JP3911136B2 - 亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体に関するものであって、さらに詳しくは、土木用、建築用に亜鉛めっき鋼材を用い、これをコンクリートに埋め込み固定して耐久性を向上させた構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、大気腐食環境で用いられる鉄塔や橋梁、並びに建築物においては、景観上優れていることや数十年にわたる長期の耐久性を持っていること、また、施工時の取り扱い易さなどにより、鋼材に亜鉛めっきを施したものが用いられている。これらの亜鉛めっきを施した鋼材においては、大気中での腐食によりめっき層の亜鉛が消耗し、地鉄が露出するまでが寿命であり、その期間は、田園地帯では数十年、海岸に近いところでも十年以上であることが知られている。
【0003】
また、そのめっきの腐食量を減らす手段として、様々な検討がされており、たとえば、特開平9−256134号公報においては、めっき層にAlを添加することにより腐食量を減らしためっき鋼材の製造に関して記載されている。これらの方法は、亜鉛めっき層が屋外の大気環境に曝されていることを前提に考えられたものである。また、直接土に埋設された亜鉛めっき鋼管の防食法に関しては、公開文献として、「日本鉄鋼協会第109回講演大会要旨集、S451に「防食被覆によるパンザーマストの埋設部の耐久性向上」に関する記載がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記亜鉛めっきを施した鋼材を、鉄塔や建築物、また、橋梁などに適用する場合にそれらを地面や基礎構造物に固定する必要があり、その形態として一般的なものはコンクリートに埋め込み固定する方法である。しかしながら、コンクリートと亜鉛めっきを施した鋼材の界面で、めっきが選択的に消耗し、短期間で錆が発生してしまう問題点が生じていた。そこで、本発明においては、上記コンクリートに埋め込まれた場合の、コンクリートと亜鉛系めっきを施した鋼材の間の耐食性を向上させた構造体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明においては以下の様に構造物を規定する。
(1)亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、めっきの表面に無機酸素酸塩の化合物を含む、0.1mol/kgのNaOHに対して、モル比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であるアルカリ中和能を持つバインダー層を介し、その上に有機樹脂被覆層を有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
【0006】
(2)亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、アルカリ中和能を持つ無機酸素酸塩の化合物を含む有機樹脂被覆層をめっきとコンクリートの間に有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
(3)アルカリ中和能の指標として、0.1mol/kgのNaOHに対して、モル比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であることを特徴とする前記(2)記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
【0007】
(4)無機酸素酸塩の化合物が、炭酸もしくは重炭酸、リン酸もしくは亜リン酸、クロム酸もしくは重クロム酸、珪酸、バナジン酸、タングステン酸、ジルコン酸、モリブデン酸、の1種、またはこれらの2種以上の化合物の塩を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
(5)亜鉛系のめっきが5質量%以下のMgを含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
【0008】
(6)亜鉛系のめっきが60質量%以下のAlを含有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
(7)Alを含有するめっき鋼材において、Alの10分の1以下の質量のSiを含有することを特徴とする前記(6)記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
【0009】
(8)亜鉛系のめっきを施した鋼材が、鋼管、もしくは形鋼、もしくは矢板の1種またはそれらを組み合わせた複合構造体であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
(9)有機樹脂被覆層が、アクリル樹脂、尿素樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂もしくは、エポキシ樹脂またはその変性物を含む樹脂のいずれかであることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
上記課題を満足させるために発明者らは、実際にコンクリートに埋設された亜鉛めっき鋼材を数多く調査した。その結果、亜鉛めっきを施した鋼材と表面が大気に露出しているコンクリートの界面近傍が最も腐食していて、大気中の腐食速度の数倍から数十倍になっていることを見つけた。この調査結果を基に、再現試験を行い、腐食している部分を詳細に解析してみると、界面部において腐食が激しく、コンクリートに埋設されている部分ではあまり腐食が進んでいないこと、さらに、界面部より数cm離れて大気に接している部分においては腐食が軽微であることが分かった。さらに発明者らは、この界面部位を詳細に観察し、界面部では湿度が上昇した際に微少量の結露が生じており、これをpH試験紙で測定したところ、およそ12のpHの値を示すことを見つけた。
【0011】
その上で本発明者らは、塗装によりこの部分の腐食を防ぐことを試みた。その結果、短期間では、効果が認められるが、時間が経つと塗膜の劣化と減耗が起こり、効果がなくなってしまうことを確認した。このことを詳細に検討した結果、本発明者らは、結露水が高アルカリ化し、それによる塗膜の劣化が原因であることをつきとめた。そのために、本発明では結露水による高アルカリ化を防ぐために無機酸素酸塩の化合物を含むアルカリ中和能を持つ物質を用いる。ただし、これらの物質は一般的に水に溶解しやすい化合物であるため、この物質のみではコンクリートの埋め込む際にほとんどが溶出してしまいその後の効果が無くなる。
【0012】
そこで、本発明は、亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、めっきの表面に無機酸素酸塩の化合物を含む、0.1mol/kgのNaOHに対して、モル比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であるアルカリ中和能を持つバインダー層を介し、その上に有機樹脂被覆層を有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体を提供する。この際の界面部をはさんで両側の領域の大きさについては特に規制するものではないが、少なくともコンクリートを敷設するときの水平度のばらつき、すなわち1cm以上が望ましい。さらに上限については特に規定するものではないが、処理コストや景観上の課題を含めると界面部から50cm以下が望ましい。
【0013】
また、本発明におけるバインダー層並びに有機樹脂被覆層の製造法に関しては特に規定するものではないが、スプレーによる吹き付け、刷毛やローラーによる塗りなどを用いた塗装を行うことが一般的である。
また、亜鉛系のめっきの厚みに関しても特に規定するものではないが、屋外での腐食速度を考慮すると、100g/m2 以上が望ましく、さらにめっき部の割れや外観不良を起こさない厚みとして1000g/m2 以下が望ましい。
【0014】
さらに、本発明におけるアルカリ中和能を持つバインダー層の厚みは特に規定するものではないが、0.1μm以上で500μm以下が望ましい。5μmよりも薄い場合、付着のばらつきにより被覆されていない部分が生じるため、これ以上の厚みが望ましい。また、500μmを越えると、バインダー層とその上の有機樹脂層との応力の差で剥離しやすくなる。また、本発明における有機樹脂被覆層の厚みに関して特に規定するものではないが、10μm以上5mm未満が望ましい。10μm未満では、コンクリートを敷設する際に塗膜の欠陥部からバインダー層の溶出が起こり、その後の効果が薄れる。また、5mm以上では、本発明の効果がほとんど期待できないほど有機樹脂の寿命が長くなってしまう。
【0015】
また、本発明では、亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、アルカリ中和能を持つ無機酸素酸塩の化合物を含む有機樹脂被覆層をめっきとコンクリートの間に有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体を提供する。この際の、アルカリ中和能を持つ無機酸素酸塩の化合物の添加量については特に規定するものではないが、0.5質量%以上60質量%未満が望ましい。0.5質量%未満であると結露水の中和が十分行われず、アルカリ化してしまう。60質量%以上では、有機樹脂被膜がもろくなり、割れが生じて結果的に劣化が進むことになる。
【0016】
さらに、この際の有機樹脂被覆層の製造方法に関しては特に規定するものではないが、有機樹脂を溶媒で薄めた塗料に無機酸素酸塩の化合物を鹸濁させたものを塗布する方法や、有機樹脂の粉末に無機酸素酸塩の化合物を混練したものを付着させ熱融着させる方法などが採用される。
さらに本発明では、上記アルカリ中和能の指標として、0.1mol/kgのNaOHに対して、等量比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であることを規定する。上記条件において、10を越えた場合にでも本発明の効果は無くなるものではないが、本発明らは、上記構造体の劣化現象を鋭意検討した結果、無機酸素酸塩の化合物の溶解度と酸解離定数とを組み合わせた条件で用いることで、結露水のアルカリ化を防ぎ、結果として亜鉛系のめっきを施した鋼材の腐食を防ぐことになり、その判断の基準として0.1mol/kgのNaOHに対して、等量比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であることが重要であることを見つけだした。
【0017】
さらに本発明では、無機酸素酸塩の化合物が、炭酸もしくは重炭酸、リン酸もしくは亜リン酸、クロム酸もしくは重クロム酸、珪酸、バナジン酸、タングステン酸、ジルコン酸、モリブデン酸、の1種、もしくはこれらの2種以上の化合物の塩を含むことを特徴とする。これらの酸素酸塩は、水に対する溶解度も高くかつ安定で、有機樹脂やバインダーに混ぜ込んでも反応を起こしにくいものである。また、これらの化合物はアルカリ中和能を有している。
【0018】
さらに、前記亜鉛系のめっきが5質量%以下のMgを含有することが好ましい。本発明において、Mgの添加は亜鉛系めっき層の耐食性の向上を目的とし、添加量を増加させるほど耐食性の向上が見られる。しかしながら、本発明で規定する5質量%を越えた場合ではめっき層がもろくなって亜鉛系めっき層の密着力が低下し、添加しない場合よりも耐食性が劣化することになる。
【0019】
さらに、前記亜鉛系のめっきが60質量%以下のAlを含有することが好ましい。本発明において、Alの添加は亜鉛系めっき層の耐食性の向上を目的とし、添加量を増加させるほど耐食性の向上が見られる。しかしながら、本発明で規定する60質量%を越えた場合では地鉄に対しての防食機能が低下し、添加しない場合よりも耐食性が劣化することになる。
【0020】
さらに、前記Alを含有するめっき鋼材において、Alの10分の1以下のSiを含有することが好ましい。本発明においてSiの添加はめっき層中のAl−Fe合金層の形成を抑制し、そのことによるめっき層の密着性向上を目的とする。この際のSiの添加量は合金層の形成を抑制するために添加する方がよいが、Alの10質量%以下と規定する。この量を超えて添加してもSiの単独層が析出するだけで、結果的に耐食性を低下させてしまう。
【0021】
さらに本発明では、前記亜鉛系のめっきを施した鋼材が、鋼管、もしくは形鋼、もしくは矢板の1種またはそれらを組み合わせた複合構造体であることを規定する。特に鋼管では送電架線用や照明用の鉄柱、広告塔などである。形鋼では橋梁やビルなどの建築物、矢板では港湾や河川構造物がそれにあたり、かつ、これらを組み合わせた建造物が対象となる。
【0022】
さらに本発明では、前記有機樹脂被覆層が、アクリル樹脂、尿素樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂もしくは、エポキシ樹脂またはその変性物を含む樹脂のいずれかであることを特徴とする。これらの樹脂は一般的に入手しやすく、かつ耐久性とりわけ湿気や光による劣化が少ないことが特徴である。特に本発明においては無機酸素酸塩が水に溶け出すことを防ぐ役割を持つために加水分解を起こしにくい樹脂であることが必要となる。
【0023】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示す。
(実施例1)
図1に示した構成において、下地鋼材をSS400鋼で板厚4.5mm、縦100mm、横70mmの亜鉛めっき鋼材に対し、表2に示したバインダーを1μm塗布し、その上にタールエポキシ塗装を200μm施した。バインダー層、並びに塗装層の長さは50mmで、この中央部をコンクリートに埋め込み、1日1回、0.5%NaCl溶液を散布し、屋外で3か月暴露した。試験後、コンクリート界面を剥離し、その部分の腐食状況を調査した。本発明の比較例では赤錆の発生が認められた。すなわち、本発明の効果が極めて有効であることが示された。
【0024】
【表1】
【0025】
(実施例2)
板厚6mm外径150mm、長さ1mの鋼管、板厚6mmフランジ幅100m、長さ1mのH形鋼にそれぞれ溶融亜鉛めっきを施した。これらを、下端から300mmの部分までコンクリートに埋設した。埋設部の界面より上下150mmの長さの部分にエポキシ樹脂の粉体塗装を厚さ250μm施した。エポキシ樹脂の粉体には、あらかじめ質量%で30%になるようにバナジン酸アンモニウムを混練しておいた。比較材として、亜鉛めっきのLアングル材にタールエポキシ塗料を150μm施したものも同時に埋設した。埋設した箇所は、東京湾の海岸から5mの場所で、1年の暴露期間の後に調査した結果、比較材のコンクリートとめっき鋼材界面で赤錆の発生が見られたが、本発明の鋼材では全く異常が認められなかった。これより本発明の有効性が確認された。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明に示したように、本発明の構造体は、厳しい腐食環境においてもコンクリートと亜鉛系めっき鋼材の界面での腐食が発生せず、長期の耐久性を有する。本発明を用いることにより、長期間劣化することのない構造物が製造でき、社会に対する安全性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた構造体の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 下地鋼材
2 亜鉛系めっき層
3 バインダー層
4 有機樹脂層
5 コンクリート
Claims (9)
- 亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、めっきの表面に無機酸素酸塩の化合物を含む、0.1mol/kgのNaOHに対して、モル比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であるアルカリ中和能を持つバインダー層を介し、その上に有機樹脂被覆層を有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 亜鉛系のめっきを施した鋼材をコンクリートで固定する構造体において、鋼材とコンクリートの界面部をはさんで両側の領域を、アルカリ中和能を持つ無機酸素酸塩の化合物を含む有機樹脂被覆層をめっきとコンクリートの間に有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- アルカリ中和能の指標として、0.1mol/kgのNaOHに対して、モル比で1対1の量の無機酸素酸塩の化合物を添加した際のpHが10以下であることを特徴とする請求項2記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 無機酸素酸塩の化合物が、炭酸もしくは重炭酸、リン酸もしくは亜リン酸、クロム酸もしくは重クロム酸、珪酸、バナジン酸、タングステン酸、ジルコン酸、モリブデン酸、の1種、またはこれらの2種以上の化合物の塩を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 亜鉛系のめっきが5質量%以下のMgを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 亜鉛系のめっきが60質量%以下のAlを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- Alを含有するめっき鋼材において、Alの10分の1以下の質量のSiを含有することを特徴とする請求項6記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 亜鉛系のめっきを施した鋼材が、鋼管、もしくは形鋼、もしくは矢板の1種またはそれらを組み合わせた複合構造体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
- 有機樹脂被覆層が、アクリル樹脂、尿素樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂もしくは、エポキシ樹脂またはその変性物を含む樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼材とコンクリートの複合構造体。
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