JP3001718B2 - フェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造方法 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はフェライト系ステンレス
鋼薄肉鋳片の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、急冷凝固による薄帯鋳造方法を用
いて靱性の優れたフェライト系ステンレス鋼を製造する
技術として特開昭64−4458号公報が開示されてい
る。特にNbを含有するフェライト系ステンレス鋼の鋳
片は靱性が乏しく、冷間圧延中に割れが生じる処より、
上記技術はフェライト系ステンレス鋼の成分の内、特に
靱性に悪影響を及ぼすC,Nをそれぞれ0.03%以下
に抑え、かつその急冷凝固組織を鋳造時の注湯温度等を
制御して柱状晶の割合が70%以上によるように調整し
て靱性の向上を図ったものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Nb含
有のフェライト系ステンレス鋼の薄肉鋳片の靱性を向上
するためにその凝固組織のほとんどを柱状晶組織にする
ことは本発明者らの知見では必ずしも有利でなく、又柱
状晶を70%以上にする調整手段は生産性上の問題を生
ずる。
【0004】本発明の目的はかゝる従来技術の問題点を
解決して、より確実に、かつ生産性上有利な状態で達成
できる方法を提供するところにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明はNb含有のフェ
ライト系ステンレス鋼の薄肉鋳片の靱性に及ぼす要因と
して該鋳片にFeNb,Fe2 Nb,Fe3 Nb3 C等
のラーベース相の析出が重要な役割を果していることを
見出したところより成されたものである。すなわち、本
発明は先ず、化学成分としてガンマポテンシャル(以下
γ′p と称す)の値を0%以下に規制することにより鋳
片の冷却中にマルテンサイトが生成することを防止して
鋳片の靱性を向上せしめるとともに、更に鋳片の凝固温
度より少くとも700℃までの温度範囲を冷却し、次い
で700〜200℃の温度範囲で該鋳片を巻取ることに
よってラーベース相の析出を防止することを特徴とす
る。
【0006】すなわち本発明は重量%で、C:0.03
%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、
P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:
10.0〜35.0%,Nb:0.1〜1.0%及び
N:0.03%以下を含有し、必要によりNi:0.3
〜5.0%,Mo:0.1〜5.0%,Cu:0.2〜
1.0%,Ti:0.1〜1.0%,Al:0.05〜
1.0%,V:0.1〜1.0%及びB:0.0003
〜0.0030%の1種又は2種以上を含み、残部Fe
及び不可避的不純物からなり、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、鋳
造後の鋳片を凝固温度から少くとも700℃まで冷却
し、次いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取
ることにより、靱性の優れたフェライト系ステンレス鋼
薄肉鋳片を製造する方法を提供するものである。
【0007】以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
【作用】先ず、本発明において、鋼の化学成分を上記の
ように限定した理由を説明する。Cは、鋼の加工性、靱
性に悪影響を及ぼすので、含有量を0.03%以下とす
る。
【0009】Si,Mnは鋼の脱酸剤として有効なの
で、それぞれ1.0%以下含有する。1%を超えると機
械的性質が劣化する。Crは耐食性及び耐高温酸化性の
向上のため最低限10.0%を必要とし、又35%を超
すと靱性が劣化し、製造が極めて困難になるので10〜
35%をその範囲とする。
【0010】NbはC,Nと結合してCr炭化物の粒界
析出を防止し耐粒界腐食性を向上する特性を有するが、
その含有量が0.1%未満では上記特性が得られず、又
1.0%を超えると上記特性が飽和する上に加工性が劣
化する。従って0.1〜1.0%をその範囲とする。N
はCと同様に鋼の加工性、靱性を劣化せしめるので、含
有量の上限を0.03%とする。
【0011】さらに靱性、耐食性、加工性等の特性を向
上させる場合には、上記化学成分以外に、下記成分より
適宜選んで含有させる。高Cr材の靱性向上にはNiが
有効であるが、その含有量が0.3%未満ではその特性
がなくなり、又5.0%を超えると高温域でガンマ
(γ)が生成して靱性を劣化し、又耐応力腐食性を劣化
するので、0.3〜5.0%の範囲とする。
【0012】耐食性の向上にはMo,Cu,Ti,A
l,Vが有効であり、1種または2種以上を選んで含有
させる。すなわち、Moは耐食性を向上する顕著な効果
を有するので、0.1〜5.0%の範囲で含有させる。
上限を超えると加工性が劣化しコストアップとなる。C
uは耐食性を向上せしめるため0.2〜1.0%の範囲
で含有させる。上限を超えると高温域でγが生成して靱
性を劣化する。
【0013】Tiは耐粒界腐食性の向上とともにプレス
性も向上するが、0.1%未満ではその特性が得られ
ず、又1.0%超ではこれらの特性が飽和し、加工性が
劣化する。AlはTiと同様な特性を有するので0.0
5〜1.0%の範囲で含有させる。
【0014】VはTiと同様な特性を有するので0.1
〜1.0%の範囲で含有させる。熱間及び冷間加工での
粒界割れ性を向上するにはBが有効であるが、0.00
03%未満ではその特性が得られなく、又0.0030
%を越えると特性が飽和するとともに熱間加工性が劣化
する。従ってその含有範囲を0.0003〜0.003
0%とする。
【0015】本発明では以上の化学成分を更に次式で示
されるγ′pの値が0%以下になるように規制した。す
なわち、 γ′p=420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb−49Ti%−52Al%+179≦0 とすると、鋳片の冷却中にマルテンサイトが生成するこ
とを阻止して鋳片の靱性を向上することができる。γ′
pとは、フェライト系ステンレス鋼中に生成するオース
テナイト相(γ相)の最大生成量を記述する式である。
すなわち、高温の(α+γ)2相共存領域で生成するγ
相の量に及ぼす各元素の影響を1100℃加熱時に生成
し得するオーステナイト量の最大値として実験的に求め
定式化したのがγ′pの式である。 本願発明のγ′p≦
0が意味するのは、γ相が析出しない金属組織すなわち
フェライト単相組織であることを意味している。従っ
て、γ′p≦0に規制することにより、高温でのγ相の
生成がないので、鋳片冷却中のγ相のマルテンサイトへ
の変態が回避される。マルテンサイト生成が防止され、
鋳片の靱性が向上するのである。
【0016】次に、本発明の他の特徴である巻取温度に
ついて説明する。本発明者等が鋳片の靱性に及ぼす要因
について種々検討したところ、Nb含有フェライト系ス
テンレス鋼ではこの鋼種特有のラーベース相(FeN
b,Fe2 Nb,Fe3 Nb3C等のFe−Nb系析出
相)が冷却途中、特に高温で巻取られたコイル状鋳片の
冷却途中に析出し、この析出相が該靱性を劣化せしめて
いることを究明した。
【0017】そして、上記ラーベース相が上記鋳片の凝
固温度(約1500℃)から700℃の温度範囲で析出
することが判り、この析出を阻止するには、この温度範
囲を急冷して700℃以下で巻取ればよいことが判明し
た。巻取り温度は低い方が好ましいが、200℃未満で
は設備的に困難となる。従って、700℃から200℃
までの温度範囲で巻取れば良い。
【0018】巻取り温度を700℃以下にするために
は、例えば双ドラム式鋳造方式においては冷却ドラムと
巻取機の間に空冷式あるいは水冷式の冷却装置を設置し
て、必要に応じて強制冷却を行えばよい。こゝで、巻取
温度と靱性を表わす20℃シャルピー衝撃値(kgfm/cm
2 )との関係を図1に示す。
【0019】図1は次の実験によって得られたものであ
る。 化学成分:C 0.013%,Si 0.49%,Mn
0.26%,P 0.024%,S 0.001%,
Ni 0.27%,Cr 19.15%,Cu0.44
%,Nb 0.50%,Al 0.003%,N 0.
0185%、残部Fe及び不可避的不純物よりなり、か
つγ′P =−44.4%に規制した溶鋼から双ドラム式
鋳造方法により3.0mmの厚さの鋳片を鋳造した。
【0020】鋳造した鋳片を巻取温度を200〜100
0℃の間で変化して巻取った。そして、各巻取温度にお
ける20℃でのシャルピー衝撃値を測定し、これを図1
に表示した。かゝる鋳片をそれぞれ酸洗して、室温で
0.5mm厚まで冷間圧延した。その結果、700℃〜2
00℃の温度で巻取った鋳片はいずれも圧延中割れが発
生しなかったが、800〜1000℃で巻取った鋳片は
いずれも冷間圧延可否の目安としている20℃のシャル
ピー衝撃値が5kgfm/cm2 以下となり、冷間圧延中破断
した。
【0021】すなわち、700℃超で巻取ると鋳片中に
ラーベース相が多量に析出し、靱性を劣化させているこ
とが確認された。以上のように、鋳造直後の鋳片内のマ
ルテンサイトの生成を阻止するとともにラーベース相の
析出を抑えることにより、フェライト系ステンレス鋼薄
鋳片の靱性を向上せしめ、これにより冷間圧延前に焼鈍
を施さなくても安定状態で所定厚みまで圧延することが
できる。
【0022】
【実施例】表1に示す化学成分を有するフェライト系ス
テンレス鋼を溶製し、双ドラム法で厚さ3.0mmの薄肉
鋳片に鋳造し、450〜900℃の所定温度で巻取っ
た。しかる後該コイルをショットブラストと硫酸酸洗に
より脱スケールし、0.5mmまで冷間圧延し、950℃
で30秒間保定する最終焼鈍を施して酸洗(ソルト+硝
酸電解)し、2B仕上げの製品板とした。
【0023】本発明例ではいずれも圧延中の割れがなく
製品板を得ることができたが、試料No.11はマルテン
サイトの生成のため衝撃値が低くて冷延中に破断が生
じ、試料 No.12及び No.13は巻取温度が900℃及
び800℃と高いため両者とも衝撃値が低く冷延中に割
れが生じて製品板にならなかった。
【0024】
【表1】
【0025】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明により得ら
れたフェライト系ステンレス鋼薄鋳片は熱間圧延及び熱
延板焼鈍を省略しても、圧延割れの恐れなく冷間圧延を
行うことができるので、産業上裨益するところが大であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】フェライト系ステンレス鋼の連続鋳造薄鋳片の
巻取温度と20℃のシャルピー衝撃値との関係を示す図
である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 新井 貴士 山口県光市大字島田3434番地 新日本製 鐵株式会社光製鐵所内 (72)発明者 井上 周一 山口県光市大字島田3434番地 新日本製 鐵株式会社光製鐵所内 (56)参考文献 特開 平1−197046(JP,A) 特開 昭57−146456(JP,A) 特開 昭64−4458(JP,A) 特開 昭60−2628(JP,A) 特開 平3−277744(JP,A) 特公 平2−37424(JP,B2) 米国特許2851384(US,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B22D 11/00 B22D 11/06 330 B22D 11/124 C22C 38/00 302 C22C 38/26

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%及びN:0.03%以下
    を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、更
    に、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  2. 【請求項2】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%,N:0.03%以下及
    びNi:0.3〜5.0%を含み、残部Fe及び不可避
    的不純物からなり、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  3. 【請求項3】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%及びN:0.03%以下
    を含有し、更にMo:0.1〜5.0%,Cu:0.2
    〜1.0%,Ti:0.1〜1.0%,Al:0.05
    〜1.0%、およびV:0.1〜1.0%の1種又は2
    種以上を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなり、
    かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  4. 【請求項4】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%,N:0.03%以下及
    びNi:0.3〜5.0%を含有し、更にMo:0.1
    〜5.0%,Cu:0.2〜1.0%,Ti:0.1〜
    1.0%,Al:0.05〜1.0%及びV:0.1〜
    1.0%の1種又は2種以上を含み、残部Fe及び不可
    避的不純物からなり、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  5. 【請求項5】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%,N:0.03%以下及
    びB:0.0003〜0.0030%を含み、残部Fe
    及び不可避的不純物からなり、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  6. 【請求項6】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%,N:0.03%以下、
    Ni:0.3〜5.0%及びB:0.0003〜0.0
    030%を含み、残部Fe及び不可避的不純物からな
    り、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
  7. 【請求項7】 重量%で、C:0.03%以下、Si:
    1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%
    以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜35.
    0%,Nb:0.1〜1.0%,N:0.03%以下、
    Ni:0.3〜5.0%及びB:0.0003〜0.0
    030%を含有し、更にMo:0.1〜5.0%,C
    u:0.2〜1.0%,Ti:0.1〜1.0%,A
    l:0.05〜1.0%及びV:0.1〜1.0%の1
    種又は2種以上を含み、残部Fe及び不可避的不純物か
    らなり、かつ、 γ′P =420C%+470N%+23Ni%+9Cu%+7Mn% −11.5Cr%−11.5Si%−12Mo%−23V% −47Nb%−49Ti%−52Al%+179≦0 を満足するフェライト系ステンレス鋼を連続鋳造し、次
    いで該鋳片を700〜200℃の温度範囲で巻取ること
    を特徴とするフェライト系ステンレス鋼薄肉鋳片の製造
    方法。
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