JP4224733B2 - フェライト系ステンレス鋼の薄板ストリップの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明はステンレス鋼、特に厚さが数mmのストリップ状フェライト系ステンレス鋼を液体金属から直接鋳造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
厚さ数mm(最大10mm)の鋼ストリップを液体金属から直接鋳造する方法(いわゆる“双ロール連続鋳造”プラント)の研究は古くから行われてきた。このプラントは原則として水平軸を有する2本のロールを並行に配置し、各ローラは良好な熱伝導体とし、内部から強制冷却される外側表面を有し、ロール間で鋳造空間を規定し、鋳造空間の最小幅が所望のストリップ厚さに対応する。鋳造空間はロール端部に押圧された断熱材料で作られた2枚の壁によって横方向が閉じられている。ロールは互いに逆方向に回転し、鋳造空間には液体鋼が供給される。ロール表面に接して凝固した鋼の“皮、シェル”は“ニップ”、すなわちロール間距離が最小になる点で合流して凝固ストリップとなってプラントから連続的に引き抜かれる。このストリップは放冷または強制冷却された後に巻き取られる。この方法を用いて各種グレードの鋼、特にステンレス鋼のストリップを鋳造することができる。
【0003】
最も一般的な鋳造条件では、ロールから出たストリップが空気中で放冷され、ストリップはその厚さおよび鋳造速度に応じて、一般に約700〜900℃の温度で巻取られる。巻取り温度も当然ロールとコイラとの間の距離に依存する。巻取られたストリップは次いで放冷され、その後、一般に従来の連続鋳造スラブから製造された熱間圧延ストリップに対して実施される処理と同等な冶金処理を受ける。
この鋳造方法を17%のクロムを含む標準型のAISI430フェライト系ステンレス鋼に適用して作ったストリップは延性が良くないことがわかる。その結果、最も薄いストリップ(厚さが約2〜3.5mm)は脆く、室温で実施されるハンドリング操作、例えば巻出しおよび端縁部切断操作に耐えることができず、これらの操作中にストリップの端縁部にクラックが生じるか、ストリップが巻出し中に破壊する危険性さえある。
【0004】
このような不良な延性の原因は一般に下記1)〜3)で説明される:1)鋳造直後のストリップは基本的に粗フェライト粒子(ストリップの厚さに対して平均粒径は300μm以上)からなる柱状組織をしている。これはロール上で急速な凝固を連続的に受け、ストリップがロールから出た後に強制冷却されずに高温状態にあることの直接の結果である。2)侵入型元素(炭素および窒素)が過飽和であるため、フェライト粒子が高い硬度を有する。3)高温で存在するオーステナイトの硬化によって生じるマルテンサイトの存在。
この問題を解決するために、コイルを冷却した後に、加熱中にフェライトをオーステナイトに変化させるための温度(いわゆるAcl)以下の温度でコイルをボックスアニーリング(recuit vase)してきた。一般に、このアニーリングは約800℃で少なくとも4時間行う。この目的はフェライト系マトリクスから炭化物を析出させ、マルテンサイトをフェライトおよび炭化物に変化させ、炭化クロムを粗粒化して金属を軟化させることにある。この処理を行うことによって、粗フェライト粒子からなる柱状組織が維持された場合でも、機械的特性および延性を改良することができる。しかし、工業規模で行った試験で、この方法は適当な延性のストリップを得るのには不十分であることがわかった。
【0005】
ボックスアニーリングした後もストリップの脆性が持続する理由は、鋳造直後に一旦巻き取られたストリップは極めて緩やかにしか冷却されないことで説明される。これはストリップの両面が溶融金属と接触しており、その端縁部のみが外気と接触して自由に放射することによる。この極めて緩やかな冷却によってフェライトから多量の炭化物が析出し、一部のオーステナイトはフェライトおよび炭化物に変化する。一方、残りのオーステナイトは、冷却時にマルテンサイトを生成する。ボックスアニーリングすることでマルテンサイトをフェライトおよび炭化物に完全に分解できるが、そうすると粗炭化物が連続薄膜に粗粒化する原因となる。金属の脆性は特に径が約1〜5μmのこの粗炭化物によるものである。粗炭化物はクラックの開始点となり、この開始点はそれを取り囲むフェライト系マトリクス中への劈開によって大きくなる。この望ましくない効果が粗粒子の柱状構造の脆性に追加される。
【0006】
良好な延性を有するフェライト系ステンレス鋼ストリップを双ロール鋳造する様々な試みが行われている。これらの試みはストリップの冷却中に生成される析出物の種類を変えたり、粗フェライト粒子からなる鋳造直後の構造を“破壊”することが目的である。
これに関しては、特開昭62−247029号公報を挙げることができる。この特許では、300℃/秒以上で、1200〜1000℃でインライン冷却し、次いで1000〜700℃で巻取ることが勧められている。
特開平05−293595号公報では鋼を700〜200℃の温度で巻き取り、炭素および窒素含有率を低くし(0.030%またはそれ以下)、しかも安定剤として作用するニオブの含有率を0.1〜1%にすることを勧めている。
【0007】
他の文献では、炭素および窒素を上記に制限し、さらにニオブ安定化または窒素安定化と組み合わせてインライン熱間圧延を実施することが提案されている(特開平02−232317号公報、特開平06−220545号公報、特開平08−283845号公報、特開平08−295943号公報参照)。
【0008】
さらに、13〜25%のクロムを含む鋼に対してニオブと、チタンと、アルミニウムと、バナジウムとの合計含有率を0.05〜1.0%に、炭素と窒素との合計含有率を最大0.030%に、モリブデン含有率を0.3〜3%にする方法を開示している欧州特許第0638653号を挙げることができる。この鋼の重量組成は条件“γp≦0%”をさらに満足しなければならない。γpは析出で生成されるオーステナイトの量を表す。これは下記式を用いて計算する:γp=420×%C+470×%N+23×%Ni+9×%Cu+7×%Mn−11.5×%Si−12×%Mo−23×%V−47×%Nb−49×%Ti−52×%Al+189。
さらに、ストリップは1150〜900℃で5〜50%の圧下率で熱間圧延し、次いで、20℃/秒以下の速度で冷却するか、1150〜950℃の温度で少なくとも5秒間保持し、次いで、700℃以下の温度で巻き取らなければならない。
これらすべてを実施するには下記1)〜3)を全て満足することが必要である:1)炭素および窒素含有率を低くする(必要な場合にはさらに安定化元素を望ましい含有率にする)ためには液体金属からのストリップの鋳造(この方法は高価になり、難易度が高い)が必要になり、2)高価なプラント(インライン熱間圧延ミル)を用いた鋳造ラインでの熱処理が必要になり、3)速い冷却速度または高温保持時間を得るのに必要な特別なプラントを必要とする複雑な熱サイクルを実施する必要がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的はAISI430およびそれに類似したタイプのフェライト系ステンレス鋼の薄板ストリップを双ロール鋳造で製造する経済的な方法を提供することにある。
本発明方法は巻出し、端縁部切断および低温変形(酸洗、圧延等)操作をストリップの破壊または端縁部に生じるクラック等を起こさずに実施することができ、ストリップに十分な延性が得られる。本発明方法は標準的な双ロール鋳造機に複雑なプラントを加えなくてもできる経済性に優れたものである。本発明方法はさらに、炭素および窒素等の元素の含有率を極めて低くするために液体金属の精練をする必要がなく、高価な合金元素を追加する必要がない。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水平な軸線を有する2本の互いに隣接し且つ逆方向に回転する内部冷却されたロール間で液体金属を直接凝固して、0.12%以下の炭素と、1%以下のマンガンと、1%以下のケイ素と、0.040%以下のリンと、0.030%以下の硫黄と、16〜18%のクロムと、残部Fe及び不可避不純物とからなるフェライト系ステンレス鋼のストリップを製造する方法において、
オーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態範囲内に維持されないようにしてストリップを冷却または放冷し、
ストリップを600℃〜マルテンサイト変態温度Msで巻取り、
巻取られたストリップを200℃から室温まで最高速度300℃/時で放冷し、次いで、
ストリップをボックスアニーリングすることを特徴とする方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明はさらに、上記方法で得られる0.12%以下の炭素と、1%以下のマンガンと、1%以下のケイ素と、0.040%以下のリンと、0.030%以下の硫黄と、16〜18%のクロムとを含む型のフェライト系ステンレス鋼ストリップに関するものである。
以下で説明するように、本発明は、まず第1に、標準的な組成のフェライト系ステンレス鋼の双ロール鋳造ストリップを特別な条件下で冷却して巻き取り、次いで、それをボックスアニーリングする。この処理の目的は基本的に脆弱化粗炭化物の生成をできるだけを制限することにある。そのためには、炭化物の析出を制限して鋳造直後におけるオーステナイトのマルテンサイトへの変態を促進し、一方で、ストリップが巻き取られるまでこのマルテンサイト変態が起こらないようにする必要がある。
【0012】
本発明は添付図面を参照した以下の説明からより良く理解できよう。
以下の明細書では、鋼はその組成が標準的なフェライト系ステンレス鋼であるグレードAISI430の一般的基準を満足する。すなわち、0.12%以下の炭素と、1%以下のマンガンと、1%以下のケイ素と、0.040%以下のリンと、0.030%以下の硫黄と、16〜18%のクロムとを含む。しかし、本発明の冶金方法を妨げない低い含有率である限り、一般的基準によって必ずしも要求されない合金元素(例えば、チタン、ニオブ、バナジウム、アルミニウム、モリブデン)をさらに含む鋼にも本発明方法は適用できる。特に、これらの合金元素の存在によって、ストリップが従わなければならない本発明の熱経路が双ロール鋳造プラントで不可能になるまで[図1]の実施例の変態曲線の外観を変えるべきではない。
【0013】
試験の対象となる鋼は下記組成(重量%表記)を有する。試験の結果は[図1]〜[図3]に関連して記載および注釈する。
炭素:0.043%
ケイ素:0.24%
硫黄:0.001%
リン:0.023%
マンガン:0.41%
クロム:16.36%
ニッケル:0.22%
モリブデン:0.043%
チタン:0.002%
ニオブ:0.004%
銅:0.042%
アルミニウム:0.002%
バナジウム:0.064%
窒素:0.033%
酸素:0.0057%
ホウ素:0.001%以下
炭素+窒素の合計は0.076%(これはこのグレードにおいて一般的である)で、上記の一般式から計算されたγpは37.6%(これは特に低いものではなく、特に、バナジウム、モリブデン、チタンおよびニオブ含有率が比較的低いことによる)で、Acl温度は851℃に加熱した時にフェライトがオーステナイトに変化する温度である。Acl温度は下記の公知の一般式によって計算される:
Acl=35×%Cr+60×%Mo+73×%Si+170×%Nb+290×%V+620×%Ti+750×%Al+1400×%B−250×%C−280×%N−115×%N−66×%Mn−18×%Cu+310。
【0014】
既に述べたように、鋳造直後のストリップが強制冷却を受けずに約700〜900℃でコイルに巻き取られ、巻き取られた状態で放冷され、その後、ボックスアニーリングを受けた場合、アニーリング後のストリップの延性は十分なものではない。これは、コイル内の緩やかな冷却によって金属がフェライトからCr23C6型の炭化クロムが析出する部分(この析出はフェライト粒界およびフェライト/オーステナイト界面で起こる)、さらに、オーステナイトがフェライトおよびCr23C6型の炭化クロムに分解する部分を通ることに因る。この機構は脆い粗炭化物の成長に都合が良く、後のボックスアニーリングは連続薄膜状の粗炭化物の粗粒化を加速する。[図1]の変態曲線は、該グレードAISI430に対して有効であり、この現象を説明している。
【0015】
[図1]は加熱時のα−フェライトのγ−オーステナイトへの変態が終了した後のAc5温度、冷却時のこの同じ変態の開始温度Acl、γ−オーステナイトのα’−マルテンサイトへの変態の開始温度Msおよび終了温度Mfを示している。さらに、Cr23C6型の炭化クロムの析出がフェライト粒界およびフェライト/オーステナイト界面で起こる温度範囲を規定する曲線1およびオーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態開始部分を規定する曲線2を示している。さらに、鋳造ストリップがロールから出た後に受ける加熱処理の4つの実施例A,B,C,Dを示しており、2つの実施例(CおよびD)は本発明のものである。
上記の従来法による処理Aでは、鋳造ロールから出たストリップを外気で放冷し、次いで約800℃でストリップをコイルに巻き取る。この間、ストリップはフェライト粒界およびフェライト/オーステナイト界面で炭化クロムが析出する部分にある。既に述べたように、この巻き取りによってストリップの冷却は大幅に減速され、この減速はオーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態部分で長時間強制的に維持され、室温に戻る。
【0016】
処理Bはストリップを外気で放冷し、巻き取らずに室温に戻す。ストリップはオーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態部分で止まらずに、Ms温度〜Mf温度で大部分のマルテンサイト変態が起こる。この処理を本発明に含むことができない理由は明らかであろう。
本発明の処理Cは、まず第1に、ストリップを放冷し、次いでコイルに巻き取り、ストリップがオーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態部分で維持されないようにし、約600℃の温度でのみ巻き取り操作を実施する。巻き取られたストリップが冷却されると、その後は処理Aの最終熱経路とほぼ同じ経路と合流して終わる。
【0017】
同様に本発明の処理Dは処理Cと同じ原理であるが、ストリップの巻き取りを約300℃の温度のみで行う。しかし、この温度はMs温度(鋼の化学組成に依存する)以上に保持する必要があり、さらにコイルの冷却中に、マルテンサイト変態が極めて大きく起こる部分にストリップを維持しないようにする。この最終熱経路は処理Aおよび処理Cの熱経路と合流する。
[図2]の写真は[図1]の熱経路A(すなわち800℃の巻き取り)に従い、巻き取られた形で室温に戻され、次いで標準状態において、すなわち滞留時間が6時間、約800℃でボックスアニーリングした対照ストリップからの試験片の一部を示している。ストリップは上記化学組成を有し、厚さが3mmである。写真では大部分の試験片がフェライト粗粒子3からなることがわかる。領域4はボックスアニーリング中にα’マルテンサイトの変態から生じる小さいフェライト粒子を有し、試験片の小さい断片のみを表している。さらに、構造内に炭化クロム連続薄膜5の存在が認められる。これらの炭素膜はまず第1に、巻き取られたストリップがオーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態部分で緩やかに冷却されて大量の炭化物の析出が生じ、次いで、ボックスアニーリングがこれら炭化物の粗粒化を強めることから生じる。写真から分かるように、これらの連続炭素膜の存在は金属の不良な延性が一因となっている。
【0018】
[図3]の写真は本発明のストリップから取り出した([図2]と同じ組成および厚さの)試験片の一部を示している。このストリップは[図1]の経路Cと経路Bとの間の中間熱経路に従って室温(ストリップは500℃で巻き取られた)に戻され、次いで[図2]の対照試験片と同じボックスアニーリングを受けた。フェライト粗粒子3は依然として存在しているが、α’マルテンサイトの変態から生じる小さなフェライト粒子からなる領域6の比率が大きくなっていることがわかる。ストリップを炭化物および窒化物析出部分に迅速に通すことおよびストリップをオーステナイトのフェライトおよび炭化物析出部分から避けることはまず第1にフェライト中の微細な炭化物の析出を制限することになる(これらの析出が急速である場合は避けられない)。さらに、面積の大きいオーステナイトは、フェライトよりも炭素および窒素が多く、従って残留する。これらは次いでマルテンサイトに変化する。次のボックスアニーリング中に、微細な炭化物はフェライト中に析出し、マルテンサイトはフェライトおよび微細な炭化物に分解した。これらは[図2]の対照試験片内よりはるかに均質に分散している。従って粗粒化した炭化物の連続薄膜は見られなくなり、むしろ、最大で、小さな炭化物(0.5μm以下)の不連続ストリング7が、粗フェライト粒子と、炭化物が分散した小さなフェライト粒子からなる領域との境界で見られる。これらの小さな炭化物は対照試験片の連続薄膜よりはるかに丈夫である。ボックスアニーリング中の小さなフェライト粒子からなる領域の顕著な現出はマルテンサイト生成中に蓄積された応力が緩和したためであり、再生現象が生じている。これらの小さなフェライト粒子の領域は粗フェライト粒子からなるマトリクスよりはるかに延性があり、金属の脆性を、特に劈開によるクラックの増加を減少させることによって、制限することができる。
【0019】
対照方法で得られたストリップの延性と、本発明方法で得られたものとを“V”ノッチ付きシャルピー試験片に対する衝撃曲げ試験で評価した。この試験では強靭性を20℃で試験片が吸収するエネルギーを測定して評価した。試験はボックスアニーリングの前後に取り出されたストリップ試験片に対して実施した。結果は[表1]の通り:
【0020】
【表1】
【0021】
巻き取り温度はボックスアニーリングを受ける前の鋳造直後のストリップの20℃の延性に対して効力がないことがわかる。高温で巻取られた対照ストリップの場合はこの延性は極めて不良でボックスアニーリングによって改良されていない。[図2]の写真からわかるように、ボックスアニーリングは、この対照例の場合、良好な延性に有利な金属マトリクス構造および炭化物分布を促進することができない。一方、本発明の望ましい条件下で巻き取られたストリップの延性は、ボックスアニーリングによって大幅に改良され、十分に満足するレベルにまで上げることができる。これは、約30から40J/cm2の強靱性が、ストリップを損なわずに低温処理(特に、巻出しおよび端縁部切断)を実施可能にするのに十分であることが経験によって示されているからである。
【0022】
巻き取られたストリップが、オーステナイトのフェライトおよび炭化クロムへの変態部分を通らないようにしたことで、ストリップの冷却時に、フェライト中に微細な炭化物が生成し、その形態および分布は、ボックスアニーリング後の微細で均一に分布された炭化物の生成に非常に有利である。従ってこれらは対照試験片で見られた連続炭素膜と比べてストリップの延性に対してはるかに不利にならない。低温で巻き取られたストリップを冷却後、得られた金属マトリクスはマルテンサイトが豊富で、最終ストリップの良好な延性にさらに有利である。これはボックスアニーリングがマルテンサイトに有効に作用してマルテンサイトを基本的に小さな粒子のフェライトに分解するからである。
これらの同じストリップのボックスアニーリング後の延性を示す別の試験を実施した。この試験は端縁部を切断直後または切削した直後の試験片を逆向きに90°曲げる。曲げの1サイクルは、試験片を90°まで曲げ、次いでこれを最初の直線形に戻す操作に対応する。試験片が破壊するか、または曲げ部分でクラックが見られるまでに実施可能な曲げサイクルの回数を求める。[表2]はこれらの実験の結果の平均値を示す。
【0023】
【表2】
【0024】
曲げサイクルが0回ということはストリップが一回の曲げにも耐えられずに、最初のクラックが生じるか、またはストリップが単純に破壊することを意味する。また、本発明によって製造されたストリップは既に述べた理由によって対照ストリップよりはるかに良い特性を有することも顕著である。
【0025】
要するに、本発明の第1の基本的な考えはロールから出たストリップに冷却経路を与えることで炭化物の析出を制限し、さらに、オーステナイトの分解で生じそうなものおよび、ボックスアニーリング中に粗い連続薄膜に粗粒化しそうなものを避けることである。第2の考えは、同じ製造段階で、ボックスアニーリング中にできるだけ微細な粒子のフェライトを得るために、オーステナイトのマルテンサイトへの変態を促進することである。これらの条件はフェライトから炭化物および窒化物が析出する部分に鋳造ストリップが滞留する時間が制限されるとき、さらにストリップがオーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態部分に維持されないときに得られる。実際に、AISI430グレードでこれらの条件およびそれに類似の条件を得るにはストリップを600℃またはそれ以下でコイルに巻き取る必要がある。これはストリップをコイルに巻き取る間、オーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態部分にストリップが維持されないようにするためである。特に鋳造条件、例えばストリップの厚さ、鋳造速度およびコイラとロールとの間の距離に応じて、これらの条件は単にストリップを空気中に放冷することによって満足することができ、あるいは、ストリップが例えば、水または水/空気混合液等の冷却液を噴霧することによって強制冷却されるプラントの使用を必要としてもよい。望ましい結果は一般に、ストリップがロールから出て巻き取りが可能な600℃またはそれ以下の温度に達するまでの間、冷却速度を10℃/秒以上にして得られる。
【0026】
しかし、ストリップを冷却している間のマルテンサイトの生成は生成自体が問題にならないように制御しなければならない。まず第1に、巻き取り時にストリップが破壊する危険が高くなるので、巻き取り前にマルテンサイトが生成するのを防がなければならない。このために、巻取はオーステナイトのマルテンサイトへの変態温度Ms、すなわち約300℃以上で実施できることが必要である。さらに、コイルが急速(300℃/時以上)に冷却される場合、非常に硬いマルテンサイトが過剰に生成される。これによってストリップは脆化し、アニーリング前のコイルのマニプレーションに容易に耐えることができない。[図1]の処理Bの実施例はストリップを急速に冷却することによって生じる欠陥を示している。巻き取らない場合は平均冷却速度は約1000℃/時になる。この冷却後のストリップの硬度は192Hvで、これは高すぎる。一方、経路Aに従った対照ストリップの硬度は155Hvである。本発明のストリップは、経路Cと経路Dとの間の中間処理を受け、硬度は約180Hvである。巻き取られたストリップは300℃/時以上の速度で冷却しなければならないと考えるべきであろう。実際に、コイルの冷却速度(通常見られる空気中の放冷速度は約100℃/時である)を上げるために特別な手段を用いていない場合、この条件は一般に産業型プラントで十分である。
【0027】
さらに、良い結果を得るためには、ボックスアニーリングを実施する前に、巻き取られたストリップが十分に冷却するまで待つ必要がある。これは望ましい変態、特にオーステナイトのマルテンサイトへの変態が起こるための時間が存在するからである。
実際に、ボックスアニーリングは室温〜200℃の初期温度のコイルに実施しなければならない。一般に、800〜850℃の温度で少なくとも4時間実施する。
約17%のクロムを含むフェライト系ステンレス鋼ストリップの延性を改良することを目的とした既存の他の方法と比較すると、本発明方法はグレードの特別且つ高価な変更、例えば安定剤の混和および/または炭素および窒素含有率を異常に低い率に低下させるなどの変更を必要としないという利点がある。本発明方法はロールから出たストリップを熱間圧延するためのプラントを備える必要がない双ロール連続鋳造機で実施することができる。また、本発明方法は製造サイクルにおける鋳造後の段階(ボックスアニーリング、端縁部切断、酸洗等)を特別に適用する必要がない。標準的な双ロール鋳造プラントに対する、取付けが必要とされそうな唯一の変更点はロールの下側でストリップを冷却するための装置を追加することができる点である。この装置は、極めて単純な設計にすることができ、ストリップがオーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態部分内に維持されないこと、および巻き取りが常に600℃またはそれ以下で行われることを、任意の鋳造速度およびストリップの厚さで、さらにはコイラがロールの極めて近くにある場合(これは、逆に、他の型の鋼の鋳造に望ましい)においても保証することができる。
【0028】
さらに、必要なストリップ冷却およびストリップ巻き取り条件が満たされるとき、上記の本発明方法を鋳造ロールの下側で熱間圧延される双ロール鋳造ストリップに適用することは本発明の精神に含まれる。ストリップの内部安定度をその中のあらゆる孔を密閉することによって高めるために、さらにその表面の品質を高めるために、この熱間圧延を実施するのが望ましい。さらに、熱間圧延は900〜1150℃の温度で少なくとも5%の圧下率で実施され、ストリップの延性に対して有利な効果をもたらす。結果から、本発明方法の効果によって延性が高くなり、既に記載の欧州特許第0,638,653号に記載の極めて厳密な分析条件を満たす必要がないことがわかる。従ってストリップは熱間圧延のみを適用、または本発明方法の基本型のみを適用して得ることができる延性より高い延性を有することができる。
【0029】
【実施例】
一例として、下記組成(重量%表記)を有する厚さ2.7mmの双ロール鋳造鋼ストリップに対して試験を実施した:
炭素:0.040%
ケイ素:0.23%
硫黄:0.001%
リン:0.024%
マンガン:0.40%
クロム:16.50%
ニッケル:0.57%
モリブデン:0.030%
チタン:0.002%
ニオブ:0.001%
銅:0.060%
アルミニウム:0.003%
バナジウム:0.060%
窒素:0.042%
酸素:0.0090%
ホウ素:0.001%以下
この組成は46.5%のγp基準および826℃のAcl温度に対応する。
【0030】
熱間圧延を実施しない場合は、ストリップの巻き取りがボックスアニーリング前に800℃で実施したときに([図1]の処理A)、ストリップは端縁部切断ストリップに対する1回の曲げサイクルに耐えることができず、すぐに破壊する。670℃で巻き取る場合は、ストリップは端縁部切断ストリップに対する曲げサイクルに1回しか耐えることができない。しかし、本発明方法によって巻き取りを500℃で実施する場合は、ストリップは端縁部切断ストリップに対する曲げサイクルに4回耐えることができる。これらの試験によって[図1]〜[図3]に示された実施例が確認される。
さらに、上記ストリップが30%の厚さ−圧下率で1000℃の熱間圧延を受けたとき、本発明の500℃で実施される巻き取りは表1の条件と同じ試験条件下で、(ボックスアニーリング後に)20℃で吸収されるエネルギー160J/cm2をストリップに与える。比較例として、巻き取りを800℃で実施した場合、20℃で吸収されるエネルギーは100J/cm2のみである。
【0031】
本発明方法によって製造することができるストリップは基本的に下記a)〜d)の点で従来技術によるストリップより優れている:a)炭化物が分散した小さなフェライト粒子からなる多くの領域と共存する粗フェライト粒子からなる柱状組織、b)粗炭化物の連続薄膜が存在しない。これらの代わりに、粗フェライト粒子と、小さなフェライト粒子からなる領域との境界で見られる小さな炭化物の不連続ストリングが存在する。c)本発明の基本型では、ストリップを巻き取る前に熱間圧延しない場合、ストリップが熱間圧延されたことを一般に示す組織は存在しない。d)一般に、大量の安定化元素、例えばニオブ、バナジウム、チタン、アルミニウムおよびモリブデンは存在しない。この元素は様々な理由で存在する可能性があるが、ストリップの延性に大きな影響はない。
この良好な延性によってこのストリップは、全く損傷なく、次の通常の冶金操作、特に冷間圧延を受けることができ、顧客の使用可能な最終製品に変換される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 AISI430グレード鋼の冷却変態曲線を示す図で、鋳造ロールから出た後のストリップの熱経路の4つの実施例A,B,C,Dを表している。2つの実施例CおよびDは本発明の処理である。
【図2】 図1の熱経路Aに従い、次いでボックスアニーリングしたストリップから取り出した薄片の透過電子顕微鏡写真。
【図3】 本発明に従って図1の経路Cと経路Dとの間の中間熱経路に従い、次いでボックスアニーリングしたストリップから取り出した薄片の透過電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
3 フェライト粗粒子、
4 α’マルテンサイトの変態から生じる小さなフェライト粒子を有し、試験片の小さい断片のみを表す領域、
5 炭化クロム連続薄膜、
6 α’マルテンサイトの変態から生じる小さなフェライト粒子からなる領域、7 不連続ストリング
A、B 従来法
C、D 本発明
Claims (5)
- 水平な軸線を有する2本の互いに隣接し且つ逆方向に回転する内部冷却されたロール間で液体金属を直接凝固して、0.12%以下の炭素と、1%以下のマンガンと、1%以下のケイ素と、0.040%以下のリンと、0.030%以下の硫黄と、16〜18%のクロムと、残部Fe及び不可避不純物とからなるフェライト系ステンレス鋼のストリップを製造する方法において、
オーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態範囲内に維持されないようにしてストリップを冷却または放冷し、
ストリップを600℃〜マルテンサイト変態温度Msで巻取り、
巻取られたストリップを200℃から室温まで最高速度300℃/時で放冷し、次いで、
ストリップをボックスアニーリングすることを特徴とする方法。 - ボックスアニーリングを800〜850℃の温度で少なくとも4時間行う請求項1に記載の方法。
- 少なくとも凝固したストリップがロールから出て600℃の温度に達するまでの間、冷却速度を10℃/秒以上にすることによって、ストリップをオーステナイトのフェライトおよび炭化物への変態領域内に維持しないようにする請求項1または2に記載の方法。
- ストリップの表面に冷却液を噴霧することによってストリップに冷却速度にする請求項3に記載の方法。
- ストリップを巻取る前に900〜1150℃の温度でストリップ厚圧下率を少なくとも5%にして熱間圧延する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
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