JP3876432B2 - エマルジョン塗料組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装時に排出される有機溶剤、他が喚起する環境汚染の緩和に考慮しつつ、塗料としての諸性能を満足すべく設計されたエマルジョン塗料組成物に関するものである。
【0002】
さらに詳細には、マグネシウム合金、アルミニウム合金等の軽量、高強度ではあるが、塗料の密着性、耐食性が不十分な非鉄金属に好適なエマルジョン塗料組成物を提供するものである。
【0003】
本発明によれば、これら非鉄金属にきわめて良好な密着性を有し、防食性に優れた塗膜を形成する塗料が作製可能となる。
【0004】
【従来の技術】
近年、例えば、地球温暖化やオゾン層の破壊など、地球規模での環境汚染が深刻な問題、課題として取り上げられることが多くなっている。
【0005】
塗料や塗装の世界でも、これらの課題を解決すべく、鋭意検討開発が進められている。すなわち、塗料の無溶剤化(粉体塗料、反応性塗料)、ハイソリッド化および水系化等がこれに当たる。
【0006】
一方で、塗料に要求される機能は、意匠性(美観の向上)や被塗物の保護などであるが、現在の開発状況は必ずしも満足できるものではない。すなわち、塗料を無溶剤化した場合には、塗膜形成時に高温での焼き付けや光照射を必要とし塗装作業性が悪くなり、ハイソリッド化した場合には、バインダーの大きい分子量ダウンを伴い、密着性や耐水性など基本的性能を主とした塗膜性能が悪化する。また、水系塗料は、ヨーロッパなどの低湿度地域と異なり、特に日本などの高湿度地域では塗膜のべたつき、耐久性不足が懸念となっていた。
【0007】
また、マグネシウム合金、アルミニウム合金等の非鉄金属は耐食性が悪く、一般にクロメート処理などの化成処理が実施されている。しかし、クロメート処理などの化成処理は、該処理液が排水中に流入した場合深刻な環境汚染を引き起こし、また生物環境にも重大な影響を及ぼすことが懸念され、これに替わる防食被膜、処理方法が熱望されているものの、まだ十分なものは見出されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、密着性、耐食性および耐候性に優れ、かつ塗料としての高外観性を達成し得る、特にマグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレスなどの難接着性(非鉄)金属用塗料として好適なエマルジョンおよび該エマルジョンを配合した塗料組成物を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次の構成からなる。すなわち、本発明は、水性媒体中で、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、乳化共重合してなるアクリル系ポリマー(I)であって、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物が共重合されたアクリル系ポリマー(I)の存在下、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、少なくともエポキシ基含有不飽和単量体(a)、水酸基含有不飽和単量体(b)を含む2種以上の不飽和単量体を乳化共重合してなるアクリル系エマルジョン、および該エマルジョンを配合した塗料組成物である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のアクリル系エマルジョンは、水性媒体中で、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、乳化共重合してなるアクリル系ポリマー(I)であって、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物が共重合されたアクリル系ポリマー(I)の存在下、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、少なくともエポキシ基含有不飽和単量体(a)、水酸基含有不飽和単量体(b)を含む2種以上の不飽和単量体を乳化共重合してなることが必要である。
【0011】
アクリル系エマルジョンの乳化共重合は、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物が共重合されたアクリル系ポリマー(I)の存在下に行われることが必須である。分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物が共重合されたアクリル系ポリマー(I)が存在することにより、アクリル系エマルジョンを配合した塗料の耐衝撃性、耐屈曲性、塗膜硬度が向上する効果がある。
【0012】
アクリル系ポリマー(I)は、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物、および必要であればその他の不飽和単量体をラジカル共重合により高分子化したものなどが例示できる。ラジカル共重合の方法は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などによらず可能であり、また、アクリル系ポリマー(I)の形態は、液状、粒子状、塊状のいずれであってもよい。本発明では、特に、乳化重合によりエマルジョンとして製造することにより、取り扱い性がよくなり、アクリル系エマルジョンが配合された塗料(以下エマルジョン塗料という)の硬化性、外観などに優れたものとなるので好ましい。
【0013】
アクリル系エマルジョンの乳化共重合は、水性媒体中で行われる。ここに、水性媒体とは、水を主成分とする媒体を示し、必要であれば、25℃の水に10重量%以上溶解するメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの親水性有機溶剤を50重量%未満の割合で含有することも可能である。また、水はイオン交換水であることが望ましく、25℃での電導度が500μs/cm以下であることがより望ましい。
【0014】
分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性ジアクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリアクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性ジメタクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリメタクリレート、ポリウレタンジアクリレート、ポリエステルジアクリレート、エポキシジアクリレート、ジビニルベンゼンなどの分子中にアクリル性不飽和二重結合および/またはエチレン性不飽和二重結合を2個以上有する不飽和単量体、オリゴマー、ポリマー類が例示できる。該分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であてもよい。
【0015】
分子中に不飽和二重結合を有する反応乳化剤(A)としては、例えば、(化1)または(化2)で表されるものを例示できる。該反応性乳化剤(A)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。 該反応性乳化剤(A)は、アクリル系エマルジョンを構成するラジカル共重合性不飽和単量体に対し0.02〜20重量%、好ましくは0.2〜18重量%、より好ましくは0.5〜10重量%使用するのが望ましい。該反応性乳化剤(A)の使用量が0.02重量%以上であれば、乳化重合中に凝集を起こしにくくなるので好ましい。該反応性乳化剤(A)の使用量が20重量%を以下であれば、エマルジョン塗料の耐水性、耐薬品性効果が得られ、好ましい。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
アクリル系エマルジョンの乳化共重合には、イミダゾール基含有重合開始剤(B)が必須である。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)としては、2,2−´アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−041)、2,2−´アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−044)、2,2−´アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジサルフェート ジハイドレート(和光純薬工業(株)製VA−046B)、2,2−´アゾビス{〔1−(2−ジドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−060)、2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕(和光純薬工業(株)製VA−061)などが例示できる。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。中でも、2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕などの分子中に硫酸イオン、塩素イオンを有さないものは、マグネシウム合金、アルミニウム合金などの金属を侵さず、美麗な塗装外観を形成できるので推奨できる。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は、乳化共重合時に重合開始剤として作用し、ポリマー鎖末端に付加し、エマルジョン塗料の硬化時、ポリマー−ポリマー間で架橋反応を促進し、エマルジョン塗料の硬化性、密着性を向上するために有効に作用する。
【0018】
該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は、アクリル系エマルジョンを構成するラジカル共重合性不飽和単量体に対し0.001〜30重量%、好ましくは0.002〜20重量%、より好ましくは0.005〜10重量%使用するのが望ましい。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)の使用量が0.001重量%未満の場合には、塗料の硬化性が不十分となり、密着性、防食性が悪化するので好ましくない。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)の使用量が30重量%以下であれば、エマルジョン塗料の貯蔵安定性が損なわれにくく、好ましい。
【0019】
アクリル系エマルジョンに用いられるエポキシ基含有不飽和単量体(a)としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどの分子中にエポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物を例示することができる。エポキシ基含有不飽和単量体(a)は、単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0020】
該エポキシ基含有不飽和単量体(a)はエマルジョン塗料に架橋性、密着性を付与するために有効に作用する。したがって、アクリル系エマルジョン中には、エポキシ基が残存する必要があり、このためアクリル系エマルジョンはpH5.0〜10.0、好ましくは6.0〜9.5、より好ましくは7.0〜9.0であることが推奨される。アクリル系エマルジョンのpHが5.0以上であれば、エポキシ基の残存率が低くならず、エマルジョン塗料の架橋性、密着性が良くなるので好ましい。アクリル系エマルジョンのpHが10.0以下であれば、同様に、エポキシ基の残存率が低くならず、エマルジョン塗料の架橋性、密着性が良くなるので好ましい。
【0021】
該エポキシ基含有不飽和単量体(a)は、アクリル系エマルジョンを構成するラジカル重合性不飽和単量体中0.5〜50重量%、好ましくは3.0〜30重量%、より好ましくは5.0〜30重量%共重合される。エポキシ基含有不飽和単量体(a)の共重合量が0.5重量%以上であれば、塗料の硬化性、密着性効果が得られるので好ましい。エポキシ基含有不飽和単量体(a)の共重合量が50重量%以下であれば、塗料の貯蔵安定性が損なわれにくく好ましい。
【0022】
アクリル系エマルジョンに用いられる水酸基含有不飽和単量体(b)としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの一分子中に水酸基と不飽和基を有する化合物を例示することができる。該水酸基含有不飽和単量体(b)は、単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0023】
該水酸基含有不飽和単量体(b)は、アクリル系エマルジョンを構成するラジカル重合性不飽和単量体中0.5〜50重量%、好ましくは3.0〜30重量%、より好ましくは5.0〜30重量%共重合される。水酸基含有不飽和単量体(b)の共重合量が0.5重量%以上であれば、塗料の硬化性、密着性効果が得られるので好ましい。水酸基含有不飽和単量体(b)の共重合量が50重量%以下であれば、塗料の貯蔵安定性が損なわれにくく好ましい。
【0024】
アクリル系エマルジョンは、エポキシ基含有不飽和単量体(a)、水酸基含有不飽和単量体(b)に加えて、その他の不飽和単量体を乳化共重合することもできる。
【0025】
その他の不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリシクロデシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸トリフルオロエチルなどの(メタ)アクリル酸の(フルオロ)アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有不飽和単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどの分子中にエポキシ基と不飽和二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、4−メタアクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの3級アミノ基含有不飽和単量体、アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド化合物、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどの反応性珪素原子含有不飽和単量体、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、4−メタアクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの分子中に紫外線吸収性基、ヒンダードアミン系光安定性基を有する不飽和単量体、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル化合物、等を例示することができる。その他の不飽和単量体は、単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0026】
アクリル系エマルジョンは、さらに一分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を有するシラン化合物(C)を含むことが望ましく、エマルジョン塗料の密着性、耐傷つき性、耐候性が向上する傾向にあり、ことさら、マグネシウム合金、アルミニウム合金などに対する密着性、防食性が飛躍的に改善され、向上する傾向にある。
【0027】
該シラン化合物(C)はアクリル系エマルジョンを乳化重合する際に、重合系中に存在することにより、エマルジョン塗料の安定性、硬化性、密着性、耐候性、耐傷つき性などの性能が改善、向上するばかりでなく、エマルジョン塗料の貯蔵安定性が飛躍的に向上するので好ましい。
【0028】
該シラン化合物(C)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、およびこれらシラン化合物の加水分解物、縮合物などを例示することができる。一分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を有するシラン化合物(C)は、単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。
【0029】
該シラン化合物(C)はアクリル系エマルジョンを構成するラジカル重合性不飽和単量体に対し、0.5〜80重量%、好ましくは3〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%配合される。該一分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を有するシラン化合物(C)の配合量が0.5重量%以上であれば、塗料の密着性、架橋性効果が得られるので好ましい。特に、マグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレスの場合には、実用的な密着性が得られるので好ましい。一分子中にエポキシ基とアルコキシシラン基を有するシラン化合物(C)の配合量が80重量%以下であれば、塗料の貯蔵安定性が損なわれにくく好ましい。
【0030】
該シラン化合物(C)をアクリル系エマルジョンの乳化重合中に存在させる方法としては、該シラン化合物(C)をアクリル系エマルジョンを構成するラジカル重合性不飽和単量体に溶解し、乳化重合を実施することにより簡便に配合することができ、推奨される。
【0031】
また、乳化重合により製造されたアクリル系エマルジョンは、粒子径が1〜200nm、好ましくは30〜180nm、より好ましくは40〜160nmであることが望ましい。粒子径が1nm以上であれば、エマルジョン塗料の塗料粘度が適度に保たれ、塗装作業性が良好となるので好ましい。粒子径が200nm以下であれば、塗膜を乾燥、硬化する際、エマルジョン粒子同士が十分に融着することにより、塗膜外観、耐水性、耐薬品性効果が得られるので好ましい。
【0032】
アクリル系エマルジョンの好ましい乳化重合での製造例での一例を挙げれば、水性媒体(イオン交換水(pH=5〜7/25℃)が望ましい)中で、重合開始剤として2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕などの分子中に硫酸イオン、塩素イオンを有さないイミダゾール基含有重合開始剤(B)を用い、前記反応性乳化剤(A)、好ましくはスルホン酸ソーダ塩を有するもの、および必要であればポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤を併用し、重合温度50℃〜100℃において、アクリル系ポリマー(I)存在下で、エポキシ基含有不飽和単量体(a)、水酸基含有不飽和単量体(c)、シラン化合物(C)、および必要であればその他の不飽和単量体を乳化共重合することにより製造できる。
【0033】
アクリル系ポリマー(I)の乳化重合による製造方法の一例を示すと、水性媒体(イオン交換水(pH=5〜7/25℃)が望ましい)中で、重合開始剤として2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕などの分子中に硫酸イオン、塩素イオンを有さないイミダゾール基含有重合開始剤(B)を用い、前記反応性乳化剤(A)、好ましくはスルホン酸ソーダ塩を有するもの、および必要であればポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤を併用し、重合温度50℃〜100℃で、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物、および必要であればその他の不飽和単量体を乳化共重合することにより製造できる。乳化共重合により製造されたアクリル系ポリマー(I)のpH(25℃)は1.0〜10.0、好ましくは2.0〜9.5、より好ましくは5.0〜9.0であることが推奨される。アクリル系ポリマー(I)のpHが1.0以上であれば、次工程のアクリル系エマルジョン製造工程における乳化共重合でラジカル重合性不飽和単量体とのグラフト重合を形成するアクリル系エマルジョンを製造するのが容易になるので好ましい。アクリル系ポリマー(I)のpHが10.0以下であれば、次工程の乳化共重合で重合率が十分に上がり、未反応モノマーが多量に残存する問題は生じないので好ましい。
【0034】
アクリル系ポリマー(I)は、水性媒体中で、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)、イミダゾール基含有重合開始剤(B)を用い乳化重合することで、エマルジョン塗料の安定性、硬化性、被塗物の防食性が優れたものとなるので好ましい。
【0035】
さらに、アクリル系ポリマー(I)は、水性媒体中で、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)、イミダゾール基含有重合開始剤(B)を用い、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物、および必要であればその他の不飽和単量体を乳化共重合し製造することで、前記効果に加え、エマルジョン塗料の耐溶剤性、耐傷つき性、耐候性など諸性能が飛躍的に向上する。また、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物を共重合することにより、アクリル系ポリマー(I)は十分に架橋したポリマー粒子を形成し、アクリル系エマルジョンを配合した塗料の耐衝撃性、耐屈曲性、硬度が向上し、次工程のアクリル系エマルジョン製造工程で実施される乳化重合時に、該アクリル系ポリマー(I)(架橋粒子)が、ラジカル重合性不飽和単量体との間で相互に反応し、グラフト構造を形成し、アクリル系エマルジョンを形成するアクリル系ポリマー粒子が安定で、分離しない強固なものとなり、さらに、エマルジョン塗料の耐傷つき性、密着性、耐候性が向上する傾向にある。
【0036】
アクリル系ポリマー(I)に用いられる分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性ジアクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリアクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性ジメタクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリメタクリレート、ポリウレタンジアクリレート、ポリエステルジアクリレート、エポキシジアクリレート、ジビニルベンゼンなどの分子中にアクリル性不飽和二重結合および/またはエチレン性不飽和二重結合を2個以上有する不飽和単量体、オリゴマー、ポリマー類が例示できる。該分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であてもよい。
【0037】
該分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物はアクリル系ポリマー(I)に粒子内架橋性、硬度を付与する。分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物は、アクリル系ポリマー(I)を構成するラジカル重合性不飽和単量体中0.05〜20重量%、好ましくは0.2〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%共重合される。分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物の共重合量が0.05重量%以上であれば、アクリル系ポリマー(I)の架橋性が十分となり、耐傷つき性、硬度が良好となるので好ましい。分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物の共重合量が50重量%以下であれば、塗膜が強固なものとなり、密着性が向上するので好ましい。
【0038】
アクリル系ポリマー(I)は、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物に加えて、その他の不飽和単量体を乳化共重合することもできる。
【0039】
その他の不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリシクロデシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸トリフルオロエチルなどの(メタ)アクリル酸の(フルオロ)アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有不飽和単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどの分子中にエポキシ基と不飽和二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、4−メタアクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの3級アミノ基含有不飽和単量体、アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド化合物、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどの反応性珪素原子含有不飽和単量体、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、4−メタアクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの分子中に紫外線吸収性基、ヒンダードアミン系光安定性基を有する不飽和単量体、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル化合物、等を例示することができる。これらのその他の不飽和単量体は、単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0040】
アクリル系ポリマー(I)の乳化共重合に用いられる、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)としては、例えば、構造式(化1)または(化2)で表されるものを例示できる。該反応性乳化剤(A)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0041】
該反応性乳化剤(A)は、アクリル系ポリマー(I)を構成するラジカル共重合性不飽和単量体に対し0.02〜20重量%、好ましくは0.2〜18重量%、より好ましくは0.5〜10重量%使用するのが望ましい。該反応性乳化剤(A)の使用量が0.02重量%未満の場合には、乳化重合中に凝集を起こしやすくなるので好ましくない。該反応性乳化剤(A)の使用量が20重量%を超える場合には、エマルジョン塗料の耐水性、耐薬品性が悪化するので好ましくない。
【0042】
アクリル系ポリマー(I)の乳化共重合に用いられるイミダゾール基含有重合開始剤(B)としては、2,2−´アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−041)、2,2−´アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−044)、2,2−´アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジサルフェート ジハイドレート(和光純薬工業(株)製VA−046B)、2,2−´アゾビス{〔1−(2−ジドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}ジハイドロクロライド(和光純薬工業(株)製VA−060)、2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕(和光純薬工業(株)製VA−061)などが例示できる。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。中でも、2,2−´アゾビス〔2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕などの分子中に硫酸イオン、塩素イオンを有さないものは、マグネシウム合金、アルミニウム合金などの金属を侵さず、美麗な塗装外観を形成できるので推奨できる。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は、乳化共重合時に重合開始剤として作用し、ポリマー鎖末端に付加し、エマルジョン塗料の硬化時、ポリマー−ポリマー間で架橋反応を促進し、エマルジョン塗料の硬化性、密着性を向上するために有効に作用するので好ましい。
【0043】
該イミダゾール基含有重合開始剤(B)は、アクリル系ポリマー(I)を構成するラジカル共重合性不飽和単量体に対し0.001〜30重量%、好ましくは0.002〜20重量%、より好ましくは0.005〜10重量%使用するのが望ましい。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)の使用量が0.001重量%以上であれば、塗料の硬化性が十分となり、密着性、防食性が良好となるので好ましい。該イミダゾール基含有重合開始剤(B)の使用量が30重量%以下であれば、塗料の貯蔵安定性が損なわれにくく好ましい。
【0044】
本発明で得られたアクリル系エマルジョンは、外観、密着性、耐食性等に優れた塗膜を形成できる。このため、本発明のアクリル系エマルジョンで構成される組成物は、コーティング剤特に塗料用組成物として好適に適用できる。
【0045】
本発明のアクリル系エマルジョンが構成されるエマルジョン塗料組成物は、硬化剤としてアルキルアミノアルキルフェノール(D)、ポリアミン化合物(E)、イミダゾール化合物(F)から選択される少なくとも1種の硬化剤を含むことが望ましい。硬化剤を配合することにより、100℃以下での低温硬化が可能となるばかりでなく、密着性、耐水性、耐薬品性、防食性など種々塗膜性能が向上する傾向にある。これらの硬化剤はエマルジョン塗料組成物に対し、0.02〜60PHR、好ましくは0.5〜50PHR、より好ましくは0.5〜30PHR配合されるのが推奨される。
【0046】
アルキルアミノアルキルフェノール(D)としては、N,N−ジメチルアミノメチルフェノール、N,N−ジエチルアミノメチルフェノール、N,N−ジメチルアミノエチルフェノールなどが例示できる。該アルキルアミノアルキルフェノール(D)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0047】
ポリアミン化合物(E)としては、ジメチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジイソプロピルアミノエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N−アミノプロピルモルホリン、1,2−ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミンなどの一分子中に2個以上のアミノ基を有する化合物が例示できる。該ポリアミン化合物(E)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0048】
イミダゾール化合物(F)としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−イミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が例示できる。該イミダゾール化合物(F)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0049】
本発明では、エマルジョン塗料のポットライフ、硬化性、密着性、防食性、耐候性が優れることから、ポリアミン化合物(E)が特に好適に使用される。さらにこれらのなかでは、末端アミノ化ポリプロピレングリコール、末端アミノ化ポリエチレングリコール、末端アミノ化(ポリエチレングリコール)(ポリプロピレングリコール)などの、分子鎖骨格にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有するものが特に好適に使用される。該分子鎖骨格にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有するポリアミン化合物(E)が配合された場合には、エマルジョン塗料のポットライフ延長が計れ、硬化性、密着性、耐溶剤性、塗装作業性、防食性が飛躍的に向上する傾向にある。
【0050】
本発明のアクリル系エマルジョンを配合したエマルジョン塗料組成物は、造膜助剤として複素環化合物(G)を含むことができる。エマルジョン塗料組成物が複素環化合物(G)を造膜助剤として含むことにより、エマルジョン塗料の貯蔵安定性、顔料分散性が向上し、均一で平滑性の高い塗膜が形成できる。結果として、塗膜光沢、鮮鋭性、耐薬品性、密着性に優れた塗膜が得られる。
【0051】
複素環化合物(G)としては、アクリロイルモルホリン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N−(3−アミノプロピル)モルホリンなどの複素環を有する化合物が例示できる。該複素環化合物(G)は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0052】
該複素環化合物(G)のなかでは、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトンなどのγ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン誘導化合物が好ましく適用できる。これらの化合物を使用した場合、欠陥のないより均一な塗膜が形成され、アクロリニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキサイド(PPS)、ポリスチレン(PS)などのプラスチック類、マグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレス、ニッケルメッキなどへの密着性が向上し、耐食性、耐傷つき性がより向上する傾向にある。
【0053】
複素環化合物(G)はエマルジョン塗料組成物が連続皮膜を形成する量を添加すれば十分であるが、それ以上に配合しても塗膜性能、塗膜形成に重大な影響は及ぼさない。好ましくは、複素環化合物(G)はアクリル系エマルジョンの固形分に対し、0.02〜50phr、より好ましくは0.5〜40phr添加される。複素環化合物(G)の添加量が0.02phr以上であれば、塗料の造膜性は十分となり、塗膜形成性が損なわれず好ましい。複素環化合物(G)の添加量が50phr以下であれば、塗料の乾燥性が良好となり、塗膜性能発現が十分なものとなり好ましい。
【0054】
本発明では、さらに必要であれば、酸化チタン、カーボンブラック、亜鉛華、アルミニウム顔料、パール顔料などの顔料類、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、沈殿防止剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤などの種々塗料添加剤、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体など)変性物などの分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノ基がメチルイソブチルケトンなどでブロックされたアミノ基含有シラン化合物、フェニルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(塩基定数(pKb)が8以上のものが好ましい)などの耐候剤など、塗料に一般的に配合するものを配合することができる。さらに粒子径が100nm未満のシリカゾル、アルミナゾルなどの無機微粒子を配合することができ、塗膜硬度を高め、耐傷つき性を向上する効果が高い。
【0055】
本発明のエマルジョン塗料組成物は、スプレー塗装、刷毛塗り、カーテンフローコートおよびローラーコーター、電着塗装など種々塗装方法で塗装することができる。
【0056】
また、本発明のエマルジョン塗料組成物は、建築、建材、家電製品、携帯電話、パソコンなどの情報家電製品、自動車、船舶、バイク等に施される塗料全ての分野に適用することが可能である。この際適用できる基材(被塗装物)としては、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン(NY)、ポリエステル(PES)、ポリプロピレン(PP)等のプラスチックおよびこれらのアロイ、カーボン繊維、ガラス繊維などの繊維強化製品類、あるいはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性プラスチック、マグネシウム、アルミニウム、鉄、トタン、ブリキ等の金属、およびこれらの合金類、およびこれらが化成処理されたもの、カチオンまたはアニオン電着塗装されたものなどを例示することができる。ことさら、マグネシウム合金、アルミニウム合金、ステンレスなどの難接着性金属用として好適に適用できる。さらに言えば、これら難接着性金属類を何らの化成処理(例えば、クロメート処理)することなく塗装するのに適したエマルジョン塗料組成物である。
【0057】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0058】
実施例および比較例中数字は部数を、組成比は重量%を示す。
【0059】
なお、実施例と比較例で得られたアクリル系エマルジョンの物性測定方法および、エマルジョン塗料組成物の試験方法と評価は、以下のとおりに行なうものとする。
【0060】
<アクリル系エマルジョンの物性測定方法>
1.固形分
JIS K 5407 4の方法に準じて行った。
【0061】
2.pH
得られたエマルジョンについてpH METER F−22 6377−10D電極(株式会社堀場製作所製)を用い、25℃で測定した。
【0062】
3.粘度
得られたエマルジョンについてJIS K5400 4.5.3の方法に準じB型粘度計を用いて、25℃で測定した。
【0063】
4.粒径
レーザー粒径解析システム LPA−3000/3100(大塚電子株式会社製)を使用し、平均粒子径として求めた。
【0064】
<エマルジョン塗料組成物の試験方法および評価>
1.初期密着性
i)イソプロピルアルコールで脱脂したABS板に、塗料を膜厚が30〜40μmとなるように塗布し、10分間室温乾燥する。次いで、80℃で30分間焼き付けを行なう。
【0065】
ii)化成処理をしていないマグネシウム合金(AZ91D)に、塗料を膜厚が20〜30μmとなるように塗布し、160℃で20分間焼き付けを行なう。
【0066】
iii)A−1100アルミニウムを脱脂、エッチング、中和、水洗し、これに塗料を膜厚が20〜30μmとなるように塗布し、160℃で20分間焼き付けを行なう。
【0067】
この塗装板をJIS K 5400 8.5.2 碁盤目テープ法により試験を行なう。100/100で合格(○)とする。それ以外は不合格(×)とした。
【0068】
2.耐水性
密着性と同様にして試験用の塗装板を作製する。この塗装板を50℃温水中に10日間浸漬した後、塗膜外観(変褪色、膨れ、剥がれなど)、密着性を評価する。塗膜外観に変化がなく、密着性が100/100で合格(○)とする。それ以外は不合格(×)とした。
【0069】
3.耐食性
ii)iii)で作製した塗装板を、JIS K 5400にしたがい塩水噴霧試験を行った。試験後、カット部の錆び発生状況、密着性、塗膜外観を評価する。塗膜外観にふくれ、剥がれなどの異常がなく、錆が発生しておらず、密着性が100/100のものを合格(○)とする。それ以外は不合格(×)とした。
【0070】
4.耐衝撃性
iii)で作製した塗装板を、JIS K 5400 8.3.2の デュポン式により試験を行う。試験後、塗膜外観(膨れ、剥がれなど)を評価する。塗膜外観に変化がない場合、合格(○)とする。それ以外は不合格(×)とした。
【0071】
(実施例1)
i)2L四つ口フラスコにイオン交換水(PW)574g、「ラテルム S−180」(構造式1の反応性乳化剤、花王(株)の製品)35.7g、「VA−061」(2,2´−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)〕プロパン、和光純薬工業(株)のイミダゾリン基含有重合開始剤)0.25g、アクリル酸ブチル(BA)/トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)/メタクリル酸グリシジル(GMA)(=99/0.5/0.5)100gを仕込み、80℃に昇温する。80℃で2時間乳化重合を行う。アクリル系ポリマー(I)を得た。
【0072】
ii)滴下槽1にその他の不飽和単量体としてMMAおよびアクリル酸n−ブチル(BA)、エポキシ基含有不飽和単量体(a)としてGMA、水酸基含有不飽和単量体(b)としてメタクリル酸2−ヒドロキシルエチル(HEMA)、MMA/BA/GMA/HEMA(=55/20/15/10)計400g、シラン化合物(C)として「SH−6040」(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウ コーニングシリコーン(株)の製品)60gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0073】
iii)滴下槽2にイミダゾリン基含有重合開始剤(B)として「VA−061」0.8g、PW80gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0074】
iv)i)で得られたアクリル系ポリマー(I)に滴下槽1、滴下槽2から、各溶液をフラスコ内に2時間で滴下する。滴下終了後、さらに2時間、80℃で乳化重合を行い実施例1のアクリル系エマルジョン(1)を製造した。
【0075】
アクリル系エマルジョン(1)は固形分45%、粘度200mPa.s、pHは8.3で、粒子径80nmであった。
【0076】
アクリル系エマルジョン(1)に、造膜助剤としてγ−ブチロラクトン(GBL)10PHRを添加し、さらにPWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、実施例1のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0077】
(実施例2)
i)2L四つ口フラスコにPW574g、反応性乳化剤(A)「ラテルム S−180」35.7g、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)「VA−061」0.25g、その他の不飽和単量体としてBA、「アロニックスM−315」(イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、東亞合成(株)の製品)、GMA(=99/0.5/0.5)50gを仕込み、80℃に昇温する。80℃で2時間乳化重合を行い、アクリル系モノマー(I)を得た。
【0078】
ii)滴下槽1にその他の不飽和単量体としてMMAおよびBA、エポキシ基含有不飽和単量体(a)としてGMA、水酸基含有不飽和単量体(b)としてHEMA、MMA/BA/GMA/HEMA(=55/20/15/10)計450g、シラン化合物(C)として「SH−6040」60gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0079】
iii)滴下槽2に「VA−061」0.8g、PW80gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0080】
IV)i)で得られたアクリル系ポリマー(I)に滴下槽1、滴下槽2から、各溶液をフラスコ内に2時間で滴下する。滴下終了後、さらに2時間、80℃で乳化重合を行い実施例2のアクリル系エマルジョン(2)を製造した。
【0081】
アクリル系エマルジョン(2)は固形分45%、粘度250mPa.s、pHは8.2、粒子径145nmであった。
【0082】
アクリル系エマルジョン(2)に、造膜助剤である複素環化合物(G)としてγーブチルラクトン(GBL)15PHRを添加し、さらにPWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、実施例2のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0083】
(実施例3)
アクリル系エマルジョン(1)に、硬化剤であるポリアミン化合物(E)として「ジェファーミン EDR−148」(サンテクノケミカル(株)の製品)を8PHR配合し、さらに造膜助剤である複素環化合物(G)としてGBL15PHRを添加し、PWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、実施例3のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)として用いた「VA−061」を過硫酸アンモニウムに変える以外は、実施例1と同様にして比較例1のアクリル系エマルジョン(3)を製造した。
【0085】
アクリル系エマルジョン(3)は固形分45%、粘度180mPa.s、pHは4.2、粒子系110nmであった。
【0086】
アクリル系エマルジョン(3)をアンモニア水でpHが8.0になるよう中和した後、造膜助剤としてBC10PHRを添加し、さらにPWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、比較例1のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0087】
(比較例2)
i)2L四つ口フラスコにイオン交換水(PW)423.5g、反応性乳化剤(A)として「ラテルム S−180」35.7g、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)として「VA−061」0.25gを仕込み、80℃に昇温する。
【0088】
ii)滴下槽1にその他の不飽和単量体としてMMAおよびBA、エポキシ基含有不飽和単量体(a)としてGMA、水酸基含有不飽和単量体(b)としてHEMA、MMA/BA/GMA/HEMA(=55/20/15/10)計400g、シラン化合物(C)として「SH−6040」60gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0089】
iii)滴下槽2にイミダゾリン基含有重合開始剤(B)として「VA−061」0.8g、PW80gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0090】
iv)滴下槽1、滴下槽2から、各溶液をフラスコ内に2時間で滴下する。滴下終了後、さらに2時間、80℃で乳化重合を行い比較例2のアクリル系エマルジョン(4)を製造した。
【0091】
アクリル系エマルジョン(4)は固形分46%、粘度470mPa.s、pHは7.9で、粒子径90nmであった。
【0092】
アクリル系エマルジョン(4)に、造膜助剤である複素環化合物(G)としてGBL15PHRを添加し、さらにPWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、実施例1のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0093】
(比較例3)
i)2L四つ口フラスコにイオン交換水(PW)574g、反応性乳化剤(A)として「ラテルム S−180」(花王(株)の製品)35.7g、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)として「VA−061」(2,2´−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)〕プロパン、和光純薬工業(株))0.25g、その他の不飽和単量体としてメタクリル酸メチル(MMA)、カルボキシル基含有不飽和単量体(c)としてメタクリル酸(MMA)、エポキシ基含有不飽和単量体(a)としてメタクリル酸グリシジルを用い、MMA/MAA/GMA(=96.5/2.0/1.5)([GMA](GMAのモル数)/[MAA](MAAのモル数)=1/1.2)計100gを仕込み、80℃に昇温する。80℃で2時間乳化重合を行い、アクリル系ポリマー(I)を得た。
【0094】
ii)滴下槽1にその他の不飽和単量体としてMMAおよびアクリル酸n−ブチル(BA)、エポキシ基含有不飽和単量体(a)としてGMA、水酸基含有不飽和単量体(b)としてメタクリル酸2−ヒドロキシルエチル(HEMA)、MMA/BA/GMA/HEMA(=55/20/15/10)計400g、シラン化合物(C)として「SH−6040」(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウ コーニングシリコーン(株)の製品)60gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0095】
iii)滴下槽2にイミダゾリン基含有重合開始剤(B)として「VA−061」0.8g、PW80gを仕込み、攪拌して均一な溶液とする。
【0096】
iv)i)で得られたアクリル系ポリマー(I)に滴下槽1、滴下槽2から、各溶液をフラスコ内に2時間で滴下する。滴下終了後、さらに2時間、80℃で乳化重合を行い実施例1のアクリル系エマルジョン(5)を製造した。
【0097】
アクリル系エマルジョン(5)は固形分45%、粘度400mPa.s、pHは8.3で、粒子径80nmであった。
【0098】
アクリル系エマルジョン(5)に、造膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル(BC)10PHRを添加し、さらにPWを加えてフオードカップNo.4粘度(25℃)が15秒となるよう調整し、比較例3のエマルジョン塗料組成物を製造した。
【0099】
実施例1〜3、比較例1〜3で製造されたエマルジョン塗料組成物の試験結果を表1、2に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、数々の優れてバランスのとれた性能を有するエマルジョン塗料組成物が得られる。特に、従来のエマルジョン塗料組成物では達成困難であった、塗料の耐衝撃性、耐屈曲性と塗膜硬度等の性能の両立において顕著な性能を発揮する。さらにまた、難接着性とされているマグネシウム合金やアルミニウム合金などの非鉄金属に対し良好な密着性を有し、該金属の類の耐食性を著しく向上するエマルジョン塗料組成物が得られる。
Claims (7)
- 水性媒体中で、分子中に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤(A)、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、乳化共重合してなるアクリル系ポリマー(I)であって、分子中に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物が共重合されたアクリル系ポリマー(I)の存在下、イミダゾリン基含有重合開始剤(B)を用い、少なくともエポキシ基含有不飽和単量体(a)、水酸基含有不飽和単量体(b)を含む2種以上の不飽和単量体を乳化共重合してなるアクリル系エマルジョン。
- pHが5.0〜10.0であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系エマルジョン。
- 一分子中にエポキシ基と加水分解性アルコキシシラン基を有するシラン化合物(C)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のアクリル系エマルジョン。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系エマルジョンが配合された塗料組成物。
- アルキルアミノアルキルフェノール(D)、ポリアミン化合物(E)、イミダゾール化合物(F)から選択される少なくとも1種の硬化剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の塗料組成物。
- 複素環化合物(G)を造膜助剤として含むことを特徴とする請求項4または5に記載の塗料組成物。
- 複素環化合物(G)がγ−ブチロラクトンおよび/またはγ−ブチロラクトン誘導化合物である請求項6に記載のエマルジョン塗料組成物。
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