JP3901990B2 - α−アミラーゼ活性測定用試薬および測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なα−アミラーゼ活性測定用試薬およびα−アミラーゼ活性測定方法に関する。さらに詳しくは非還元末端グルコースの4位あるいは6位にβ−ガラクトピラノシル基を有するグルコース数が2個のマルトオリゴ糖誘導体を基質とし、試料中に糖類が存在しても、正確な測定値を求めることの可能なα−アミラーゼ活性測定用試薬、ならびに当該試薬を用いるα−アミラーゼ活性測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から膵液や尿などの体液に含有されるα−アミラーゼの活性を測定することにより各種疾患の診断が行われている。
【0003】
試料中のアミラーゼ活性測定にはマルトオリゴ糖の還元性末端にフェニル基、ナフチル基、またはそれらの誘導体を検出物質(アグリコン)として結合させた誘導体を基質とする方法が用いられている。中でも、α−アミラーゼが、マルトオリゴ糖誘導体に作用し、加水分解を起こすことで直接アグリコンを遊離させ、遊離したアグリコンの量を光学的に測定することにより、α−アミラーゼの活性を測定する方法が簡便かつ低コスト で有用である。このような測定法としては、例えば基質としてp−ニトロフェニルマルトトリオシド、2,4−ジクロロフェニルマルトトリオシド、2−クロロ−4−ニトロフェニルマルトトリオシドなどを用いた方法がある。しかし、これらの基質は測定試薬中で、徐々に自然分解をおこしブランク値が上昇するなど安定性の点で問題がある。
【0004】
この欠点を解決した基質として、還元性末端にフェニル基、ナフチル基、またはそれらの誘導体をアグリコンとして結合させたマルトオリゴ糖誘導体の非還元性末端のグルコースの4位および/または6位のヒドロキシル基を何らかの手段で修飾した誘導体が、測定試薬中で非常に安定であり、有用性が高い。
具体例としては、p−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシドなどが上げられる。
【0005】
臨床検査としてα−アミラーゼの活性を測定する場合、試料として、血液、尿、髄液など用いられる。これら生体試料中に患者の治療の目的ため用いられる輸液由来のマルトオリゴ糖や、薬剤由来の糖類が存在すると、存在量に応じα−アミラーゼ活性値が変動し、正確性にかけることが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記α−アミラーゼ活性測定試薬および方法の欠点を解消しようとするものであり、その目的とするところは、試料から持込まれる糖類存在下においても正確な測定値を求めることの可能なα−アミラーゼ活性測定用試薬およびα−アミラーゼ活性測定方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、一般式 (I)
【0008】
【化9】
【0009】
(式中、R1 およびR2 のいずれか一方はβ−ガラクトピラノシル基を示し、他方は水素を示し、R3 はα−アミラーゼによって切断されうる結合を介して還元末端グルコースに結合し、該結合が切断されたとき、測定可能な物質となる基を示す。)で表されるマルトオリゴ糖誘導体を含有し、試料から持込まれる糖類存在下においても正確な測定値を求めることの可能なα−アミラーゼ活性測定用試薬に関する。また本発明は(a)一般式(I)
【0010】
【化10】
【0011】
(式中、R1 およびR2 のいずれか一方はβ−ガラクトピラノシル基を示し、他方は水素を示し、R3 はα−アミラーゼによって切断されうる結合を介して還元末端グルコースに結合し、該結合が切断されたとき、測定可能な物質となる基を示す。)で表されるマルトオリゴ糖誘導体を、α−アミラーゼを含有する試料と接触させて前記マルトオリゴ糖誘導体をα−アミラーゼと反応させ、(b) 遊離した測定可能な物質の量を測定することよりなる糖類存在下においても正確な測定値を求めることの可能な、試料中のα−アミラーゼ活性測定方法に関する。
【0012】
本発明におけるマルトオリゴ糖誘導体(I)の骨格となるマルトオリゴ糖は、マルトースである。マルトオリゴ糖の非還元性末端グルコースの修飾基であるガラクトピラノシル基は、非還元性末端グルコースの4位または6位の水酸基にβ型で結合している。従来、マルトオリゴ糖の非還元性末端グルコースの修飾形態としては、非還元性末端グルコースの6位のヒドロキシル基がグルコピラノシル基で修飾されたタイプの基質、あるいは4位または6位のヒドロキシル基をアルキル基、アルコイル基またはフェニル基で置換したタイプの基質などがあるが、これらの修飾基は天然の基質にはない構造のものであり、アミラーゼとの親和性を考慮した場合、ガラクトピラノシル基は前述の修飾基より優れている。
【0013】
マルトオリゴ糖の還元性末端には、α−アミラーゼによって切断されうる結合を介して還元性末端グルコースに結合し、該結合が切断されたとき、測定可能な物質となる基R3 (以後アグリコンともいう)を有している。R3 は還元性末端グルコースの1位水酸基にグリコシド結合を介して結合しており、該グリコシド結合はα型である。R3 で表される基としては、例えばp−ニトロフェニル、o−ニトロフェニル、2−クロロ−4−ニトロフェニル、2,4−ジクロロフェニルなどの置換フェニル基、4−メチルウンベリフェリルなどの蛍光性基などが挙げられる。α−アミラーゼの至適pHであるpH6〜8付近における測定感度を考慮した場合、2−クロロ−4−ニトロフェニルが優れている。
【0014】
本発明に使用する一般式(I)で表されるマルトオリゴ糖誘導体としては、具体的には、一般式(V)
【0015】
【化11】
【0016】
(式中、R1 、R2は前記と同意義であり、R7 は水素、またはハロゲン、炭素原子数1〜6のアルキル基、−OR8 および−COOR8 (R8 は炭素原子数1〜6のアルキル基を示す)よりなる群から選ばれた置換基を示す。)で表される化合物が挙げられる。本明細書においてハロゲンとはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。アルキル基は直鎖状または分枝鎖状のいずれでもよく、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第3級ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが挙げられ、好ましくは炭素数1〜4である。
【0017】
一般式(I)で表されるマルトオリゴ糖誘導体としては、さらに具体的には、2−クロロ−4−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシド、p−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシド、などが挙げられる。好ましくは2−クロロ−4−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシドである。
【0018】
本発明で使用するマルトオリゴ糖誘導体(I)は、特開平3−264596号公報に記載の方法など種々の公知の方法で製造することができる。例えば、還元末端グルコースに2−クロロ−4−ニトロフェノールを結合したマルトオリゴ糖誘導体 (VI)
【0019】
【化12】
【0020】
とラクトースをβ−ガラクトシダーゼ共存下に反応させてマルトオリゴ糖誘導体 (VI) の非還元性末端にβ−ガラクトピラノシル基を導入することにより製造することができる。
【0021】
また別法としては、マルトースであるマルトオリゴ糖およびラクトースを用いてβ−ガラクトシダーゼによりマルトオリゴ糖の非還元性末端にβ−ガラクトピラノシル基を導入して合成したガラクトピラノシルマルトオリゴ糖に、塩基触媒(ピリジンもしくは酢酸ナトリウムなど)の存在下、無水酢酸中で室温あるいは加温してアセチル化し、ガラクトピラノシルマルトオリゴ糖保護体とする。次いで無機溶媒の存在下、もしくは無溶媒下、アルカリおよび無水酢酸およびフェノール類、例えば2−クロロ−4−ニトロフェノールとともに加熱して還元性末端をフェノール類により修飾し、最後にメタノール中、触媒量のナトリウムメチラートによる公知の脱保護反応により、目的であるガラクトピラノシルマルトオリゴ糖誘導体を製造する方法がある。
【0022】
本発明のα−アミラーゼ活性測定用試薬は、上記マルトオリゴ糖誘導体(I)を基質として含有し、測定試料から測定系に持込まれる糖類存在下においても正確な測定値を求めることが可能であることを特徴とする。
【0023】
本発明においてアミラーゼ活性測定値の正確性を損なう糖類とは、マルトース、トリオース、テトラオースなどが含まれる。これら糖類をアミラーゼ活性測定試薬中に含有させることで測定値の正確性を保つことが可能である。これら糖類の試薬中の含有量としては1〜5000mg/Lが好ましい。糖類については、上記に限定されるものではない。
【0024】
本発明において、添加されうる酵素としては、α−グルコシダーゼ、ガラクトアミラーゼ、β−グルコシダーゼなどが上げられる。望ましくはα−グルコシダーゼが好ましい。これら酵素をアミラーゼ活性測定試薬中に含有させることで測定値の正確性を保つことが可能である。これら酵素は微生物、植物、動物由来のものを用いることが可能である、これら酵素の試薬中の含有量としては、0.01〜1000U/Lが好ましい。酵素の種類、由来については、上記に限定されるものではない。
【0025】
本発明のα−アミラーゼ活性測定用試薬は、必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては界面活性剤、安定化剤、防腐剤、キレート剤などが挙げられる。また本発明の測定試薬は基質を溶解した緩衝液も包含してもよい。該緩衝液としては、PIPES、MES緩衝液等のグッド緩衝液をはじめ、弱酸性〜弱アルカリ性付近に緩衝能を有する各種緩衝液が用いられる。
【0026】
本発明のα−アミラーゼ活性測定方法は、 前記マルトオリゴ糖誘導体(I)を、α−アミラーゼを含有する試料と接触させて前記マルトオリゴ糖誘導体とα−アミラーゼを反応させ、(2) 遊離した測定可能な物質の量を測定することよりなる。
【0027】
マルトオリゴ糖誘導体とα−アミラーゼの反応は、マルトオリゴ糖誘導体を基質とする従来のα−アミラーゼ活性測定と同様の条件下で行えばよい。例えば反応温度25〜40℃、pH6〜8にて、約1〜20分間反応を行う。
【0028】
試料中のα−アミラーゼの作用によりマルトオリゴ糖誘導体から遊離したアグリコンがそれ自体で吸光度を示す化合物であれば、遊離後、吸光度測定を行う。またアグリコンが蛍光物質である場合は、遊離後、蛍光度測定を行う。アグリコンが2−クロロ−4−ニトロフェノールである場合は、400nm付近における吸光度の変化を測定する。
【0029】
本発明のα−アミラーゼ活性測定用試薬を使用する測定方法における基質分解の反応式を2−クロロ−4−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシドを基質とする場合を例にあげて説明する。
【0030】
【式1】
【0031】
上記反応にて遊離したアグリコン部分を適当な手段により測定することによってα−アミラーゼの活性を測定することができる。上記例では遊離する2−クロロ−4−ニトロフェノールの吸収スペクトルを直接測定する。2−クロロ−4−ニトロフェノールの測定方法としては、α−アミラーゼの反応を連続的に追跡するレート法および一定時間反応させた後、反応を止めて測定するエンドポイント法のいずれもが使用されうる。
【0032】
本発明のα−アミラーゼ活性測定用試薬は体液中のα−アミラーゼ活性測定に限らず、α−アミラーゼ活性を測定することにより試料中のカルシウムイオン、塩素イオンなどを測定する方法にも適用可能である。
【0033】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
実施例1 下記組成からなるα−アミラーゼ活性測定試薬をそれぞれ調製した(実施組成1、2および比較組成1)。
50mMグッドバッファー(pH6.0)
5mM CaCl2
300mM NaCl
150mM KSCN
2.5mM 2−クロロ−4−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシド
実施組成1として上記試薬に、α−グルコシダーゼ(微生物由来)を20U/L添加した組成を調製した。
実施組成2として上記試薬に、マルトース400mg/Lを添加した組成を調製した。
比較組成1としては上記試薬をそのまま使用した。
測定試料として、人血清および同一の人血清にマルトースを5g/dL添加した試料を調製した。
【0034】
各試薬3mLに試料をそれぞれ0.05mL添加し、37℃にて3分間放置したのち、405nmにおける吸光度の変化を測定し、1分間当りの吸光度の変化を算出した。マルトース非添加血清とマルトース添加血清の吸光度変化量は、それぞれの1分間当りの吸光度の変化から生理食塩水の1分間当りの吸光度の変化を差し引いてもとめた。その結果を表1に示した。
【0035】
表1に示したように、実施組成1および2と、比較組成1との比較から、α−グルコシダーゼ添加試薬およびマルトース添加試薬において、マルトース含有試料においても正確にアミラーゼ活性測定が行われることがわかる。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2 下記組成からなるα−アミラーゼ活性測定試薬をそれぞれ調製した(実施組成3、4および比較組成2)。
実施組成3として上記第一試薬に、α−グルコシダーゼ(微生物由来)を20U/L添加した組成を調製した。
実施組成4として上記第一試薬に、マルトース400mg/Lを添加した組成を調製した。
比較組成2としては上記試薬をそのまま使用した。
測定試料として、生理食塩水、人血清および同一の人血清にマルトースを5g/dL添加した試料を調製した。
【0038】
第一試薬各試薬1.8mLに試料をそれぞれ0.04mL添加し、37℃にて3分間放置したのち、第二試薬0.6mLを添加し、さらに37℃にて3分間放置したのち、405nmにおける吸光度の変化を測定し、1分間当りの吸光度の変化を算出した。マルトース非添加血清とマルトース添加血清の吸光度変化量は、それぞれの1分間当りの吸光度の変化から生理食塩水の1分間当りの吸光度の変化を差し引いてもとめた。その結果を表2に示した。
【0039】
表2に示したように、実施組成3および4と、比較組成2との比較から、α−グルコシダーゼ添加試薬およびマルトース添加試薬において、マルトース含有試料においても正確にアミラーゼ活性測定が行われることがわかる。
【0040】
【表2】
【0041】
実施例3 下記組成からなるα−アミラーゼ活性測定試薬をそれぞれ調製した(実施組成5および比較組成3)。
実施組成5は上記第一試薬および第二試薬をそのまま使用した。
比較組成3として上記第二試薬中の、2−クロロ−4−ニトロフェニル 4−O−β−D−ガラクトピラノシル−α−マルトシドマルトースを2−クロロ−4−ニトロフェニルマルトトリオシドに変更した組成を調製した。
測定試料として、生理食塩水、人血清および同一の人血清にマルトースを5g/dL添加した試料を調製した。
【0042】
第一試薬各試薬1.8mLに試料をそれぞれ0.04mL添加し、37℃にて3分間放置したのち、第二試薬0.6mLを添加し、さらに37℃にて3分間放置したのち、405nmにおける吸光度の変化を測定し、1分間当りの吸光度の変化を算出した。その結果を表2に示した。マルトース非添加血清とマルトース添加血清の吸光度変化量を比較した。
【0043】
表3に示したように、実施組成5と、比較組成3との比較から、非還元性末端を修飾していない2−クロロ−4−ニトロフェニルマルトトリオシドを使用した場合にはα−グルコシダーゼが基質を分解し、ブランク反応が大きくなり、正確にアミラーゼ活性測定が行われないことがわかる。
【0044】
【表3】
【0045】
【発明の効果】
本発明の試薬および測定方法は、酵素または糖類添加により、試料から持込まれる糖類存在下においても正確な測定値を求めることが可能である。
Claims (12)
- 酵素を含有することを特徴とする請求項1に記載の試薬。
- マルトオリゴ糖を分解する酵素であることを特徴とする請求項2に記載の試薬。
- 酵素がα−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項3記載の試薬。
- 糖類を含有することを特徴とする請求項1に記載の試薬。
- 酵素を含有することを特徴とする請求項7に記載の測定方法。
- マルトオリゴ糖を分解する酵素であることを特徴とする請求項8に記載の試薬。
- 酵素がα−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項9記載の測定方法。
- 糖類を含有することを特徴とする請求項7に記載の測定方法。
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