JP4007561B2 - 試料ステージ移動装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと称す)に用いて好適な試料ステージ移動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
TEMで試料の像を観察する場合、現在蛍光板上で観察している視野の位置における試料ステージの座標を一旦記憶させ、その後に試料ステージを当該座標に戻して再び像を観察できると便利な場合がある。特に、近年のTEMの試料ステージはコンピュータ制御されているので、試料ステージを予め記憶された座標に復帰させることは困難ではない。
【0003】
しかし、高倍率で像観察を行う場合、例えばnmオーダーの高精度に試料ステージの位置を再現することは非常に困難である。それは、試料ステージの駆動機構のバックラッシュ、撓み等の、いわゆるガタあるいは遊び等と称される現象によって試料ステージを移動させる際に誤差を生じてしまうからである。なお、以下においてはこれらを総称して「ガタ」と称することにする。
【0004】
そこで、試料ステージの位置を先に記憶された位置(以下、これを記憶位置と称す)に復帰させる場合に、試料ステージを、当該位置を記憶したときに試料ステージを移動させてきた方向と同じ方向から移動させるようになされているものがある。このようにすれば、試料ステージを記憶位置に復帰させるときに駆動機構のガタによって誤差が生じたとしても、その誤差は当該記憶位置を記憶する際に生じた誤差と同じになるので、試料ステージの位置の再現精度を向上させることができることは明らかである。このような手法は、一般のステージの駆動の手法としてよく知られている方法である。
【0005】
図4を参照して具体的に説明すると次のようである。図4において、横軸は試料ステージのX軸座標を示し、縦軸は試料ステージのY軸座標を示している。また、Aで示す位置は記憶位置であり、その位置は(Xa ,Ya )であるとする。ここで、記憶位置Aを記憶する際に、試料ステージをCで示す位置から直線的にB(Xb ,Yb )の位置に移動させ、次にBの位置から直線的にAの位置に移動させて、このAの位置を記憶させたとする。
【0006】
そして、いま試料ステージがCの位置にあるとして、記憶位置Aに復帰させようとする場合、Cの位置から直接記憶位置Aに移動させると試料ステージの駆動機構のガタによって誤差が生じる可能性がある。なぜなら、Cの位置から記憶位置Aに直接移動させるときの駆動機構のガタによる誤差と、当該記憶位置Aを記憶する際にCの位置からBの位置に移動し、更にBの位置から記憶位置Aに移動したときの駆動機構のガタによる誤差とは一般的に異なるからである。
【0007】
これに対して、試料ステージをCの位置から記憶位置Aに復帰させる場合に、記憶したときの動きと同じにCの位置から一旦Bの位置に移動させ、次にBの位置から記憶位置Aに移動させれば、駆動機構のガタによる誤差はAの位置を記憶するときと、Aの位置に復帰させるときと同じになり、従って試料ステージの位置を高精度に再現することができることは明らかであろう。
【0008】
なお、△X,△Yの値は、それぞれ試料ステージの駆動機構のX軸方向、Y軸方向のガタの範囲より大きな値を有する固有値とすると、図4においては、
│Xa −Xb │≧△X
│Ya −Yb │≧△Y
となされている。即ち、操作者は試料ステージを移動させるについては、試料ステージの駆動機構のX軸方向、Y軸方向のガタの範囲より大きく移動させるようにするのである。図5はそのことを説明する図であり、図5のPで示す位置を記憶させたい試料ステージの位置とすると、図中ハッチングで示す範囲外の位置から直線的に位置Pまで試料ステージを移動させる必要があるのである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、試料ステージを記憶位置に復帰させる場合には、可能な限り当該位置を記憶したときと同じ動きで移動させるようにしたいのであるが、そのためには、操作者は、試料ステージを移動させる際に試料ステージの座標系における動きを正しく理解している必要がある。
【0010】
しかし、これは非常に難しいことである。即ち、操作者は蛍光板状の試料の像を観察しながら試料ステージを移動させることはいうまでもないが、蛍光板上の像は対物レンズから投影レンズまでのレンズ系の作用により像回転を生じているため、蛍光板上の横軸方向、縦軸方向がそれぞれ試料ステージ上のX軸方向、Y軸方向と一致するとは限らず、試料ステージの座標系と、蛍光板上の座標系とを対応させることは非常に難しいことなのである。
【0011】
また、近年、TEMにおいては像回転を積極的に行わせるような機能が組み込まれているものがあるが、この種のTEMの場合、試料ステージの座標系における試料移動方向と、蛍光板上での像の移動方向とをとっさに対応付けることは非常に困難である。
【0012】
更に、試料の像をCRT等の表示装置上で観察しながらマウスで試料移動を行うようになされているTEMも知られているが、この種のTEMにおいては、像回転が生じていてもマウスの移動方向と像の移動方向を一致させるような補正処理がなされているため、この種のTEMでは移動方向の対応付けは殆ど不可能である。
【0013】
以上のようであるので、従来においては、試料ステージを記憶位置に復帰させる場合に、当該記憶位置を記憶したときと同様な動きで移動させるようにすることは非常に難しいものであり、その結果、高精度に記憶位置に移動させることが難しいものであった。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、試料ステージの位置を記憶させる際に、試料ステージの座標系での試料ステージの動きと、蛍光板上の座標系における像の動きとの対応付けを理解する必要がなく、試料ステージの記憶位置への復帰を容易、且つ高精度に行うことができる試料ステージ移動装置を提供することを目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の試料ステージ移動装置は、観察視野を変えるために試料ステージを指示された方向に指示された量だけ移動させると共に、現在観察されている視野の位置における試料ステージの位置が指示されて記憶され、その後に試料ステージを当該記憶位置に戻して再び像観察を行うための試料ステージ移動装置であって、試料ステージをXおよびY方向に移動させるXY駆動手段と、指示された前記記憶位置の試料ステージの位置を検出する位置検出手段と、位置検出手段によって検出された前記指示された像観察のための記憶位置の位置、試料ステージが前記指示された記憶位置へ、直交する4方向の何れの方向から移動してきたかを示す試料ステージ駆動情報を記憶すると共に、現在位置からある記憶位置への復帰が指示された場合には、当該記憶位置の位置と前記試料ステージ駆動情報とに基づき、当該記憶位置が記憶されたときと概ね同じ方向から試料ステージが当該記憶位置に移動するように、さらにその移動にあたっては、前記XY駆動手段のガタの範囲より大きな距離を試料ステージがXY方向に移動するように、前記XY駆動手段を制御して試料ステージを移動させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ実施の形態について説明する。
図1は本発明に係る試料ステージ移動装置の一実施形態を示す図であり、図中、1は試料、2は試料ステージ、3はX軸駆動機構、4はX軸位置検出器、5はY軸駆動機構、6はY軸位置検出器、7は駆動制御部、8は主制御部、9は操作部、10はメモリ、11は表示部を示す。
【0017】
観察の対象である試料1は試料ステージ2に載置されている。TEMの場合、実際には試料1は試料ホルダに装着され、その試料ホルダを試料ステージに固定するのであるが、図1ではその構造は省略している。
【0018】
まず、図1に示す構成の各部の概略について説明する。
試料ステージ2は、いわゆる2軸ステージであればどのような構造のものでもよい。X軸駆動機構3及びY軸駆動機構5は、試料ステージ2を移動させる機能を持つものであればどのような構造のものであってもよい。
【0019】
X軸位置検出器4はX軸駆動機構3の動きに基づいて、試料ステージ2の座標系におけるX軸方向位置を検出して、駆動制御部7に通知するものであり、試料ステージ2の現在のX軸方向位置を検出でき、且つデータ転送の機能を有するものであればどのような構造のものでもよい。同様に、Y軸位置検出器6はY軸駆動機構5の動きに基づいて、試料ステージ2の座標系におけるY軸方向位置を検出して駆動制御部7に通知するものであり、試料ステージ2の現在のY軸方向位置を検出でき、且つデータ転送の機能を有するものであればどのような構造のものでもよい。
【0020】
主制御部8は、CPU及びその周辺回路からなり、当該試料ステージ移動装置の動作を統括して管理するものである。また、主制御部8は後述する処理を実行する。
駆動制御部7は、主制御部8からの指示に応じてX軸駆動機構3、Y軸駆動機構5を制御するものである。
操作部9は、操作者が試料ステージ2の移動、そして試料ステージ2の位置の記憶、更には記憶させた位置に試料ステージ2を復帰させる際に使用するものであり、トラッカーボール、マウス、ジョイスティック等で構成される。
【0021】
表示部11はCRT等の表示手段で構成されており、試料ステージ2の位置を記憶させたり、あるいは記憶されている位置へ試料ステージ2を復帰させたりする際の操作インターフェースとして使用されるものである。
【0022】
次に、試料ステージ2の位置を記憶させる場合の動作について説明する。
この場合、操作者は、蛍光板(図1には図示せず)を観察しながら操作部9により試料ステージ2を移動させる操作を行う。いま、操作者が試料ステージ2をある方向にある量だけ移動させる操作を行ったとすると、主制御部8は操作部9での操作内容を検知し、駆動制御部7に対して当該方向へ、当該量の移動を指示する。これに応じて駆動制御部7は試料ステージ2を当該方向へ、当該量だけ移動させるにはX軸駆動機構3、Y軸駆動機構5をどれだけどちらの方向へ駆動すればよいかを演算し、その結果得られたX軸駆動方向、X軸駆動量をX軸駆動機構3に与えると共に、Y軸駆動方向、Y軸駆動量をY軸駆動機構5に与える。以上の動作によって、試料ステージ2は操作部9で操作された通りの方向に操作された通りの量だけ移動するので、蛍光板の視野内の試料1の像は移動することになる。
【0023】
そして、後で観察したい像が蛍光板の視野の中心にきたとき、操作者は操作部9により位置記憶の操作を行う。このとき、駆動制御部7は、X軸位置検出器4から転送された最終的なX座標及びY軸位置検出器6から転送された最終的なY座標、及びどの方向から当該位置に移動してきたかを示す移動方向情報を主制御部8に渡す。これに応じて、主制御部8は移動方向情報から試料ステージ2の駆動状態を求める。この駆動状態は、試料ステージ2が当該記憶位置に移動されたときの概略の移動方向を示すことができればよいので詳細な移動方向は必要ではなく、例えば、図2において▲1▼〜▲4▼で示すような直交する4方向だけでよい。従って、主制御部8は駆動制御部7から渡された移動方向情報が示している移動方向を図2の4方向の何れかの方向に丸め込む処理を行う。なお、図2においてPは今回記憶する位置を示している。
【0024】
そして、主制御部8は、駆動制御部7から渡された当該位置のX座標、Y座標及び求めた駆動状態を当該記憶位置に関する情報としてメモリ10に記憶すると共に、表示部11に当該記憶位置の座標値及び駆動状態を表示する。これによって当該位置が記憶されたことになる。
【0025】
以上のようであるので、操作者は、蛍光板上の像の移動方向と、試料ステージ2の実際の移動方向を関連付けながら移動させる必要はなく、単に操作部9によって試料ステージ2を移動させて、観察したい位置が蛍光板の視野の中心にきたときに操作部9によって当該位置を記憶させる操作を行えばよい。
【0026】
次に、試料ステージ2を先に記憶された記憶位置に復帰させる場合の動作について説明する。ここでは、現在試料ステージ2はRの位置におり、この位置Rから先に記憶した位置Pに復帰させる場合を例にとって説明する。
【0027】
この場合、操作者は表示部11で復帰させたい記憶位置Pを指示する。これに応じて主制御部8は指示された記憶位置に関するX座標、Y座標及び駆動状態をメモリ10から読み出す。ここでは位置Pの座標は(XM ,YM )とし、駆動状態は図2の▲3▼の方向であるとする。
【0028】
次に、主制御部8は、現在の位置と、読み出した駆動状態と、記憶位置Pの座標とから、現在の位置Rから直接記憶位置Pに移動できるか否か、直接移動できない場合には現在位置Rからどの位置に一旦移動させればよいかを演算する。
【0029】
現在位置Rから見たとき記憶位置Pが概略図2の▲3▼で示す方向にあり、しかも現在位置Rと記憶位置PとのX方向距離、Y方向距離が共にX軸駆動機構3のガタの範囲、Y軸駆動機構5のガタの範囲より大きい場合には、現在位置Rから記憶位置Pに直接移動させることが可能であるが、図3の場合には方向は概略図2の▲3▼の方向と同様であるが、現在位置Rと記憶位置PとのX方向の距離は小さく、X軸駆動機構3のガタの範囲内なので、現在位置Rから記憶位置Pへ直接移動させることはできない。
【0030】
この場合、主制御部8は、記憶位置Pの駆動状態を考慮して、位置Q(XM −△X,YM −△Y)を求め、現在位置Rから一旦Qの位置に移動させ、Qの位置から記憶位置Pに移動させるようにする。ここで、△X,△Yは、上述したように、それぞれ、試料ステージ2のX軸駆動機構3、Y軸駆動機構5のガタの範囲より大きな値を有する固有値である。
【0031】
そして、主制御部8は、駆動制御部7に対して、試料ステージ2を現在位置Rから一旦位置Qに移動させ、次に、位置Qから記憶位置Pに移動させるように指示する。このことによって、試料ステージ2は記憶位置Pを記憶したときにX軸駆動機構3、Y軸駆動機構5が移動していた方向と概略同じ方向から記憶位置Pに移動されることになる。
【0032】
このように、記憶位置に復帰される場合の試料ステージの動きは、当該記憶位置を記憶するときの試料ステージの動きと概ね同様になるので、記憶位置を記憶するときの駆動機構のガタによる誤差と、試料ステージを当該記憶位置に復帰させるときの駆動機構のガタによる誤差との差異は従来よりも小さくなり、以て試料ステージを高精度に記憶位置に移動させるようにすることができるのである。
【0033】
なお、試料ステージ2の移動速度が大きすぎると記憶位置をオーバーランしてしまう可能性が大きくなるため、図3において位置Qから記憶位置Pに移動させる場合は、オーバーランしない程度の速度で移動させるようにし、現在位置Rから位置Qへ移動する場合は、ある程度オーバーランしても差し支えないので試料ステージ2の最高速度で移動させるようにすればよい。これによって記憶位置に復帰させるまでの時間を短縮することができる。
【0034】
図3では記憶位置Pの駆動状態は図2の▲3▼で示す方向であるとしたが、駆動状態が図2の▲1▼の方向であるときにはQの位置は(XM +△X,YM +△Y)となり、▲2▼の方向であるときにはQの位置は(XM +△X,YM −△Y)となり、▲4▼の方向であるときにはQの位置は(XM −△X,YM +△Y)となる。
【0035】
以上のようであるので、この試料ステージ移動装置によれば、試料ステージ2を記憶された位置に復帰させる場合に、当該記憶位置が記憶された際の試料ステージ2の移動した向きと概略同じ向きに自動的に移動されるので、記憶位置の再現精度が向上する。
【0036】
また、記憶位置に関する情報として、試料ステージ2の位置に加えて試料ステージ2の駆動状態を記憶させるため、試料ステージ2の位置を記憶させる際に、試料ステージ2の動きを理解する必要がなくなり、操作が極めて容易になり、しかも試料ステージの記憶位置への復帰を高精度に行うことができるものである。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、駆動機構のガタは一種のヒステリシス現象であるため、駆動機構としてピエゾ素子を用いた場合にも本発明を適用することができる。このとき、駆動状態はピエゾ素子に印加する電圧の増減状態から求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る試料ステージ移動装置の一実施形態を示す図である。
【図2】 駆動状態を説明する図である。
【図3】 図1の構成において、記憶位置Pに復帰させる場合の動作を説明するための図である。
【図4】 従来の手法において、記憶位置Aに復帰させる場合の動作を説明するための図である。
【図5】 位置を記憶させる場合の試料ステージの移動範囲を説明する図である。
【符号の説明】
1…試料、2…試料ステージ、3…X軸駆動機構、4…X軸位置検出器、5…Y軸駆動機構、6…Y軸位置検出器、7…駆動制御部、8…主制御部、9…操作部、10…メモリ、11…表示部。
Claims (1)
- 観察視野を変えるために試料ステージを指示された方向に指示された量だけ移動させると共に、現在観察されている視野の位置における試料ステージの位置が指示されて記憶され、その後に試料ステージを当該記憶位置に戻して再び像観察を行うための試料ステージ移動装置であって、
試料ステージをXおよびY方向に移動させるXY駆動手段と、
指示された前記記憶位置の試料ステージの位置を検出する位置検出手段と、
位置検出手段によって検出された前記指示された像観察のための記憶位置の位置、試料ステージが前記指示された記憶位置へ、直交する4方向の何れの方向から移動してきたかを示す試料ステージ駆動情報を記憶すると共に、現在位置からある記憶位置への復帰が指示された場合には、当該記憶位置の位置と前記試料ステージ駆動情報とに基づき、当該記憶位置が記憶されたときと概ね同じ方向から試料ステージが当該記憶位置に移動するように、さらにその移動にあたっては、前記XY駆動手段のガタの範囲より大きな距離を試料ステージがXY方向に移動するように、前記XY駆動手段を制御して試料ステージを移動させる制御手段と
を備えることを特徴とする試料ステージ移動装置。
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