JP3890951B2 - コンデンサの良否判定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンデンサ、特に、高誘電率磁器を用いた大容量セラミックコンデンサに対して最適に実施することができる良否判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンデンサにおいては、直流電圧の印加により充電が進行している間は大きな充電時電流が流れる。理想的なコンデンサでは、充電が完了すると電流は全く流れなくなる。しかしながら、現実のコンデンサでは、充電が完了してもさらに電流が流れ続ける。これは、現実のコンデンサの絶縁抵抗が有限値であるために生じる現象である。このような現象は、・絶縁抵抗を流れる電流により熱が発生する、・電力の無駄な消費になる等の理由で好ましくないだけでなく、絶縁抵抗の低いコンデンサにおいては、将来的にみて短絡などの故障を起こしやすくなる等、継続使用する際において危険性を伴うものですらある。
【0003】
以上の観点に基づいてセラミックコンデンサの良否を判定する方法として、絶縁抵抗試験がある。この試験は、次のように実施される。
【0004】
製造したコンデンサに対して、所定の充電期間、直流電圧を印加することで充電する。充電終了後、さらに電圧印加を維持した状態でコンデンサの漏洩電流成分を測定する。そして、印加電圧E(V)、漏洩電流成分I(A)から、絶縁抵抗R(Ω)=E/Iを求める。
【0005】
そして、算出した絶縁抵抗R(Ω)を所定の閾値と比較し、絶縁抵抗の方が高い場合にそのコンデンサを良品と判定し、低い場合に不良品と判定する。前記閾値は、コンデンサの種類毎にJIS規格等により予め規定されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
近年の積層コンデンサの大容量化に伴い、コンデンサの充電時間が長時間化している。そのため、コンデンサに直流電圧を印加してから実際に絶縁抵抗を測定可能になるまでに長い時間を要し、結果として単位時間当たりに検査できるコンデンサ数が少なくならざるを得ない。
【0007】
これに対してJIS規格等においては、単位時間当たりの検査数の減少を抑えるために次のような処理を認めている。、充電用の直流電圧を印加したのち60秒経過した時点における充電時電流を測定し、測定電流値に基づいて上述した絶縁抵抗R(Ω)を予測することをJIS規格等は許可している。
【0008】
しかしながら、このような処理を行うにしても、一つのコンデンサの検査時間に60秒という製造ライン上においては長時間といわざるを得ない時間を要し、このことがコンデンサの製造時間の短縮や製造コストの削減を行ううえで隘路となっていた。
【0009】
したがって、本発明の主たる目的は、検査時間の短縮化を図ることで、製造時間の短縮および製造コストの削減を行うことができるコンデンサの良否判定方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するためには、本発明のコンデンサの良否判定方法は次の構成を有している。
【0011】
本発明の請求項1は、充電時のコンデンサに生じる電流を時間経過による電流変化が互いに異なる複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成する近似式作成ステップと、
コンデンサの良否判定の基準となる判定基準特性成分を前記複数の電流成分から抽出し、その判定基準特性成分の良否判定条件を前記近似式に基づいて設定する良否判定条件設定ステップと、
測定により得た判定対象コンデンサの充電時電流中に含まれる判定基準特性成分を前記良否判定条件に照合することで、判定対象コンデンサの良否を判定する判定ステップと、
を含んでいる。
【0012】
このような構成を有することで、次のような作用を有する。すなわち、予め、良否判定に用いる電気特性の時間変化を高精度に予測することができ、これにより、コンデンサの良否判定にとって最適かつ最速の条件を求めることができるようになる。
【0014】
また、請求項2に記載したように、前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分の判定閾値を前記良否判定条件として設定するステップであり、
前記判定ステップは、前記判定対象コンデンサの測定により得られる前記電流から抽出する判定基準特性成分と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップであるのが好ましい。
【0015】
また、請求項3に記載したように、前記近似式作成ステップは、充電時のコンデンサに生じる充電時電流を時間経過による電流変化が互いに異なり、かつその一つとしてコンデンサの漏洩電流成分を含む複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分として前記漏洩電流成分を抽出したうえで、前記漏洩電流成分の前記判定閾値を前記近似式に基づいて設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定により得た判定対象コンデンサの充電時電流中に含まれる漏洩電流成分と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップであるのが好ましい。これは、コンデンサの良否判定基準として、漏洩電流成分が適しているためである。
【0016】
また、請求項4に記載したように、前記近似式作成ステップは、充電時のコンデンサに生じる充電時電流を、時間経過による電流変化が互いに異なり、かつその一つとしてコンデンサの漏洩電流成分を含む複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分として、コンデンサの製品良否に起因して生じる前記漏洩電流成分の変動の影響を受けてその値が変化する充電電流を推定したうえで、この充電電流の推定値の前記判定閾値を前記近似式に基づいて設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定により得た判定対象コンデンサの充電電流と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップであるのが好ましい。そうすれば、漏洩電流時間に基づく判定に要する時間よりも、判定に要する時間を短くすることができる。
【0017】
また、請求項5に記載したように、前記近似式作成ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件における前記近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件における前記判定基準特性成分の良否判定条件を設定するステップであり、
前記判定ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件において測定対象コンデンサの電流を測定するステップであるのが好ましい。そうすれば、さらに判定に要する時間をさらに短くすることができる。
【0018】
また、請求項6に記載したように、前記近似式作成ステップは、測定対象コンデンサに印加可能な略最大電圧を印加した状態における前記近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、測定対象コンデンサに前記略最大電圧を印加した状態における前記判定基準特性成分の良否判定条件を設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定対象コンデンサに前記略最大電圧を印加した状態でその電流を測定するステップであるのが好ましい。そうすれば、次のような作用を発揮することができる。すなわち、略最大電圧を印加した状態においては、充電に要する時間が略最短となる。本発明では、その状態における判定基準特性成分の良否判定条件を設定することで、良否判定に要する時間を短くすることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
実施の形態1
まず、本実施形態において着目したコンデンサの充電特性について説明する。なお、充電特性とは、電圧を印加することでコンデンサに流れる電流量の時間変化を示し、以下、この時間変化を測定することを充電特性の測定という。
【0020】
本願発明者は、コンデンサの充電過程の詳細な検討に基づいて、コンデンサを充電する際に流れる電流(以下、充電時電流という)iallが、電流成分icap,電流成分ilineおよび漏洩電流成分ileakという複数の電流成分の組合せにより構成されていることを見出すとともに、充電時電流iallが次の(1)式により求められることを見出した。
iall=icap+iline+ileak…(1)
なお、電流成分icapは、真の容量成分に基づいてコンデンサに流れる電流成分であり、電流成分ilineは、コンデンサを構成する誘電体に対して充電される際に流れる電流成分であり、漏洩電流成分ileakは、コンデンサの構造上の不具合等により生じる漏洩電流成分である。
【0021】
また、電流成分icap、iline、およびileakは、次の(2)〜(4)式に示す近似式により求められることも見出した。
【0022】
icap=ae-bt…(2)
iline=ct-f…(3)
ileak=g …(4)
t:電流印加開始後の経過時間
e:自然対数の底(≒2.71828)
a、b、c、f、g:各コンデンサの諸特性により決定される定数
なお、定数a、b、c、f、gは、多数のサンプル(コンデンサ)の充電特性を10ms以下の短い時間間隔にて測定したうえで、そのデータを、最適化法等を用いてコンピュータで繰り返し演算することで算定できる。
【0023】
本実施形態では、このような着眼点に基づいて、まず、測定対象コンデンサの充電特性について、その充電特性を構成する各電流成分icap、iline、ileakの近似式を作成する。
【0024】
各電流成分icap、iline、ileakの近似式を作成した充電時電流iallの時間変化を具象化したグラフを図1に示す。図1は、一定の温度環境(例えば、室温)中において一定電圧(例えば、16V)を印加したコンデンサの充電特性(充電時電流iallの時間変化)を示しており、図中、横軸は時間(対数値)tを示し、縦軸は電流(対数値)を示している。
【0025】
図1に示すように、コンデンサの充電特性においては、第1の時間領域tcapと、第2の時間領域tlineと、第3の時間領域tleakとが存在する。これらの時間領域においては、第1の時間領域tcapが時間的に最も早く、次いで、第2の時間領域tlineが続き、最後に第3の時間領域tleakが続く位置関係となっている。
【0026】
第1の時間領域tcapは、電流成分icapが、他の電流成分と比較して最も多く出現する時間領域であって、この時間領域tcapにおける充電時電流iall(対数)は、時間(対数)の経過に伴った電流成分icapの量的変化(上述した(2)式参照)に従って略放物線を描いて減少する。
【0027】
第2の時間領域tlineは、電流成分icapが可及的にゼロに収束し、換わって電流成分ilineが他の電流成分と比較して最も多く出現する時間領域であって、この時間領域tlineにおける充電時電流iall(対数)は、時間(対数)の経過に伴った電流成分ilineの量的変化(上述した(3)式参照)に従って略直線的に減少する。
【0028】
第3の時間領域tleakは、電流成分ilineが可及的にゼロに収束し、換わって漏洩電流成分ileakが他の電流成分と比較して最も多く出現する時間領域であって、この時間領域tleakにおける充電時電流iall(対数)は、時間の経過に関係なくそのコンデンサ特有の漏洩電流成分ileakが流れる(上述した(4)式参照)ため、電流値は常時略一定となる。
【0029】
ここで、漏洩電流成分ileakは、上述したように、充電時に生じる電流成分icapや電流成分ilineが可及的にゼロに収束したのちの時間領域である第3の時間領域tleakになって初めて電流の主成分を構成する。そのため、従来の良否判定方法では、第3の時間領域tleakになるのを待って電流を計測することで漏洩電流成分ileakを測定しており、そのために、判定基準特性成分である漏洩電流成分ileakの測定(絶縁抵抗の算定)に比較的長い時間を要していた。
【0030】
このような充電特性を有するコンデンサにおいて、本願発明者は、上述した(1)〜(4)の式を詳細に検討することで、コンデンサの充電特性には次に説明する第1、第2の特徴が存在することを見出した。
【0031】
まず、第1の特徴を説明する。印加電圧Vを同一にするという条件において仮想良品コンデンサおよび仮想不良品コンデンサの充電特性を上記(1)〜(4)の式に基づいてシミュレーションする場合には、両者(良品/不良品)の充電特性の間には漏洩電流成分ileakの値に差が生じるものの、電流成分icapや電流成分ilineの値に差は生じない。
【0032】
このような第1の特徴に基づいてコンデンサの充電特性を検討してみると、次のことがわかる。良否判定の閾値となる漏洩電流成分ileakの値が定まれば、任意の印加電圧Vを印加する際における良否判定の閾値となるコンデンサ(以下、仮想閾値コンデンサという)の充電特性は、上記(1)〜(4)の式に基づいてシミュレーションすることができる。
【0033】
次に、第2の特徴を説明する。本願発明者は、各電流成分(icap、iline、ileak)と印加電圧Vとの関係を最小二乗法などの方法によって近似式に表すことで、コンデンサにおいては、印加電圧Vを大きくすれば、充電時電流は増大し、その際において電圧に対する各電流成分(icap、iline、ileak)の電流上昇率RIは互いに大きく異なることを見出した。
【0034】
つまり、電流成分ilineの電流上昇率RI[iline]と漏洩電流成分ileakの電流上昇率RI[ileak]とを比較すれば、RI[iline]よりRI[ileak]の方が格段に大きい(RI[iline]<RI[ileak])。
【0035】
なお、近似式としては、指数(Aexp[BV]の関係)や累乗(AVBの関係)や多項式(A+BV2+CV3+…)を用いて算定することができるが、他の式でもよく、係数の導出は専用のコンピュータプログラムによって算定しても、表計算ソフトウエアなどの近似式導出機能を用いて算定してもよい。
【0036】
このような第2の特徴についてさらに詳細に説明する。図2のグラフは、印加電圧Vと電流上昇率RIとの関係の一例を示している。図2は、定格電圧(ここでは、16V)の積層セラミックコンデンサにおける良品に対して、一定の環境温度(例えば、室温)で各種の印加電圧(16V、32V、48V、64V、…)を印加しつつ充電した際における充電特性を測定することで得た電流成分ilineおよび漏洩電流成分ileakの電流1秒値の変化を示している。図2では、横軸を印加電圧とし、縦軸を電流の1秒値(対数値)としている。
【0037】
図2におけるデータを累乗近似式に表すと次のようになる。電流成分ilineにおける電流1秒値をyとし、印加電圧Vをxとした場合には、これらの間には次の(5)式が累乗近似する。
y=6.1E−11x3.5E+00…(5)
同様に、漏洩電流成分ileakにおける電流1秒値をyとし、印加電圧Vをxとした場合には、これらの間には次の(6)式が累乗近似する。
y=2.4E−15x5.5E+00…(6)
このように、上述した(5)、(6)の式にxの値(印加電圧V)を代入することで、印加電圧Vを印加した際における電流成分iline、漏洩電流成分ileakの値を近似的に求めることができる。つまり、上述した(5)、(6)の式を用いれば、各印加電圧Vに対する電流成分ilineや漏洩電流成分ileakを、近似的にシミュレーションすることが可能となる。
【0038】
図2のグラフおよび上述した(5)、(6)の式から明らかなように、電流成分ilineの電流上昇率RI[iline]に比べて漏洩電流成分ileakの電流上昇率RI[ileak]が大きい。なお、図2においては、各電流成分(iline、ileak)の特性曲線における傾斜(直線と見なした場合の方向係数)が電流上昇率RIを示している。
【0039】
このような第2の特徴に基づいてコンデンサの充電特性を検討してみると、コンデンサの良否判定においては、印加電圧Vを上昇させることで、判定時間の短縮化が図れることがわかる。以下、その理由を詳細に説明する。
【0040】
印加電圧Vを種々変化させた状態で、その電圧における仮想閾値コンデンサの充電特性を、上述した第1の特徴に基づいてシミュレーションした結果の一例を図3に示す。このシミュレーションは次のように実施する。JIS等の規格においては、定格電圧Vstdにおける絶縁抵抗として良否判定の閾値が規定されている。まず、その閾値(絶縁抵抗)から定格電圧Vstdにおける漏洩電流成分ileakの閾値Sstdを算定し、算定した閾値Sstdを上述した(4)の式における変数gに代入する。さらには、定格電圧Vstdにおける(1)〜(3)式の変数a、b、c、fを求める。これにより、定格電圧Vstdにおける仮想閾値コンデンサの充電特性をシミュレーションする。
【0041】
次に、印加電圧Vを定格電圧stdから任意の量だけ上昇させた電圧(以下、電圧Vaという)を設定するととに、測定と解析により測定対象コンデンサにおける上記(5)、(6)式を予め作成しておく。そのうえで、作成した(5)式に電圧Vaを代入することで、電圧Vaにおける仮想閾値コンデンサの電流成分iline(a)をシミュレーションする。
【0042】
次に、作成した(6)式に電圧Vaを代入することで、電圧Vaにおける仮想閾値コンデンサの漏洩電流成分ileak(a)を算定する。漏洩電流成分ileak(a)は、電圧Vaにおける良否判定用の閾値Sa、すなわち、良否判定条件として機能する。
【0043】
仮想閾値コンデンサの漏洩電流成分ileak(a)は例えば次にようにして算定する。ここでは、漏洩電流成分ileakと電流成分ilineとの間において、電圧/電流1秒値の特性に図2に示す関係を有するコンデンサを例にして、電圧Vaを80Vとした場合における漏洩電流成分ileak(a)の算定方法を説明する。
【0044】
コンデンサの良否判定基準として規格化されている絶縁抵抗試験においては、定格電圧Vstd(=16V)では絶縁抵抗値1.6GΩが良否を判定する閾値となる。これによれば、定格電圧Vstdにおける閾値Sstdを示す仮想閾値コンデンサの漏洩電流成分ileak(std)は、10nAとなる。
【0045】
一方、図2に示す特性を有するコンデンサにおいては、漏洩電流成分ileakの1秒値(y)と印加電圧(V)との間には、上述した(6)の式に示す関係がある。この(6)式によれば、漏洩電流成分ileakは、印加電圧Vの5.5乗に比例することがわかる。したがって、電圧Vaを80Vとした場合における漏洩電流成分ileak(a)は、
ileak(a)=10nA×(80/16)5.5=69.9μA
と算定できる。ただし、電流測定器の測定精度を鑑みれば、漏洩電流成分ileak(a)は69μAと設定するのが妥当である。
【0046】
このようにして電圧Vaにおける仮想閾値コンデンサの電流成分iline(a)および漏洩電流成分ileak(a)(良否判定条件)を算定したのち、これらの電流成分を合成することで、電圧Vaにおける仮想閾値コンデンサの充電特性をシミュレーションする。なお、電流成分icap(a)については、良否判定に用いないので算定する必要はない。
【0047】
図3では、定格電圧Vstdが16Vである積層セラミックコンデンサにおいて想定した仮想閾値コンデンサに対して定格電圧Vstd(=16V)を印加した状態での充電特性のシミュレーション結果を示すとともに、同一の仮想閾値コンデンサに対して印加電圧Vaを80Vに設定した状態での充電特性のシミュレーション結果を示している。
【0048】
図3において、点Astdは、定格電圧Vstd(=16V)印加時の充電特性において第2の時間領域tlineから第3の時間領域tleakに変わる変換点(以下、第2−第3の時間領域変換点という)を示しており、点Aaは、電圧Va(=80V)印加時の充電特性における第2−第3の時間領域変換点Aを示している。
【0049】
図3のグラフを詳細に検討してみると次のことが理解できる。第2−第3の時間領域変換点Astd、Aaの時間的位置を比較すると、変換点Astdより変換点Aaの方が時間的に早くなっている(すなわち、電圧印加開始時点に近づく)。
【0050】
これは、次のような理由によっている。上述した第2の特徴で説明したように電流上昇率RIでは、RI[iline]<RI[ileak]であるため、印加電圧Vを上昇させると、第2の時間領域tlineにおける電流の上昇度合より第3の時間領域tleakにおける電流上昇度合の方が大きくなる。そのため、印加電圧Vを上昇させると、第2−第3の時間領域変換点Aが電圧印加開始時点側に押しやられる。その結果、変換点Aaが変換点Astdより時間的に早くなる。
【0051】
以上説明したステップを経たのち、本実施形態では、次のようにして良否判定することで、その判定に要する時間を短縮化している。すなわち、測定対象コンデンサに対して印加電圧Vaを印加した状態で、変換点Aa経過直後の電流を測定することで、漏洩電流成分ileak(a)を測定する。そして、測定した漏洩電流成分ileak(a)を閾値Saと比較することで、測定対象コンデンサの良否を判定する。ここで、漏洩電流成分ileak(a)が閾値Saより小さい場合には良品と判定し、反対に大きい場合には、不良品と判定する。
【0052】
この場合、上述したように、変換点Aaが変換点Astdより時間的に早くなる分、測定対象コンデンサの漏洩電流成分ileakを測定する時間が短縮されて、良否判定に要する時間が短縮化される。なお、変換点変換点Aaは、シミュレーションした仮想閾値コンデンサの充電特性から読み取ることができるし、計算により算定することもできる。
【0053】
測定対象コンデンサの漏洩電流成分ileakを測定する時間は、印加電圧Vaを上昇させればさせるほど短くすることができる。しかしながら、印加電圧Vaが測定対象コンデンサの降伏電圧以上になるとコンデンサが損傷する危険性がある。そのため、印加電圧Vaは、測定対象コンデンサの降伏電圧以下であってコンデンサが損傷しない程度の値に設定するのが好ましい。
【0054】
このようにして良否を判定すれば、第2−第3の時間領域変換点Aaが第2−第3の時間領域変換点Astdより時間的に早くなる分、各測定対象コンデンサの良否判定に要する時間を短縮化することができる。
実施の形態2
実施の形態1では、印加電圧Vaを可能なかぎり高く設定することで、第2−第3の時間領域変換点Aaを第2−第3の時間領域変換点Astdより時間的に早くし、これによって良否判定に要する時間を短縮化していた。しかしながら、実施の形態1の方法においては、漏洩電流成分ileak(a)と閾値Saとの比較に基づいてコンデンサの良否を判定しており、時間的に漏洩電流成分ileak(a)が測定可能となるまで良否が判定できない。
【0055】
しかしながら、コンデンサにおいては、漏洩電流成分ileakが上昇すると、充電電流が、漏洩電流成分ileakの上昇を受けて第2の時間領域tlineの後半期間における電流成分ilineよりも若干ながら上昇する。そのため、不良品コンデンサの充電特性は、良品コンデンサの充電特性に対して第2の時間領域tlineの後半期間から徐々に乖離していく。
【0056】
本実施形態ではこのことに着目し、第2の時間領域tlineの後半期間における電流成分ilineの上昇を検出することで良否判定を実施しており、これにより判定時間の短縮化を図っている。
【0057】
以下、本実施形態の良否判定方法を詳細に説明する。まず、予め設定した印加電圧Vbを印加した状態における仮想良品コンデンサの充電特性をシミュレーションするとともに、前記印加電圧Vbを印加した状態で漏洩電流成分ileak(b)が良否判定の閾値Sbを示す仮想閾値コンデンサの充電特性をシミュレーションする。印加電圧Vbにおける閾値Sbの設定、閾値Sbを示す仮想閾値コンデンサの充電特性のシミュレーション法、および仮想良品コンデンサの充電特性のシミュレーション法は実施の形態1において、仮想閾値コンデンサの印加電圧Vaの設定、および充電特性のシミュレーション法として説明したのと同様であるので、ここでは、その説明は省略する。
【0058】
仮想良品コンデンサおよび仮想閾値コンデンサの充電特性の一例を図4に示す。 図4は、印加電圧Vbと閾値Sbとを、Vb=80V、閾値Sb=69μAとした定格電圧16Vの積層セラミックコンデンサの充電特性である。
【0059】
図4に示すように、仮想閾値コンデンサの充電特性には、第2の時間領域tlineの後半期間において、仮想良品コンデンサの充電特性との間に、上述した特性乖離に基づく電流値上昇が既に生じている。本実施形態では、この電流値上昇を測定することで良否を判定する。
【0060】
このような良否判定方法においては、仮想良品コンデンサの充電特性と仮想閾値コンデンサの充電特性との間にどれだけの電流相違量が生じれば不良であると判定することができるのかが問題となる。この問題は電流測定器の測定誤差を基準にして解決することができる。本実施形態では、このような見地に基づいて、仮想良品コンデンサの充電特性(電流値)に対して、仮想閾値コンデンサの充電特性(電流値)が10%以上相違した時点で良否判定可能としている。しかしながら、電流測定器の測定誤差によっては、それ以外の電流相違量が相違した時点を良否判定可能時点にしてもよいのはいうまでもない。
【0061】
図4の仮想良品/仮想閾値コンデンサの充電特性において両コンデンサの充電特性に10%の相違が生じる時点を時点Bとし、さらには、時点Bにおける仮想閾値コンデンサが示す電流値を本実施形態における閾値Scとする。そうすると、時点Bは、仮想閾値コンデンサの第2−第3の時間領域変換点Acより時間的に早い時点となる。
【0062】
時点Bと閾値Scとを特定したのち、各測定サンプルの充電特性を測定することで良否判定を実施する。その際、時点Bにおける電流値を測定し、その測定電流値が閾値Sc以下であれば、そのサンプルを良品と判定し、反対に閾値Sc以上であれば、そのサンプルを不良品と判定する。
【0063】
なお、本実施形態における印加電圧Vbを、実施の形態1と同様に可能なかぎり高く設定すれば、実施の形態1における良否判定に要する時間の短縮化とあいまってさらに良否判定に要する時間を短縮することができる。
【0064】
以上説明した実施の形態1,2の良否判定方法は、図5に示す良否判定装置により装置化することができる。この良否判定装置は、コンデンサからなるサンプルUを測定時に把持するサンプル把持部1と、サンプルUに印加電圧Vを印加する電圧印加部2と、印加電圧Vを印加した際におけるサンプルUの電流を測定する電流測定部3と、電圧印加部2と電流測定部3との動作を制御する制御部4と、電流測定部3が測定した測定電流に基づいて良否を判定する判定部5とを備えている。
【0065】
この良否判定装置は、判定部5において、実施の形態1ないし実施の形態2の良否判定方法に基づいてサンプルUの良否を判定する。
【0066】
ところで、上述した実施の形態1、2では、充電特性の調整のために、印加電圧Vを変動させていた。しかしながら、充電時の環境温度の調整によっても充電特性を調整することができる。そのため、環境温度を調整する(具体的に昇温する)ことで、第2−第3の時間領域変換点Aを時間的に早くすることもできる。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、最短の時間で良否を判定することができるようになる。また、最短の時間で良否を判定できる各種条件を比較的簡単に設定することもできるようになる。これにより、例えば、製品ロットごとに最適な良否判定条件を設定することもできる。さらには、設定した判定条件を良否判定装置に与えることで良否判定装置の運転条件を自動的に設定することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1におけるコンデンサの充電特性の時間変化を示すグラフである。
【図2】印加電圧Vと電流上昇率RIとの関係の一例を示すグラフである。
【図3】仮想閾値コンデンサに定格電圧Vstdを印加した状態での充電特性のシミュレーション結果と、仮想閾値コンデンサに対して印加電圧Vaを印加した状態での充電特性のシミュレーション結果とを示すグラフである。
【図4】実施の形態2における仮想良品コンデンサおよび仮想閾値コンデンサの充電特性の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の良否判定方法を実現した良否判定装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
iall :電流 icap:電流成分 iline:電流成分 ileak:漏洩電流成分
tcap:第1の時間領域
tline:第2の時間領域 tleak:第3の時間領域
V:印加電圧 RI:電流上昇率
Vstd:定格電圧 Vmax:略最大印加可能電圧
Astd 、Aa:第2−第3の時間領域変換点 S:閾値
Claims (6)
- 充電時のコンデンサに生じる電流を、時間経過による電流変化が互いに異なる複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成する近似式作成ステップと、
コンデンサの良否判定の基準となる判定基準特性成分を前記複数の電流成分から抽出し、その判定基準特性成分の良否判定条件を前記近似式に基づいて設定する良否判定条件設定ステップと、
測定により得た判定対象コンデンサの充電時電流中に含まれる判定基準特性成分を前記良否判定条件に照合することで、判定対象コンデンサの良否を判定する判定ステップと、
を含むことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。 - 請求項1に記載のコンデンサの良否判定方法において、
前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分の判定閾値を前記良否判定条件として設定するステップであり、
前記判定ステップは、前記判定対象コンデンサの測定により得られる前記電流から抽出する判定基準特性成分と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップである、
ことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。 - 請求項2に記載のコンデンサの良否判定方法において、
前記近似式作成ステップは、充電時のコンデンサに生じる充電時電流を時間経過による電流変化が互いに異なり、かつその一つとしてコンデンサの漏洩電流成分を含む複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分として前記漏洩電流成分を抽出したうえで、前記漏洩電流成分の前記判定閾値を前記近似式に基づいて設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定により得た判定対象コンデンサの充電時電流中に含まれる漏洩電流成分と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップである、
ことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。 - 請求項2に記載のコンデンサの良否判定方法において、
前記近似式作成ステップは、充電時のコンデンサに生じる充電時電流を、時間経過による電流変化が互いに異なり、かつその一つとしてコンデンサの漏洩電流成分を含む複数の電流成分に分離したうえで、各電流成分の時間変化を示す近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、前記判定基準特性成分として、コンデンサの製品良否に起因して生じる前記漏洩電流成分の変動の影響を受けてその値が変化する充電電流を推定したうえで、この充電電流の推定値の前記判定閾値を前記近似式に基づいて設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定により得た判定対象コンデンサの充電電流と前記判定閾値との比較に基づいて、判定対象コンデンサの良否を判定するステップである、
ことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載のコンデンサの良否判定方法において、
前記近似式作成ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件における前記近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件における前記判定基準特性成分の良否判定条件を設定するステップであり、
前記判定ステップは、良否判定時間を可及的に短縮できる条件において測定対象コンデンサの電流を測定するステップである、
ことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載のコンデンサの良否判定方法において、
前記近似式作成ステップは、測定対象コンデンサに印加可能な略最大電圧を印加した状態における前記近似式を作成するステップであり、
前記良否判定条件設定ステップは、測定対象コンデンサに前記略最大電圧を印加した状態における前記判定基準特性成分の良否判定条件を設定するステップであり、
前記判定ステップは、測定対象コンデンサに前記略最大電圧を印加した状態でその電流を測定するステップである、
ことを特徴とするコンデンサの良否判定方法。
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