JP4095345B2 - 耐食性部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体・液晶製造装置において、内壁材(チャンバー)、マイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリング等をはじめとする半導体・液晶製造装置(エッチャーやCVD等)の構成部品、これらの装置で高真空を得るために使用されるクライオポンプやターボ分子ポンプ等の構成部品、その中でも特に腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体・液晶製造装置を形成する真空チャンバーの内壁材、マイクロ波導入窓、フォーカスリング、サセプタ等の如きフッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される半導体・液晶製造装置用部材には、石英や酸化アルミニウム焼結体が多く使用されている。また、更に耐食性に優れた部材としてフッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される表面をイットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下、「YAG」と略称する)焼結体により形成することが提案されている(特開平10−236871号公報参照)。また、酸化アルミニウム質焼結体の表面に、周期律表第3a族元素とアルミニウムの複合酸化物からなる結晶性化合物層を形成することが提案されている(特開2000−103689公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来から用いられている石英ではプラズマ中の耐食性が不充分で消耗が激しく、特にフッ素系や塩素系プラズマに接すると接触面がエッチングされ、表面性状が変化したり、光透過性が必要とされる部材では、表面が次第に白く曇って透光性が低下する等の問題を生じていた。また、酸化アルミニウム焼結体は、石英と比較するとハロゲン系腐食性ガスに対する耐食性は優れるものの、やはりプラズマと接すると腐食が徐々に進行して、セラミック焼結体の表面や結晶粒界からハロゲン化物が蒸発し消耗していく。これはアルミニウム成分とプラズマで生成されるハロゲン化物の融点が低いためである。この為、さらに耐食性の高い材料が望まれ、特開平10−236871号公報に開示されたYAG焼結体が提案されている。しかしながら、これも耐食性には優れるものの、曲げ強度や破壊靱性が十分に高くはないため、高い応力のかかる部分には形状等の制約がある。また、大型の構造部材に用いる場合、重量が重くなり、取り付け時やハンドリング時において欠けや割れが発生するという課題がある。
【0004】
これに対し、特開2000−103689公報に開示された酸化アルミニウム質焼結体の表面に周期律表第3a族元素とアルミニウムの複合酸化物からなる結晶性化合物層を形成したものは、大半が酸化アルミニウム質焼結体で構成されているため、その曲げ強度及び破壊靱性値が酸化アルミニウム質焼結体に比べ若干低下するものの、前記YAG焼結体に比べると大幅に向上している。しかしながら、例えばターボ分子ポンプを構成するロータ等のような数万回転させることで高負荷がかかる部品等や、エッチング装置のように腐食により蒸発したハロゲン化物がチャンバー内壁へ堆積するのを防ぐ目的で、ランプ等を用いて加熱することで熱衝撃がかかるチャンバー部品等には、耐食性だけでなく、強度、靱性、耐熱衝撃性も要求されるため、特開2000−103689公報で開示された酸化アルミニウム質焼結体を基材とするものでは、十分な特性を有していない点から、その使用には制約がある。
【0005】
本発明の目的は、半導体・液晶製造装置用部材として使用した場合に、ハロゲン系腐食性ガスやそのプラズマに対して優れた耐食性を有するだけでなく、前述したような強度、靱性、熱衝撃等が要求される過酷な環境下で使用したときでも、破損等が発生しないだけでなく、大型構造部材に用いても、取り付け時やハンドリング時において欠けや割れが発生しない耐食性部材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の耐食性部材は、RE 2 O 3 (REは希土類元素のLa、Ce、Pr、Ndのいずれか)およびSiO 2 を含有する窒化珪素質焼結体からなる基材表面に、多結晶体からなるRE2Si2O7及び/またはRE2SiO5(REは希土類元素のLa、Ce、Pr、Ndのいずれか)の被覆層を被覆した耐食性部材であって、前記被覆層のSiO2/RE2O3比(モル比)が0.9〜2.3の範囲であり、かつ前記被覆層の気孔率が1%以下であることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明の耐食性部材は、例えばハロゲン系腐食性ガスあるいはそのプラズマに曝される部材であり、ハロゲン系腐食性ガスとしては、SF6、CF4、C2F6、CHF3、NF3、C4F8等のフッ素系ガス、Cl2、HCl、BCl3等の塩素系ガス、あるいはBr2、HBr、BBr3等の臭素系ガスなどがある。そして、これらのハロゲン系腐食性ガスが使用される雰囲気下でマイクロ波や高周波が導入されるとこれらのガスがプラズマ化されることになる。
【0011】
また、エッチング効果をより高めるために、ハロゲン系腐食性ガスとともに、Arなどの不活性ガスを導入してプラズマを発生させることもある。
【0012】
本発明は、これらのハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマに曝される部材を窒化珪素質焼結体からなる基材表面に、RE2Si2O7及び/またはRE2SiO5(REは希土類元素)を主成分とする結晶相を被覆した耐食性部材としたものである。
【0013】
即ち、前述したような過酷な条件下でも使用できる耐食性部材とするために、基材として、強度、靱性、耐熱衝撃性に優れることからエンジニアリングセラミックスとして、特に熱機関構造用材料としてその応用が進められている窒化珪素質焼結体を選定した。窒化珪素質焼結体は、フッ素系ガスあるいは塩素系ガスとの反応により生成されるハロゲン化物の融点(SiF4:−90℃、SiCl4:−70℃)が低く、耐食性が劣るために、窒化珪素質焼結体の表層にRE2Si2O7及び/またはRE2SiO5(REは希土類元素)を主成分とする耐食性に優れた結晶相を被覆した。
【0014】
窒化珪素質焼結体への被覆層としては、Al2O3やZrO2などをCVDや溶射の手法でコーティングし、耐食性を向上する試みが行われているが、これらの表面被覆層は、ハロゲン系腐食性ガスに対する耐食性が不十分(ハロゲン化物の融点AlF3:1040℃、AlCl3:178℃、ZrF4:580℃、ZrCl4:300℃)であったり、また基材である窒化珪素焼結体との熱膨張差により、使用中にクラックが発生したり、剥離する問題があった。
【0015】
本発明の耐食性部材は、RE 2 O 3 (REは希土類元素のLa、Ce、Pr、Ndのいずれか)およびSiO 2 を含有する窒化珪素質焼結体からなる基材の表面に、希土類元素(RE)の結晶相、即ち、RE2Si2O7(ダイシリケート)又はRE2SiO5(モノシリケート)で表される化合物の結晶相が形成されていることが重要である。
【0016】
このRE2Si2O7(ダイシリケート)やRE2SiO5(モノシリケート)から形成されている被覆層は、前記のAl2O3、ZrO2などに比べて、ハロゲン系腐食性ガスとの反応により生成されるハロゲン化物の融点が高いことから、優れた耐食性が発揮される。本発明において、上記結晶相の構成成分である希土類元素は、周期律表第3a族元素であり、具体的にはY、Yb、Sm、La、Ce、Pr、Nd、Tm、Luが、特にフッ素との反応により生成されるハロゲン化物の融点1150℃以上、塩素との反応により生成されるハロゲン化物の融点650℃以上を示し、好適である。
【0017】
また、本発明では、前記被覆層中に含まれる過剰SiO2量が10モル%以下、特に好適には5モル%以下、更には2モル%以下、最も好ましくは1モル%以下であることが重要である。
【0018】
つまり、本発明によれば、RE2Si2O7(ダイシリケート)或いはRE2SiO5(モノシリケート)の結晶相自体が非常に優れた耐食性を有するが、かかる結晶相の耐食性が良好であっても、この被覆層は多結晶体からなるものであって、その結晶粒界が存在し、この結晶粒界に、このような結晶相に寄与しないSiO2が存在する場合、このSiO2がハロゲン系腐食性ガスと反応して腐食され、その結果粒界相が抜け落ち、被覆層が破壊されやすくなり、また、空隙となった粒界相を介して窒化珪素質焼結体が腐食されやすくなる。
【0019】
そこで、本発明によれば、過剰SiO2量を前記範囲に低減するために、被覆層がダイシリケートのみからなる場合には、被覆層中のSiO2/RE2O3比(モル比)が1.9〜2.3、被覆層がモノシリケートのみからなる場合には0.9〜1.2であることが望ましく、更に被覆層がダイシリケートとモノシリケートとの混合結晶である場合には、SiO2/RE2O3比(モル比)が0.9〜2.3の範囲にあることが望ましい。
【0020】
さらに、上述した被覆層は、気孔率が1%以下であるのがよい。気孔率をこのような範囲に制御することにより、被覆層は閉気孔が主となるため、被覆層の機械的強度をさらに向上するとともに、耐食性を向上することができる。
【0021】
気孔率を1%以下とするには、被覆するRE2O3の種類にもよるが、熱処理温度を1300〜1800℃、特に1400〜1750℃の温度とするのが良い。熱処理温度が上記範囲よりも低いと、被覆層には、気孔が多数残存する。熱処理温度が上記範囲よりも高すぎると、溶融発泡してしまう。
【0022】
次に、被覆層の厚みは、1μm以上、好適には10μm以上、最も好ましくは100μm以上である。製品の長寿命化の観点から、厚い程好ましいことは言うまでもない。しかしながら、被覆層を形成する基材の厚みにもよるが、被覆層を極端に厚くすると、基材のもつ特性を十分に発揮することができなくなる可能性もあり、上限は1000μm以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明において、前記被覆層を表面に有する基材である窒化珪素質焼結体においては、主相である窒化珪素結晶相の粒界に、結晶相が存在することが好ましい。
【0024】
窒化珪素結晶の粒界に存在する上記結晶相は、例えば希土類元素(RE)、Si(珪素)及びO(酸素)からなる結晶であることが好ましく、さらに好適には、前記被覆層と同様、化学式:RE2Si2O7或いはRE2SiO5で表されるダイシリケート相もしくはモノシリケート相であることが望ましい。即ち、このような結晶相を窒化珪素結晶粒子の粒界に存在させることにより、窒化珪素質焼結体からなる基材に対する前記被覆層の濡れ性が良好となり、粒界結晶相が基材から被覆層に連続しているので、両者の付着力が強固となり、また、基材と被覆層間の熱膨張差を低減でき、被覆層の剥がれを一層効果的に防止できる。
【0025】
本発明において、基材として用いる窒化珪素質焼結体は、主成分である窒化珪素以外に、希土類元素及び過剰酸素を含有することが好適である。
【0026】
具体的に、窒化珪素の含有量は、強度、靱性、耐熱衝撃性等を十分に発現させるために、70〜99モル%、特に85〜99モル%の範囲にあることが望ましい。
【0027】
希土類元素成分は、焼結助剤に由来するものであり、また上述した粒界結晶相の構成成分である。かかる希土類元素としては、被覆層を形成する結晶相中に存在するものと同じ物を生成することができ、焼結体基材中の希土類元素含有量は、緻密で強度、靱性、耐熱衝撃性に優れた窒化珪素質焼結体を得るために、酸化物換算で0.5〜10モル%が適する。特に1〜7モル%が望ましい。例えば、希土類元素含有量が、上記範囲よりも少ないと、焼結性が低下し、緻密な窒化珪素質焼結体からなる基材をえることが困難となり、また、上記範囲よりも多量に希土類元素を含有する場合には、高温強度及び耐熱衝撃性の特性が劣化する傾向がある。
【0028】
また、過剰酸素とは、主としてSiO2として存在するものであり、窒化珪素質焼結体中の全酸素量より、希土類元素の酸化物に使用する酸素量を差し引いた酸素量を意味する。本発明において、この過剰酸素量は、
SiO2/RE2O3
式中SiO2は、SiO2換算での過剰酸素量(モル)を示し、
RE2O3は、酸化物換算での前記希土類元素含有量(モル)を示す、
で表されるモル比が2以上、特に2〜3.5、更には2.1〜2.7の範囲にあることが望ましい。即ち、このような量で過剰酸素を含むことにより、腐食に対する耐性の高いダイシリケート相やモノシリケート相を粒界に形成することができる。例えば、過剰酸素量が上記範囲よりも少ないと、このような結晶相を粒界に析出させることが難しい。
【0029】
次に、本発明の耐食性部材の製造方法について説明する。本発明によれば、基材を製造し、次いで該基材表面に上述した被覆層を形成することにより耐食性部材が製造される。
【0030】
まず、基材の出発原料として、窒化珪素粉末と希土類元素(周期律表第3a族元素)の酸化物(RE2O3)粉末との混合粉末が使用されるが、この混合粉末には、必要により、粒界結晶相を析出させるためのSiO2粉末が混合される。
【0031】
窒化珪素粉末は、α型、β型のいずれでも使用することができ、その粒径は0.4〜1.2μm、陽イオン不純物量は1重量%以下、特に0.5重量%以下、不純物酸素量が0.5〜2重量%が適当であり、直接窒化法、イミド分解法などのいずれの製法によるものであってもかまわない。また、サイアロン粉末を用いることもできる。
【0032】
また、RE2O3粉末やSiO2粉末の代わりに、RE2O3とSiO2との複合酸化物の粉末を使用することもできるし、窒化珪素とRE2O3とSiO2との化合物粉末を用いることもできる。
【0033】
上記粉末を調合するにあたっては、上述した基材の組成を満足するように、各粉末の混合比率が調整される。例えば、過剰酸素量が所定のSiO2/RE2O3モル比を満足するためには、窒化珪素中に不可避に含まれる酸素あるいは製造過程で吸着される酸素分等をSiO2分として考慮して、Lu2O3などの希土類酸化物量やSiO2粉末の添加量を調整する。
【0034】
所定の割合で各粉末を秤量し、振動ミル、回転ミル、バレルミルなどで十分に混合した後、得られた混合粉末を所望の成形手段、例えば、金型プレス、鋳込み成形、排泥成形、押し出し成形、射出成形、冷間静水圧プレス等により任意の形状に成形し、この成形体を焼成することにより、本発明で使用する基材を得ることができる。
【0035】
焼成は、通常、窒素ガスによる加圧下で行われ、焼成温度は、1800〜2000℃の範囲が適当である。このような条件での焼成によって、相対密度が98%以上に緻密化した焼結体を得ることができる。焼成温度が2000℃を越えると窒化珪素結晶が粒成長し、強度劣化を引き起こす恐れがあり、焼成温度が1800℃よりも低いと、緻密化が困難になることがある。
【0036】
また、この焼成後に、熱間静水圧焼成(HIP)法で処理し、さらに緻密化することができる。さらに、上記の焼成後の冷却過程で徐冷するか、または焼結体を1000〜1700℃で熱処理することにより粒界の結晶化を図り特性のさらなる改善を行うことが出来る。また、場合によっては、ガラスカプセル熱間静水圧プレス(HIP)法あるいはガラス浴熱間静水圧プレス(HIP)法により焼結体を得ることも可能である。
【0037】
また、高い寸法精度が要求される場合には、窒化珪素粉末の一部をSi粉末に置き換えて成形体を作製し、これを窒素含有雰囲気中、800〜1500℃で熱処理しSi3N4に変換して成形体密度を高めたうえで、前述した焼成条件で焼成することにより、焼成時の収縮を小さくすることが出来る。
【0038】
次に、上記のようにして得られた基材の表面に、前述した希土類元素のモノシリケート相或いはダイシリケート相からなる被覆層を形成する。
【0039】
この被覆層の形成は、蒸着法、CVD法、スパッタ法等の薄膜形成法、溶射法、スラリー塗布法を用いて行うことができるが、本発明では、被覆層中の過剰SiO2量が厳密に制御されていなければならない。従って、溶射法、スラリー塗布法が望ましく、さらには簡単に形成できる点でスラリーディップ法が望ましい。
【0040】
例えば、SiO2とRE2O3との複合混合粉末、或いはSiO2とRE2O3との混合粉末を用い、こられの粉末中の過剰SiO2量を所定の範囲に調整し、スラリーを作製する。このスラリーを、上記で製造された基材表面に塗布法、即ち、スプレーによりスラリーを吹き付けるか、或いはディッピング法により焼結体表面にスラリーを均一に塗布し、次いで熱処理することにより、目的とする結晶相からなる被覆層を形成することができる。
【0041】
熱処理温度は、用いるRE2O3の種類にもよるが、一般的には、1300〜1800℃、特に1400〜1750℃の温度とするのが良い。熱処理温度が上記範囲よりも低いと、所望の結晶相を析出させることが困難となり、或いは得られた被覆層には、気孔が多数残存し、耐食性部材としての機能をなさない。また、熱処理温度が上記範囲よりも高いと、SiO2が揮発してしまい、所定の結晶相を析出することができず、また、粘性が低くなりすぎ、被覆層が形成されにくくなってしまう。
【0042】
熱処理雰囲気は、酸化性雰囲気、或いは窒素、Arなどの不活性雰囲気であればよいが、例えば、1300℃以上もの高温下で窒素或いはAr雰囲気で熱処理する場合、SiO2が揮発してしまい、被覆層の組成が大きく変動してしまう恐れがある。従って、この場合には、被覆層の組成を出発組成と実質的に同一にする上で、高温熱処理時の雰囲気にSiOガスを発生させておくことが望ましい。このSiOガスを発生させるためには、Si/SiO2の混合粉末を熱処理炉内に配置しておけばよい。
【0043】
なお、原料として用いるSiO2粉末及びRE2O3粉末等は、いずれも純度99%以上であることが望ましい。また、被覆層の過剰SiO2を低減し、耐食性に優れる被覆層を実現するため、所望粉末等の組成は、SiO2/RE2O3モル比を0.9〜2.3に設定することが好ましい。
【0044】
また、上述したスラリーを、焼結体基材の製造工程で作成された成形体表面に、上記と同様の方法で均一塗布し、これを焼成することにより、基材と表面被覆層とを同時に形成させることも可能である。
【0045】
このようにして得られる本発明の耐食性部材は、被覆層と焼結体基材との付着力が高く、優れた強度、靱性、耐熱衝撃性、耐食性を示し、ハロゲン系腐食性ガス或いはそのプラズマに曝される半導体・液晶製造装置やターボ分子ポンプ等の部材として、極めて有用である。
【0046】
【実施例】
実施例1
基材の原料粉末として、下記の窒化珪素粉末、希土類元素酸化物粉末及び酸化珪素粉末を用いた。
窒化珪素粉末:
BET比表面積;9m2/g
窒化珪素のα率;99%
酸素量;1.1重量%
Al、Mg、Ca、Feなどの陽イオン金属不純物量;0.003重量%以下
希土類元素酸化物(RE2O3)粉末:
RE;Yb
純度;99%
平均粒径;1.5μm
酸化珪素粉末:
純度;99.9%
平均粒径;2μm
上記の窒化珪素粉末89.5モル%と、RE2O3粉末3モル%と、酸化珪素粉末7.5モル%とからなる混合粉末を調合し、バインダー及び溶媒のメタノールを添加し、窒化珪素ボールを用いて50時間回転ミルで混合粉砕し、スラリーを調製した。
【0047】
得られたスラリーを、乾燥後、80MPaの圧力でラバープレス成形し、直径60mm、厚み20mmの形状の成形体を作製した。
【0048】
この成形体を、表1に示す焼成方法及び焼成条件にて焼成し、基材を得た。いずれの基材にも、粒界にRE2Si2O7(ダイシリケート)の結晶相が析出していた。
【0049】
なお、表1で示す焼成方法において、「G」は、ガス圧焼成(GPS)を示し、「H」は、ガラス浴熱間静水圧プレス(HIP)による焼成を示し、「G+H」は、1900℃でガス圧焼成を行った後、1700℃、窒素圧196MPaで1時間HIP焼成したことを示す(焼成のトータル時間は10時間)。
【0050】
次に、表1に示す条件で、RE2O3(RE=Lu)粉末とSiO2粉末との混合粉末を、それぞれメタノールに分散させてスラリーを作製し、前記で得られた基材表面にスプレーによって、厚みが120μmとなるように均一に塗布した。次いで乾燥した後、窒素雰囲気中、Si/SiO2混合粉末が配置された炉内で、表1に示す条件で熱処理し、耐食性部材を得た(試料No.1〜12)。
【0051】
なお、Lu2O3粉末は、純度96%、平均粒径1.5μmのものを用いた。
【0052】
さらに、比較のため、被覆層を付けない窒化珪素質焼結体、被覆層として上記混合粉末の代わりに、SiO2粉末、ZrO2粉末又はAl2O3粉末を使用し、窒化珪素質焼結体の表面に作製したもの、酸化アルミニウム質焼結体の表面に被覆層としてYAGを作製したものを得た(試料No.13〜17)。
【0053】
得られた焼結体について、以下の方法で各種特性等を測定し、その結果を表1に示した。
【0054】
結晶の同定は、基材の粒界相の結晶及び被覆層の結晶を、X線回折測定により同定した。表1において、モノシリケート相をRS、ダイシリケート相をR2Sで示した。気孔率は、アルキメデス法により算出した。結晶の平均粒径(被覆層)は、走査電子顕微鏡(SEM)観察写真から粒子の長径と短径の平均値を平均粒子とし、50個の粒子の平均値として算出した。強度は試料の焼結体を、3×4×40mmの抗折試験片形状にし、JIS−R1601に基づいて、室温での4点曲げ抗折強度を測定して評価した。なお、測定は、それぞれ10個の試料について行い、その平均値を表1に示した。耐熱衝撃性は、前記同様の抗折試験片を所定の温度に加熱した後、水中投下を行い、4点曲げ抗折強度を測定し、強度の低下した温度を示した。破壊靭性は、JIS−R1607に基づいて、ビッカース圧痕を用いる方法で測定した。耐食性は、20×20×3mmの試験片を準備し、RIE(リアクティブ・イオン・エッチング)装置を用いて、フッ素系ガスの各流量がCF4:20sccm、CHF3:40sccm、Ar:60sccm、圧力12Paの条件と塩素系ガスの流量が100sccm、圧力4Paの2条件で、各試験片の被覆層面にプラズマを照射した後、プラズマ照射前後の重量の減少量から1分間当たりのエッチングレートを算出し、被覆層がAl2O3のエッチングレートを1としたときの相対比較で示した。
【0055】
【表1】
【0056】
【発明の効果】
参考例である試料No.1〜12は、室温強度が720MPa以上、耐熱衝撃性が770℃以上、破壊靭性が5.1MPa・m1/2以上、耐食性比率がフッ素系ガス条件で0.4以下、塩素系ガス条件で0.5以下と良好な結果を示した。
【0057】
一方、本発明の範囲外の被覆層が無いNo.13や被覆層がモノシリケートやダイシリケートで形成されていないNo.14〜16は、耐食性比率がフッ素系ガス条件で0.6以上、塩素系ガス条件で0.7以上と大きく、耐食性が著しく劣っている。また、No.17は、耐食性は優れるものの、強度、靱性、耐熱衝撃性が著しく劣っている。
【0058】
また、被覆層において、SiO2/RE2O3モル比が2.448と大きいNo.4は、いずれのガス条件でも耐食性比率が若干劣っている。これは、過剰SiO2が被覆層を構成する多結晶体の結晶粒界に存在し、被覆層の結晶相に寄与しないSiO2がハロゲン系腐食性ガスと反応して腐食されたためである。耐食性を向上させるためには、過剰SiO2量を極力低減することが好ましい。また、No.3〜7は、気孔率が他より比較的大きいため、耐食性比率が0.3〜0.4と若干劣っている。気孔率が大きくなるとボイドのエッジが腐食を受け易いために、小さくすることが好ましい。
【0059】
実施例2
実施例1で用いたものと同じ窒化珪素粉末及び酸化珪素粉末を使用し、これらの粉末に、表2に示すように、Si粉末或いは平均粒径1.5μmの各種の希土類酸化物粉末を混合し、実施例1と同様にしてスラリーの調製、乾燥及び成形を行い、直径60mm、厚み20mmの成形体を作製した。
【0060】
得られた成形体をGPSにて窒素中1900℃で焼成し、基材を得た。
【0061】
次に、RE2O3(REは表2に示す)粉末とSiO2粉末との混合粉末をメタノールに分散させてスラリーを作製し、スプレーによって上記基材の表面に均一に塗布した(厚み:120μm)。次いで、乾燥後、1500〜1700℃で熱処理し、耐食性部材を得た(試料No.18〜51)。
【0062】
得られた焼結体を実施例1と同様の方法で評価し、その結果を表2に示した。なお、基材の相対密度はアルキメデス法により算出した。
【0063】
【表2】
【0064】
被覆層がYb2Si2O7からなり、基材の組成を変えた参考例の試料No.18〜28は、室温強度が760MPa以上、耐熱衝撃性が790℃以上、破壊靭性が5.8MPa・m1/2以上、耐食性比率がフッ素系ガス条件で0.2、塩素系ガス条件で0.3と良好な結果を示した。
【0065】
また、希土類酸化物としてLu2O3を用いて基材が作製された参考例の試料No.29〜36は、室温強度が810MPa以上、耐熱衝撃性が800℃以上、破壊靭性が6.0MPa・m1/2以上、耐食性比率がフッ素系ガス条件で0.2、塩素系ガス条件で0.3と良好な結果を示した。
【0066】
さらに、被覆層の組成が種々異なる参考例の試料No.37〜46、本発明の試料No.47〜50、および参考例の試料No.51は、室温強度が790MPa以上、破壊靭性が6.0MPa・m1/2以上、耐食性比率がフッ素系ガス条件で0.3以下、塩素系ガス条件で0.4以下と良好な結果を示した。これらの希土類元素の中でも、Y、Yb、Sm、La、Ce、Pr、Nd、Tm、Luからなる希土類酸化物を添加したNo.37〜39、No.46〜51が、特にフッ素系ガス、塩素系ガスいずれのハロゲン系腐食性ガスに対しても優れた耐食性を示した。
【0067】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、フッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス或いはそれらのプラズマに曝されたとしても、優れた耐食性を有するという効果があるばかりでなく、高い強度や熱衝撃がかかる過酷な条件下においても用いることができる。
Claims (1)
- RE 2 O 3 (REは希土類元素のLa、Ce、Pr、Ndのいずれか)およびSiO 2 を含有する窒化珪素質焼結体からなる基材表面に、多結晶体からなるRE2Si2O7及び/またはRE2SiO5の被覆層を被覆した耐食性部材であって、前記被覆層のSiO2/RE2O3比(モル比)が0.9〜2.3の範囲であり、かつ前記被覆層の気孔率が1%以下であることを特徴とする耐食性部材。
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