JP4015439B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル樹脂は、機械的特性、耐熱性、成形加工性に優れており、電気電子部品用材料、自動車部品用材料、建築用材料、シート用材料、フィルム用材料、食品容器用材料などに広く用いられている。
また、ポリエステル樹脂は、他の熱可塑性樹脂と組み合わせることによって種々の熱可塑性樹脂アロイとして用いられている。しかしながら、これらの熱可塑性樹脂アロイは、耐衝撃性が劣ることが知られており、その改良の為に従来から種々の方法が提案されている。
例えば、耐衝撃性を改良する目的で、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびブタジエン系グラフト重合体からなる樹脂組成物(特公昭55−9435号公報)やポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびアクリレート系共重合体からなる樹脂組成物(特開昭53−129246号公報)が提案されている。
更に、低温衝撃強度および耐候性の改良を目的として、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリオルガノシロキサンゴム成分と、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分からなるポリオルガノシロキサン系複合ゴムに、ビニル単量体をグラフト重合してなるポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体からなる樹脂組成物が提案されている(特開平1−230664号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特公昭55−9435号公報に開示されている樹脂組成物は、耐衝撃性の改良にはある程度成功しているものの、耐候性に劣る欠点を有している。
また、特開昭53−129246号公報に開示されている樹脂組成物は、低温における衝撃強度が劣るという欠点を有している。
また、特開平1−230664号公報に開示されている樹脂組成物は、低温衝撃強度および耐候性はある程度改良されるものの、顔料着色性において問題点を有している。
【0004】
本発明の目的は、上述した従来技術の課題を解決し、優れた低温での衝撃強度発現性を有し、かつ優れた耐熱性、耐候性、顔料着色性をも有するポリエステル系樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステル系樹脂と、特定複合ゴム系グラフト共重合体とを用いることにより、優れた低温での衝撃強度発現性、耐熱性、耐候性を有する樹脂成形物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を30〜90質量%含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、複合ゴム系グラフト共重合体(B)が、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含む複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させたものであることを特徴とする。また、上記複合ゴムの平均粒子径が0.03〜3μmであることが好ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物を説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、主に、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含み、複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含む複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させたものである。
【0007】
[ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)]
上記熱可塑性樹脂成分(A)は、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、ポリエステル樹脂が30〜90質量%含まれていると、機械的特性、成形加工性、耐熱性などの点から好ましい。
上記ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体をまとめて「芳香族ジカルボン酸成分」という)と、アルキレングリコール又はそのエステル形成性誘導体(以下、アルキレングリコール又はそのエステル形成性誘導体をまとめてと「アルキレングリコール成分」という)を縮合反応させて得られる樹脂である。
上記芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸が挙げられ、上記アルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、必要に応じて他のジカルボン酸やグリコールを少量共重合しても良い。
このようなポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、及びこれらの共重合体が挙げられる。また、これらの中でも、特にポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、これらのポリエステル樹脂は1種を用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0008】
ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)は、ポリエステル樹脂の優れた特性を損なわない範囲であれば、ポリエステル樹脂以外の一般の熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、そのような熱可塑性樹脂として、例えば、ジエンゴム成分に芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物をグラフトさせたグラフト共重合体、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等の結晶性熱可塑性樹脂、ポリスチレン系樹脂等のビニル系熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、熱可塑性エラストマー等の非晶性熱可塑性樹脂のいずれも使用できる。また、これら2種以上を混合して使用しても良いが、これらの中で、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂が好ましい。
【0009】
上記ポリカーボネートは、ジヒドロキシジフェニルアルカンを主原料として製造されたものであることが好ましく、例えば、ビスフェノール類と、ホスゲン、又はジアリールカーボネート等のカーボネート前駆体とをホスゲン法、あるいはエステル交換法により製造される。
また、ビスフェノール類としては、2,2−(4,4'−ジヒドロキシジフェニル)プロパン(別称「ビスフェノールA」)が挙げられる。このビスフェノールAの一部または全部を他の4,4'−ジヒドロキシジフェニルアルカン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル等に置き換えてもよい。また2種以上のビスフェノール類を混合して使用してもよい。
【0010】
上記ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレンだけでなく、ハイインパクトポリスチレン、スチレン系単量体とポリアルキル(メタ)アクリレート、又はシアン化ビニル化合物等との共重合体も挙げられる。例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体としては、メチルメタクリレートとスチレン系単量体の共重合体が挙げられる。
また、シアン化ビニル化合物との共重合体としては、アクリロニトリルとスチレン系単量体の共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂等も挙げられる。
【0011】
上記ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6一エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルと(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体、(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテルと(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体、(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルと(2,3,6−トリエチル−1,4−フェニレン)エーテルとの共重合体等が挙げられる。
【0012】
[複合ゴム系グラフト共重合体(B)]
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、ポリオルガノシロキサンと、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有する複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させたものである。また、上記複合ゴムにおいて、ポリオルガノシロキサンが1〜99質量%、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴムが99〜1質量%の割合で配合されていることが好ましい。
【0013】
(複合ゴム)
上記複合ゴムに含有されるポリオルガノシロキサンとしては、特に限定されないが、好ましくはビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンが用いられる。
また、ポリオルガノシロキサンの調製に用いられるジメチルシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられ、3〜7員環のものが好ましい。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられ、これらは単独または2種以上混合して用いられる。
【0014】
また、上記ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンを調製する場合には、ジメチルシロキサンとともに、ビニル重合性官能基を含有し、かつジメチルシロキサンとの結合を介して結合しうるシロキサンを併用する。このようなシロキサンとしては、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮すると、ビニル重合性官能基を有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシメチルシランおよびδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクメタクリロイルオキシシラン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサン等が挙げられる。なお、これらビニル重合性官能基を有するシロキサンは、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0015】
複合ゴムに含有されるポリアルキル(メタ)アクリレートゴムは、アルキル(メタ)アクリレート成分を重合して得られるものであり、アルキル(メタ)アクリレート成分には、アルキル(メタ)アクリレートと、多官能性アルキル(メタ)アクリレートとが含まれている。
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートおよびヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、これらを単独又は2種以上併用して用いることができる。また、複合ゴム系グラフト共重合体(B)を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性および成形光沢を考慮すると、特にn−ブチルアクリレートが好ましい。
【0016】
上記多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、これらを単独又は2種以上併用して用いることができる。
また、これら多官能性アルキル(メタ)アクリレートの中でも、複合ゴム系グラフト共重合体(B)のグラフト構造(アセトン不溶分量、アセトン可溶成分の溶液粘度)を考慮するとアリルメタクリレートが好ましい。
【0017】
複合ゴムの製造方法としては、後段で述べるように製造されたポリオルガノシロキサンラテックスに、アルキル(メタ)アクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートとを含むアルキル(メタ)アクリレート成分を含浸させた後、重合させることによって製造できる。以下、製造方法を順次説明する。
ポリオルガノシロキサンラテックスの製造方法としては、例えば、水と、乳化剤と、ジメチルシロキサンとビニル重合性官能基を有するシロキサンとの混合物(以下、シロキサン混合物という)と、さらに必要に応じて、シロキサン架橋剤とを含むラテックスを混合・微粒子化する。シロキサン混合物、乳化剤、水等を含有したラテックスを混合する方法としては、ホモミキサーなどを用いた高速攪拌による混合方法、ホモジナイザーなどを用いた高圧乳化装置による混合方法などがあるが、ホモジナイザーを用いた混合方法は、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径の分布が小さくなるので好ましい。
【0018】
次いで、微粒子化されたラテックスを高温の酸触媒の水溶液中に一定速度で滴下して、高温下で重合させる。
また、酸触媒の水溶液とラテックスを作用させる方法としては、シロキサン混合物、乳化剤および水等を含有したラテックスと酸触媒の水溶液を混合する方法等もあるが、ポリオルガノシロキサンの粒子径の制御のしやすさを考慮すると、微粒子化されたラテックスを高温の酸触媒の水溶液中に一定速度で滴下する方法が好ましい。
【0019】
ポリオルガノシロキサンの重合温度は50℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上である。
また、ポリオルガノシロキサンの重合時間は、酸触媒の水溶液中にシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを滴下する方法では、ラテックスの滴下終了後、1時間程度保持することが好ましく、酸触媒の水溶液をシロキサン混合物、乳化剤および水等を含有したラテックスとともに混合、微粒子化させて重合する場合は、2時間以上、より好ましくは5時間以上である。
このようにして行われるポリオルガノシロキサンの重合を停止する場合は、反応液を冷却、さらにポリオルガノシロキサンラテックスを苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性物質で中和することによって行うことができる。
【0020】
上記乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられるが、特にアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0021】
上記シロキサン架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えばトリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等が用いられる。
【0022】
ポリオルガノシロキサンの重合に用いる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸等の脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類などが挙げられる。これらの酸触媒は、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、ポリオルガノシロキサンラテックスの安定化作用にも優れている点で、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、n−ドデシルベンゼンスルホン酸と硫酸などの鉱酸とを併用すると、ポリオルガノシロキサンラテックスの乳化剤成分に起因する樹脂組成物の外観不良を低減させることができる。
【0023】
上記のようにして製造されたポリオルガノシロキサンラテックスに、アルキル(メタ)アクリレート成分を添加し、ラジカル重合開始剤を作用させて重合させることにより、複合ゴムラテックスを得ることができる。
また、アルキル(メタ)アクリレート成分を添加する方法としては、ポリオルガノシロキサンラテックスと一括で混合する方法と、ポリオルガノシロキサンラテックス中に一定速度で滴下する方法がある。なお、得られる複合ゴム系グラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を考慮すると、ポリオルガノシロキサンラテックスと一括で混合する方法が好ましい。
【0024】
また、重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせた系が好ましい。
【0025】
このようにして製造された複合ゴムは、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとが分離しないように、相互に絡み合った構造を有している。
また、複合ゴムの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.03〜3μmであることが好ましい。複合ゴムの平均粒子径が0.03μm未満になると、これを用いた熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向にある。また、平均粒子径が3μmを越えると、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下するとともに、成形表面外観が悪化する恐れがある。
【0026】
(複合ゴム系グラフト共重合体)
本発明に用いられる複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、上記のようにして製造された複合ゴムラテックスの存在下に、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合することにより得られる。
【0027】
芳香族アルケニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
また、芳香族アルケニル化合物以外のビニル系単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタアクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などが挙げられ、これらを20質量%未満で、芳香族アルケニル化合物と併用することができる。また、これらのビニル系単量体は単独又は2種以上混合して用いてもよい。
【0028】
複合ゴム系グラフト共重合体(B)の製造方法としては、複合ゴムラテックスに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体を加え、ラジカル重合法により一段であるいは多段で行うことができる。上記ビニル系単量体中に含まれる芳香族アルケニル化合物が80質量%以上であると、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)との相溶性や屈折率が改良されるため好ましい。
【0029】
上記重合開始剤としては、複合ゴムの製造の際、使用されたものと同じものが適用できる。
また、グラフト重合において用いるビニル系単量体中には、グラフトポリマーの分子量やグラフト率を調製するための各種連鎖移動剤や、グラフト交叉剤を添加することができる。
また、グラフト重合の際には、重合ラテックスを安定化させ、さらに複合ゴム系グラフト共重合体(B)の平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。この際用いる乳化剤としては、特に限定するものではないが、カチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が好ましく、特にスルホン酸塩乳化剤あるいは硫酸塩乳化剤とカルボン酸塩乳化剤とを併用させて使用するのが好ましい。
【0030】
複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、上記のように製造されたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、固化することにより粉末状に回収することができる。
【0031】
このようにして製造された複合ゴム系グラフト共重合体(B)は、複合ゴムがポリオルガノシロキサンと、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含んで形成され、これに芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させたものであるので、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)とともに用いると、特に、低温での耐衝撃性、着色性、耐侯性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述したポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含有することを特徴とする。また、これらの配合の割合に特に制限はないが、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、複合ゴム系グラフト共重合体(B)が1〜30質量部配合されているのが好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)および複合ゴム系グラフト共重合体(B)以外に、適宜任意成分を添加することができる。
任意成分としては、タルク、マイカ、チタン酸カリウムウイスカーなど微細な無機充填剤(剛性や長期実用特性の向上)、ホスファイト系、ヒンダードフェノール系、アミン系などの抗酸化剤、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤、脂肪族カルボン酸エステル系、パラフィン系、シリコーンオイル、ポリエチレンワックスなどの内部滑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、他の無機充填剤や有機充填剤、離型剤、着色剤などを配合することができる。
また、上記任意成分の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、少なくともポリエステルを含有する熱可塑性樹脂成分(A)および複合ゴム系グラフト共重合体(B)を適当な割合で配合・混合し、混練することにより得られる。
各種成分を混合するのに使用される機器としては、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー等が挙げられる。
また、混練するのに使用される機器としては、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を挙げることができる。また、混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
【0035】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形法、押出成形法等の公知の成形法により成形することによって、所望の形状の成形品を得ることができる。
【0036】
以上、説明したように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含む複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させた複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含有しているので、特に、低温での耐衝撃性、着色性、耐侯性、耐熱性に優れたものとなる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品は、電気電子部品用材料、自動車部品用材料、建築用材料、シート用材料、フィルム用材料、食品容器用材料として好適に利用することができる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例、比較例中の「部」は「質量部」を示す。
(ポリオルガノシロキサンラテックスの製造)
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部、及びオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部を溶解した蒸留水200部に、上記混合シロキサン100部を加え、ホモミキサーを用いて10、000rpmで予備攪拌した後、ホモジナイザーにより300kg/cm2の圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。
この混合液をコンデンサー及び攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌混合しながら、80℃で5時間加熱した後、20℃で放置し、48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和し、重合を完結させて、ポリオルガノシロキサンラテックスを得た。
【0039】
(複合ゴム系グラフト共重合体の製造例1〜7)
上記ポリオルガノシロキサンラテックスを10部(固形分)採取し、攪拌器を備えたセパラブルフラスコに入れ蒸留水57.5部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n−ブチルアクリレート63.7部、アリルメタクリレート1.3部及びtert−ブチルヒドロペルオキシド0.26部の混合液を仕込み、30分攪拌し、この混合液をポリオルガノシロキサンゴム粒子に浸透させた。
次いで、硫酸第1鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.25部、及び蒸留水5部の混合液を仕込み、ラジカル重合を開始させ、内温70℃で2時間保持し、重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。
この複合ゴムラテックスを一部採取し、複合ゴムの平均粒子径を測定したところ0.19μmであった。又、このラテックスを乾燥し固形分を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ97.5重量%であった。
【0040】
この複合ゴムラテックスに、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.16部と、表1に示すビニル系単量体25部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。得られた複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5部の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後、75℃で16時間乾燥し、粉末状の複合ゴム系グラフト共重合体(製造例1〜7)を96.9部得た。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例1〜11、比較例1〜5)
表2に示す割合で各成分を配合し、これをカーボンブラック(三菱化学(株)製、CB−960)0.5部と混合し、この混合物を押出機(機種名:PCM−30、池貝社製)に供給し、260℃で混練してペレット化した。なお、すべての実施例および比較例において、酸化防止剤として、イルガノックス1076(チバガイギー社製)0.1部およびアデカスタブC(旭電化社製)0.1部をそれぞれ配合した。
得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、成形温度260℃で射出成形して、110mm×110mm×3mm試験片を得た。得られた試験片の性能を各種試験によって評価し、その結果を表2に示した。
【0043】
【表2】
表2中の各略号は、以下の通りである。
PBT:ポリブチレンテレフタレート(「タフペットN1000」、三菱レイヨン(株)製)
PET:ポリエチレンテレフタレート(「KR582」、三菱レイヨン(株)製)
PC:ポリカーボネート(「ノバレックス7025A」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
HIPS:ハイインパクトポリスチレン(「スミブライトE580」、住友化学(株)製)
ABS:アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(「ダイヤペット3001」、三菱レイヨン(株)製)
SAN:アクリロニトリル/スチレン共重合体(「AP789」、旭化成(株)製)
MS:メチルメタクリレート/スチレン共重合体(「エスチレンMSM600」、新日鐵化学(株)製)
PMMA:ポリメチルメタクリレート(「アクリペットVH」、三菱レイヨン(株)製)
PPE:(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、還元粘度(ηsp/c)=0.59dl/g
【0044】
(性能評価方法)
(1)アイゾット(Iz)衝撃強度(耐衝撃性)
得られた試験片(肉厚1/8インチ)を用い、ASTM D256に準拠してIz衝撃強度を測定した。なお、測定温度は23℃、−30℃とした。
(2)着色性
得られた試験片を用い、JIS Z 8729に準拠した色相測定で得られたL*によって評価した。なお、L*値が12以下であれば、着色性に優れているといえる。
【0045】
表2から明らかなように、実施例1〜11で得られた熱可塑性樹脂組成物の成形品(試験片)は、比較例1〜5で得られた熱可塑性樹脂組成物の成形品(試験片)と比べ、色相測定で得られたL*値が12以下と、良好な着色性を示し、無塗装で意匠性の高い用途に十分適したものであるうえ、耐衝撃性も十分備えていた。
【0046】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含む複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させた複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含有しているので、特に、低温での耐衝撃性、着色性、耐侯性、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供できる。
Claims (2)
- ポリエステル樹脂を30〜90質量%含有する熱可塑性樹脂成分(A)と、複合ゴム系グラフト共重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記複合ゴム系グラフト共重合体(B)が、ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含む複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物を80質量%以上含むビニル系単量体をグラフト重合させたものであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。 - 複合ゴムの平均粒子径が0.03〜3μmであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
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