JP4026962B2 - 高硬度抗菌性鋼材およびその製造法 - Google Patents
高硬度抗菌性鋼材およびその製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Hv700以上の高硬度を有しかつ抗菌性を有する鋼材およびその製造法に関するものであり、特に食品加工や厨房関連で使用される刃物に適した鋼材およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、食品加工や厨房関連の分野を中心に抗菌性を有する材料が注目されている。これは、生活環境の衛生指向が強まる中、大腸菌O-157による集団食中毒や耐性ブドウ球菌(MRSA)による院内感染が社会問題化したこともあり、感染経路となることが懸念される部位に使用される材料を抗菌性のあるものに変えようとする傾向が一般化してきたことが一因と考えられる。
【0003】
抗菌性材料には、大きく分けて、素材そのものに抗菌性を持たせたもの、抗菌性のある塗料等を素材に被覆したものがある。このうち、前者の代表例としては樹脂系抗菌材料と抗菌ステンレス鋼がある。
【0004】
抗菌ステンレス鋼は、厨房関連や家電(例えば洗濯機の内部)など、強度,耐熱性,耐疵付き性などの特性において樹脂系抗菌材料や抗菌性塗料の塗布では対応できない用途にもっぱら使用されている。包丁などの刃物に使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼においても抗菌性を付与したものが開発されており、例えば特開平9−195016号公報に示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
マルテンサイト系ステンレス鋼は、従来から一般家庭用の包丁などに広く用いられている。しかし、マルテンサイト系ステンレス鋼の刃物は「切れ味」の面で高炭素鋼の刃物に遠く及ばないのが現状である。この切れ味の優劣は主として素材の硬さに起因すると考えられる。マルテンサイト系ステンレス鋼で作った刃物の硬さは通常Hv580程度である。これに対し、高炭素鋼で作ったいわゆる打ち刃物は、SK5程度の高炭素鋼を素材として用いながら焼入れを行うことによってHv800程度の刃先硬度を得ている。
【0006】
料理店や学校・病院などの厨房で使う包丁を例にとると、プロの料理人としての切れ味へのこだわりからHv700以上の硬さが要求されることに加え、細菌汚染防止の観点からは抗菌性を有していることも昨今強く望まれている。しかし、マルテンサイト系抗菌ステンレス鋼ではHv700以上といった高硬度を実現することは困難である。一方、高炭素鋼に抗菌性を付与した高硬度素材が開発されていないのも現状である。
【0007】
ステンレス鋼に抗菌性を付与する手段としてはCuを含有させる方法がよく用いられており、特開平9−195016号公報に開示のマルテンサイト系抗菌ステンレス鋼もその一例である。しかし、高炭素鋼の場合は、Cuを含有させると焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、高硬度が得られなくなってしまうという問題がある。高炭素鋼で抗菌性のある鋼材が未だ実用化されていないのはこのためである。本発明は、上記問題を解決し、Hv700以上の高硬度を有する高炭素鋼の抗菌性鋼材を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗菌性鋼材である。
ここで、マルテンサイト組織を主体とした金属組織は、概ね70体積%以上のマルテンサイト組織を有する金属組織であり、他に残留オーステナイト相や炭化物、さらにはε−CuなどのCu濃化相を有していてもよい。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1で規定する鋼組成を、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下,Ni:0〜2.0%,Mo:0〜1.0%,W:0〜2.0%,V:0〜1.0%,Ti:0〜0.2%,Nb:0〜0.2%,Co:0〜3.0%,B:0〜0.005%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成に変えたものである。
ここで、Ni,Mo,W,V,Ti,Nb,Co,Bの下限値の0%とは、その元素が無添加である場合を意味する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1で規定する鋼組成を、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下を含み、さらにNi:0.5〜2.0%,Mo:0.1〜1.0%,W:0.5〜2.0%,V:0.1〜1.0%,Ti:0.05〜0.2%,Nb:0.05〜0.2%,Co:0.5〜3.0%,B:0.001〜0.005%のうち1種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成に変えたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3の発明において、金属組織がマルテンサイト組織を主体とし残留オーステナイト相とCu濃化相を有するものである点を規定したものである。
ここで、Cu濃化相としてはε−Cuなどが挙げられる。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜4の発明において、マルテンサイト組織が特に焼戻しマルテンサイト組織である点を規定したものである。
ここで、焼戻しマルテンサイト組織は、焼入れで生じたマルテンサイト組織がいわゆる低温焼戻しによって変化した組織を意味する。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1〜5の発明において、鋼材が特に刃物用である点を規定したものである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法であって、焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が0.2体積%以上存在している状態の鋼を焼入れ(すなわち急冷)することを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の発明は、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法であって、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理によりCu濃化相を析出させた鋼を、750〜950℃で1〜60分加熱保持して焼入れ(すなわち急冷)するものである。
【0016】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、Cu濃化相を析出させる熱処理後焼入れ時の加熱前に、冷間加工を施す点を規定したものである。
【0017】
請求項10の発明は、請求項8または9の発明において、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理が熱間加工後の冷却過程で行われる点を規定したものである。
【0018】
請求項11の発明は、請求項6〜10の発明において、焼入れ後、特に100〜350℃で10〜120分焼戻しする点を規定したものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
発明者らは、高炭素鋼にCuを添加しても焼入れ硬さを低下させないようにする手法について検討を重ねた。Cuが炭素鋼中にある程度多く固溶すると、Ms点が大幅に低下することに起因して軟質な残留オーステナイトが多量に生成してしまうために硬さが低下する。そこで、焼入れ処理に先立ち固溶Cuをε−Cu等のCu濃化相として十分に析出させておき、焼入れ処理では炭化物を適切に溶解させながらもCu析出物のオーステナイトへの固溶を抑える加熱を施し、Ms点の低下を抑えた状態から焼入れ(急冷)する手法を見出した。この手法により、高炭素鋼においてCu添加による抗菌性の付与とHv700以上の高硬度化を両立させることが可能であることがわかった。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
【0020】
Cuは、本発明において抗菌性を付与するために必要な合金元素である。高炭素鋼に2.0質量%以上のCuを含有させると、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対する滅菌率が99%以上という高い抗菌性が付与される。3.0質量%以上のCu含有量でこれらの菌に対してほぼ100%の滅菌率が得られる。ただし、高炭素鋼に抗菌性を付与するには5.0質量%以下の含有量で十分であり、それより多く含有させると製造性その他の問題が生じやすくなる。したがって、Cu含有量は2.0〜5.0質量%、好ましくは3.0〜5.0質量%とする。
【0021】
Cは、鋼材の硬さを最も顕著に支配する元素である。0.6質量%未満のC含有量では刃物などに適した焼入れ硬さが得られない。一方、1.5質量%を超えて含有させても硬さは必ずしも上昇せず、却って靱性の低下をきたす。したがって、C含有量は0.6〜1.5質量%とする。
【0022】
Siは、脱酸剤として有効な元素であり、焼戻し軟化抵抗を増大させ、抗菌性も向上させる。これらの効果は3.0質量%で飽和し、それより多く添加してもSiの増量に見合った性質の改善は見られない。したがって、Si含有量は3.0質量%以下とする。好ましいSi含有量の範囲は0.05〜3.0質量%である。
【0023】
Mnは、焼入れ性を高める元素である。しかし、3.0質量%を超えて添加すると熱間圧延材の靱性が低下する。したがって、Mn含有量は3.0質量%以下とする。好ましいMn含有量の範囲は0.1〜3.0質量%である。
【0024】
Crは、焼入れ性を高める効果を有し、セメンタイト中に溶解してセメンタイトの硬さを大幅に上昇させる。刃物などの機械的性質を確保するうえで重要な元素である。しかし、5.0質量%を超えて添加してもCr増量に見合った効果は期待できない。したがって、Cr含有量は5.0質量%以下とする。好ましいCr含有量の範囲は0.1〜5.0質量%である。
【0025】
Niは、低温焼戻しを行った場合の靱性を改善し、低温靱性を向上させる元素である。その効果を十分に得るには0.5質量%以上の添加が望ましい。しかし、2.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってNiを添加する場合は、0.5〜2.0質量%の含有量とすることが望ましい。
【0026】
Moは、Niとの複合添加によって靱性を向上させる効果を呈する。また、高温焼戻しを行う場合には二次硬化により高い焼戻し軟化抵抗をもたらす元素である。これらの効果を十分に得るには0.1質量%以上の添加が望ましい。しかし、1.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってMoを添加する場合は、0.1〜1.0質量%の含有量とすることが望ましい。特に、Niとの複合添加で用いることが好ましい。
【0027】
Wは、Moと同様の効果を発揮して靱性を向上させる元素である。その効果を十分に得るには0.5質量%以上の添加が望ましい。しかし、2.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってWを添加する場合は、0.5〜2.0質量%の含有量とすることが望ましい。
【0028】
Vは、旧オーステナイト粒界を微細化する効果を有する元素である。その効果を十分に得るには0.1質量%以上の添加が望ましい。しかし、1.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってVを添加する場合は、0.1〜1.0質量%の含有量とすることが望ましい。
【0029】
Tiは、Vと同様、旧オーステナイト粒界を微細化する効果を有する元素である。その効果を十分に得るには0.05質量%以上の添加が望ましい。しかし、0.2質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってTiを添加する場合は、0.05〜0.2質量%の含有量とすることが望ましい。
【0030】
Nbは、V,Tiと同様、旧オーステナイト粒界を微細化する効果を有する元素である。その効果を十分に得るには0.05質量%以上の添加が望ましい。しかし、0.2質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってNbを添加する場合は、0.05〜0.2質量%の含有量とすることが望ましい。
【0031】
Coは、微細な析出物の形成により二次硬化を発揮させる元素である。その効果を十分に得るには0.5質量%以上の添加が望ましい。しかし、3.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってCoを添加する場合は、0.5〜3.0質量%の含有量とすることが望ましい。
【0032】
Bは、焼入れ性を向上させる元素である。その効果を十分に得るには0.001質量%以上の添加が望ましい。しかし、0.005質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したがってBを添加する場合は、0.001〜0.005質量%の含有量とすることが望ましい。
【0033】
本発明では、通常の高炭素鋼と同様、焼入れマルテンサイトによって硬度を上昇させる。前記化学組成において、焼入れ後に概ね70体積%以上のマルテンサイト組織を生成させると、切れ味の良い刃物を作るのに必要なHv700以上の硬さが得られる。本発明の鋼材は焼入れままの組織状態で刃物その他の用途に使用できるが、一般的な高炭素鋼と同様に低温焼戻しを行ってマルテンサイト組織を「焼戻しマルテンサイト組織」にしてから使用することもできる。
【0034】
マルテンサイト組織を主体とした金属組織には、炭化物,若干の残留オーステナイト相の他、ε−Cu等のCu濃化相が含まれていてもよい。Cu濃化相の析出を利用してMs点の低下を防止する手法に従って製造した鋼材には、通常焼入れ後にある程度のCu濃化相が存在している。しかし後述するように、このCu濃化相の存在有無は抗菌性を得るうえで問題にする必要はない。
【0035】
次に、製造法について説明する。本発明の製造法は、焼入れ処理に際し、その加熱時にMs点の低下をもたらす固溶Cuを低い濃度に維持しておき、その状態から焼入れ(急冷)する点に特徴がある。これにより通常の高炭素鋼と同様に顕著な焼入れ硬化が実現できる。固溶Cuを低い濃度にする手法として、本発明ではε−Cu等のCu濃化相を析出させる手法を採る。調査の結果、焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が消失せずに0.2体積%以上存在している状態にし、この状態から油や水中に急冷すれば焼入れ性は十分確保できることがわかった。
【0036】
焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が消失せずに存在している状態が維持できるようにするには、▲1▼ε−Cu等のCu濃化相をできるだけ多量に析出させた状態で焼入れ処理に供すること、および▲2▼焼入れ処理の加熱温度・保持時間を適正化することが重要である。
【0037】
上記▲1▼については、焼入れ処理に先立ち、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理を施すことが望ましい。550℃未満ではFe中のCuの拡散が遅くなって事実上析出が起こらない。Ac1点を超えるとオーステナイトが生成するが、Cuはオーステナイトへの溶解度が大きいこともありCu濃化相は逆に減少する。保持時間が10分未満ではCu濃化相の析出量が不十分となりやすい。なお、この熱処理は必ずしも焼鈍という工程をとる必要はない。焼入れ処理の前に最後に施された熱サイクルで十分多量のCu濃化相が生成されればよい。したがって、鋳造や熱間加工に伴う熱サイクルを利用することができる。例えば、パーライト変態過程においてもε−Cu等のCu濃化相が析出するため、熱間加工後の冷却過程で上記温度・時間を確保しながらパーライト組織となった鋼は、あらためてCu濃化相の析出処理を行うことなく焼入れ処理に供してよい。
【0038】
上記▲2▼については、焼入れ処理の加熱を750〜950℃で1〜60分保持する条件とすることが望ましい。750℃未満では十分にオーステナイトが生成されないため、焼入れ後のマルテンサイト量が少なくなって高い硬度が得られない。950℃を超えるとCu濃化相のオーステナイトへの溶解が速くなるため固溶Cuが増加してMs点が低下し、焼入れ性が悪くなる。保持時間が1分未満では炭化物の溶解とオーステナイトの形成が不十分なため、焼入れ硬さが低下する。60分を超えて長時間保持するとCu濃化相の溶解が進行することにより焼入れ性が劣化する恐れがある。
【0039】
抗菌性に及ぼすCuの存在形態について、マルテンサイト系抗菌ステンレス鋼では不動体皮膜がCu溶出の障害となることから、ε−Cu等のCu濃化相を不動体皮膜の外に多数露出させることが抗菌性を付与するうえで必要とされた(特開平9−195016号公報)。しかし不動体皮膜を形成しない炭素鋼の場合は、2.0質量%以上のCuを含有させることにより、Cuの存在形態(例えばCu濃化相を形成しているか鋼中に固溶しているか)に関わらず高い抗菌性を示すことが発明者らによって確認されている。つまり、抗菌性に関する限り、本発明の鋼材ではε−Cu等のCu濃化相の存在を問う必要はない。この意味で、本発明においてCu濃化相を析出させる目的は、マルテンサイト系抗菌ステンレス鋼の場合と明らかに相違する。
【0040】
本発明では、Cu濃化相を多量に析出させた状態で焼入れ処理に供することができる限り、焼入れ処理の前に任意の形状に加工・成形してもよい。例えば、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理によりCu濃化相を十分析出させた鋼に対して、冷間加工を施して所望の刃物形状に成形し、その後750〜950℃で1〜60分保持して焼き入れする、という工程を採用することができる。
【0041】
以上の方法に従って得られた焼入れ鋼材はそのまま使用してもよいが、さらに焼戻し処理を施してもよい。その場合、いわゆる低温焼戻しとすることが望ましく、具体的には100〜350℃で10〜120分保持する条件が好ましい。100℃未満では靱性向上の効果が希薄である。350℃を超えると硬さが低下する。保持時間が10分未満では靱性向上の効果が得られない。120分を超えても更なる特性の向上は期待できない。なお、焼戻し後においても抗菌性は十分発揮される。
【0042】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する高炭素鋼を各30kg真空溶解炉で溶製し、鍛造→熱延→冷延の工程で冷延鋼板を得た。熱延は、1050℃に30分加熱した後、板厚20mmから4mmまで圧延し、空冷する方法で実施した。冷延材は板厚2mmとした。この供試材に対し、表2に示す条件の組合せでε−Cu析出処理,焼入れ処理,および一部のものについて焼戻し処理を順次施した。焼入れ後の試料、または焼戻し処理を施したものについては焼戻し後の試料について、硬さ測定と、抗菌試験を行った。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
抗菌試験は以下の方法で行った。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus IFO 12732)、および、大腸菌(Escherichia coli IFO 3972)を普通ブイヨン培地で35℃,16〜24時間振盪培養し、培養液を用意した。培養液を滅菌リン酸緩衝液で20000倍に希釈し、菌液を調整した。50×25mmの試験片を#400研磨した表面に菌液1mlを滴下し、25℃で24時間保存した。保存後、試験片をSCDLP培地(日本製薬株式会社製)9mlで洗い流し、得られた液について標準寒天培地を用いた混釈平板培養法(35℃,2日間培養)で生菌数をカウントした。また、対照として、シャーレに菌液を直接滴下したものについて、同様の方法で生菌数をカウントした。
【0046】
表3に試験結果を示す。硬さの評価は、Hv700以上の硬さが得られたものを○,Hv700未満であったものを×とした。抗菌の評価は、生菌性の指標は、対照の生菌数と比較した死滅率を用いた。評価基準は、死滅率80%未満のものを×,80%以上95%未満のものを△,95%以上99%未満のものを○,99%以上のものを◎とした。また、総合評価は、硬さ,黄色ブドウ球菌に対する抗菌性,および大腸菌に対する抗菌性の全てが○以上の評価であったものを○とした。
【0047】
【表3】
【0048】
試験記号a,bはCu含有量が2.0質量%より低いため抗菌性に劣る。試験記号cはC含有量が0.6質量%より少ないため硬さか低い。試験記号d〜fはいずれも化学組成は本発明規定範囲にあるものの、dはε−Cu析出処理温度が低すぎ、eはε−Cu析出処理温度が高すぎ、fは焼入れ温度が高すぎたことにより、それぞれ硬さが低い。これに対し、化学組成,ε−Cu析出処理条件,焼入れ処理条件,(さらに焼戻し処理条件)が全て本発明規定範囲にある試料記号g〜rの場合は、いずれも硬さおよび抗菌性とも優れた結果が得られている。
【0049】
【発明の効果】
本発明により、高炭素鋼において焼入れ性を維持しながら抗菌性を付与することが可能になった。本発明によって提供される鋼材は、硬さの面で従来のマルテンサイト系抗菌ステンレス鋼をはるかに上回るものであり、プロ用刃物をはじめステンレス鋼が適用できなかった高硬度鋼材の分野において抗菌材料の普及をもたらすものである。
Claims (11)
- 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗菌性鋼材。
- 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下,Ni:0〜2.0%(無添加を含む),Mo:0〜1.0%(無添加を含む),W:0〜2.0%(無添加を含む),V:0〜1.0%(無添加を含む),Ti:0〜0.2%(無添加を含む),Nb:0〜0.2%(無添加を含む),Co:0〜3.0%(無添加を含む),B:0〜0.005%(無添加を含む)を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗菌性鋼材。
- 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0%以下を含み、さらにNi:0.5〜2.0%,Mo:0.1〜1.0%,W:0.5〜2.0%,V:0.1〜1.0%,Ti:0.05〜0.2%,Nb:0.05〜0.2%,Co:0.5〜3.0%,B:0.001〜0.005%のうち1種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗菌性鋼材。
- 金属組織がマルテンサイト組織を主体とし残留オーステナイト相とCu濃化相を有するものである請求項1〜3に記載の高硬度抗菌性鋼材。
- マルテンサイト組織が焼戻しマルテンサイト組織である請求項1〜4に記載の高硬度抗菌性鋼材。
- 鋼材が刃物用である請求項1〜5に記載の高硬度抗菌性鋼材。
- 焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が0.2体積%以上存在している状態の鋼を焼入れする、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法。
- 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理によりCu濃化相を析出させた鋼を、750〜950℃で1〜60分加熱保持して焼入れする、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法。
- 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理によりCu濃化相を析出させた鋼を、冷間加工した後、750〜950℃で1〜60分加熱保持して焼入れする、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法。
- 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理が熱間加工後の冷却過程で行われる請求項8または9に記載の製造法。
- 焼入れ後、100〜350℃で10〜120分焼戻しする、請求項6〜10に記載の製造法。
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