JP3965823B2 - ブラックライト照射により発光する炭酸カルシウム質蛍光体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な炭酸カルシウム質蛍光体とその製造方法に関し、この蛍光体を発光成分とする蛍光組成物を包含する。本発明の蛍光体は、近紫外光の照射を受けて赤色に発光する。
【0002】
【従来の技術】
金属酸化物等を母材とし、これに希土類元素の酸化物を付活剤として添加した在来の無機蛍光体は、付活剤を固溶置換させるために高温で処理する必要があること、および添加する希土類酸化物が高価であるうえに高純度であることを必要とし、そのために製造コストが高くなることが避けられなかった。
【0003】
発明者らは、この問題を解決して製造コストの低い蛍光体を提供することを意図し、母材として安価な炭酸カルシウムを採用するとともに、付活剤としても安価であって、かつ高温での処理を必要としないものを用い、原料費も製造費もともに低廉ですみ、したがってコストの安い蛍光体を研究している。
【0004】
その成果の一部として、さきに、カルサイト型の炭酸カルシウムに対する付活剤としてSn2+を用いることにより青色の発光をする蛍光体を見出し、すでに開示した(小島ほか,J. Ceram. Soc. Jpn., 105 395 1997;特開平10−226786)。炭酸カルシウム蛍光体の利点としては、(1)母体結晶が安価であること、(2)低温度で合成できるため省エネルギーの要請に合致すること、(3)合成の初期段階で非晶質の炭酸カルシウムが付活材をとりこみ易いこと、(4)粒子の径や形状の制御が容易であること、などが挙げられる。
【0005】
続いて、付活剤としてMn2+とPb2+とを併用すると、赤色の発色をする蛍光体が得られることを見出し、これについても発表した(川島ほか,「日本セラミックス協会第13回関東支部研究発表講演要旨集(1997)p.15」)。上記2種の蛍光体は、いずれも水銀原子から放出される、波長が254nm付近の紫外光の照射を受けて発光するものである。
【0006】
さらに研究を重ねた結果、今回、付活剤としてCe3+およびMn2+(以下の記述においては、それぞれ「Ce」および「Mn」で表す)を使用したとき、バテライト型の結晶構造を有するCe−Mn付活炭酸カルシウムが、「ブラックライト」と呼ばれる波長300〜450nmの近紫外光で、赤色の蛍光を発することを見出した。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した発明者らの新しい知見を活用し、ブラックライト下で有用である新規な炭酸カルシウム質蛍光体と、それを発光成分とする赤色蛍光組成物を提供することにある。そのような蛍光体を製造する方法を提供することもまた、本発明の目的に含まれる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体は、ブラックライト(300〜450nm)照射により発光する炭酸カルシウム質蛍光体であって、バテライト型構造を有し、Mn 2+ およびCe 3+ により付活したことにより、ブラックライトの照射を受けて610nmに発光ピークを有する赤色の蛍光を発することを特徴とする。
【0009】
上記の炭酸カルシウム質蛍光体を製造するための本発明の方法は、水可溶性のカルシウム化合物、マンガン化合物およびセリウム化合物の混合水溶液に、Ca/CO 3 のモル比がほぼ1となるように炭酸イオンを含有する水溶液を添加して、炭酸カルシウムを主体とするゲル状物質を析出させ、ついで、このゲルが懸濁している液を攪拌して炭酸カルシウムの結晶化を進め、バテライト型構造を主体とする、Mn 2+ およびCe 3+ により付活された炭酸カルシウムの結晶を得ることからなる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の炭酸カルシウム質蛍光体において、母材となる炭酸カルシウムに対する付活剤の割合は、(Mn+Ce)/Caの原子比にして0.03〜0.07の範囲が適当である。他方、付活剤であるMnおよびCe両者の間の比率は、Mn/(Mn+Ce)の原子比にして0.42〜0.73の範囲が適当である。これらの条件の少なくとも一方、好ましくは両方が満たされたとき、高い相対発光強度が得られる。
【0011】
【実施例】
CaCl2の濃度0.1モル/dm3の溶液を用意し、これに所定の濃度のMnCl2溶液およびCe(NO3)3溶液を添加して、混合溶液とした。このとき、添加するMnCl2溶液およびCe(NO3)3溶液の量を変化させて、(Mn+Ce)/Caの原子比を0〜0.15の範囲内で、またMn/(Mn+Ce)の原子比を0〜1.0の範囲内で調節した。温度35℃において、この混合溶液に(NH4)2CO3の濃度0.1モル/dm3の溶液を、Ca/CO3のモル比が1.0となるように急激に加えた。白色のゲル状物質(非晶質炭酸カルシウム)が生成したので、その懸濁液を400rpmで5分間攪拌して結晶化を促した。
【0012】
結晶化した生成物を濾過分離し、乾燥して、X線回折、原子吸光などの装置で分析した。蛍光特性は、分光蛍光光度計を用い、発光ピーク波長および励起波長を、250〜400nmの範囲で測定した。
【0013】
ゲルから結晶化させて得た炭酸カルシウムは、バテライト型の構造を有していた。その結晶の懸濁液を昇温速度2℃/min.で90℃まで昇温し、4時間熟成したところ、カルサイト型構造に変化した。
【0014】
バテライトの合成に当たりMnまたはCeを単独で添加した場合、初期の、つまり反応時のMn/CaおよびCe/Caの原子比が増大するに伴い、バテライト中のMn/CaおよびCe/Caの原子比も、直線的に増大した。格子定数は、Mn単独で付活した場合、Mn2+のイオン半径(0.080nm)がCa2+のそれ(0.099nm)より小さいため低下し、Mn/Ca原子比0.036程度で一定になった。Ce単独で付活した場合、Ce3+のイオン半径(0.107nm)がCa2+のそれより大きいため格子定数が上昇し、Ce/Ca原子比0.025程度で一定になった。Mn単独付活バテライトでは発光は認められなかったが、Ce単独付活バテライトでは360nmをピーク波長とする発光が観測された。
【0015】
これに対し、MnおよびCeをあわせて添加した場合、Mn単独付活バテライトもCe単独付活バテライトも生成せず、Mn−Ce混合付活炭酸カルシウムが生成し、その結晶構造もバテライト/カルサイトが91/9の割合の混相であった。
【0016】
母体結晶がバテライト主体のものとカルサイトのものとについて、発光強度を測定し比較した。これら蛍光体の励起波長は、330nm程度であった。図1に、Mn−Ce混合付活バテライトおよびカルサイトの発光強度が、(Mn+Ce)/Caの原子比に従ってどのように変化するかを示した。バテライト、カルサイトとも(Mn+Ce)/Caの原子比0.06程度で発光強度が最大になるが、カルサイトの発光強度はバテライトの25%程度に止まっている。
【0017】
このように、蛍光体としてはバテライト型構造のものが実用になることがわかったので、バテライトを母材とするものについて、初期(Mn+Ce)/Ca原子比および初期Mn/(Mn+Ce)原子比が発光強度に及ぼす影響を調べた。
【0018】
まず、初期Mn/(Mn+Ce)原子比を0.60と一定にし、初期(Mn+Ce)/Ca原子比を0.12までの範囲で増大させたところ、固相中の(Mn+Ce)/Ca原子比は直線的に増大して0.82で一定になった。つぎにMn/(Mn+Ce)原子比を、0.31,0.42,0.56または0.73に選んだMn−Ce混合付活バテライトを用意し、波長域500〜750nmの発光特性を測定した。図2に、その結果得た発光スペクトルを示す。いずれの蛍光体も、赤色光の領域である610nm付近に発光ピーク波長が見られる。最大の発光強度を示したのは、Mn/(Mn+Ce)原子比0.56の蛍光体であった。
【0019】
【発明の効果】
本発明の蛍光体は、原料の主体がCa塩であってきわめて安価であり、付活剤のうちMnは同様に安価であり、Ceはそれほど安価とは言えないが、高価なものではなく、しかも使用量は多くないから、原料のコストは知れている。製造に当たっては、常温ないしわずかに温めた温度で、これらの水溶性塩の混合水溶液に炭酸イオンを添加し、析出したゲル状物の懸濁液を短い時間攪拌するだけでよく、高い温度への加熱を要しないから、製造コストも最低限で足りる。
【0020】
このように安価に提供できる蛍光体は、従来の蛍光体ではコスト面で使用が困難であった分野にも使用することができる。たとえば、塗料として、紙、金属、木材、ガラス、布その他の材料の表面に塗布したり浸透させたりして使用することができるし、セメントモルタルやコンクリートへの混練物として、あるいはプラスチック成形品として、道路や駐車場の標識、公共建築物や一般住宅の各種表示、インテリア、エクステリアなど、任意の場面に適用できる。
【0021】
本発明の蛍光体の特徴として注目すべきことは、紫外線のなかでもブラックライト、すなわち肉眼で明るさを感じないが紫外線としての有害性は低い近紫外光の照射により発光することである。この特徴は、きわめて安価に提供できるという利点とあいまって、本発明の蛍光体を道路、看板、各種の構築物・建築物に適用して、景観を改善したり交通安全に役立てたりすることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の炭酸カルシウム質蛍光体において(Mn+Ce)/Ca原子比の変化が相対発光強度に及ぼす影響を示すグラフ。
【図2】 本発明の炭酸カルシウム質蛍光体においてMn/(Mn+Ce)原子比の差異が相対発光強度に及ぼす影響を示す発光スペクトル。
Claims (4)
- ブラックライト(300〜450nm)照射により発光する炭酸カルシウム質蛍光体であって、バテライト型構造を有し、Mn 2+ およびCe 3+ により付活したことにより、ブラックライトの照射を受けて610nmに発光ピークを有する赤色の蛍光を発することを特徴とする炭酸カルシウム質蛍光体。
- (Mn+Ce)/Caの原子比が0.03〜0.07の範囲にある請求項1の炭酸カルシウム質蛍光体。
- Mn/(Mn+Ce)の原子比が0.42〜0.73の範囲にある請求項2の炭酸カルシウム質蛍光体。
- 水可溶性のカルシウム化合物、マンガン化合物およびセリウム化合物の混合水溶液に、Ca/CO 3 のモル比がほぼ1となるように炭酸イオンを含有する水溶液を添加して、炭酸カルシウムを主体とするゲル状物質を析出させ、ついで、このゲルが懸濁している液を攪拌して炭酸カルシウムの結晶化を進め、バテライト型構造を主体とする、Mn 2+ およびCe 3+ により付活された炭酸カルシウムの結晶を得ることからなる炭酸カルシウム質蛍光体の製造方法。
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