JP3985584B2 - 炭酸カルシウム質蛍光体とその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な炭酸カルシウム質蛍光体とその製造方法に関し、この蛍光体を発光成分とする蛍光組成物を包含する。本発明の蛍光体は、近紫外光の照射を受けて緑色に発光する。
【0002】
【従来の技術】
金属酸化物等を母材とし、これに希土類元素の酸化物を付活剤として添加した従来の無機蛍光体は、付活剤を固溶置換させるために、たとえば1700℃という高温で処理する必要があること、および添加する希土類酸化物が高価である上に高純度であることを必要とし、そのために製造コストが高くなることが避けられなかった。
【0003】
発明者らは、この問題を解決して製造コストの低い蛍光体を提供することを意図し、母材として安価な炭酸カルシウムを採用するとともに、付活剤としても、安価であるうえに、高温での処理を必要としないか、少なくともあまり高い温度での処理を必要としないものを用い、原料費も操業費も低廉ですみ、製造コストの安い蛍光体を追求してきた。
【0004】
その成果の一部として、さきに、カルサイト型の炭酸カルシウムに対する付活剤としてSn2+を用いることにより青色の発光をする蛍光体を見出し、すでに開示した(特開平10-226786)。炭酸カルシウム蛍光体の利点としては、▲1▼母体結晶が安価であること、▲2▼低温度で合成できるため省エネルギーの要請に合致すること、▲3▼合成の初期段階で非晶質の炭酸カルシウムが付活剤をとりこみやすいこと、および▲4▼粒子径や形状の制御が容易であることが挙げられる。
【0005】
一方、バテライト型の結晶構造を有する炭酸カルシウム質の蛍光体の研究も行ない、付活剤としてCe3+およびMn2+を使用した(Ce+Mn)付活炭酸カルシウムが、「ブラックライト」と呼ばれる波長300〜450nmの近紫外光を受けて、赤色の蛍光を発することを見出し、この事実を利用した炭酸カルシウム質蛍光体をすでに提案した(特開平2001-265167)。
【0006】
別に、付活剤としてCe3+とともにTb3+を使用したCe−Tb付活炭酸カルシウムは、波長300〜450nmの近紫外光で545nm付近に発色ピークをもつ、あざやかな緑色の蛍光を発することも見出し、これもすでに発表した(真智ほか,「日本セラミックス協会第15回関東支部研究発表講演要旨集」(1999)p.62)。
【0007】
付活剤としてユーロピウムEu3+を使用した場合、バテライト型の結晶構造を有するEu3+付活炭酸カルシウムが、波長330nmの近紫外光により励起されて620nmに発光ピークを有する赤色の蛍光を発すること、さらに、Eu3+付活炭酸カルシウムを加熱すると、Eu2+付活炭酸カルシウムに変化し、励起波長330nmに対して、発光ピーク波長430nmの青色の蛍光を発することを見出した。
【0008】
ところが、上記のようにして得られる炭酸カルシウム質蛍光体は、いずれの蛍光色のものも熱的安定性および空気中における安定性が低い。とくに、緑色の発光をする(Ce3++Tb3+)付活炭酸カルシウム蛍光体は、200℃に加熱すると、蛍光体の発光強度が加熱前の半分程度まで低下してしまうし、空気中で保存したときも、発光強度が経時的にどんどん低下していく。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、既知の炭酸カルシウム質蛍光体、とくに緑色発光をするCe3++Tb3+付活炭酸カルシウム質蛍光体の弱点を補い、熱的安定性および空気中での安定性にすぐれた、ブラックライト下で有用である新規な炭酸カルシウム質蛍光体と、それを発光成分とする緑色蛍光組成物を提供することにある。そのような蛍光体を製造する方法を提供することもまた、本発明の目的に含まれる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体は、カルサイト型構造を有し、CeおよびTbにより付活したことにより近紫外光の照射を受けて緑色の蛍光を発する炭酸カルシウム質蛍光体であって、マグネシウを固溶させることにより、相対発光度を高めるとともに、安定性を増したことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の緑色蛍光組成物は、上記の炭酸カルシウム質蛍光体を発光成分として含有する、さまざまな形態の組成物であって、例を挙げれば、塗料基礎成分に蛍光体を添加した塗料、プラスチックに混練したマスターバッチ、それを成形したもの、あるいはコンクリートに混練したものなどがある。
【0012】
上記の炭酸カルシウム質蛍光体を製造する本発明の方法は、いずれも水可溶性のカルシウム化合物、マグネシウム化合物、セリウム化合物、テルビウム化合物の混合水溶液に炭酸イオンを添加して、炭酸カルシウムを主体とするゲル状物質を析出させ、ついでこのゲルが懸濁している液を加熱して熟成させることにより、炭酸カルシウムの結晶化を進め、カルサイト型構造をもち、Mgが固溶し、かつCeおよびTbにより付活された炭酸カルシウムの結晶を得ることからなる製造方法である。
【0013】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体において、母材となる炭酸カルシウム中のマグネシウム固溶量は、Mg/Caの原子比で、0.1〜0.7の範囲が適当である。この範囲外では、蛍光体の相対発光強度が低い。好ましい範囲は、0.2〜0.6である。
【0014】
母材に対する付活剤の割合は、(Ce+Tb)/(Ca+Mg)の原子比にして、0.03〜0.08の範囲が適当である。付活剤の量が下限に満たないと、付活効果が不十分であるし、上限を超えて添加しても、効果が飽和し、コストが高くなるだけである。
【0015】
付活剤であるCeとTbとの間の比率は、Tb/(Ce+Tb)の原子比にして、0.5〜0.8の範囲が適当である。この範囲外であると、高い相対発光強度が得られない。
【0016】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体の製造において、原料として使用するカルシウム化合物、マグネシウム化合物、セリウム化合物およびテルビウム化合物は、水溶性であり、かつ混合によって変化しないものである限り、任意のものを選択することができる。通常は、塩化物や硝酸塩のような、水易溶性の物質が好適である。炭酸イオンの添加は、下記の実施例に見るように、水可溶性の炭酸塩水溶液の添加によって行なうのが便宜であるが、二酸化炭素ガスまたは二酸化炭素含有ガスの吹き込みによって行なうこともできる。
【0017】
【実施例】
濃度0.1mol/dm3の塩化カルシウム水溶液と、同じ濃度の塩化マグネシウム水溶液を、前者だけ、または混合物中のMg/Ca原子比が0〜1.5の範囲となるように混合して使用して、温度35℃で30分間撹拌した。そこへ付活剤として、塩化セリウム水溶液および塩化テルビウム水溶液を、
(Ce+Tb)/(Ca+Mg)=0.07
Tb/(Ce+Tb)=0.71
となるように添加し、この混合溶液に、濃度0.1mol/dm3の炭酸アンモニウム水溶液を、液の体積比が1対1となる量、急速に混合してゲル化を引き起こした。撹拌下に90℃に1時間加熱して、熟成させて結晶化を促進した。
【0018】
得られた結晶化生成物を濾過分離し、乾燥して、X線回折や原子吸光などの装置で分析した。蛍光特性は、分光蛍光光度計を用いて測定した。322nmの近紫外光で励起したときの相対発光強度を、Mg/Ca原子比との関係においてプロットし、図1のグラフに示す。このグラフから、Mg/Caが0.1〜0.7の範囲において、発光強度が高まること、とくに0.3〜0.5の範囲において、Mgが固溶していない場合の2倍以上の発光強度が得られることがわかる。
【0019】
上で製造した(Ce+Tb)付活マグネシウム固溶炭酸カルシウム質蛍光体のうち、
Mg/Ca=0.38
(Ce+Tb)/(Ca+Mg)=0.07
Tb/(Ce+Tb)=0.71
であるものについて、常温で空気中に放置したときの安定度を、発光強度を尺度に、既知のマグネシウムが固溶していない(Ce+Tb)付活炭酸カルシウム質蛍光体(バテライト型)と比較した。結果は図2のグラフに見るとおりであって、比較例では、初期発光強度の30%を下回るところまで低下してしまうのに対し、本発明の蛍光体は、60%程度に低下した後は安定に推移する。
【0020】
熱安定性を見るため、上記2種の蛍光体を、200℃または300℃に30分間加熱したのちの発光強度を測定した。その結果を図3のグラフに示す。本発明の実施例は、200℃に加熱しても、発光強度の低下は僅かであり、比較例の初期発光強度を上回る成績が確保できている。
【0021】
200℃の加熱に耐えるということは、この蛍光体を常用の熱可塑性樹脂に練り込んで、押出成形や射出成形により成形品とすることが可能であることを意味する。上述の、常温保存による劣化は、空気中の水分による分解が原因と考えられる。蛍光体を疎水性物質である樹脂で包んでしまえば、周囲の水分の影響は、実質上遮断できるから、初期発光強度が(加熱による若干の低下はあっても)そのまま維持できることになり、炭酸カルシウム質で緑色に発光する蛍光体の耐久性が確立されたわけである。
【0022】
本発明の骨子をなす、炭酸カルシウム結晶格子へのマグネシウムの固溶に関して、所望の固溶量を実現するためには、Caイオンの当量より多いMgイオンの存在が必要である。上述の炭酸塩沈殿法による場合に選択すべき条件を示せば、図4のグラフのようになる。このグラフは、CaおよびMgの混合水溶液中のMg/Ca比と、それがもたらす結晶中のMg/Caの比との関係を示したものである。結晶中の好適なMg/Ca比である0.3〜0.5を実現するには、初期の、つまり混合水溶液中のMg/Ca比を0.4〜0.8の範囲にすべきことがわかる。
【0023】
図4の関係は、(Ce+Tb)/(Ca+Mg)の原子比が0.07であり、Tb/(Ce+Tb)の原子比が0.71であるという条件のもとに得たものであるが、本発明で好適とする範囲すなわち、前者に関しては0.03〜0.08、後者に関しては0.5〜0.8の範囲において、ほぼ同様に考えてよいことがわかっている。
【0024】
【発明の効果】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体は、付活剤としてCe3+とともにTb3+を使用したCe−Tb付活カルサイト型炭酸カルシウム蛍光体の欠点であった不安定性、とくに空気中の保存性の悪さと耐熱性の低さとが改善され、波長300〜450nmの近紫外光を受けると、545nm付近に発色ピークをもつあざやかな緑色の蛍光を発するという特性を、長期にわたって利用することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の(Ce3++Tb3+)付活マグネシウム固溶炭酸カルシウム質蛍光体を構成するカルサイト結晶中のMg/Ca原子比と相対発光強度との関係を示すグラフ。
【図2】 本発明の(Ce3++Tb3+)付活マグネシウム固溶炭酸カルシウム質蛍光体のもつ保存安定性を、マグネシウムが固溶していない(Ce3++Tb3+)付活炭酸カルシウム質蛍光体と比較して示すグラフ。
【図3】 本発明の(Ce3++Tb3+)付活マグネシウム固溶炭酸カルシウム質蛍光体のもつ耐熱安定性を、マグネシウムが固溶していない(Ce3++Tb3+)付活炭酸カルシウム質蛍光体と比較して示すグラフ。
【図4】 炭酸塩沈でん法によりマグネシウム固溶炭酸カルシウムを製造する場合に、原料である混合水溶液中のMg/Ca原子比と、得られた結晶中のMg/Ca原子比との関係を示すグラフ。
Claims (6)
- カルサイト型構造を有し、CeおよびTbにより付活したことにより近紫外光の照射を受けて緑色の蛍光を発する炭酸カルシウム質蛍光体であって、マグネシウムを固溶させることにより、相対発光度を高めるとともに、安定性を増したことを特徴とする炭酸カルシウム質蛍光体。
- Mg/Caの原子比が0.1〜0.7の範囲にある請求項1の炭酸カルシウム質蛍光体。
- (Ce+Tb)/(Ca+Mg)の原子比が0.03〜0.08の範囲にある請求項2の炭酸カルシウム質蛍光体。
- Tb/(Ce+Tb)の原子比が0.5〜0.8の範囲にある請求項3の炭酸カルシウム質蛍光体。
- 請求項1ないし4のいずれかの炭酸カルシウム質蛍光体を発光成分として含有する緑色蛍光組成物。
- 請求項1に記載の炭酸カルシウム質蛍光体を製造する方法であって、いずれも水可溶性のカルシウム化合物、マグネシウム化合物、セリウム化合物、テルビウム化合物の混合水溶液に炭酸イオンを添加して、炭酸カルシウムを主体とするゲル状物質を析出させ、ついでこのゲルが懸濁している液を加熱して熟成させることにより、炭酸カルシウムの結晶化を進め、カルサイト型構造をもち、Mgが固溶し、かつCeおよびTbにより付活された炭酸カルシウムの結晶を得ることからなる製造方法。
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