JP4037943B2 - 炭素繊維フェルトの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、炭素繊維フェルトの製造方法に関し、特に二次電池用として電力貯蔵などに利用されるナトリウム−硫黄電池の陽極材料用途に好適な炭素繊維フェルトの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電力需要の増加に伴って、夜間の余剰電力を蓄電し、昼間に放出するために蓄電池として充放電効率の高いナトリウム−硫黄電池が研究されている。このナトリウム−硫黄電池においては、陽極室内に陽極物質としての硫黄が含浸された炭素繊維フェルトが収容されている。そして放電時にはこのフェルトの繊維上でナトリウムと硫黄が反応して多硫化ナトリウムを生成し、充電時には多硫化ナトリウムの酸化還元反応によりナトリウムと硫黄を生成する。
【0003】
ナトリウム−硫黄電池の陽極集電材として用いられる炭素繊維フェルトの比抵抗値はできるだけ低いことが好ましい。炭素繊維フェルトの比抵抗値はフェルトを構成する炭素繊維そのものの比抵抗値とフェルト単位体積あたりの炭素繊維の本数あるいは嵩密度によって規定されると考えられる。
【0004】
前記炭素繊維フェルトは、一般にポリアクリロニトリル系繊維などの有機系耐炎繊維またはポリアクリロニトリル系有機系耐炎繊維と石油ピッチ系、石炭ピッチ系の炭素繊維から構成される前駆体フェルト状物を不活性雰囲気中で炭素化処理して得られる。
【0005】
このときの炭素化処理温度としては、例えば特開平2−139464号公報には、最高炭素化温度1800℃以上で5分間処理することが開示されている。また、特開平3−219566号公報には耐炎繊維の不織布をセルロース系の織物で補強し、最高炭素化温度2000℃での焼成を行うことが示されている。同様に特開平7−326384号公報、特開平8−64236号公報でも2000℃で炭素化処理することが示されている。
【0006】
焼成時の最高炭素化温度としてこのように2000℃前後で焼成する理由は、炭素化温度を高め、炭素繊維の黒鉛構造をより発達させ、炭素繊維フェルトの比抵抗値を低減させるためと考えられる。2000℃前後の焼成温度では、すでに炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維の黒鉛構造が十分発達し、炭素化温度を上昇させることによる比抵抗値低下が飽和領域になっていると推定される。
【0007】
しかしながら、最高炭素化温度を2000℃以上にすると、炭素化収率が低下し、生産性が悪くなり、また炭素化炉の価格も高くなる問題がある。
【0008】
また、炭素繊維フェルトの比抵抗値を低減させる別の手段として、前駆体フェルトを構成する繊維の嵩密度を上げることも考えられる。しかしながら、前駆体繊維の量を増すとそれだけ製造コストが上昇し、また炭素繊維フェルトの嵩密度を増すと、ナトリウム−硫黄電池の陽極を形成する際の炭素繊維フェルトへの硫黄の含浸性が悪化する場合がある。
【0009】
また、特開平7−85863号公報には、電池の充放電効率を向上させるためにフェルトの厚み方向に構成繊維が異なる炭素繊維を多層構造とした炭素繊維フェルトが開示されている。しかし、この製造方法は、複雑であり製造コストの面からも実用的には必ずしも十分ではない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来の炭素繊維フェルトの製造方法においては、フェルトの比抵抗と炭素化収率、さらには経済性とを同時に満足するものは全く知られていなかった。
【0011】
即ち、本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、電極材料として十分に低い比抵抗を有する炭素繊維フェルトを、低コストで生産性良く製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機系耐炎繊維70〜90wt%と炭素繊維30〜10wt%からなり、厚み方向に実質的に均質な構造を有する前駆体フェルト状物を、最高温度1100〜1500℃、および1100℃以上の温度領域での処理時間2〜360分の条件で炭素化処理を施して比抵抗値を0.5Ω・cm以下とすることを特徴とする炭素繊維フェルトの製造方法に関する。
【0013】
本発明において、炭素化最高温度を1100℃以上とすることにより炭素繊維の黒鉛構造が形成され、電極材料として用いるのに十分に比抵抗値の低い炭素繊維フェルトが得られる。また、炭素化温度の最高温度が1500℃を超えると、炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維の比抵抗値は徐々に低下して行くが、炭素繊維の炭素化収率が低下していくため、炭素繊維フェルトとしての比抵抗値は1500℃で炭素化したときよりも高くなる場合がある。従って、1500℃以下とすることにより、十分に低い抵抗値と共に、高い炭素化収率で炭素繊維へ転換することができる。
【0014】
また、1100℃以上の温度領域での処理時間は、2分以上とすることにより、黒鉛構造が十分に形成される。また、360分を超えると炭素化収率が低下し、炭素繊維フェルトとしての比抵抗値が上昇するが、360分以下とすることで十分に低い抵抗値と共に、高い炭素化収率で炭素繊維へ転換することができる。この処理時間は、好ましくは5〜180分である。
【0015】
このように本発明では、炭素化最高温度を2000℃前後とした場合に比べ、炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維そのものの比抵抗値は上昇するが、炭素化温度を低くした分炭素化収率が上昇するため、炭素繊維フェルトとしての比抵抗値は2000℃で炭素化した場合に比べ同等以下に低くすることができる。同時に、2000℃で炭素化する場合に比べ炭素化温度を低減した分焼成コストを下げることが可能である。
【0016】
即ち、本発明によれば、電極材料として十分な0.5Ω・cm以下の比抵抗と、実用的な生産性である50%を超える炭素化収率、さらには経済性とを同時に満足することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明において、厚み方向に実質的に均質な構造を有する前駆体フェルト状物とは、厚み方向に層構造等が形成されていないことを意味し、特に構成繊維が耐炎繊維と炭素繊維からなる混合繊維を用いる場合などは、その繊維の混合状態がフェルトの厚み方向で均質であることを意味する。このような前駆体フェルトは適当な長さに切断した繊維を混合し、スライバー状にしてウエッブを作成しニードルパンチングを施すなど、公知の方法で作成することができる。
【0018】
本発明において用いられる有機系耐炎繊維としては、本発明の炭素化処理によって炭素繊維に転換できるものであればどのようなものでもよい。このような有機系耐炎繊維は、通常の炭素繊維の製造方法において、炭素化処理に先立って行われる耐炎化処理を施された繊維であり、有機繊維を酸化性雰囲気下で例えば200〜300℃程度で加熱処理して得られる。
【0019】
このようなものとしては、ポリアクリロニトリル系繊維、セルロース系繊維、フェノール樹脂系繊維、ポリビニールアルコール系繊維などを耐炎化処理して得られた耐炎繊維が挙げられる。これらの有機系耐炎繊維の中でも、ポリアクリロニトリル系繊維を原料とする耐炎繊維が、炭素化後の繊維の機械的な強度が優れている点から好ましい。このPAN系耐炎繊維は公知の方法で製造できる。
【0020】
また、前駆体フェルト状物の構成繊維として用いられる炭素繊維も特に限定されず、ポリアクリロニトリル系、セルロース系、フェノール樹脂系、石油ピッチ系、石炭ピッチ系などの炭素繊維を用いることができる。この中でも、石油ピッチまたは石炭ピッチを原料とする炭素繊維が、比抵抗率が低い点から好ましい。
【0021】
前駆体フェルト状物の構成繊維として、有機系耐炎繊維と炭素繊維の混合繊維を用いる場合、その混合比率は炭素化後の炭素繊維フェルトの物性に大きく影響する。NAS電池用の陽極導電体として用いる場合は前述のごとく、嵩密度、比抵抗、機械的強度やフェルトの圧縮弾性をその炭素化条件とともに適切に選ぶ必要があり、本発明者らの検討では、有機耐炎繊維を70wt%以上、炭素繊維を30wt%以下の割合で混合させることが好ましい。
【0022】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0023】
[比抵抗値の測定]
図1に示すような装置を用いて、炭素繊維フェルト2を銅板(作動電極1と対向電極3)に挟み、フェルトを圧縮しながら電気抵抗値を測定する。電気抵抗値はフェルトを圧縮することによって減少するが、ある厚みより薄くなると一定となる。一定となったときの電気抵抗値と、マイクロメータ4で測定したそのときの試料厚みを用い、下式により比抵抗値を算出する。
【0024】
比抵抗値(Ω・cm)=電気抵抗値(Ω)×試料断面積(cm2)÷試料厚み(cm)
[炭素化収率]
前駆体フェルトの重量を測定する。炭素化処理した後、炭素繊維フェルトの重量を測定する。下式により炭素化収率を算出する。
【0025】
炭素化収率(%)=炭素繊維フェルトの重量(g)÷前駆体フェルトの重量(g)×100
[フェルトの嵩密度]
フェルトの寸法(幅、長さ、厚み)および重量を測定し、下式により算出した。
【0026】
嵩密度(g/cm3)=フェルトの重量(g)÷フェルトの体積(cm3
製造例](アクリロニトリル系耐炎繊維の製造例)
アクリロニトリルを96モル%含有し、共重合成分としてメタクリル酸2モル%、アクリル酸メチル2モル%を含有する単糸繊度2.0デニール、構成フィラメント数300000本の繊維を準備し、空気雰囲気中220〜260℃で熱処理して密度1.40g/cm3の耐炎繊維を作製した後、捲縮処理を施し切断長50mmのステープルファイバーを得た。
【0027】
参考例1]
製造例で製造したアクリロニトリル系耐炎繊維のステープルファイバーを用い、公知の方法でウエッブを作製し、これを積層しニードルパンチングして、厚さ30mm、嵩密度0.13g/cm3の前駆体フェルトを作製した。
【0028】
得られた前駆体フェルトを窒素ガス雰囲気中で室温より1400℃まで10℃/minで昇温し、1400℃で一時間保持した後、600℃まで10℃/minで降温し、以降室温まで自然冷却させた。
【0029】
得られた炭素繊維フェルトの比抵抗値および炭素化収率の測定結果を、以下の実施例および比較例の結果と共に表1に示す。
【0030】
[比較例1]
参考例1で用いたものと同じ前駆体フェルトを、窒素雰囲気中で1600℃まで10℃/minで昇温し、1600℃で一時間保持した以外は参考例1と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0031】
[比較例2]
参考例1で用いたものと同じ前駆体フェルトを、窒素雰囲気中で1000℃まで10℃/minで昇温し、1000℃で一時間保持した以外は参考例1と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0032】
[比較例3]
参考例1で用いたものと同じ前駆体フェルトを、窒素雰囲気中で1500℃まで10℃/minで昇温し、1500℃で六時間保持した以外は参考例1と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0033】
[実施例
製造例で製造したアクリロニトリル系耐炎繊維のステープルファイバーと、石炭ピッチを原料として製造されたピッチ系汎用炭素繊維ドナカーボS(ドナック社製:商品名)のステープルファイバーを、重量比率としてポリアクリロニトリル系耐炎繊維80wt%、ドナカーボS20wt%で混合し、ウエッブを作製し、これを積層しニードルパンチングして、厚さ15mm、嵩密度0.15g/cm3の前駆体フェルトを作製した。
【0034】
得られた前駆体フェルトを窒素ガス雰囲気中で室温より1300℃まで10℃/minで昇温し、1300℃で一時間保持した後、600℃まで10℃/minで降温し、以降室温まで自然冷却させて炭素繊維フェルトを得た。
【0035】
[比較例4]
実施例で用いたものと同じ前駆体フェルトを、窒素雰囲気中で1800℃まで10℃/minで昇温し、1800℃で一時間保持した以外は実施例と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0036】
[実施例
実施例と同様にポリアクリロニトリル系耐炎繊維およびドナカーボSのステープルファイバーを、重量比率でそれぞれ90wt%および10wt%混合した後ウエッブを作製し、これを積層しニードルパンチングして、厚さ23mm、嵩密度0.15g/cm3の前駆体フェルトを作製した。
【0037】
得られた前駆体フェルトを窒素ガス雰囲気中で室温より1500℃まで10℃/minで昇温し、1500℃で一時間保持した後、600℃まで10℃/minで降温し、以降室温まで自然冷却させて炭素繊維フェルトを得た。
【0038】
[比較例5]
実施例で用いたものと同じ前駆体フェルトを、窒素雰囲気中で2000℃まで10℃/minで昇温し、2000℃で一時間保持した以外は実施例と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0039】
[実施例
実施例と同様にポリアクリロニトリル系耐炎繊維およびドナカーボSのステープルファイバーを準備し、これらを比率でそれぞれ70wt%および30wt%混合した後ウエッブを作製し、これを積層しニードルパンチングして、厚さ10mm、嵩密度0.15g/cm3の前駆体フェルトを作製した。
【0040】
得られた前駆体フェルトを窒素ガス雰囲気中で室温より1100℃まで10℃/minで昇温し、1100℃で30分保持した後、600℃まで10℃/minで降温し、以降室温まで自然冷却させて炭素繊維フェルトを得た。
【0041】
[比較例6]
実施例で用いたものと同じ前駆体フェルトを、1100℃で1分保持した以外は実施例と同様に処理して炭素繊維フェルトを得た。
【0042】
【表1】
Figure 0004037943
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、電極材料として十分に低い比抵抗を有する炭素繊維フェルトを、低コストで生産性良く製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】比抵抗値を測定するのに用いた装置の概略を示した図である。
【符号の説明】
1 作動電極
2 炭素繊維フェルト
3 対向電極
4 マイクロメーター

Claims (3)

  1. 機系耐炎繊維70〜90wt%と炭素繊維30〜10wt%からなり、厚み方向に実質的に均質な構造を有する前駆体フェルト状物を、最高温度1100〜1500℃、および1100℃以上の温度領域での処理時間2〜360分の条件で炭素化処理を施して比抵抗値を0.5Ω・cm以下とすることを特徴とする炭素繊維フェルトの製造方法。
  2. 1100℃以上の温度領域での処理時間が30〜140分である請求項1記載の炭素繊維フェルトの製造方法。
  3. 前記炭素繊維が、石油ピッチ系または石炭ピッチ系の炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の炭素繊維フェルトの製造方法。
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