本発明は、アルカリ蓄電池に関する。
近年、アルカリ蓄電池は、ポータブル機器や携帯機器などの電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。このようなアルカリ蓄電池としては、様々のものが提案されているが、このうち、水酸化ニッケルを主体とした活物質からなる正極と、水素吸蔵合金を主成分とした負極と、水酸化カリウムなどを含むアルカリ電解液とを備えるニッケル水素二次電池は、エネルギー密度が高く、信頼性に優れた二次電池として急速に普及している。
ところで、ニッケル水素二次電池の正極は、電極の製法の違いによって、焼結式ニッケル電極とペースト式(非焼結式)ニッケル電極との2種類に大別される。このうち、焼結式ニッケル電極は、穿孔鋼板(パンチングメタル)の両面にニッケル微粉末を焼結した多孔性焼結基板の微細孔内に、溶液含浸法などによって、水酸化ニッケルを析出させて製作される。一方、ペースト式ニッケル電極は、高多孔度の発泡ニッケル多孔体基板(発泡ニッケル基板)の細孔内に、水酸化ニッケルを含む活物質を直接に充填して作製される。このペースト式ニッケル電極は、水酸化ニッケルの充填密度が高く、高エネルギー密度化が容易であるために、現在では、ニッケル水素蓄電池用正極の主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
特開昭62−15769号公報
特開2001−313038号公報
特開平8−321303号公報
ペースト式ニッケル電極に用いられる発泡ニッケル基板は、発砲ポリウレタンシートの樹脂骨格にニッケルめっきを施した後、樹脂骨格を焼失させることにより作製する。このような手法により、空隙率の高いニッケル基板を得ることができ、水酸化ニッケルの充填密度を高めることが可能となるが、樹脂骨格を焼失させる工程が必要なため、製造コストが高いという課題があった。また、発泡ニッケル基板の強度が弱いために、充放電の繰り返しによって、ニッケル電極(正極)が大きく膨張してしまう虞がある。具体的には、活物質に含まれる水酸化ニッケルは、充放電に伴い、結晶構造が変化し、大きく膨張してしまう傾向にある。従って、充放電に伴い、水酸化ニッケル粒子が大きく膨張すると、これにより、発泡ニッケル基板が大きく押し広げられるため、ニッケル電極が大きく膨張してしまう。そして、ニッケル電極が大きく膨張すると、セパレータが圧縮され、これに伴い、セパレータ内の電解液が減少し、内部抵抗の上昇や充放電効率の低下を引き起こす虞があった。
このような問題を解決するべく、近年、不織布などの樹脂骨格にニッケルめっきを施し、樹脂骨格を焼失させることなく作製したアルカリ蓄電池用正極基板(集電材)、及びこれを用いた正極が提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。
特許文献2では、不織布を親水化処理した後、これにニッケルめっきを施すことにより、ニッケルめっきの密着性が良好になることが開示されている。さらには、ニッケルめっきは、無電解めっき法により無電解ニッケルめっき膜を形成した後、さらに、その表面に、電解めっき法により電解ニッケルめっき膜を形成したものが好ましいと記載されている。これにより、集電性の高い正極基板を得ることができるとされている。しかしながら、本発明者が調査したところ、特許文献2のアルカリ蓄電池では、従来の発泡ニッケル基板を用いたアルカリ蓄電池と比較して、高率放電特性が大きく低下していた。
特許文献3では、不織布に交絡処理や熱処理を施した後、これにニッケルめっきを施して集電体(正極基板)を形成し、この正極基板に活物質を充填し乾燥させた後、ロール圧延を施して正極を作製することにより、強度特性に優れた正極を得ることができると記載されている。さらに、正極基板(集電材)における不織布の割合を、3〜10重量%と小さくする(換言すれば、ニッケルめっきの割合を90〜97重量%と大きくする)ことにより、正極基板の空隙率を大きく確保し、これにより、活物質の充填密度を高め、高容量の電池を得ることができることが開示されている。しかしながら、本発明者が調査したところ、特許文献3のアルカリ蓄電池(正極基板における不織布の割合を3〜10重量%とした)では、サイクル寿命特性が好ましくなかった。すなわち、充放電を繰り返すうちに、正極基板の集電性が大きく低下し、これにより電池の充放電効率が大きく低下してしまった。
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、安価で、且つ、高率放電特性が良好で、しかも、サイクル寿命特性が良好なアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
その解決手段は、樹脂からなり三次元網状構造を有する樹脂骨格と、ニッケルからなり上記樹脂骨格を被覆するニッケル被覆層とを備え、複数の孔が三次元に連結した空隙部を有する正極基板と、水酸化ニッケル粒子を含む正極活物質であって、上記正極基板の上記空隙部内に充填された正極活物質と、を備え、上記ニッケル被覆層の平均厚みは、0.5μm以上5μm以下であり、上記正極基板の上記空隙部内には、上記正極活物質に加えて、金属コバルト、及びβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを含み、前記金属コバルトを、前記正極活物質の100重量部に対し、2〜10重量部の割合で含むアルカリ蓄電池用正極を有するアルカリ蓄電池である。
本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極に、樹脂骨格と、これを被覆するニッケル被覆層とを有する正極基板を用いている。すなわち、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、従来焼失させていた樹脂骨格を、基板中に残存させるようにしている。これにより、樹脂骨格を焼失させる手間を省くことができるので、安価となる。
さらには、樹脂骨格を残存させることにより、正極基板を強固にすることができる。従来、発泡ニッケルを正極基板として用いる場合には、発泡ニッケル骨格の強度が低いため、充放電の繰り返しに伴い、膨張し変形してしまうことがあった。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池は、アルカリ蓄電池用正極について、樹脂骨格を残存させているため強固となり、充放電の繰り返しに伴う膨張変形を抑制することができる。これにより、アルカリ蓄電池用正極の寿命を長くしたアルカリ蓄電池とすることができる。
ところで、従来は、発砲ポリウレタンなどの樹脂骨格を残存させておくと、充放電特性等の電池特性が低下してしまうため、発砲ポリウレタンなどの樹脂骨格を焼失させていた。これに対し、本発明では、以下のように調整することで、基板中に樹脂骨格を残存させても、アルカリ蓄電池用正極として適切な特性を得たアルカリ蓄電池とすることができる。
具体的には、本発明のアルカリ蓄電池では、ニッケル被覆層の平均厚みを、0.5μm以上5μm以下としている。ニッケル被覆層の平均厚みを5μm以下とすることで、長期間にわたり、正極基板の集電性を良好とすることが可能となる。樹脂骨格を有する正極基板では、骨格をなす樹脂と、これを被覆するニッケル被覆層との物性(伸び率、強度など)が大きく異なるため、充放電の繰り返しにより、ニッケル被覆層が剥離してしまう虞があった。そこで、本発明者が検討したところ、ニッケル被覆層の平均厚みを5μm以下とすることにより、両者の密着性が良好となり、長期間にわたり、ニッケル被覆層の剥離を抑制できることがわかった。
ところで、従来の発泡ニッケル基板を用いた正極では、集電基板として使用可能な強度を確保するために、少なくとも、ニッケル骨格の平均厚みを5μmより大きくしていた。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池に用いたアルカリ蓄電池用正極では、正極基板のニッケル被覆層の平均厚みを5μm以下にできるため、発泡ニッケル基板を用いた正極と比較して、ニッケル量を低減することができるので、安価となる。
また、ニッケル被覆層の厚みは、薄くするほどコストを削減できるので好ましいが、薄くし過ぎると、正極基板の集電性が大きく低下してしまう。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池に用いたアルカリ蓄電池用正極では、ニッケル被覆層の平均厚みを0.5μm以上とすることで、正極基板に必要な集電性を確保することができ、適切に、充放電を行うことができる。
従って、ニッケル被覆層の平均厚みを、0.5μm以上5μm以下とすることにより、電池のサイクル寿命特性を良好にすることが可能となる。
ところで、本発明のアルカリ蓄電池に用いたアルカリ蓄電池用正極のように、正極基板に樹脂骨格を残存させ、しかも、正極基板のニッケル被覆層の平均厚みを5μm以下に薄くした場合には、正極基板自身の電気抵抗は、従来の発泡ニッケル基板に比べて大きくなる傾向にある。このため、従来の発泡ニッケル基板を用いた場合と比較して、特に、電池の高率放電特性が低下してしまう虞がある。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、正極活物質に加えて、金属コバルトを含有させている。金属コバルトは導電性が高いため、これを含有させることにより、良好な導電性ネットワークを形成することができ、高率放電特性を良好とすることが可能となる。
また、本発明のアルカリ蓄電池に用いたアルカリ蓄電池用正極のように、正極基板に樹脂骨格を残存させる場合には、正極基板の製造過程において、ニッケルめっきを施した樹脂基板を、高温で焼鈍すことが困難となる。このため、ニッケルの結晶を十分に成長させることができず、ニッケルの結晶サイズが小さくなってしまう。ニッケルの結晶サイズが小さい場合には、充電時の末期に副反応として生じる酸素の影響で、ニッケルの腐食(酸化による不働態化)が進行しやすくなる傾向がある。このため、充放電を繰り返すと、ニッケルの腐食が進行してゆき、正極基板の集電性の低下や、電解液の減少・枯渇などの不具合が生じ、サイクル寿命特性が著しく低下してしまう虞があった。
これに対し、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、金属コバルトに加え、さらに、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを含有させている。本発明者が調査したところ、金属コバルトとβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトとを含有させることにより、充電時の酸素発生過電圧を高めることができることが判明した。これにより、充電時における酸素発生反応を抑制し、ニッケルの腐食(酸化による不働態化)を抑制することができる。従って、本発明のアルカリ蓄電池を用いることにより、電池のサイクル寿命特性を良好とすることが可能となる。
以上より、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、金属コバルト、及びβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを含有させることにより、電池の高率放電特性及びサイクル寿命特性を、共に良好とすることが可能となる。
なお、本発明者が調査した結果、金属コバルト、及びβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、それぞれ単独で含有させた場合は、充電時の酸素発生過電圧を高めることができないことがわかっている。
さらに、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、金属コバルトを、正極活物質の100重量部に対し、2重量部以上含有させているため、優れた集電性を得ることができる。従って、本発明のアルカリ蓄電池を用いることにより、高率放電特性に優れたアルカリ蓄電池を得ることが可能となる。また、正極活物質の100重量部に対し、10重量部以下に制限することにより、正極活物質(水酸化ニッケル)の充填量の低下を抑制し、正極のエネルギー密度の低下を抑制することができる。
本発明のアルカリ蓄電池では、樹脂骨格を有する正極基板を用いているため、正極基板ひいては正極が強固となる。従って、正極(正極基板)の耐久性が向上するので、アルカリ蓄電池の寿命を向上させることができる。また、樹脂骨格を焼失させる手間を省くことができるので、安価となる。
さらに、この正極基板では、ニッケル被覆層の平均厚みを0.5μm以上5μm以下としている。これにより、長期間にわたり、ニッケル被覆層の剥離を抑制し、充放電を適切に行うことができる。すなわち、電池のサイクル寿命特性を良好にすることができる。その上、正極活物質に加えて、金属コバルト、及びβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、正極に含有させている。これらを含有させた正極を用いることにより、高率放電特性及びサイクル寿命特性を、共に良好とすることが可能となる。
さらに、上記のアルカリ蓄電池であって、前記正極基板に占める前記ニッケル被覆層の割合は、30重量%以上80重量%以下であるアルカリ蓄電池であると良い。
樹脂骨格を有する正極基板では、前述のように、ニッケル被覆層の平均厚みを0.5μm以上5μm以下としても、正極基板に占める樹脂骨格の割合を大きくし過ぎた場合には、正極基板自身の電気抵抗が大きくなってしまう。このため、正極基板の集電性が低下し、ひいては電池の充放電効率が低下してしまう虞がある。そこで、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を、30重量%以上80重量%以下とした(換言すれば、樹脂骨格の割合を20重量%以上70重量%以下とした)。正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を30重量%以上とすることにより、正極基板の電気抵抗を小さくすることができ、集電性を良好にすることができる。
また、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を多くするほど、電気抵抗を小さくできるので好ましいが、ニッケルの割合を多くするということは、換言すれば、樹脂骨格の割合を少なくする(樹脂骨格を細くする)ことになる。従って、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を多くし過ぎる(具体的には、80重量%を上回る)と、正極基板自身の強度が大きく低下してしまい、ニッケル被覆層に亀裂が発生するなどの不具合が生じ、これにより集電性が大きく低下してしまう虞がある。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池用正極では、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を80重量%以下に制限しているため、ニッケル被覆層に亀裂が発生するなどの不具合が生じる虞がなく、集電性を良好とすることができる。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記樹脂骨格は、発泡樹脂、不織布、及び織布のいずれかであるアルカリ蓄電池であると良い。
発泡樹脂、不織布、及び織布は、いずれも、三次元網状構造をなし、複数の孔が三次元に連結した空隙部を有している。しかも、空隙部の大きさ(孔径)を所定の大きさに調整することが比較的容易である。従って、発泡樹脂、不織布、及び織布のいずれかを樹脂骨格として用いることにより、所定量の正極活物質を適切に充填することが可能となる。このうち、不織布及び織布は、その繊維の太さや本数を調整することにより空隙部の大きさ(孔径)を自由に調整できるため、特に、空隙部の大きさ(孔径)の調整が容易となるので好ましい。
さらに、上記のアルカリ蓄電池であって、前記樹脂骨格は、不織布であるアルカリ蓄電池であると良い。
不織布は、その繊維の太さや本数を調整することにより空隙部の大きさ(孔径)を自由に調整できるため、特に、空隙部の大きさ(孔径)の調整が容易となるので好ましい。また、接着繊維(低軟化温度の繊維)の割合を調整することで、容易に、繊維同士の接着強度を調整することができる点においても好ましい。また、太い繊維と細い繊維とを組み合わせることで、様々な用途に適合するアルカリ蓄電池用正極を得ることが可能となる。具体的には、太い繊維の割合を多くすることで樹脂骨格の強度を高めることができ、一方、細い繊維の割合を多くすることで、活物質などの電極材料の保持性を高める(脱落を防止する)ことができ、さらには、電極中の樹脂骨格と電極材料との密着性を高めることができる。従って、太い繊維と細い繊維との割合を調整することで、用途に適合する所望の電極を得ることが可能となる。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記樹脂骨格は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、及びポリテトラフルオロエチレンから選択した少なくとも1種類の樹脂からなるアルカリ蓄電池であると良い。
本発明のアルカリ蓄電池では、前述のように、樹脂骨格をニッケル被覆層によって被覆するため、樹脂骨格が露出する可能性は低いが、大きな基板を切断して複数の正極基板を製造する場合には、切断面から樹脂骨格が露出する可能性がある。樹脂骨格が露出した正極(正極基板)をアルカリ蓄電池に用いる場合には、電解液が樹脂骨格に触れるため、樹脂骨格の耐アルカリ性が要求される。
これに対し、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、及びポリテトラフルオロエチレンから選択した少なくとも1種類の樹脂により、正極基板の樹脂骨格を形成している。これらの樹脂は耐アルカリ性に優れているため、仮に、樹脂骨格が露出していたとしても、アルカリ電解液の影響を受けることがない。従って、本発明のアルカリ蓄電池は、アルカリ蓄電池用正極について、アルカリ電解液の影響で、強度が低下する等の不具合が生じる虞がない。
なお、樹脂骨格は、上記の樹脂のうち1種のみによって形成しても良いし、2種以上の樹脂を混合(例えば、2種以上の材質の異なる繊維によって不織布を作製)して形成しても良い。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、前記正極活物質の100重量部に対し、2〜10重量部の割合で含むアルカリ蓄電池であると良い。
本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、正極活物質の100重量部に対し、2重量部以上含有させているため、充電時の酸素発生過電圧を、大きく上昇させることができる。従って、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極を用いることにより、サイクル寿命特性に優れたアルカリ蓄電池を得ることが可能となる。また、正極活物質の100重量部に対し、10重量部以下に制限することにより、正極活物質(水酸化ニッケル)の充填量の低下を抑制し、正極のエネルギー密度の低下を抑制することができる。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトは、前記正極活物質の表面を被覆してなるアルカリ蓄電池であると良い。
本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、正極活物質の表面に被覆させている。これにより、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを、正極内で均一に分散させることができるので、充電時の酸素発生過電圧がより一層高まり、ニッケルの腐食をより一層抑制することが可能となる。従って、電池のサイクル寿命特性を、より一層良好とすることが可能となる。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトに含まれるコバルトの平均価数は、2.6価以上3.0価以下であるアルカリ蓄電池用正極であると良い。
β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトに含まれるコバルトの平均価数を2.6価以上とすることにより、より一層、充電時の酸素発生過電圧を高めることができる。これにより、ニッケルの腐食を抑制し、電池のサイクル寿命特性を、さらに良好とすることができる。
ところで、コバルトの平均価数が3.0価よりも大きい場合には、オキシ水酸化コバルトの結晶中の電荷のバランスが崩れ、β型の結晶構造からγ型の結晶構造に転移しやすくなる。γ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトは、酸化力が強いため(自身は還元されやすく)、正極に含有させた金属コバルトを酸化してしまう。これにより、正極内部の導電性ネットワークの形成が妨げられ、活物質利用率が大きく低下してしまう虞がある。これに対し、本発明のアルカリ蓄電池用正極では、コバルトの平均価数を3.0価以下としているため、オキシ水酸化コバルトの結晶構造をβ型に保つことができ、上記のような不具合が生じる虞がない。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記正極活物質は、亜鉛及びマグネシウムの少なくともいずれかを、前記水酸化ニッケル粒子の結晶内に固溶状態で含むアルカリ蓄電池であると良い。
本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、正極基板が樹脂骨格を有している。このような正極基板では、骨格をなす樹脂と、これを被覆するニッケル被覆層との物性(伸び率、強度など)が大きく異なるため、正極基板の膨張・収縮により、ニッケル被覆層に亀裂が生じたり、ニッケル被覆層が剥離してしまう虞がある。従って、このような不具合を避けるためには、正極基板の膨張・収縮をできる限り抑制することが好ましい。
ところで、水酸化ニッケルの結晶は、充放電に伴い、結晶構造が変化し、大きく膨張してしまう傾向にある。従って、正極基板の空隙部内に充填されている正極活物質に含まれる水酸化ニッケル粒子が、充放電に伴い大きく膨張すると、これにより、正極基板が押し広げられて大きく膨張してしまう。このために、上述のように、正極基板のニッケル被覆層に亀裂が生じたり、ニッケル被覆層が剥離してしまうことがある。
これに対し、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、正極活物質が、亜鉛及びマグネシウムの少なくともいずれかを、水酸化ニッケル粒子内に固溶状態で含んでいる。亜鉛及びマグネシウムを水酸化ニッケル結晶内に固溶状態で含有させることにより、充放電に伴う結晶構造の変化を抑制することができ、ひいては、充放電に伴う結晶の膨張を抑制することができる。これにより、充放電に伴う正極基板の膨張を抑制することができるので、ニッケル被覆層に亀裂・剥離が生じてしまう虞を小さくできる。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記正極基板の前記空隙部内には、前記正極活物質に加えて、酸化イットリウム及び酸化亜鉛の少なくともいずれかを含むアルカリ蓄電池であると良い。
アルカリ蓄電池用正極では、充電時の末期に、副反応として、酸素発生反応が進行する。特に、高温状態においては、酸素発生反応が進行し易くなるので、これにより、主反応である水酸化ニッケルの反応が阻害され、その結果、活物質の利用率が低下することにより、充電効率が低下してしまうことが知られている。本発明者が調査したところ、樹脂骨格を有する正極基板を用いる場合には、発泡ニッケル基板を用いる場合と比較して、高温状態における電池の充電効率が、若干低下してしまうことが判明した。
そこで、本発明のアルカリ蓄電池では、アルカリ蓄電池用正極について、正極活物質の他に、酸化イットリウム及び酸化亜鉛の少なくともいずれかを含有させることにした。これにより、酸素発生過電圧を高めることができるので、高温状態においても、充電末期の酸素発生反応を抑制し、充電効率を良好とすることが可能となる。
なお、酸化イットリウム及び酸化亜鉛の両者を含有させれば、より一層、酸素発生過電圧を高めることができ、優れた充電効率を得ることができるので好ましい。
さらに、上記いずれかのアルカリ蓄電池であって、前記ニッケル被覆層は、電気めっき法、無電解めっき法、及び気相蒸着法のいずれかの手法により、前記樹脂骨格の表面に形成されてなるアルカリ蓄電池であると良い。
本発明のアルカリ蓄電池では、ニッケル被覆層を、電気めっき法、無電解めっき法、及び気相蒸着法のいずれかの手法により、樹脂骨格の表面に形成している。上記いずれかの手法により形成したニッケル被覆層は、樹脂骨格の表面を均一に被覆することができるので、集電性を良好にすることができ、ひいては、電池の高率放電特性を良好にすることができる。
次に、本発明の実施形態について説明する。
(ステップ1:ニッケル被覆樹脂基板の作製)
まず、ポリプロピレン繊維と、芯鞘型複合繊維(芯がポリプロピレンで、鞘がポリエチレンからなる繊維)との混合繊維からなる不織布を用意する。次いで、この不織布について、公知の発煙硫酸によるスルホン化親水処理を施し、スルホン化不織布を得た。なお、本実施例1で用いた不織布は、一般的な湿式製法により製作されたもので、目付が100g/m2、厚みが1mmである。
次いで、スルホン化不織布に、塩化錫を含む水溶液と、塩化パラジウムを含む水溶液とを循環させて、触媒化を行った。その後、触媒化を行ったスルホン化不織布を、硫酸ニッケル、クエン酸ナトリウム、還元剤として水和ヒドラジン、及びpH調整剤としてアンモニアを含むニッケルめっき液に浸漬させた状態で、ニッケルめっき液を80℃に加熱しつつ、循環させた。このようにして、スルホン化不織布にニッケル無電解めっきを行った。なお、ニッケルめっき液の各組成濃度及び浸漬時間は、めっき後の基板に占めるニッケルめっき重量の割合が57重量%となるように調整している。
次いで、めっき液がほぼ透明となった後、ニッケル被覆層を施した基板を水洗し、その後乾燥させた。このようにして、スルホン化不織布からなる樹脂骨格と、これを被覆するニッケル被覆層とを備え、複数の孔が三次元に連結した空隙部を有するニッケル被覆樹脂基板を得ることができた。このとき、実際に得られたニッケル被覆樹脂基板の重量変化から計算した、ニッケル被覆樹脂基板全体に占めるニッケル被覆層の割合は、55重量%であった。また、SEM(走査型電子顕微鏡)により、ニッケル被覆樹脂基板の破断面の拡大像を観察して、ニッケル被覆層の平均厚みを調査したところ、2μmであった。
(ステップ2:正極活物質の製作)
次に、正極活物質を製作した。具体的には、まず、硫酸ニッケルと硫酸マグネシウムを含む混合液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液を用意し、それぞれを、50℃に保持された反応装置内に、一定流量で連続的に供給した。なお、硫酸ニッケルと硫酸マグネシウムを含む混合液は、硫酸ニッケルと硫酸マグネシウムの混合比が、ニッケルとマグネシウムの総モル数に対するマグネシウムのモル数が5モル%となるように調整している。
次いで、反応槽内のpHが12.5で一定となり、金属塩濃度と金属水酸化物粒子濃度とのバランスが一定となって、定常状態に達した後、反応槽内からオーバーフローにより懸濁液を採取し、デカンテーションにより沈殿物を分離した。その後、この沈殿物を水洗し、乾燥することにより、平均粒径10μmの水酸化ニッケル粉末を得ることができた。
得られた水酸化ニッケル粉末について、ICP発光分析により組成分析を行ったところ、水酸化ニッケル粒子に含まれる全ての金属元素(ニッケルとマグネシウム)に対するマグネシウムの割合は、合成に用いた混合液と同様に、5モル%であった。また、CuKα線を用いたX線回折パターンを記録したところ、この粒子は、β型のNi(OH)2であることが確認された。また、不純物の存在を示すピークが観察されなかったことから、マグネシウムが水酸化ニッケルの結晶に固溶していることが確認できた。
(ステップ3:β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトの製作)
次に、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト(以下、β−CoOOHとも表記する)を製作した。まず、硫酸コバルト水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニア水溶液を、それぞれ、反応槽内に、一定流量で連続的に供給した。次いで、反応槽内の水溶液中に、一定流量で空気を供給すると共に、連続的に水溶液を攪拌することで、水溶液に含まれるコバルトの酸化を促した。次いで、反応槽内からオーバーフローにより懸濁液を採取し、デカンテーションにより沈殿物を分離した。その後、この沈殿物を水洗し、乾燥することにより、平均粒径3μmの粉末を得ることができた。
次いで、得られた粉末について、CuKα線を使用するX線回折測定を行い、その結晶構造を調査した。X線回折パターンを調査したところ、β型のオキシ水酸化コバルトに帰属するピークを確認することができた。この結果より、得られた粉末は、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト(β−CoOOH)であることがわかった。
また、このβ−CoOOH粉末について、ICP発光分析、及び酸化還元滴定を行い、これらの結果に基づいて、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数を算出したところ、2.95価であった。
(ステップ4:ニッケル正極の製作)
次に、ニッケル正極を作製した。具体的には、まず、ステップ2で得られた正極活物質粉末と、ステップ3で得られたβ−CoOOH粉末と、金属コバルト粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化亜鉛粉末とを混合し、これに水を加え、混練することにより、ペースト状にした。なお、金属コバルト粉末及びβ−CoOOH粉末は、それぞれ、正極活物質の100重量部に対し4重量部の割合で添加している。また、酸化イットリウム粉末及び酸化亜鉛粉末は、それぞれ、正極活物質の100重量部に対し1重量部の割合で添加している。
このペーストを、ステップ1で得られたニッケル被覆樹脂基板に充填し、乾燥した後、加圧成形することにより、ニッケル正極板を製作した。なお、ペーストを充填する前に、ニッケル被覆樹脂基板のうち後に電極リードを溶接する部分を圧延することで、空隙部の無いリード溶接部を形成している。このリード溶接部には、空隙部が存在しないため、ペーストが充填されることがない。
次いで、このニッケル正極板を所定の大きさに切断した後、超音波溶接により、リード溶接部に電極リードを接合した。このようにして、理論容量1300mAhのニッケル正極を得ることができた。なお、ニッケル正極の理論容量は、活物質中のニッケルが一電子反応をするものとして計算している。また、本実施例1では、リード溶接部(正極活物質が充填されていない部分)は、ニッケル正極には含めないものとする。また、ニッケル正極に含まれるニッケル被覆樹脂基板を、正極基板とする。従って、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合は、ニッケル被覆樹脂基板に占める割合と同様に、55重量%となる。
また、ニッケル正極から、正極活物質粉末、金属コバルト粉末、β−CoOOH粉末、酸化イットリウム粉末、及び酸化亜鉛粉末を取り除き、水銀ポロシメータ(島津製作所社製、オートポアIII9410)により正極基板の孔径分布を測定した。この孔径分布に基づいて、本実施例1の正極基板の平均孔径を算出したところ、30μmであった。
(ステップ5:アルカリ蓄電池の製作)
次に、公知の手法により、水素吸蔵合金を含む負極を製作した。具体的には、粒径約30μmの水素吸蔵合金MmNi3.55Co0.75Mn0.4Al0.3粉末を用意し、これに水と結合剤としてカルボキシメチルセルロースを加え、混練してペースト状にした。このペーストを電極支持体に加圧充填し、水素吸蔵合金負極板を製作した。この水素吸蔵合金負極板を所定の大きさに切断し、容量2000mAhの負極を得た。
次いで、この負極と上記のニッケル正極とを、厚さ0.15mmのスルホン化ポリプロピレン不織布からなるセパレータを間に介して捲回し、渦巻状の電極群を形成した。次いで、別途用意した金属からなる有底円筒形状の電槽内に、この電極群を挿入し、さらに、7モル/lの水酸化カリウム水溶液を2.2ml注液した。その後、作動圧2.0MPaの安全弁を備える封口板により、電槽の開口部を密閉し、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。
本実施例2のアルカリ蓄電池は、実施例1のアルカリ蓄電池と比較して、ニッケル正極が異なり、その他については同様である。詳細には、両者とも、ニッケル正極にβ−CoOOHを含有させている点では同じであるが、β−CoOOHを含有させる形態が異なる。以下、実施例1と異なる点を中心に、詳細に説明する。
まず、ステップ1及びステップ2において、実施例1と同様に、ニッケル被覆樹脂基板、及び正極活物質(水酸化ニッケル粒子)を作製する。
次に、ステップ3において、実施例1とは異なり、正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の表面にβ−CoOOHを被覆させた、β−CoOOH被覆正極活物質を作製した。
具体的には、まず、ステップ2で得られた正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の水溶液(懸濁液)を作製する。次いで、この水溶液(懸濁液)中に、硫酸コバルト水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及びアンモニア水溶液を供給すると共に、空気を供給した。このようにして、水酸化ニッケル粒子の表面に、オキシ水酸化コバルトを析出させ、オキシ水酸化コバルト被覆正極活物質(オキシ水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子)を得た。なお、本実施例2では、オキシ水酸化コバルトの被覆量が、正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の100重量部に対し、4重量部の割合となるように調整した。その後、得られたオキシ水酸化コバルト被覆正極活物質を水洗し、乾燥させた。このようにして、平均粒径10μmのオキシ水酸化コバルト被覆正極活物質を得ることができた。
次いで、得られたオキシ水酸化コバルト被覆正極活物質について、ICP発光分析、及び酸化還元滴定を行い、これらの結果に基づいて、オキシ水酸化コバルトの被覆層に含まれるコバルトの平均価数を算出したところ、2.92価であった。
また、CuKα線を使用するX線回折測定を行い、被覆層をなすオキシ水酸化コバルトの結晶構造を調査した。オキシ水酸化コバルト被覆正極活物質について、X線回折パターンを調査したところ、β型の水酸化ニッケルに帰属するピークと、β型のオキシ水酸化コバルトに帰属するピークとを確認することができた。この結果より、被覆層をなすオキシ水酸化コバルトは、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト(β−CoOOH)であることがわかった。
次に、ステップ4において、実施例1と異なり、β−CoOOH粉末を別途添加することなく、上記のように、β−CoOOHを正極活物質(水酸化ニッケル粒子)に被覆させた形態(すなわち、β−CoOOH被覆正極活物質)で加えた。
上記の他は、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、本実施例2でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとしている。また、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合は、実施例1と同様に、55重量%としている。
(比較例1)
次に、前述した実施例1と比較して、正極基板が異なるアルカリ蓄電池(比較例1)を作製した。具体的には、ステップ1において、発砲ポリウレタンシートの樹脂骨格にニッケルめっきを施した後、樹脂骨格を焼失させることにより、発泡ニッケル基板を作製した。なお、この発泡ニッケル基板のニッケル骨格の平均厚みは、5.5μmであった。その後、実施例1のステップ2〜4と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、本比較例1でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとした。
(比較例2)
次に、前述した実施例1と比較して、ニッケル正極が異なるアルカリ蓄電池(比較例2)を作製した。具体的には、ステップ4において、実施例1で加えた金属コバルト粉末及びβ−CoOOH粉末に代えて、一酸化コバルト粉末を加えた。なお、一酸化コバルト粉末の添加量は、実施例1の金属コバルト粉末及びβ−CoOOH粉末の添加量と等しくなるように、正極活物質の100重量部に対し8重量部の割合とした。その他は、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、本比較例2でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとした。
(比較例3)
さらに、実施例1と比較して、ニッケル正極が異なるアルカリ蓄電池(比較例3)を作製した。具体的には、ステップ4において、金属コバルト粉末を加えることなく、β−CoOOH粉末を、正極活物質の100重量部に対し8重量部の割合で添加した。その他は、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、本比較例3でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとしている。
(比較例4)
さらに、実施例1と比較して、ニッケル正極が異なるアルカリ蓄電池(比較例4)を作製した。具体的には、ステップ4において、β−CoOOH粉末を加えることなく、金属コバルト粉末を、正極活物質の100重量部に対し8重量部の割合で添加した。その他は、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。なお、本比較例4でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとしている。
(電池特性の評価)
次に、実施例1,2及び比較例1〜4のアルカリ蓄電池について、特性評価を行った。
まず、初期充放電サイクル後の充放電効率を評価した。具体的には、それぞれの電池について、20℃において0.1Cの電流で15時間充電し、その後、0.2Cの電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電する充放電サイクルを、放電容量が安定するまで繰り返し行った。次いで、放電容量が安定した後、20℃において、1Cの電流で1.2時間充電し、その後1Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電した。このときの放電容量に基づき、それぞれの電池について、活物質利用率Aを算出した。なお、実施例1,2及び比較例1〜4のアルカリ蓄電池では、理論容量が1300mAhであるため、1C=1.3Aとなる。
続いて、20℃において、1Cの電流で1.2時間充電した後、今度は、5Cの電流で電池電圧が0.6Vになるまで放電した。このときの放電容量に基づき、それぞれの電池について、活物質利用率Bを算出した。具体的には、正極の理論容量1300mAhに対する放電容量の割合を示している。さらに、それぞれの電池の高率放電特性を示す指標として、活物質利用率Aに対する活物質利用率Bの比率(B/A)×100(%)を算出した(以下、この値を高率放電特性値とも言う)。
次いで、60℃の高温において、1Cの電流で1.2時間充電し、その後、20℃において、1Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電した。このときの放電容量に基づき、それぞれの電池について、活物質利用率Cを算出した。さらに、それぞれの電池の高温充電特性を示す指標として、活物質利用率Aに対する活物質利用率Cの比率(C/A)×100(%)を算出した(以下、この値を高温充電特性値とも言う)。
次に、長期充放電サイクル後の充放電効率を評価した。具体的には、それぞれの電池について、20℃において1Cの電流で1.2時間充電し、その後、1Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電する充放電サイクルを、1000サイクル行った。そして、1000サイクル目の放電容量に基づき、それぞれの電池について、活物質利用率Dを算出した。この算出結果に基づき、それぞれの電池のサイクル寿命特性を示す指標として、活物質利用率Aに対する活物質利用率Dの比率(D/A)×100(%)を算出した(以下、この値をサイクル寿命特性値とも言う)。
なお、活物質利用率A〜Dは、いずれも、活物質中のニッケルが一電子反応したときの理論電気量に対して算出している。これらの特性評価の結果を表1に示す。
ここで、それぞれの電池について、特性評価の結果を比較検討する。
まず、高率放電特性値(B/A)×100(%)について比較する。実施例1,2及び比較例1,4のアルカリ蓄電池では、高率放電特性値が94%程度の高い値を示し、いずれも、高率放電特性に優れていた。これに対し、比較例2のアルカリ蓄電池では、高率放電特性値が91.2%となり、他の電池に比して、高率放電特性が劣っていた。さらに、比較例3のアルカリ蓄電池では、高率放電特性値が87.3%となり、他の電池に比して、高率放電特性がかなり劣っていた。これは、実施例1,2及び比較例1,4のアルカリ蓄電池では、ニッケル正極に、導電性の高い金属コバルトを含有させているのに対し、比較例2,3のアルカリ蓄電池では、金属コバルトを含有させることなく、導電性の低い一酸化コバルト,β−CoOOHを含有させたたためと考えられる。
ところで、従来より、発泡ニッケル基板を用いたニッケル正極に、導電性の低い一酸化コバルトを含有させたアルカリ蓄電池が知られているが、この従来の電池では、導電性の高い金属コバルトを含有させたものと、同程度の高率放電特性を得ることができた。これは、発泡ニッケル基板を用いた電池では、ニッケル正極に、導電性の低い一酸化コバルトを含有させた場合でも、初回の充電過程で生じる酸化反応により、一酸化コバルトを、導電性の高いオキシ水酸化コバルトに変化させることができたためである。
ところが、同様に一酸化コバルトを含有させた比較例2のアルカリ蓄電池では、金属コバルトを含有させた他の電池に比して、高率放電特性が低くなった。これは、比較例2のアルカリ蓄電池では、正極基板に、樹脂骨格を有するニッケル被覆樹脂基板(樹脂骨格と、これを被覆するニッケル被覆層とを有する正極基板)を用いているためであると考えられる。具体的には、ニッケル被覆樹脂基板は、発泡ニッケル基板と比較すると、樹脂骨格を有している分、基板自身の導電性が低くなるので、充電過程における一酸化コバルトの酸化反応が進行し難くなり、導電性の高いオキシ水酸化コバルトが生成し難くなると考えられる。このため、比較例2のアルカリ蓄電池では、他の電池と比較して、ニッケル正極の集電性が低くなり、高率放電特性が劣ったと考えられる。
次いで、高率放電特性に優れていた実施例1,2及び比較例1,4のアルカリ蓄電池について、比較検討する。これらの電池では、正極基板が大きく異なっている。具体的には、比較例1のアルカリ蓄電池では、正極基板として、樹脂骨格を有していない発泡ニッケル基板を用いているのに対し、実施例1,2及び比較例4のアルカリ蓄電池では、いずれも、樹脂骨格を有するニッケル被覆樹脂基板を用いている。
前述のように、従来のアルカリ蓄電池では、正極基板に、樹脂骨格を有するニッケル被覆樹脂基板を用いた場合、発泡ニッケル基板を用いた場合と比較して、高率放電特性が大きく低下する問題があった。ところが、実施例1,2及び比較例4のアルカリ蓄電池(ニッケル被覆樹脂基板)では、高率放電特性値が、比較例1のアルカリ蓄電池(発泡ニッケル基板)と同等以上の値となった。この結果より、正極基板に、樹脂骨格を有するニッケル被覆樹脂基板(樹脂骨格と、これを被覆するニッケル被覆層とを有する正極基板)を用いた場合でも、発泡ニッケル基板を用いた場合と同等以上の優れた高率放電特性を得ることができると言える。これは、ニッケル正極に、金属コバルトを含有させることで、良好な導電性ネットワークを形成することができたためと考えられる。
次に、実施例1,2及び比較例1〜4のアルカリ蓄電池について、高温充電特性値(C/A)×100(%)を比較する。これらのアルカリ蓄電池は、いずれも、高温充電特性値が62%以上の値を示し、高温充電特性が比較的良好であった。これは、ニッケル正極に、酸化イットリウム及び酸化亜鉛を含有させたことにより、酸素発生過電圧を高めることができ、高温状態(60℃)においても、充電末期の酸素発生反応を抑制できたためと考えられる。
このうち、実施例1,2及び比較例1のアルカリ蓄電池では、いずれも、高温充電特性値が74%以上の値を示し、比較例2〜4のアルカリ蓄電池(いずれも、高温充電特性値が70%以下)と比較して、高温充電特性が優れていた。これは、ニッケル正極に、金属コバルトとβ−CoOOHとを含有させることにより、充電時の酸素発生過電圧を、さらに高めることができたためと考えられる。これにより、高温状態(60℃)において、充電末期の酸素発生反応を、より一層抑制することができたと考えられる。
次に、実施例1,2及び比較例1〜4のアルカリ蓄電池について、サイクル寿命特性値(D/A)×100(%)を比較する。実施例1,2のアルカリ蓄電池では、1000サイクル後のサイクル寿命特性値が85%程度の高い値を示し、いずれも、サイクル寿命特性に優れていた。これに対し、比較例1〜4のアルカリ蓄電池では、サイクル寿命特性値が、順に、62.4%、67.7%、72.8%、69.1%となり、実施例1,2のアルカリ蓄電池に比して、サイクル寿命特性がかなり劣っていた。
サイクル充放電試験後、それぞれの電池を分解し調査したところ、比較例1のアルカリ蓄電池では、ニッケル正極が、充放電前の状態と比較して、約12%程度厚くなっていた。これは、充放電に伴う正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の膨張により、発泡ニッケル基板が大きく押し広げられ、ニッケル正極が膨張したと考えられる。これにより、セパレータが圧縮されたため、セパレータ内の電解液が著しく減少し、内部抵抗が著しく上昇していた。これが原因で、サイクル寿命特性が低下してしまったと考えられる。
これに対し、実施例1,2及び比較例2〜4のアルカリ蓄電池では、比較例1と比べて正極の膨張の程度が小さかった。これは、実施例1,2及び比較例2〜4では、比較例1と異なり、正極基板が樹脂骨格を有しているため、正極基板が強固となり、充放電に伴う正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の膨張に起因する変形を抑制することができたためと考えられる。
しかしながら、このうち、比較例2〜4のアルカリ蓄電池では、いずれも、ニッケル正極をなすニッケルの腐食(酸化による不働態化)が進行しており、電解液も著しく減少していた。これが原因で、サイクル寿命特性が低下してしまったと考えられる。これは、次のような理由によるものと考えられる。
比較例2〜4のアルカリ蓄電池では、正極基板に樹脂骨格を残存させているため、ステップ1において、正極基板(ニッケル被覆樹脂基板)を、高温で焼鈍することができなかった。このため、ニッケルの結晶を十分に成長させることができず、ニッケルの結晶サイズが小さくなってしまったと考えられる。ニッケルの結晶サイズが小さい場合には、充電時の末期に副反応として生じる酸素の影響で、ニッケルの腐食(酸化による不働態化)が進行しやすくなる傾向がある。このため、比較例2〜4のアルカリ蓄電池では、充放電を繰り返すにしたがって、ニッケルの腐食が進行してゆき、正極基板の集電性が低下すると共に、電解液も著しく減少したと考えられる。
ところが、実施例1,2のアルカリ蓄電池では、比較例2〜4のアルカリ蓄電池と同等の正極基板(ニッケル被覆樹脂基板)を用いているにも拘わらず、上記のような不具合が生じなかった。これは、実施例1,2では、比較例2〜4と異なり、ニッケル正極に、金属コバルトと共に、β型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトを含有させたためと考えられる。すなわち、ニッケル正極に、金属コバルトとβ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトとを含有させることにより、充電時の酸素発生過電圧を高めることができたと考えられる。これにより、充電時における酸素発生反応を抑制し、ニッケルの腐食(酸化による不働態化)を抑制することができ、サイクル寿命特性を良好とすることができたと考えられる。
ところで、実施例1,2のアルカリ蓄電池で用いた正極基板(ニッケル被覆樹脂基板)は、骨格をなす樹脂と、これを被覆するニッケル被覆層との物性(伸び率、強度など)が大きく異なるため、正極基板の膨張・収縮が大きい場合には、ニッケル被覆層に亀裂が生じたり、ニッケル被覆層が剥離してしまう虞がある。従って、このような不具合を避けるためには、正極基板の膨張・収縮をできる限り抑制することが好ましい。ところが、正極活物質をなす水酸化ニッケルの結晶は、充放電に伴い、結晶構造が変化し、大きく膨張してしまう傾向にある。
しかしながら、実施例1,2のアルカリ蓄電池では、ニッケル被覆層の亀裂や剥離は生じていなかった。これは、正極活物質をなす水酸化ニッケルの結晶内に、マグネシウムを固溶状態で含有させたためと考えられる。これにより、充放電に伴う結晶構造の変化を抑制することができ、ひいては、充放電に伴う結晶の膨張を抑制することができたと考えられる。これにより、充放電に伴う正極基板の膨張を抑制することができ、ニッケル被覆層に亀裂・剥離が生じなかったと考えられる。
以上より、実施例1,2のアルカリ蓄電池は、高率放電特性が良好で、且つ、サイクル寿命特性が良好であると言える。しかも、実施例1,2のアルカリ蓄電池では、樹脂骨格(不織布)を焼失させる手間を省くことができ、正極基板のニッケル被覆層の平均厚みも2μmと薄くできたため、安価となった。
さらに、実施例1と実施例2のアルカリ蓄電池を比較する。両者は、共に、ニッケル正極にβ−CoOOHを含有させている点では同じであるが、含有させる形態が異なっており、その他については同様としている。具体的には、実施例1では、単に、β−CoOOHの粉末を正極活物質(水酸化ニッケル粒子)と混合させて、ニッケル正極に含有させているのに対し、実施例2では、正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の表面に、β−CoOOHを被覆させている。
そこで、実施例1及び実施例2のアルカリ蓄電池について、サイクル寿命特性値を比較すると、実施例2のほうが、実施例1(84.4%)よりも高い値(85.8%)を示した。すなわち、実施例2のアルカリ蓄電池では、実施例1のアルカリ蓄電池よりも、優れたサイクル寿命特性を得ることができた。これは、正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の表面にβ−CoOOHを被覆させることにより、β−CoOOHをニッケル正極内で均一に分散させることができ、ニッケル正極の集電性をより一層優れたものにできたためと考えられる。
本実施例3では、ステップ1において、スルホン化不織布に対し、ニッケルめっき液の各組成濃度及び浸漬時間を異ならせることで、ニッケル被覆層の平均厚みの異なる5種類のニッケル被覆樹脂基板を作製した。この5種類のニッケル被覆樹脂基板について、ニッケル被覆層の平均厚みを調査したところ、それぞれ、0.45μm、0.50μm、2.00μm、5.00μm、5.50μmであった。なお、本実施例3でも、いずれのニッケル被覆樹脂基板についても、基板全体に占めるニッケル被覆層の割合を30重量%以上80重量%以下の範囲に調整している。
次いで、実施例1のステップ2〜4と同様にして、5種類のニッケル正極を作製した。なお、本実施例3でも、実施例1と同様に、正極の理論容量を1300mAhとした。その後、実施例1のステップ5と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を5種類作製した。
(電池特性の評価)
本実施例3の5種類のアルカリ蓄電池について、特性評価を行った。
まず、5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、実施例1と同様にして初期充放電サイクル試験を行った。その後、5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、活物質利用率A(1C放電時利用率)を算出した。この結果を、図1に◆印で示す。図1に示すように、ニッケル被覆層の平均厚みを0.50μm、2.00μm、5.00μmとした電池では、活物質利用率Aが97%以上(具体的には、順に、97.5%、98.5%、98.5%)となり、優れた充放電効率を得ることができた。これに対し、ニッケル被覆層の平均厚みを0.45μmとした電池では、活物質利用率Aが94.1%となり、充放電効率がやや劣る結果となった。さらに、ニッケル被覆層の平均厚みを5.50μmとした電池では、活物質利用率が最も低く、91.0%となった。
初期充放電サイクル試験後、それぞれの電池を分解し、ニッケル正極の断面のSEM像を観察したところ、ニッケル被覆層の平均厚みを5.50μmとした電池では、正極基板のニッケル被覆層に亀裂が生じていた。これにより、ニッケル正極の集電性が低下し、活物質利用率Aが低くなったと考えられる。また、ニッケル被覆層の平均厚みを0.45μmとした電池では、ニッケル被覆層を薄くし過ぎたため、十分な集電性を得ることができず、充放電効率がやや劣る結果となったと考えられる。
次に、5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、実施例1と同様にして、1000サイクルの長期充放電サイクル試験を行った。その後、5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、活物質利用率D(1000サイクル後の活物質利用率)を算出した。この結果を、図2に◆印で示す。図2に示すように、ニッケル被覆層の平均厚みを0.45μmとした電池では、活物質利用率Dが、75.4%にまで低下した。さらに、ニッケル被覆層の平均厚みを5.50μmとした電池では、活物質利用率Dが、75.3%にまで低下した。
これに対し、ニッケル被覆層の平均厚みを0.50μm、2.00μm、5.00μmとした電池では、1000サイクル後の活物質利用率Dが、初期充放電後の活物質利用率Aと比較して低下したものの、いずれも81%を上回る高い値(具体的には、順に、81.7%、83.1%、83.2%)を示した。この結果より、正極基板のニッケル被覆層の平均厚みを0.5μm以上5μm以下とすることで、長期間にわたり、充放電効率を良好とすることができると言える。また、長期間にわたり充放電効率が良好であったということは、その電池の正極(正極基板)の集電性が、長期間にわたり良好であったと言える。従って、正極基板のニッケル被覆層の平均厚みを0.5μm以上5μm以下とすることで、長期間にわたり、正極基板の集電性を良好とすることができると言える。
本実施例4では、ステップ4において、金属コバルトの添加量を異ならせることで、金属コバルトの含有量のみが異なる7種類のニッケル正極を作製した。具体的には、金属コバルト粉末を、正極活物質の100重量部に対し、それぞれ、1重量部、1.5重量部、2重量部、4重量部、7重量部、10重量部、11重量部の割合で含有させている(以下、正極活物質の100重量部に対する金属コバルトの重量部を、単に重量部と表記することもある)。その他については、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池(理論容量1300mAh)を7種類作製した。
(電池特性の評価)
本実施例4の7種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、実施例1と同様にして、充放電サイクル試験を行った。その後、7種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、活物質利用率A,Bを算出した。次いで、それぞれの電池の高率放電特性を示す指標として、活物質利用率Aに対する活物質利用率Bの比率(B/A)×100(%)を算出した。この結果を、図3に◆印で示す。
図3に示すように、7種類のアルカリ蓄電池では、利用率比率(B/A)×100(%)の値(高率放電特性値)が、いずれも、90%より高い値を示し、高率放電特性が良好であった。さらに、金属コバルト粉末の含有量と利用率比率(B/A)×100(%)の値との関係について、詳細に検討すると、2重量部を境界として、高率放電特性値が大きく異なることがわかった。
具体的には、図3に示すように、金属コバルト粉末を2重量部未満(具体的には、1重量部、1.5重量部)とした2種類の電池では、利用率比率(B/A)×100(%)の値が、92%程度(具体的には、91.7%と92.3%)であった。これに対し、金属コバルト粉末を2重量部以上とした5種類の電池では、利用率比率(B/A)×100(%)の値が、94%程度(具体的には、順に、93.8%、94.1%、94.2%、94.2%、93.6%)で、2重量部未満とした電池よりも、2%程度も高くなった。
以上より、金属コバルト粉末を2重量部以上とすることで、優れた高率放電特性を得ることができると言える。これは、ニッケル正極において、正極活物質100重量部に対し、金属コバルトを2重量部以上含有させることより、優れた集電性を得ることができるためと考えられる。
ところで、高率放電特性が良好であった5種類の電池のうち、金属コバルト粉末を10重量部以下とした4種類の電池では、電池容量(正極理論容量)を1300mAh程度と比較的大きくすることができた。これに対し、金属コバルト粉末を11重量部とした電池では、電池容量(正極理論容量)が1100mAhと小さくなった。これは、金属コバルトの含有量を増大させるにしたがって、正極活物質の充填量が低下し、正極の容量密度が低下するためである。この結果より、正極活物質100重量部に対し、金属コバルトを10重量部以下とすることで、電池容量(正極理論容量)を比較的大きく確保することができると言える。
以上の結果より、ニッケル正極に含有させる金属コバルトの割合は、正極活物質の100重量部に対し、2〜10重量部とするのが好ましいと言える。
本実施例5では、ステップ4において、β−CoOOHの添加量を異ならせることで、β−CoOOHの含有量のみが異なる7種類のニッケル正極を作製した。具体的には、β−CoOOH粉末を、正極活物質の100重量部に対し、それぞれ、1重量部、1.5重量部、2重量部、4重量部、7重量部、10重量部、11重量部の割合で含有させている(以下、正極活物質の100重量部に対するβ−CoOOHの重量部を、単に重量部と表記することもある)。その他については、実施例1と同様にして、AAサイズの円筒密閉型ニッケル水素蓄電池を7種類作製した。
(電池特性の評価)
本実施例5の7種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、実施例1と同様にして、充放電サイクル試験を行った。その後、7種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、活物質利用率A,Dを算出した。次いで、それぞれの電池のサイクル寿命特性を示す指標として、活物質利用率Aに対する活物質利用率Dの比率(D/A)×100(%)を算出した。この結果を、図4に◆印で示す。図4に示すように、β−CoOOHを2重量部以上とした5種類の電池では、利用率比率(D/A)×100(%)の値が、順に、84.5%、84.4%、84.5%、84.7%、85.2%となり、優れたサイクル寿命特性を示した。
これに対し、β−CoOOHを2重量部未満(具体的には、1重量部、1.5重量部)とした2種類の電池では、利用率比率(D/A)×100(%)の値が、84%以下となり、2重量部以上とした5種類の電池に比して、低い値になった。さらに、図4より、β−CoOOHが2重量部を下回ると、利用率比率(D/A)×100(%)が急激に低下する傾向がわかる。この結果より、β−CoOOHを2重量部以上とすることで、サイクル寿命特性を良好とすることができると言える。これは、ニッケル正極において、金属コバルトに加え、正極活物質100重量部に対しβ−CoOOHを2重量部以上含有させたことより、充電時の酸素発生過電圧を、好適に高めることができたためと考えられる。これにより、充電時における酸素発生反応を好適に抑制し、ニッケルの腐食(酸化による不働態化)を好適に抑制することができたと考えられる。
ところで、サイクル寿命特性が良好であった5種類の電池のうち、β−CoOOH粉末を10重量部以下とした4種類の電池では、電池容量(正極理論容量)を1300mAh程度と比較的大きくすることができた。これに対し、β−CoOOH粉末を11重量部とした電池では、電池容量(正極理論容量)が1100mAhと小さくなった。これは、β−CoOOHの含有量を増大させるにしたがって、正極活物質の充填量が低下し、正極の容量密度が低下するためである。この結果より、正極活物質100重量部に対し、β−CoOOHを10重量部以下とすることで、電池容量(正極理論容量)を比較的大きく確保することができると言える。
以上の結果より、ニッケル正極に含有させるβ−CoOOHの割合は、正極活物質の100重量部に対し、2〜10重量部とするのが好ましいと言える。
本実施例6では、ステップ3において、反応槽内の水溶液中への空気供給量を調整する(すなわち、反応槽内の水溶液中の酸素濃度を調整する)ことにより、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数を異ならせた。具体的には、コバルトの平均価数が、2.5価、2.6価、2.8価、3.0価、3.1価と異なる、5種類のβ−CoOOHを作製した。その他については、全て実施例1と同様にして、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数のみが異なるアルカリ蓄電池を、5種類作製した。
(電池特性の評価)
本実施例6の5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、実施例1と同様にして、充放電サイクル試験を行った。その後、5種類のアルカリ蓄電池について、それぞれ、活物質利用率A,B,Dを算出した。この結果を表2に示す。
さらに、活物質利用率A,B,Dの値に基づいて、高率放電特性を示す指標として利用率比率(B/A)×100(%)を算出し、サイクル寿命特性を示す指標として利用率比率(D/A)×100(%)を算出した。この結果を表3に示す。
まず、活物質利用率Aについて検討すると、表2に示すように、いずれの電池においても高い値(96.5以上)を示したが、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数が大きくなるにしたがって、活物質利用率Aの値が低下する傾向があることがわかった。
さらに、活物質利用率Bの値を比較すると、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数の値を3.0以下(具体的には、2.5,2.6,2.8,3.0)とした4種類の電池では、いずれも、90%以上の値を示し、高率放電時においても優れた活物質利用率を得ることができた。これに対し、コバルト平均価数を3.0価より大きく(具体的には、3.1価)した電池では、活物質利用率Bが88.4%と良好な値ではあったが、他の4種類の電池と比べて、高率放電時での充放電効率がやや劣る結果となった。
また、利用率比率(B/A)×100(%)の値を比較すると、表3に示すように、コバルト平均価数を3.0以下とした4種類の電池では、いずれも、93%以上の値を示し、高率放電特性が優れていた。これに対し、3.0価より大きく(具体的には、3.1価)した電池では、91.6%となり、高率放電特性が良好ではあったが、他の4種類の電池と比べて、やや劣る結果となった。
これは、コバルトの平均価数が3.0価よりも大きい場合には、オキシ水酸化コバルトの結晶中の電荷のバランスが崩れ、β型の結晶構造からγ型の結晶構造に転移しやすくなるためと考えられる。γ型の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルトは、酸化力が強いため(自身は還元されやすく)、正極に含有させた金属コバルトを酸化してしまう。このため、正極内部の導電性ネットワークの形成が妨げられ、特に、高率放電時における活物質利用率が低下したと考えられる。
次に、活物質利用率Dの値を検討すると、表2に示すように、いずれの電池においても、80%より高い値を示し、1000サイクルもの長期充放電サイクル試験後においても、活物質利用率が良好であった。さらに、詳細に検討すると、コバルト平均価数を2.6価未満(具体的には、2.5価)とした電池では、活物質利用率Dが80.9%であったのに対し、コバルトの平均価数の値を2.6以上(具体的には、2.6,2.8,3.0,3.1)とした4種類の電池では、いずれも、82%以上であった。すなわち、コバルトの平均価数の値を2.6以上とした電池では、2.6価未満とした電池よりも、活物質利用率Dが優れていた。
また、利用率比率(D/A)×100(%)の値(サイクル寿命特性値)は、表3に示すように、いずれの電池においても、80%より高い値を示し、サイクル寿命特性が良好であった。さらに、詳細に検討すると、コバルト平均価数を2.6価未満とした電池では、サイクル寿命特性値が83.1%であったのに対し、コバルトの平均価数の値を2.6以上とした4種類の電池では、いずれも、84%以上であった。すなわち、コバルトの平均価数の値を2.6以上とした電池では、2.6価未満とした電池よりも、サイクル寿命特性が優れていた。
これは、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数の値を2.6以上とすることにより、充電時の酸素発生過電圧を大きく上昇させることができるためと考えられる。これにより、長期間にわたり、正極に含まれるニッケルの腐食(酸化による不働態化)を抑制することができ、ひいては、電池のサイクル寿命特性を良好とすることができたと考えられる。
以上の結果より、ニッケル正極において、β−CoOOHに含まれるコバルトの平均価数は、2.6価以上3.0価以下とするのが好ましいと言える。
以上において、本発明を実施例1〜6に即して説明したが、本発明は上記実施例等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施例1〜6では、無電解めっき法により、樹脂骨格(不織布)にニッケル被覆層を形成したが、電気めっき法や気相蒸着法によって、あるいは、無電解めっき法、電気めっき法、及び気相蒸着法の手法を2種以上組合わせて、樹脂骨格にニッケル被覆層を形成するようにしても良い。いずれの手法を用いた場合でも、実施例1〜6と同等の結果を得ることができた。また、無電解めっき法、電気めっき法、及び気相蒸着法の3種類の手法に限らず、適宜、適切な手法を用いるようにしても良い。
また、実施例1〜6では、樹脂骨格として、不織布を用いたが、織布や発泡樹脂などを用いるようにしても良い。実際に、平均孔径が20μm以上100μm以下の発泡樹脂及び織布を用い、無電解めっき法により、ニッケルめっきを施してニッケル被覆樹脂基板(正極基板)を作製した。このような樹脂骨格を有する正極基板を用いた場合でも、実施例1〜6と同様な結果を得ることができた。また、発泡樹脂、不織布、及び織布に限らず、三次元網状構造をなし、複数の孔が三次元に連結した空隙部を有している樹脂であれば、適宜、正極基板の樹脂骨格として用いることが可能である。
また、実施例1〜6では、樹脂骨格をなす樹脂として、ポリプロピレン及びポリエチレンを用いた。しかし、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、及びポリテトラフルオロエチレンから選択した少なくとも1種類の樹脂を用いた場合でも、実施例1〜6と同等の結果を得ることができた。これらの樹脂は、耐アルカリ性に優れているため、仮に、樹脂骨格が露出していたとしても、アルカリ電解液の影響を受けることがないため、好適に用いることができる。従って、樹脂骨格を露出させないように正極基板を作製すれば、耐アルカリ性に優れていない樹脂であっても、樹脂骨格として用いることも可能である。
なお、樹脂骨格は、1種の樹脂のみによって形成しても良いし、2種以上の樹脂を混合して形成(例えば、2種以上の異なる繊維によって不織布を作製)しても良い。
また、実施例1〜6では、平均孔径が60μmの樹脂骨格を用いてニッケル被覆樹脂基板を作製し、圧延後、正極基板の平均孔径を30μmとしたが、正極基板は、平均孔径30μmのものに限定されるものではない。実際に、平均孔径の異なる正極基板を複数種類用意して、これらを用いた電池について、実施例1と同様にして、初期充放電サイクル試験後の活物質利用率Aを算出した。この結果、正極基板の平均孔径が小さい電池ほど、活物質利用率Aが高くなった。
これは、正極基板の空隙部をなす孔の孔径が小さいほど、正極活物質とニッケル被覆層とが接近するので、両者の接触面積が大きくなり、これにより、集電性が良好となるため、電池の充放電効率(活物質の利用率)が良好となると考えられる。逆に言うと、正極基板の空隙部をなす孔の孔径を大きくするほど、集電性が低下して、電池の充放電効率(活物質の利用率)が低下すると考えられる。実際に、平均孔径が450μm以下の電池では、活物質利用率Aが90%以上の値を示し、比較的充放電効率が良好であったが、平均孔径を450μmより大きくした(具体的には、平均孔径が470μm)電池では、活物質利用率Aが80%程度と低く、充放電効率が好ましくなかった。
また、電池の充放電効率を向上させるためには、正極基板の平均孔径をできる限り小さくするのが好ましいが、正極活物質(水酸化ニッケル粒子)の平均粒径が10μm程度であったため、正極基板の平均孔径を15μm以下とすることは困難であった。
以上より、正極基板の空隙部をなす複数の孔の平均孔径は、15μm以上450μm以下とするのが好ましいと言える。
また、実施例1〜6では、マグネシウムを固溶状態で含む水酸化ニッケル粒子を用いて正極活物質を作製した。しかしながら、水酸化ニッケル粒子に含有させる元素は、マグネシウムのみに限定されるものではなく、例えば、亜鉛を固溶状態で含ませた場合でも、同様な効果を得ることができた。さらに、マグネシウムと亜鉛の両者を、水酸化ニッケルの結晶内に固溶状態で含ませることにより、より一層、正極活物質の膨張を抑制でき、正極基板の膨張を抑制することができた。また、水酸化ニッケルの結晶内には、マグネシウム及び亜鉛以外の元素(例えば、コバルト)を固溶状態で含ませるようにしても良い。
また、実施例1〜6のアルカリ蓄電池では、ニッケル正極に、酸化イットリウム及び酸化亜鉛を含有させたが、いずれか一方のみを含有させるようにしても良い。酸化イットリウム及び酸化亜鉛の少なくともいずれかを含有させることにより、酸素発生過電圧を高めることができるので、高温状態においても充電末期の酸素発生反応を抑制し、高温充電効率を良好にできることが確認できた。ただし、酸化イットリウム及び酸化亜鉛のいずれか一方のみを含有させるよりも、両者を含有させたほうが、優れた高温充電効率を得ることができた。
また、実施例1〜6のアルカリ蓄電池では、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を55重量%としたが、ニッケル被覆層の割合は、このような値に限定されるものではない。実際に、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を、27〜84重量%の範囲で調整し、活物質利用率A,Cを調査したところ、30〜80重量%の範囲で、良好な結果を得ることができた。この結果より、正極基板に占めるニッケル被覆層の割合を、30重量%以上80重量%以下とすることで、長期間にわたり、正極の集電性を良好とすることができると言える。
また、実施例1〜6では、負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素蓄電池を作製した。しかしながら、本発明は、ニッケル亜鉛蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池など、いずれのアルカリ蓄電池についても同様な効果を得ることができる。
また、実施例1〜6では、アルカリ蓄電池を円筒型としたが、このような形状に限定されるものではない。ケース内に極板を積層した角形電池など、いずれの形態のアルカリ蓄電池についても適用することができる。
正極基板のニッケル被覆層の平均厚み(μm)と活物質利用率A(%)との関係を示す特性図である。
正極基板のニッケル被覆層の平均厚み(μm)と活物質利用率D(%)との関係を示す特性図である。
正極に占める金属コバルトの含有量(重量部)と利用率比率(B/A)×100(%)との関係を示す特性図である。
正極に占めるβ−CoOOHの含有量(重量部)と利用率比率(D/A)×100(%)との関係を示す特性図である。