JP3942386B2 - アルカリ蓄電池用正極 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルカリ蓄電池用正極に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルカリ蓄電池は、繰り返し充放電可能な電池であり、多くのポータブル機器用電源に用いられている。特に、ニッケル水素蓄電池は、エネルギー密度が高く、環境にやさしいことから、広く用いられている。
【0003】
アルカリ蓄電池用のニッケル正極は、導電性金属支持体、活物質、および結着剤から構成されている。
導電性金属支持体には、発泡基板、パンチングシート、エキスパンドメタルなどが用いられている。
活物質には、アルカリ蓄電池に一般に用いられている水酸化ニッケルを主成分とする粉末、水酸化ニッケルの表面に水酸化コバルトがコートされた粉末、および水酸化ニッケルの表面にオキシ水酸化コバルトがコートされた粉末等が用いられている。
【0004】
結着剤には、特開平11−25962号公報で提案されているようにポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)のようなフッ素樹脂が用いられている。
結着剤は、活物質の支持体からの脱落や剥離を抑制し、活物質同士を結着させるために用いられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前者のフッ素樹脂からなる結着剤は、以下の問題を有する。
(1)活物質を含むペーストを集電体に塗着するプロセスにおいて、ペースト中のPTFEが、せん断力や温度条件によって、繊維化することがある。PTFEが繊維化すると、ペーストの粘度が増大するため、ペーストの流動性が低下し、ペーストの粘弾性(レオロジー)が不安定になる。また、ペーストを塗着した導電性支持体を圧延する際に、繊維の塊で支持体が切断されることがある。
【0006】
(2)金属との結着性に乏しいため、金属支持体に塗工・乾燥後のペーストが、金属支持体から脱落する傾向が強い。そのため、大電流放電の際の電池容量が低下する。
【0007】
(3)柔軟性に欠けるため、極板を捲回する時に、乾燥後のペーストに亀裂が生じやすい。亀裂がきっかけとなって活物質が金属支持体から脱落すると、充分な電池容量が得られなくなる。充放電反応によっても活物質が脱落するため、電池の充放電を繰り返すと電池容量が低下する。
【0008】
本発明は、導電性金属支持体と、活物質と、結着剤とからなり、前記結着剤が、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位との共重合体であるアルカリ蓄電池用正極に関する。前記共重合体は、テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位を含んでもよい。
【0009】
前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比は、3:7〜7:3である。
前記共重合体における前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位の全部または一部には、フッ素含有オレフィン単位を用いることができる。
【0010】
前記共重合体における前記フッ素含有オレフィン単位の含有率は、5モル%以下であることが好ましい。
前記共重合体のガラス転移温度は、20℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が20℃以下の共重合体を用いることにより、充分な柔軟性を有する正極板を得ることができる。
前記フッ素含有オレフィン単位は、フッ化ビニリデン単位であることが好ましい。
【0011】
pH13以上で80℃のアルカリ溶液中で、前記結着剤を1週間放置した後の重量増加率は、3%以下であることが好ましい。
前記正極に含まれる結着剤の量は、前記活物質100重量部あたり、0.1〜10重量部であることが好ましい。
前記結着剤は、粒子状であり、その平均粒径は、0.3μm以下であることが好ましい。
【0012】
前記導電性金属支持体には、発泡基板、パンチングシートまたはエキスパンドメタルを用いることができる。
本発明は、また、活物質および水系分散媒に分散してエマルジョンを形成している結着剤を混合してペーストを調製する工程、ならびに前記ペーストを導電性金属支持体に塗着する工程を有し、前記結着剤が、上記のような弾性共重合体であるアルカリ蓄電池用正極の製造法に関する。前記エマルジョンにおける前記結着剤の含有量は、0.1〜60重量%であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の正極の構成について説明する。
本発明の正極は、導電性金属支持体と、活物質層とを含む。また、活物質層は、活物質粉末と、結着剤とを含む。
【0014】
導電性支持体には、例えば、表面に錐状突起が形成された金属箔を用いることができる。金属箔には、例えば、電解ニッケル箔、無電解ニッケル箔、圧延ニッケル箔、表面にニッケルメッキを施した鉄箔を用いることができる。金属箔の厚さは、一般に20〜100μmである。また、導電性支持体には、発泡金属基板を用いることもできる。
【0015】
次に、結着剤について詳しく説明する。
本発明では、テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位を含む弾性共重合体を正極の結着剤として用いる。前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比は、3:7〜7:3である。
【0016】
前記共重合体は、さらに、テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外の少なくとも1種のオレフィン単位を含むことができる。前記オレフィン単位は、フッ素含有オレフィン単位であっても、普通の炭化水素系オレフィン単位であってもよい。ただし、前記共重合体における前記フッ素含有オレフィン単位の含有率は、共重合体の耐塩基性の観点から、15モル%以下であり、5モル%以下であることが好ましい。また、前記共重合体における普通の炭化水素系オレフィン単位の含有率は、50モル%以下であることが好ましい。
【0017】
フッ素含有オレフィンには、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、(パーフルオロブチル)エチレン、トリフルオロクロロエチレン等を用いることができる。また、フッ素含有アクリレート類を用いることもできる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
普通の炭化水素系オレフィンには、エチレン、プロピレン、ブテン等のα−オレフィン、アクリレート類等を用いることができる。
【0019】
前記共重合体は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の従来公知の重合方法により、製造することができる。また、これらの方法を採用すれば、共重合体の分子量の範囲を任意に調整することができる。
【0020】
前記共重合体は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等で製造される際に用いた水や分散媒に分散した状態や、ラテックス(エマルジョン)の状態で用いることができる。
【0021】
前記共重合体は、また、精製後の固体であってもよい。この場合、固体の共重合体を溶剤等に溶解または分散媒に分散させて用いることができる。その際の溶剤または分散媒の種類や使用量は特に限定されない。溶剤や分散媒は、用途や使用方法にあわせて適宜選択される。
【0022】
前記溶剤または分散媒には、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン、ナフサ等の炭化水素類、水等が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
結着剤となる前記共重合体としては、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体等のテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体等が好ましい。テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、耐塩基性が良好である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記共重合体の分子量は任意であるが、2千〜100万の分子量を有する共重合体が、その製造時の取り扱いが容易である点で好ましい。前記共重合体の分子量は、5万〜30万の範囲が最も好ましい。
【0025】
本発明では、特に、式:−(CF2−CF2)m−(CHCH3−CH2)nで表される共重合体(以下、共重合体Aという。)や、式:(CF2−CF2)l−(CHCH3−CH2)j−(CH2−CF2)kで表される共重合体(以下、共重合体Bという。)が好ましく用いられる。ここで、m:nおよびl:jは、それぞれ3:7〜7:3であり、(l+j):kは1:0〜0.95:0.05であることが好ましい。
【0026】
共重合体Aは、フッ化ビニリデン単位を含まず、共重合体Bも、限られた量のフッ化ビニリデン単位しか含まない。フッ化ビニリデンは耐アルカリ性が弱い為、その含有量がすくなければ、構造的に分解されにくく、電池性能の劣化も抑制される。
結着剤の比重は、一般に1.40〜1.70であり、好ましくは1.50〜1.60前後である。
【0027】
前記正極に含まれる結着剤の量は、前記活物質100重量部あたり、0.1〜10重量部であることが好ましい。なお、結着剤の最適量は、金属支持体の種類により異なる。金属支持体が、発泡基板のように、活物質の保持に適した構造を有する場合、結着剤の量が活物質100重量部あたり0.1〜1.0重量部でも、柔軟性と結着性に優れた正極を得ることができる。金属支持体が、パンチングシート、エキスパンドメタル、簡易的に3次元加工されたエキスパンドメタルの場合、正極に含まれる結着剤の量は、前記活物質100重量部あたり、2.0〜6.0重量部が最適である。
【0028】
活物質粉末には、アルカリ蓄電池に一般に用いられている水酸化ニッケルを主成分とする粉末、水酸化ニッケルの表面に水酸化コバルトがコートされた粉末、および水酸化ニッケルの表面にオキシ水酸化コバルトがコートされた粉末等を用いることができる。
【0029】
前記正極を用いれば、充放電サイクル特性が良好で、大電流放電時の放電容量が大きいアルカリ蓄電池を得ることができる。
【0030】
(実施の形態2)
実施の形態2では、ニッケル正極の製造方法について説明する。
本発明のアルカリ蓄電池用正極は、活物質、導電剤および結着剤を混合してペーストを得る第1の工程、ならびに前記ペーストを導電性金属支持体に塗着し、得られたペーストを有する支持体を乾燥し、圧延する第2の工程からなる製造法により作製することができる。
【0031】
(i)第1の工程
水酸化ニッケルを含む活物質粉末100重量部に、0.1〜10.0重量部の結着剤を混合して、ペーストを調製する。
前記結着剤は、水系分散媒を含むエマルジョンの形態で用いることが好ましい。エマルジョンを用いれば、活物質を含むペーストの調製が容易になる。この場合、エマルジョンにおける結着剤の含有量は、0.1〜60重量%であることが好ましい。エマルジョンの分散媒には、ラウリル酸ソーダなどの界面活性剤や、その他の重合に必要なものを含ませてもよい。
【0032】
(ii)第2の工程
次に、導電性金属支持体の表面に、上記ペーストを塗工する。次いで、ペーストを有する支持体を乾燥する。乾燥は、80〜120℃で、5〜20分間行うことが好ましい。次いで、ペーストを有する支持体を圧延して、活物質層を有する極板を形成する。その後、必要に応じて極板を切断すれば、所望の正極を得ることができる。正極には、必要に応じてリードの接続を行う。
【0033】
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の正極を含むアルカリ蓄電池について説明する。
アルカリ蓄電池は、開口部を有する電池ケースと、電池ケース内に収容された正極、負極およびセパレータからなる極板群と、アルカリ電解液と、電池ケースの開口部を封口する封口体とを有する。正極には、実施の形態1の正極を用いる。
【0034】
電池ケース、負極、セパレータ、およびアルカリ電解液には、以下のようにアルカリ蓄電池に一般的に用いられているものを用いることができる。
負極には、水素吸蔵合金を含む負極、カドミウムを含む負極を用いることができる。
セパレータには、表面をスルホン化したポリプロピレン製の不織布を用いることができる。
アルカリ電解液には、水酸化カリウムを主な溶質として含む比重1.3程度のアルカリ水溶液を用いることができる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
《実施例1》
正極活物質には、水酸化ニッケル固溶体粉末を用いた。水酸化ニッケル固溶体粉末は、以下の公知の方法を用いて作製した。
まず、硫酸ニッケルを主な溶質として含み、それぞれ所定量の硫酸コバルトと、硫酸亜鉛とを含む水溶液を準備した。この水溶液に、アンモニア水でpHを調整しながら、水酸化ナトリウムを徐々に滴下し、球状の水酸化ニッケル固溶体を析出させた。得られた水酸化ニッケル固溶体粉末は、水洗、乾燥した。この粉末の平均粒径を、レーザー回折式粒度計で測定したところ、10μmであった。また、BET法による比表面積は12m2/gであった。
【0036】
正極の導電剤には、水酸化コバルト微粒子を用いた。水酸化コバルト微粒子は、以下の公知の方法によって作製した。
まず、水酸化ナトリウム水溶液中に、1mol/リットルの硫酸コバルト水溶液を徐々に加え、水酸化コバルト微粒子(β型)を析出させた。この間、35℃で、水溶液のpHを12に維持しながら攪拌した。得られた微粒子の平均粒径をSEM像から求めたところ、0.2μmであった。また、BET法で測定した比表面積は25m2/gであった。
【0037】
次に、上記水酸化ニッケル固溶体粉末、水酸化コバルト微粒子、樹脂分1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液、および所定の結着剤を30重量%含む水性エマルジョンを用いて、正極用ペーストを調製した。
前記結着剤には、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とをモル比で55:45で含む弾性共重体を用いた。この共重合体の比重は1.55であった。
【0038】
正極用ペーストの作製は、以下の手順で行った。
まず、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部と、水酸化コバルト微粒子10質量部とを練合機内に投入し、攪拌羽根によって充分に混合した。続いて、混合を続けながらCMC溶液20重量部を練合機内に徐々に滴下した。さらに、練合機内に結着剤の水性エマルジョンを弾性共重合体成分で3.0重量部加えた。このようにして、活物質粉末と結着剤とを質量比100:3で含み、含水率が19.2重量%の正極用ペーストを得た。
【0039】
得られた正極用ペーストの粘弾性を、レオメータ(日本シイベルヘグナー社製)を用いて測定した。正極用ペーストの粘度ηは、ペーストに対するせん断速度γが0.1(1/sec)の時、500poise、せん断速度γが10(1/sec)の時、5poiseであった。
【0040】
一般に、金属支持体への正極用ペーストの塗工は、ダイコータなどを用いて定量的に行う。ダイコートのペーストの吐出部では、過度のせん断速度がペーストに加えられる。
しかし、上記正極用ペーストの粘度は、せん断速度が増すと下がる。従って、ダイコータの吐出部からのペーストの吐出が非常に円滑に進むと考えられる。
また、上記ペーストの粘度は、せん断速度が小さくなると上がる。従って、ペーストを塗着後の金属支持体を乾燥させる際、ペーストの支持体からの垂れが生じないと考えられる。
つまり、上記正極用ペーストは、一般的な塗工に非常に適した粘弾性を有すると言える。
【0041】
次いで、上記正極用ペーストのレオロジーの安定性を確認するために、せん断速度10(1/sec)で20分間、ペーストの粘弾性を測定した。その結果、粘度の変化は全く見られなかった。このことから、上記正極用ペーストの粘弾性は、その製造過程で、長時間、高いせん断力が加えられても経時的に変化しないと考えられる。従って、上記正極用ペーストは、優れた安定性を有すると言える。
【0042】
上記正極用ペーストは、厚さ25μmのニッケル箔からなる支持体に塗工した。前記支持体は3次元に加工されており、加工後の支持体の厚さは350μmである。
【0043】
ペーストが塗着された支持体は、110℃の熱風で10分間乾燥させた。乾燥させた極板は、ロールプレスで厚さ400μmに圧延した。このようにして、支持体と活物質層とをからなる極板を形成した。得られた極板は所定寸法に切断して正極板Aを得た。正極板Aにはリードを溶接した。
【0044】
《比較例1》
次に、従来の正極板を作製した。
まず、実施例1と同様の方法で、水酸化ニッケル固溶体粉末と水酸化コバルト微粒子とを作製した。次に、この水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部と、水酸化コバルト微粒子10重量部とを錬合機内に投入し、攪拌羽根によって充分に混合した。次いで、混合を続けながら水2.5重量部と前記CMC溶液20重量部とを錬合機内に徐々に滴下した。さらに、PTFEを60重量%含む水性エマルジョンを樹脂分で3重量部、練合機内に加えた。こうして比較例の正極用ペーストを得た。
【0045】
得られた正極用ペーストの粘弾性をレオメータ(日本シイベルヘグナー社製)を用いて測定した。比較例の正極用ペーストの粘度は、ペーストに対するせん断速度が0.1(1/sec)の時、500poiseであり、せん断速度が10(1/sec)の時、7poiseであった。この測定値のみから考えると、比較例の正極用ペーストは、塗工に適した粘弾性を有するといえる。しかし、比較例のペーストは、充分なレオロジーの安定性を有さなかった。
【0046】
比較例のペーストのレオロジーの安定性を確認するため、せん断速度10(1/sec)で20分間、ペーストの粘弾性を測定した。その結果、時間とともにペーストの粘度が著しく増加し、5分程度で測定限界を超えてしまった。これは、PTFEが高いせん断力を受けて、徐々に繊維状になり、その繊維が水酸化ニッケル固溶体粒子を取り囲んで塊を形成したためと考えられる。最終的にペーストの粘度が著しく上昇し、流動性を失ったものと考えられる。このことから、比較例の正極用ペーストのレオロジーは、その製造過程で経時的に変化しやすく、不安定であるといえる。
【0047】
比較例の正極用ペーストは、厚さ20μmのニッケル箔からなる支持体に塗工した。前記支持体は3次元に加工されており、加工後の支持体の厚さは350μmである。
【0048】
ペーストが塗着された支持体は、110℃の熱風で15分間乾燥させた。乾燥させた極板は、ロールプレスで厚さ400μmに圧延した。このようにして、支持体と活物質層とをからなる極板を形成した。得られた極板は所定寸法に切断して正極板Bを得た。正極板Bにはリードを溶接した。
【0049】
電池の作製と評価
(i)電池の作製
以上のように作製した正極板AおよびBを用い、AAAサイズで公称容量900mAhのニッケル水素蓄電池をそれぞれ作製した。このとき、水素吸蔵合金を主体として含む負極と、親水化処理を施したポリプロピレンセパレータと、8Nの水酸化カリウムを主な溶質として含むアルカリ電解液とを用いた。
以下、正極板Aを用いた電池をアルカリ蓄電池A、比較例の正極板Bを用いた電池をアルカリ蓄電池Bとする。
【0050】
(ii)正極活物質利用率の評価
まず、電池AおよびBに対して初充放電を2回繰り返した。充電は、0.1C(1C=900mA、10時間率)の充電レートで15時間行い、放電は、0.2Cの放電レートで4時間行った。次いで、45℃で3日間、電池のエージングを行い、負極合金を活性化させた。その後、条件を変えて、各電池の充放電を行い、正極AおよびBの活物質利用率を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
Figure 0003942386
【0052】
ここで、表1中の活物質利用率は、放電容量を、各電池の正極理論容量で割って、百分率で算出した。正極理論容量は、正極活物質中の水酸化ニッケルの重量に、これが1電子反応をするとしたときの電気容量289mAh/gを乗じて求めた。放電容量は、1Cの充電レートで120%過充電したのち、0.2C、1Cおよび2Cの放電レートで電池電圧が0.8Vになるまで放電することによって測定した。
【0053】
表1から、実施例の正極板Aを用いて作製したアルカリ蓄電池Aの正極活物質利用率は、比較例の正極板Bを用いたアルカリ蓄電池Bに比べて、高いことがわかる。これは、正極の結着剤に、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とを含む弾性共重合体を用いたことによって、正極板に優れた柔軟性が付与されているため、正極板と負極板とをセパレータを介して捲回して極板群を構成しても、活物質が導電性金属支持体から剥離しないと考えられる。活物質間の結着力についても同様のことが言える。結果として、集電力が高まり、正極活物質利用率が向上したものと推定される。
【0054】
(iii)充放電サイクル特性の評価
電池AおよびBを、1Cの充電レートで−ΔV(ΔV=0.01V)制御方式で充電した後、1Cの放電レートで電池電圧が0.8Vに至るまで放電する充放電サイクルを行った。そして、100、200および300サイクル目の放電容量を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
Figure 0003942386
【0056】
表2に示すように、本発明のアルカリ蓄電池Aでは、比較例のアルカリ蓄電池Bに比べて、サイクルの繰り返しによる容量低下が抑えられている。これは、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とを含む弾性共重合体を結着剤として用いたため、正極活物質間の結着性、および芯材と活物質との間の結着性が向上し、活物質の脱落が抑制されたものと考えられる。また、表2のような結果が得られたのは、本発明のアルカリ蓄電池Aでは、結着剤がアルカリ電解液で分解されていないためと考えられる。
【0057】
《実施例2》
結着剤を以下の結着剤に変えたこと以外、実施例1と同様に正極板C、DおよびEをそれぞれ作製した。そして、正極板C、DおよびEを用いて、実施例1と同様にアルカリ蓄電池C、DおよびEをそれぞれ作製した。
【0058】
正極板Cには、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とフッ化ビニリデン単位とを、モル比50:45:5で含む弾性共重体を用いた。
正極板Dには、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とフッ化ビニリデン単位とを、モル比50:40:10で含む弾性共重体を用いた。
正極板Eには、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とフッ化ビニリデン単位とを、モル比40:25:35で含む弾性共重体を用いた。
【0059】
電池C、DおよびEの充放電サイクル特性を実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
Figure 0003942386
【0061】
表3から、結着剤におけるフッ化ビニリデン単位の含有率は5モル%以下が好ましいことがわかる。
【0062】
《実施例3》
正極板における結着剤量のみを変更して、実施例1と同様の正極板F、G、H、IおよびJを、それぞれ作製した。そして、正極板F、G、H、IおよびJを用いて、実施例1と同様のアルカリ蓄電池F、G、H、IおよびJを、それぞれ作製した。
【0063】
正極板Fには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で0.1重量部含ませた。
正極板Gには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で1重量部含ませた。
正極板Hには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で5重量部含ませた。
正極板Iには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で10重量部含ませた。
正極板Jには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で15重量部含ませた。
【0064】
電池F、G、H、IおよびJの充放電サイクル特性を実施例1と同様に評価した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
Figure 0003942386
【0066】
表4から、正極への結着剤の添加量は、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、3〜10重量部が好ましいことがわかる。
【0067】
《実施例4》
金属支持体を発泡金属基板に変更し、さらに、正極板における結着剤量を変更して、実施例1と同様の正極板K、L、M、NおよびOを、それぞれ作製した。そして、正極板K、L、M、NおよびOを用いて、実施例1と同様のアルカリ蓄電池K、L、M、NおよびOを、それぞれ作製した。
【0068】
正極板Kには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で0.05重量部含ませた。
正極板Lには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で0.1重量部含ませた。
正極板Mには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で0.5重量部含ませた。
正極板Nには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で1重量部含ませた。
正極板Oには、実施例1で用いたのと同じ結着剤を、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、弾性共重合体成分で3重量部含ませた。
【0069】
電池K、L、M、NおよびOの充放電サイクル特性を実施例1と同様に評価した。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
Figure 0003942386
【0071】
表5から、発泡金属基板を用いる場合、正極への結着剤の添加量は、水酸化ニッケル固溶体粉末100重量部あたり、0.1〜3重量部が好ましいことがわかる。
以上、本発明を、実施例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施例に限定されない。本発明は、その技術的思想に基づき、他の実施形態にも適用することができる。
【0072】
【発明の効果】
本発明のアルカリ蓄電池用正極を用いれば、充放電サイクル特性が良好で、大電流放電時の放電容量が大きいアルカリ蓄電池を得ることができる。

Claims (11)

  1. 導電性金属支持体と、活物質および結着剤を含み前記支持体に塗着された活物質層とからなり、前記結着剤が、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位との弾性共重合体であり、
    前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比が、3:7〜7:3であアルカリ蓄電池用正極。
  2. 導電性金属支持体と、活物質および結着剤を含み前記支持体に塗着された活物質層とからなり、前記結着剤が、テトラフルオロエチレン単位と、プロピレン単位と、前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位との弾性共重合体であり、
    前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比が、3:7〜7:3であり、
    前記共重合体における前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位の含有率が15モル%以下であるアルカリ蓄電池用正極。
  3. 前記共重合体における前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位の全部または一部が、フッ素含有オレフィン単位である請求項記載のアルカリ蓄電池用正極。
  4. 前記共重合体における前記フッ素含有オレフィン単位の含有率が、5モル%以下である請求項記載のアルカリ蓄電池用正極。
  5. 前記フッ素含有オレフィン単位が、フッ化ビニリデン単位である請求項記載のアルカリ蓄電池用正極。
  6. 前記共重合体のガラス転移温度が、20℃以下である請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極。
  7. pH13以上で80℃のアルカリ溶液中で、前記結着剤を1週間放置した際の重量増加率が、3%以下である請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極。
  8. 前記正極に含まれる前記結着剤の量が、前記活物質100重量部あたり、0.1〜10重量部である請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極。
  9. 活物質および水系分散媒に分散してエマルジョンを形成している結着剤を混合してペーストを調製する工程、ならびに前記ペーストを導電性金属支持体に塗着する工程を有し、
    前記結着剤が、テトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位との弾性共重合体であり、
    前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比が、3:7〜7:3であアルカリ蓄電池用正極の製造法。
  10. 活物質および水系分散媒に分散してエマルジョンを形成している結着剤を混合してペーストを調製する工程、ならびに前記ペーストを導電性金属支持体に塗着する工程を有し、
    前記結着剤が、テトラフルオロエチレン単位と、プロピレン単位と、前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位との弾性共重合体であり、
    前記共重合体に含まれるテトラフルオロエチレン単位とプロピレン単位とのモル比が、3:7〜7:3であり、
    前記共重合体における前記テトラフルオロエチレン単位およびプロピレン単位以外のオレフィン単位の含有率が15モル%以下であるアルカリ蓄電池用正極の製造法。
  11. 前記エマルジョンにおける前記結着剤の含有率が、0.1〜60重量%である請求項9または10記載のアルカリ蓄電池用正極の製造法。
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