JP2000160294A - 高硬度抗菌性鋼材およびその製造法 - Google Patents

高硬度抗菌性鋼材およびその製造法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高炭素鋼に抗菌性を付与した高硬度鋼材を提
供する。 【解決手段】 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6
〜1.5%,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:
5.0%以下を含み、必要に応じてさらに、Ni:0〜2.0
%,Mo:0〜1.0%,W:0〜2.0%,V:0〜1.0%,T
i:0〜0.2%,Nb:0〜0.2%,Co:0〜3.0%,B:
0.001〜0.005%を含み、残部がFeおよび不可避的不純
物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属組織
を呈してHv700以上の硬さを有する抗菌性鋼材。この鋼
材は、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持してC
u濃化相を析出させた鋼を、750〜950℃で1〜60分保持
してCu濃化相が存在している状態から焼入れすること
によって製造できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Hv700以上の高硬
度を有しかつ抗菌性を有する鋼材およびその製造法に関
するものであり、特に食品加工や厨房関連で使用される
刃物に適した鋼材およびその製造法に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】近年、食品加工や厨房関連の分野を中心
に抗菌性を有する材料が注目されている。これは、生活
環境の衛生指向が強まる中、大腸菌O-157による集団食
中毒や耐性ブドウ球菌(MRSA)による院内感染が社会問
題化したこともあり、感染経路となることが懸念される
部位に使用される材料を抗菌性のあるものに変えようと
する傾向が一般化してきたことが一因と考えられる。
【0003】抗菌性材料には、大きく分けて、素材その
ものに抗菌性を持たせたもの、抗菌性のある塗料等を素
材に被覆したものがある。このうち、前者の代表例とし
ては樹脂系抗菌材料と抗菌ステンレス鋼がある。
【0004】抗菌ステンレス鋼は、厨房関連や家電(例
えば洗濯機の内部)など、強度,耐熱性,耐疵付き性な
どの特性において樹脂系抗菌材料や抗菌性塗料の塗布で
は対応できない用途にもっぱら使用されている。包丁な
どの刃物に使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼に
おいても抗菌性を付与したものが開発されており、例え
ば特開平9−195016号公報に示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】マルテンサイト系ステ
ンレス鋼は、従来から一般家庭用の包丁などに広く用い
られている。しかし、マルテンサイト系ステンレス鋼の
刃物は「切れ味」の面で高炭素鋼の刃物に遠く及ばない
のが現状である。この切れ味の優劣は主として素材の硬
さに起因すると考えられる。マルテンサイト系ステンレ
ス鋼で作った刃物の硬さは通常Hv580程度である。これ
に対し、高炭素鋼で作ったいわゆる打ち刃物は、SK5程
度の高炭素鋼を素材として用いながら焼入れを行うこと
によってHv800程度の刃先硬度を得ている。
【0006】料理店や学校・病院などの厨房で使う包丁
を例にとると、プロの料理人としての切れ味へのこだわ
りからHv700以上の硬さが要求されることに加え、細菌
汚染防止の観点からは抗菌性を有していることも昨今強
く望まれている。しかし、マルテンサイト系抗菌ステン
レス鋼ではHv700以上といった高硬度を実現することは
困難である。一方、高炭素鋼に抗菌性を付与した高硬度
素材が開発されていないのも現状である。
【0007】ステンレス鋼に抗菌性を付与する手段とし
てはCuを含有させる方法がよく用いられており、特開
平9−195016号公報に開示のマルテンサイト系抗菌ステ
ンレス鋼もその一例である。しかし、高炭素鋼の場合
は、Cuを含有させると焼入れ後の残留オーステナイト
が増加し、高硬度が得られなくなってしまうという問題
がある。高炭素鋼で抗菌性のある鋼材が未だ実用化され
ていないのはこのためである。本発明は、上記問題を解
決し、Hv700以上の高硬度を有する高炭素鋼の抗菌性鋼
材を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、請求項1の発明は、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,
C:0.6〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以
下,Cr:5.0%以下を含み、マルテンサイト組織を主
体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高
硬度抗菌性鋼材である。ここで、マルテンサイト組織を
主体とした金属組織は、概ね70体積%以上のマルテンサ
イト組織を有する金属組織であり、他に残留オーステナ
イト相や炭化物、さらにはε−CuなどのCu濃化相を
有していてもよい。
【0009】請求項2の発明は、請求項1で規定する鋼
組成を、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%
以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0
%以下,Ni:0〜2.0%,Mo:0〜1.0%,W:0〜2.0
%,V:0〜1.0%,Ti:0〜0.2%,Nb:0〜0.2%,
Co:0〜3.0%,B:0〜0.005%を含み、残部がFeお
よび不可避的不純物からなる鋼組成に変えたものであ
る。ここで、Ni,Mo,W,V,Ti,Nb,Co,
Bの下限値の0%とは、その元素が無添加である場合を
意味する。
【0010】請求項3の発明は、請求項1で規定する鋼
組成を、質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6〜1.5%
以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,Cr:5.0
%以下を含み、さらにNi:0.5〜2.0%,Mo:0.1〜
1.0%,W:0.5〜2.0%,V:0.1〜1.0%,Ti:0.05
〜0.2%,Nb:0.05〜0.2%,Co:0.5〜3.0%,B:
0.001〜0.005%のうち1種以上を含み、残部がFeおよ
び不可避的不純物からなる鋼組成に変えたものである。
【0011】請求項4の発明は、請求項1〜3の発明に
おいて、金属組織がマルテンサイト組織を主体とし残留
オーステナイト相とCu濃化相を有するものである点を
規定したものである。ここで、Cu濃化相としてはε−
Cuなどが挙げられる。
【0012】請求項5の発明は、請求項1〜4の発明に
おいて、マルテンサイト組織が特に焼戻しマルテンサイ
ト組織である点を規定したものである。ここで、焼戻し
マルテンサイト組織は、焼入れで生じたマルテンサイト
組織がいわゆる低温焼戻しによって変化した組織を意味
する。
【0013】請求項6の発明は、請求項1〜5の発明に
おいて、鋼材が特に刃物用である点を規定したものであ
る。
【0014】請求項7の発明は、請求項1〜6に記載の
高硬度抗菌性鋼材の製造法であって、焼入れ処理の加熱
温度でCu濃化相が0.2体積%以上存在している状態の
鋼を焼入れ(すなわち急冷)することを特徴とするもの
である。
【0015】請求項8の発明は、請求項1〜6に記載の
高硬度抗菌性鋼材の製造法であって、550℃〜Ac1点の
温度範囲で10分以上保持する熱処理によりCu濃化相を
析出させた鋼を、750〜950℃で1〜60分加熱保持して焼
入れ(すなわち急冷)するものである。
【0016】請求項9の発明は、請求項8の発明におい
て、Cu濃化相を析出させる熱処理後焼入れ時の加熱前
に、冷間加工を施す点を規定したものである。
【0017】請求項10の発明は、請求項8または9の
発明において、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保
持する熱処理が熱間加工後の冷却過程で行われる点を規
定したものである。
【0018】請求項11の発明は、請求項6〜10の発
明において、焼入れ後、特に100〜350℃で10〜120分焼
戻しする点を規定したものである。
【0019】
【発明の実施の形態】発明者らは、高炭素鋼にCuを添
加しても焼入れ硬さを低下させないようにする手法につ
いて検討を重ねた。Cuが炭素鋼中にある程度多く固溶
すると、Ms点が大幅に低下することに起因して軟質な
残留オーステナイトが多量に生成してしまうために硬さ
が低下する。そこで、焼入れ処理に先立ち固溶Cuをε
−Cu等のCu濃化相として十分に析出させておき、焼
入れ処理では炭化物を適切に溶解させながらもCu析出
物のオーステナイトへの固溶を抑える加熱を施し、Ms
点の低下を抑えた状態から焼入れ(急冷)する手法を見
出した。この手法により、高炭素鋼においてCu添加に
よる抗菌性の付与とHv700以上の高硬度化を両立させる
ことが可能であることがわかった。本発明はこの知見に
基づいて成されたものである。以下、本発明を特定する
ための事項について説明する。
【0020】Cuは、本発明において抗菌性を付与する
ために必要な合金元素である。高炭素鋼に2.0質量%以
上のCuを含有させると、黄色ブドウ球菌および大腸菌
に対する滅菌率が99%以上という高い抗菌性が付与され
る。3.0質量%以上のCu含有量でこれらの菌に対して
ほぼ100%の滅菌率が得られる。ただし、高炭素鋼に抗
菌性を付与するには5.0質量%以下の含有量で十分であ
り、それより多く含有させると製造性その他の問題が生
じやすくなる。したがって、Cu含有量は2.0〜5.0質量
%、好ましくは3.0〜5.0質量%とする。
【0021】Cは、鋼材の硬さを最も顕著に支配する元
素である。0.6質量%未満のC含有量では刃物などに適
した焼入れ硬さが得られない。一方、1.5質量%を超え
て含有させても硬さは必ずしも上昇せず、却って靱性の
低下をきたす。したがって、C含有量は0.6〜1.5質量%
とする。
【0022】Siは、脱酸剤として有効な元素であり、
焼戻し軟化抵抗を増大させ、抗菌性も向上させる。これ
らの効果は3.0質量%で飽和し、それより多く添加して
もSiの増量に見合った性質の改善は見られない。した
がって、Si含有量は3.0質量%以下とする。好ましい
Si含有量の範囲は0.05〜3.0質量%である。
【0023】Mnは、焼入れ性を高める元素である。し
かし、3.0質量%を超えて添加すると熱間圧延材の靱性
が低下する。したがって、Mn含有量は3.0質量%以下
とする。好ましいMn含有量の範囲は0.1〜3.0質量%で
ある。
【0024】Crは、焼入れ性を高める効果を有し、セ
メンタイト中に溶解してセメンタイトの硬さを大幅に上
昇させる。刃物などの機械的性質を確保するうえで重要
な元素である。しかし、5.0質量%を超えて添加しても
Cr増量に見合った効果は期待できない。したがって、
Cr含有量は5.0質量%以下とする。好ましいCr含有
量の範囲は0.1〜5.0質量%である。
【0025】Niは、低温焼戻しを行った場合の靱性を
改善し、低温靱性を向上させる元素である。その効果を
十分に得るには0.5質量%以上の添加が望ましい。しか
し、2.0質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期
待できない。したがってNiを添加する場合は、0.5〜
2.0質量%の含有量とすることが望ましい。
【0026】Moは、Niとの複合添加によって靱性を
向上させる効果を呈する。また、高温焼戻しを行う場合
には二次硬化により高い焼戻し軟化抵抗をもたらす元素
である。これらの効果を十分に得るには0.1質量%以上
の添加が望ましい。しかし、1.0質量%を超えて添加し
てもそれ以上の効果は期待できない。したがってMoを
添加する場合は、0.1〜1.0質量%の含有量とすることが
望ましい。特に、Niとの複合添加で用いることが好ま
しい。
【0027】Wは、Moと同様の効果を発揮して靱性を
向上させる元素である。その効果を十分に得るには0.5
質量%以上の添加が望ましい。しかし、2.0質量%を超
えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したが
ってWを添加する場合は、0.5〜2.0質量%の含有量とす
ることが望ましい。
【0028】Vは、旧オーステナイト粒界を微細化する
効果を有する元素である。その効果を十分に得るには0.
1質量%以上の添加が望ましい。しかし、1.0質量%を超
えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。したが
ってVを添加する場合は、0.1〜1.0質量%の含有量とす
ることが望ましい。
【0029】Tiは、Vと同様、旧オーステナイト粒界
を微細化する効果を有する元素である。その効果を十分
に得るには0.05質量%以上の添加が望ましい。しかし、
0.2質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待で
きない。したがってTiを添加する場合は、0.05〜0.2
質量%の含有量とすることが望ましい。
【0030】Nbは、V,Tiと同様、旧オーステナイ
ト粒界を微細化する効果を有する元素である。その効果
を十分に得るには0.05質量%以上の添加が望ましい。し
かし、0.2質量%を超えて添加してもそれ以上の効果は
期待できない。したがってNbを添加する場合は、0.05
〜0.2質量%の含有量とすることが望ましい。
【0031】Coは、微細な析出物の形成により二次硬
化を発揮させる元素である。その効果を十分に得るには
0.5質量%以上の添加が望ましい。しかし、3.0質量%を
超えて添加してもそれ以上の効果は期待できない。した
がってCoを添加する場合は、0.5〜3.0質量%の含有量
とすることが望ましい。
【0032】Bは、焼入れ性を向上させる元素である。
その効果を十分に得るには0.001質量%以上の添加が望
ましい。しかし、0.005質量%を超えて添加してもそれ
以上の効果は期待できない。したがってBを添加する場
合は、0.001〜0.005質量%の含有量とすることが望まし
い。
【0033】本発明では、通常の高炭素鋼と同様、焼入
れマルテンサイトによって硬度を上昇させる。前記化学
組成において、焼入れ後に概ね70体積%以上のマルテン
サイト組織を生成させると、切れ味の良い刃物を作るの
に必要なHv700以上の硬さが得られる。本発明の鋼材は
焼入れままの組織状態で刃物その他の用途に使用できる
が、一般的な高炭素鋼と同様に低温焼戻しを行ってマル
テンサイト組織を「焼戻しマルテンサイト組織」にして
から使用することもできる。
【0034】マルテンサイト組織を主体とした金属組織
には、炭化物,若干の残留オーステナイト相の他、ε−
Cu等のCu濃化相が含まれていてもよい。Cu濃化相
の析出を利用してMs点の低下を防止する手法に従って
製造した鋼材には、通常焼入れ後にある程度のCu濃化
相が存在している。しかし後述するように、このCu濃
化相の存在有無は抗菌性を得るうえで問題にする必要は
ない。
【0035】次に、製造法について説明する。本発明の
製造法は、焼入れ処理に際し、その加熱時にMs点の低
下をもたらす固溶Cuを低い濃度に維持しておき、その
状態から焼入れ(急冷)する点に特徴がある。これによ
り通常の高炭素鋼と同様に顕著な焼入れ硬化が実現でき
る。固溶Cuを低い濃度にする手法として、本発明では
ε−Cu等のCu濃化相を析出させる手法を採る。調査
の結果、焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が消失せず
に0.2体積%以上存在している状態にし、この状態から
油や水中に急冷すれば焼入れ性は十分確保できることが
わかった。
【0036】焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が消失
せずに存在している状態が維持できるようにするには、
ε−Cu等のCu濃化相をできるだけ多量に析出させ
た状態で焼入れ処理に供すること、および焼入れ処理
の加熱温度・保持時間を適正化することが重要である。
【0037】上記については、焼入れ処理に先立ち、
550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処理を
施すことが望ましい。550℃未満ではFe中のCuの拡
散が遅くなって事実上析出が起こらない。Ac1点を超え
るとオーステナイトが生成するが、Cuはオーステナイ
トへの溶解度が大きいこともありCu濃化相は逆に減少
する。保持時間が10分未満ではCu濃化相の析出量が不
十分となりやすい。なお、この熱処理は必ずしも焼鈍と
いう工程をとる必要はない。焼入れ処理の前に最後に施
された熱サイクルで十分多量のCu濃化相が生成されれ
ばよい。したがって、鋳造や熱間加工に伴う熱サイクル
を利用することができる。例えば、パーライト変態過程
においてもε−Cu等のCu濃化相が析出するため、熱
間加工後の冷却過程で上記温度・時間を確保しながらパ
ーライト組織となった鋼は、あらためてCu濃化相の析
出処理を行うことなく焼入れ処理に供してよい。
【0038】上記については、焼入れ処理の加熱を75
0〜950℃で1〜60分保持する条件とすることが望まし
い。750℃未満では十分にオーステナイトが生成されな
いため、焼入れ後のマルテンサイト量が少なくなって高
い硬度が得られない。950℃を超えるとCu濃化相のオ
ーステナイトへの溶解が速くなるため固溶Cuが増加し
てMs点が低下し、焼入れ性が悪くなる。保持時間が1
分未満では炭化物の溶解とオーステナイトの形成が不十
分なため、焼入れ硬さが低下する。60分を超えて長時間
保持するとCu濃化相の溶解が進行することにより焼入
れ性が劣化する恐れがある。
【0039】抗菌性に及ぼすCuの存在形態について、
マルテンサイト系抗菌ステンレス鋼では不動体皮膜がC
u溶出の障害となることから、ε−Cu等のCu濃化相
を不動体皮膜の外に多数露出させることが抗菌性を付与
するうえで必要とされた(特開平9−195016号公報)。
しかし不動体皮膜を形成しない炭素鋼の場合は、2.0質
量%以上のCuを含有させることにより、Cuの存在形
態(例えばCu濃化相を形成しているか鋼中に固溶して
いるか)に関わらず高い抗菌性を示すことが発明者らに
よって確認されている。つまり、抗菌性に関する限り、
本発明の鋼材ではε−Cu等のCu濃化相の存在を問う
必要はない。この意味で、本発明においてCu濃化相を
析出させる目的は、マルテンサイト系抗菌ステンレス鋼
の場合と明らかに相違する。
【0040】本発明では、Cu濃化相を多量に析出させ
た状態で焼入れ処理に供することができる限り、焼入れ
処理の前に任意の形状に加工・成形してもよい。例え
ば、550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保持する熱処
理によりCu濃化相を十分析出させた鋼に対して、冷間
加工を施して所望の刃物形状に成形し、その後750〜950
℃で1〜60分保持して焼き入れする、という工程を採用
することができる。
【0041】以上の方法に従って得られた焼入れ鋼材は
そのまま使用してもよいが、さらに焼戻し処理を施して
もよい。その場合、いわゆる低温焼戻しとすることが望
ましく、具体的には100〜350℃で10〜120分保持する条
件が好ましい。100℃未満では靱性向上の効果が希薄で
ある。350℃を超えると硬さが低下する。保持時間が10
分未満では靱性向上の効果が得られない。120分を超え
ても更なる特性の向上は期待できない。なお、焼戻し後
においても抗菌性は十分発揮される。
【0042】
【実施例】表1に示す化学組成を有する高炭素鋼を各30
kg真空溶解炉で溶製し、鍛造→熱延→冷延の工程で冷
延鋼板を得た。熱延は、1050℃に30分加熱した後、板厚
20mmから4mmまで圧延し、空冷する方法で実施し
た。冷延材は板厚2mmとした。この供試材に対し、表
2に示す条件の組合せでε−Cu析出処理,焼入れ処
理,および一部のものについて焼戻し処理を順次施し
た。焼入れ後の試料、または焼戻し処理を施したものに
ついては焼戻し後の試料について、硬さ測定と、抗菌試
験を行った。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】抗菌試験は以下の方法で行った。黄色ブド
ウ球菌(Staphylococcus aureus IFO 12732)、およ
び、大腸菌(Escherichia coli IFO 3972)を普通ブイ
ヨン培地で35℃,16〜24時間振盪培養し、培養液を用意
した。培養液を滅菌リン酸緩衝液で20000倍に希釈し、
菌液を調整した。50×25mmの試験片を#400研磨した
表面に菌液1mlを滴下し、25℃で24時間保存した。保
存後、試験片をSCDLP培地(日本製薬株式会社製)9ml
で洗い流し、得られた液について標準寒天培地を用いた
混釈平板培養法(35℃,2日間培養)で生菌数をカウン
トした。また、対照として、シャーレに菌液を直接滴下
したものについて、同様の方法で生菌数をカウントし
た。
【0046】表3に試験結果を示す。硬さの評価は、Hv
700以上の硬さが得られたものを○,Hv700未満であった
ものを×とした。抗菌の評価は、生菌性の指標は、対照
の生菌数と比較した死滅率を用いた。評価基準は、死滅
率80%未満のものを×,80%以上95%未満のものを△,
95%以上99%未満のものを○,99%以上のものを◎とし
た。また、総合評価は、硬さ,黄色ブドウ球菌に対する
抗菌性,および大腸菌に対する抗菌性の全てが○以上の
評価であったものを○とした。
【0047】
【表3】
【0048】試験記号a,bはCu含有量が2.0質量%
より低いため抗菌性に劣る。試験記号cはC含有量が0.
6質量%より少ないため硬さか低い。試験記号d〜fは
いずれも化学組成は本発明規定範囲にあるものの、dは
ε−Cu析出処理温度が低すぎ、eはε−Cu析出処理
温度が高すぎ、fは焼入れ温度が高すぎたことにより、
それぞれ硬さが低い。これに対し、化学組成,ε−Cu
析出処理条件,焼入れ処理条件,(さらに焼戻し処理条
件)が全て本発明規定範囲にある試料記号g〜rの場合
は、いずれも硬さおよび抗菌性とも優れた結果が得られ
ている。
【0049】
【発明の効果】本発明により、高炭素鋼において焼入れ
性を維持しながら抗菌性を付与することが可能になっ
た。本発明によって提供される鋼材は、硬さの面で従来
のマルテンサイト系抗菌ステンレス鋼をはるかに上回る
ものであり、プロ用刃物をはじめステンレス鋼が適用で
きなかった高硬度鋼材の分野において抗菌材料の普及を
もたらすものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田頭 聡 広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株式 会社技術研究所内 (72)発明者 岩尾 知義 広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株式 会社技術研究所内 Fターム(参考) 4K037 EA02 EA07 EA08 EA10 EA11 EA13 EA15 EA16 EA17 EA19 EA20 EA27 EA28 EA31 EA32 EA33 EB09 FM04

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6
    〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,C
    r:5.0%以下を含み、マルテンサイト組織を主体とし
    た金属組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗
    菌性鋼材。
  2. 【請求項2】 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6
    〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,C
    r:5.0%以下,Ni:0〜2.0%(無添加を含む),M
    o:0〜1.0%(無添加を含む),W:0〜2.0%(無添加
    を含む),V:0〜1.0%(無添加を含む),Ti:0〜
    0.2%(無添加を含む),Nb:0〜0.2%(無添加を含
    む),Co:0〜3.0%(無添加を含む),B:0〜0.005
    %(無添加を含む)を含み、残部がFeおよび不可避的
    不純物からなり、マルテンサイト組織を主体とした金属
    組織を呈してHv700以上の硬さを有する高硬度抗菌性鋼
    材。
  3. 【請求項3】 質量%で、Cu:2.0〜5.0%,C:0.6
    〜1.5%以下,Si:3.0%以下,Mn:3.0%以下,C
    r:5.0%以下を含み、さらにNi:0.5〜2.0%,M
    o:0.1〜1.0%,W:0.5〜2.0%,V:0.1〜1.0%,T
    i:0.05〜0.2%,Nb:0.05〜0.2%,Co:0.5〜3.0
    %,B:0.001〜0.005%のうち1種以上を含み、残部が
    Feおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイト組
    織を主体とした金属組織を呈してHv700以上の硬さを有
    する高硬度抗菌性鋼材。
  4. 【請求項4】 金属組織がマルテンサイト組織を主体と
    し残留オーステナイト相とCu濃化相を有するものであ
    る請求項1〜3に記載の高硬度抗菌性鋼材。
  5. 【請求項5】 マルテンサイト組織が焼戻しマルテンサ
    イト組織である請求項1〜4に記載の高硬度抗菌性鋼
    材。
  6. 【請求項6】 鋼材が刃物用である請求項1〜5に記載
    の高硬度抗菌性鋼材。
  7. 【請求項7】 焼入れ処理の加熱温度でCu濃化相が0.
    2体積%以上存在している状態の鋼を焼入れする、請求
    項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法。
  8. 【請求項8】 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保
    持する熱処理によりCu濃化相を析出させた鋼を、750
    〜950℃で1〜60分加熱保持して焼入れする、請求項1〜
    6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造法。
  9. 【請求項9】 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上保
    持する熱処理によりCu濃化相を析出させた鋼を、冷間
    加工した後、750〜950℃で1〜60分加熱保持して焼入れ
    する、請求項1〜6に記載の高硬度抗菌性鋼材の製造
    法。
  10. 【請求項10】 550℃〜Ac1点の温度範囲で10分以上
    保持する熱処理が熱間加工後の冷却過程で行われる請求
    項8または9に記載の製造法。
  11. 【請求項11】 焼入れ後、100〜350℃で10〜120分焼
    戻しする、請求項6〜10に記載の製造法。
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