JP4061958B2 - 感光性セラミックス組成物及びその現像方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、感光性セラミックス組成物に関する。本発明の感光性セラミックス組成物は、高周波無線用セラミックス多層基板などの回路材料などに用いられる。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話をはじめとする無線通信技術の普及が著しい。従来の携帯電話は800MHz〜1.5GHzの準マイクロ波帯を用いたものであったが、情報量の増大に伴い、搬送周波数をより高周波であるマイクロ波帯からミリ波帯とした無線技術が提案され、実現される状況にある。こうした高周波無線回路は、移動体通信やネットワーク機器としての応用が期待されており、中でもブルートゥース(Bluetooth)やITS(Intelligent Transport System,高度交通情報システム)での利用によってますます重要な技術となりつつある。
【0003】
これらの高周波回路を実現するためには、そこで使用される基板材料も、当該使用周波数帯、すなわち、1〜100GHzで優れた高周波伝送特性をもつ必要がある。優れた高周波伝送特性を実現するためには、低誘電率でかつ誘電損失が低いこと、加工精度が高いこと、寸法安定性がよいといった要件が必要であり、なかでもセラミックス基板が有望視されてきた。
【0004】
しかしながら、これまでのセラミックス基板材料は、寸法安定性に優れているものの、微細加工度が低かったため、特に高周波領域において十分な特性を得ることができなかった。このような微細加工精度の問題を改良する方法として、特開平6−202323号公報において、感光性セラミックス組成物から形成したグリーンシートを用いたフォトリソグラフィー技術によるビアホール形成方法が提案されている。しかしながら、感光性セラミックス組成物の感度や解像度が低いため高アスペクト比のもの、例えば50μmを越えるような厚みのシートに対し、100μm以下のビアホールを精度良く、かつ均一に形成できないという欠点があった。
【0005】
また、従来の感光性グリーンシートは光硬化後の伸びや引っ張り強度が低いために、通常はフィルムから剥がして用いたグリーンシートをビア加工し、導体ペースト穴埋めや導体パターン加工やシートを多層積層するなどのシートハンドリング工程において、破損するなどの問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
寸法安定性に優れ、誘電正接の低いセラミックス基板材料の微細加工度を高めて、高周波領域において十分な特性を得ることができるようにするため、フォトリソグラフィー法を用いた高アスペクト比かつ高精細のビアホール形成が可能であると共に、ビアホール形成後の状態が後工程の加工において適切な状態であることが必須である。そのためには深部まで十分に光硬化した状態のシートが精度よく現像され、通常の非感光グリーンシートと同等の伸びや引っ張り弾性率、強度を有することが必要であり、それに対応した感光性セラミックス組成物を提供する。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物(成分A1)とエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)を含有する感光性有機成分(成分A)と無機粉末(成分B)を必須成分とする感光性セラミックス組成物であって、膜厚150μm、線幅75μm、ピッチ150μm、高さ150μmのパターンを炭酸ナトリウム1.5%水溶液またはn−プロピルアミン0.5%水溶液のいずれかで現像して作製した場合の現像時の寸法変化率が1以上1.5以下であることを特徴とする感光性セラミックス組成物。
CH2=CR1COO−(R2)n−R3−R0 (1)
(一般式(1)において、R0は、CH2=CR1COO−(R2)n−、水素原子、又は、ハロゲン原子であり、R1は水素あるいはメチル基、R2はアルキレンオキサイドまたはそのオリゴマー、nは1〜5の整数であり、R3は炭素数1〜15の環式又は非環式のアルキレン、アリール、アリールエーテル、アリーレン、アリーレンエーテル、アラルキル、アラルキレンから選ばれたもの、或いは、それらに炭素数1〜9のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、或いはアリール基の置換基が有るものである。)
又は、本発明は、前記感光性セラミックス組成物を下記a)又はb)のいずれかの現像液で現像することを特徴とする感光性セラミックス組成物の現像方法である。
a)弱塩基性金属塩水溶液
b)水酸基を含まない炭素数が1〜6までの有機アミン化合物
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の感光性セラミックス組成物は、無機粉末と感光性有機成分を必須成分とするものであり、感光性有機成分として一般式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物(成分A1)とエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)を含有することを特徴とするものである。なお、前記「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート及び/又はメタクリレート」の意味であり、以下の説明でも同様(「(メタ)アクリロイル」=「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」等)のものとする。
【0009】
本発明の感光性有機成分は感光性セラミックス組成物中の有機成分の総体を指し、感光性セラミックス組成物のうち無機成分を除いた成分全体を意味する。なお、本発明の感光性セラミックス組成物は、ペースト体として、塗布・積層に際して、好適に溶媒が用いられるものではあるが、感光性有機成分の組成に関するパラメータ(成分A1、A2、Bの含有割合など)についての以下の説明においては、原則として溶媒成分は除外して算出されたものであるとする。
【0010】
本発明において、感光性有機成分として作用する(メタ)アクリレート化合物(成分A1)は、光によって開始された反応、すなわち架橋反応や重合反応を生起して、パターン形成において重要な役割をすると考えられる。つまり、1個以上の光重合可能な不飽和基として(メタ)アクリレート基が必須である。
【0011】
本発明においてR1は水素あるいはメチル基であり、好ましくは水素である。
【0012】
また少なくとも一方のR2にエチレンオキサイド基を有することが相溶性の点から好ましい。これらは単独で用いてもよく、また組み合わせて用いてもよい。感光性有機成分(成分A)の屈折率は感光性モノマーである成分A1の屈折率により容易に制御でき、成分A1の屈折率は1.5〜1.7が好ましい。成分A1の添加量は感光性有機成分中の10〜80重量%であることが好ましい。(10〜60重量%がより好ましく、15〜40重量%がさらに好ましい。)
一般式(1)において、R3の有機基としては芳香族環であるフェニル基、フェノール基、ビフェニル基、パラクミルフェノール基、ノニルフェノール基、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが屈折率が高くなる点から好ましい。
【0013】
このような化合物として、2官能(メタ)アクリレートでは、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−エチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−プロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF−エチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF−プロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等が、単官能(メタ)アクリレートでは、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールPO変性(メタ)アクリレートなどが、高屈折率のものとして得られ好ましい。特に好ましくは、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレートである。
【0014】
本発明において、R0は、CH2=CR1COO−(R2)n−、水素原子、またはハロゲン原子であり、好ましくは水素原子である。R0が前記1番目の場合(式(1)においてR1、R2を2つ有する場合)では、式(1)においてR1、R2およびnは、少なくとも1対について、それぞれ異なっていても良いし、同じであっても良い。
【0015】
又、一般式(1)で表される成分A1は、1種類のものが本発明の組成物に含まれるものであっても良いし、2種類以上の混合物が本発明の組成物に含まれるものであっても良い。
【0016】
成分A1の製造方法は、次に示すような方法で得られるが、これに限定されるものではない。即ち、HO−(R2)n−R3又は(HO−(R2)n)2R3の一般式で表されるアルキレンオキサイド単位が付加してなる1価または2価アルコールにCH2=CR1COOHなる一般式で表される(メタ)アクリル酸を常法に従いエステル化反応させてモノ(メタ)アクリレート又はジ(メタ)アクリレートとすることにより得られる。前記エステル化において、(メタ)アクリレートのカルボン酸を酸ハライド等の反応活性がより高い化合物に変換してからエステル化反応を行っても良いし、反応副産物除去剤(脱水剤や脱ハロゲン化水素剤など)や触媒を用いても良い。
【0017】
本発明のエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)において、ウレタン化合物とは、ウレタン結合(−NHCOO−)を有するものであるならば、特に限定されるものではない。前記ウレタン化合物が有する有機基は、ウレタン結合以外にビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アルキレン基、アルキレンオキサイド基、アルキル基、アリール基、アリーレン基、アラルキル基、アラルキレン基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキレン基などが例示できる。これらの中でも、相溶性の点からアルキレンオキサイド等の極性基が好ましい。また分子構造形態について、直鎖状、分枝状、環状、乃至はそれらの組み合わせなど、なんら限定されるものではないが、相溶性の点から直鎖状が好ましい。前記ウレタン化合物の分子量は好ましくは800〜100000(より好ましくは、10000〜50000、更に好ましくは15000〜45000)である。前記数値範囲の下限値を下回ると剛直となり、上限値を上回ると粘度が上昇し、好ましくないことがあるからである。又、前記ウレタン化合物は、ウレタン結合を好ましくは0.000016〜0.0125モル/g、より好ましくは、0.00002〜0.001モル/g、更に好ましくは0.000022〜0.0007モル/g有するものである。前記数値範囲の下限値を下回ると可撓性が劣り、上限値を上回ると弾性率が高くなりすぎて、好ましくないことがあるからである。
【0018】
本発明において、エチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)のエチレン性不飽和基としては、架橋反応性を考慮すれば一般的に立体障害が小さく分子運動の自由度が大きい方が好ましく、つまり、エチレン性不飽和基に大きな置換基が多数あることは好ましくない。従って、一置換ついで二置換が好ましいが置換基の化学的特性によっては、かえって架橋反応性が向上する場合もある。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。特に、アクリロイル基やメタクリロイル基を有することが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
このような側鎖をポリマーに付加する方法は、ポリマー中の活性水素含有基であるメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させる。グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジルなどがある。イソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリロイルイソシアネート、(メタ)アクリロイルエチルイソシアネートなどがある。また、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドは、ポリマー中の活性水素含有基に対して0.05〜0.95モル当量付加させることが好ましい。活性水素含有基がメルカプト基、アミノ基、水酸基の場合にはその全量を側鎖基の導入に利用することもできるが、カルボキシル基の場合には、ポリマーの酸価が好ましい範囲で付加することが好ましい。
【0020】
前記エチレン性不飽和基は、本発明のエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物中に、1分子当たり、好ましくは1〜6個、より好ましくは、1〜4個、更に好ましくは2〜3個有する、あるいは、重量当たりで、好ましくは0.000016〜0.0075モル/g、より好ましくは0.000016〜0.005モル/g、更に好ましくは0.000033〜0.0038モル/g有するものである。前記何れの数値範囲についても、その下限値を下回ると硬化不足となり、その上限値を上回ると硬化収縮が大きくなり、好ましくないことがあるからである。
【0021】
このようなウレタン化合物を光反応性成分として用いることにより、光硬化段階でのシートの物理的特性を後工程に好ましい範囲に保持することができると同時に焼成時の応力を低減し、焼成欠陥を抑制することができる。
【0022】
このようなエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物としては一般式(2)で表されるようなエチレンオキサイドを有するウレタン化合物であることが好ましい。
CH2=CX1COO−X2−(X3−X4)n−X3−X2−OCOCX1=CH2 (2)
(ここで、X1は水素、水酸基あるいはメチル基、X2、X4はアルキレンオキサイドまたはそのオリゴマーであり、少なくとも何れか一方にエチレンオキサイド基が含まれ、X3はウレタン結合を含む有機基であり、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート残基である。nは1〜10の整数である)。
【0023】
感光性有機成分の相溶性を向上させるため、一般式(2)中、X2、X4のアルキレンオキサイドまたはそのオリゴマーは、少なくとも何れか一方にエチレンオキサイドを含むことが好ましい。より好ましくは、X4がエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを含むオリゴマーであることである。本発明においては感光性モノマーである成分A1として芳香環を有する単官能あるいは2官能の(メタ)アクリレートを好ましく用いるが、この場合本発明において好適に用いられる側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)との相溶性は極性が異なるために悪い。しかしながらエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物に極性の高いエチレンオキサイドを含有させることで極性を重合体(成分A3)側に近い部分と感光性モノマーに近い部分とを併せ持たせることができ重合体(成分A3)と感光性モノマーである成分A1の相溶性を向上させることができる。そのようなオリゴマー中のエチレンオキサイド含有量としては8〜70重量%の範囲内が適当である。この場合において、エチレンオキサイド含有量が70重量%を越えると、光硬化した際の弾性率が高くなり、基板を形成した場合に大きな応力が生じるため基板の破損などの欠陥が増加するので好ましくない。また、8重量%未満であると、他の成分との相溶性が劣ることによってヘーズ値が高くなりパターン形成性が低下するので好ましくない。
【0024】
感光性有機成分のヘイズ値は感光性有機成分をガラス基板に塗布、乾燥した後、ヘイズメーターの測定によって得られる。この際の塗布膜厚は100μmである。ヘイズ値が0.5以下の時が好ましい。
【0025】
また、一般式(2)中におけるX4の総分子量(X4の式量×n)は800〜10000であることが好ましい。800以上とすることでウレタンの柔軟性を保ち、10000以下とすることで粘度を下げ、取扱いを容易にすることができる。
【0026】
X3のウレタン結合を含む有機基は、ジイソシアネート基とヒドロキシル基の縮合によって生成され得る構造であることが好ましいが、ここで用いるジイソシアネート基を有する成分としては、1,4−ジイソシアネートブタン、1,6−ジイソシアネートヘキサンなどの脂肪族ジイソシアネート化合物、1,4−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物、イソフォロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート化合物を用いることができるが、脂環式ジイソシアネート化合物を用いることが好ましく、特にイソフォロンジイソシアネートを用いたものが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明で用いられるエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物の具体例としては、UA−2235PE(分子量14000,エチレンオキサイド(EO)含有率20%)、UA−3238PE(分子量19000,EO含有率10%)、UA−3348PE(分子量22000,EO含有率15%)、UA−5348PE(分子量39000,EO含有率23%)(以上、新中村化学株式会社製)、TN−1(分子量1000)、TN−5(分子量2000)(以上、根上工業株式会社製)、UV6100B(分子量6500)、UV7000B(分子量3500)(以上、日本合成化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0028】
本発明で用いられる感光性有機成分(成分A)において、側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)を含有することは、アルカリ水溶液での現像を可能にするために好ましい。前記側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニルまたはこれらの酸無水物などのカルボキシル基含有モノマーおよびメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどのモノマーを選択し、ラジカル重合開始剤を用いて重合または共重合させることにより得られるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)の酸価は50〜140であることが好ましい。酸価を140以下とすることで、現像許容幅を広くすることができ、酸価を50以上とすることで、未露光部の現像液に対する溶解性が低下することがなく、従って現像液を濃くする必要がなく露光部の損傷を防ぎ、高精細なパターンを得ることができる。側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)として、焼成時の熱分解温度が低いことから、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸を共重合成分とする共重合体が好ましく用いられる。
【0030】
さらに、側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)が、エチレン性不飽和基を有するウレタン化合物と同様に、側鎖にエチレン性不飽和基を有することも、パターン形成性が向上するので好ましい。側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)において、側鎖にエチレン性不飽和基を有する場合の好適な具体的態様は、エチレン性不飽和基を有するウレタン化合物において側鎖にエチレン性不飽和基を有する場合の好適な例の説明において詳述した態様とほぼ同様のものである。
【0031】
側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)の添加量は、感光性有機成分中の10〜80重量%であることが好ましい。前記数値範囲の下限値を下回ると光硬化不足となり、上限値を上回ると光硬化過剰となり好ましくないからである。
【0032】
感光性有機成分に含有される側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)およびエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)には、一般的に活性光線のエネルギーを吸収する能力は低いので、光反応を開始するためには、光重合開始剤を加えることが好ましい。場合によっては光重合開始剤の効果を補助するために増感剤を用いることがある。このような光重合開始剤には1分子系直接開裂型、イオン対間電子移動型、水素引き抜き型、2分子複合系など機構的に異なる種類があり、それらから選択して用いる。本発明に用いる光重合開始剤は、活性ラジカル種を発生するものが好ましい。光重合開始剤や増感剤は1種または2種以上使用することができる。光重合開始剤は、感光性有機成分に対し、好ましくは0.05〜10重量%の範囲で添加され、より好ましくは0.1〜10重量%である。光重合開始剤の添加量をこの範囲内とすることにより、露光部の残存率を保ちつつ良好な光感度を得ることができる。
【0033】
本発明の感光性セラミックス組成物は、上記感光性有機成分の他に無機粉末を必須成分とする。本発明の感光性セラミックス組成物に含有される無機粉末は焼成工程において焼結するものであり、本発明の目的とする基板形成では、1000℃以下、特に700〜900℃の温度での焼成が好ましいので、いわゆる低温焼成無機粉末が好ましい。もちろん、これらの無機粉末が基板の電気的特性、強度、熱膨張係数などの基本物性を決めるものであるため、目的とする特性に応じて選択されるものである。
【0034】
本発明で用いられる無機粉末(成分B)として有用な成分には5つの態様が挙げられる。
【0035】
前記の第1の態様は、一般式RxO−Al2O3−SiO2系材料(Rはアルカリ金属(x=2)あるいはアルカリ土類金属(x=1)を示す)で表されるアルミノケイ酸塩系化合物である。特に限定されるものではないが、アノーサイト(CaO−Al2O3−2SiO2)、セルジアン(BaO−Al2O3−2SiO2)などであり、低温焼結セラミックス材料として用いられる無機粉末である。
【0036】
前記の第2の態様の無機粉末(成分B)としては、ガラス粉末を50〜90重量%と、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末を10〜50重量%の割合からなるものである。ガラス粉末はホウ珪酸ガラスである。この時高純度シリカ(石英)は、ほう珪酸ガラスやコーディエライトと溶解しないことが好ましい。また、球状シリカである方が、スラリーの充填性が上がり好ましい。
【0037】
前記の第3の態様は、ホウ珪酸ガラス粉末30〜60重量%、石英粉末および/またはアモルファスシリカ粉末20〜60重量%およびコーディエライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイトおよびセルジアンの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末20〜60重量%との混合物である。
【0038】
前記の第4の態様は、酸化物換算表記でSiO2:30〜70重量%、Al2O3:5〜40重量%、CaO:3〜25重量%、B2O3:3〜50重量%の組成範囲で、総量が85重量%以上となるガラス粉末を30〜60重量%と、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリア、ムライト、コーディエライト、スピネル、フォルステライト、アノーサイト、セルジアン、シリカおよび窒化アルミの群から選ばれた少なくとも1種類のセラミックス粉末70〜40重量%との混合物である。
【0039】
前記の第5の態様は、酸化物換算表記でSiO2:80〜90重量%、B2O3:10〜15重量%、Al2O3:0〜5重量%、K2O:0〜5重量%の割合で含まれる無機粉末である。
【0040】
無機粉末(成分B)はフィラー成分を含むことが可能であり、フィラー成分として前記の通りセラミックス粉末が用いられることが多く、基板の機械的強度の向上や熱膨張係数を制御するのに有効であり、特に、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、アノーサイトはその効果が優れている。これらのセラミックス粉末の混合により、焼成温度を800〜900℃とし、強度、誘電率、熱膨張係数、焼結密度、体積固有抵抗、収縮率を所望の特性とすることができる。
【0041】
ガラス粉末のSiO2、Al2O3、CaOおよびB2O3などの成分は、ガラス粉末中で総量85重量%以上であることが好ましい。残りの15重量%以下はNa2O、K2O、BaO、PbO、Fe2O3、Mn酸化物、Cr酸化物、NiO、Co酸化物などを含有することができる。ガラス粉末30〜60重量%と組み合わされるセラミックス粉末70〜40重量%はフィラー成分となる。ガラス粉末中のSiO2は30〜70重量%の範囲であることが好ましく、30重量%未満の場合は、ガラス層の強度や安定性が低下し、また誘電率や熱膨張係数が高くなり所望の値から外れやすい。また、70重量%より多くなると焼成基板の熱膨張係数が高くなり、1000℃以下の焼成が困難となる。Al2O3は5〜40重量%の範囲で配合することが好ましい。5重量%未満ではガラス相中の強度が低下する上、1000℃以下での焼成が困難となる。40重量%を越えるとガラス組成をフリット化する温度が高くなりすぎる。CaOは3〜25重量%の範囲で配合するのが好ましい。3重量%より少なくなると所望の熱膨張係数が得られなくなり、また1000℃での焼成が困難となる。25重量%を越えると誘電率や熱膨張係数が大きくなり好ましくない。B2O3はガラスフリットを1300〜1450℃付近の温度で溶解するため、およびAl2O3が多い場合でも誘電率、強度、熱膨張係数、焼結温度などを電気、機械および熱的特性を損なうことのないように焼成温度を800〜900℃の範囲に制御するために配合することが望ましく、配合量として3〜50重量%の範囲が好ましい。
【0042】
感光性セラミックス組成物においてパターン形成性を高いレベルに保持するためには、無機粉末と感光性有機成分との屈折率を整合させることが重要である。無機粉末の屈折率は組成の配合比で制御することが可能であり、配合する感光性有機成分の平均屈折率との整合をとるように配慮することが好ましい。無機粉末の屈折率をN1、感光性有機成分の屈折率をN2としたときN1−N2<0.15となるように整合させることが好ましい。
【0043】
さらに、屈折率を整合させるためのこれら2つの態様で用いられる無機粉末の粒子径および比表面積は、作製しようとするグリーンシートの厚みや焼成収縮率を考慮して選ばれるが、平均粒子径(50%分布粒子径)が1〜5μm、10%分布粒子径が0.4〜2μm、90%分布粒子径が4〜15μm、最大粒子径が30μm以下、比表面積1.5〜4m2/gを有するものが適している。ここで言う粒子径とはレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて得られた値である。又、平均粒子径は、前述の通り、50%分布粒子径とする。なお、50%分布粒子径とは粒度分布が50%のところの粒子径を指し、今後特に断りがない限り平均粒子径とはこの粒子径を指す。粉末の形状は粒状または球状であるものを用いることによって高アスペクト比で高精細のビアホールの形成が可能であるので、球形率80個数%以上の無機粉末を用いることが好ましい。なお、球形率の測定は以下の通りに行えばよい。まず、測定対象である粉末を光学顕微鏡で300倍の倍率にて撮影して計数する。そして、球形のもの(短径/長径≧0.8)である個数の比率を算出した値を球形率とする。但し、前記撮影像では、立体的に球形であることを判別することは困難であることが多いので、平面画像である前記撮影像で円形のもの(短径/長径≧0.8)である個数の比率を算出した値である円形率を球形率としてもよい。このような粒径およびその分布を有する無機粉末を用いることにより、粉末の充填性が向上し、グリーンシート中の粉末比率を増加させても気泡を巻き込むことが少なくなり、余分な光散乱が少ないため、パターン形成性を高めることになる。無機粉末の平均粒子径が上記範囲より小さいと比表面積が増えるため、粉末の凝集性があがり、有機成分内への分散性が低下し、気泡を巻き込み易くなる。そのため、光散乱が増え、パターン形成性が低下する。逆に上記範囲より大きい場合には、粉末のかさ密度が下がるため充填性が低下し、感光性有機成分の量が不足し、気泡を巻き込みやすくなり、やはり光散乱を起こしやすくなる。さらに、無機粉末の平均粒子径は上記範囲にあると、粉末充填比率が高いので焼成収縮率が低くなり、焼成時にビアホール形状が崩れにくい。
【0044】
本発明の無機粉末(成分B)は、Cu、Ag、Auなどを配線導体として多層化が可能な600〜900℃での焼成が可能であるとともに、GaAsなどのチップ部品やプリント基板の熱膨張係数と近似した熱膨張係数を有し、高周波領域においても低誘電率でかつ誘電損失が低い基板を与えるものであることが好ましい。
【0045】
しかしながら単官能あるいは2官能モノマーとウレタンアクリレートを組み合わせた場合、現像時に激しい膨潤が起こり、寸法が変化する。寸法変化率を以下のように定義した場合、変化率が1〜1.5(好ましくは1〜1.3、より好ましくは1〜1.2)のとき良好なパターンが形成されることを見いだした。
【0046】
寸法変化率は次のように定義する。膜厚150μmの現像物に、線幅75μm、ピッチ150μm、高さ150μmのストライプパターンを形成した時、線幅L、線の振れ量をLdとすると寸法変化率はLd/Lであらわされる。ここでいう線幅は断面においての上面幅、半値幅、下面幅のいずれを測定してもよいが測定の容易さから上面幅を測定することが好ましい。上面が丸みを帯び上面幅の定義が困難な場合には全高さの90%のところ(L90部位)の線幅を用いることが好ましい。振れ量の測定方法も特に限定しないが線幅と同一条件下での計測が好ましく上面幅または先に記載のL90部位の線幅の振れ量を計測するのが好ましい。具体的な振れ量の計測法としては最大振れ幅を計測することである。即ち、このストライプパターンの長軸に平行な2つの側部(実態としては側面だが、計測においては側線)について、一方の側部が最も外部方向(現像前グリーンシート平面に平行な方向でストライプパターンのうねる前の中心軸である長軸から離れる方向)にうねった部位と、もう一方の側部が最も外部方向(一方の側部の外部方向とは反対方向になる)にうねった部位の、前記長軸に垂直方向で測った変位差を最大振れ幅とする。必要ならば、現像前後で寸法形状が実質上変化しないスケールをストライプパターン長軸に合わせて現像基台シート等に形成しておき、それを長軸として前記計測を行っても良い。振れ量の計測範囲は少なくともピッチの10倍以上の長さであることが好ましく、その範囲での最大振れ幅を振れ量と定義する。
【0047】
光硬化後の状態の硬化物の強度がどのような程度であることが好ましいかは、用いる感光性セラミックス組成物の無機粉末と感光性有機成分の配合比などに左右される。このため、グリーンシートを活性光線によって硬化させて得られる硬化後のシートの引張強度で評価し、この引張強度が0.4〜5N/mm2の範囲にあることが好ましい。
【0048】
引張強度が5N/mm2を越えると光硬化後の状態、すなわちビアホール形成したシートが硬くなりすぎてシートをハンドリングする後工程において、シートの破損が生じるなどのトラブルの原因となる。また0.4N/mm2より小さい場合にはシートの形態保持が困難となり、この場合にも後工程をスムースに進行させることが難しくなる。このような観点から0.5〜3N/mm2であることがより好ましく、0.6〜2.5N/mm2であることが更に好ましい。
【0049】
硬化シートは、溶媒成分を乾燥させて除去したシートに最適露光量の活性光線を照射し、70〜90℃で10〜20分間乾燥することにより作製できる。最適露光量は、無機粉末と感光性有機成分とを混練して得られた感光性セラミックスシートにおいて、ビアホール形成に適した露光量を選択する。
【0050】
本発明における引張強度の測定では、硬化シートを幅10〜25mm、長さ40〜100mm、厚さ0.1〜0.2mmのダンベル型試験片に成形したものを用いる。そして、引張試験機を用いて、引張速度50mm/分で、引張強度、伸びを測定する。測定は23℃、50%RH(相対湿度))の条件で、n=10の試験片の平均値を採る。
【0051】
感光性セラミックス組成物は、グリーンシートに加工された後、光硬化と現像によるビアホール形成工程、導体形成工程などを経た後、積層されて焼成され、多層セラミックス基板を構成するのに好適に用いられる。本発明の感光性セラミックス組成物は、高い屈折率の単官能アクリレートモノマーを用いて無機粉末との屈折率整合させ、また相溶性のよいウレタンアクリレートを用いることで透明性をあげてより深部まで硬化させることにより高微細なビアホール形成が可能であると共に、ビアホールの形成された状態、すなわちグリーンシートを光硬化した状態(以下、本発明の感光性セラミックス組成物がグリーンシートに加工された後に光硬化されたシートを、単に硬化シートという)が高い伸びや引っ張り弾性率、強度を有しており、つまり、後工程を進行させるのに好ましい物性の保持が可能である。
【0052】
感光性セラミックス組成物から形成されたグリーンシートの焼成を行う場合、グリーンシートの上面および下面に難焼結性のセラミックスシートを積層して焼成してもよい。それによって、厚み方向のみ収縮させ、X−Y平面にはほぼ無収縮となるようにできるが、X−Y平面方向の焼成収縮率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0053】
難焼結性のセラミックスとは、基板焼結温度では焼結しないセラミックス粉末で、アモルファスシリカ、石英、アルミナ、マグネシア、ヘマタイト、チタン酸バリウムおよび窒化硼素などから選択して用いることができる。これらの材料から得られるシートは、ダミー用グリーンシートまたは拘束シートなどと称せられる。このシートには、しばしば酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムなどの酸化剤やガラス・セラミックスグリーンシートとの密着性改良材となる酸化物粉末が1〜5重量%添加されることが好ましい。このような難焼結性のセラミックスシートの例としては、アルミナ粉末にポリビニルブチラール、ジオクチルフタレート、適当な酸化物、有機溶媒などを加えて、ドクターブレード法によってシート状に形成したものをあげることができる。
【0054】
グリーンシートの組成物の成分や配合組成、焼成時の諸条件により不可避の収縮が存在するので、収縮率を1%以下に抑制できるならば、ほぼ無収縮を達成したものと考えることができる。このような条件はスクリーン印刷等で形成した塗布膜にも適用(セラミックス等よりなる基板に感光性セラミックス組成物のペーストを塗布する手法であり、一般的には、前記基板はそのまま残り完成品の一部を構成する)することが可能であり、塗布膜の場合には、膜の下面には既に基板が存在しているので、膜の上面に拘束シートを配した状態で実施することができる。
【0055】
感光性セラミックス組成物中の無機粉末の配合量と感光性有機成分の配合量との比は6:4〜9:1の範囲内であることが好ましい。すなわち、感光性有機成分の配合量は10〜40重量%、さらには15〜35重量%であることが好ましい。感光性有機成分が10重量%より小さいと可撓性が低下し、40重量%より大きいと、組成物中の無機成分の間隙を埋め尽くしてしまい通気性が損なわれてしまうので、これらの特性の両立を維持するためには上記の範囲内とすることが好ましい。
【0056】
本発明の感光性セラミックス組成物は次のようにして調製することができる。まず感光性有機成分である一般式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物(成分A1)とエチレン性不飽和基を含有するウレタン化合物(成分A2)、好ましくは更に側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)や光重合開始剤に、必要に応じて溶媒や各種添加剤を混合した後、濾過し、有機ビヒクルを作製する。これに、必要に応じて前処理された無機粉末(成分B、好ましくはフィラー成分を含む)を添加し、ボールミルなどの混練機で均質に混合・分散して感光性セラミックス組成物のスラリーまたはペーストを作製する。このスラリーまたはペーストの粘度は無機粉末と有機成分の配合比、有機溶媒の量、可塑剤その他の添加剤の添加割合によって適宜調整されるが、その範囲は1〜5Pa・sが好ましい。スラリーもしくはペーストを構成する際に用いる溶媒は、感光性有機成分を溶解し得るものであればよい。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ−ブチロラクトン、トルエン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトン、イソフォロンなどや、これのうち1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。なお、前記溶媒がペーストに含まれる量は目的用途に応じて様々であり、前記粘度範囲となるならば、何等制限されるものではないが、例えば、塗布段階においては、ペースト(無機粉末を除く)中に10〜30重量%含まれていることが好ましい。但し、現像段階においては溶媒含量は実質上0であることが好適である。
【0057】
得られたペーストをドクターブレード法、押し出し成形法などの一般的な方法でポリエステルなどのフィルム上に厚さ0.05〜0.5mmに連続的に成形し、溶媒を乾燥除去することにより、感光性セラミックス組成物であるグリーンシートが得られる。ビアホールは、この感光性セラミックス組成物であるグリーンシートに対して、ビアホール形成用パターンを有するフォトマスクを通したパターン露光を行い、アルカリ水溶液で現像することによって形成される。露光に用いる光源は超高圧水銀灯が最も好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。露光条件はグリーンシートの厚みによって異なり、5〜100mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いて5秒〜30分間露光を行う。なおビアホール形成と同じ手法でシート積層時のアライメント用ガイド孔を形成しておくことができる。
【0058】
本発明の感光性セラミックス組成物の感光性有機成分には、側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)が含有されていれば、アルカリ水溶液で現像することができるので好ましい。アルカリ水溶液としては、ナトリウムやカリウムなどの金属アルカリ水溶液、有機アルカリ水溶液が使用できるが、特に炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などの弱塩基性金属塩水溶液、あるいは水酸基を含まない有機アミン化合物で炭素数が1〜6までのものの少なくとも一種(たとえばn−プロピルアミン、t−ブチルアミン、ジイソプロピルアミン)を用いたとき寸法変化率が1〜1.5(より好適には1〜1.3、更に好適には1〜1.2)に抑えられる。その場合のアルカリ水溶液の濃度は通常0.1〜3重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%である。アルカリ濃度が低すぎれば可溶部が完全に除去されず、アルカリ濃度が高すぎれば、露光部のパターンを剥離させたり、侵食したりするおそれがある。現像時の温度は、20〜50℃で行うことが工程管理上好ましい。現像方法としては、一般的な浸漬法、スプレー法が用いられる。また、超音波を併用して現像時間の短縮や現像ムラの減少化を図る方法もある。
【0059】
このようにして、焼成前の厚みが10〜500μm、最密なビアホールパターン部分がビアホール直径20〜200μm、ビアホールピッチ30〜250μmのシートを作製することができる。本発明では、この状態のシートの物理的特性が良好であるため、後工程の歩留まりが向上することを特徴としている。
【0060】
次に必要な枚数の配線パターンの形成されたシートをガイド孔を用いて積み重ね、80〜150℃の温度で5〜25MPaの圧力で接着し、多層シートを作製する。このグリーンシート積層体の両面に、このグリーンシートの焼結温度では実質的に焼結収縮を示さない無機組成物(例:アルミナやジルコニア)を主成分とする拘束シートを積層配置し、作製したグリーンシート多層体を焼成処理し、その後、この拘束シートを取り除く無収縮焼成を行って目的とする多層基板を作製することができる。焼成は焼成炉において行う。焼成雰囲気や温度は感光性セラミックス組成物中の無機粉末や有機成分の種類によって異なるが、空気中、窒素雰囲気中、または水素還元雰囲気中で焼成する。本発明の感光性セラミックス組成物の焼成は600〜950℃の温度で行う。このようにして得られたセラミックス多層基板は高周波回路用基板として用いられる。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、濃度(%)は特に断らない限り重量%である。実施例に用いた無機微粒子成分および有機成分は次の通りである。
【0062】
A.感光性有機成分
(成分A1)
モノマーI:パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成株式会社製)
モノマーII:ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート(東亞合成株式会社製)
光重合開始剤:2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリノフェニル)−ブタノン−1
(成分A2)
ウレタン化合物I:下記の一般式(1’)において、R1は水素、R2はエチレンオキサイド基、R3はイソフォロンジイソシアネート残基、R4はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコオリゴマーで、一般式(1’)中のエチレンオキサイドの含有率は30%であるもの、全体の分子量は19000
CH2=CR1COO−R2−(R3−R4)n−R3−R2−OCOCR1=CH2 (1')
ウレタン化合物II:上記の一般式(1’)において、R1は水素、R2はプロピレンオキサイド基、R3はイソフォロンジイソシアネート残基、R4はプロピレンオキサイドオリゴマーであるもの、全体の分子量は42000
ウレタン化合物III:ウレタンアクリレートUV6100B(日本合成化学工業株式会社製)
(成分A3)
ポリマーI:スチレン30%、メチルメタクリレート30%およびメタクリル酸40%からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応したもの、重量平均分子量43000、酸価95
ポリマーII:ダイセル化学工業株式会社製サイクロマーP(ACA)250(メタクリル酸とメチルメタクリレートとの共重合体に3,4−エポキシシクロヘキシルメタクリレートを付加反応して得られたもの)、重量平均分子量10000、酸価75
B.無機粉末
無機粉末I:
アルミナ粉末49.8%+ガラス粉末50.2%の複合セラミックス
上記アルミナの特性:平均粒子径2μm
上記ガラス粉末の組成:Al2O3(10.8%)、SiO2(51.5%)、PbO(15.6%)、CaO(7.1%)、MgO(2.86%)、Na2O(3%)、K2O(2%)、B2O3(5.3%)
上記ガラス粉末の特性:ガラス転移点565℃、熱膨張係数60.5×10-7/K、誘電率8.0(1MHZ)、平均粒子径2μm
無機粉末II:
Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末
上記ガラス粉末の組成:Al2O3(8.7%)、SiO2(67%)、ZrO2(2.7%)、K2O(1.6%)、B2O3(12.5%)
上記ガラス粉末の特性:ガラス転移点500℃、熱膨張係数42×10-7/K、誘電率4.7(1MHZ)、平均粒子径3μm
無機粉末III:
Al2O3−SiO2−B2O3系ガラス粉末85%+石英15%の複合セラミックス
上記ガラス粉末の組成:Al2O3(1.87%)、SiO2(67.3%)、K2O(1.22%)、B2O3(11.8%)、
上記ガラス粉末の特性:ガラス転移点507℃、熱膨張係数46×10-7/K、誘電率4.6(1MHZ)、平均粒子径2.2μm
無機粉末IV:
Al2O3−SiO2−B2O3系複合セラミックス
上記セラミックスの組成:Al2O3(0.34%)、SiO2(84.3%)、K2O(1.29%)、B2O3(11.7%)、
上記セラミックスの特性:ガラス転移点509℃、熱膨張係数22×10-7/K、誘電率4.5(1MHZ)、平均粒子径2.5μm
無機粉末V:
アルミナ粉末50%+ガラス粉末50%との複合セラミックス(NKX−592J(日本フェロー株式会社製))
上記アルミナ粉末の特性:平均粒子径2μm
上記ガラス粉末の組成:Al2O3−B2O3−SiO2−CaO系ガラス
上記ガラス粉末の特性:平均粒子径4.8μm、
無機粉末VI:
アルミナ・結晶性ガラス複合系セラミックス(FJ352J(日本フェロー株式会社製))
上記ガラス粉末の組成:Al2O3−B2O3−SiO2−CaO−ZnO系ガラス
上記ガラス粉末の特性:ガラス転移点683℃、熱膨張係数52×10-7/K、平均粒子径5μm
無機粉末VII:
結晶性ガラス(FJ351J(日本フェロー株式会社製))
上記ガラス粉末の組成:Al2O3−B2O3−SiO2−MgO系ガラス
上記ガラス粉末の特性:ガラス転移点681℃、熱膨張係数90×10-7/K、平均粒子径5μm
無機粉末VIII:
非結晶性ガラス(K805(旭テクノグラス株式会社製))
上記ガラス粉末の組成:Al2O3−B2O3−SiO2系ガラス
無機粉末IX:
ガラス粉末80%とSiO220%の混合物
上記ガラス粉末の組成:Al2O3−B2O3−SiO2系ガラス。
【0063】
C.現像液
現像液I:炭酸ナトリウム1.5%水溶液
現像液II:n−プロピルアミン0.5%水溶液
現像液III:2−アミノエタノール0.5%水溶液。
【0064】
D.有機ビヒクルの作製
溶媒およびポリマーを混合し、撹拌しながら60℃に加熱し、すべてのポリマーを溶解させた。溶液を室温まで冷却し、ウレタン化合物、モノマー、光重合開始剤を加えて溶解させた。その溶液を真空脱泡した後、250メッシュのフィルターで濾過し、有機ビヒクルを作製した。
【0065】
E.ペースト調整
上記の有機ビヒクルに無機粉末を混合し、ボールミルで20時間湿式混合しスラリーまたはペーストとした。有機ビヒクル中の感光性有機成分を合わせた30重量部に対して無機成分の量は70重量部とした。
【0066】
F.グリーンシートの作製
成形は紫外線を遮断した室内でポリエステルのキャリアフィルムとブレードとの間隔を0.1〜0.8mmとし、成形速度0.2m/min.でドクターブレード法によって行った。シートの厚みは150μmであった。
【0067】
G.ビアホ−ルの形成
グリーンシートを100mm角に切断した後、温度80℃で1時間乾燥し、溶媒を蒸発させた。ビア径30〜100μm、ビアホールピッチ500μmのクロムマスクを用いて、シートの上面から15〜25mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いてシートとマスクの間を密着条件下で、1分間パターン露光した。次に、25℃に保持した現像液により現像し、その後、スプレーを用いてビアホールを水洗浄した。
【0068】
H.振れ幅の計測
膜厚150μm、線幅75μm、ピッチ150μmのパターンを形成した後、断面の上面を走査型電子顕微鏡で測定し、ラインに沿って約1mmにわたっての振れ量を計測し3サンプルの平均を算出した。
【0069】
I.焼成時に用いる拘束シートの作製
アルミナ粉末またはジルコニア粉末またはマグネシア粉末にポリビニルブチラール、ジオクチルフタレート、有機溶媒など加えて、ドクターブレード法によってシート上に作製したものを用いた。
【0070】
J.多層基板の作製
本発明の感光性セラミックス組成物からなるグリーンシートを5〜6枚積層し、上下に無収縮焼成のための拘束シートを配置し、80℃でプレス圧力150kg/cm2にて熱圧着した。得られた多層体を空気中で、900℃の温度で30分間焼成して、多層基板を作製した。焼成収縮率はX−Y面方向で測定した。
【0071】
K.グリーンシートの引張強度、伸びの測定
グリーンシートを最適露光量の活性光線を照射し、硬化させ、80℃で15分間乾燥した。最適露光量は、無機粉末と感光性有機成分とを混練して得られた感光性セラミックス組成物においてビアホール形成を行うに適した露光量の中央値を用いた。得られた試験片は、幅10〜25mm、長さ40〜100mm、厚さ0.1〜0.2mmのダンベル型とし、引張試験機を用いて、引張速度50mm/分で、JIS K6301に従って引張強度、伸びを測定した。測定は23℃、50%RHの条件でn=10の試験片の平均値を採用した。
【0072】
L.誘電率の測定
誘電率はインピーダンズアナライザーあるいは空洞共振器を用い、ネットワークアナライザーにより測定した。
M.曲げ強度、亀裂の測定
曲げ強さ試験(JIS R1601)にしたがってその抗折強度を測定した。
【0073】
亀裂は表面を目視にて観察して計数した。
【0074】
実施例1
無機粉末として無機粉末I(70%)を、感光性有機成分としてポリマーI(15%)、ウレタン化合物I(2%)、モノマーI(5%)および光重合開始剤を用い、厚み150μmのグリーンシートを得た。ビアホールの形成を試みたところ、75μmのビアホールが形成できた。現像は現像液Iを用いて行った。感光性有機成分のヘイズ値を測定したところ0.2であった。なお、感光性有機成分のヘイズ値は、感光性有機成分をガラス基板に塗布、乾燥した後、ヘイズメーターの測定によって得た。この時の塗布膜厚は100μmである。ラインの振れ量を計測したところ1.2であった。得られたシートを硬化させた後、アルミナ拘束シートを用いて、900℃、30分間焼成して得られた多層白基板に亀裂は見られず、曲げ強度は270MPaであった。また誘電率は7.8(1MHz)であった。シートの硬化後の引っ張り強度、伸びを測定したところそれぞれ0.6N/mm2、20%であった。
【0075】
実施例2〜13
表1にあるような各成分を用いて実施例1にある操作を繰り返した。またその結果を表1に示した。寸法変化率が小さく、高強度であった。
【0076】
比較例1
無機粉末として無機粉末I(70%)を、感光性有機成分としてポリマーI(15%)、ウレタン化合物I(2%)、モノマーI(5%)および光重合開始剤を用いて実施例1を繰り返した。得られたシートは150μm、現像液は現像液IIIを用いた。寸法変化率は2.0であり膨潤がひどかった。アルミナ拘束シートを用いて焼成したところ、多層白基板には亀裂が見られ、曲げ強度は150MPaであった。また誘電率は7.0(1MHz)であった。シートの硬化前、硬化後の引っ張り弾性率を測定したところ0.2N/mm2、5%であった。シートおよび基板の強度は十分ではなかった。
【0077】
比較例2
無機粉末として無機粉末I(70%)を、感光性有機成分としてポリマーI(15%)、ウレタン化合物II(2%)、モノマーI(5%)および光重合開始剤を用いて実施例1を繰り返した。寸法変化率は1.8であり膨潤がひどかった。アルミナ拘束シートを用いて焼成したところ、多層白基板には亀裂が見られ、曲げ強度は100MPaであった。また誘電率は6.5(1MHz)であった。シートの硬化前、硬化後の引っ張り弾性率を測定したところ0.1N/mm2、3%であった。シートおよび基板の強度は十分ではなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
【発明の効果】
本発明の無機粉末および感光性有機成分からなる感光性セラミックス組成物、特に感光性有機成分が芳香環を有するアクリル化合物とエチレン性不飽和基を含有するウレタン化合物を含む感光性セラミックス組成物を弱塩基性金属塩水溶液、あるいは水酸基を含まない有機アミン化合物で炭素数が1〜6までのものを用いることにより、透明性が高く、寸法安定性に優れた、セラミックス基板材料の高アスペクト比かつ高精細のビアホール形成が可能であると共に、エチレン性不飽和基を含有するウレタン化合物の効果によって、応力を低減し、焼成欠陥を抑制することができる。
Claims (12)
- 下記一般式(1)で示される(メタ)アクリレート化合物(成分A1)とエチレン性不飽和基を有するウレタン化合物(成分A2)を含有する感光性有機成分(成分A)と無機粉末(成分B)を必須成分とする感光性セラミックス組成物であって、膜厚150μm、線幅75μm、ピッチ150μm、高さ150μmのパターンを炭酸ナトリウム1.5%水溶液またはn−プロピルアミン0.5%水溶液のいずれかで現像して作製した場合の現像時の寸法変化率が1以上1.5以下であることを特徴とする感光性セラミックス組成物。
CH2=CR1COO−(R2)n−R3−R0 (1)
(一般式(1)において、R0は、CH2=CR1COO−(R2)n−、水素原子、又は、ハロゲン原子であり、R1は水素あるいはメチル基、R2はアルキレンオキサイドまたはそのオリゴマー、nは1〜5の整数であり、R3は炭素数1〜15の環式又は非環式のアルキレン、アリール、アリールエーテル、アリーレン、アリーレンエーテル、アラルキル、アラルキレンから選ばれたもの、或いは、それらに炭素数1〜9のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、或いはアリール基の置換基が有るものである。) - 一般式(1)の少なくとも一つのR3部位に芳香族環を有することを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 一般式(1)の少なくとも一つのR2部位にエチレンオキサイド基を有することを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 成分A1はパラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレートであることを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 成分A2が、一般式(2)で表されるウレタン化合物であることを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
CH2=CX1COO−X2−(X3−X4)n−X3−X2−OCOCX1=CH2 (2)
(一般式(2)において、X1は水素、水酸基あるいはメチル基、X2、X4はアルキレンオキサイドまたはそのオリゴマーであり、少なくとも何れか一方にエチレンオキサイド基が含まれ、X3はウレタン結合を含む脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート残基である。nは1〜10の整数である)。 - 感光性有機成分(成分A)には、側鎖にカルボキシル基を有する重合体(成分A3)が含有されることを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 無機粉末(成分B)には、RxO−Al2O3−SiO2系材料(Rはアルカリ金属(x=2)あるいはアルカリ土類金属(x=1)を示す)が含有されていることを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 無機粉末(成分B)には、ガラス粉末が50〜90重量%含有され、石英粉末、アモルファスシリカ粉末の少なくとも1つが10〜50重量%含有されていることを特徴とする請求項1記載の感光性セラミックス組成物。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の感光性セラミックス組成物を下記a)又はb)のいずれかの現像液で現像することを特徴とする感光性セラミックス組成物の現像方法。
a)弱塩基性金属塩水溶液
b)水酸基を含まない炭素数が1〜6までの有機アミン化合物 - 該現像液のa)が炭酸ナトリウム水溶液または炭酸カリウム水溶液であることを特徴する請求項9記載の感光性セラミックス組成物の現像方法。
c)炭酸ナトリウム水溶液または炭酸カリウム水溶液 - 請求項10記載の感光性セラミックス組成物の現像液の濃度が0.1〜3重量%であることを特徴とする感光性セラミックス組成物の現像方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の感光性セラミックス組成物を用いて焼成したことを特徴とするセラミック多層基板。
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