JP4272792B2 - 食肉インジェクション用ピックル液組成物および食肉加工品の製造方法 - Google Patents

食肉インジェクション用ピックル液組成物および食肉加工品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インジェクション用ピックル液組成物および該組成物を使用する食肉加工製品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
澱粉は植物の根や実よりたん白質や脂肪を取り除いたものであり、増量剤としての効果に加え、この素材の持つ保水力、ゲル化力を有効に作用させるため、原料肉に加水を行った場合に生じるこれら食肉加工品の保水力、テクスチャーの低下を補強する目的で使用される。
【0003】
従来、食肉加工品に利用する澱粉の添加方法は、小片肉や挽肉に粉末で添加し、練り込みにより利用されるが、近年では、ピックル液に添加し肉塊にインジェクトする加工法も行なわれている。
【0004】
このような食肉加工品として、食肉のカツ類、あるいはそれらの非加熱調理加工品、ロースハム、ボンレスハムなどの食肉ハム類、食肉ベーコン類、加熱調理用食肉加工品、焼き豚、ローストされた食肉加工品などがある。
【0005】
通常、澱粉をピックル液に添加し肉塊にインジェクトする加工法において、ピックル液中での澱粉の沈殿が生じ、ダマになって分散しにくく肉中への澱粉の均一なインジェクトが困難となる。
【0006】
またピックル液をインジェクトした肉中では澱粉の偏在(固析)が生じ、偏在部分はその後の加熱により糊化し冷却により半透明なゲル化部分を生じる。そのため、食肉加工品の視覚的な品質を劣化させる欠点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような澱粉の分散性の悪さを解消する方法として、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガムなどの糊料を添加した粘性ピックル液を調整し、液の粘性を利用した澱粉の沈殿防止法も行われ(特開平9−84555号公報)、澱粉の沈殿を防止する方法が知られているが、糊料の持つ素材特有の風味により食肉加工品の風味の劣化も生じてしまう。
【0008】
また、液体油脂とともに吸油性の高い澱粉を乳化した乳化物を調整し、ピックル液に添加する方法、また、澱粉を油脂にてコーティングしたものを添加し、沈殿を防止し作業性を改善し、ジューシー感を付与する方法(特開平9−308462号公報)などが考えられているが、これらの方法によっても、ピックル液中での澱粉の沈殿については改良されるものの、依然肉中での偏在の問題については解決できず、加熱した肉中における澱粉の半透明なゲル化部分の発生による視覚的な品質の劣化を改善することは出来ない。
【0009】
肉塊にインジェクトされたピックル液中の澱粉粒子の中には、肉中で固まり部分(偏在部分)として存在するものができてしまい、視覚的にも澱粉の偏在が認められる。そして、その後の物理的な分散操作、例えばタンブリングやマッサージ処理を行っても肉組織全体に均一に分散させることは極めて困難であり、澱粉粒子の偏在した部分を解消するには至らない。
【0010】
肉塊中の澱粉の偏在部分は、その後の加熱により糊化し冷却により半透明な澱粉ゲルを形成し、均一な組織を形成することは困難となる。澱粉ゲルの偏在部分は、周囲の肉組織とは異なった性状を示し、視覚的な品質を極端に劣化させる。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ピックル液に添加した澱粉の沈殿を防止するとともに、澱粉を添加したピックル液を肉にインジェクトし加工された、またはさらに加熱により加工された食肉加工品の肉中に偏在する半透明な澱粉ゲルの発生を防止し、視覚的に改善された肉組織を持った食肉加工品を製造するためのインジェクション用ピックル液組成物および食肉加工品の製造方法を提供することである。
【0012】
さらには、澱粉の持つ保水力、結着力を更に改善し十分な食感をもったインジェクション用ピックル液組成物および食肉加工品の製造方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための請求項1に記載の本発明は、常温で水不溶性の澱粉および粉末油脂を必須成分として含み、常温で水不溶性の澱粉と粉末油脂の比率が、澱粉100重量部に対して粉末油脂10〜15重量部であることを特徴とすることを特徴とする食肉インジェクション用ピックル液組成物に関するものである。
【0014】
また上記課題を解決するための請求項5に記載の本発明は、常温で水不溶性の澱粉および粉末油脂を必須成分として含み、常温で水不溶性の澱粉と粉末油脂の比率が、澱粉100重量部に対して粉末油脂10〜15重量部であることを特徴とするピックル液を食肉にインジェクトし加工することを特徴とする食肉加工品の製造方法に関するものである。
【0015】
すなわち、本発明によれば、加熱加工後の肉塊中の澱粉ゲルの偏在箇所は、澱粉と粉末油脂の共存した状態を示し、澱粉ゲルの特徴である半透明な組織を、油脂の共存により不透明な組織に改良することが可能となり、視覚的に偏在箇所周辺の組織と差のない外観を示すことが可能となる。さらには、ピックル液中の澱粉の沈殿を液体カードランの添加により防止することが可能となり、肉塊への澱粉の均一なインジェクトが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる粉末油脂は、特に限定されないが常温で粉末固形状のものであり、最大粒子径が0.5mm以下で且つ、常温で水不溶性の油脂粉末であれば種類を問わない。
【0017】
本発明に用いられる粉末油脂とは、常温で固体の油脂の粉末であれば特に限定されないが、例えばヤシ油、大豆油、なたね油、パーム油などの植物油または豚脂、牛脂等の動物油およびこれらの硬化油やステアリン酸トリグリセライド等の精製油脂の粉末が挙げられる。粉末油脂の種類も特に限定されないが、例えば、加熱溶融した硬化油を冷風中にスプレーし、冷却固化した噴霧冷却法により調製したいわゆるスプレークーラー粉末油脂、あるいは水中油滴型乳化液(O/Wエマルジョン)を調整し、スプレードライヤーで乾燥して水分を除去したもので乳化剤や固型化剤としてカゼイン、ゼラチン、乳糖、デキストリン等の蛋白質や炭水化物またはカラギーナン、キサンタンガム、カードラン等の糊料などによりコーティングされたいわゆるスプレードライヤー粉末油脂、あるいは固体粉砕法、マイクロカプセル法、散布混合法等により調整された粉末油脂が挙げられる。粉末油脂として、理研ビタミン(株)性の「エマファット」(商品名)、「スプレーファット」(商品名)やミヨシ油脂(株)製の「マジックファット」(商品名)等の市販品を使用してもよい。
【0018】
本発明における常温で水不溶性の澱粉とは、植物の根や実より常法により、たん白質、脂肪等を取り除き、乾燥し、粉末化したもので、たとえば馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉およびそれらの加工澱粉、例えばエステル化、エーテル化、架橋、酸化処理された加工澱粉でもよく、最大粒子径が0.5mm以下で且つ、常温で水不溶性の澱粉であれば種類を問わない。
【0019】
ピックル液に対する常温で水不溶性の澱粉の添加濃度は、使用する澱粉により特に限定されないが、20重量%以下とすることが望ましい。20重量%を越えると、ピックル液の流動性を低下させ、インジェクト時の作業性が低下する。
【0020】
常温で水不溶性の澱粉と粉末状油脂を必須成分として含むインジェクション用ピックル液組成物において、両者の相乗効果により、該ピックル液を食肉中にインジェクションして加熱加工しても、視覚的な品質劣化を防止することができる。すなわち、食肉製品中に澱粉が偏在しても、視覚的には澱粉の偏在が認められず、視覚的に優れた食肉加工品とすることができる。視覚的に澱粉の偏在が認められなくなる理由は不明であるが、粉末油脂が均一に混在するためと思われる。
【0021】
上記本発明のインジェクション用ピックル液組成物にカードランを配合することにより、インジェクション加工性を改良することができ、さらに食肉加工品のテクスチャーを改良することができる。
【0022】
カードランは、β−1,3−グリコシド結合を主体とする加熱凝固性の多糖類であり、水に不溶性である。カードランは、アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属の微生物により生産される。より具体的には、カードランはアルカリゲネス・フェカリス・バールミクソゲネス(Alcaligenese faccalis var.myxogeness)菌株10C3K[アグリカルチュラル・バイオロジカル・ケミストリーvol.30,p196(1966)]、アルカリゲネス・フェカリス・バールミクソゲネス(Alcaligeness faccalis var.myxogenes)菌株10C3Kの変異株NKT−u(IFO 1340)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(IFO 13127)およびその変異株U−19(IFO 13126)等により生産される多糖類であり、最大粒子径が0.5mm以下であればよい。
【0023】
本発明に用いるカードランは、粉末カードランであっても液体カードランであってもよい。なお、液体カードランとは、カードランを溶解した水溶液であり、温水ととも攪拌し溶解し調整するか、または特開平10−155452号公報に示す方法にて調整したものでもよい。
【0024】
なお、本発明に用いられる粉末油脂、常温で水不溶性の澱粉および、粉末カードランの粒子径が0.5mm以下とする理由は、通常ピックル液をインジェクトする際に用いる針の穴径は、1mm前後のものが使用される。常温で水不溶性の澱粉や粉末油脂の粒子が通過する針の穴径1mm以下であっても、針穴の径に近い粒子では粒子同士の架橋が生じ通過に支障を来す。
【0025】
よって、ピックル液を肉塊にインジェクトする際に支障を来さない為に、ピックル液中の不溶解成分である澱粉や粉末油脂および、粉末カードランの粒子は、インジェクターに用いられる針穴の径の1/2以下が望ましい。
【0026】
澱粉に対する粉末油脂の比率は、澱粉100重量部に対して粉末油脂2〜30重量部であり、好ましくは、5〜20重量部、さらに好ましくは、10〜15重量部での範囲で適宣選択すればよい。
【0027】
ピックル液に添加する液体カードランの濃度は、使用する澱粉、粉末油脂、粉末カードラン、および、他の添加成分にもよるが、ピックル液の粘性を考慮して適宣決定すればよい。
【0028】
例えば、インジェクトに用いるピックル液の粘度が20〜200mPa・s、好ましくは30〜100mPa・sになるように添加量を適宣決定すればよい。ピックル液の粘度が20mPa・s以下では、澱粉の安定な分散を維持することが困難となり、200mPa・s以上ではインジェクト作業が困難となり、肉塊中へのピックル液の均一な添加も困難となり、さらには肉塊中での澱粉の偏在を増長する。
【0029】
澱粉とともに使用する粉末カードランの濃度は、添加するピックル液の対肉塊重量比、あるいは、併用するたん白剤にもよるが、ピックル液中0.5〜8重量%、好ましくは、1〜6重量%、更に好ましくは、2〜4重量%の範囲で適宣選択すればよい。ピックル液中の濃度が8重量%を越えるとピックル液の流動性が次第に阻害されインジェクト作業が困難となる。
【0030】
本発明を適用しうる食肉加工品としては、豚カツ、牛カツ、鶏カツなどの食肉のカツ類、および、それらの非加熱調理肉、ロースハム、ボンレスハムなどの食肉ハム類、および食肉ベーコン類の食肉加工品および、焼き豚および、ローストされた食肉加工品などの食肉加工品を挙げることが出来る。
【0031】
本発明のインジェクション用ピックル液組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の添加剤を併用することもできる。
【0032】
併用する添加剤は特に限定されないが、例えばリン酸塩、食塩、酸化防止剤、調味料、たん白剤、トランスグルタミナーゼ、糖類、色素、香辛料、着色料を挙げることができる。
【0033】
本発明方法により食肉加工品を製造するには、本発明のインジェクション用ピックル液組成物を食肉にインジェクトした後、タンブリングまたは、マッサージを行い、カツ類の場合は、常法に従いバッター付け、パン粉付けを行い、非加熱調理加工品として加工すれば良く、さらに油により加熱することでカツ類を加工すればよい。また、上記に示す方法にてタンブリングまたは、マッサージを行った肉塊を加熱調理用の食肉加工品として用いることもできる。
【0034】
また、ハム類、ベーコン類の場合は、リン酸塩、食塩、発色剤、酸化防止剤、調味料、たん白剤、トランスグルタミナーゼ、糊料、糖類、色素、香辛料、着色料の1種または、2種以上とともにタンブリングまたは、マッサージを行った後、ケーシングやリティーナーに詰め、常法により加熱加工すればよい。
【0035】
また、本発明のインジェクション用ピックル液組成物において、常温で水不溶性の澱粉の分散を目的として糊料、例えば、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガムを用いてもい。
【0036】
【実施例】
以下に、実験例および実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0037】
なお、以下の記載において%はすべて重量%を示し、ピックル液組成物中の澱粉はいずれも最大粒子径は0.5mm以下のものである。
【0038】
実施例1〜5、比較例1〜7
表1、表2に示す配合組成のピックル液を調整し、ロースハムを常法に従い製造した。実施例に用いた粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「マジックファット 700」(商品名、ミヨシ油脂(株)製粉末油脂)を使用した。
【0039】
すなわち、豚背ロース肉100kgに対し、ピックル液70kgをインジェクトした。インジェクトに先立ち、ピックル液を十分に攪拌し、沈殿した澱粉を分散した。その後、5℃において16時間タンブリングを行い、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウス内にて、乾燥(65℃、30分 )、スモーク(70℃、30分 )、蒸煮(80℃、4時間 )、水冷(30分)を行い、一晩冷蔵保存した。
【0040】
なお、試験に使用した素材は食品用として市販されているものを使用した。
【0041】
また、比較例6として用いた乳化澱粉を含むピックル液は、次の方法により調整した。
【0042】
すなわち、ピックル液重量の73%に相当する冷水51kgに、表1に示す各成分を所定量添加し攪拌し溶解した。ついで、タピオカ澱粉7kgおよび、コーン油0.6kgさらに、乳化剤としてカゼインNa0.1kgを添加し乳化機により乳化し、乳化澱粉をを含むピックル液を調整した。
【0043】
また、比較例7として用いた油脂コーティング澱粉は、特開平9−308462号公報に記載の方法により調整した。すなわち、スーパーミキサーで高速攪拌しているタビオカ澱粉に溶解したパーム油を対澱粉0.5%添加し澱粉粒子の表面をコーティングし、乾燥し、粉末とした。
【0044】
また、表2に示す比較例1〜5,7で使用したデキストリンは、ピックル液中の固形分の調整として用いた。
【0045】
【表1】
Figure 0004272792
【0046】
【表2】
Figure 0004272792
【0047】
得られたロースハムを厚さ5mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、パネラー(10名)による視覚評価を行い評価結果を比較した。
【0048】
視覚評価は、澱粉の偏在が認められるものを+とし、認められないものを−とした。その結果を表3に示す。
【0049】
また、切断したロースハムの切断面に1%ヨウ素水溶液を塗布し、澱粉を染色し、澱粉の分散状態を観察し、パネラー(10名)による視覚評価を行い評価結果を比較した。
【0050】
視覚評価は、ヨウ素により染色された澱粉の偏在が認められるものを+とし、認められないものを−とした。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
Figure 0004272792
【0052】
表3に示した結果から明らかなように、澱粉、乳化された澱粉、油脂コーティング澱粉を単独で使用したもの(比較例1〜7)に比べ、澱粉と粉末油脂を加えたもの(実施例1〜5)は、ロースハムの切断面を観察した結果、視覚的には明らかに澱粉の偏在が認められなかった。一方、ヨウ素溶液による澱粉の染色を行った場合、染色された澱粉の偏在は、差が無いことが確認された。
【0053】
この結果から、澱粉をピックル液に添加し、インジェクトしたロースハム中において、粉末油脂をピックル液に添加することで澱粉の偏在が視覚的に認められないことが判る。
【0054】
実施例6〜10、比較例8〜14
表4、表5に示す配合組成のピックル液を調整し、豚カツを常法に従い製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「マジックファット 700」(商品名、ミヨシ油脂(株)製粉末油脂)を使用した。
【0055】
すなわち、豚背ロース肉100kgに対し、ピックル液30kgをインジェクトした。インジェクトに先立ち、ピックル液を十分に攪拌し、沈殿した澱粉を分散した。その後、5℃において4時間タンブリングを行い、凍結し、−5℃にて半解凍したものを厚さ10mmにスライスした。
【0056】
スライスした肉片を、小麦粉1kgに水10kgを加えさらに、食塩0.05kgを加えて調整したバッターに浸漬し、さらに、パン粉付けを行い、180℃に加熱した大豆油にて5分間加熱した。なお、試験に使用した素材は食品用として市販されているものを使用した。
【0057】
また、比較例13に用いた乳化澱粉を含むピックル液は、比較例6と同様にして調整した。
【0058】
すなわち、ピックル液重量の72.8%に相当する冷水21.84kgに、表1に示す各成分を所定量添加し攪拌し溶解した。ついで、タピオカ澱粉4.2kgおよび、コーン油0.5kgさらに、乳化剤としてカゼインNa0.1kgを添加し乳化機により乳化し、乳化澱粉を含むピックル液を調整した。
【0059】
また、比較例14に用いた油脂コーティング澱粉は、比較例7と同様にして調整した油脂をコーティングしたタピオカ澱粉を使用した。また、表5に示す比較例8〜14で使用したデキストリンは、ピックル液中の固形分の調整として用いた。
【0060】
【表4】
Figure 0004272792
【0061】
【表5】
Figure 0004272792
【0062】
得られた豚カツを幅10mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、パネラー(10名)による視覚評価を行い評価結果を比較した。
【0063】
視覚評価は、澱粉の偏在が認められるものを+とし、認められないものを−とした。その結果を表6に示す。
【0064】
また、切断した豚カツの切断面に1%ヨウ素水溶液を塗布し、澱粉を染色し、澱粉の分散状態を観察し、パネラー(10名)による視覚評価を行い評価結果を比較した。
【0065】
視覚評価は、ヨウ素により染色された澱粉の偏在が認められるものを+とし、認められないものを−とした。その結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
Figure 0004272792
【0067】
表6の結果から明らかなように、澱粉、乳化された澱粉、および油脂コーティング澱粉を単独で加えたもの(比較例8〜14)に比べ、澱粉と粉末油脂を加えたもの(実施例6〜10)は、豚カツの切断面を観察した結果、視覚的に明らかに澱粉の偏在は認められなかった。一方、ヨウ素溶液による澱粉の染色を行った場合、染色された澱粉の偏在は、差が無いことが確認された。
【0068】
この結果から、澱粉をピックル液に添加し、インジェクトすることにより調整した豚カツにおいて、粉末油脂をピックル液に添加することで澱粉の偏在が視覚的認められなくなることが判る。
【0069】
実験例1〜9、比較例15
表7,表8に示す配合組成のピックル液を調整し、実施例1〜5,比較例1〜7と同様にしてロースハムを製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「スプレーファットNR−100」(商品名、理研ビタミン(株)製粉末油脂)を使用した。液体カードランは、特開平10−155452号公報に示す方法にて調整した。すなわち、水96.5kgに粉末カードラン3.0kgを分散した後、リン酸三カリウム(K3PO4)0.5kgを溶解し、このカードランの分散液を攪拌しながら、40℃まで加熱したもの(カードラン含有量3.0重量%)を用いた。
【0070】
【表7】
Figure 0004272792
【0071】
【表8】
Figure 0004272792
【0072】
得られたロースハムを厚さ5mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、パネラー(10名)による視覚評価を行い評価結果を比較した。
【0073】
視覚評価は、澱粉の偏在が認められるものを+とし、認められないものを−とした。
【0074】
また、粉末油脂による白色の偏在部分の発生について同様に視覚評価を行い、偏在部分の認められるものを+とし、認められないものを−とした。
【0075】
また、テクスチャーについても同様に官能評価を行い、硬さの強弱を比較した。
【0076】
十分な硬さの有るものを+とし、硬さのあるものを±、柔らかいものを−とした。
【0077】
その結果を表9に示す。
【0078】
【表9】
Figure 0004272792
【0079】
表9に示した結果から明らかなように、澱粉と共に粉末油脂を使用することで澱粉の偏在が視覚的に認められなくなり、澱粉100重量部に対し粉末油脂のが2重量部以上(実験例1〜9)で効果が現れる。
【0080】
効果が最大限に発揮されるのは粉末油脂が10重量部以上(実験例4〜9)であればよい。
【0081】
しかし、必要以上に粉末油脂を増加した場合、粉末油脂自体に由来する白色偏在部分の発現が見られ、また、テクスチャーの低下も起こる。粉末油脂40重量部(実験例9)では確実に白色の偏在が確認され品質を劣化させることは明白である。また、粉末油脂20重量部以上(実験例6〜9)では、粉末油脂の増加に従い序々にテクスチャーが低下し、粉末油脂40重量部(実験例9)では確実にテクスチャーは劣化する。澱粉に対する最も好ましい粉末油脂の比率は、澱粉100重量部に対し粉末油脂10〜15重量部(実験例4、5)である。
【0082】
実験例10〜17、比較例16
表10,表11に示す配合組成のピックル液を調整し、ロースハム用のピックル液を調整した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「マジックファット
700」(商品名、ミヨシ油脂(株)製粉末油脂)を使用した。
【0083】
使用した澱粉は、コーンスターチを1%ヨウ素溶液にて染色し、乾燥したものを使用した。
【0084】
また、使用した液体カードランは、実験例1〜9にて調整したものを使用した。
【0085】
【表10】
Figure 0004272792
【0086】
【表11】
Figure 0004272792
【0087】
調整したピックル液を直ちに500mlのメスシリンダーに500ml入れ、5℃の冷蔵庫内にて16時間冷蔵静置し、染色した澱粉の分散状態を観察し、澱粉の分散層の容積を測定した。その後、再攪拌後の澱粉の分散性を比較する目的で、メスシリンダーの内容物を攪拌し、分離している澱粉を十分に分散し、再び5℃の冷蔵庫内にて1時間冷蔵静置し、染色した澱粉の分散状態を観察し、澱粉の分散層の容積を測定した。、また、その時のピックル液の粘度をB型粘度計にて測定した。
【0088】
結果を表12に示す。
【0089】
【表12】
Figure 0004272792
【0090】
表12の結果から明らかなように、ピックル液中の液体カードランの濃度の増加に従いピックル液粘度は上昇する。ピックル液の粘度は添加する成分の種類および、濃度により変化するが、表10 表11に示す組成のピックル液では、澱粉の分散安定化の効果は液体カードランの濃度が3%以上(実験例11〜17)であれば、通常のインジェクト作業に十分な粘性を付与することが出来る。好ましくは液体カードランの濃度が3%から9%になるよう(実験例11〜15)添加量を適宣決定すればよい。なお、液体カードランの濃度が12%を越えると(実験例17)ピックル液の粘度は200mPa・sを越え、インジェクトの作業が困難となる。
【0091】
実験例18〜25、比較例17
表13、表14に示す配合組成のピックル液を調整し、実施例6〜10と同様にして豚カツを常法に従い製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「エマファット PA−80」(商品名、理研ビタミン(株)製粉末油脂)を使用した。また、液体カードランは、実験例1〜9にて調整したものを使用し、ピックル液組成物に用いたカードランは最大粒子径0.5mm以下のものを使用した。また、表14に示す比較例17、実験例18〜24で使用したデキストリンは、ピックル液中の固形分の調整として用いた。
【0092】
【表13】
Figure 0004272792
【0093】
【表14】
Figure 0004272792
【0094】
得られた豚カツの衣を取り除き、厚さ5mmに切断し、フードレオメーター(商品名、レオテック製)にてプランジャー(棒状:直径5mm)、圧縮速度(6cm/s)、クリアランス(1.8mm)にて圧縮し、圧縮応力を測定し豚カツの硬さとした。また、ピックル液中の粉末カードランの濃度の増加に伴うインジェクト作業性について観察した。その結果を表15に示す。
【0095】
【表15】
Figure 0004272792
【0096】
表15の結果から明らかなように、ピックル液中の粉末カードランの濃度の増加に伴い、豚カツ肉の硬さは増加し、澱粉単独の場合(比較例17)に比べ、粉末カードランを併用することで豚カツの硬さは補強されることが確認できた。しかし、実験例25に示すように、ピックル液中の粉末カードランの濃度が10%を越えると、インジェクトの作業性が低下した。
【0097】
よって、ピックル液に添加する粉末カードランの濃度は8%以下(実験例18〜24)が望ましい。
【0098】
実施例11〜15
表16、表17に示す配合組成のピックル液を調整し、実験例1〜5と同様にして加水率170%のロースハムを常法に従い製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「マジックファット 700」(商品名、ミヨシ油脂(株)製粉末油脂)を使用した。得られたロースハムを厚さ5mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、視覚的な澱粉の偏在部分、粉末油脂の白色の偏在部分のないことを確認した。
【0099】
【表16】
Figure 0004272792
【0100】
【表17】
Figure 0004272792
【0101】
実施例16〜18
表18、表19に示す配合組成のピックル液を調整し、焼き豚を常法に従い製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下の「マジックファット 700」(商品名、ミヨシ油脂(株)製粉末油脂)を使用した。
【0102】
すなわち、豚背ロース肉100kgに対し、表18,表19に示す配合組成のピックル液を30kgインジェクトした。その後、16時間のタンブリングを行い、編み目のケーシングに詰め込みスモークハウス内にて、乾燥(65℃、30分 )、蒸煮(80℃、4時間 )、水冷(30分)を行い、更に水69.5kg、醤油15kg、デキストリン10kg、L−グルタミン酸ナトリウム0.5kg、味醂5.0kgにて調整した漬け込み液中で、90℃にて30分間加熱し焼き豚を製造した。
【0103】
得られた焼き豚を厚さ5mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、視覚的な澱粉の偏在部分、粉末油脂の白色系の偏在部分のないことを確認した。
【0104】
【表18】
Figure 0004272792
【0105】
【表19】
Figure 0004272792
【0106】
実施例19〜21
表20、表21に示す組成のピックル液を調整し、ローストビーフを常法に従い製造した。粉末油脂は、最大粒子径0.5mm以下のスプレークーラー油脂(油脂100%、商品名「スプレーファットNR−100」、理研ビタミン(株)製)を使用した。
【0107】
すなわち、牛のもも肉100kgに対し、表18,表20に示す配合組成のピックル液を30kgインジェクトした。その後、6時間のタンブリングを行い、肉塊表面に食塩および、粒胡椒を適宣に振りかけ、オーブン内にハンガーを用いて吊し、220℃にて20分間、さらに180℃にて120分間加熱しローストビーフを製造した。
【0108】
【表20】
Figure 0004272792
【0109】
【表21】
Figure 0004272792
【0110】
得られたローストビーフを厚さ5mmに切断し、切断面の澱粉の偏在部分を観察し、視覚的な澱粉の偏在部分、粉末油脂の白色系の偏在部分のないことを確認した。
【0111】
【発明の効果】
以上の結果から明らかなように、請求項1または2、請求項4または5に記載された本発明により、肉塊中の澱粉の偏在による視覚的な品質の劣化が防止された食肉加工品を製造することができる。
【0112】
また、請求項3または6に記載された本発明は、上記効果に加えピックル液中の水溶性澱粉の分散性を向上させインジェクション作業性を改善することができ、さらには、テクスチャーの改善された食肉加工品を製造することができる。

Claims (8)

  1. 常温で水不溶性の澱粉および粉末油脂を必須成分として含み、常温で水不溶性の澱粉と粉末油脂の比率が、澱粉100重量部に対して粉末油脂10〜15重量部であることを特徴とする食肉インジェクション用ピックル液組成物。
  2. さらに液体カードランおよび/または粉末カードランを含むことを特徴とする請求項1に記載の食肉インジェクション用ピックル液組成物。
  3. 液体カードランの濃度が3〜9%である、請求項2に記載の食肉インジェクション用ピックル液組成物。
  4. 粉末カードランの濃度が8%以下である、請求項2または3に記載の食肉インジェクション用ピックル液組成物。
  5. 常温で水不溶性の澱粉および粉末油脂を必須成分として含み、常温で水不溶性の澱粉と粉末油脂の比率が、澱粉100重量部に対して粉末油脂10〜15重量部であることを特徴とするピックル液を食肉にインジェクトし加工することを特徴とする食肉加工品の製造方法。
  6. ピックル液が液体カードランおよび/または粉末カードランにより粘度調整されたピックル液であることを特徴とする請求項に記載の食肉加工品の製造方法。
  7. 液体カードランの濃度が3〜9%である、請求項6に記載の食肉加工品の製造方法。
  8. 粉末カードランの濃度が8%以下である、請求項6または7に記載の食肉加工品の製造方法。
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