JP3706488B2 - 耐食性セラミック部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体・液晶製造装置において、内壁材(チャンバー)、マイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリング等をはじめとする半導体・液晶製造装置(エッチャーやCVD等)の中でも特に腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材に適用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティング、放電管、メタルハライドランプなど、プラズマの利用は近年急速に進んでいる。半導体の製造時におけるプラズマプロセスでは、特にエッチング、クリーニング用として、反応性の高いフッ素系、塩素系等のハロゲン系腐食性ガスが多用されている。これら腐食性ガス及びプラズマに接触する部材には、高い耐食性が要求される。従来より、被処理物以外でこれらの腐食性ガス及びプラズマに接触する部材は、一般に石英ガラスやステンレス、アルミニウム等の耐食性金属が利用されていた。さらには、アルミナ焼結体や窒化アルミニウム焼結体、及びこれらセラミックス焼結体に炭化珪素等のセラミック膜を被覆したもが耐食性が優れるとして使用されていた(特公平5−53872号、特開平3−217016号、特開平8−91932号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来から用いられている石英ガラスではプラズマ中の耐食性が不充分で消耗が激しく、特にフッ素系や塩素系プラズマに接すると接触面がエッチングされ、表面性状が変化したり、光透過性が必要とされる部材では、表面が次第に白く曇って透光性が低下する等の問題を生じていた。
【0004】
また、ステンレスなどの金属を使用した部材においても耐食性が不充分であり、腐食に伴うパーティクル発生等によりウェハー汚染問題を生じていた。
【0005】
また、アルミナ焼結体や窒化アルミニウム焼結体、あるいはこれらのセラミック焼結体に炭化珪素等のセラミック膜を被覆したものは、石英ガラスや耐食性金属と比較するとハロゲン系腐食性ガスに対する耐食性は優れるものの、やはりプラズマと接すると腐食が徐々に進行して、セラミック焼結体の表面や結晶粒界からハロゲン化物が蒸発し消耗していく。これはアルミニウム成分とプラズマで生成されるハロゲン化物の融点か低いためである。この為、さらに耐食性の高い材料が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ハロゲン系腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐食性を具備するセラミック焼結体の具体的な構成について検討を重ねた結果、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)のセラミック焼結体がハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマと反応してハロゲン化物を生成したとしても融点が高く安定であることから耐食性に優れることを見出し、さらにイットリアとの混合相とすることでその耐食性が著しく向上することを見いだした。
【0007】
また、セラミック焼結体に粒界相が多く存在したり、多数の気孔があると腐食を受けやすく、耐食性が大きく低下することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、フッ素系や塩素系等のハロゲン系腐食性ガス及びそのプラズマに曝される耐食性部材を、イットリア及びYAGからなる主結晶相で形成することを特徴とする。
【0009】
この主結晶相は、イットリア45〜80モル%、アルミナ20〜55モル%の組成比で構成されることを特徴とする。なお、前記主結晶相のYAGはイットリア(A)とアルミナ(B)の組成比が下式の範囲となるものであり、上記のようにイットリアを過剰に含ませることによって、イットリアとYAGが混在する焼結体とすることができる。
【0010】
A+B=1 0.365 ≦A≦0.385 0.615≦B≦0.635 :モル量
さらに、焼結体の純度を99重量%以上とし、気孔率を0.2%以下としたことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の耐食性セラミック部材は、ハロゲン系腐食性ガスあるいはそのプラズマに曝される部材であり、ハロゲン系腐食性ガスとしては、SF6 、CF4 、CHF3 、ClF3 、NF3 、HF等のフッ素系ガス、Cl2 、HCl、BCl3 、CCl4 等の塩素系ガス、あるいはBr2 、HBr、BBr3 等の臭素系ガスなどがある。そして、これらのハロゲン系腐食性ガスが使用される雰囲気下でマイクロ波や高周波が導入されるとこれらのガスがプラズマ化されることになる。
【0012】
また、エッチング効果をより高めるために、ハロゲン系腐食性ガスとともに、Arなどの不活性ガスを導入してプラズマを発生させることもある。
【0013】
本発明は、これらのハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマに曝される部材をイットリア及びYAGの両方の結晶相を主体として含むセラミック焼結体により形成したものである。
【0014】
即ち、セラミック焼結体の結晶相を構成するYAGは、フッ素系ガスと反応すると主にYF3 を生成し、また、塩素系ガスと反応すると主にYCl3 を生成するが、これらのハロゲン化物の融点(YF3 :1152℃、YCl3 :680℃)は、従来の石英ガラスあるいはアルミナ焼結体や窒化アルミニウム焼結体との反応により生成されるハロゲン化物の融点(SiF4 :−90℃、SiCl4 :−70℃、AlF3 :1040℃、AlCl3 :178℃)より高いために、ハロゲン系腐食性ガスやプラズマに曝されたとしても安定した耐食性を具備する。この為、本発明はハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマに対する耐食性を高めることができる。特に、イットリア比率を高くすることで、その耐食性をさらに向上させることができる。
【0015】
即ち、前述したとおり、ハロゲン系腐食性ガスやプラズマとの反応により形成されるハロゲン化物の融点が高くなる成分の比率を上げることが、耐食性の向上につながるのである。
【0016】
この為に、イットリアの比率を高くすることが非常に重要になる。しかしながら、イットリア単体では焼結性が非常に低く、その気孔率は2%以上存在し、緻密体を得ることはできない。このため、ハロゲン系腐食性ガスやプラズマに対する耐食性も著しく低下する。
【0017】
そこで、本発明者らは、イットリアとYAGの混合相とすることにより、ハロゲン系腐食性ガスやプラズマとの反応により形成されるハロゲン化物の融点を高くし、また気孔率も0.2%以下に緻密化をはかり、耐食性を向上させた。
【0018】
ここで、イットリアとYAGの結晶相を主体として含む本発明の焼結体は、イットリアが45〜80モル%、アルミナが20〜55モル%の組成比の化合物であり、この内YAGの組成が下式の範囲となり、残りがイットリアとなる。
【0019】
A+B=1 0.365 ≦A≦0.385 0.615≦B≦0.635
ここで、(A)イットリア、(B)アルミナ
即ち、イットリアの組成が35モル%未満となると、セラミック焼結体中にイットリアが存在せず、アルミナの結晶相が多くなりハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマによる腐食を受けやすくなるからである。また、イットリアが80モル%を超えると、焼結性が著しく低下し、常圧焼結において相対密度99%以上の緻密体が得られなくなり、HIP(熱間静水圧プレス)等を用いて緻密化させる必要があり、コスト的に高くなる。また、上記のように緻密な焼結体を経済的(即ち、常圧焼成でしかも比較的低温)に得るためには、組成範囲の他にも下記の製造方法に示すような原料組成の均一化、及び粉体の微粒化をはかる必要がある。
【0020】
また、耐食性部材を構成するセラミック焼結体の耐食性を高めるためには、主体をなすYAGとイットリアの両結晶相の合計含有量を99重量%以上とし、気孔率を0.2%以下に、好ましくは主体をなす両結晶相の合計含有量を99.5重量%以上、気孔率を0.1%以下とすることが良い。
【0021】
これは、主体をなす両結晶相の合計含有量が99重量%未満であると不純物で形成される粒界相が腐食を受けやすくなり、腐食の進行によっては焼結体表面の主結晶粒子の脱粒が生じ、パーティクルの発生、さらには材料自体の耐食性低下を引き起こすためである。この不純物成分としては、SiO2 、CaO、Na2 O、Fe2 O3 等があるが、これらの不純物成分成分とハロゲン系腐食性ガスとの反応により生成されるハロゲン化物の融点がそれほど高くないために腐食を受けやすくなる。その為、これら不純物は、主要成分をなすイットリア及びYAGで構成される焼結体合計100重量%に対し、1重量%以下とすることが望ましく、この不純物量を1重量%以下とするには、出発原料に高純度のアルミナとイットリアを使用するとともに、製造工程中における不純物の混入を防止するようにすれば良い。
【0022】
また、セラミック焼結体の気孔率を0.2%以下とするのは気孔が存在すると、気孔のエッジが腐食を受けやすく、気孔率が0.2%を越えると、腐食の進行が加速されるためである。
【0023】
なお、セラミック焼結体の結晶相についてはX線回折で、含有量についてはICP発光分析又は蛍光X線で、気孔率についてはアルキメデス法によりそれぞれ求めることができる。
【0024】
次に本発明にかかわる耐食性部材の製造方法を説明する。
【0025】
まず、水酸化アルミニウム粉末とイットリウム化合物溶液とを所望の割合で混合して沈殿物を形成させ、700〜1500℃で仮焼・合成する。そして、このYAG粉末と分散剤及びイオン交換水をポットミルに投入し、高純度アルミナボールによって均一に分散させて平均粒径0.5〜2μmになるまで粉砕し、泥しょうを製作する。この泥しょうを射出成形法や鋳込み成形法、あるいはドクターブレード法などのテープ成形法により成形するか、あるいは泥しょうをスプレードライヤーにて乾燥造粒して造粒粉末を製作し、この造粒粉末を金型に充填してメカプレスやラバープレス成形法により成形し、これらの公知の成形法によって製作した成形体に切削加工等を施して所定の形状とする。
【0026】
このように、原料の微細化・均一化を行うことにより、イットリア増量による焼結性の低下を補い、1600〜1850℃の焼成温度で常圧焼結が可能になる。
【0027】
焼成温度を1600〜1850℃とするのは、1600℃未満であると焼結性が悪く、1850℃より高くなると結晶が粒成長するため、何れの場合でも焼結体の気孔率を0.2%以下に緻密化できないからである。これにより、イットリア及びYAGを主結晶相とする耐食性部材を得ることができる。
【0028】
また、さらに緻密化するためにセラミック焼結体を1000〜2000気圧の不活性ガス雰囲気下で熱間静水圧プレス(HIP)することにより気孔率をほぼ0%とすることもできることは言うまでもない。
【0029】
図1にエッチング装置内部の略図を示す。1はチャンバーを、2はクランプリングを、3は下部電極を、4はウェハーを、5は高周波コイルを示す。この中でチャンバー1やクランプリング2に示すような、ハロゲン系腐食性ガスやそのプラズマに曝される部分に、本発明の耐食性部材が適用できる。
【0030】
【実施例】
実施例1
本発明の耐食性部材として、イットリア及びYAGの結晶相からなるセラミック焼結体と、従来の耐食性部材として、石英ガラス、純度99.5重量%のアルミナ焼結体、及び純度99.9重量%のアルミナ焼結体をそれぞれ用意し、フッ素系及び塩素系腐食性ガス下でプラズマに曝した時の耐食性について実験を行った。
【0031】
本実験では、本発明及び従来の耐食性部材を直径30mm×厚み3mmに製作した後、表面にラップ加工を施して鏡面にしたものを試料とし、この試料をRIE(Reactive Ion Etching)装置にセットしてSF6 ガス雰囲気下及びCl2 ガス雰囲気下でプラズマ中に3時間曝した後、処理前後の重量の減少量から1分間当たりのエッチングレートを算出した。エッチングレートの数値は、99.9重量%のアルミナ焼結体のエッチングレートを1としたときの相対比較で示す。
【0032】
なお、本発明の耐食性部材には、表1に記載の各種結晶相を有する純度99.5重量%の材料を作製した。各試料の特性及びそれぞれの結果は表1に示すとおりである。
【0033】
この結果、本発明の耐食性部材であるNo.2〜6は、Cl2 ガス、SF6 ガス、いずれの腐食性ガスに対しても、従来の耐食性部材と比較して優れた耐食性を有していた。傾向としては、本発明の至ったイットリアの含有量を35モル%以上と多くするほど優れた耐食性を示すことがわかる。しかし、No.1、2に示すように、80モル%を上限としてエッチングレートは次第に低下を始める。これは、焼結性の低下により気孔が増え、また粒子の結合も低くなっているためである。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2
次に、耐食性部材として、純度(主結晶相の含有量)の影響について実施例1と同様の条件で実験を行った。本実験では、アルミナとイットリアのモル比が55:45となる組成のものを用いて表2に記載の純度のイットリア及びYAGの結晶相からなるセラミックス焼結体をそれぞれ製作した。
【0036】
各試料の特性及びそれぞれの結果は表2に示すとおりである。エッチングレートの数値は、90重量%の純度の焼結体のエッチングレートを1としたときの相対比較で示す。
【0037】
この結果、純度99重量%以上とすることによって、Cl2 ガス、SF6 ガス、いずれの腐食性ガスに対しても、優れた耐食性を有していた。特にSF6 に対するエッチングレートから明らかなように、純度を99重量%以上とすることで、格段にエッチングレートを下げられることがわかる。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例3
さらに、表2に記載の試料3におけるセラミック焼結体を用い、焼成温度を制御して気孔率を異ならせた時の耐食性について実施例1と同様の条件にて実験を行った。
【0040】
各試料の特性及びそれぞれの結果は表3に示すとおりである。エッチングレートの数値は、気孔率1%の焼結体のエッチングレートを1としたときの相対比較で示す。
【0041】
この結果、気孔率0.2%以下とすることによって、Cl2 ガス、SF6 ガス、いずれの腐食性ガスに対しても優れた耐食性を有していた。特にSF6 ガスに対するエッチングレートから明らかなように、気孔率0.2%以下とすることによって、格段にエッチングレートを下げられることがわかる。
【0042】
【表3】
【0043】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明の耐食性セラミック部材は、ハロゲン系腐食性ガス又はそのプラズマに曝される耐食性部材を、イットリア及びYAGをの両結晶相を主体とする焼結体で構成し、また純度を99重量%以上、さらには気孔率を0.2%以下とすることで、特にプラズマに対する耐食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の耐食性セラミック部材の応用例であるエッチング装置の内部構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1.チャンバー
2.クランプリング
3.下部電極
4.ウェハー
5.高周波コイル
Claims (3)
- フッ素系や塩素系等の腐食性ガス或いはそのプラズマに曝される部位を、イットリア45〜80モル%、アルミナ20〜55モル%の組成比からなり、イットリアとYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)の両方の結晶相を含む焼結体で構成したことを特徴とする耐食性セラミック部材。
- 上記両結晶相の含有量が99重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の耐食性セラミック部材。
- 焼結体の気孔率が0.2%以下であることを特徴とする請求項1記載の耐食性セラミック部材。
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