JP4110306B2 - 防汚性積層体およびその製造方法 - Google Patents

防汚性積層体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光硬化性組成物から得られる防汚性樹脂層を基材上に有する防汚性積層体(単に、積層体と称する場合がある。)およびその製造方法に関する。より詳細には、高い硬度を有し、酸素存在下において硬化反応により形成可能な防汚性樹脂層を含む防汚性積層体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
防汚性積層体における防汚性樹脂層の形成材料として、例えば、熱硬化型ポリシロキサン組成物が知られており、特開昭61−247743号公報および特開平63−21601号公報等に開示されている。
しかしながら、かかる熱硬化型ポリシロキサン組成物から得られる積層体は、高温で、長時間にわたって加熱処理をする必要があり、生産性が低かったり、あるいは適用基材の種類が限定されるという問題が見られた。また、かかる熱硬化型ポリシロキサン組成物は保存安定性に乏しいため、一般的に主剤と硬化剤とからなる二液性であり、取り扱いが煩雑であるという問題が見られた。
【0003】
また、積層体における防汚性樹脂層の形成材料として、紫外線等の光を利用して硬化させる光硬化性樹脂組成物も知られており、特開平2−28270号公報等に開示されている。
しかしながら、光硬化性性樹脂組成物における主成分はフッ素含有アクリレート樹脂であり、光硬化に際してラジカル重合を利用しているため、大気中の酸素による活性ラジカルの失活が起きやすく、結果として硬化不良が生じやすいという問題が見られた。また、フッ素含有アクリレート樹脂は構造的に柔らかく、例えば、JIS K5400に準拠した鉛筆硬度の値がH以下であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来の積層体における防汚性樹脂層の形成材料として、熱硬化型ポリシロキサン組成物は、硬化時間が長くて、高温加熱処理を必要とするため、適用できる基材が限定され、さらには保存安定性に乏しいという問題点を有していた。一方、従来のフッ素含有アクリレート樹脂からなる光硬化性組成物は、光硬化の際に酸素の影響を受けやすく、また、得られた積層体における硬度が低いという問題点を有していた。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、積層体における防汚性樹脂層の形成材料として、加水分解性シラン化合物と、光酸発生剤と、脱水剤とを組み合わせた光硬化性組成物を使用することにより、上述した問題を解決できることを見出した。すなわち、脱水剤を添加して光硬化性組成物中に含まれる水分、加水分解性シラン化合物の自己縮合により生成する水分、あるいは塗工時に外気から侵入してくる水分等を有効に除去することにより、保存安定性に優れるとともに酸素の影響を受けることなく素早く光硬化反応を生じさせることができ、しかも、このような光硬化性組成物を基材上で硬化させることにより、優れた防汚性および高い硬度を有する積層体を得られることを見出した。
よって、本発明は、酸素が存在する空気中においても形成可能であり、しかも優れた防汚性や硬度を有する積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(A)および(B)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化させた防汚性樹脂層を基材上に形成してなる防汚性積層体に関する。
(A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
(R1PSi(X)4-P (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
(B)光酸発生剤
このように構成することにより、空気中においても酸素の影響を受けることなく防汚性樹脂層を形成することが可能であり、しかも積層体において、優れた防汚性や硬度を得ることができる。
【0007】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、光硬化性組成物中に、(C)成分として、脱水剤を含有させることが好ましい。
このように脱水剤を添加することにより、光硬化性組成物の保存安定性を著しく向上させることができる。
【0008】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、光硬化性組成物中に、(D)成分として、フッ素含有重合体を含有させることが好ましい。
このようにフッ素含有重合体を含有させることにより、撥水、撥油性が向上し、防汚性樹脂層における防汚性を著しく向上させることができる。
【0009】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、光硬化性組成物中に、(E)成分として、シリカ粒子を含有させることが好ましい。
このようにシリカ粒子を含有させることにより、防汚性樹脂層の硬化収縮を低減させたり、防汚性樹脂層の機械的強度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、光硬化性組成物中に、(F)成分として、反応性希釈剤を含有させることが好ましい。
このように反応性希釈剤を含有させることにより、防汚性樹脂層の基材に対する密着力を向上させたり、硬化収縮を低減させたり、あるいは防汚性樹脂層の機械的強度を調節することができる。
【0011】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、光硬化性組成物中に、(G)成分として、(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体を含有させることが好ましい。
このようなビニル系重合体を含有させることにより、防汚性樹脂層の基材に対する密着力を向上させたり、硬化収縮を低減させたり、あるいは防汚性樹脂層の機械的強度を調節することができる。
【0012】
また、本発明の積層体を構成するにあたり、基材の表面に、下記(A)、(B)および(G)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化してなるプライマー層が形成してあることが好ましい。
(A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
(R1PSi(X)4-P (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
(B)光酸発生剤
(G)(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体
このように特定の樹脂からなるプライマー層を設けることにより、防汚性樹脂層の基材に対する密着力を著しく向上させることができる。
【0013】
また、本発明の別の態様は、防汚性積層体の製造方法であり、下記(A)および(B)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化させて防汚性樹脂層を基材上に形成する工程を含むことを特徴とする。
(A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
(R1PSi(X)4-P (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
(B)光酸発生剤
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の防汚性積層体(第1〜第6の実施形態)およびその製造方法(第7の実施形態)に関する実施の形態を具体的に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、基材と、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、および脱水剤(C成分)を含有する光硬化性組成物を光硬化して得られた防汚性樹脂層とから構成された防汚性積層体である。
【0016】
(1)加水分解性シラン化合物における加水分解物
▲1▼構造
第1の実施形態で使用する加水分解物は、一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物を加水分解した化合物である。
(R1PSi(X)4-P (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
【0017】
ここで、Xで表される加水分解性基は、通常、無触媒、過剰の水の共存下、室温(25℃)〜100℃の温度範囲内で加熱することにより、加水分解されてシラノール基を生成することができる基、もしくはシロキサン縮合物を形成することができる基を指す。また、一般式(1)中の添え字pは0〜3の整数であるが、より好ましくは0〜2の整数であり、特に好ましくは1である。
ただし、一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物の加水分解物において、一部未加水分解の加水分解性基が残っていても良く、その場合、加水分解性シラン化合物と加水分解物との混合物となる。
【0018】
また、加水分解性シラン化合物の加水分解物というときは、加水分解反応によりアルコキシ基がシラノール基に変わった化合物ばかりでなく、一部のシラノール基同士が縮合した部分縮合物をも意味している。
さらに、加水分解性シラン化合物は、光硬化性組成物を配合する時点で加水分解されている必要は必ずしもなく、光照射する段階で、少なくとも一部の加水分解性基が加水分解されていれば良い。すなわち、第1の実施形態に使用する光硬化性組成物において、加水分解性シラン化合物を予め加水分解せずに使用した場合には、事前に水を添加して、加水分解性基を加水分解させ、シラノール基を生成することにより、光硬化性組成物を光硬化させて積層体を形成することができる。
【0019】
▲2▼加水分解性シラン化合物の具体例
次に、式(1)で表される加水分解性シラン化合物(単に、シラン化合物と称する場合がある。)の具体例を説明する。
まず、非重合性の有機基を有するシラン化合物としては、テトラクロロシラン、テトラアミノシラン、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラベンジロキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等の4個の加水分解性基で置換されたシラン化合物が挙げられる。
【0020】
また、同様に、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、d3−メチルトリメトキシシラン、ノナフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン等の3個の加水分解性基で置換されたシラン化合物が挙げられる。
【0021】
また、同様に、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジアミノシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン等の2個の加水分解性基で置換されたシラン化合物、及びトリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリブチルシラン、トリメチルメトキシシラン、トリブチルエトキシシラン等の1個の加水分解性基で置換されたシラン化合物を挙げることができる。
【0022】
また、重合性の有機基を有するシラン化合物としては、一般式(1)における非加水分解性の有機基Rに重合性の有機基を含むシラン化合物、一般式(1)における加水分解性の有機基Xに重合性の有機基を有するシラン化合物のいずれかを用いることができる。
【0023】
ここで、いずれの重合性の有機基においても、当該有機基の炭素数を1〜12の範囲内の値とするのが好ましい。具体的に、一般式(1)における非加水分解の有機基Rに重合性の有機基を含むシラン化合物としては(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、グリシジロキシトリメトキシシラン、3−(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)プロピルトリメトキシシラン、オキサシクロヘキシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0024】
また、一般式(1)における加水分解性の有機基Xに重合性の有機基を含むシラン化合物の例としては、テトラ(メタ)アクリロキシシラン、テトラキス[2−(メタ)アクリロキシエトキシ]シラン、テトラグリシジロキシシラン、テトラキス(2−ビニロキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−ビニロキシブトキシ)シラン、テトラキス(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)シラン、メチルトリ(メタ)アクリロキシシラン、メチル[2−(メタ)アクリロキシエトキシ]シラン、メチル−トリグリシジロキシシラン、メチルトリス(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)シランを挙げることができる。
【0025】
▲3▼加水分解性シラン化合物の加水分解物
次に、加水分解性シラン化合物の加水分解物における分子量について説明する。かかる分子量は、移動相にテトラヒドロフランを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記する。)を用い、ポリスチレン換算の重量平均分子量として測定することができる。
そして、加水分解物の重量平均分子量を、通常500〜10000の範囲内の値とするのが好ましい。加水分解物における重量平均分子量の値が500未満の場合、塗膜の成膜性が低下する場合があり、一方、10000を越えると光硬化性が低下する場合がある。したがって、より好ましくは加水分解物における重量平均分子量を、1000〜5000の範囲内の値とすることである。
【0026】
(2)光酸発生剤
▲1▼定義
光硬化性組成物に添加する光酸発生剤(B成分)は、光等のエネルギー線を照射することにより、(A)成分である加水分解性シラン化合物を光硬化(架橋)可能な酸性活性物質を放出することができる化合物と定義される。
なお、光酸発生剤を分解させて、カチオンを発生するするために照射する光エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線等を挙げることができる。ただし、一定のエネルギーレベルを有し、硬化速度が大(速く)であり、しかも照射装置が比較的安価で、小型な観点から、紫外線を使用することが好ましい。
【0027】
また、第1の実施形態の積層体を形成するにおいて、光硬化性組成物に、光酸発生剤とともに後述するラジカル発生剤を併用することも好ましい。中性の活性物質であるラジカルは、シラノール基の縮合反応を促進することはないが、(A)成分中にラジカル重合性の官能基を有する場合に、かかる官能基の重合を推進させることができる。したがって、光硬化性組成物をより効率的に硬化させることができる。
【0028】
▲2▼光酸発生剤の種類
次に、第1の実施形態に使用する光酸発生剤の種類を説明する。かかる光酸発生剤としては、一般式(2)で表される構造を有するオニウム塩(第1群の化合物)や一般式(3)で表される構造を有するスルホン酸誘導体(第2群の化合物)を挙げることができる。
【0029】
[R2 a3 b4 c5 dW]+m [MZm+n] -m (2)
[一般式(2)中、カチオンはオニウムイオンであり、WはS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O,I、Br、Clまたは−N≡Nであり、R2、R3、R4およびR5は同一または異なる有機基であり、a、b、cおよびdはそれぞれ0〜3の整数であって、(a+b+c+d)はWの価数に等しい。また、Mはハロゲン化物錯体[MXm+n]の中心原子を構成する金属またはメタロイドであり、例えばB、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coである。Zは、例えばF、Cl、Br等のハロゲン原子またはアリール基であり、mはハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷であり、nはMの原子価である。]
【0030】
S−〔S(=O)2−R6t (3)
[一般式(3)中、Qは一価もしくは二価の有機基、R6は炭素数1〜12の一価の有機基、添え字sは0又は1、添え字tは1又は2である。]
【0031】
まず、第1群の化合物であるオニウム塩は、光を受けることにより酸性活性物質を放出することができる化合物である。このような第1群の化合物のうち、より有効なオニウム塩は芳香族オニウム塩であり、特に好ましくは下記一般式(4)で表されるジアリールヨードニウム塩である。
[R7−Ar1−I+−Ar2−R8][Y-] (4)
[一般式(4)中、 R7およびR8は、それぞれ1価の有機基であり、同一でも異なっていてもよく、R7およびR8の少なくとも一方は炭素数が4以上のアルキル基を有しており、Ar1およびAr2はそれぞれ芳香族基であり、同一でも異なっていてもよく、Y-は1価の陰イオンであり、周期律表3族、5族のフッ化物陰イオンもしくは、ClO4 -、CF3−SO3 -から選ばれる陰イオンである。]
【0032】
また、第2群の化合物としての一般式(3)で表されるスルホン酸誘導体の例を示すと、ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類、1−オキシ−2−ヒドロキシ−3−プロピルアルコールのスルホネート類、ピロガロールトリスルホネート類、ベンジルスルホネート類を挙げることができる。
また、一般式(3)で表されるスルホン酸誘導体のうち、より好ましくはイミドスルホネート類であり、さらに好ましくはイミドスルホネートのうち、トリフルオロメチルスルホネート誘導体である。
【0033】
▲3▼光酸発生剤の添加量
次に、光硬化性組成物に使用される光酸発生剤の添加量(含有割合)について説明する。かかる光酸発生剤の添加量は特に制限されるものではないが、(A)成分100重量部に対して、通常0.1〜15重量部の範囲内の値とするのが好ましい。光酸発生剤の添加量が0.1重量部未満となると、光硬化性が低下し、十分な硬化速度が得られない場合がある。一方、光酸発生剤の添加量が15重量部を超えると、得られる硬化物の耐候性や耐熱性が低下する場合がある。
したがって、光硬化性と得られる硬化物の耐候性等とのバランスがより良好な観点から、光酸発生剤の添加量を、(A)成分100重量部に対して1〜10重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0034】
(3)脱水剤
▲1▼定義
光硬化性組成物に使用される脱水剤は、化学反応により水以外の物質に変換する化合物、物理吸着または包接により、光硬化性および保存安定性に影響を与えなくする化合物と定義される。
すなわち、このような脱水剤を含有することにより、光硬化性組成物の耐候性や耐熱性を損なうことなく、保存安定性や光硬化性という相反する特性を向上させることができる。この理由として、外部から侵入してくる水を、脱水剤が有効に吸収するために光硬化性組成物の保存安定性が向上し、一方、光硬化反応である縮合反応においては、生成した水を順次に脱水剤が有効に吸収するために光硬化性組成物の光硬化性が向上するものと考えられる。
【0035】
▲2▼脱水剤の種類
次に、光硬化性組成物に使用される脱水剤の種類を説明する。かかる脱水剤の種類は特に制限されるものでないが、有機化合物として、カルボン酸エステル、アセタール類(ケタール類を含む。)、およびカルボン酸無水物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。また、無機化合物として、脱水機能を有するセラミック粉体の使用も好ましい。これらの脱水剤は、優れた脱水効果を示し、少量の添加で脱水剤の機能を効率的に発揮することができる。
【0036】
また、脱水剤としてのカルボン酸エステルは、カルボン酸オルトエステルやカルボン酸シリルエステル等の中から選ばれる。
ここで、好ましいカルボン酸オルトエステルとしては、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル、オルト蟻酸プロピル、オルト蟻酸ブチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルト酢酸プロピル、オルト酢酸ブチル、オルトプロピオン酸メチルおよびオルトプロピオン酸エチル等が挙げられる。また、これらのカルボン酸オルトエステルのうち、より優れた脱水効果を示し、保存安定性や光硬化性をより向上させることができる観点から、オルト蟻酸エステルが、本発明における脱水剤として特に好ましい。
また、好ましいカルボン酸シリルエステルとしては、酢酸トリメチルシリル、酢酸トリブチルシリル、蟻酸トリメチルシリル、シュウ酸トリメチルシリル等が挙げられる。
【0037】
また、好ましいアセタール類としては、例えば、アセトンジメチルアセタール、アセトンジエチルアセタール、メチルエチルケトンジメチルアセタール、メチルエチルケトンジメチルアセタール、シクロヘキサノンジメチルアセタールおよびシクロヘキサノンジエチルアセタールが挙げられる。これらのアセタール類は優れた脱水効果を示し、光硬化性組成物の保存安定性や光硬化性をより向上させることができる。
【0038】
また、好ましいカルボン酸無水物としては、例えば、蟻酸無水物、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、酢酸安息香酸無水物等が挙げられる。特に、無水酢酸および無水コハク酸は、脱水効果に特に優れており好ましい。
【0039】
また、好ましい脱水機能を有するセラミック粉体としては、シリカゲル粒子、アルミナ粒子、シリカアルミナ粒子、活性白土、ゼオライト等が挙げられる。これらのセラミック粉体は、水に対して、強い親和力を有しており、優れた脱水効果を発揮することができる。
【0040】
▲3▼脱水剤の添加量
次に、光硬化性組成物に使用される脱水剤の添加量について説明する。脱水剤の添加量は特に制限されるものではないが、(A)成分100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部の範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、脱水剤の添加量が0.1重量部未満となると、添加効果の発現に乏しい場合があり、また、保存安定性や光硬化性の向上効果が低くなる場合があり、一方、脱水剤の添加量が100重量部を越えると、保存安定性や光硬化性の向上効果が飽和する場合があるためである。
したがって、より好ましくは、脱水剤の添加量を(A)成分100重量部に対して、0.5〜50重量部の範囲内の値とすることであり、さらに好ましくは、1〜10重量部の範囲内の値とすることである。
【0041】
(4)添加剤
光硬化性組成物には、本発明の目的や効果を損なわない範囲において、ラジカル性光重合開始剤、光増感剤、有機溶剤、重合禁止剤、重合開始助剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、無機充填剤、顔料、染料等の添加剤をさらに含有させることも好ましい。
【0042】
(5)防汚性積層体
▲1▼防汚性樹脂層の形成方法
光硬化性組成物から防汚性樹脂層を形成する場合、まず、基材(適用部材)にコーテイングすることが好ましい。このようなコーテイング方法としては、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法、シルクスクリーン法、またはインクジェット法等の方法を用いることができる。
【0043】
また、光硬化性組成物を光硬化する手段も特に制限されるものではないが、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプ等の光源を用いて、波長200〜400nmの光を照射することが好ましい。また、レーザ光、あるいはレンズ、ミラー等を用いて得られた収束光等を走査させながら光硬化性組成物に光照射することも好ましい。さらに、所定のパターンの光透過部を有するマスクを用い、このマスクを介して非収束光を組成物に光照射したり、あるいは、多数の光ファイバーを束ねてなる導光部材を用い、この導光部材における所定のパターンに対応する光ファイバーを介して光照射することも好ましい。
【0044】
また、光硬化させて得られた防汚性樹脂層(塗膜)は必要に応じて、さらに加熱することも好ましい。その場合、通常、室温から基材もしくは塗膜の分解開始温度以下で、5分〜72時間の条件で加熱するのが好ましい。このように光硬化後に、さらに加熱することにより、より耐熱性や耐候性に優れた積層体を得ることができる。
【0045】
▲2▼厚さ
防汚性樹脂層の厚さは特に制限されるものではないが、たとえば、0.01〜200μmの範囲内の値であることが好ましい。この理由は、厚さが0.01μm未満となると、機械的特性が低下したり、防汚性や基材に対する密着力が低下する場合があるためであり、一方、厚さが200μmを超えると、光硬化することが困難となる場合があったり、積層体の厚さが過度に厚くなる場合があるためである。
したがって、防汚性樹脂層の厚さを0.1〜100μmの範囲内の値とするのがより好ましく、0.5〜50μmの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
なお、防汚性積層体を光学的用途に用いる場合には、光干渉等を生じないように、防汚性樹脂層の厚さを0.01〜1μmの範囲内の値とするのがより好ましい。
【0046】
▲3▼基材
積層体に使用する基材の種類については特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、イミド系樹脂、シリコ−ン系樹脂、フェノール系樹脂、ゴム系樹脂または塩化ビニル系樹脂からなる基材を使用することが好ましい。
これらの基材は、機械的特性や耐熱性に優れており、優れた耐久性を有する積層体が得られるためである。また、これらの基材は、透明性にも優れており、基材上に文字や模様等が形成されている場合あるいは基材が液晶表示装置におけるカラーフィルタの場合であっても、これらの文字等について十分に視認することができる。なお、基材を構成する材料中に、顔料や染料、あるいはシリカ等の無機粒子を添加して、基材自体を着色化したり、不透明化しても良い。
【0047】
また、基材の厚さについても特に限定されるものではないが、例えば、10μm〜5mmの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、基材の厚さが10μm未満となると、基材の機械的強度が低下する場合があり、一方、基材の厚さが5mmを超えると、取り扱いが困難となる場合があるためである。
【0048】
また、基材の裏面に、例えば、厚さ5〜200μmのアクリル系粘着剤やエポキシ系熱硬化型接着剤からなる接着剤層を設けることが好ましい。このように接着剤層を設けることにより、防汚効果を所望する被着体に対して積層体を容易に積層することができ、積層体の使い勝手が良好となる。
【0049】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、基材と、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)およびフッ素含有重合体(D成分)を含有する光硬化性組成物を光硬化して得られた防汚性樹脂層とから構成された積層体である。このようにフッ素含有重合体を含有させることにより、撥水、撥油性が向上し、防汚性樹脂層における防汚性を著しく向上させることができる。したがって、例えば汚染物を乾布でふき取るだけで除去することができるようになる。
以下、第2の実施形態に使用するフッ素含有重合体について詳細に説明するが、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)および基材等については、第2の実施形態においても第1の実施形態と同様のものが使用できるため、ここでの説明は省略する。
【0050】
(1)フッ素含有重合体(フッ素含有単量体)の種類
フッ素含有重合体の種類は、フッ素原子を分子内に有する重合体であれば特に制限されるものではないが、例えば、フルオロオレフィン類、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテル、フルオロアルキルビニルエーテル、フルオロアルコキシアルキルビニルエーテル類、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル類等のフッ素含有単量体を重合して得られる重合体であるのが好ましい。
【0051】
より具体的には、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフルオロオレフィン類、フルオロアルキルビニルエーテル類、フルオロアルコキシアルキルビニルエーテル類が好ましく、特に、ヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0052】
(2)共重合成分1
また、フッ素含有重合体を重合して得るに当たり、加水分解性シリル基含有単量体、エポキシ基含有単量体、オキセタン基含有単量体、水酸基(ヒドロキシ基)含有単量体およびカルボキシル基含有単量体からなる群から選択される少なくとも一つの共重合成分1(反応性基含有単量体)を共重合することが好ましい。
このような反応性基含有単量体を共重合することにより、官能基として、加水分解性シリル基、エポキシ基、オキセタン基、水酸基およびカルボキシル基を分子内に容易に導入することができる。したがって、フッ素含有重合体と、加水分解性シラン化合物との相溶性が向上し、さらには、フッ素含有重合体を加水分解性シラン化合物と反応させることもできる。
【0053】
また、このような共重合性成分の使用量についても特に制限されるものではないが、例えば、共重合成分の全体量を100モル%としたときに、使用量を1〜70モル%の範囲内の値とするのが好ましい。その理由は、使用量が1モル%未満となると、添加効果が乏しい場合があり、一方、70モル%を超えると、得られたフッ素含有重合体がゲル化しやすい場合があるためである。したがって、添加効果とゲル化防止とのバランスがより良好な観点から、使用量を3〜50モル%の範囲内の値とするのがより好ましい。
【0054】
(3)共重合成分2
また、フッ素含有重合体を重合して得るに当たり、収率をより向上させたり、フッ素含有量を容易に調節できる観点から、上述した以外の共重合成分(共重合成分2)、例えば、メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。なお、これらの共重合性成分は、単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0055】
また、これらの共重合成分の使用量についても特に制限されるものではないが、例えば、共重合成分の全体量を100モル%としたときに、使用量を10〜70モル%の範囲内の値とするのが好ましい。その理由は、使用量が10モル%未満となると、添加効果が乏しい場合があり、一方、70モル%を超えると、相対的にフッ素含有単量体の使用量が減少し、幅広い範囲で、屈折率の値を調節することが困難となったり、あるいは有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためである。
【0056】
(4)フッ素含有重合体のラジカル重合
上述したフッ素含有重合体は、ラジカル重合開始剤(ラジカル発生剤)の存在下にフッ素含有単量体等をラジカル重合することにより得ることができる。このようなラジカル重合法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法等を採用することができる。また、ラジカル重合法における重合操作についても、回分式、半連続式、連続式など目的に応じて適宜選択することができる。
【0057】
ここで、ラジカル重合開始剤としては、例えばケトンパーオキサイド類;ハイドロパーオキサイド類;パーオキシエステル類;アゾ系化合物;過硫酸塩;ヨウ素含有フッ素化合物が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、一種単独で使用することも、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
また、ラジカル重合速度を調節する観点から、上述したラジカル重合開始剤とともに、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどの無機還元剤や、ナフテン酸コバルト、ジメチルアニリンなどの有機還元剤を使用することも好ましい。
【0058】
また、好ましいラジカル重合開始剤として、下記一般式(5)で表されるアゾ基含有ポリシロキサン化合物を使用することも好ましい。このようなラジカル重合開始剤を使用することにより、ラジカル重合反応を生じさせるとともに、得られる含フッ素重合体中にシロキサン結合を容易に導入することができる。
【0059】
【化1】
Figure 0004110306
【0060】
[一般式(5)中、R9、R10、R13〜R16は炭素数1〜6の一価の有機基であり、R11およびR12は−CNまたは−COOCH3であり、p、q、s、y、tは1〜6の整数であり、zは1〜20の整数である。]
【0061】
また、一般式(5)で表される化合物として、具体的に下記式(6)で表される化合物がより好ましい。
【0062】
【化2】
Figure 0004110306
【0063】
[式(6)中、yおよびzは、一般式(5)おける内容と同様である。]
【0064】
(5)フッ素含量
フッ素含有重合体中のフッ素含量は特に制限されるものではないが、例えば、3重量%以上の値、より好ましくは5〜60重量%の範囲内の値とすることである。フッ素含有重合体中のフッ素含量が3重量%未満である場合には、防汚性が低下する場合があるためである。
なお、フッ素含有重合体中のフッ素含量は、アリザリンコンプレクソン法を用いて測定することができ、重合時におけるフッ素含有単量体の使用量(含有割合)や種類を調整することにより、容易に制御することができる。
【0065】
(6)フッ素含有重合体の添加量
フッ素含有重合体の添加量は、特に制限されるものではないが、例えば、(A)成分100重量部に対して、0.5〜250重量部の範囲内の値とするのが好ましい。フッ素含有重合体の添加量が0.5重量部未満となると、添加効果は軽微となる場合があり、一方、250重量部を超えると保存安定性や塗装性が低下する場合がある。
したがって、確実に添加効果が得られ、またより保存安定性が優れている観点から、フッ素含有重合体の添加量を、(A)成分100重量部に対して、1〜200重量部の範囲内の値とするのがより好ましく、30〜150重量部の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0066】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態は、基材と、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)およびシリカ粒子(E成分)を含有する光硬化性組成物を光硬化して得られた防汚性樹脂層とから構成された積層体である。このようにシリカ粒子を添加(配合)することにより、得られる積層体の硬化収縮を低減することができる。また、積層体の機械的強度、例えば、ヤング率の値を高くして、耐擦傷性を向上させることもできる。
以下、第3の実施形態に使用するシリカ粒子の詳細について説明するが、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)、基材等については、第1の実施形態と同様のものが使用できるため、ここでの説明は省略する。
【0067】
(1)シリカ粒子の添加量
第3の実施形態に使用するシリカ粒子の添加量は、特に制限されるものではないが、例えば、(A)成分100重量部に対して、0.1〜100重量部の範囲内の値とするのが好ましい。
シリカ粒子の添加量が0.1重量部未満となると、添加効果は軽微であり、一方、100重量部を超えると保存安定性や塗装性が低下する場合がある。
したがって、確実に添加効果が得られ、またより保存安定性が優れている観点から、シリカ粒子の添加量を、(A)成分100重量部に対して、0.2〜80重量部の範囲内の値とするのがより好ましく、0.5〜50重量部の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0068】
(2)シリカ粒子の種類
第3の実施形態に使用するシリカ粒子は、シリカを主成分とする粒子であれば良く、シリカ以外の他の成分を含んでいても良い。そのようなシリカ以外の成分としてはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類酸化物、及びTi、Zr、Al、B、Sn、P等の酸化物を挙げることができる。
また、シリカ粒子の平均粒子径を、0.001〜20μmの範囲内の値とするのが好ましい。さらに、シリカ粒子を用いて透明な光硬化性組成物あるいは積層体を形成することを目的とする場合には、平均粒子径を0.001〜0.2μmの範囲内の値とするのが好ましく、より好ましくは0.001〜0.01μmの範囲内の値とすることである。
また、使用するシリカ粒子の屈折率(温度25℃、Na−D線、以下、同様)と、光硬化性組成物の屈折率との差を、0.02(−)以下とするように、シリカ粒子を選択することが好ましい。屈折率差を、このような値とすることにより、積層体の透明性をより高めることができる。
【0069】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態は、基材と、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)および反応性希釈剤(F成分)を含有する光硬化性組成物を光硬化して得られた防汚性樹脂層とから構成された積層体である。このように反応性希釈剤を添加(配合)することにより、基材に対する密着力を向上させたり、得られる積層体の硬化収縮を低減したり、あるいは積層体の機械的強度を制御することができる。さらに、ラジカル重合性の反応性希釈剤を用いた場合には、ラジカル発生剤を添加することにより、光硬化性組成物の光硬化性をよりきめ細かく調節することができる。また、カチオン重合性の反応性希釈剤を用いた場合には、光硬化性や機械的特性を調節することができる。
以下、第4の実施形態における反応性希釈剤(F成分)の詳細について説明するが、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)および基材等については、第1の実施形態と同様のものが使用できるため、ここでの説明は省略する。
【0070】
▲1▼反応性希釈剤の配合量
第3の実施形態において、反応性希釈剤の配合量(添加量)は特に制限されるものではないが、例えば、(A)成分100重量部に対して、0.1〜50重量部の範囲内の値とするのが好ましい。反応性希釈剤の配合量が1重量部未満となると、添加効果が発現しない場合があり、一方、50重量部を超えると、得られる積層体の耐候性が低下する場合がある。したがって、反応性希釈剤の配合量を1〜30重量部の範囲内の値とするのがより好ましく、2〜20重量部の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0071】
▲2▼反応性希釈剤の種類
次に、第3の実施形態に使用する反応性希釈剤の種類について説明する。かかる反応性希釈剤としてカチオン重合性モノマーおよびエチレン性不飽和モノマーあるいはいずれか一方のモノマーを配合することが好ましい。
具体的に、カチオン重合性モノマーとしては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チエタン化合物、ビニルエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、環状エーテル化合物、環状チオエーテル化合物等を挙げることができる。
【0072】
また、エチレン性不飽和モノマーはエチレン性不飽和結合(C=C)を分子中に有する化合物であり、1分子中に1個のエチレン性不飽和結合を有する単官能モノマー、および1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能モノマーと定義することができる。
好ましいエチレン性不飽和モノマーとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、メチルトリエチレンジグリコール(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0073】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態は、基材と、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)および(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体(G成分)を含有する光硬化性組成物を光硬化して得られた防汚性樹脂層とから構成された積層体である。このように(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体を添加(配合)することにより、防汚性樹脂層の基材に対する密着力を向上させたり、防汚性樹脂層の硬化収縮を低減したり、あるいは防汚性樹脂層の機械的強度を制御することができる。
以下、第5の実施形態における(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体(G成分)のついて詳細に説明するが、加水分解性シラン化合物の加水分解物(A成分)、光酸発生剤(B成分)、脱水剤(C成分)および基材等については、第1の実施形態と同様のものが使用できるため、ここでの説明は省略する。
【0074】
(1)種類
(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体としては、一般式(7)で表されるように、分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するビニルモノマーの重合体と定義される。そして、一般式(7)における加水分解性シリル基は、一般式(1)における加水分解シリル基と同一内容である。
【0075】
【化3】
Figure 0004110306
【0076】
[一般式(7)中、R17はそれぞれ独立であり、水素原子、ハロゲン原子または炭素数が1〜12である一価の有機基であり、R18は炭素数が0または1〜200の二価の有機基であり、R19は水素または炭素数が1〜200の一価の有機基であり、tは1〜1000の整数であり、uは0または1〜1000の整数であり、R1、Xおよびpは一般式(1)の内容と同様である。]
【0077】
(2)製造方法
次に、(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体の製造方法について説明する。このビニル系重合体の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば、以下に示す第1の製造方法や第2の製造方法により製造することが好ましい。
【0078】
(第1の製造方法)
加水分解性シリル基含有ビニル系重合体を製造する第1の製造方法は、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーを単独重合するか、あるいは、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーと加水分解性シリル基を有しない重合性不飽和モノマーとを共重合することである。
このような第1の製造方法に使用される加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリクロロシラン、ビス(メタクリロキシプロピル)ジメトキシシランなどの(メタ)アクリロキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシランなどのビニルシラン等を挙げることができる。なお、上述した加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーは、1種を単独重合もしくは、2種以上を組み合わせて重合しても良い。
また、加水分解性シリル基を含まない重合性不飽和モノマーは、ラジカル重合性のエチレン性不飽和結合(C=C)を分子中に有する化合物であり、1分子中に1個のエチレン性不飽和結合を有する単官能モノマーから選ばれる。このような加水分解性シリル基を有しない化合物(単官能性モノマー)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、N−ビニル化合物、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、ハロゲン化オレフィン類、ジエン類等が挙げられる。
【0079】
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、反応性有機基を有するビニル系重合体と、加水分解性シリル基を有する化合物とを化学反応させることにより、加水分解性シリル基含有ビニル系重合体を製造する方法である。この場合、加水分解性シリル基を有する化合物として、予め加水分解もしくは、さらに縮合させたものを使用することができる。
このように加水分解性シリル基を化学反応により導入する場合、公知の方法を用いることができ、例えば
1)不飽和二重結合を有するポリマーに対し遷移金属触媒の存在下、トリアルコキシシランを付加させるヒドロシリル化反応、
2)エポキシ基を含有するポリマーに対し、メルカプト基もしくはアミノ基を有するアルコキシシラン類を付加反応させる方法、
3)ヒドロキシ基を有するポリマーに対しイソシアネート基を有するアルコキシシランを反応させウレタン結合によりシリル化する方法
などを用いることができる。
【0080】
(3)添加量
次に、(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体の添加量について説明する。かかるビニル系重合体の添加量は特に制限されるものではないが、(A)成分100重量部に対して、1〜10000重量部の範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、添加量が1重量部未満となると、下地に対する密着性や柔軟性、あるいは耐薬品性が低下する場合があり、一方、添加量が10000重量部を超えると、光硬化性樹脂組成物の光硬化性や、得られた硬化物における耐候性が低下する場合があるためである。
したがって、下地に対する密着性と得られる硬化物の耐候性等とのバランスがより良好な観点から、かかるビニル系重合体の添加量を、(A)成分100重量部に対して5〜200重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜100重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0081】
[第6の実施形態]
本発明の第6の実施形態は、第1〜第5の実施形態で説明した積層体の変形例であり、図1に示す様に基材14と防汚性樹脂層10との間に、プライマー層12を有する構造の積層体16である。なお、基材14および防汚性樹脂層10については、第1〜第5の実施形態で説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0082】
まず、プライマー層を構成する材料は、特に限定されるものではなく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等を用いることが好ましい。これらのプライマー層を構成する材料は、一般的に使用されており、実績があるためである。
【0083】
また、その他のプライマー層を構成する材料として、下記(A)〜(C)および(G)成分を含有する光硬化性組成物を用いることも好ましい。
(A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
(R1PSi(X)4-P (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
(B)光酸発生剤
(C)脱水剤
(G)(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体
このような光硬化性組成物を用いることにより、プライマー層を迅速に形成することができ、また、このようなプライマー層であれば、防汚性樹脂層と組成物が近似しており、基材に対する密着力を著しく向上させることができる。なお、上述した(A)〜(G)成分は、第1〜第5の実施形態で既に説明した内容と同様である。
【0084】
また、プライマー層の厚さについても特に限定されるものではないが、例えば、0.01〜10μmの範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、プライマー層の厚さが0.01μm未満となると、防汚性樹脂層の基材に対する密着力が向上しない場合があり、一方、プライマー層の厚さが10μmを超えると、積層体の全体の厚さが過度に厚くなったり、あるいは光硬化により短時間で形成することが困難となる場合があるためである。
【0085】
[第7の実施形態]
本発明の第7の実施形態は、以下に示す第1の工程および第2の工程を含む積層体の製造方法に関する実施形態である。なお、第1の工程は、上述した第1〜6の実施形態のいずれか一つの光硬化性組成物を成形する工程(成形工程と称する場合がある。)であり、第2の工程は、露光機を用いて露光することにより、光硬化性組成物を光硬化させる工程(露光工程と称する場合がある。)である。
【0086】
(1)第1の工程
光硬化性組成物の成形方法は特に制限されるものではないが、例えば、ディッピングコータやスピンコータあるいはバーコータを用いて、光硬化性組成物を塗布、形成することが好ましい。具体的に、スピンコータを用いた場合、スピンコータ内に、基材を固定した後、一例として、回転数1000rpmの条件で、予め粘度調整した光硬化性組成物を塗布することが好ましい。
また、光硬化性組成物の成形後の厚さは特に制限されるものではないが、例えば、1〜200μmの範囲内の値であることが好ましい。この理由は、成形後の厚さが1μm未満では、所定形状に保持することが困難となる場合があり、一方、200μmを超えると、均一に光硬化させることが困難となる場合がある。
【0087】
また、第1の工程において、光硬化性組成物の成形後に、100〜150℃の温度で予備加熱(プリベイク)することが好ましい。このような条件で光硬化性組成物を予備加熱することにより、光硬化性組成物における揮発部分を有効に除去することができ、光硬化性組成物の成形品が型崩れすることがなくなる。また、加水分解性シラン化合物(A成分)のシラノールの一部を反応させることができ、基材に対する密着力や現像時における耐薬品(現像剤)性を向上させることもできる。
ただし、過度に加熱して、現像特性が逆に低下しないように、110〜140℃の温度で加熱することがより好ましく、115〜130℃の温度で加熱することがより好ましい。
【0088】
さらに、加熱時間については、加熱温度を考慮して定めるのが好ましいが、100〜150℃の温度で予備加熱する場合、1〜20分の加熱時間とするのが好ましい。この理由は、加熱時間が1分未満となると、シラノールの反応が不均一となる場合があり、一方、加熱時間が10分を超えると、シラノールが過度に反応して、現像液を用いて精度良く現像することが困難となる場合があるためである。したがって、加熱時間を2〜15分の範囲内の値とするのが好ましく、3〜10分の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
なお、加熱手段については特に制限されるものではなく、例えば、オーブンや赤外線ランプを用いることができる。
【0089】
(2)第2の工程
また、第2の工程における光硬化方法は第1の実施形態で一部説明したとおりであるが、全面露光して光硬化させることはもちろんのこと、所定パターンを有するフォトマスク介して非収束光を光硬化性組成物にパターン露光したり、あるいは、多数の光ファイバーを束ねた導光部材を用い、フォトマスクのパターンに対応する光ファイバーからのみ光照射して、パターン露光することも好ましい。
このようにパターン露光することにより、露光して硬化させた光硬化物部分と、露光せず未硬化の光硬化性組成物部分とを精度良く形成することができる。したがって、未硬化の光硬化性組成物部分のみを、現像液を用いて容易にウエット現像(除去)することができ、結果として、耐汚染性樹脂層が設けられていない基材の露出部を短時間かつ容易に形成することができる。
なお、このような基材の露出部を利用して、所望の部材を接着固定等することができる。また、マスクパターンのライン/スペース(比率50/50)が10μm以上の範囲、より好ましくは30μm以上の範囲、さらに好ましくは、50μm以上の範囲において、光硬化させた後、現像により基材の露出部を再現性良く形成できることが確認されている。
【0090】
また、光硬化性組成物からなる成形品を離型材に形成した後、この成形品に対して基材を積層し、さらに、基材を積層した側から間接的に光を照射することも好ましく、あるいは基材と反対側すなわち成形品側から光を直接的に照射することも好ましい。これにより、基材に積層する前に、光硬化性組成物からなる成形品の厚さを予め制御することができる。
【0091】
さらに、第2の工程において、光硬化物である汚染性樹脂層をさらに加熱することも好ましい。その場合、通常、室温から基材もしくは塗膜の分解開始温度以下で、5分〜72時間の条件で加熱するのが好ましい。このように加熱することにより、より耐熱性や耐候性に優れた積層体を得ることができる。
【0092】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に限定されるものではない。また、実施例中、各成分の配合量は特に記載のない限り重量部を意味している。
【0093】
参考例1
(光硬化性組成物の調製)
撹拌機および蒸留装置を備えた容器内に、メチルトリメトキシシラン(MTMS、80.0g、0.558モル)と、電気伝導率が8×10-5S・cm-1のイオン交換水(16.0g、0.889モル)とを収容した後、温度60℃、6時間の条件で加熱撹拌することにより、メチルトリメトキシシランの加水分解を行った。次いで、容器内の温度を80℃に昇温させた後、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略記)を滴下しながら、加水分解により副生したメタノールを蒸留除去した。そして、最終的に固形分を22重量%に調整し、(A)成分であるポリシロキサンを含有する溶液(以下、ポリシロキサン溶液1と称する。)を得た。得られたポリシロキサン溶液1について、GPCを用いてポリスチレン換算の重量平均分子量を測定したところ、1500という値が得られた。次いで、得られたポリシロキサン溶液1(固形分および溶剤の合計)100重量部あたり、(B)成分の光酸発生剤として、SI−100L(三新化学(株)製)を3重量部、(C)成分の脱水剤として、オルト蟻酸メチル(和光純薬工業(株)製)5重量部をそれぞれ添加して、光硬化性組成物Aを得た。
【0094】
(積層体の形成および評価)
(1)光硬化性1
得られた光硬化性組成物A(溶液)を、バーコータを用いて、ポリカーボネート板(厚さ1mm、帝人化成(株)製)上に塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて60℃、1分の条件で乾燥し、厚さ5μmの塗膜を得た後、露光量が100mJ/cm2(照射時間1秒)、200mJ/cm2(照射時間2秒)および300mJ/cm2(照射時間3秒)となるように、温度25℃、大気中および窒素中の条件で、オーク製作所(株)製のコンベア式高圧水銀ランプ(2kW)を用いて紫外線を照射し、積層体を形成した。得られた積層体につき、指触で表面タックを測定し、以下の基準で光硬化性を評価した。結果を表1に示す。
◎:100mJ/cm2露光後、防汚性樹脂層に表面タックがない。
○:200mJ/cm2露光後、防汚性樹脂層に表面タックがない。
△:300mJ/cm2露光後、防汚性樹脂層に表面タックがない。
×:300mJ/cm2露光後、防汚性樹脂層に表面タックがある。
【0095】
(2)光硬化性2
光硬化性組成物Aを温度40℃で1ヶ月間および3ヶ月間保管した後、目視で外観変化(粘度増加)を測定し、さらに上記(1)の光硬化性を測定して、以下の基準で長期保存後の光硬化性を評価した。得られた結果を保存安定性として表1に示す。
○:3ヶ月経過後も、外観変化や光硬化性の変化は観察されない。
△:1ヶ月経過後も、外観変化や光硬化性の変化は観察されない。
×:1ヶ月経過後に、外観変化あるいは光硬化性の低下が観察される。
【0096】
(3)防汚染性
光硬化性組成物Aを、上記ポリカーボネート板上にバーコータを用いて塗布した後、前記コンベア式高圧水銀ランプを用いて、大気中で、露光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射し、厚さ5μmの防汚性樹脂層を有する積層体を形成した。得られた積層体における防汚性樹脂層の耐汚染性をJIS K 6902(熱硬化性樹脂化粧板試験方法)に準拠して、下記汚染物質を用いてスポット試験を行い、10分後(汚染物質1〜5)または16時間後(汚染物質6〜11)に目視により以下の基準で判断した。結果を表1に示す。なお、汚染物としては、以下に示す11種類の物質を使用した。
汚染物1(防黴剤、商品名:カビキラー、ジョンソンエンドジョンソン社製)
汚染物2(白髪染剤、商品名:ビゲンヘアカラー、ホーユー(株)製)
汚染物3(洗浄剤、商品名:ドメスト、日本リーバ(株)製)
汚染物4(洗浄剤、商品名:サンポール、大日本除虫菊(株)製)
汚染物5(靴墨、商品名:クリスタルピン、(株)コロンブス製)
汚染物6(コーヒー、商品名:ネスカフェゴールドブレンド、ネスレ日本(株)製)
汚染物7(紅茶、商品名:日東紅茶、三井農林(株)製)
汚染物8(醤油、商品名:キッコーマンしょうゆ、キッコーマン (株)製)
汚染物9(カレー、商品名:ジャワカレー、ハウス食品(株)製)
汚染物10(ボールペンインク、商品名:SA−7、三菱鉛筆(株)製)
汚染物11(油性インク、商品名:ぺんてるペンN50、ぺんてる(株)製)
○:変化なし
△:わずかに変色が観察される。
×:顕著な変色や防汚性樹脂層の溶解が観察される。
【0097】
(4)鉛筆硬度
光硬化性組成物Aを石英板上に回転塗布した後、前記コンベア式高圧水銀ランプを用いて、大気中で露光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射し、厚さ3μmの積層体を形成した。得られた積層体の防汚性樹脂層における鉛筆硬度をJIS K5400に従い測定した。なお、基材の柔らかさが影響しないように、硬度の値が高い石英板を基材として用いた。また、鉛筆硬度の判定は表面の傷を目視で観察することにより行った。結果を表1に示す。
【0098】
(5)透明性
光硬化性組成物Aをポリカーボネート板に回転塗布した後、前記コンベア式高圧水銀ランプを用いて、大気中で露光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射し、厚さ10μmの防汚性樹脂層を形成した。次いで、分光光度計を用いて、波長550nmにおける光透過率(T%)を測定し、得られた光透過率から以下の基準で防汚性樹脂層の透明性を評価した。結果を表1に示す。
○:光透過率が95%以上の値である。
△:光透過率が80〜95%未満の値である。
×:光透過率が80%未満の値である。
【0099】
(6)耐候性
光硬化性組成物Aを石英板上に回転塗布した後、前記コンベア式高圧水銀ランプを用いて、大気中で露光量が200mJ/cm2となるように紫外線を照射し、厚さ5μmの防汚性樹脂層を形成し、積層体とした。得られた積層体についてJIS D0205に準拠して(湿度50%、温度63℃、降雨18分/120分照射の条件)、サンシャインカーボンアーク灯式耐光性試験機を用い、促進耐候試験を実施した。なお、基材の耐候性に影響されないように、耐候性に優れた石英板を基材として用いた。そして、促進耐候試験1000時間後および2000時間後の積層体における防汚性樹脂層の外観を目視で観察し、以下の基準で以て耐候性を評価した。また、同時に、JIS K7103に準拠した黄変度を△YI値で以て測定し、同様に耐候性を評価した。結果を表1に示す。
○:外観変化(クラック等)が無く、また△YI値が0.1以下である。
△:外観変化(クラック等)がほとんど無く、また△YI値が2以下である。
×:外観変化(クラック等)が認められるか、△YI値が2を超えている。
【0100】
参考例2
(光硬化性樹脂組成物の調製)
参考例1と同様にポリシロキサン溶液1を調製した。
【0101】
また、温度50℃に保持した撹拌機付の容器内にメチルエチルケトン(以下、MEKと略記)100重量部を収容しておき、アクリロイルモルフォリン31重量部と、イソボルニルアクリレート57重量部と、テトラヒドロフルフリルアクリレート9重量部と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3重量部と、アゾビスイソブチロニトリル3重量部とからなる反応液を1時間かけて滴下した。その後、温度80℃、3時間の条件で加熱撹拌することにより、固形分50重量%のアクリルシリコン重合体溶液を得た。得られたアクリルシリコン重合体について、GPCを用いてポリスチレン換算の重量平均分子量を測定したところ、約15、000という値が得られた。
次いで、撹拌機付の容器内に、ポリシロキサン溶液1(固形分および溶剤)318重量部と、アクリルシリコン重合体溶液(固形分および溶剤)60重量部と、光酸発生剤CD1012(サートマー社製)3重量部と、脱水剤であるオルト蟻酸メチル19重量部をそれぞれ収容後、均一に混合撹拌して光硬化性樹脂組成物Bを得た。
【0102】
(積層体の形成および評価)
得られた光硬化性組成物Bにつき、参考例1と同様に積層体を形成して、耐汚染性等を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
参考例3
(光硬化性樹脂組成物の調製)
(1)フッ素含有重合体の重合
内容積1.0リットルの電磁撹拌機を備えたステンレス製のオートクレーブ内を窒素ガスを用いて十分に置換した。次いで、このオートクレーブ内に、酢酸エチル(重合溶剤)300gと、エチルビニルエーテル24.0gと、ヒドロキシブチルビニルエーテル25.8gと、ノニオン性反応性乳化剤NE−30(旭電化工業(株)製)10.0gと、ラジカル発生剤としてアゾ基含有ポリジメチルシロキサンVPS−1001(和光純薬工業(株)製)1.0gと、過酸化ラウロイル0.5gとを収容した。そして、共重合成分等を十分に撹拌した後、ドライアイスおよびメタノールを用いて−50℃まで冷却し、再度窒素ガスを用いて系内の酸素を除去した。次いで、ヘキサフルオロプロピレン(ガス)99.9gをオートクレーブ内に導入した後、オートクレーブ内の温度を70℃に昇温した。なお、70℃に達した時点での、オートクレーブ内の圧力は5.9kgf/cm2であった。
【0104】
次いで、オートクレーブ内の共重合成分等を撹拌しながら、温度を70℃に保持したまま20時間かけてラジカル重合反応を行った。そして、オートクレーブ内の圧力が2.5kgf/cm2 まで低下した時点で、オートクレーブを水冷して反応を停止させた。オートクレーブ内の温度が室温まで降下したのを確認した後、オートクレーブを開放し、未反応モノマーを系外に放出させるとともに、フッ素含有共重合体溶液(ポリマー溶液)を取り出した。
得られたフッ素含有共重合体溶液を、多量のメタノールに投入し、フッ素含有共重合体を析出させた。その後、多量のメタノールを用いてフッ素含有共重合体を洗浄し、さらに温度50℃の真空乾燥を行い、水酸基を有するフッ素含有重合体の精製物(以下、共重合体1と称する。)を得た。得られた共重合体1について、以下のような評価項目をそれぞれ5回測定し平均した。
【0105】
▲1▼重量平均分子量の測定
得られたフッ素含有共重合体を、濃度0.5重量%となるようにTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた。次いで、GPC装置HLC−8020(東ソー(株)製)を使用し、屈折率計(RI)を用いて、ポリスチレン換算分子量として、フッ素含有共重合体の重量平均分子量を算出した。その結果、得られたフッ素含有共重合体の重量平均分子量は、23,000であった。
【0106】
▲2▼フッ素含量の測定
得られたフッ素含有共重合体のフッ素含量を、アリザリンコンプレクソン法に準拠して測定した。その結果、得られたフッ素含有共重合体のフッ素含量は、46.1重量%であった。
【0107】
(2)フッ素含有共重合体の変性
得られた水酸基を有するフッ素含有共重合体100gと、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン20gと、メチルイソブチルケトン500gと、ジブチルスズジラウレート0.01gとを撹拌機付きの反応容器内に収容した。次いで、撹拌しながら、窒素ガス雰囲気下、温度20℃、12時間の条件で、共重合体1とγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランとを反応させた。
【0108】
次いで、得られた反応液の一部を取り出し、これに所定量のジブチルアミンを添加して、反応液中の未反応のγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランと反応させた。なお、反応しなかったジブチルアミン量を、0.1Nの塩酸を用いて滴定し、未反応のγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン量を求めた。その結果、反応液中において、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランは完全に消費されており、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランと共重合体1とが十分に反応していることが確認された。
また、反応溶液の一部をNaCl板上に塗布し、窒素雰囲気下で乾燥することにより塗膜を形成した。この塗膜について赤外線スペクトルを測定したところ、イソシアネート基に由来したピークは観察されず、一方で、イソシアネート基が反応した生成したウレタン基に由来する新たなピークが観察された。
したがって、以上の滴定および赤外線スペクトルの結果から、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランとフッ素含有共重合体との反応は完結し、シラン変性されたフッ素含有共重合体が得られたことが確認された。
【0109】
さらに、シラン変性されたフッ素含有共重合体を含むことが確認された反応液の一部を取り出し、これを多量のメタノール中に投入し、シラン変性されたフッ素含有共重合体を析出させた。その後、多量のメタノールを用いて、シラン変性されたフッ素含有共重合体を洗浄し、さらに温度50℃の真空乾燥を行い、シラン変性されたフッ素含有重合体の精製物を得た。
【0110】
(3)シラン化合物の縮合
参考例1と同様に、MTMS縮合物溶液である、固形分濃度が22重量%のポリシロキサン溶液1を得た。
【0111】
(4)光硬化性樹脂組成物の調製
シラン変性されたフッ素含有重合体の精製物を、MIBKに溶解させて、固形分濃度が22重量%の共重合体溶液とした。この共重合体溶液30gと、ポリシロキサン溶液1 70gと、光酸発生剤としてのSI−100L 0.66gとを撹拌機付きの容器内に収容後、均一に混合撹拌して光硬化性樹脂組成物Cを得た。
【0112】
(積層体の形成および評価)
得られた光硬化性組成物Cを用い、参考例1と同様に積層体(防汚性樹脂層)を形成して評価した。結果を表1に示す。なお、防汚性評価において汚染物質をスポット試験した際に、乾布を用いて併せてふき取り試験を行ったところ、すべての汚染物質を容易にふき取ることができることが確認された。
【0113】
参考例4
参考例1におけるポリカーボネート板の替わりに、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ188μm、東洋紡(株)製)を基材として用いたほかは、参考例1と同様に光硬化性組成物Aから積層体を形成して、耐汚染性等を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
参考例5
参考例1で調製した光硬化性組成物A(固形分換算)100重量部に対して、シリカ粒子MEK−ST(日産化学工業(株)製)を20重量部添加して、光硬化性組成物Dとしたほかは、参考例1と同様に積層体を形成して評価した。結果を表1に示す。
【0115】
参考例6
参考例1で調製した光硬化性組成物A(固形分換算)100重量部に対して、反応性希釈剤KRM2110(ダイセル化学工業(株)製、ニ官能エポキシ樹脂)を10重量部添加して、光硬化性組成物Eとしたほかは、参考例1と同様に積層体を形成して評価した。結果を表1に示す。
【0116】
実施例
(プライマー層の形成)
参考例2と同様にして、ポリシロキサン溶液1およびアクリルシリコン重合体溶液を調製した後、ポリシロキサン溶液1(固形分および溶剤)227重量部と、アクリルシリコン重合体溶液(固形分および溶剤)100重量部と、オルト蟻酸メチル16重量部と、光酸発生剤としてのSI−100L 6重量部とを均一に混合してプライマー樹脂溶液を調製した。このプライマー樹脂溶液を、バーコータを用いて、ポリカーボネート板(厚さ1mm、帝人化成(株)製)上に塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて60℃、1分の条件で乾燥し、厚さ1μmの塗膜を得た後、大気下、温度25℃、露光量が500mJ/cm2(照射時間5秒)となるように、オーク製作所(株)製のコンベア式高圧水銀ランプ(2kW)を用いて紫外線を照射し、プライマー層を形成した。得られたプライマー層につき、指触で表面タックを測定したところ、全く表面タックは感じられなかった。
【0117】
(積層体の形成および評価)
次いで、得られたプライマー層上に、参考例1と同様の光硬化性組成物Aからなる防汚性樹脂層を形成して、参考例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
参考例7
(光硬化性組成物の調製)
参考例1と同様にして、ポリシロキサン溶液1を作製した。次いで、得られたポリシロキサン溶液1 100重量部あたり、光酸発生剤SI−100Lを3.0重量部添加して、光硬化性組成物Gを得た。すなわち、実施例においては、参考例1と異なり脱水剤を添加せず、光硬化性組成物Gを調製した。
【0119】
(積層体の形成および評価)
参考例1と同様に、光硬化性組成物Gから積層体を形成し、評価を行った。結果を表1に示す。結果から理解されるように、脱水剤を添加していないため、光硬化性組成物Gにおける保存安定性や硬度が相対的に低下しているものの、その他の特性については同等であることが確認された。
【0120】
[比較例1]
(光硬化性組成物の調製)
ウレタンアクリレートオリゴマーであるアロニックスM−1200(東亜合成(株)製)60重量部と、アクリロイルモルフォリン((株)興人製)10重量部と、イソボロニルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)20重量部と、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)10重量部と、光ラジカル発生剤としてのイルガキュア184(チバスペシャリティケミカルズ(株)製)3重量部とを均一に混合して、光硬化性組成物Hを得た。
【0121】
(積層体の形成および評価)
実施例1と同様に、光硬化性組成物Hから積層体を形成し、耐汚染性等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
[比較例2]
(評価用組成物の調製)
実施例1と同様にして、ポリシロキサン溶液1を調製した。次いで、得られたポリシロキサン溶液1 100重量部あたり、オルト蟻酸メチルを5.0重量部添加して、評価用組成物Iを得た。すなわち、比較例2においては、実施例1と異なり光酸発生剤を添加しなかった。
【0123】
(積層体の形成および評価)
実施例1と同様に、得られた評価用組成物Iの光硬化性の評価を行った。結果を表1に示す。結果から理解されるように、大気中でも窒素中でも光硬化しないことが確認された。なお、適当な積層体が得られなかったため、耐汚染性等の評価は行わなかった。
【0124】
【表1】
Figure 0004110306
【0125】
【発明の効果】
本発明の防汚性積層体によれば、特定の光硬化性組成物を光硬化してなる防汚性樹脂層を基材上に有することから、優れた防汚性とともに、高い硬度を有し、酸素存在下においても光硬化反応により形成可能な防汚性樹脂層を有する防汚性積層体を提供することが可能となった。
また、本発明の防汚性積層体の好ましい態様によれば、脱水剤を含む保存安定性に優れた光硬化性組成物からなる防汚性樹脂層を基材上に有することから、より高い硬度を有する防汚性積層体を提供することが可能となった。
【0126】
また、本発明の好ましい防汚性積層体の態様によれば、防汚性樹脂層と同様の組成からなるプライマー層を基材上に有することから、優れた防汚性や高い硬度を有したまま、基材と防汚性樹脂層との間の密着力を飛躍的に向上させることが可能となった。
さらに、本発明の防汚性積層体の製造方法によれば、酸素存在下においても光硬化反応を用いて、優れた防汚性を有する防汚性積層体を効率的に提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の防汚性積層体(プライマー層を含む)の断面図である。
【符号の説明】
10 防汚性樹脂層
12 プライマー層
14 基材
16 防汚性積層体

Claims (7)

  1. 基材の表面に、下記(A)、(B)および(G)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化してなるプライマー層と、該プライマー層上に、下記成分(A)および(B)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化させた防汚性樹脂層とが形成してあることを特徴とする防汚性積層体。
    (A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
    (R1PSi(X)4-P (1)
    [一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
    (B)光酸発生剤
    (G)(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体
  2. 前記防汚性樹脂層形成用光硬化性組成物中に、(C)成分として、脱水剤を含有させてなる請求項1に記載の防汚性積層体。
  3. 前記防汚性樹脂層形成用光硬化性組成物中に、(D)成分として、フッ素含有重合体を含有させてなる請求項1または2に記載の防汚性積層体。
  4. 前記防汚性樹脂層形成用光硬化性組成物中に、(E)成分として、シリカ粒子を含有させてなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の防汚性積層体。
  5. 前記防汚性樹脂層形成用光硬化性組成物中に、(F)成分として、反応性希釈剤を含有させてなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の防汚性積層体。
  6. 前記防汚性樹脂層形成用光硬化性組成物中に、(G)成分として、(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体を含有させてなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の防汚性積層体。
  7. 下記(A)、(B)および(G)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化してさせプライマー層を基材上に形成する工程、及び下記(A)および(B)成分を含有する光硬化性組成物を光硬化させ、防汚性樹脂層を該プライマー層上に形成する工程を含むことを特徴とする防汚性積層体の製造方法。
    (A)一般式(1)で示される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、およびその縮合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物
    (R1PSi(X)4-P (1)
    [一般式(1)中、R1は炭素数が1〜12である非加水分解性の有機基、Xは加水分解性基、およびpは0〜3の整数である。]
    (B)光酸発生剤
    (G)(A)成分以外の加水分解性シリル基含有ビニル系重合体
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