JP3964231B2 - 記録・表示媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジアリールエテン化合物よりなるフォトクロミック材料を含有する組成物により構成されている記録層を有する記録・表示媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種情報の表示や記録を行い、その記録された情報を消去した後に新たな情報を記録することが可能な記録・表示媒体としては、フォトクロミック材料を構成部材として用いることが検討されている。
【0003】
フォトクロミック材料は、光の作用などにより化学結合状態の異なる2つの異性体を可逆的に生成する分子または分子集合体を含むフォトクロミック反応特性を有する材料であって、異性体によって吸収スペクトルあるいは屈折率が変化するものである。
このようなフォトクロミック材料は、典型的には、可視域に吸収を有さない無色の構造体に紫外線を照射すると、可視域の特定領域に吸収を有する着色構造体に変化し、この着色構造体に可視光を照射することによって無色の構造体に戻るという特性を示すものであることから、このような特性を利用した製品の研究開発が行われている。
【0004】
現在、フォトクロミック材料としては、スピロピラン化合物、アゾベンゼン化合物、フルギド化合物、ジアリールエテン化合物などよりなるものが知られているが、これらのうち、ジアリールエテン化合物は、フォトクロミック反応の繰り返し耐久性に優れているものであることから、実用上、記録・表示媒体などの構成部材に有用なものとして注目されている。
【0005】
フォトクロミック材料を構成するジアリールエテン化合物は、無色の構造体である開環体が紫外線を吸収することにより、特有の光閉環反応を生じて可視域に吸収を有する閉環体となり、吸収波長領域に応じた特有の色を呈する着色構造体となるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ジアリールエテン化合物について研究を重ねた結果、特定の構造を有するジアリールエテン化合物の着色構造体が可視光により光退色しにくく、なおかつ熱開環反応することを見出したことによって完成されたものであって、その目的は、ジアリールエテン化合物をフォトクロミック材料として含有する組成物よりなる記録層を備え、多数回にわたって情報の記録と消去とを繰り返すことができ、記録された情報の安定性および保存性に優れ、しかも、記録されている情報の消去を短時間で行うことができる記録・表示媒体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の記録・表示媒体は、記録層を有する記録・表示媒体において、
記録層が、下記一般式(i)で表されるジアリールエテン化合物よりなるフォトクロミック材料を含有する材料により構成されていることを特徴とする。
【0008】
【化2】
【0009】
〔式中、R1 およびR2 は、同一であってもよく、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数3以上の分岐または環状炭化水素基を示す。〕
【0010】
本発明の記録・表示媒体においては、記録層に紫外線を照射することによって情報が記録され、当該記録された情報が、記録層を加熱することによって消去される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の記録・表示媒体は、上記一般式(i)で表される酸素原子を含む特性基(以下、単に「OR基」ともいう。)を2個有するジアリールエテン化合物よりなるフォトクロミック材料(以下、「特定のフォトクロミック材料」ともいう。)を含有する組成物によって構成されている記録層を有するものである。
【0012】
本発明の記録・表示媒体の好ましい態様としては、基板と、この基板上に形成された、特定のフォトクロミック材料を含有する組成物(以下、「フォトクロミック材料含有組成物」ともいう。)よりなるフィルム状の記録層とにより構成されており、例えば基板の両面、あるいは基板の片面に記録層が形成されてなるものである。
ここで、記録層の厚みは、通常、0.01μm〜3.0mmである。
【0013】
このような記録・表示媒体の記録層を構成するフォトクロミック材料含有組成物は、樹脂バインダーと、これに含有された特定のフォトクロミック材料よりなるものである。
なお、フォトクロミック材料含有組成物は、必要に応じて任意の添加剤が添加されてなるものであってもよい。
【0014】
樹脂バインダーとしては、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリメチルメタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、シクロオレフィン系樹脂や、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ノルボルネン系樹脂などの紫外線硬化樹脂などが挙げられる。これらの樹脂バインダーは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
この樹脂バインダーに対する特定のフォトクロミック材料の含有割合は、バインダー樹脂100質量%に対して、0.1〜50質量%、特に1〜10質量%であることが好ましい。
【0016】
特定のフォトクロミック材料を構成するジアリールエテン化合物を表す一般式(i)において、R1 およびR2 は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数3以上の分岐または環状炭化水素基を示す。
炭化水素基R1 および炭化水素基R2 は、各々、異なったものであってもよいが、同一のものであることが好ましい。
炭化水素基R1 および炭化水素基R2 は、炭素数が3〜12のものであることが好ましく、特に炭素数が3〜6のものであることが好ましい。
【0017】
炭化水素基R1 および炭化水素基R2 の好ましい具体例としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基などの分岐構造を有するアルキル基、シクロヘキシル基、置換シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。
【0018】
この一般式(i)で表されるジアリールエテン化合物は、式(A)に示すように、無色あるいは薄黄色の構造体である開環体と、青色を呈する着色構造体である閉環体とに可逆的に変化する。
この開環体と閉環体との可逆的な変化、すなわち、ジアリールエテン化合物に係る呈色および退色は、繰り返し行うことができる。
【0019】
具体的には、無色の構造体である開環体は、200〜400nmの波長領域の紫外線が照射されることにより、各々OR基が結合している2つの炭素原子が結合して環化し、これによって閉環体に変化して呈色し、一方、着色構造体である閉環体は、可視光が遮光された暗所において、常温では高い構造安定性を有するものであるが、高温に加熱することによって、6員環に係るOR基の各々が結合している2つの炭素原子間の結合が切断して開環し、これによって開環体に変化して退色する。
着色構造体である閉環体は、450〜750nmの波長領域の可視光を照射することによっても開環体に変化させることができるが、加熱による変化に要する時間に比して、変化に要する可視光照射時間が極めて大きくなる。
【0020】
【化3】
【0021】
〔式中、R1 およびR2 は、同一であってもよく、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。〕
【0022】
このような特定のフォトクロミック材料を構成するジアリールエテン化合物は、例えば反応式(1)のようにして合成することができる。
この反応式(1)は、一般式(i)のR1 およびR2 が同一の炭化水素基Xを示すジアリールエテン化合物を合成するための例である。
【0023】
チオフェン化合物を出発物質として合成される2位にOR基を有するジブロモチオフェン化合物(1)と、ヨードベンゼンとを反応させることにより、ヨウ素原子が解離したヨードベンゼンの残基と、1個の臭素原子が解離したジブロモチオフェン化合物(1)の残基とが結合することによって中間生成物(1)が得られ、この中間生成物(1)と、ペルフルオロシクロペンテンとを反応させることにより、中間生成物(1)に係る臭素原子と、ペルフルオロシクロペンテンに係る水素原子とにおいて解離および結合がなされる結果、目的のジアリールエテン化合物(1)が合成される。
【0024】
【化4】
【0025】
〔式中、Xは、置換基を有していてもよい炭素数3以上の分岐または環状炭化水素基を示す。〕
【0026】
一般式(i)のR1 およびR2 が異なる炭化水素基を示すジアリールエテン化合物は、反応式(1)におけるジブロモチオフェン化合物(1)の炭化水素基Xが、目的のジアリールエテン化合物に係る炭化水素基R1 および炭化水素基R2 の各々に対応する炭化水素基である2種のジブロモチオフェン化合物を反応に供することによって合成することができる。
【0027】
基材としては、例えばポリメチルメタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)系樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)系樹脂、シクロオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂、ガラス、紙などよりなるものを用いることができる。
【0028】
このような記録・表示媒体の記録層は、例えば以下のようにして形成される。
先ず、特定のフォトクロミック材料を樹脂バインダーと共に、有機溶剤に溶解または分散させたフォトクロミック材料含有組成物溶液を調製する。
そして、基材の表面おいて、調製したフォトクロミック材料含有組成物溶液をフィルム成形用金型内に注入し、このフィルム成形用金型内に形成された溶液層に対して固化処理を行うことによって基材上にフィルム状の記録層が形成される。
【0029】
フォトクロミック材料含有組成物溶液を調製するための有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、クロロホルムなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機溶剤の使用割合は、通常、特定のフォトクロミック材料100質量部に対して、1〜10質量部となる割合である。
【0030】
以上のような構成の記録・表示媒体においては、例えばキセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、LED、レーザーなどを用い、記録層に集束した紫外線を、通常、100マイクロ秒(μs)間以上照射する方法により、この照射に係る部分が着色されることによって情報が記録され、その記録された情報は、着色状態の変化として表示される。
一方、記録・表示媒体に記録された情報は、ホットプレート、ヒートローラー、赤外線ランプなどを用い、記録層の全体を高温で加熱処理する方法によって消去される。
そして、加熱処理によって情報が消去された記録・表示媒体には、再び記録層に紫外線を照射することによって情報を記録することができる。
【0031】
記録された情報を消去するための加熱処理においては、その加熱温度は記録層を構成する特定のフォトクロミック材料の種類などによって異なるが、通常、100℃以上であることが好ましい。
【0032】
また、加熱温度を高くするに従って情報を消去するために要する時間を小さくすることができる。
具体的には、例えば記録層が一般式(i)のR1 およびR2 がシクロヘキシル基を示すジアリールエテン化合物よりなる特定のフォトクロミック材料を含有する組成物によって構成されたものである場合には、140℃の加熱温度では半減期が6分以上であるが、160℃の加熱温度では半減期が45秒である。
【0033】
更に、特定のフォトクロミック材料として用いるジアリールエテン化合物を適宜に選択することにより、記録・表示媒体における記録した情報の保存可能時間および情報を消去するために要する時間を、その使用目的に応じたものとすることが可能である。
具体的には、例えば記録層を構成する組成物に係るジアリールエテン化合物を表す一般式(i)のR1 およびR2 がアルキル基である場合には、その炭素数が大きくなるに従って保存可能時間は小さくなるが、情報を消去するために要する時間が小さくなる傾向がある。
【0034】
このようにして、記録・表示媒体においては、情報の記録と消去とを繰り返し行うことができる。
【0035】
以上のような記録・表示媒体によれば、当該記録・表示媒体の記録層が特定のフォトクロミック材料を含有する組成物により構成されており、この特定のフォトクロミック材料を構成するジアリールエテン化合物が、かさ高いOR基を有していることから、その着色構造体が常温では高い構造安定性を有する一方、加熱処理することによって速やかに無色の構造体に変化するものであるため、加熱処理による優れた退色性を有するものであることから、温度条件を制御することにより、紫外線を照射することによって記録した情報の保存および消去を選択的に行うことができ、これにより、記録された情報の安定性および保存性が優れたものとなり、しかも、記録されている情報の消去を短時間で行うこともできる。
【0036】
また、記録・表示媒体は、記録層に係る特定のフォトクロミック材料を構成するジアリールエテン化合物がフォトクロミック反応の繰り返し耐久性に優れているものであるため、多数回にわたって情報の記録と消去とを繰り返すことができる。
【0037】
本発明の記録・表示媒体は、例えば熱消去可能な記録表示カード、リライタブルペーパー、リライト表示ボード、リライトホワイトボード、リライトカード、リライトディスプレー、リライトOHPシート、リライトフォトマスクなどとして好適に使用することができる。
【0038】
以上、本発明を具体的な例に基づいて説明したが、本発明においては、種々の変更を加えることができる。
例えば記録・表示媒体は、例えばガラスセルなどの容器と、この容器内に形成された、特定のフォトクロミック材料に係る記録層とよりなる構成のものであってもよい。
この記録・表示媒体の記録層は、特定のフォトクロミック材料を前述の有機溶媒に溶解することによって得られる記録層用溶液を、ガラスセルなどに封入することによって形成することができる。
【0039】
記録・表示媒体の記録層は、前述の材料溶液を基材の表面に塗布し、得られた塗膜に対して有機溶剤の除去処理を行うことによって形成されたものであってもよい。
フォトクロミック材料含有組成物溶液を塗布する手段としては、例えばスピンコート法、ディッピング法、ロールコート法などを利用することができる。
【0040】
また、記録・表示媒体は、フォトクロミック材料含有組成物を成形することによって形成される基材と記録層とを兼ね備えてなるもの、あるいは、成形体上に成形されたフォトクロミック材料含有組成物よりなるフィルムを積層することによって形成されたものであってもよい。
【0041】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
<フォトクロミック材料(1)の合成>
(ジブロモチオフェン化合物の合成例1)
2−イソプロポキシチオフェン3.5g(24mmol)と、ジクロロメタン48ミリリットルとよりなる温度0℃の溶液に、N−ブロモスクシンイミド(NBS)8.5g(48mmol)をゆっくりと加え、この系を室温で終夜撹拌した後、氷水槽によって冷却して濾過し、得られた濾液を中和してからクロロホルム抽出を行って抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥し、この硫酸マグネシウムを濾別することによって濃縮された反応生成物を、ヘキサンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、淡黄色のオイルであり、反応式(1)のジブロモチオフェン化合物(1)においてXがイソプロピル基を示す化学式で表される2,4−ジブロモ−5−イソプロポキシチオフェンを得た。
【0043】
(ジブロモチオフェン化合物の合成例2)
2−イソプロポキシチオフェン3.5g(24mol)に代えて、下記の合成例によって得られた2−シクロヘキシルオキシチオフェン0.60g(3.3mmol)を用いたこと以外はジブロモチオフェン化合物の合成例1と同様にして薄黄色のオイルであり、反応式(1)のジブロモチオフェン化合物(1)においてXがシクロヘキシル基を示す化学式で表される2,4−ジブロモ−5−シクロヘキシルオキシチオフェンを得た。
【0044】
(2−シクロヘキシルオキシチオフェンの合成例)
アルゴン雰囲気下において、無水ヘキサノール100ミリリットルが仕込まれたフラスコに、ナトリウム1.6g(71mmol)を加え、120℃で攪拌することによって完全に溶解させた系に、2−ヨードチオフェン5.3ミリリットル(48mmol)と、酸化銅1.9g(24mmol)と、ヨウ化カリウム4.0g(24mmol)とを加え、130℃で2時間攪拌した後、エーテル抽出することによって得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、この硫酸マグネシウムを濾別することによって濃縮された反応生成物を、ヘキサンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、薄黄色のオイルである2−シクロヘキシルオキシチオフェンを得た。
【0045】
(フォトクロミック材料の合成例1)
アルゴン雰囲気下において、ジブロモチオフェン化合物の合成例1で得られた2,4−ジブロモ−5−イソプロポキシチオフェン4.3g(14mmol)を含有する無水テトラヒドロフラン150ミリリットルに、温度−78℃の15%n−ブチルリチウムヘキサン溶液15ミリリットル(25mmol)を加えて低温で1時間撹拌し、その後、ホウ酸トリ−n−ブチル9.1ミリリットル(34mmol)をゆっくり加え、−78℃で1.5時間撹拌し、更に、この系を室温に戻して炭酸ナトリウム水溶液53ミリリットルと、ヨードベンゼン4.6g(23mol)と、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)1.1g(0.95mmol)とを加えて反応させることによって得られた反応生成物を70℃で終夜還流した後、エーテル抽出することによって得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、この硫酸マグネシウムを濾別することによって濃縮された反応生成物を、ヘキサンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、無色のオイルであり、中間生成物であって反応式(1)の中間生成物(1)においてXがイソプロピル基を示す化学式で表される3−ブロモ−2−イソプロポキシ−5−フェニルチオフェンを得た。
【0046】
アルゴン雰囲気下において、得られた3−ブロモ−2−イソプロポキシ−5−フェニルチオフェン4.0g(13.4mmol)を含有する無水テトラヒドロフラン50ミリリットルに、温度−78℃の15%n−ブチルリチウムヘキサン溶液12ミリリットル(19mmol)を加えて低温で1.5時間撹拌し、その後、この系にペルフルオロシクロペンテン(日本ゼオン株式会社製)1.2ミリリットル(8.6mmol)をゆっくり加えながら−78℃で反応させ、更に、この系を室温で3時間撹拌した後に水を加えることにより反応を停止し、エーテル抽出することによって得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、この硫酸マグネシウムを濾別することによって濃縮された反応生成物を、ヘキサンおよびクロロホルム(質量比;ヘキサン:クロロホルム=7:3)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、アセトンによって再結晶処理することにより、薄黄色の結晶であり、ジアリールエテン化合物であって反応式(1)のジアリールエテン化合物(1)においてXがイソプロピル基を示す化学式で表される1,2−ビス(2−イソプロポキシ−5−フェニル−3−チエニル)ペルフルオロシクロペンテン(以下、「フォトクロミック材料(1)ともいう。)を得た。
【0047】
得られたフォトクロミック材料(1)をデカリンに溶解することによって得られる無色の溶液をガラスセル中に封入し、その溶液に紫外線を照射したところ、青色に呈色し、また、呈色した溶液を可視光が遮光された暗所において150℃で3.5分間加熱したところ、測定される極大吸収波長の吸収強度が半分となることが確認された。
【0048】
(フォトクロミック材料の合成例2)
2,4−ジブロモ−5−イソプロポキシチオフェン4.3g(14mol)に代えて、ジブロモチオフェンの合成例2で得られた2,4−ジブロモ−5−シクロヘキシルオキシチオフェン1.6g(4.7mmol)を用いたこと以外はフォトクロミック材料の合成例1と同様にして、薄黄色の結晶であり、中間生成物であって反応式(1)の中間生成物(1)においてXがシクロヘキシル基を示す化学式で表される3−ブロモ−2−シクロヘキシルオキシ−5−フェニルチオフェンを得、更に、この−ブロモ−2−シクロヘキシルオキシ−5−フェニルチオフェン0.90g(2.7mol)を用いたこと以外はフォトクロミック材料の合成例1と同様にして、薄黄色の結晶であり、ジアリールエテン化合物であって反応式(1)のジアリールエテン化合物(1)においてXがシクロヘキシル基を示す化学式で表される1,2−ビス(2−シクロヘキシルオキシ−5−フェニル−3−チエニル)ペルフルオロシクロペンテン(以下、「フォトクロミック材料(2)ともいう。)を得た。
【0049】
得られたフォトクロミック材料(2)をデカリンに溶解することによって得られる無色の溶液をガラスセル中に封入し、その溶液に紫外線を照射したところ、青色に呈色し、また、呈色した溶液を可視光が遮光された暗所において150℃で1.6分間加熱したところ、測定される極大吸収波長の吸収強度が半分となることが確認された。
【0050】
<実施例1>
フォトクロミック材料(1)10mgをトルエン1ミリリットルに溶解した溶液に、ポリビニルアセトフェノンカーボネート200mgを添加して混合することによって得られたフォトクロミック材料含有組成物溶液を、表面が平滑な板状のガラスの表面にアプリケーターを用いて塗布し、得られた塗布膜を、常圧下において、50℃、4時間の条件で乾燥した後、100℃、6時間の条件で乾燥し、更に、減圧下において、100℃、8時間の条件で乾燥することによってガラスよりなる基材上に、厚さ100μmのフィルム状の記録層が形成されてなる記録・表示媒体(1)を作製した。
【0051】
記録・表示媒体(1)の記録層における5mm角の表面領域(以下、「特定領域」という。)に対して、株式会社ディーメック製光造形装置「SCS8000」(レーザー波長355nm、レーザーパワー800mW)を用い、スポットサイズ0.15mm、スキャンスピード1m/秒にて紫外線を照射することによって当該特定領域を着色し、可視光が遮光された暗所において、図1において示す各温度条件下における極大吸収波長の吸収強度を経時的に測定した。結果を図1に示す。
図1において、「A/A0 」は、「紫外線照射後に係る吸収強度/紫外線照射前に係る吸収強度」を示す。
また、表1に示す各温度条件によって記録層を加熱して、青色の吸収強度が半分になるのに要する時間を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
更に、記録・表示媒体(1)に対して紫外線の照射処理と、加熱処理とを繰り返して10回行い、1回目〜10回目の照射処理に係る特定領域を目視にて確認したところ、特定領域は着色されており、この着色状態は室温下において長時間保持された。一方、1回目〜10回目の加熱処理に係る特定領域を目視にて確認したところ、特定領域は退色されていた。
【0053】
<実施例2>
フォトクロミック材料(1)に代えて、フォトクロミック材料(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、記録・表示媒体(2)を作製した。
作製した記録・表示媒体(2)について、実施例1と同様にして図2において示す各温度条件下における極大吸収波長の吸収強度の測定および着色が半分になるのに要する時間の測定を行った。各々の結果を図2および表1に示す。
また、記録・表示媒体(2)に対して、照射処理と、加熱処理とを繰り返して10回行い、1回目〜10回目の照射処理に係る特定領域を目視にて確認したところ、特定領域は着色されており、この着色状態は室温下において長時間保持された。一方、1回目〜10回目の加熱処理に係る特定領域を目視にて確認したところ、特定領域は退色されていた。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の結果から、この記録・表示媒体によれば、(1)温度条件を制御することにより、記録されている情報の保存および消去を選択的に行うことができること、(2)加熱により記録されている情報の消去を短時間で行うこともできること、(3)多数回にわたって情報の記録と消去とを繰り返すことができることが確認された。
【0056】
【発明の効果】
本発明の記録・表示媒体においては、記録層が特定のフォトクロミック材料を含有する組成物により構成されているものであることから、多数回にわたって情報の記録と消去とを繰り返すことができ、記録された情報の安定性および保存性に優れ、しかも、記録されている情報の消去を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1に係る吸収強度と時間との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2に係る吸収強度と時間との関係を示すグラフである。
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