JP4154873B2 - 電子写真感光体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電子写真感光体の製造方法に関する。詳しくは、環境や人体に有害な溶媒を用いることなく、電気特性及び機械物性に優れた電子写真感光体を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機電子写真感光体は、導電性支持体上に形成された下引き層、電荷発生層、電荷輸送層等から成り立っているのが一般的であるが、これらはそれぞれ有機溶媒に分散又は溶解させた分散液・溶液として調整し、その分散液又は溶液を含浸塗布、スプレー塗布、リング塗布等の方法によって塗布した後、溶媒を風乾、加熱等により除去して形成される。電荷輸送層は一般に溶液で塗布する場合が多くこの時使用する溶媒は、電荷輸送物質、バインダー樹脂の両方を溶解させるものから選択する必要がある。
【0003】
近年、電子写真感光体の要求性能として、繰り返し使用しても画質が劣化しない高寿命の感光体が求められている。その為、一般に最外層を形成する電荷輸送層のバインダー樹脂には耐摩耗性の良好な樹脂が用いられる。従来、電荷移動層のバインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂が用いられていた。数あるバインダー樹脂のなかではポリカーボネート樹脂が比較的優れた性能を有しており、これまで種々のポリカーボネート樹脂が開発され実用に供されている。
【0004】
例えば特開昭50−98332号公報にはビスフェノールPタイプのポリカーボネートが、特開昭59−71057号公報にはビスフェノールZタイプのポリカーボネートが、特開昭59−184251号公報にはビスフェノールPおよびビスフェノールAの共重合タイプのポリカーボネートが、特開平5−21478号公報にはビス(4ーヒドロキシフェニル)ケトンタイプの構造を含むポリカーボネート共重合体がバインダー樹脂としてそれぞれ開示されている。しかし従来の有機感光体はトナーによる現像、紙との摩擦、クリーニング部材(ブレード)による摩擦など実用上の負荷によって表面が摩耗してしまったり表面に傷が生じてしまうなどの欠点を有しているため実用上は限られた印刷性能にとどまっているのが現状である。
【0005】
一方、特開昭61−238061号公報には、ビスフェノールZタイプのポリアリレート(芳香族ポリエステル)樹脂をバインダーとして用いた電子写真用感光体の技術が開示されている。ポリアリレート樹脂をバインダーとして用いた場合、耐摩耗性がポリカーボネート樹脂よりも優れているため、長期間の使用に耐える高寿命の電子写真感光体を製造できる可能性がある。これ以外にも特開平5−297601号公報にはビスフェノールフルオレンタイプのポリアリレート、特開平5−341539号公報にはビスフェノールPタイプのポリアリレートが開示されている。しかしこれらの電荷輸送層はすべて人体に対し有害性が指摘されている1,4−ジオキサンを用いている。IARC(国際癌研究機関)の発癌性の分類に於いても1,4−ジオキサンは2Bすなわち、“動物実験での十分な根拠と人での不十分なデータから、人に対する発癌性の可能性があるもの”と分類されている。
【0006】
その他ポリアリレートの例が開示されている発明に記載の実施例には殆ど、環境や作業者にとって有害であるハロゲン系溶媒が使用されている。例えば特開昭56−135844号公報、特開平8−95263号公報、特開平8−106166号公報、特開平8−234468号公報、特開平9−2216号公報、特開平9−4370号公報、特開平10−20531号公報、特開平10−115046号公報、特開平10−142827号公報、特開平10−186691号公報、特開平11−212289号公報、特開平12−275873号公報、特開平12−275876号公報、特開平13−92170号公報にポリアリレート樹脂をバインダーとして用いていた電子写真感光体が公開されているが、これらはすべて電荷輸送層の塗布溶媒としてモノクロルベンゼン、塩化メチレン、1,2ジクロロエタン等の有害性のハロゲン系有機溶媒を用いている。これらハロゲン系溶媒は環境汚染の原因ともなり今後、環境保全の観点からも使用しない方が好ましい。さらにハロゲン系溶媒は生産設備の耐用年数を短縮する可能性も高い。また電子写真感光体の特性面に於いても電荷輸送層の塗布溶媒としてハロゲン系溶媒を使用した場合電気特性が劣る傾向が見られる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
現状、電子写真感光体の電荷輸送層のバインダー樹脂として用いられているポリカーボネート樹脂を使用した場合、耐磨耗性、耐擦傷性、表面滑り性等で未だ不十分な場合が多い。
また、市販のポリアリレート樹脂「U−ポリマー」では耐摩耗性では若干の向上が見られるものの、その塗布液の安定性が悪く、塗布製造が不能であったり、電気特性が不良であった。
【0008】
ポリエステル樹脂を電荷輸送層のバインダー樹脂として用いることにより耐摩耗性、耐擦性は向上するもののポリカーボネートに比べテトラヒドロフランやトルエンに対する溶解性が低いものが多く、塗布溶媒に、環境や人体に有害なハロゲン系溶媒やジオキサンを使用する必要が有った。芳香族ポリエステル樹脂の溶解性を向上させる方法としてジカルボン酸成分として例えばテレフタル酸とイソフタル酸の混合物を共重合する手法が知られているが、本発明者らの検討からイソフタル酸成分が電気特性を悪化させる傾向があることが判明した。
【0009】
しかしながら、電気特性を改良するためイソフタル酸の共重合量を減少させると、応答性は速くなるものの有機溶媒に対する溶解性が著しく低下し、その両立を達成することが困難であった。
本発明の目的は、上記課題を解決し、耐摩耗性及び電気特性に優れ、且つ環境に優しい電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、感光層に使用するバインダー樹脂の溶解性について詳細に検討した結果、特定のバインダー樹脂と芳香族系有機溶媒との組み合わせにより有毒性のハロゲン系有機溶媒や1,4−ジオキサンを使用せずに優れた耐摩耗性を示し、且つ電気特性、特に応答性に優れる電子写真感光体を製造することを見い出し本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、導電性支持体上に少なくとも電荷輸送層を有する電子写真感光体の製造方法において、該電荷輸送層を形成するために用いる溶液が、下記一般式(1)で表される構造を含むポリエステル樹脂及びトルエンを含有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法、
【0012】
【化4】
【0013】
(式(1)中、Xは−CR9R10−(R 9 及びR 10 は各々独立に水素原子またはメチル基である)であり、Wは二価の置換されていても良い芳香族基を表し、R1〜R8 は水素及びメチル基から選ばれる少なくとも1種であり、R 1 〜R 8 のうち少なくとも1つはメチル基である。)に存する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電子写真感光体の製造方法について、具体的に説明する。
<導電性支持体>
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料やアルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙などが主として使用される。形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
【0015】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化処理、化成皮膜処理等を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。
【0016】
<下引き層>
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。
下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
【0017】
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。一種類の粒子のみを用いても良いし複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルックカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0018】
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性および液の安定性の面から、平均一次粒径として10〜100nmが好ましく、特に好ましいのは、10〜25nmである。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が単独あるいは硬化剤とともに硬化した形で使用できるが、中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は良好な分散性、塗布性を示し好ましい。
【0019】
バインダー樹脂に対する無機粒子の添加比は任意に選べるが、10〜500wt%の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性および塗布性から0.1〜20μmが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加しても良い。
【0020】
<感光層>
(1)層構成
感光層の具体的な構成として、
・導電性支持体上に電荷発生物質を主成分とする電荷発生層、電荷輸送物質及びバインダ−樹脂を主成分とする電荷輸送層をこの順に積層した積層型感光体。
・導電性支持体上に、電荷輸送物質及びバインダ−樹脂を主成分とする電荷輸送層、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層をこの順に積層した逆二層型感光体。
・導電性支持体上に、電荷輸送物質及びバインダ−樹脂を含有する層が積層され、該層中 に電荷発生物質を分散させた単層型(分散型)感光体。
等が基本的な形の例として挙げられる。
【0021】
(2)感光層のバインダー樹脂
本発明においては、感光層のバインダー樹脂(積層型、及び逆二層型感光体の場合は、電荷輸送層に用いるバインダー樹脂として、下記式(1)で表される構造を有するポリエステル樹脂を用いる。
【0022】
【化5】
【0023】
(式(1)中、Xは単結合、−S−、−O−、スルホニル基、シクロアルキル基、及び、−CR9R10−から選ばれる少なくとも1種であり、Wは二価の置換されていても良い芳香族基あるいは二価の炭化水素基を表し、R1〜R8 は水素、アルキル基、アリール基、ハロゲン及びアルコキシル基から選ばれる少なくとも1種であり、R9及びR10はR1〜R8と同義である。)
以下に、本発明において用いられるポリエステル樹脂の構造を具体的に示すがこれらに限られるものではない。
【0024】
一般式(1)中のXは具体的には単結合、−S−、−O−、スルホニル基、1,2−シクロヘキシル基、1,2−シクロペンチル基、1,2−シクロヘプチル基、−CH2−、−C(CH3)2−、−CHR10−等であり、特に好ましくは1,2−シクロヘキシル基、−CH2−、−C(CH3)2−、−CHR10−であり、−CH2−が最も好ましい。
【0025】
Wは具体的には、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、−(CH2)n−(n=1〜8)、−CH=CH−、シクロヘキシル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、特に好ましくはフェニル基である。
R1〜R10は具体的には、水素、塩素、フッ素、臭素、フェニル基、ナフチル基、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、iso−ペンチル基、sec−ペンチル基、neo−ペンチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、iso−ヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルエチル基、n−ヘプチル基、シクロヘプチル基、5−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、1−メチルヘキシル基、4,4−ジメチルペンチル基、3,4−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,1−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、1−エチルペンチル基、2,3,3−トリメチルブチル基、1,3,3−トリメチルブチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、1,2,3−トリメチルブチル基、1,1,3−トリメチルブチル基、1,2,2−トリメチルブチル基、1,1,2−トリメチルブチル基、2−エチル−3−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、2−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−イソプロピルブチル基、1−プロピルブチル基、1,1,2,2,−テトラメチルプロピル基、1―エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、6−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、3,3−ジメチル−5―メチルシクロヘキシル基、7−メチルオクチル基等が挙げられる。
【0026】
本発明における一般式(1)の繰り返し単位を形成するジオールは芳香族ジオールとしてビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(BPF)、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(Tmf)、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(BPE)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPQ)、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン(Cof)、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン(Ce)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン(Xe)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(Tma)、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン(Xf)、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(BPP)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(BisO)、3,3’,5,5’−テトラメチル−[(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール](TmBp)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−プロペニルフェニル)プロパン(Da)、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン(OCAP)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2―エチルヘキサン(Pt)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン(Et)、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン(Pf)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,9,13−トリメチルテトラデカン(PHY)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、フェノールフタルレイン、(1,1’ビフェニル)―4,4’−ジオール、4,4’−(1,5,9,13−テトラメチルテトラデシリデン)ビスフェノール、−4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス[2−メチルフェノール]などが挙られる。
【0027】
また本発明において用いられるポリエステル樹脂の一般式(1)以外の繰り返し単位を形成するジオールの脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、ペンタメチレンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,5−ヘプタンジオール、ヘプタメチレンジオール、オクタメチレンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカメチレングリコール、1,6−シクロヘキサンジオール等が挙げられるが、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0028】
本発明において用いられるポリエステル樹脂の二価カルボン酸成分としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸及びこれらの酸塩化物及びこれらジカルボン酸又は酸塩化物の脂肪族炭化水素置換体が挙げられる。好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸及びこれらの酸塩化物及びこれらの脂肪族炭化水素置換体が挙げられ、イソフタル酸成分のポリエステル樹脂中の全ジカルボン酸成分に対する組成比は好ましくは50モル%未満、さらに好ましくは30モル%以下、最も好ましくは5モル%以下である。イソフタル酸成分が50モル%以上であると電気特性が悪化する傾向がある。
【0029】
上記式(1)で表すと、Wが下記構造式(A)、又は下記構造式(A)及び下記構造式(B)で表され、全ポリエステル樹脂中の構造式(A)のモル比が、0.5<構造式(A)/[構造式(A)+構造式(B)]≦1の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.7≦構造式(A)/[構造式(A)+構造式(B)]≦1であり、最も好ましくは、0.95≦構造式(A)/[構造式(A)+構造式(B)]≦1である。
【0030】
【化6】
【0031】
本発明において最も好適に用いられるポリエステル樹脂は、下記構造式(C)で表される構造を有するものである。
【0032】
【化7】
【0033】
本発明において用いられるポリエステル樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1.5万〜10万、さらに好ましくは2万〜8万である。粘度平均分子量が小さすぎると耐摩耗性が悪化し、また大きすぎると塗布液の粘度が高くなりすぎて生産性が低下する傾向がある。
上記ポリエステル樹脂の製造方法として、公知の重合方法を用いることができ、界面重合法、溶融重合法、溶液重合法などが挙げられる。
【0034】
界面重合法による製造の場合は、例えば1種類以上の二官能性フェノール成分もしくはビスフェノール成分をアルカリ水溶液に溶解した溶液と、1種類以上のジカルボン酸クロライド成分を溶解したハロゲン化炭化水素の溶液とを混合する。この際、触媒として、四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩を存在させることも可能である。重合温度は通常0〜40℃の範囲、重合時間は2〜12時間の範囲であるのが生産性の点で好ましい。重合終了後、水相と有機相を分離し、有機相中に溶解しているポリマーを公知の方法で、洗浄、回収することにより、目的とする樹脂を得られる。
【0035】
ここで用いられるアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を挙げることができる。アルカリの使用量としては、反応系中に含まれるフェノール性水酸基の1〜3倍当量の範囲が好ましい。
また、ここで用いられる、ハロゲン化炭化水素としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロルベンゼンなどを挙げることができる。
【0036】
触媒として用いられる四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩としては、トリブチルアミンやトリオクチルアミン等の三級アルキルアミンの塩酸、臭素酸、ヨウ素酸等の塩、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、トリエチルオクタデシルホスホニウムブロマイド、N−ラウリルピリジニウムクロライド、ラウリルピコリニウムクロライドなどが挙げられる。
【0037】
二官能性フェノール成分もしくはビスフェノール成分の具体例としては、前述の芳香族ジオールなどが挙げられるが、これらの1種もしくは2種以上を混合して用いることも可能である。
また、この重合の際に分子量調節剤としてフェノール、o,m,p−クレゾール、o,m,p−エチルフェノール、o,m,p−プロピルフェノール、o,m,p−tert−ブチルフェノール、ペンチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類、o,m,p−フェニルフェノール等の一官能性のフェノール、酢酸クロリド、酪酸クロリド、オクチル酸クロリド、塩化ベンゾイル、ベンゼンスルフォニルクロリド、ベンゼンスルフィニルクロリド、スルフィニルクロリド、ベンゼンホスホニルクロリドやそれらの置換体等の一官能性の酸ハロゲン化物を存在させても良い。
【0038】
重合後の樹脂の精製方法は樹脂の溶液を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液、塩酸、硝酸、リン酸等の酸水溶液、水等で洗浄した後、静置分離、遠心分離等により分液しても良い。また生成した樹脂の溶液を樹脂が不溶の溶媒中に析出させる方法或いは、樹脂の溶液を温水中に分散させ溶媒を留去する方法或いは樹脂溶液を吸着カラム等に流通させる方法等により精製しても良い。
【0039】
精製後の樹脂は、樹脂が不溶の水、アルコールその他有機溶媒中に析出させるか、樹脂の溶液を温水または樹脂が不溶の分散媒中で溶媒を留去するか、加熱、減圧等により溶媒を留去することにより取り出してもよいし、スラリー状で取り出した場合は遠心分離器、濾過器とうにより固体を取り出すこともできる。
得られた樹脂は、通常樹脂の分解温度以下の温度で乾燥するが好ましくは20℃以上樹脂の溶融温度以下で減圧下で乾燥する。乾燥時間は残存溶媒等不純物の純度が一定以下になるまでの時間以上行うが、通常は残存溶媒が1000ppm以下、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下になる時間以上乾燥する。
【0040】
また、本発明においては、上記ポリエステル構造を有する樹脂は、他の樹脂と混合して、電子写真感光体等に用いることも可能である。ここで混合される他の樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂などが挙げられる。これら樹脂のなかでもポリカーボネート樹脂が好ましいものとして挙げられる。電子写真感光体の感光層のバインダー樹脂として用いる場合、本発明のポリエステル樹脂と併用してもよい他の樹脂の量は、全バインダー樹脂中、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。
【0041】
また、本発明において用いられるポリエステル樹脂は実質的に本樹脂の物性を損なわない範囲内で他の樹脂との共重合体しても良い。共重合形式はブロック、グラフト、マルチブロック共重合体でも良い。ここで共重合される他の樹脂構造としてはポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリケトン、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリオレフィン等の種々の樹脂が挙げられる。特に好ましくはポリカーボネート樹脂である。電子写真感光体の感光層のバインダー樹脂として用いる場合、ポリエステル以外の共重合成分の量は、全共重合体中、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、最も好ましくは10モル%以下である。
【0042】
(3)積層型感光層
▲1▼電荷発生層
積層型感光体の場合、その電荷発生層に使用される電荷発生物質としては例えば、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム、その他無機系光導材料、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料等各種光導電材料が使用でき、特に有機顔料、更にフタロシアニン顔料、アゾ顔料が好ましい。
【0043】
中でも無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタニウム、亜鉛、バナジウム等の金属もしくはそれらの酸化物、塩化物の配位したフタロシアニン類、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、ポリアゾ類等のアゾ顔料が好ましい。
電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類が使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、上に示した酸素原子、塩素原子の他、水酸基、アルコキシ基などがあげられる。特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、α型、β型、Y型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。なお、ここで挙げたチタニルフタロシアニンの結晶型のうち、α型、β型についてはW.HellerらによってそれぞれII相、I相として示されており(Zeit.Kristallogr.159(1982)173)、β型は安定型として知られているものである。最も好ましく用いられるY型は、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2゜が27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型である。フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いても良いし、いくつかの混合状態でも良い。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態として、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じせしめたものでも良い。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0044】
これらの電荷発生物質を例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテルなどの各種バインダー樹脂で結着した形で使用される。この場合の電荷発生物質の使用比率はバインダー樹脂100重量部に対して通常20〜2000重量部、好ましくは30〜500重量部、より好ましくは33〜500重量部の範囲である。
【0045】
また、必要に応じて、他の有機光導電性化合物、染料色素、電子吸引性化合物を含有しても良い。
電荷発生層の膜厚は通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.15〜0.8μmが好適である。
▲2▼電荷輸送層
電荷輸送層は、主として電荷輸送物質とバインダー樹脂とから構成される。バインダー樹脂としては前記したポリエステル樹脂が用いられる。
【0046】
これらの電荷輸送物質としては、2,4,7−トリニトロフルオレノンなどの芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン類などの電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、チアジアゾール誘導体などの複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン化合物、これらの化合物が複数結合されたもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖もしくは側鎖に有する重合体などの電子供与性物質が挙げられる。これらの中でもカルバゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体およびこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましく、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体の複数結合されたてなるものが特に好ましい。
【0047】
これら電荷輸送物質は単独で用いても良いし、いくつかを混合して用いてもよい。これらの電荷輸送物質がバインダー樹脂に結着した形で電荷輸送層が形成される。電荷輸送層は、単一の層から成っていても良いし、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでも良い。
バインダー樹脂と電荷輸送物質の割合は、通常、バインダー樹脂100重量部に対して、電荷輸送物質が、通常20〜200重量部用いられるが、好ましくは40〜150重量部以下、最も好ましくは上限を90重量部以下とするのが、バインダー樹脂の機械特性を維持する上で有利である。20重量部未満では電気特性の点で好ましくない。また膜厚は一般に10〜60μm、好ましくは10〜45μm、更に好ましくは27〜40μmである。
【0048】
電荷輸送層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させるために周知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、増感剤などの添加物を含有させても良い。
酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0049】
(4)単層型感光層
単層型感光層の場合には、上述したポリエステル樹脂を主体とする電荷輸送媒体中に、積層型感光体と同様の電荷発生物質及び上述した電荷輸送物質が分散される。
その場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが必要であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下のものが使用される。感光層内に分散される電荷発生物質の量は少なすぎると充分な感度が得られず、多すぎると帯電性の低下、感度の低下などの弊害があり、例えば好ましくは0.5〜50重量%の範囲で、より好ましくは1〜20重量%の範囲で使用される。
【0050】
感光層の膜厚は通常5〜50μm、より好ましくは10〜45μmで使用される。またこの場合にも成膜性、可とう性、機械的強度等を改良するための公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤、例えばシリコ−ンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤が添加されていても良い。
【0051】
(5)その他の添加剤
感光層に場合により添加される染料色素としては、例えばメチルバイオレット、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレット等のトリフェニルメタン染料、メチレンブルーなどのチアジン染料、キニザリン等のキノン染料及びシアニン染料やビリリウム塩、チアビリリウム塩、ベンゾビリリウム塩等が挙げられる。
【0052】
また、電子吸引性化合物としては、例えばクロラニル、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、1−ニトロアントラキノン、1−クロロ−5−ニトロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、フェナントレンキノン等のキノン類;4−ニトロベンズアルデヒド等のアルデヒド類;9−ベンゾイルアントラセン、インダンジオン、3,5−ジニトロベンゾフェノン、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノン、3,3′、5,5′−テトラニトロベンゾフェノン等のケトン類;無水フタル酸、4−クロロナフタル酸無水物等の酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタラルマロノニトリル、9−アントリルメチリデンマロノニトリル、4−ニトロベンザルマロノニトリル、4−(p−ニトロベンゾイルオキシ)ベンザルマロノニトリル等のシアノ化合物;3−ベンザルフタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)フタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等のフタリド類等の電子吸引性化合物が挙げられる。
【0053】
(6)感光層の形成方法
感光層は、常法に従って、電荷輸送物質をポリアリレート樹脂を含むバインダー樹脂と共に適当な溶剤中に溶解し、必要に応じ、適当な電荷発生物質、増感染料、電子吸引性化合物、他の電荷輸送物質、あるいは、可塑剤、顔料等との周知の添加剤を添加して得られる塗布液を導電性支持体上に塗布、乾燥して感光層を形成させることにより製造することができる。電荷発生層と電荷輸送層の二層からなる感光層の場合は、電荷発生層の上に上記塗布液を塗布するか、上記塗布液を塗布して得られる電荷輸送層の上に電荷発生層を形成させることにより、製造することができる。
【0054】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、感光層の塗布液調製用の溶剤として、芳香族系有機溶媒を用いることを特徴とする。芳香族系有機溶媒としては、具体的には、トルエン、キシレン、アニソールなどが挙げられ、好ましくはトルエン、アニソールである。これらの芳香族系有機溶媒は、用いる溶媒の極性や沸点にもよるが、全溶媒中、通常、5〜80重量%、好ましくは、10〜50重量%である。
【0055】
また、本発明においては、上記芳香族系有機溶媒と共に、沸点90℃以下の環状エーテルを併用することが塗布性、乾燥のし易さ等プロセスの点で好ましい。環状エーテルとしては、テトラヒドロフランが代表的に用いられる。その他、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸エチル、蟻酸メチル、メチルセロソルブアセテート等のエステル類等の塩素化炭化水素などのアミン系化合物を溶解させる溶剤を併用しても良い。勿論これらの中からバインダーを溶解するものを選択する必要がある。塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒及び1,4−ジオキサン等は環境汚染や人体への有害性が指摘されており、特にハロゲン系溶媒は電気特性を悪化させる傾向があるため使用しない方が好ましい。
【0056】
また感光層は、製膜性、可撓性、機械的強度を向上させるために周知の可塑剤を含有していてもよい。そのために上記塗布液中に添加する可塑剤としては、フタル酸エステル、りん酸エステル、エポキシ化合物、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、メチルナフタレンなどの芳香族化合物などが挙げられる。アリールアミン系化合物を電荷輸送層中の電荷輸送物質として用いる場合の塗布液は、前記組成のものでもよいが、光導電性粒子、染料色素、電子吸引性化合物等は除くか、少量の添加でよい。この場合の電荷発生層としては上記光導電性粒子と必要に応じバインダーポリマーや他の有機光導電性物質、染料色素、電子吸引性化合物等の溶媒に溶解乃至分散させて得られる塗布液を塗布乾燥した薄層、あるいは前記光導電性粒子を蒸着等の手段により製膜とした層が挙げられる。
【0057】
感光層の塗布方法としては、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等がある。
スプレー塗布法としては、エアスプレー、エアレススプレー、静電エアスプレー、静電エアレススプレー、回転霧化式静電スプレー、ホットスプレー、ホットエアレススプレー等があるが、均一な膜厚を得るための微粒化度、付着効率等を考えると回転霧化式静電スプレーにおいて、再公表平1−805198号公報に開示されている搬送方法、すなわち円筒状ワークを回転させながらその軸方向に間隔を開けることなく連続して搬送することにより、総合的に高い付着効率で膜厚の均一性に優れた電子写真感光体を得ることができる。
【0058】
スパイラル塗布法としては、特開昭52−119651号公報に開示されている注液塗布機またはカーテン塗布機を用いた方法、特開平1−231966号公報に開示されている微小開口部から塗料を筋状に連続して飛翔させる方法、特開平3−193161号公報に開示されているマルチノズル体を用いた方法等がある。
【0059】
以下、浸漬塗布法について説明する。
電荷輸送物質、ポリエステル樹脂、溶剤等を用いて、全固形分濃度が通常25〜40%、粘度が通常50〜300センチポアーズ、好ましくは100〜200センチポアーズの電荷輸送層形成用の塗布液を調整する。ここで実質的に塗布液の粘度はバインダーポリマーの種類及びその分子量により決まるが、分子量が低すぎる場合にはポリマー自身の機械的強度が低下するためこれを損わない程度の分子量を持つバインダーポリマーを使用することが好ましい。この様にして調整された塗布液を用いて浸漬塗布法により電荷輸送層が形成される。
【0060】
その後塗膜を乾燥させ、必要且つ充分な乾燥が行われる様に乾燥温度時間を調整すると良い。乾燥温度は通常100〜250℃好ましくは、110〜170℃さらに好ましくは、120〜140℃の範囲である。乾燥方法としては、熱風乾燥機、蒸気乾燥機、赤外線乾燥機及び遠赤外線乾燥機等を用いることができる。
<その他の保護層>
感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で保護層を設けても良い。
【0061】
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を軽減する目的で、表面の層にはフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでいても良い。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含んでいても良い。
さらに必要に応じて、バリアー層、接着層、ブロッキング層等の中間層、透明絶縁層など、電気特性、機械特性の改良のための層を有していてもよいことはいうまでもない。
【0062】
この様にして得られる電子写真用感光体は高感度で、残留電位が低く帯電性が高く、かつ、繰返しによる変動が小さく、特に、画像濃度に影響する帯電安定性が良好であることから、高耐久性感光体として用いることができる。また、750〜850nmの領域の感度が高いことから、特に半導体レーザープリンター用感光体に適している。
【0063】
<電子写真装置>
本発明の方法により製造された電子写真感光体を使用する複写機・プリンター等の電子写真装置は、少なくとも帯電、露光、現像、転写の各プロセスを含むが、どのプロセスも通常用いられる方法のいずれを用いても良い。帯電方法(帯電器)としては、例えばコロナ放電を利用したコロトロンあるいはスコロトロン帯電、導電性ローラーあるいはブラシ、フィルムなどによる接触帯電などいずれを用いても良い。このうち、コロナ放電を利用した帯電方法では暗部電位を一定に保つためにスコロトロン帯電が用いられることが多い。現像方法としては、磁性あるいは非磁性の一成分現像剤、二成分現像剤などを接触あるいは非接触させて現像する一般的な方法が用いられる。転写方法としては、コロナ放電によるもの、転写ローラーあるいは転写ベルトを用いた方法等いずれでもよい。転写は、紙やOHP用フィルム等に対して直接行っても良いし、一旦中間転写体(ベルト状あるいはドラム状)に転写したのちに、紙やOHP用フィルム上に転写しても良い。
【0064】
通常、転写の後、現像剤を紙などに定着させる定着プロセスが用いられ、定着手段としては一般的に用いられる熱定着、圧力定着などを用いることができる。これらのプロセスのほかに、通常用いられるクリーニング、除電等のプロセスを有しても良い。
【0065】
【実施例】
以下に、本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
感光体の製造
(電荷発生層の製造)
下記構造を有するβ型オキシチタニウムフタロシアニン10重量部を、4−メトキシ−4−メチルペンタノン−2 150重量部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行った。
【0066】
【化8】
【0067】
また、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#6000C)の5% 1,2−ジメトキシエタン溶液100部及びフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製、商品名PKHH)の5% 1,2−ジメトキシエタン溶液100部を混合してバインダー溶液を作製した。
先に作製した顔料分散液160重量部に、バインダー溶液100重量部、適量の1,2−ジメトキシエタンを加え最終的に固形分濃度4.0%の分散液を調製した。
【0068】
この様にして得られた分散液を表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に膜厚が0.4μmになるように塗布して電荷発生層を設けた。
(電荷輸送層の製造)
次にこのフィルム上に、次に示す電荷輸送材料[1]60部、および表1に示すポリエステル樹脂を100部、およびレベリング剤としてシリコーンオイル0.03部をトルエン/テトラヒドロフラン(重量比2/8)の混合溶媒に溶解させた液を塗布し、125℃で20分間乾燥し、乾燥後の膜厚が20μmとなるように電荷輸送層を設けた。このときポリエステル樹脂の溶解性は良好であった。こうして得られた感光体で以下の評価を行った。
【0069】
【化9】
【0070】
[電気特性]
電子写真学会測定標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404−405頁記載)を使用し、上記感光体をアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体のアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数で回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行った。その際、初期表面電位を−700Vとし、露光は780nm、除電は660nmの単色光を用い、780nmの光を2.4μJ/cm2照射した時点の表面電位(VL)を測定した。VL測定に際しては、露光−電位測定に要する時間を139msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%下(N/N)及び温度5℃、相対湿度5%下(LL)で行った。結果を表1に示す。この表面電位(VL)の値の絶対値が小さいほど、応答性が良いことを示す。
【0071】
[摩耗試験]
感光体フィルムを直径10cmの円状に切断しテーバー摩耗試験機(東洋精機社製)により、摩耗評価を行った。試験条件は、23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重なし(摩耗輪の自重)で1000回回転後の摩耗量を試験前後の重量を比較することにより測定した。結果を表1に示す。
【0072】
実施例2〜11
実施例1に於いて感光体の製造(電荷輸送層の製造)中のポリエステル樹脂に替えて、表1に示すポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、感光体を製造した。得られた感光体の摩耗試験及び電気特性の評価を実施例1と同様の方法により同条件で行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1〜4
実施例1において感光体の製造(電荷輸送層の製造)中のポリエステル樹脂に替えて、表1に示すポリエステル樹脂を用い、溶媒に1,2−ジクロロエタンを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、感光体を製造した。得られた感光体の摩耗試験及び電気特性の評価を実施例1と同様の方法により同条件で行った。結果を表1に示す。
【0074】
比較例5〜9
表1にある組成のポリエステル樹脂を製造し、実施例1の様に電荷輸送層の製造を試みたがポリエステル樹脂がテトラヒドロフラン/トルエン混合溶媒にも1,2−ジクロロエタンにも溶解しなかった為、サンプルを作成することが出来なかった。
【0075】
【表1】
【0076】
*帯電が悪いため、評価不可であった。
** 塗膜強度が弱く評価不可であった。
*** THF/TLにもDCEにも不溶であったため評価不可であった。
表1における略号は以下の構造式又は溶媒を表す。
バインダー樹脂のジオール成分の構造式:
【0077】
【化10】
【0078】
バインダー樹脂のジカルボン酸成分の構造式:TPA(テレフタル酸)、IPA(イソフタル酸)、1,4-Nap(1,4-ナフタレンジカルボン酸)
溶媒 : THF:テトラヒドロフラン、TL:トルエン、DCE:1,2-ジクロロエタン
摩擦試験: テーバー摩耗試験 1000回回転後の摩耗量(質量減少)
電気特性: VL値が小さいほど電気特性が良好であることを表す
Mv:粘度平均分子量 溶媒(ジクロロメタン)の流下時間t0が136.16秒のウベローデ型毛細管粘度計を用いて、20.0℃に設定した恒温水槽中で試料溶液の流下時間tを測定した。以下の式に従って粘度平均分子量Mvを算出した。
【0079】
【数1】
a=0.438×ηsp+1 ηsp=t/t0−1
b=100×ηsp/C C=6.00(g/L)
η=b/a
Mv=3207×η1.205
Mvの欄のうち−はバインダー樹脂が塩化メチレンに溶解しなかったため測定出来なかった。
【0080】
表1の結果より、本発明の電子写真感光体は有害性の低い有機溶媒を用いて製造することが可能であり、電気特性及び機械物性に優れた電子写真感光体が得られることが判る。
【0081】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、ハロゲン系有機溶媒やジオキサン等の環境汚染、人体への有害性(発癌性の疑い等)のある溶媒を使用することなく、機械物性及び電気特性が良好な、環境に優しい電子写真感光体を製造することができる。
Claims (6)
- 導電性支持体上に少なくとも電荷輸送層を有する電子写真感光体の製造方法において、該電荷輸送層を形成するために用いる溶液が、下記一般式(1)で表される構造からなるポリエステル樹脂及びトルエンを含有する溶液である(ただし、該ポリエステルが下記一般式(1´)で表されるとき、該溶液がフッ素系樹脂粒子を含む場合を除く。また、該溶液がジメトキシメタンおよびオキサンから選ばれる少なくとも1つを含む場合を除く。)ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
式(1´)中、X´は−CR23R24−(R23及びR24は各々独立に水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である)、置換されてもよい炭素数5〜11の1,1−シクロアルキレン基、炭素数2〜10のα,ω−アルキレン基、単結合、−O−、−S−、−SO−または−SO2−である。また、R11〜R22は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、アリール基またはアルキレン基であり、nは整数である。) - 電荷輸送層を形成するために用いる溶液の溶媒が、さらに沸点90℃以下の環状エーテルを含有するものである、請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 沸点90℃以下の環状エーテルが、テトラヒドロフランである、請求項2に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 式(1)において、Xが−CH2−である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
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