑に得られる点から好ましい。重合開始剤に還元剤および/またはキレート化剤を組み合わせたレドックス開始剤を用いる場合は、還元剤およびキレート化剤の使用量は各々の状況に応じて調節し得るが、一般的には、重合開始剤の重量に基づいて、還元剤を0.1〜1000重量%の割合で、またキレート化剤を0〜1000重量%の割合で用いるのが好ましい。
重合系への重合開始剤の供給方法は特に制限されず、従来既知のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合におけるのと同様にして行うことができ、そのうちでも重合開始剤を水性液中に溶解または分散させた状態で重合系に添加する方法が好ましく採用される。
【0045】
複合樹脂エマルジヨンを製造する際の重合条件は特に制限されず、従来既知のエチレン性不飽和モノマーの乳化重合と同様にして行うことができるが、一般に0〜90℃の温度で、不活性ガス雰囲気下に乳化重合を行うことが、重合安定性、得られる複合樹脂の物性などの点から好ましい。
また、本発明の目的の妨げにならない範囲で、複合樹脂エマルジヨンの製造時に必要に応じて界面活性剤をさらに添加してもよい。
【0046】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して得られる本発明の複合樹脂エマルジヨンは、分散安定性に優れており、しかも該複合樹脂エマルジヨンを乾燥したときに生成する皮膜等は、透明性、柔軟性、力学的特性、耐候性、耐屈曲性などの特性に優れているので、それらの特性を活かして、皮膜形成材、塗料、被覆剤、繊維処理剤、インク用添加剤、接着剤、ガラス繊維収束剤、他の樹脂エマルジヨンの改質剤などとして有効に用いることができる。
【0047】
さらに、上記で得られる本発明の複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加したものは、加熱を行わない限りは流動性を保ち、取り扱い性に優れる。そして感熱ゲル化剤を添加してなる本発明の複合樹脂エマルジヨンは、加熱することによって容易にゲル化する。そのために、感熱ゲル化剤を添加してなる本発明の複合樹脂エマルジヨンは、皮膜形成材、塗料、被覆剤、繊維処理剤、接着剤、ガラス繊維収束剤などとして有効に使用することができる。
【0048】
本発明の複合樹脂エマルジヨンに添加する感熱ゲル化剤としては、例えば、無機塩類、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤を組み合わせてなる感熱ゲル化剤は、加熱したときのゲル化速度が速く、貯蔵安定性が良好であり、且つ安価であることから好ましく用いられる。その場合の無機塩類としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。感熱ゲル化剤の添加量は、複合樹脂エマルジヨン100重量部に対して0.1〜30重量部であることが好ましく、0.2〜20重量部であることがより好ましい。
【0049】
本発明の複合樹脂エマルジヨン、およびそれに感熱ゲル化剤を添加してなる感熱ゲル化性の本発明の複合樹脂エマルジヨンは、必要に応じて、さらに他の添加物、例えば、耐光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤、レベリング剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、充填剤、凝固調節剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0050】
【実施例】
以下に実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら制限されない。なお、以下の例において、ポリウレタン系エマルジヨン中の粒子の平均粒径、エチレン性不飽和モノマーを乳化重合した際の重合安定性、複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムの25℃における弾性率、α分散、透明性および粘着性、並びに複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度は以下のようにして測定または評価した。
【0051】
(1)ポリウレタン系エマルジヨン中の粒子の平均粒径:
大塚電子株式会社製「ELS−800」を使用して、動的光散乱法により測定し、キュムラント法(東京化学同人社発行「コロイド科学 第IV巻 コロイド科学実験法」第103頁に記載)により解析して、ポリウレタン系エマルジヨン中の粒子の平均粒径を求めた。
【0052】
(2)乳化重合した際の重合安定性:
ポリウレタン系エマルジヨンの存在下にエチレン性不飽和モノマーを乳化重合して得られる複合樹脂エマルジヨンを20メッシュのフィルターで濾過して、フィルター上に残留する凝集物を集めて乾燥し、その重量(Wb)を測定して、複合樹脂エマルジヨン中の複合樹脂固形分の重量(乾燥重量)(Wa)に対する重量%{(Wb/Wa)×100}を求め、その値が1重量%未満の場合を重合安定性が良好(○)、1重量%以上で5重量%未満の場合を重合安定性がやや不良(△)、5重量%以上の場合を重合安定性が不良(×)として評価した。
【0053】
(3)フィルムの25℃における弾性率およびα分散:
複合樹脂エマルジヨンを50℃で乾燥して得られた厚さ100μmのフィルムを、130℃で10分間熱処理した後、粘弾性測定装置(株式会社レオロジ製「FTレオスペクトラーDVE−V4」)を用いて周波数11Hzで測定を行い、25℃における弾性率とα分散の温度を求めた。α分散の温度が低いほど耐寒性が優れていることを示す。
【0054】
(4)フィルムの透明性および粘着性:
フィルムの透明性は、上記(3)で得られた厚さ100μmのフィルムを目視により観察して、透明であるか白濁しているかを評価した。
また、フィルムの粘着性は、上記(3)で得られた厚さ100μmのフィルムに手で触れてみて、粘着性の有無を判定した。
エチレン性不飽和モノマー重合体粒子の表面をポリウレタン皮膜が包囲した粒子形態を有していて両重合体の複合が良好に行われている複合樹脂のエマルジヨンから透明性に優れ且つ非粘着性のフィルムが形成される。一方、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体との複合が良好に行われておらず、エチレン性不飽和モノマー重合体のみからなる粒子がエマルジヨン中に多く存在する複合樹脂エマルジヨンから得られるフィルムは白濁しており、且つ強い粘着性を示す。
【0055】
(5)複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度:
試験管に複合樹脂エマルジヨン10gを秤取し、90℃の恒温熱水浴中で撹拌しながら昇温し、複合樹脂エマルジヨンが流動性を失いゲル状物となったときの温度を複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度とした。
【0056】
また、以下の例で用いた高分子ジオールの略号と内容は次のとおりである。
○PMPA2000:
数平均分子量2000のポリエステルジオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸との反応により製造)
○PTMG1000:
数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール
○PHC2000:
数平均分子量2000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール
○PCL2000:
数平均分子量2000のポリカプロラクトンジオール
【0057】
《参考例1》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《1》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPMPA2000の300.0g、2,4−トリレンジイソシアネート60.87gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸7.85gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下に、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン195.4gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン5.92gを加えて10分間撹拌した。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム7.83gを蒸留水285.0gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにジエチレントリアミン6.91gおよびイソホロンジアミン5.70gを蒸留水496.4gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《1》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《1》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を15.1mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を2.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は140nmであった。
【0058】
《参考例2》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《2》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPCL2000の300.0g、2,4−トリレンジイソシアネート70.53gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸10.06gを秤取して、参考例1の(1)と同様にして反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン204.4gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン7.59gを加えて10分間撹拌した。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム12.29gを蒸留水296.3gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちに、ジエチレントリアミン8.82gおよびエチレンジアミン2.57gを蒸留水521.2gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《2》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《2》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を18.8mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を3.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は120nmであった。
【0059】
《参考例3》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《3》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPMPA2000の300.0g、イソホロンジイソシアネート78.36gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸6.04gを秤取して、参考例1の(1)と同様にして反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン203.5gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン4.55gを加えて10分間撹拌した。次いで、乳化剤として日本サーファクタント社製「ECT−3NEX」(アニオン性界面活性剤)8.16gを蒸留水296.2gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちに、ジエチレントリアミン5.15gおよびイソホロンジアミン12.74gを蒸留水517.6gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《3》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《3》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を11.0mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を2.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は200nmであった。
【0060】
《参考例4》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《4》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPHC2000の200.0g、PTMG1000の100.0g、イソホロンジイソシアネート80.91gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸7.38gを秤取して、参考例1の(1)と同様にして反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン203.1gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン5.57gを加えて10分間撹拌した。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム12.21gを蒸留水298.5gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちに、ジエチレントリアミン1.78gおよびイソホロンジアミン13.23gを蒸留水514.1gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《4》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《4》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を13.4mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を3.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は180nmであった。
【0061】
《参考例5》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《5》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPMPA2000の300.0gおよび2,4−トリレンジイソシアネート53.55gを秤取して、参考例1の(1)と同様にして反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン185.8gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げた。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム7.45gを蒸留水269.7gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちに、ジエチレントリアミン7.72gおよびイソホロンジアミン6.37gを蒸留水473.4gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《5》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《5》は、ポリウレタン骨格中に中和されたカルボキシル基を有しておらず、またポリウレタン100g当たり界面活性剤を2.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は720nmであった。
【0062】
《参考例6》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《6》)の調製]
(1) 三つ口フラスコに、高分子ジオールとしてPMPA2000の300.0g、2,4−トリレンジイソシアネート78.37gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸20.12gを秤取して、参考例1の(1)と同様にして反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに、2−ブタノン215.4gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン15.18gを加えて10分間撹拌した。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム8.63gを蒸留水314.5gに溶解した水溶液を、前記のウレタンプレポリマー溶液に加えてホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちに、ジエチレントリアミン7.35gおよびイソホロンジアミン6.07gを蒸留水547.0gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。
(3) 次いで、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《6》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《6》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を35.1mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を2.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は100nmであった。
【0063】
《参考例7》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《7》)の調製]
参考例1の(2)においてラウリル硫酸ナトリウムを47.0g用いた以外は参考例1の(1)〜(3)と同様に行って、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《7》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《7》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を15.1mmolの割合で有し、且つポリウレタン100g当たり界面活性剤を12.0gの割合で含有しており、また粒子の平均粒径は110nmであった。
【0064】
《参考例8》[ポリウレタン系エマルジヨン(PUエマルジヨン《8》)の調製]
参考例1の(2)においてラウリル硫酸ナトリウムを用いなかった以外は参考例1の(1)〜(3)と同様に行って、固形分含量35重量%のポリウレタン系エマルジヨン(以下「PUエマルジヨン《8》」という)を得た。これにより得られたPUエマルジヨン《8》は、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100g当たり中和されたカルボキシル基を15.1mmolの割合で有し、界面活性剤を含有せず、また粒子の平均粒径は1200nmであった。
【0065】
上記の参考例1〜8で得られたPUエマルジヨン《1》〜《8》の内容をまとめると、以下の表1に示すとおりである。
【0066】
【表1】
【0067】
《実施例1》[複合樹脂エマルジヨンの製造]
(1)初期仕込み:
冷却管付きフラスコに、参考例1で得られたPUエマルジヨン《1》の240g、蒸留水244g、硫酸第一鉄・7水和物(FeSO4・7H2O)0.020g、ピロリン酸カリウム0.294g、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラートの2水塩)0.451gおよびエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム塩(EDTA・2Na)0.020gを秤取し、40℃に昇温した後、系内を十分に窒素置換した。
(2)乳化重合:
次いで、アクリル酸ブチル192.1g、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート3.92gおよび参考例3で使用したのと同じアニオン性界面活性剤(「ECT−3NEX」)1.96gの混合物(エチレン性不飽和モノマー含有混合物)と、クメンヒドロパーオキシド0.392g、アニオン性界面活性剤(「ECT−3NEX」)0.392gおよび蒸留水20.0gからなる乳化液(重合開始剤含有乳化液)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に5時間かけて滴下し、滴下終了後、50℃に60分間保持して重合を完了させて、固形分含有量40重量%の複合樹脂エマルジヨンを得た。
【0068】
(3) 上記(2)で得られた複合樹脂エマルジヨンの重合安定性、複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムの25℃における弾性率、α分散、透明性および粘着性の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。また、上記(2)で得られた複合樹脂エマルジヨンは、それ自体では(感熱ゲル化剤を添加しない場合は)90℃に加熱してもゲル化しなかった。
【0069】
《実施例2〜7》[複合樹脂エマルジヨンの製造]
(1) 参考例1〜4で得られたPUエマルジヨン《1》〜《4》のいずれかと、下記の表2に示す各成分を表2に示す量で用いて、実施例1の(1)および(2)におけるのと同様にして初期仕込みおよび乳化重合を行って、実施例2〜7の複合樹脂エマルジヨンをそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られた実施例2〜7のそれぞれの複合樹脂エマルジヨンの重合安定性、複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムの25℃における弾性率、α分散、透明性および粘着性の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。また、実施例2〜7の複合樹脂エマルジヨンは、いずれも、それ自体では(感熱ゲル化剤を添加しない場合は)90℃に加熱してもゲル化しなかった。
【0070】
《比較例1〜3》[複合樹脂エマルジヨンの製造]
(1) 参考例5〜7で得られたPUエマルジヨン《5》〜《7》のいずれかと、下記の表3に示す各成分を表3に示す量で用いて、実施例1の(1)および(2)におけるのと同様にして初期仕込みおよび乳化重合を行って、比較例1〜3の複合樹脂エマルジヨンをそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られた比較例1〜3のそれぞれの複合樹脂エマルジヨンの重合安定性、複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムの25℃における弾性率、α分散、透明性および粘着性の有無を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。また、実施例1〜3の複合樹脂エマルジヨンは、いずれも、それ自体では(感熱ゲル化剤を添加しない場合は)90℃に加熱してもゲル化しなかった。
【0071】
《比較例4》
参考例8で得られたPUエマルジヨン《8》と、下記の表3に示す各成分を表3に示す量で用いて、実施例1の(1)および(2)におけるのと同様にして初期仕込みおよび乳化重合を行ったところ、乳化重合中に系全体のゲル化(凝固)が生じて複合樹脂エマルジヨンが製造できなかった。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
上記の表2および表3の結果から、上記の要件[1]〜要件[3]のすべてを満足するPUエマルジヨン《1》〜《4》のいずれかの存在下でエチレン性不飽和モノマーの乳化重合を行った実施例1〜7による場合は、乳化重合時の重合安定性に優れ、しかも複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムは弾性率およびα分散の値が適当な値にあって柔軟性、耐寒性に優れ、且つ透明性に優れ、非粘着性であることがわかる。
それに対して、上記の要件[1]〜要件[3]のいずれかを欠いているPUエマルジヨン《5》〜《8》の存在下にエチレン性不飽和モノマーの乳化重合を行った比較例1〜4の場合は、乳化重合時の重合安定性に劣るか(比較例1〜3)またはゲル化が生じて乳化重合ができず(比較例4)、また複合樹脂エマルジヨンを乾燥して得られるフィルムは白濁しており透明性に劣り且つ粘着性である(比較例1と3)、ことがわかる。
【0075】
《実施例8》[感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの製造]
実施例1で得られた複合樹脂エマルジヨン100重量部に、感熱ゲル化剤として、ノニオン性界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン109P」)4重量部および塩化カルシウム1重量部を添加して、感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを製造した。これにより得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンは、そのままでは(常温では)ゲル化せずに流動性を示し、取り扱い性に優れていた。得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ、52℃であった。
【0076】
《実施例9》[感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの製造]
実施例3で得られた複合樹脂エマルジヨンを用いた以外は実施例8と同様にして感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを製造した。これにより得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンは、そのままでは(常温では)ゲル化せずに流動性を示し、取り扱い性に優れていた。得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ、48℃であった。
【0077】
《実施例10》[感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの製造]
実施例5で得られた複合樹脂エマルジヨンを用いた以外は実施例8と同様にして感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを製造した。これにより得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンは、そのままでは(常温では)ゲル化せずに流動性を示し、取り扱い性に優れていた。得られた感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ、50℃であった。
【0078】
《比較例6》
比較例2で得られた複合樹脂エマルジヨンを用いた以外は実施例8と同様にして感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを製造しようとしたが、感熱ゲル化剤(ノニオン性界面活性剤および塩化カルシウム)の添加直後に系全体のゲル化を生じ、感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを得ることができなかった。
【0079】
【発明の効果】
本発明による場合は、分散安定性に優れ、ポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体とが良好に複合した粒子形態でエマルジヨン中に分散しており、乾燥したときに透明性、柔軟性、力学的特性、耐摩耗性、耐候性、耐屈曲性、耐溶剤性、耐加水分解性などの特性に優れ、非粘着性の皮膜等を形成し得るポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー重合体との複合樹脂エマルジヨンを、乳化重合時にゲル化等を生ずることなく、良好な重合安定性で円滑に製造することができる。
本発明の方法により得られる複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加した複合樹脂エマルジヨンは、加熱ゲル化前は流動性を保ち、取り扱い性に優れている。そして、感熱ゲル化剤を添加してなる本発明の複合樹脂エマルジヨンは加熱により容易にゲル化する。
Claims (9)
- ポリウレタン系エマルジヨン(A)の存在下にエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して複合樹脂エマルジヨンを製造する方法であって、ポリウレタン系エマルジヨン(A)として、下記の要件[1]〜要件[3];
[1] 水性液中で界面活性剤の存在下にイソシアネート末端ウレタンプレポリマーに鎖伸長剤を反応させて調製したポリウレタン系エマルジヨンである;
[2] ポリウレタン骨格中に、ポリウレタン100g当たり、中和されたカルボキシル基および/またはスルホン酸基を3〜30mmolの割合で有するポリウレタンのエマルジヨンである;および
[3] ポリウレタン100g当たり界面活性剤を0.5〜10gの割合で含有するポリウレタン系エマルジヨンである;
を満足するポリウレタン系エマルジヨンを用いることを特徴とする複合樹脂エマルジヨンの製造方法。 - ポリウレタン系エマルジヨン(A)が、ポリウレタン100g当たり界面活性剤を0.5〜6gの割合で含有する請求項1に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- ポリウレタン系エマルジヨン(A)中のポリウレタン100重量部に対してエチレン性不飽和モノマー(B)を10〜900重量部の割合で用いて乳化重合を行うことからなる請求項1または2に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- エチレン性不飽和モノマー(B)が(メタ)アクリル酸誘導体を主成分とするエチレン性不飽和モノマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- ポリウレタン系エマルジヨン(A)に含まれる界面活性剤の少なくとも一部がアニオン性界面活性剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- ポリウレタン系エマルジヨン(A)中の粒子の平均粒径が500nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- 乳化重合を、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルおよび2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)から選ばれる1種または2種以上の重合開始剤を用いて行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合樹脂エマルジヨンの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られる複合樹脂エマルジヨン。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られる複合樹脂エマルジヨンに感熱ゲル化剤を添加してなる感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨン。
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