JP3976529B2 - リチウムポリマー二次電池およびその製造方法 - Google Patents

リチウムポリマー二次電池およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明のリチウムポリマー二次電池は、紫外線照射して製造されたリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いるリチウムポリマー二次電池および紫外線を照射してリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを製造するリチウムポリマー二次電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リチウム二次電池は、理論エネルギー密度が他の電池と比較して非常に高く、小型軽量化が可能であるため、ポータブル電子機器などの電源として盛んに研究開発されてきた。しかしながら、ポータブル電子機器の高性能化に伴い更なる軽量化、薄型化が求められてきている。また、携帯電話などの機器では非常に多くの繰り返し充電・放電サイクルに対する信頼性、安全性が求められてきている。
【0003】
これまでリチウム二次電池では、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた電解液を正極と負極の間の電解質に用いているので、液漏れ等に対する信頼性を維持するために鉄やアルミニウムの缶を外装材として使用している。そのためリチウム二次電池の重量や厚みは、その外装材である金属缶の重量・厚みに制限されている。
【0004】
そこで現在、電解質に液体を用いないリチウムポリマー二次電池の開発が盛んに行われている。リチウムポリマー二次電池は、電解質にリチウムイオン伝導性ポリマーあるいはリチウムイオン伝導性ゲルを用いた電池である。電解質が固体であるため電池の封止が容易となり、外装材にアルミニウムラミネートフィルムなどの非常に軽くて薄い素材を使用することが可能となり、更なる電池の軽量化、薄型化が可能となってきている。
【0005】
上記のリチウムイオン伝導性ポリマーあるいはリチウムイオン伝導性ゲルは、重合性モノマーにリチウム塩と場合によっては有機溶媒を含ませて、架橋して得る方法が多く用いられている。架橋方法としては、特開平5−290885号公報の電子線などの電離性放射線で電極及び電解質を形成する方法や特開平11−147989号公報の熱重合性反応が起こりやすい熱重合開始剤および重合性化合物を組み合わせて、優れた高分子固体電解質ゲルを得る方法、さらに特開平10−204109号公報の重合開始剤としてX−CO−Y〔式中Xは置換基を有してよいアリール基、Yは置換基を有するホスフィノイル基を示す〕で表される構造の活性光線重合開始剤を含む活性光線重合組成物を用いることにより、重合性が良好で、少ない開始剤量においても重合が完全に進み、重合組成物が得られる方法などがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
電子線などの電離性放射線により、電極、電解質を形成する方法が特開平5−290885号公報にある。電子線は透過性がよいので複合電極の内部にも優れた高分子固体電解質が得ることができるものの、電子線を使用する場合、不活性ガスの雰囲気での使用が必要となる。空気中で使用した場合、空気中の酸素が分解するために、重合反応の重合禁止剤として作用するために好ましくない。また、人体への影響も大きく、電子線発生装置の周囲の遮蔽設備が必要となり、簡便で安全な電池の製造方法は困難である。
【0007】
熱重合性反応が起こりやすい熱重合開始剤および重合性化合物を組み合わせて、優れた高分子固体電解質ゲルを得る方法が特開平11−147989号公報にある。しかしながら、熱による重合では反応時間が長くなり、製造工程短縮が困難である。また固体電解質ポリマーゲルの場合、電池組み立ての際に、電池内での短絡の発生の可能性が、紫外線照射による重合に比較して高くなるという問題点がある。
【0008】
重合開始剤としてX−CO−Y〔式中Xは置換基を有してよいアリール基、Yは置換基を有するホスフィノイル基を示す〕で表される構造の活性光線重合開始剤を含む活性光線重合組成物を用いることにより、重合性が良好で、少ない開始剤量においても重合が完全に進み、重合組成物が得られる方法が特開平10−204109号公報にある。この方法では、電池製造に紫外線の利用を可能にしているものの、紫外線照射の時間は数分間必要であり、照射中に温度が上昇し、リチウム塩の分解や低沸点溶媒の揮発が生じる可能性があり、電池特性に影響を及ぼす問題点がある。また、紫外線照度と電池特性の関係については、未解決である。
【0009】
本発明と同様に、(化1)で示した重合性モノマーを用いてリチウムイオン伝導性ゲルを作製し、ポリマー電池を得る方法が特開2001−210380号公報にある。しかしながら、紫外線照射を用いた場合、照射時間の関係により、生産性の面で問題がある。また紫外線照度、重合開始剤の量と電池特性の関係については、未解決である。
【0010】
本発明は、上記の問題点鑑みてなされたものであり、電池製造条件の重合工程時間の短縮、および電池特性の向上および安定化、特に高負荷特性、サイクル特性に優れたリチウムポリマー二次電池を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の問題点を克服するために、種々検討した結果、正極と負極との間にリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いるリチウムポリマー二次電池において、少なくとも一種の重合性モノマーとリチウム塩、非水溶媒、紫外線照射により重合反応が開始する光重合開始剤を500〜10,000ppmの範囲で含有しているプレカーサー溶液を正極または負極、あるいは基体に含浸し、波長350〜400nmで照度30mW/cm2 以上の紫外線を0.1〜20秒間照射することにより硬化させて得た電極層およびポリマー電解質層を用いることを特徴とするリチウムポリマー二次電池の製造方法を見出した。
【0012】
この特徴を有することにより、正極と負極との間にリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いる二次電池において、工程上求められる程度の形状安定性を持つポリマー電解質を30mW/cm2 以上の照度をもつ紫外線の短時間照射により得ることが可能となる。本発明は、プレカーサー溶液の短時間での硬化が可能であるため生産性が向上する。また、紫外線照射時間が短いため、雰囲気の温度上昇が抑制され、溶媒等の揮発を抑えることができる。プレカーサー溶液は、0.1秒〜20秒以内の紫外線照射で架橋できるものを用いることが好ましく、さらに、生産性の面から10秒以内であることが特に好ましい。
【0013】
本発明は、重合性モノマーと、リチウム塩と非水溶媒の混合量との質量比(以下、重量比)が30:70〜2:98であることを特徴としており、特に7:93〜2:98の範囲で得られるリチウムイオン伝導性ポリマーゲルは、機械的強度を有し、電池特性も優れているので好ましい。重合性モノマーが30wt%より多い場合、十分な機械的強度を有する硬さのリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを得ることが出来るものの、電池特性が著しく悪くなる。また重合性モノマーが2wt%より少ない場合は、固体化する場合もあるものの、機械的強度が十分ではなく、電池特性、特にサイクル特性が悪くなる。
【0014】
本発明は、一般式(化1)で示される重合性モノマーを含んだプレカーサー溶液を用いて、紫外線により重合させることを特徴としている。重合性モノマーは、ポリエーテルセグメントを有することと、重合体が三次元架橋構造を形成するように重合部位に関して多官能である方が好ましく、その典型的なモノマーはポリエーテルポリオールの末端ヒドロキシル基をアクリル酸またはメタクリル酸(集合的に「(メタ)アクリル酸」という。)でエステル化したものである。よく知られているように、ポリエーテルポリオールはエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールを出発物質として、これにエチレンオキシド単独またはプロピレンオキシドを付加重合させて得られる。特にイオン伝導性ポリマーゲルが有機電解液を含有する場合、三官能ポリエーテルポリオールポリ(メタ)アクリル酸エステルは、三次元架橋構造がとりやすく、電解液の保液性に優れるため好ましい。さらに多官能ポリエーテルポリオールポリ(メタ)アクリル酸エステルを単独または単官能ポリエーテルポリオールポリ(メタ)アクリレートと組み合わせて共重合させると、未反応の官能基を減少させる他、リチウムイオン伝導性ポリマーゲルの硬さの面から、界面の密着性が向上する等の効果が得られるため好ましい。
【0015】
本発明は、上記プレカーサー溶液に500〜10,000ppmの光重合開始剤が加えられたプレカーサー溶液を用いて、紫外線による重合を行うことを特徴としている。光重合開始剤が500ppmより少ない場合、十分な硬さのリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを得ることが出来ず、10,000ppmより多い場合は、固体化する場合もあるものの、電池特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。また、開始剤濃度が高い場合には、液の保持能力が低下することもある。本発明は、紫外線による重合方法として、フォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を用いることを特徴としている。フォスフィンオキサイド系開始剤は反応性が高く、重合性モノマーや非水溶媒との相溶性が優れているので好ましい。フォスフィンオキサイド系開始剤は(1)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、(2)ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドまたは(3)ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドのうち少なくとも一つを用いる。
【0016】
本発明は、正極側と負極側とを別々に重合反応させることで電極を作製する場合、正極層と負極層とを異なる組成にすることを特徴とする。正極と負極とに含浸させるプレカーサー溶液がそれぞれ異なる点としては、重合性モノマーの種類、濃度、リチウム塩の種類、濃度、電解液の組成、添加剤の有無などがあげられ、それぞれの正極、負極に対して最適な組成を用いることが出来る。
【0017】
本発明は、リチウム二次電池の負極活物質が炭素材料であり、特に黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を付着させたものであることを特徴とする。黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を付着させた炭素材料は、表面に非晶質炭素の物性を有しており、ポリマー電解質中の有機溶媒の分解を抑え電池の信頼性が高くなる。このことにより、優れた電池性能を有するリチウムポリマー二次電池を提供することができる。
【0018】
本発明は、前記プレカーサー溶液にさらに熱重合開始剤も加えて加熱処理をすることを特徴としている。本発明では、30mW/cm2 以上の照度の紫外線を短時間照射することにより、ポリマー電解質を得ることが可能である。しかしながら、マクロ的には紫外線照射の時間は十分であるものの、ミクロ的には未反応部分も存在する。そこで、熱重合開始剤を加えて加熱処理をすることにより、内部の未反応重合性モノマー、未反応開始剤を低減し、電池特性への悪影響を減少することができる。その結果、電池性能が向上する等の効果が得られる。
【0019】
【発明の実施の形態】
まず図1に本発明で作製した正極と負極との間にリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いるリチウムポリマー二次電池の基本的な構造を示す。1は電極端子、2は少なくとも一種の重合性モノマーとリチウム塩、非水溶媒、紫外線照射により重合反応が開始する光重合開始剤とを含有しているプレカーサー溶液を基体に含浸させ、30mW/cm2 以上の照度の紫外線を0.1〜20秒の範囲内で照射することにより重合させて得たポリマー電解質層であり、これは正極側と負極側に含まれるポリマー電解質よりもイオン伝導性が低いものである。3は上記プレカーサー溶液を含浸した正極に、上記紫外線を0.1〜20秒の範囲内で照射することにより重合させて得た正極層。4は正極集電体、5は負極集電体、6は上記プレカーサー溶液を含浸した負極に、上記紫外線を0.1〜20秒の範囲内で照射することにより重合させて得た負極層。そして7は電池を外気と遮断するためのアルミニウムラミネート樹脂フィルム製外装材である。
【0020】
上記プレカーサー溶液に含まれるリチウム塩としては、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、6フッ化砒素リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウム、リチウムビスフルオロメタンスルホニルイミド等のリチウム塩があげられ、これらのうち少なくとも1種類以上のものを用いることが出来る。
【0021】
上記プレカーサー溶液に含まれる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類や、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類やテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類や、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類や、メチルジグライム、エチルジグライムなどのグライム類や、エチレングリコール、メチルセルソルブ、グリセリンなどのアルコール類や、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類や、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類や、スルホラン、3−メチルスルホランなどのスルホラン類や、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートなどのリン酸エステル類があげられる。これら溶媒は1種または2種類以上を組み合わせて混合して、使用してもよい。
【0022】
これらの非水溶媒を含むリチウムイオン伝導性ポリマーゲルの重合性モノマーの量は、少なすぎると固体化が難しく、多すぎるとリチウムイオン伝導性が阻害されるので、体積分率で1〜50が好ましい。
【0023】
非水溶媒中に水分が含まれていると、電池の充放電時に水分と溶媒との副反応が生じ、電池自身の効率低下やサイクル寿命の低下、ガス発生等の問題が生じる。このため、非水溶媒中の水分を極力少なくする必要がある。場合によってはモレキュラーシーブ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは活性アルミニウム等を用いて脱水してもよい。非水溶媒中に含有する水分としては、1,000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。
【0024】
上記プレカーサー溶液に含まれる光重合開始剤としては、フォスフィンオキサイド系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、α−ヒドロキシケトン系、ミヒラーケトン系、ベンジル系、ベンゾイン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルジメチルケタール系などがあげられる。上記の中から、1種または2種類以上組み合わせ、混合して使用してもよい。中でも特にフォスフィンオキサイド系開始剤は開始剤の反応性が高く、重合性モノマーや非水溶媒との相溶性が優れているので好ましい。フォスフィンオキサイド系開始剤でも、特に(1)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、(2)ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドまたは(3)ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。光重合開始剤の添加量は、充放電時の開始剤分解等の反応を抑えるため、できる限り少ない方が好ましいが、少なすぎると重合反応が十分に起こらず未反応のモノマーが残存する可能性がある。以上のことから光重合開始剤の添加量は、重合性モノマーとリチウム塩、非水溶媒を含む総量に、500〜10,000ppmの範囲が好ましい。500ppmより少ない場合は、20秒以内での硬化反応が困難になるため、また10,000ppmより多い場合では、生成するポリマーの分子量が低下するために、非水溶媒の保持が困難になるため好ましくない。
【0025】
内部に残存している未反応の重合性モノマーや未反応開始剤を、熱重合開始剤を併用して熱重合反応により硬化させることが可能である。熱重合開始剤としては、10時間の半減期を得るための分解温度が40〜80℃のものが好ましい。10時間の半減期を得るための分解温度が40℃未満の場合、熱重合開始剤の化合物が不安定であり、80℃より高い場合、加熱処理中に電解質やリチウム塩の劣化や分解が起こりやすくなるため、いずれも好ましくない。また、熱による架橋反応を起こす熱重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、パーオキシジカーボネート系、アゾ化合物系などがあげられるが、中でも(1)t−ブチルパーオキシネオデカノエート、(2)m−トルオイルベンゾイルパーオキサイドまたは(3)3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドは、レート特性の低下、サイクル特性の劣化などが少ないため好ましい。熱重合開始剤の添加量としては、できる限り少ない方が充放電時の開始剤分解等の反応を抑えられるので好ましいが、少なすぎると重合反応が十分に起こらず、未反応の重合性モノマーが残存する可能性がある。以上のことから熱重合開始剤の添加量は、重合性モノマーとリチウム塩、場合によっては非水溶媒を含む総量に1〜5,000ppmの範囲が好ましく、中でも50〜1,000ppmが好ましい。これら熱重合開始剤は、1種または2種類以上を組み合わせ、混合して使用してもよい。
【0026】
また、今回発明の方法では、正極と負極に異なる組成のプレカーサー溶液を含浸させて別々に重合反応させることで、正極層と負極層の組成が異なる電池を製造することが可能になる。正極と負極とに含浸させるプレカーサー溶液のそれぞれ異なる点としては、重合性モノマーの種類、濃度、電解液の組成、添加剤の有無、リチウム塩の種類、濃度などがあげられる。例えば、正極側と負極側の重合性モノマーの濃度をそれぞれ設定し、正極側に負極側よりも重合性モノマー濃度が低いプレカーサー溶液を用いることにより、負荷特性を改善することが可能となる。また、正極側にプロピレンカーボネートを含んだプレカーサー溶液を用いることで、ポリマー電解質の酸化による劣化を防止、負極側にエチレンカーボネートを含んだプレカーサー溶液を用いることで、分解等の反応を抑制し高効率でのリチウム挿入脱理が可能になる他、低温時の性能が悪いエチレンカーボネートを負極側のみに存在させることで、低温時の電池性能劣化防止、負極側に低分子量架橋剤としてビニレンカーボネートを加えて表面皮膜を生成しやすくすることで、サイクル特性改善等が可能となる。さらに、正極側に負極側よりも塩濃度の高いプレカーサー溶液を用いることで、負荷特性を改善することも可能となる。本発明の電池は、予め用意した正極および負極の内部それぞれにリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを形成し、両者を重ね合わせることによって作製することが可能であるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明のリチウムポリマー二次電池に用いる正極は、正極活物質として遷移金属酸化物あるいはリチウム遷移金属酸化物の粉末と、これに導電剤、結着剤及び場合によっては固体電解質を混合して形成される。遷移金属酸化物としては酸化バナジウムV25、酸化クロムCr38等あげられる。リチウム遷移金属酸化物としては、リチウム酸コバルト(LixCoO2:0<x<2)、リチウム酸ニッケル(LixNiO2:0<x<2)、リチウム酸ニッケルコバルト複合酸化物(Lix(Ni1-yCoy)O2:0<x<2,0<y<1、リチウム酸マンガン(LixMn24:0<x<2,LixMnO2:0<x<2)、リチウム酸バナジウムLiV25,LiVO2、リチウム酸タングステンLiWO3、リチウム酸モリブデンLiMoO3等があげられる。
【0028】
導電剤にはアセチレンブラック、グラファイト粉末等の炭素材料や、金属粉末、導電性セラミックスを用いることが出来る。結着剤にはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー等を用いることが出来る。導電剤と結着剤の混合比はリチウム遷移金属酸化物100重量部に対して、導電剤を1〜50重量部、結着剤を1〜30重量部とすることが好ましい。導電剤が1重量部より少ないと電極の抵抗あるいは分極が大きくなり、電極としての容量が小さくなるため実用的なリチウム二次電池が構成できず、50重量部より多いと電極内のリチウム遷移金属酸化物の量が減少するため容量が小さくなるので好ましくない。結着剤が1重量部より少ないと、結着能力が失われ電極が構成できず、30重量部より多いと電極の抵抗あるいは分極が大きくなり、かつ電極内のリチウム金属酸化物の量が減少するため容量が小さくなり実用的ではなくなるため好ましくない。
【0029】
正極活物質、導電剤、結着剤及び場合によっては固体電解質を含む混合物(以下、正極材料)を集電体に圧着、または、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に溶かしてスラリー状にしたものを集電体に塗布し乾燥させた後に、重合性モノマーとリチウム塩、場合によっては重合開始剤、非水溶媒の混合物を含浸させ、重合させることで正極を構成できる。あるいは、正極材料と重合性モノマーとリチウム塩、場合によっては重合開始剤、非水溶媒を混合し、これらを重合させてもよい。集電体には金属箔、金属メッシュ、金属不繊布等の導電性体が使用できる。
【0030】
また、本発明のリチウムポリマー二次電池に用いる負極は、負極活物質に導電剤、結着剤及び固体電解質を混合して形成されるが、負極活物質の種類によっては導電剤、結着剤及び固体電解質等は使用しないこともある。負極活物質としては、金属リチウム、リチウムアルミニウム等のリチウム合金や、リチウムイオンを挿入・脱離できる物質、例えばポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等の導電性高分子、熱分解炭素、触媒の存在下で気相分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成された炭素、セルロース、フェノール樹脂等の高分子を焼成して得られる炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛材料、リチウムイオンを挿入・脱離反応しうるWO2、MoO2等の物質単独又はこれらの複合体を用いることが出来る。
【0031】
中でも熱分解炭素、触媒の存在下で気相分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成された炭素、セルロース、フェノール樹脂等の高分子を焼成して得られる炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の炭素材料が好ましい。より好ましい炭素材料として、非晶質炭素を表面に付着させた黒鉛粒子が挙げられる。付着方法としては、黒鉛粒子をタール、ピッチ等の石炭系重質油、または重油等の石油系重質油に浸漬して引き上げ、炭化温度以上へ加熱して重質油を分解し、必要に応じて同炭素材料を粉砕する方法を用いる。非晶質炭素を表面に付着させることにより、充電時に負極で起こるイオン伝導性ポリマーや電解液、リチウム塩の分解反応が有意に抑制され、充放電サイクル寿命を改善し、また同分解反応によるガス発生を抑止することが可能となる。なお、本発明の炭素材料においては、BET法により測定される比表面積に関わる細孔が、非晶質炭素の付着によってある程度塞がれており、比表面積が5m2/gより小さいほうが好ましい。比表面積が5m2/gより大きくなると、イオン伝導性ポリマーや電解液との接触面積も大きくなり、それらの分解反応が起こりやすくなるため好ましくない。
【0032】
負極活物質と場合によっては導電剤、結着剤これらの混合物(以後、負極材料)を集電体に圧着、またはN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に溶かしスラリー状にしたものを集電体に塗布し乾燥させた後に、重合性モノマーとリチウム塩、場合によっては重合開始剤、非水溶媒の混合物を含浸させ、重合させることで負極を構成できる。あるいは、負極材料と重合性モノマーとリチウム塩、場合によっては重合開始剤、非水溶媒を混合したものを重合させてもよい。集電体には金属箔、金属メッシュ、金属不繊布等の導電性体が使用できる。
本発明のポリマー電解質層に関しては、基体としてポリマー繊維または微多孔膜セパレータを用いてもよい。ポリマー繊維または微多孔膜セパレータは、透気度が1〜500sec/cm3の物性を有するものが好ましい。透気度が1より低いとイオン伝導度が十分に得られず、500よりも高いと機械的強度が十分でなく、電池の短絡を引き起こしやすい。さらに、ポリマー電解質層を構成するイオン伝導性化合物とポリマー繊維または微多孔膜セパレータの重量比が91:9〜50:50の範囲が適当である。イオン伝導性化合物の重量比率が91より高いと機械的強度が十分に得られず、50より低いとイオン伝導度が十分に得られない。
【0033】
正極層および/または負極層、またその間に配するポリマー電解質層は、プレカーサー溶液を正極および/または負極、基体となるポリマー繊維または微多孔膜セパレータに含浸させた後、放射線、紫外線などの電磁波照射による重合反応と加熱処理などの熱重合反応により架橋させて得られる。
正極と負極の間に配するポリマー電解質層は単一層構造である必要はなく、このポリマー電解質層内で多層構造を持っていてもよい。また、正極とポリマー電解質層あるいは負極とポリマー電解質層間の溶媒の拡散防止や、各ポリマー電解質層界面での密着性を上げるために、ポリマー電解質層の表面に処理を施したりしてもよい。ポリマー電解質層と正極層、負極層の組成は、それぞれの特性にあわせて、異なる組成でもよい。
【0034】
本発明におけるリチウムポリマー二次電池は、前記正極あるいは正極層と集電体、及び負極あるいは負極層と集電体をそれぞれ外部電極に接合し、さらにこれらの間に前記ポリマー電解質層を介在させて構成される。
【0035】
本発明のリチウムポリマー二次電池の形状は、円筒型、ボタン型、角形、シート状等があげられるが特にこれらに限定されない。また、外装材としては金属、アルミニウムラミネート樹脂フィルム等が挙げられる。アルミニウムラミネート樹脂フィルムを用いて、シート状の電池を作製する場合には、アルミニウムラミネート樹脂フィルムを熱融着あるいは熱圧着することにより、セルを封口することができる。これらの電池の製造工程は、水分の浸入を防止するために、アルゴン等の不活性雰囲気中か又は乾燥した空気中で行うことが好ましい。
【0036】
(作用)本発明は、30mW/cm2 以上の照度をもつ紫外線と反応性の高い光重合開始剤を用いて、20秒以内の紫外線照射の重合反応を行うことにより、製造工程の短縮が可能になり、また、溶媒等の揮発が抑制でき、電池製造の安定化が可能になる。また正極、負極内部に最適な組成のポリマー電解質層を製造することが可能になることで、電池特性の向上および安定化、高負荷特性、特にサイクル特性に優れたリチウムポリマー二次電池を提供することができる。
【0037】
(実施例)
以下実施例により具体的に本発明を説明するが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。
なお、以下のすべての実施例及び比較例における紫外線照射には最大出力波長365nmの紫外線を使用した。
【0038】
(実施例1)
LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1Mとなるように調整した電解液と、以下の一般式(化2)
【0039】
【化2】
Figure 0003976529
(R1は水素原子あるいはメチル基、A1、A2、A3 3個以上のエチレンオキシド単位(EO)、もしくは前記エチレンオキシド単位に対してプロピレンオキシド単位(PO)含有の2価の残基であり、POとEOの数はPO/EO=0〜5の範囲内である。)で示される重合性モノマーであるポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの共重合体を含有している平均分子量7,500〜9,000のトリアクリレートモノマーを重量比で95:5になるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度200mW/cm2の紫外線を10秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0040】
平均粒径7μmのLiCoO2粉末に、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を7重量%と、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラック5重量%とを混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて混合溶解して得たペーストを集電体である厚さ20μmの圧延アルミ箔にコーティングし、乾燥およびプレス後、正極を得た。この電極面積は7.84cm2、厚さ80μmであった。
【0041】
X線広角回折法による(d002)=0.337nm、(Lc)=100nm、(La)=100nmでBET法による比表面積が10m2/gである人造黒鉛粉末に、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を9重量%混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて混合溶解して得たペーストを集電体である厚さ20μmの圧延銅箔にコーティングし、乾燥およびプレス後、負極を得た。この電極面積は9cm2、厚さ85μmであった。
【0042】
減圧下で5分間放置した正極に、上記ポリマー電解質層作製に使用したものと同じプレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を10秒間照射して正極層を作製した。正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0043】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを貼り合わせて、二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
【0044】
(比較例1)
光重合開始剤濃度を12,000ppmとする以外は、実施例1と全く同様の作製方法にて電池を作製した。
【0045】
(比較例2)
光重合開始剤濃度を400ppmとする以外は、実施例1と全く同様の条件でポリマー電解質層を作製したが、プレカーサー溶液が完全には固体化せず一部液体のままで残留しており、電池を作製することが出来なかった。
【0046】
(比較例3)
光重合開始剤濃度を15,000ppmとする以外は、実施例1と全く同様の条件でポリマー電解質層を作製した。プレカーサー溶液は固体化したものの得られたポリマー電解質層は機械的強度が十分ではなく、電池を作製することが出来なかった。
【0047】
実施例1および比較例1の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、2.3mA、5mA、10mA、20mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件で充放電試験を行った結果を図2に示す。
【0048】
図2より、実施例1は電流値が高くなっても放電容量が高いのに対し、比較例1は電流値が高くなるにつれて放電容量が低下している。これより、光重合開始剤濃度が高すぎると電池の負荷特性に悪影響を及ぼすことがわかった。
【0049】
(実施例2)
正極および負極については実施例1と同じものを使用した。
【0050】
LiPF6をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1Mとなるように調整した電解液と、重合性モノマーであるポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの共重合体を含有している平均分子量7,500〜9,000のトリアクリレートモノマーを重量比で95:5になるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度30mW/cm2の紫外線を20秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0051】
減圧下で5分間放置した正極に、実施例1で使用したものと同じプレカーサー溶液を注液し、さらに15分間置いた後、照度30mW/cm2の紫外線を10秒間照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0052】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを貼り合わせて、二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
【0053】
(比較例4)
紫外線照度を20mW/cm2とした以外は実施例2と同様にして、ポリマー電解質層を作製したが、紫外線照射後もプレカーサー溶液の固体化が不完全だったため、電池の作製ができなかった。
【0054】
実施例2の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、2.3mA、5mA、10mA、20mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件で充放電試験を行った実施例2の結果と同条件で充放電試験を行った実施例1の結果を図3に示す。これより、実施例2の電池も実施例1とほぼ同様の結果を示しており、負荷特性に優れたリチウムイオン電池を作製するには、紫外線の照度が30mW/cm2以上あれば良いことがわかった。また、紫外線の照度の上限はUVランプの電力により制限されるが、今回の発明で用いる場合、6000mW/cm2の照度を得ることが可能であれば良い。
【0055】
(実施例3)
正極および負極については、実施例1と同じものを使用した。
【0056】
LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1molとなるように調整した電解液と、重合性モノマーである(化2)に示す平均分子量7,500〜9,000のトリアクリレートモノマーを重量比で93:7になるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0057】
減圧下で5分間放置した正極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0058】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを貼り合わせて、二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
【0059】
(比較例5)
負極および正極は実施例1で用いたものと同じものを使用した。
【0060】
実施例2で用いた電解液と、重合性モノマーである(化2)に示す平均分子量7,500〜9,000のトリアクリレートモノマーを重量比で93:7になるように調製して、さらに熱重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート500ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、60℃にて24時間加熱しポリマー電解質層を作製した。
【0061】
減圧下で5分間放置した正極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、60℃にて24時間加熱して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0062】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを貼り合わせて、二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
【0063】
(比較例6)
正極および負極は実施例1で用いたものと同じものを使用した。
【0064】
比較例5で用いたものと同じプレカーサー溶液を、面積12.25cm2のガラス基板にキャストして、厚さ25μmのスペーサーをかまし、その上にガラス基板を載せて固定した。その後、不活性ガス雰囲気中で、加速電圧250kV、8Mradの電子線を照射してポリマー電解質層を作製した。得られたポリマー電解質層の厚さは50μmであった。
【0065】
減圧下で5分間放置した正極に、比較例5で調製したプレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、不活性ガス雰囲気中で加速電圧250kV、8Mradの電子線を照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0066】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着した後、60℃で24時間加熱処理してシート状の電池を作製した。
【0067】
実施例3、比較例5、6の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、2.3mA、5mA、10mA、20mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件での充放電試験結果を図4に示す。試験において、まず、比較例5の電池が50個中2個短絡した。実施例3および比較例6の電池は全て短絡しなかった。このことから、熱重合開始剤を用いて加熱処理だけで固体化させた場合、機械的強度が低く短絡を引き起こしやすくなることがわかった。また、図4に示す充放電試験結果より、実施例3の電池は高い電流値で高い放電容量を示しているのに対し、比較例5、6は電流値が高くなると放電容量が著しく低下している。このことから、本発明の製造方法が、熱あるいは電子線による重合と比較して、負荷特性の面で優れていることがわかる。
【0068】
(実施例4)
正極および負極は実施例1で用いたものと同じものを使用した。
【0069】
LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1.75Mとなるように調製した電解液と、重合性モノマーである(化2)に示す平均分子量7,500〜9,000のトリアクリレートモノマーを重量比で95:5になるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0070】
減圧下で5分間放置した正極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。負極層についても正極層と同様の方法で作製し、得られた負極層の厚さは85μmであった。
【0071】
正極層とポリマー電解質層と負極層とを二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
【0072】
(実施例5〜6)
光重合開始剤にビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを用いる以外は実施例4と同様の方法で作製した電池を実施例5、同様にビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドを光重合開始剤として用いて作製した電池を実施例6とする。
【0073】
(比較例7〜8)
光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンを用いる以外は実施例4と同様の方法で作製した電池を比較例7、同様に2−2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを光重合開始剤として用いて作製した電池を比較例8とする。
【0074】
実施例4〜6、比較例7〜8の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、2.3mA、5mA、10mA、20mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件での充放電試験結果を図5に示す。図5より、実施例4、5、6は低い電流値での放電容量が高く、電流値が高くなっても放電容量がほとんど低下していないこがわかる。このことから、負荷特性に優れた電池を作製するには、フォスフィンオキサイド系の開始剤を使用するのが良いことがわかった。
【0075】
(実施例7)
正極および負極は実施例1で用いたものと同じものを使用した。
【0076】
LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に2Mとなるように調製した電解液と、分子量7,500〜9,000の三官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルである重合性モノマーを重量比で97:3になるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0077】
減圧下で5分間放置した正極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。
【0078】
負極層については、LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1Mとなるように調製した電解液と、重合性モノマーとして分子量7,500〜9,000の三官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルおよび分子量220〜300の単官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルとを重量比で95:3.5:1.5となるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmと低分子量架橋剤としてビニレンカーボネート3重量%を溶解してプレカーサー溶液を得た。減圧下で5分間放置した負極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して負極層を作製した。得られた負極層は厚さ85μmであった
正極層とポリマー電解質層と負極層とを二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着してシート状の電池を作製した。
実施例7及び実施例2の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、定電流2.3mAで電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件で充放電を繰り返し、サイクル特性評価を行った結果を図6に示す。図6より、実施例2の電池がサイクル数の増加に伴い放電容量が低下しているのに対し、実施例7の電池はサイクル数が増加しても放電容量がほとんど低下していないことがわかる。このように、本発明の製造方法では正極側と負極側とを別々に重合反応させて、サイクル特性に優れた組み合わせの正極層と負極層及びポリマー電解質層を用いてリチウムポリマー二次電池を作製することが可能となる。
【0079】
なお、実施例において本発明を具体的に説明したが、本発明はこれにより制限されるものではなく、さまざまな目的に向けて最適な組み合わせを用いることが可能である。
【0080】
(実施例8)
負極活物質に、X銭広角回折法による(d002)=0.336nm、(Lc)=100nm、(La)=97nmでBET法による比表面積が2m2/g、平均粒径10μmである表面非晶質黒鉛を用いること以外は実施例1と同様の方法にて負極を作製した。
【0081】
上記、負極以外は全て実施例7と同じものを使用し、同様の方法にて電池を作製した。
【0082】
得られた電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、定電流2.3mAで電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件で充放電を繰り返し、サイクル試験を行った。図7に実施例8と比較のため実施例7のサイクル特性の結果を併せて示す。図7より、実施例7に比べて実施例8の電池の方がいずれのサイクル数においても放電容量が高いことがわかる。負極活物質に表面非晶質黒鉛を用いたことで、副反応が抑えられサイクル特性の良い電池が作製できることがわかった。
【0083】
(実施例9)
正極および負極は実施例8で用いたものと同じものを使用した。
【0084】
LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に2Mとなるように調製した電解液と、重合性モノマーとして分子量7,500〜9,000の三官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルを重量比で97:3となるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmと熱重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート200ppmを溶解してプレカーサー溶液を得た。厚さ25μmの不織布にプレカーサー溶液を浸漬し、減圧下で15分間放置した後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射してポリマー電解質層を作製した。
【0085】
減圧下で5分間放置した正極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して正極層を作製した。得られた正極層の厚さは80μmであった。
【0086】
負極層については、LiBF4をエチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(エチレンカーボネート含有率35体積%)に1Mとなるように調製した電解液と、重合性モノマーとして分子量7,500〜9,000の三官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルおよび分子量220〜300の単官能ポリエーテルポリオールアクリル酸エステルとを重量比で95:3.5:1.5となるように調整して、さらに光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド3,000ppmと熱重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート200ppm、低分子量架橋剤としてビニレンカーボネート3重量%を溶解してプレカーサー溶液を得た。減圧下で5分間放置した負極に、上記プレカーサー溶液を注液して15分間置いた後、照度200mW/cm2の紫外線を20秒間照射して負極層を作製した。得られた負極層は厚さ85μmであった
正極層とポリマー電解質層と負極層とを二枚のアルミニウムラミネート樹脂フィルムの間に挟み込み、熱融着した後、60℃で72時間加熱処理してシート状の電池を作製した。
【0087】
実施例9の電池を定電流2.3mAで電池電圧4.1Vになるまで充電し、4.1Vに到達後、定電圧で12時間充電した。その後、定電流2.3mAで電池電圧2.75Vになるまで放電した。この条件での充放電を繰り返し、サイクル試験を行った。図8に実施例9と比較のため実施例8のサイクル試験結果を示す。図8より、実施例9の電池はサイクル数が増加しても放電容量が高いことがわかる。このことから、紫外線照射後も微量に存在していた未反応部分を、加熱処理することで低減することができ、電池性能が改善されることがわかる。
【0088】
【発明の効果】
正極と負極との間にリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いるリチウムポリマー二次電池において、少なくとも一種の重合性モノマーとリチウム塩、非水溶媒、紫外線照射により重合反応が開始する光重合開始剤500〜10,000ppmを含有しているプレカーサー溶液を正極または負極、あるいは基体に含浸し、波長350〜400nmで照度30mW/cm2 以上の紫外線を0.1〜20秒間照射することにより硬化させて得た電極層およびポリマー電解質層を用いるリチウムポリマー二次電池の製造方法が提供でき、生産性の向上が可能となり、さらに負荷特性、サイクル特性に優れたリチウムポリマー二次電池を提供することができる。
【0089】
また、光重合開始剤として、フォスフィンオキサイド系、特に2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを用いて、電池特性のさらに向上したリチウムポリマー二次電池を提供できる。
【0090】
負極活物質が炭素材料であり、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を付着させたものであることにより、ポリマー電解質との副反応を抑えることが可能となり、サイクル特性に優れたリチウム二次電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電池の基本的な構造図である。
【図2】実施例1と比較例1の光重合開始剤濃度と負荷特性の関係図である。
【図3】実施例1、2の紫外線照度と負荷特性の関係図である。
【図4】実施例3と比較例5、6の重合方法と負荷特性の関係図である。
【図5】実施例4〜6と比較例7、8の光重合開始剤の種類と負荷特性の関係図である。
【図6】実施例2、7の電解質組成とサイクル特性の関係図である。
【図7】実施例7、8の負極活物質の種類とサイクル特性の関係図である。
【図8】実施例8、9の加熱処理有無とサイクル特性の関係図である。
【符号の説明】
1…電極端子
2…ポリマー電解質層
3…正極層
4…正極集電体
5…負極集電体
6…負極層
7…外装樹脂フィルム

Claims (5)

  1. 正極と負極との間にリチウムイオン伝導性ポリマーゲルを用いるリチウムポリマー二次電池において、少なくとも一種の重合性モノマーとリチウム塩、非水溶媒、紫外線照射により重合反応が開始する光重合開始剤とを含有しているプレカーサー溶液を正極または負極に含浸し、30mW/cm2 以上の照度の紫外線を0.1〜20秒の範囲内で照射することにより重合させて得た正極層または負極層と、上記プレカーサー溶液を基体に含浸し、上記紫外線を0.1〜20秒の範囲内で照射することにより重合させて得たポリマー電解質層とを用い
    前記少なくとも一種の重合性モノマーが、以下の一般式で示され、
    前記光重合開始剤が、フォスフィンオキサイド系開始剤であり、前記プレカーサー溶液に対して500〜10,000ppmの範囲で加えられており、
    前記重合性モノマーが、前記非水溶媒を含有しているリチウムイオン伝導性ポリマーゲル中、体積分率で1〜50の範囲で含まれる
    ことを特徴とするリチウムポリマー二次電池。
    Figure 0003976529
    (R 1 は水素原子あるいはメチル基、A 1 、A 2 、A 3 は3個以上のエチレンオキシド単位(EO)、もしくは前記エチレンオキシド単位に対してプロピレンオキシド単位(PO)含有の2価の残基であり、POとEOの数はPO/EO=0〜5の範囲内である。)
  2. 前記フォスフィンオキサイド系開始剤が(1)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、(2)ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドまたは(3)ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドのうち少なくともひとつの開始剤を用いることを特徴とする請求項に記載のリチウムポリマー二次電池。
  3. 前記正極側と前記負極側とを別々に重合反応させることで電極を作製する場合、正極層と負極層とを異なる組成にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムポリマー二次電池。
  4. 前記負極活物質が少なくとも黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を付着させた炭素材料であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のリチウムポリマー二次電池。
  5. 前記プレカーサー溶液にさらに熱重合開始剤を加えて加熱処理することを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のリチウムポリマー二次電池の製造方法。
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