JP3897527B2 - アルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極およびその製造方法ならびにそれを用いたアルカリ蓄電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極、およびその製造方法、ならびにそれを用いたアルカリ蓄電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルカリ蓄電池に用いられるアルカリ蓄電池用ニッケル正極には、大別して焼結式と非焼結式の二つがある。後者の非焼結式ニッケル正極としては、多孔度95%程度の発泡ニッケル基板に水酸化ニッケル粒子を保持させたものが提案されている(たとえば、特開昭50−36935号公報参照)。この非焼結式ニッケル正極は、高容量のアルカリ蓄電池の正極として広く用いられている。
【0003】
しかしながら、発泡ニッケル基板は、ウレタンフォームにニッケルメッキしたのち芯材であるウレタンを焼成して除去することによって作製されるため、相当に高価となる。また、これらの基板は多孔度が90%以上であるため、強度が弱くリード端子の取り付けが非常に困難である。
【0004】
これに対し、パンチングシートやエキスパンドメタル等の2次元構造の基板は、機械的な穿孔法で作製できるために安価であり、強度が強くリード端子の取り付けが非常に容易である。しかしながら、3次元構造をもたないために、活物質の脱落や剥離、利用率の低下などの問題がある。
【0005】
このため、活物質の脱落や剥離、利用率の低化を抑制する目的で、支持体の両面に錐状突起を形成した正極板が報告されている(実開平6−79065号公報参照)。
【0006】
また、活物質の脱落や剥離を抑制する目的で、活物質間同士の結着性、および導電性金属支持体と活物質間との結着性を強化するためのバインダーとして、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという場合がある)を用いる方法も報告されている(特開平11−25962号公報参照)。この方法では、正極中のPTFEが3次元構造を形成することによって、活物質が支持体から脱落することを防止する。また、この方法では、一般的に、水酸化ニッケルを主成分とする活物質粉末と、PTFEのディスパージョンとを混合して活物質ペーストを作製し、導電性の金属支持体表面に塗着し、これを乾燥・圧延して正極を形成する。
【0007】
しかし、PTFEは極性が低いため金属との結着性が十分ではなく、支持体と活物質粉末との結着性をさらに向上させることが求められていた。そのため、PTFE以外のバインダーで、金属との結着性が高いバインダーの研究が進められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、酸素に対して安定なPTFEとは異なり、PTFE以外のバインダーには以下の技術的課題があった。
【0009】
アルカリ蓄電池では、満充電に近い状態または過充電状態になると、正極側から酸素発生が起こるとともに、正極の電位が高くなる。そのため、従来検討されてきたPTFE以外のバインダー(たとえば、ポリエチレンやポリエチレン誘導体など)では、酸化反応によってバインダーが低分子に分解してしまう。また、バインダーを構成する分子が不飽和結合を有する場合には、さらに炭酸ガスが発生する。バインダーが低分子に分解すると支持体と活物質粉末との結着性が低下することになり、炭酸ガスが発生すると負極合金が腐食することになる。そのため、PTFE以外のバインダーを用いた場合には、充放電サイクルを繰り返したときの電池容量の低下が大きいという問題があった。
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、充放電サイクル特性が良好なアルカリ蓄電池を得ることができるアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極、およびその製造方法、ならびにそれを用いたアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極は、導電性の支持体と前記支持体の表面に配置された活物質含有層とを含むアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極であって、前記活物質含有層が、水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、バインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを含み、前記バインダーが、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなることを特徴とする。上記本発明のニッケル正極によれば、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルがバインダーの酸化や分解を抑制するため、PTFE以外のさまざまな高分子をバインダーとして用いることができ、充放電サイクル特性が良好なアルカリ蓄電池を製造できる。
【0012】
上記本発明のニッケル正極では、前記高分子が不飽和結合を有するものでもよい。
【0013】
上記本発明のニッケル正極では、前記バインダーが、ポリエチレン、ポリエチレン誘導体、およびスチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0014】
上記本発明のニッケル正極では、前記活物質含有層が、前記活物質粉末と前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、前記活物質粉末:前記バインダー:前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含んでもよい。
【0015】
また、本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法は、導電性の支持体と前記支持体の表面に配置された活物質含有層とを含むアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法であって、水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなるバインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを含むペーストを作製する第1の工程と、前記支持体の表面に前記ペーストを塗着して乾燥および圧延を行い前記活物質含有層を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする。上記本発明の製造方法によれば、本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極を容易に製造できる。
【0016】
上記本発明の製造方法では、前記第1の工程は、前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを混合して混合物を作製したのち、前記混合物と前記活物質粉末とを混合する工程を含んでもよい。
【0017】
上記本発明の製造方法では、前記バインダーが、ポリエチレン、ポリエチレン誘導体、およびスチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
上記本発明の製造方法では、前記ペーストが、前記活物質粉末と前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、前記活物質粉末:前記バインダー:前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含んでもよい。
【0019】
上記本発明の製造方法では、前記第1の工程において、水に分散された平均粒径が0.1μm〜1.0μmの範囲内のジブチルジチオカルバミン酸ニッケル粉末を用いてもよい。
【0020】
また、本発明のアルカリ蓄電池は、水酸化ニッケルを含む正極を備えるアルカリ蓄電池であって、正極が、上記本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極であることを特徴とする。上記本発明のアルカリ蓄電池によれば、充放電サイクル特性が良好なアルカリ蓄電池が得られる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
(実施形態1)
実施形態1では、本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極(以下、ニッケル正極という場合がある)について説明する。
【0023】
本発明のニッケル正極は、導電性の支持体と支持体の表面に配置された活物質含有層とを含む。
【0024】
導電性の支持体には、たとえば、電解Ni箔、無電解Ni箔、圧延Ni箔、表面にNiメッキを施したFe箔などの金属箔(厚さがたとえば20μm〜100μmの範囲内)の表面に3次元的に錐状突起を形成したものを用いることができる。
【0025】
活物質含有層は、水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、バインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(NBC)とを含む。活物質粉末には、アルカリ蓄電池に一般的に用いられている活物質の粉末、すなわち水酸化ニッケルを主成分とする粉末を用いることができる。
【0026】
バインダーは、導電性の支持体と活物質粉末とを結着させる役割を果たす。本発明のバインダーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の材料からなる。具体的には、活物質含有層は、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなるバインダーを含む。上記高分子は、不飽和結合を有するものでもよい。より具体的には、バインダーとして、ポリエチレン、ポリエチレン誘導体、およびスチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1つを含むバインダー、またはこれらから選ばれる少なくとも1つからなるバインダーを用いることができる。ポリエチレン誘導体には、たとえば、クロロ−スルホン化ポリエチレンや、クロロポリエチレン、ポリフッ化ビニリデンを用いることができる。これらの中でも、クロロ−スルホン化ポリエチレンは、金属との結着性が高いため好ましい。
【0027】
活物質含有層に含まれるジブチルジチオカルバミン酸ニッケルは、バインダーの酸化を防止する機能を果たす。具体的には、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルは、バインダーよりも優先的に、充電時に正極側で発生する酸素と反応してバインダーの酸化を防止する。
【0028】
ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとしては、平均粒径が0.1μm〜1.0μmの範囲内の粉末を用いることが好ましい。これによって、バインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとの接触面積を大きくすることができ、バインダーの酸化を効率的に抑制できる。
【0029】
また、活物質含有層は、上記活物質粉末と上記バインダーと上記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、活物質粉末:バインダー:ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含むことが好ましい。これによって、電池の特性を大きく低下させることなく、導電性の支持体と活物質粉末との結着性を十分なものとすることができ、且つバインダーの酸化を防止できる。
【0030】
なお、本発明のニッケル正極は、上記活物質およびPTFE以外のものを含んでもよい(以下の実施形態においても同様である)。たとえば、アルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極に一般的に用いられるコバルト化合物や、イットリウム化合物、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、リチウム化合物などを含んでもよい。
【0031】
(実施形態2)
実施形態2では、本発明のニッケル正極の製造方法について説明する。実施形態2の製造方法は、導電性の支持体と支持体の表面に配置された活物質含有層とを含むアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法である。実施形態2の製造方法によれば、実施形態1で説明した本発明のニッケル正極を製造できる。
【0032】
実施形態2の製造方法では、まず、水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなるバインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを混合してこれらを含むペーストを作製する(第1の工程)。
【0033】
活物質粉末、バインダー、およびジブチルジチオカルバミン酸ニッケルには、実施形態1で説明したものを用いることができる。
【0034】
第1の工程は、バインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを混合してこれらが略均一に分散された混合物を形成したのち、その混合物と活物質粉末とを混合する工程を含むことが好ましい。バインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを予め混合することによって、両者を略均一に分散させることができ、バインダーの酸化を特に抑制できる。
【0035】
また、上記ペーストは、活物質粉末とバインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、活物質粉末:バインダー:ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含むことが好ましい。これによって、電池の特性を大きく低下させることなく、導電性の支持体と活物質粉末との結着性を十分なものとすることができるとともにバインダーの酸化を防止できる。
【0036】
また、上記第1の工程では、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとして、水に分散された平均粒径が0.1μm〜1.0μmの範囲内のジブチルジチオカルバミン酸ニッケル粉末を用いることが好ましい。これによって、バインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとの接触面積を大きくすることができ、バインダーの酸化を効率的に抑制できる。
【0037】
上記第1の工程ののち、導電性の支持体の表面に上記ペーストを塗着して乾燥および圧延を行い、活物質含有層を形成する(第2の工程)。その後、必要に応じて極板の切断およびリードの接続を行い、ニッケル正極を得る。
【0038】
(実施形態3)
実施形態3では、本発明のアルカリ蓄電池について説明する。
【0039】
実施形態3のアルカリ蓄電池は、封口体で封口されたケースと、ケースに封入された正極、負極、セパレータ、および電解液とを少なくとも備える。
【0040】
上記正極には、実施形態1のニッケル正極または実施形態2の製造方法で製造されたニッケル正極を用いる。
【0041】
上記ケース、負極、セパレータ、および電解液には、アルカリ蓄電池に一般的に用いられているものを用いることができる。たとえば、負極には、水素吸蔵合金を含む負極や、カドミウムを含む負極を用いることができる。セパレータには、スルホン化したポリプロピレン不織布などを用いることができる。また、電解液には、水酸化カリウムを主な溶質とした比重が1.3程度の電解液を用いることができる。
【0042】
上記実施形態3のアルカリ蓄電池では、本発明のニッケル正極を用いているため、充放電サイクル特性が良好で、大電流で放電した場合の放電容量が大きいアルカリ蓄電池が得られる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0044】
(実施例)
実施例では、実施形態2の製造方法で実施形態1のニッケル正極を作製した一例について説明する。
【0045】
まず、活物質である水酸化ニッケルにコバルトと亜鉛とを固溶させた水酸化ニッケル固溶体粒子を、以下の公知の方法を用いて作製した。すなわち、硫酸ニッケルを主な溶質とし、硫酸コバルトおよび硫酸亜鉛を所定量だけ含有させた水溶液に、アンモニア水でpHを調整しながら水酸化ナトリウムを徐々に滴下し、球状の水酸化ニッケル固溶体粒子を析出させた。次に、得られた水酸化ニッケル固溶体粒子を水洗、乾燥して母粒子とした。この粉末のレーザー回折式粒度計による平均粒径は10μm、BET法による比表面積は12m2/gであった。
【0046】
また、正極の導電材である水酸化コバルト微粒子は、以下の公知の方法によって作製した。すなわち、水酸化ナトリウム水溶液中に、1mol/lの硫酸コバルト水溶液を徐々に加え、35℃で水溶液のpHが12を維持するように調整しながら攪拌して、水酸化コバルト微粒子(β型)を析出させた。この粒子は、SEM像から観察される平均粒径が0.2μmであり、BET法によって測定した比表面積は25m2/gであった。
【0047】
次に、上記水酸化ニッケル固溶体粒子、上記水酸化コバルト微粒子、CMC溶液(カルボキシメチルセルロース溶液:固形分比1質量%)、バインダーであるクロロ−スルホン化ポリエチレン粉末の水分散ディスパージョン(固形分比:40質量%)、およびジブチルジチオカルバミン酸ニッケル粉末の水分散ディスパージョン(固形分比:40質量%)を用いて正極活物質ペーストを作製した。ここで、クロロ−スルホン化ポリエチレン粉末には、平均粒子径が2μmのもの(具体的には、住友精化社製:CSM200)を用いた。また、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル粉末には、平均粒径が0.2μmのもの(具体的には、大内新興化学社製NBCを遊星ボールミルを用いて粉砕したもの)を用いた。
【0048】
正極活物質ペーストの作製では、まず、クロロ−スルホン化ポリエチレンのディスパージョン7.5質量部(重量部)とジブチルジチオカルバミン酸ニッケル0.53質量部とを、攪拌羽根によって十分混合し、クロロ−スルホン化ポリエチレンとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとの混合ディスパージョンを作製した。
【0049】
一方、上述した方法で作製した水酸化ニッケル固溶体粒子100質量部と水酸化コバルト微粒子10質量部とを錬合機内に投入し、攪拌羽根によって十分に混合した。続いて、混合を続けながらCMC溶液20質量部を混合機内に徐々に滴下していき、さらに、上述したクロロ−スルホン化ポリエチレンとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとの混合ディスパージョンを加えて混練し、正極活物質ペーストを作製した。
【0050】
その後、上記正極活物質ペーストをニッケルからなる支持体に塗着した。支持体には、厚さ30μmのニッケル箔の両面から方形の貫通孔を形成して交互に反対方向に錐状突起を形成し、加工後の厚さを250μmとした支持体を用いた。
【0051】
その後、支持体に塗着した活物質ペーストを、110℃の熱風で乾燥させた。こうして乾燥させた極板を、110℃の圧延ロールを用いて熱ロールプレスを行い、厚さ400μmに圧延した。このようにして、支持体と支持体に支持された活物質含有層とを形成した。その後、切断加工とリードの溶接とを行い、本発明に基づく正極板Aを作製した。
【0052】
また、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとして、上記水分散ディスパージョンの代わりに、水を含まない粉末のジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(平均粒径:10μm)を用いて本発明の正極板Bを作製した。なお、正極板Bは、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルの形態を変えたことを除いて正極板Aと同様の方法で作製した。
【0053】
(比較例)
以下に、比較のために従来の正極板を作製した一例を説明する。
【0054】
まず、実施例と同様の方法で、水酸化ニッケル固溶体粒子と水酸化コバルト微粒子とを作製した。次に、この水酸化ニッケル固溶体粒子100質量部と水酸化コバルト微粒子10質量部とを錬合機内に投入し、攪拌羽根によって十分に混合した。続いて、混合を続けながらCMC溶液20質量部を混合機内に徐々に滴下していき、さらにクロロ−スルホン化ポリエチレンの水分散ディスパージョン7.5質量部を加えて、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルを含まない比較例の正極活物質ペーストを作製した。この正極活物質ペーストを、実施例で説明した導電性の支持体に塗着し、続いてこれを110℃の熱風で乾燥させた。こうして乾燥させた極板を、ロールプレスによって厚さ400μmに圧延し、切断およびリードの溶接を行って比較例の正極板Cを作製した。
【0055】
(電池の作製と評価)
上記のように作製した3種類の正極板A、B、およびCを用い、AAAサイズで公称容量800mAhのニッケル水素蓄電池をそれぞれ作製した。このとき、水素吸蔵合金を主体とした負極と、親水化処理を施したポリプロピレンセパレータと、7N〜8Nの水酸化カリウムを主な溶質とした電解液とを用いた。
【0056】
それぞれの電池は、まず、0.1C(1C=800mA)の充電レートで15時間充電し、0.2Cの放電レートで4時間放電する充放電サイクルを2回繰り返す初充放電を行った。その後、45℃で3日間のエージング(負極合金の活性化促進)を行った。
【0057】
このようにして得られた3種類のニッケル水素蓄電池について、充放電サイクル特性を調べた。充放電サイクルは、1Cの充電レートで−ΔV(ΔV=0.01V)制御方式で充電した後、1Cの放電レートで電池電圧が0.8Vに至るまで放電するという条件で行った。このようにして得られた充放電サイクル特性を、図1に示す。図1中、容量維持率とは、各サイクル経過後の放電容量を、初充放電後の放電容量で除した値である。各サイクル経過後の放電容量は、1Cの充電レートで−ΔV(ΔV=0.01V)制御方式で15時間充電した後、1Cの放電レートで電池電圧が0.8Vに至るまで放電したときの容量である。
【0058】
図1から明らかなように、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルを含む本発明の正極板AおよびBを用いて作製したアルカリ蓄電池は、比較例の正極板Cを用いて作製したアルカリ蓄電池に比べて、サイクルの経過に伴う容量の減少が小さかった。これは、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルによってバインダーの酸化および分解が防止されたためであると考えられる。
【0059】
また、図1から明らかなように、正極板Bを用いたアルカリ蓄電池に比べて、正極板Aを用いたアルカリ蓄電池の方が、サイクル経過に伴う容量低下が小さかった。これは、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとして、平均粒径が小さい粉末の水分散ディスパージョンを用いることによって、バインダーとジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとの接触面積を大きくすることができ、バインダーの酸化反応を特に抑制できたためであると考えられる。
【0060】
なお、バインダーとして、上記クロロ−スルホン化ポリエチレンのディスパージョンの代わりにスチレン−ブタジエンゴム粉末(平均粒径:2μm)の水分散ディスパージョン(固形分比:40質量%)を用いて、上記実施例および比較例と同様に正極板を作製し、さらにアルカリ蓄電池を作製した。そして、サイクル試験を行ってジブチルジチオカルバミン酸ニッケルの有無によるサイクル特性を調べた。その結果、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを用いた場合でも、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルを加えた方がサイクル経過に伴う容量の低下が小さいことがわかった。
【0061】
また、バインダーとして、上記クロロ−スルホン化ポリエチレンのディスパージョンの代わりにポリエチレン粉末(平均粒径:2μm)の水分散ディスパージョン(固形分比:40質量%)を用いて、上記実施例および比較例と同様に正極板を作製し、さらにアルカリ蓄電池を作製した。そして、サイクル試験を行ってジブチルジチオカルバミン酸ニッケルの有無によるサイクル特性を調べた。その結果、バインダーとしてポリエチレンを用いた場合でも、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルを加えた方がサイクル経過に伴う容量の低下が小さいことがわかった。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【0063】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極およびその製造方法によれば、充放電サイクル特性が良好なアルカリ蓄電池を製造できるアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極が得られる。
【0064】
また、本発明のアルカリ蓄電池によれば、充放電サイクル特性が良好なアルカリ蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のアルカリ蓄電池と比較例のアルカリ蓄電池とについて充放電サイクルの経過に伴う容量の変化を示すグラフである。
Claims (8)
- 導電性の支持体と前記支持体の表面に配置された活物質含有層とを含むアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極であって、
前記活物質含有層が、水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、バインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを含み、
前記バインダーが、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなり、
前記活物質含有層が、前記活物質粉末と前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、前記活物質粉末:前記バインダー:前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含むことを特徴とするアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極。 - 前記高分子が不飽和結合を有する請求項1に記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極。
- 前記バインダーが、ポリエチレン、ポリエチレン誘導体、およびスチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極。
- 導電性の支持体と前記支持体の表面に配置された活物質含有層とを含むアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法であって、
水酸化ニッケルを含む活物質粉末と、酸素の存在によって酸化反応を起こす高分子からなるバインダーと、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを含むペーストを作製する第1の工程と、
前記支持体の表面に前記ペーストを塗着して乾燥および圧延を行い前記活物質含有層を形成する第2の工程とを含み、
前記ペーストが、前記活物質粉末と前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを、前記活物質粉末:前記バインダー:前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル=100:X:Y(ただし、0.5≦X≦5.0、0.01≦Y≦0.5)の質量比で含むことを特徴とするアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法。 - 前記第1の工程は、前記バインダーと前記ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルとを混合して混合物を作製したのち、前記混合物と前記活物質粉末とを混合する工程を含む請求項4に記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法。
- 前記バインダーが、ポリエチレン、ポリエチレン誘導体、およびスチレン−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1つを含む請求項4または5に記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法。
- 前記第1の工程において、水に分散された平均粒径が0.1μm〜1.0μmの範囲内のジブチルジチオカルバミン酸ニッケル粉末を用いる請求項4ないし6のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極の製造方法。
- 水酸化ニッケルを含む正極を備えるアルカリ蓄電池であって、
前記正極が、請求項1ないし3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用非焼結式ニッケル正極であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
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