JP4082953B2 - 低熱膨張セラミックス接合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体製造装置、検査機器等に用いられる低熱膨張セラミックス接合体に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、半導体回路は益々精細化する傾向にあり、製造装置のわずかな変形でも歩留まりの低下を招くことから、半導体製造装置用部材として低熱膨張材料が用いられるようになってきた。このようにこの種の部材は変形に対する抵抗が高いことが必要であることから、高い剛性も求められている。このため、このような低熱膨張材料としては剛性の高いセラミックスが用いられている。
【0003】
また、装置の大型化、高速移動化にともない、このような半導体装置用部材の軽量化が要求されており、軽量化の手段として、部材を中空構造にすることが行われている。具体的には、内部をくり抜いたセラミックス同士を接合することで内部空間を確保する方法が採用され、これにより大幅な重量減少を図ることができる。
【0004】
さらに、この種の部材として形状が複雑なものを製造する場合、複数の部品に分けて製造し、最終的に各々の部品を接合する方法が採用されることがある。この方法によれば、一体ものでは加工が困難な形状のものでも製造することができる。
【0005】
このように低熱膨張セラミックスを接合する技術が求められており、このような場合には、従来、接合材としてガラスが多用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来から接合材として用いられているガラスは低熱膨張材でないため、接合部にガラスの溶融温度から室温まで冷却する間に応力が残留するという問題がある。また、ガラスは剛性が低いため、接合後の部材全体の剛性が低下し、半導体製造において精細な描画が困難となる。さらには、接着強度が弱いという欠点も抱えている。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、熱膨張係数が低く、接合部に内部応力が残留せず、通常のセラミックスと同程度の剛性を有し、接合強度が高い低熱膨張セラミックス接合体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、接合材を母材の低熱膨張セラミックスよりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスで構成し、接合材の溶融温度よりも高く、母材の溶融温度よりも低い温度で加熱することにより、低い熱膨張係数を維持しつつ、通常のセラミックスと同程度の剛性を有し、接合強度が高い接合体が得られることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1)低熱膨張セラミックスからなる母材を、該母材よりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスからなる接合材で接合してなる低熱膨張セラミックス接合体であって、前記接合材および前記母材は複合材料からなり、前記接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、前記母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(2)前記母材および前記接合材の20〜30℃における平均の熱膨張係数が−1×10−6〜1×10−6/℃であることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(3)上記(1)、(2)において、母材と接合材との間の、20〜30℃における平均の熱膨張係数の差が±0.1×10−6/℃以内であることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(4)上記(1)〜(3)において、リチウムアルミノシリケートがβ−ユークリプタイトであることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(5)上記(4)において、前記母材の組成はβ−ユークリプタイト50〜95質量%と炭化珪素5〜50質量%であり、前記接合材の組成は、β−ユークリプタイト40〜85質量%と窒化珪素15〜60質量%であることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(6)上記(1)〜(5)において、前記接合体のJIS R 1601に規定された4点曲げ強度が115MPa以上であることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
(7)上記(1)〜(6)において、前記接合体のヤング率が120MPa以上であることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る低熱膨張セラミックス接合体は、低熱膨張セラミックスからなる母材を、該母材よりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスからなる接合材で接合してなる低熱膨張セラミックス接合体であって、前記接合材および前記母材は複合材料からなり、前記接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、前記母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなる。
【0011】
このように接合材として母材よりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスを用いることにより、接合に際して接合材の溶融温度よりも高く、母材の溶融温度よりも低い温度で加熱することにより、接合材のみが溶融して複数の母材同士を接合することができる。この場合に、接合材が低熱膨張セラミックスであるから、接合部に残留する応力が小さく、接合部の剛性が高いため材料全体の剛性が高く、かつ接合部自体の強度がガラスより大きいから接合強度が大きい。
【0012】
ここで、前記母材および前記接合材の20〜30℃における平均の熱膨張係数が−1×10−6〜1×10−6/℃であることが好ましい。この範囲であれば、半導体製造装置部材として用いられた場合に、半導体回路の精細化に適合可能である。また、母材と接合材との間の、20〜30℃における平均の熱膨張係数の差が±0.1×10−6/℃以内であることが好ましい。熱膨張係数の差がこの範囲を超えると、接合のための熱処理後、冷却過程で内部応力がたまり、強度低下を招くおそれがある。
【0015】
リチウムアルミノシリケートとしては、β−ユークリプタイトやスポジューメンが好ましい。また、その中でもβ−ユークリプタイトはマイナスの熱膨張を示すので、プラスの熱膨張を示す第2の材料と組み合わせることにより、極めて低い熱膨張係数を得ることが可能であるし、また、配合を調節することにより熱膨張係数をマイナスからプラスの広い範囲で調節することが可能となる。なお、β−ユークリプタイトやスポジューメンに代表されるリチウムアルミノシリケートは、Ca、Mg、Fe、K、Ti、Zn等の他の成分と固溶体を形成するが、本発明ではこのような固溶体も適用可能である。
【0016】
前記接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、前記母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなるものとしたのは、接合材の溶融温度が母材の溶融温度よりも低くなるようにするためである。
【0017】
接合材を構成する複合材料としては、具体的には、βーユークリプタイトと窒化珪素とからなるものが好ましい。この複合材料は、低熱膨張であり、剛性も高く、溶融温度が1300〜1360℃と比較的低い。本発明において、接合材はその溶融温度よりも高い温度で焼結する低熱膨張セラミックスからなる母材を接合することが可能であるから、このような比較的低温で溶融する接合材は適用範囲が広い。また、上述したようにβ−ユークリプタイトは負の熱膨張係数を有しており、窒化珪素は正の熱膨張係数を有することから、これらの配合比を変えることで、マイナス膨張からプラス膨張まで、任意に熱膨張係数を変化させることが可能であり、したがって、母材の熱膨張係数に応じてこれらの配合比を適宜選択することにより、どのような材質の母材も接合部に応力を生じさせずに良好に接合することができる。
【0018】
また、母材および接合材のいずれもが2種以上の材料からなる複合材料からなる低熱膨張セラミックスで構成しているので、母材を構成する材料の配合割合を変化させれば、要求される種々の熱膨張に対応することが可能であるし、接合材は母材に適合した熱膨張になるように構成材料の配合を変化させることができるから、所望の特性の低熱膨張セラミックス接合体を容易に得ることができ、しかも自由度が高い適用が可能である。
【0021】
接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなるものとすることにより、リチウムアルミノシリケートが母材と接合材とで共通であり、このような共通の構成材料が拡散しやすく両者を強固に接合することができるとともに、接合面がきれいである。
【0022】
具体的材料の組み合わせとしては、母材としてβ−ユークリプタイトと炭化珪素との複合材料を用い、接合材としてβ−ユークリプタイトと窒化珪素との複合材料を用いたものが好適である。β−ユークリプタイトと炭化珪素との複合材料からなる母材は、溶融温度が1370〜1430℃と、接合材を構成するβ−ユークリプタイトと窒化珪素との複合材料の溶融温度である1300〜1360℃よりも高く、接合材を溶融させて接合する際に、母材を溶融させるおそれがない。しかも、母材と接合材にβ−ユークリプタイトが共通に含まれているから接合が強固であり、さらにこれらはいずれも低熱膨張であり組成を調整することによりほぼ同等の熱膨張係数とすることができ、かつ母材も接合材もともに剛性が高い。この場合に、母材の組成としてはβ−ユークリプタイト50〜95質量%と炭化珪素5〜50質量%であり、接合材の組成としてはβ−ユークリプタイト40〜85質量%と窒化珪素15〜60質量%であることが好ましい。
【0023】
次に、本発明の接合体の製造方法について説明する。
本発明の接合体は、接合材粉末を適宜のバインダーとともに混練して粘糊性のあるペーストとし、このペーストを介して母材同士を接着させ、接合材は溶融するけれども母材は溶融しない温度で熱処理する。これにより、接合材が溶融し、一部は母材に拡散して母材同士を接合する。
【0024】
この際の熱処理雰囲気は、材料が全て酸化物系のものであれば、大気雰囲気を用いることができるが、非酸化物系の材料が含まれている場合には、非酸化雰囲気を用いることが好ましい。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
まず、β−ユークリプタイト粉末と炭化珪素粉末とを表1に示す割合でポットミル混合して乾燥させ、母材セラミックスの原料混合粉末を作製した。この混合粉末を一軸加圧成形して70mm×70mm×50mmの成形体を作製し、150MPaでCIP処理した。窒素雰囲気において表1に示す温度で焼成し、母材となる低熱膨張セラミックス焼結体を得た。焼結体から4mm×4mm×12mmの試験片を切り出し、レーザー干渉式熱膨張測定装置(アルバック理工社製 LIX-1)を用いて20〜30℃において試験片の変位量を測定し、熱膨張係数を求めた。また、共振法にてこれら焼結体のヤング率を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0026】
次に、β−ユークリプタイトと窒化珪素を表1に示す割合でポットミル混合して乾燥させ、接合材用の混合粉末を作製した。この混合粉末を無機分が30vol%となるようにエチルセルロースの15%α−テルピネオール溶液と混合し、三本ロールを用いてペースト状にした。なお、この接合材について同じ組成の焼結体を作製して母材と同様にして熱膨張係数を求めた。その結果も表1に示す。
【0027】
一方、上記低熱膨張セラミックス焼結体から20mm×30mm×40mmの直方体を2個切り出し母材とし、上記ペーストをスクリーンマスクを用いて母材の30mm×40mmの面に厚さ30μmに印刷して接合材とした。500℃で脱脂した後、印刷面同士を接着して0.5g/mm2の荷重をかけた。引き続き、窒素雰囲気で表1に示すように1320〜1360℃の温度で熱処理し、接合材を溶融させて母材の間に接合材が介在されたNo.1〜6の接合体を得た。この際に、母材の溶融温度は表1に示すように1370〜1430℃であり、母材は接合材が溶融する接合温度では溶融していなかった。なお、表1に示す母材の溶融温度は、母材の材料系において−1×10−6〜+1×10−6/℃の低熱膨張を維持することができる配合範囲における溶融温度範囲を示す(以下、同じ)。
【0028】
各接合体から接合部が中央にくるように3mm×4mm×40mmの試験片を切り出し、これら試験片を用いてJIS R1601に従って4点曲げ試験を実施した。また、共振法にてヤング率を測定した。これらの結果を表1に併記する。4点曲げ試験の結果、接合面を破壊源として破壊したものの、表1に示すように、115MPa以上と、従来のガラス接合を用いた後述する比較例と比べて著しく高い値となった。また、ヤング率についても、表1に示すように、母材単体での値と同等の120GPa以上であった。また、母材と接合材の熱膨張係数の差も極めて小さいものであった。
【0029】
以上の結果より本発明の範囲である、β−ユークリプタイトと炭化珪素との複合材料からなる母材と、β−ユークリプタイトと窒化珪素との複合材料からなる接合材で構成されたNo.1〜6の接合体は、全体の熱膨張係数が小さく、また、母材と接合材との熱膨張差が著しく小さいため接合部に内部応力がほとんど残留せず、母材の剛性を維持し、しかも母材の強度からの大幅な低下を招かない程度の大きな接合強度を有していることが確認された。
【0034】
(比較例)
まず、実施例1と同様の手順で、表1に示す組成の低熱膨張セラミックス焼結体からなる20mm×30mm×40mmの直方体の母材を作製した。次に、鉛ガラスとジブチルフタレートの40%α−テルピネオール溶液を混合し、無機分50vol%のペーストを作製した。上記ペーストをヘラを用いて母材の30mm×40mmの面に厚さ50μmに塗布し接合材とした。塗布面同士を接着して0.5g/mm2の荷重をかけ、大気中450℃で熱処理し、接合材を溶融させて母材の間に接合材が介在されたNo.7〜11の接合体を得た。
【0035】
実施例1と同様に母材と接合材との熱膨張係数を測定した結果、その値は大きく異なっており、接合部に大きな応力が残留していることが推測された。また、実施例1と同様の方法で4点曲げ強度およびヤング率を測定した。その結果、表1に示すように、強度は実施例の20%以下と非常に小さく、ヤング率は母材に比較して非常に小さい値であった。このことから、接合材としてガラスを用いた比較例は、熱膨張差によって接合部に応力が残留し、強度および剛性も母材より大きく低下することが確認された。
【0036】
【表1】
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、低熱膨張セラミックスからなる母材を、該母材よりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスからなる接合材で接合してなる低熱膨張セラミックス接合体であって、前記接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、前記母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなるものとしたので、接合材の溶融温度よりも高く、母材の溶融温度よりも低い温度で加熱することにより、低い熱膨張係数を維持しつつ、通常のセラミックスと同程度の剛性を有し、接合強度が高い接合体を得ることができる。
Claims (7)
- 低熱膨張セラミックスからなる母材を、該母材よりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスからなる接合材で接合してなる低熱膨張セラミックス接合体であって、前記接合材および前記母材は複合材料からなり、前記接合材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと窒化珪素とからなり、前記母材を構成する複合材料が、リチウムアルミノシリケートと炭化珪素とからなることを特徴とする低熱膨張セラミックス接合体。
- 前記母材および前記接合材の20〜30℃における平均の熱膨張係数が−1×10−6〜1×10−6/℃であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
- 母材と接合材との間の、20〜30℃における平均の熱膨張係数の差が±0.1×10−6/℃以内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
- リチウムアルミノシリケートがβ−ユークリプタイトであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
- 前記母材の組成はβ−ユークリプタイト50〜95質量%と炭化珪素5〜50質量%であり、前記接合材の組成は、β−ユークリプタイト40〜85質量%と窒化珪素15〜60質量%であることを特徴とする請求項4に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
- 前記接合体のJIS R 1601に規定された4点曲げ強度が115MPa以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
- 前記接合体のヤング率が120MPa以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の低熱膨張セラミックス接合体。
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