JP3958858B2 - 加工生肉 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、加熱調理後の食感と風味が良好で加熱調理での歩留に優れる生肉に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品の内でも肉類,特に生肉は細菌や微生物の増殖があるため、チルド(冷蔵)や冷凍で流通されており、生肉をそのまま食する場合もあるが大部分は加熱調理して食するのが一般的である。しかし肉類を加熱調理すると、肉にパサツキがみられたり、肉が硬くなって食感が悪くなる、或は加熱によって肉の歩留が低下するなどの問題がしばしば見られた。
肉類の中でも、黒毛和牛のような肉用種をグレインフエッドで肥育した牛より得られた肉のように、肉質そのものが非常に軟らかくて加熱調理しても加熱調理後の肉の食感及び風味が極めて良好なものもあるが、それだけ価格も非常に高くなるという問題があった。
一方、より安価な肉として、老廃家畜、経産家畜、ホルスタイン種などの乳肉種より得られる牛肉などでは肉質そのものが非常に硬くて加熱調理によってさらに食感が悪くなるなどの問題があった。また、脂身の少ない肉では加熱調理後の風味に乏しいものであった。
【0003】
食肉の食感などを改善する試みとして、有機酸モノグリセライド(例:アセチル化モノグリセライド)を使用する方法、レシチンなどの界面活性剤を使用する方法(特開昭54−62353号)、酵素を使用する方法(特開平4−278063号、特開平5−7476号、特開平5−252911号)、塩類等を使用する方法(特開昭58−23767号、特開平4−36167号)などが知られており、肉を柔らかくするなどの食感改善はある程度はみられるけれども風味の点では物足りないものであった。
【0004】
従来ソーセージなどの肉練り製品の保水性や食感の改善に関して、澱粉や大豆蛋白などの蛋白が使用されているが、肉はブロック状でなく、ミンチ状になって存在するために肉片としての食感をそれほど問題としなくてよかった。
ハムなどのブロック状の肉に対しては、一般に蛋白質はピックル液の一部として使用され、加熱調理後の肉の歩留り向上などに寄与するが、加熱調理後の肉の食感が硬くなるなどの問題がみられる。一方、澱粉はピックル液の一部として使用すると沈澱しやすいなどの問題があってあまり使用されていなかった。これに対して、特開平9−140352号では澱粉をエステル化、エーテル化、酸化、架橋などを単独または組み合わせた加工澱粉(膨潤度2.0以上5.0以下で糊化開始温度60℃以上、77℃以下)と糊料(例:グアーガムなどの天然多糖類やアルギン酸ソーダなどの合成高分子)を含有するピックル液を用いてハムなどの食肉加工品に使用している。ピックル液を使用すると、糊料によってピックル液中の加工澱粉の分散性が改善され、ハムなどの食肉製品の容積が大きくなり、肉に近い自然な食感になるとされているが、糊料の溶解や分散時にダマが発生したり、食感を硬めにするものであり、風味も良好としているが油脂のもたらすような風味とは異なる。
【0005】
黒毛和牛の肉のような高級品とされている肉では、脂身が多く肉質のみならず、共存する油脂が風味をひき立たさせていることから、脂身の少ない食肉を柔らかくしたり、食感、風味を改良する方法として、食肉中に油脂を添加しようとする試みがなされている。
インジェクション法などによって油脂のみを肉に添加する場合、常温で液状の液状油ではそのまま添加できるが肉中に油脂を残存させることが難しく、常温で固体状の固形脂では加熱溶融して液状にして初めて添加が可能になるが、固形脂では添加温度を高く保持しておかないと肉への添加ができず、添加温度を高くすると食肉温度が上昇して細菌が増殖しやすく、肉の鮮度が下がるという問題がみられた。
【0006】
また、油脂を単なる油脂としてでなく、乳化してから肉に添加する試みもなされている。しかし、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを用いて食用油脂を油中水滴型乳化液にして肉に添加する方法(特開平4−197157号)では、油脂が油中水滴型であるため、水溶性の呈味物質、調味料、香料などは内相部に添加され、それらの物質が油相で覆われる結果、水溶性物質による風味の強化が期待できないなどの問題がある。このため、通常は油中水滴型乳化液ではなく、水中油滴型の乳化液として使用されている。
【0007】
水中油滴型の乳化液でも、常温で固体の脂肪(好ましくは牛脂)を溶融後乳化剤を添加して乳化した乳化液を食肉に注入する方法(特開昭58−89161号)や蛋白質(例:卵白)を用い脂肪の固化温度より高く、蛋白質の熱変性温度より低い温度で乳化した液を食肉に注入する方法(特開昭59−162853号)などでは、低温での乳化液の安定性が悪く、注入時の乳化液の温度を高くする必要があり、生肉に不必要な熱を与え、肉の品質上、及び微生物衛生上好ましくないものであり、調理加熱時の油脂などの流出が多いものであった。
【0008】
水中油滴型の乳化液の安定性を改善し、低温で食肉に注入することを可能にしたものとして、水と油脂にキトサン(乳化力を有す)を添加して乳化したエマルジョンを使用する方法(特開平2−227053号)、蛋白質(例:ホエー蛋白質や卵白)の熱変性温度より高い温度で加熱し、脂肪を乳化したエマルジョンを食肉に注入する方法(特開平3−7544号)、血漿蛋白質を用いて乳化した食用油脂を使用する方法(特開平4−320662号)、食用油脂、好ましくは豚脂、牛脂からなる油脂組成物にアルギン酸ソーダ、塩類、天然多糖類(例:アラビアガム、グアーガムやローカストビーンガム等)からなる水相部を添加して得られるO/W型乳化組成物を使用する方法(特開平6−62376号)などが例示され、調理加熱時でも乳化油脂に乳化破壊をおこさない、或はおこしにくくすることで油脂などが食肉からドリップするのを防止し、肉にソフト感やジューシー感を与えるとされているが、油脂由来の風味の発現についてはものたりないものであった。
【0009】
また、水中油滴型の乳化液と蛋白分解酵素の併用が、ジューシー感や食感(柔らかさ)の改善効果が大きいとして、食用油脂とキウイフルーツの抽出部からなる乳化物を食肉に添加する方法(特開平5−103633号、特開平8−173096号)なども開示され、特に特開平8−173096号では乳化剤にポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して乳化を極めて安定にし、より低温でも乳化液を肉に添加することを可能にするなどの改良がなされている。しかし、調理加熱時の油脂由来の風味の発現は必ずしも良好なものとはいえない。
【0010】
加熱調理後の肉の食感を改善することに関して、本発明者はDE4以下のデキストリンのようなゲル形成性澱粉加水分解物とDE7〜45の澱粉分解物のようにゲル非形成性糖質を含む水溶液を生肉に添加した加工生肉(特開平9−348401号)、糊化開始温度が70℃以下の澱粉とDE4以下のデキストリンを含む混合液を生肉に添加した加工生肉(特願平8−260496号)を提案し、加熱調理後の肉の食感を改善し、加熱調理における肉の歩留を改善したが、加熱調理後の肉における油脂がもたらす風味についてさらに検討の余地があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、加熱調理での歩留がよく、加熱調理後の肉の食感と油脂由来の風味に優れた生肉を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意努力の結果、平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が70℃以下の澱粉と疑似分散状態の油脂を含む混合液を用いて生肉を処理することにより上記課題が解決されることを見出し本発明を完成させた。
本発明は、以下に示す加工生肉およびその製造方法を提供するものである。
1.平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と、油脂とを含有する混合液を生肉に添加してなる加工生肉において、該油脂が固形脂であり、該澱粉の生肉に対する添加量が0.2〜10重量%、該油脂の生肉に対する添加量が、0.5〜25重量%であり、該油脂の85%以上が10〜200μmの大きさで該混合液中に擬似分散状態で存在しているものであることを特徴とする加工生肉。
.澱粉が糯米澱粉及び/又はその加工澱粉であることを特徴とする上記に記載の加工生肉。
.平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と、油脂とを含有する混合液を生肉に添加することを特徴とする加工生肉の製造方法において、該油脂が固形脂であり、該澱粉の生肉に対する添加量が0.2〜10重量%、該油脂の生肉に対する添加量が、0.5〜25重量%であり、該油脂の85%以上が10〜200μmの大きさで該混合液中に擬似分散状態で存在しているものであることを特徴とする加工生肉の製造方法。
混合液には、平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉を0.1〜50重量%、油脂を10〜60重量%含有させるのが好ましく、生肉に対する混合液の添加量を5〜100重量%程度とするのが好ましい。
本発明に使用する澱粉は平均粒径20μm以下で且つ糊化開始温度40〜70℃の未糊化の澱粉で、好ましくは糯米澱粉及び/又はその加工澱粉である。
油脂としては、可食性の固形脂を用いる。
また、混合液の生肉への添加法としてはインジェクション法が挙げられる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の対象とする生肉は、牛、豚、羊などの家畜、鶏、七面鳥、鴨、ガチョウなどの家きん類から得られ、肉の表面積として少なくとも1cm2 以上の大きさを有するブロック状で、焼く、煮るなどの加熱処理が施されていない肉類を総称し、硬質タイプの肉、生鮮肉、チルドの肉、冷凍の肉などを包含する。但し、冷凍の肉は予め解凍することによって本発明が実施できる。
この明細書において、「加熱調理後の肉」とは、焼肉、焼鳥、ステーキ、カツ、鶏野菜煮、肉野菜煮、肉じゃが、カレー、シチュー、茶碗蒸しなどのように焼く、炒める、揚げる、煮込む、蒸すなどの加熱処理を施した肉、及び肉料理中に含まれる肉を指称し、加熱調理の方法は特に限定されない。
【0014】
本発明で言うインジェクションするとは、ハムなどで利用されているピックル注射機を用いる方法で、肉塊の中心部や関節の周囲に注射針を突きさし、圧力をかけた状態で澱粉と油脂を擬似分散状態で含有する混合液を押し出すことで混合液を肉塊の内部まで注入することを意味し、容易に短時間で実施できる。これに対して、混合液を肉塊に噴霧したり、混合液に肉塊を浸漬するなどの方法を用いて混合液を肉塊に添加しようとすると、これらの方法では混合液が肉塊の表面のみの添加であったり、時間をかけても混合液が肉塊の内部まで浸透しないなどの問題があるので、本発明では混合液を肉塊に添加する方法としてインジェクションする方法が最も好ましい。
【0015】
本発明に使用する澱粉とは、平均粒径が20μm以下で、且つその糊化開始温度が40〜70℃以下の未糊化澱粉である。未糊化澱粉の平均粒径が20μmを越えると食感の改善効果や油脂由来の風味の発現を期待できないなどの理由から本発明では平均粒径を20μm以下に限定する。一方、未糊化澱粉とは、常温水で溶解ないし、膨潤しない澱粉を意味し、その糊化開始温度で表現すれば約40℃以上と言える。常温水で溶解ないし膨潤する澱粉では、混合液にした時の粘度が高くなってインジェクションし難くなるだけなく、食感改善効果も乏しい。また、糊化開始温度が70℃を越える澱粉では、生肉の加熱処理後の食感を悪くしたり、油脂由来の風味の発現も弱くする。
【0016】
この条件を満たす澱粉であれば、未加工の澱粉、各種加工澱粉の区別を問わず、何れも使用でき、具体的には、小麦澱粉、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、糯米澱粉及びこれらの加工澱粉、更に糊化開始温度が70℃を越える澱粉、例えばコーンスターチ、粳米澱粉、甘藷澱粉、大麦澱粉などであっても、それらを加工することによって糊化開始温度が上記範囲内になるようにした加工澱粉は使用できる。これらの中でも、糯米澱粉及びそれらの加工澱粉がより好ましく、本発明の目的をより効果的に発現する。
尚、加工澱粉は天然澱粉(未加工の澱粉)を何らかの方法で加工処理した澱粉を表現し、具体的には常法により加工して、一般的に熱処理澱粉、漂白澱粉、酸化澱粉、可溶性澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、架橋澱粉、架橋エステル化澱粉、架橋エーテル化澱粉と呼ばれている加工澱粉を包含する。
これらの中でも、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉は、その加工の程度に従って糊化開始温度が低下するので、本発明の糊化開始温度の条件を満たさない天然澱粉の加工方法として有効である。
【0017】
また、本発明で述べる糊化開始温度は、ブラベンダーアミログラフを用いて澱粉濃度20重量%の澱粉懸濁液(懸濁液500g中に澱粉を絶乾物として100gと溶解した食塩7.5gを含有)を攪拌しながら30℃より1分間1.5℃の昇温速度で加熱し、澱粉が糊化する前にはチャート上のベースラインを動いていたペン先(マーカー)が澱粉の糊化による粘性の為にベースラインからズレを生じるようになるが、そのズレの生じた温度を読み取った値で表示する。
本発明において、「油脂を擬似分散状態で含有する混合液」とは、油脂の85%以上、好ましくは90%以上が10〜200μmの大きさで油塊として分散した状態にある油脂の水分散液であって、この分散状態は穏やかな攪拌で保持されるが、攪拌を停止して静置状態にすると油脂の分離や凝集などが起こりやすい状態にある油脂の水分散液を意味する。一方、通常の乳化油脂とは、牛乳中に存在する乳脂肪のような油脂を意味し、静置状態でも油脂の分離や凝集が起こりにくい。油脂の粒子径には明確な規定はないが、例えば、牛乳では、油脂の粒子径が0.1〜20μm程度にあるとされている。
このような油脂は、常温で固体状の固形脂を用いて、例えば下記のような方法によって得られるが、それら以外の何れの方法を用いてもよく、要は混合液中の油脂が疑似分散状態にあればよい。
【0018】
固形脂を溶融し、適当な乳化剤、例えばモノグリセリドを重合させて親水性をあげたポリグリセリドをベースとし、脂肪酸としてオレイン酸等を含有し、HLBが10以上の乳化剤を添加して混合後冷却し、これを水又は水と澱粉の混合液に添加して穏やかな攪拌をすることで疑似分散状態の油脂を含む混合液が得られる。穏やかな攪拌とは、油脂を疑似分散状態に保持する程度の攪拌をすることで、攪拌速度が通常1000rpm以下、好ましくは500rpm以下でなされる。攪拌速度が1000rpmを越えると疑似分散状態の油脂でなくなり、本発明の目的にそぐわなくなる。
【0019】
このように疑似分散状態の油脂は、液状油、固形脂の何れからでも得られるが、本発明では固形脂を使用する。乳化剤を使用しないで液状油を油滴にして疑似分散状態にすると攪拌を止めるとすぐ元の液状油にもどる、或は乳化剤を使用して液状油を疑似分散状態にしても疑似分散状態が保持される時間が短く攪拌中に乳化状態の油脂が増えやすいなど疑似分散状態を保持することに問題がみられる。しかし、固形脂の場合には疑似分散状態の油脂が油塊であるため、攪拌を止めても油脂が油塊であることに変わりがなくて疑似分散状態に復元することが極めて容易である、或は固形脂の方が生肉に注入後の油脂としての風味の発現が強くなる。
用いる油脂は可食性の固形脂なら何れも使用でき、パーム油、ヤシ油、パーム核油、カカオ脂、牛脂、豚脂のなどが例示される。また、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換などの処理をして改質された油脂も利用できる。
【0020】
従来、生肉そのものを加熱すると、加熱によって肉の縮みが大きくなって肉が硬くなったりして食感が悪くなるという問題があり、加熱による肉の歩留り低下の他、赤身の肉などでは油脂含量が少なく加熱しても油脂由来の風味が期待できるものではなかった。
しかし、平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と疑似分散状態の油脂を含有する混合液を生肉に添加することで初めて、加熱調理での肉の歩留がよく、加熱調理後の肉の食感や油脂由来の風味に優れた生肉の製造が可能になった。
本発明では混合液に平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と疑似分散状態の油脂を含有していることが必須の条件となる。その際、澱粉や油脂の種類、混合液としての添加量などによっても変わるが、通常、混合液中に糊化開始温度が40〜70℃の澱粉を0.1〜50重量%、疑似分散状態の油脂を10〜60重量%含有していることが望ましい。混合液中において、澱粉濃度が0.1重量未満であったり、疑似分散状態の油脂が10重量%未満では混合液の添加量が多くなりすぎるし、澱粉濃度が50重量%を越えると澱粉の分散が悪くなるし、疑似分散状態の油脂を60重量%を含有させようとすると油塊の大きさにバラツキがみられて本発明が意図している疑似分散状態の油脂の殆どを10〜200μmの大きさに保持させられなくなる。
【0021】
生肉への混合液の添加は、混合液を生肉にインジェクションすることにより行う。インジェクションする際の混合液の温度は生肉の温度と同程度に冷却し、インジェクションする量として、生肉100重量部に対して混合液を5〜100重量部程度を目安として行う。混合液の温度があまりに高いと肉の変質をきたすことになるし、混合液の添加量があまりに少ないと肉中で均一に分散することが困難になったり、あまりに多いと肉に保持されにくくなる。
混合液がインジェクションされた生肉は、好ましくはタンブラー又はバキュームタンブラーを用いてタンブリングする。
【0022】
このようにして平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と疑似分散状態の油脂を含む混合液を生肉に添加して本発明の加工生肉は得られる。その際、生肉に対して平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度70℃以下の澱粉と疑似分散状態の固形脂の添加量はそれぞれ、0.2〜10重量%、及び0.5〜25重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%、及び1.0〜20重量%にする。生肉に対する平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉の固形分としての添加量が0.2重量%未満では本発明の効果がみられず、10重量%を越えると加熱調理後の食感に異和感を生じる。一方、生肉に対する疑似分散した固形脂の添加量が0.5重量%未満では加熱調理後の肉の油脂由来の風味に乏しく、25重量%を越えると加熱調理後の肉に油っぽさが感じられるようになったり、加熱調理での歩留りも低下する傾向がある。
【0023】
本発明では平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と疑似分散した油脂を含む混合液を生肉にインジェクションすれば良く、これら以外の添加物は特に必要としないが、必要に応じて添加することもできる。例えば、グルコース、砂糖、乳糖、フラクトース、異性化糖、直鎖や環状或は分岐オリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリンや水飴などの糖質やそれらの還元物、食塩、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムなどの調味料や味付け剤、植物性蛋白、卵蛋白、乳蛋白などの蛋白質類、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ニコチン酸アミドなどの発色剤又は発色助剤、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、αートコフェロールなどの酸化防止剤、キサンタンガム、グアーガム、アルファー澱粉等の増粘剤などの他、香辛料、重合リン酸塩などを必要に応じて混合液に添加することもできる。
これらの中でも食塩は、何れの料理においても基本的な調味料なので生肉に対して0.5重量%程度添加させおくことが食味の点から好ましい。
【0024】
かくして得られた本発明の加工生肉は、加熱による肉汁の流逸が顕著に抑制され、各種の肉料理に供して油脂由来の風味に優れ、味もよく、ジューシーでソフトな優れた食感が得られると共に、加熱調理による歩留も顕著に改善される。さらにこの歩留の改善は、加熱調理の際の肉汁の流逸抑制効果を示すものであり、混合液の添加を加味すると元の生肉に対しては大幅な歩留向上効果となり、経済効果も大である。また、料理の種類に応じて好みの形状、例えば好みのサイズのブロック状、スライス状、ミンチ状にしてもよい。さらに、本発明の加工生肉はそのまま加熱調理することは勿論、冷蔵、或は冷凍してからでも加熱調理に供することができる。
【0025】
【参考例1】
攪拌下の水120部(重量部、以下特に明記しない限り「部」は重量部である)にタピオカ澱粉100部を投入して分散し、3%水酸化ナトリウム水溶液を投入しpHを9.5に維持しながら、無水酢酸4部を投入して反応し、10%塩酸で中和、水洗、乾燥して糊化開始温度59℃のエステル化タピオカ澱粉を得た。
【参考例2】
攪拌下の水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解し、コーンスターチ100部を投入して分散させ、3%水酸化ナトリウム溶液35部を滴下し、プロピレンオキサイド6部を添加し、40℃で20時間反応後、10%硫酸で中和、水洗、乾燥して糊化開始温度60℃のエーテル化コーンスターチを得た。
【0026】
【参考例3】
攪拌下の水130部に硫酸ナトリウム10部を溶解し、糯米澱粉100部を投入して分散させ、トリメタリン酸ソーダ0.01部を投入し、40℃で10時間反応後、10%硫酸で中和、水洗、乾燥して糊化開始温度65℃の架橋糯米澱粉を得た。
【参考例4】
精製ラード98部を加熱して溶融後、デカグリセリンモノオレート2部を添加して混合し、30℃まで冷却して元の精製ラードより幾分柔らかい固体状を呈する油脂を得た。得られた油脂を前処理ラードとする。
攪拌速度300rpmにして、前処理ラードを水のみで分散した分散液、前処理ラードを澱粉25重量%を含有する水に分散後ヨード溶液で澱粉を染色した分散液を調製し、2つの分散液を顕微鏡で観察したところ、何れの分散液においても油脂の粒径の殆どが10〜200μmの範囲にあり、粒径に格別変化が起こっていないことから、澱粉の有無に関わらず油脂が水に同じように分散することを確認した。次いで、前処理ラードを水に分散した分散液をSALT1000(島津製作所製のレーザ回折式粒度測定装置)を用いて実測したところ、10〜200μmの範囲にある油脂の量が95.2%と観測された。このように添加した前処理ラードの殆どが疑似分散状態の油脂となることから、本発明では添加した油脂の量を混合液中に含有する疑似分散状態の油脂の量とみなした。
【参考例5】
参考例4の油脂を精製ヘッドとした以外、同じように処理して得られた固体状を呈する油脂を前処理ヘッドとする。参考例4と同じ方法で油脂の粒径を測定したところ、10〜200μmの範囲にある油脂の量が95.2%と観測された。
【0027】
【実施例1】
コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、糯米澱粉、参考例1〜3で得られた加工澱粉の物性を表1に記載した。尚、澱粉の平均粒径は、SALD1000(島津製作所製のレーザ回折式粒度測定装置)を用いて求めた値である。
300rpmの速度で攪拌中の水に表1の澱粉、参考例4の前処理ラード、食塩を投入して分散し、混合液100重量部中に固形分として澱粉8部、豚脂20部、食塩2部を含有する混合液を調整し、9℃に冷却した。添加した前処理ラードの殆ど(95.2%)が10〜200μmの油塊として分散しているので、前処理ラードの添加量を混合液中に含有している疑似分散状態の油脂の量と見なして計算した。
表面積約100cm2 の生鮮豚もも肉ブロック(品温約9℃)100部に上記の混合液30部(澱粉2.4部、疑似分散状態の油脂6部、食塩0.6部)をインジェクションし、20分間タンブリングして表2の加工生肉を製造した。
タンブリング後の生肉と未処理の生肉を3×3×2cmに裁断し、未処理の生肉を対照例として、90℃で10分間蒸煮した。蒸煮した肉を下記の基準で評価した結果を表2に示す。
【0028】
〈柔らかさ〉 ◎:対照に較べ、かなり柔らかい。
○:対照に較べ、柔らかい。
△:対照とほぼ同じ程度。
×:対照より硬い、又は異和感がある。
〈ジューシー感〉◎:対照に較べ、かなりジューシーである。
○:対照に較べ、ジューシーである。
△:対照とほぼ同じ程度。
×:対照よりジューシー感に欠ける。
〈風味〉 ◎:対照に較べ、油脂由来の風味がより強く感じられ、旨さ
も極めて良好。
○:対照に較べ、油脂由来の風味が強く、旨さも良好。
△:対照とほぼ同じ程度。
×:対照に較べ、油脂由来の風味が多少とも弱く感じられる
、又は油っつぽい感じが強くなる。
〈歩留〉 蒸煮前の肉の重量に対する蒸煮後の肉の重量%で表示する。
【0029】
【表1】
澱粉No. 未加工又は加工澱粉 糊化開始温度 平均粒径
1 コーンスターチ 75℃ 13.3μm
2 馬鈴薯澱粉 61℃ 39.0μm
3 タピオカ澱粉 64℃ 14.2μm
4 糯米澱粉 64℃ 5.2μm
5 エステル化タピオカ澱粉 59℃ 14.3μm
6 エーテル化コーンスターチ 60℃ 13.5μm
7 架橋糯米澱粉 65℃ 5.3μm
【0030】
【表2】
使用澱粉 柔らかさ ジューシ−感 風味 歩留り(%)
対照例 - △ △ △ 78.0
比較例 澱粉No.1 × × × 80.4
比較例 澱粉No.2 △ ○ △ 88.5
本発明 澱粉No.3 ○ ○ ○ 89.1
本発明 澱粉No.4 ◎ ◎ ◎ 91.3
本発明 澱粉No.5 ○ ○ ○ 87.9
本発明 澱粉No.6 ○ ○ ○ 89.5
本発明 澱粉No.7 ◎ ◎ 92.2
【0031】
【実施例2】
混合液中に食塩を1%、澱粉No.7の架橋糯米澱粉、疑似分散状態の油脂(参考例4の前処理ラードを使用)を表3の割合で含有する混合液を調製し、生肉100部に対する混合液の添加量を50部(生肉に対する添加量として食塩0.5%と糯米澱粉と疑似分散状態の油脂は表3に示す)とした以外は実施例1に準じて加工生肉を製造し、実施例1の評価方法を用いて評価した。結果を表4に示す。
【0032】
【表3】
混合液 混合液中固形分(%) 生肉に対する固形分添加量(%)
No. 架橋糯米澱粉 油脂 架橋糯米澱粉 油脂
1 0.2 20.0 0.1 10.0
2 0.6 20.0 0.3 10.0
3 1.4 20.0 0.7 10.0
4 8.0 20.0 4.0 10.0
5 8.0 − 4.0 −
6 8.0 0.6 4.0 0.3
7 8.0 1.4 4.0 0.7
8 8.0 2.6 4.0 1.3
9 8.0 40.0 4.0 18.0
10 8.0 46.0 4.0 23.0
11 8.0 60.0 4.0 30.0
12 16.0 20.0 8.0 10.0
13 24.0 20.0 12.0 10.0
【0033】
【表4】
使用混合液 柔らかさ ジューシ−感 風味 歩留(%)
比較例 混合液1 △ △ △ 78.2
本発明 混合液2 ○ ○ ○ 86.7
本発明 混合液3 ◎ ◎ ◎ 90.3
本発明 混合液4 ◎ ◎ ◎ 82.9
比較例 混合液5 ◎ ◎ △ 85.4
比較例 混合液6 ◎ ◎ △ 86.9
本発明 混合液7 ◎ ◎ ○ 91.7
本発明 混合液8 ◎ ◎ ◎ 91.0
本発明 混合液9 ◎ ◎ ◎ 90.1
本発明 混合液10 ◎ ◎ ○ 90.2
比較例 混合液11 ◎ ◎ × 87.3
本発明 混合液12 ◎ ◎ ◎ 90.3
比較例 混合液13 △ △ ○ 89.1
【0034】
【実施例3】
実施例2において、生鮮豚肉ブロックと前処理ラードを、ホルスタイン種の牛のもも肉と参考例5の前処理ヘッドに変えた以外は同じようにして加工生肉を製造し、対照とする未処理の生肉と比較したところ、ほぼ同じような結果が得られた。
【0035】
【実施例4】
全量100部中各種成分を表5の割合で含む混合液30部を豚肩ロース肉一本物100部にインジェックションし、30分間タンブリング後、未処理の豚肩ロース肉と共に75℃で120分間蒸煮した。
加熱前後の重量差よりみたボイリング歩留は加工生肉で87.3%、未処理の豚肩ロース肉では74.7%であった。
蒸煮後の肉を表6の処方からなるタレにつけ、オーブンを使用し、250℃で20分間焼成して焼き豚にした。
タレをつけるだけで焼成した焼き豚では、硬さもがあって、ジューシー感の不足もみられたが、本発明による焼き豚は柔らかく、ジューシー感もあり、油脂由来の風味に優れて美味しいものであった。
【0036】
【表5】
架橋糯米澱粉 4.30
油脂(前処理ラード使用) 8.00
粉末水飴(DE18) 3.90
砂糖 0.95
カゼインナトリウム 2.52
食塩 4.00
亜硝酸ナトリウム 0.00
L−アスコルビン酸ナトリウム 0.256
トリポリリン酸ナトリウム 0.43
ピロリン酸ナトリウム 0.43
ジンジャー粉末 0.5
みりん 2.0
醤油(濃口) 1.0
グルタミン酸ナトリウム 0.5
ごま油 2.0
大豆白絞油 3.0
【0037】
【表6】
醤油(濃口) 40
みりん 15
砂糖 5
白みそ 1
おろししょうが 1
カラメル 12
水 12

Claims (3)

  1. 平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と、油脂とを含有する混合液を生肉に添加してなる加工生肉において、該油脂が固形脂であり、該澱粉の生肉に対する添加量が0.2〜10重量%、該油脂の生肉に対する添加量が、0.5〜25重量%であり、該油脂の85%以上が10〜200μmの大きさで該混合液中に擬似分散状態で存在しているものであることを特徴とする加工生肉。
  2. 澱粉が糯米澱粉及び/又はその加工澱粉であることを特徴とする請求項1に記載の加工生肉。
  3. 平均粒径20μm以下で、且つ糊化開始温度が40〜70℃の澱粉と、油脂とを含有する混合液を生肉に添加することを特徴とする加工生肉の製造方法において、該油脂が固形脂であり、該澱粉の生肉に対する添加量が0.2〜10重量%、該油脂の生肉に対する添加量が、0.5〜25重量%であり、該油脂の85%以上が10〜200μmの大きさで該混合液中に擬似分散状態で存在しているものであることを特徴とする加工生肉の製造方法。
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