JP3873428B2 - ポリブチレンテレフタレートの製造法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、副反応を抑制しつつ品質に優れたポリブチレンテレフタレートを、連続直接エステル化し重縮合することにより製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称する)は優れた成形性や耐熱性、機械的性質、耐薬品性などを有しているため、電気部品や自動車部品などの成形材料として、またソフト性やストレッチ性を生かして繊維用としても広く用いられている。
【0003】
このようなPBTの製造法の1つとして、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールからPBTオリゴマーを製造するエステル化工程と、生成したPBTオリゴマーを高重合度化する重縮合工程からなる直接重合法がある。かかるPBTの直接重合法におけるエステル化工程には触媒の存在が不可欠であり、その触媒としては有機チタン化合物が最も一般的に用いられている。
【0004】
しかし、有機チタン化合物(例えばチタン酸エステル)は、エステル化反応触媒として優れた触媒活性を示す一方、その反応や1,4−ブタンジオールの分解(脱水環化)で副生する水によつて加水分解を受け、不溶性異物の生成や、触媒としての活性低下を起こし易い。
【0005】
かかる有機チタン化合物の不溶化・失活問題に対して、有機チタン化合物をエステル化反応率50%を境に前半、後半の各々に添加する、添加方法の改善(例えば特開昭49−57092号公報)、多価アルコール系化合物とアルカリ金属化合物とを併用する手段(例えば特開昭62−225524号公報)、アルカノールアミンチタン酸エステル化合物を触媒として用いる方法(例えば特開昭62−141022号公報)、有機チタン化合物とアルカノールアミン化合物とを併用する方法(例えば特開昭62−199617号公報)、ヒンダードフェノール系化合物のエステル化段階で添加する方法(例えば特開平1−282215号公報)等が提案され、これらの手段によって触媒活性がある程度改良される。
【0006】
しかしながら、上記の改善策はPBTオリゴマーを回分法で製造する際には有効であるが、連続法で製造する際にはあまり効果がなく、不溶性の異物が多量に生成する。これは、連続法でPBTオリゴマーを製造する場合には、有機チタン化合物は水と反応するだけでなく、系中のテレフタル酸と反応し、金属塩を生成し不溶化、失活するためと考えられる。
【0007】
このようなエステル化段階での不溶性異物の生成や触媒活性の低下の問題は、当然ながら反応時間の短縮化にとっての阻害因子となるばかりか、反応生成物の透明性を著しく低下させ、ひいては重合反応性の低下のため所望の重合度が得られず、更にポリマーの成形過程では不溶性異物に由来する成形性の低下や成形品の品質低下などの問題が起こることになる。
【0008】
一方、有機チタン化合物以外の有効な触媒として、特公昭53−9796号公報に有機スズ化合物が開示されている。しかし有機スズ化合物を触媒に用いて連続法でエステル化反応を行った場合、反応が遅くそのため副生物の生成が多くなり、一方反応を速くするために多くの触媒量を添加すると、重合後のPBTの色調の悪化や耐熱性の悪化などの問題が新たに生じる。
【0009】
また、特開昭62−195017号公報には、1,4−ブタンジオール/テレフタル酸のモル比が2以上で、チタン触媒又はスズ触媒のいずれか一方を用いた連続直接重合法が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高モル比での連続エステル化ではエーテル結合の分子鎖への導入が起こり易いという問題があるのでそのモル比はできるだけ小さいほうが望ましいが、上記した従来の連続直接エステル化法ではモル比を小さくすることは困難であった。
【0011】
そこで、本発明は、副反応を抑制しつつ品質に優れたPBTを、連続直接エステル化し、重縮合することにより製造する方法の提供を主な目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものであり、本発明のPBT製造方法は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを連続的にエステル化反応し、次いで重縮合反応することによりPBTを製造するに際し、エステル化反応を、有機スズ化合物の存在下かつ有機チタン化合物の実質的な不存在下でエステル化反応率が80%以上になるまで、第1段階のエステル化反応を行ない、次いで有機チタン化合物を添加して第2段階のエステル化反応を行ない、次いで重縮合反応を行なうことを特徴とする。
【0013】
有機スズ化合物がモノアルキルスズ化合物及び/又はアルキルスタンノン酸であることが好ましく、ジカルボン酸に対するジオールのモル比(P)が1.1〜1.6であることが好ましい。
【0014】
第1段階のエステル化反応は、反応温度180〜240℃、圧力760mmHg以下で行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度190〜250℃、圧力760mmHg以下で行なうことが好ましく、特に、第1段階のエステル化反応を、反応温度200〜230℃、圧力100〜600mmHgで行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度200〜240℃、圧力100〜550mmHgで行なうことが好ましい。
【0015】
また、有機スズ化合物の添加量は、生成するPBT100重量部に対して0.02〜0.15重量部であることが好ましく、第2段階のエステル化反応で添加する有機チタン化合物の添加量は、生成するPBT100重量部に対して0.005〜0.3重量部であることが好ましい。
【0016】
【発明の実施の態様】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明でいうポリブチレンテレフタレート(PBT)とは、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用い、主たるグリコール成分として1,4−ブタンジオールを用いた、主鎖にエステル結合を有する高分子量の熱可塑性ポリエステルを指すが、その他に酸成分として、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などを、また、その他のグリコール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコ−ル、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを共重合成分として用いることもできる。これらの共重合成分はそれぞれ、テレフタル酸または1,4−ブタンジオールに対して40モル%以下であることが好ましい。
【0018】
また、酸成分とグリコール成分の比は特に限定するものではないが、1,4−ブタンジオールが環化して生じるテトラヒドロフラン(以下THFと称する)の副生抑制の観点からグリコール成分の酸成分に対するモル比が1.1〜1.6であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる有機スズ化合物は、下記一般式
【化1】
(ただし、Rはアルキル基またはアリール基、X1 〜X4 はアルキル基、アリール基、アリルオキシ基、シクロヘキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン等を含む1価の基を示し、同一であっても異なっていてもよい。また、X5 は硫黄または酸素原子を示す。)
で表される化合物で代表される。
【0020】
具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイドなどをあげることができる。その中でもモノアルキルズズ化合物が好ましい。
【0021】
また、他の有機スズ化合物としては、スタノキサンも用いることができ、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸が好ましい。
これらの有機スズ化合物は1種でもよく2種以上併用することもできる。
【0022】
本発明における有機スズ化合物の添加量は生成するPBT100重量部に対して0.02〜0.15重量部が好ましく、更に0.03〜0.1重量部が好ましい。
【0023】
上記有機スズ化合物は、第1段階のエステル化反応の初期段階から全量を添加することが好ましいが、そのエステル化反応の初期段階で一部を添加し途中で残部を添加してもよい。そして、エステル化率が80%以上になるまで、有機チタン化合物の実質的な不存在下でエステル化反応を続ける必要がある。本発明においては、この段階を第1段階のエステル化反応と称する。
【0024】
また本発明で用いる有機チタン化合物は、
(R1 O)n Ti(OR2 )4-n
(ただし、R1、R2 は炭素数1〜l0の脂肪族、脂環族または芳香族の炭化水素基、nは0〜4の数字(小数を含む)である。)
で表されるチタン酸エステル及び縮合物で代表される。
【0025】
具体的には、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどである。これらのうちで特にテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステルなどが好ましい。これらの有機チタン化合物は一種もしくは二種以上を併用することができる。
【0026】
有機チタン化合物の添加量としては、生成するPBT100重量部に対して0.005〜0.3重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部の範囲である。
【0027】
上記有機チタン化合物は、エステル化反応がある程度進行した段階、すなわち、反応率が80%以上になった段階で添加する必要がある。そうでない場合には、ポリマー中の異物が多くなり、本発明の目的を達成できない。そして、本発明ではこの段階を第2段階のエステル化反応と称する。
【0028】
本発明の実施に用いる連続エステル化装置は、特に限定されるものではないが完全混合槽型エステル反応器であることが好ましい。第1段階のエステル化反応は、反応温度180〜240℃、好ましくは200〜230℃で、圧力760mmHg以下、好ましくは100〜600mmHgの減圧下で反応率が80%以上になるよう実施されることが望ましい。(1mmHg=1.33322×102 Pa) 第2段階のエステル化反応は、反応温度190〜250℃、好ましくは200〜240℃で、圧力760mmHg以下、好ましくは100〜550mmHgの減圧下で実施されることが望ましい。第2段階のエステル化反応後のエステル化率は97%以上であることが好ましい。
【0029】
連続エステル化反応で製造されたPBTオリゴマーは次に重縮合反応されるが、この方法は特に限定されるものではなく、回分法でも連続法でも通常のPBTの製造に用いられる重合条件をそのまま適用することができ、例えば反応温度としては230〜260℃が好ましく、240〜255℃がさらに好ましい。
【0030】
本発明の方法でPBTを製造するに際し、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を添加することができる。特に本発明において、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、リン酸トリアミド、リン酸モノアンモニウム、リン酸トリメチル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル、ホスホン酸ジメチルフェニル等のリン化合物を添加すると、ポリマー色調改善に著しい効果がある。
【0031】
本製造法でPBTを製造した場合、従来の方法で製造した場合よりも樹脂靱性に優れたPBTを得ることができる。例えば、示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度が170℃〜180℃、溶液ヘイズが20%以下であるPBTを得ることができる。さらに、射出成形により成形品とした場合、従来法で製造したPBTを成形した場合よりも小さな平均球晶半径(例えば4μm以下)の成形品を与えることができる。
【0032】
本発明法によるPBTから得られる成形品は靱性、特に長期熱時の靱性に優れるという特徴を有するので、各種の自動車部品や電気・電子部品などに有用に用いることができる。
【0033】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【0034】
実施例中、得られたオリゴマーの反応率は反応物の酸価、ケン化価から次式に従って求めた。
反応率={(ケン化価−酸価)/ケン化価}×100(%)
酸価: 反応物をo−クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解し、エタノール性水酸化カリウムで滴定して得た値。
ケン化価: 反応物をアルカリ加水分解し、酸で逆滴定した値。
また、副生したテトラヒドロフラン(THF)の量はガスクロマトグラフにより定量した。
【0035】
溶液ヘイズ: 試料ポリマー5.4gをフェノールと四塩化エタン(60:40wt%)の混合溶媒40mLに加熱溶解し、この溶液を30mmのセルにいれて積分式ヘーズメーター(日本精密光学製)で測定する。この値が大きいほど異物が多いと言える。
【0036】
実施例1
連続エステル化反応は2槽の完全混合槽型の反応装置を用いて行なった。すなわち、予め反応率90%のPBTオリゴマーを充填した第1エステル化反応槽に、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを、テレフタル酸に対する1,4−ブタンジオールのモル比(P)が1.4になるようにスラリー状にして連続的に供給した。また同時に、ブチルヒドロキシスズオキサイドを、生成するPBT100重量部に対して0.04重量部になるように第1エステル化槽に連続的に供給した。第1エステル化槽は反応温度220℃、圧力300mmHgになるように制御した。
【0037】
第1エステル化槽のPBTオリゴマーは連続的に取り出され、予め反応率98%のPBTオリゴマーを充填した第2エステル化槽に供給した。第2エステル化槽は、反応温度230℃、圧力200mmHgになるように制御した。第2エステル化槽には、テトラブトキシチタネートを、生成するPBT100重量部に対して0.08重量部になるように添加した。第2エステル化槽のPBTオリゴマーは連続的に取り出し、フレーク状に粉砕した。
【0038】
スラリーの供給、オリゴマーの取り出しの速度は、第1エステル化槽の滞留時間が120分、第2エステル化槽の滞留し間が90分になるように調整した。
【0039】
反応開始8時間後に定常状態に達した後、6時間にわたってPBTオリゴマーの留出液のサンプリングを行ない、反応率、副生THF量の測定を行った。その結果、第1エステル化槽での反応率は85%、第2エステル化槽での反応率は99%、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり25gであった。
【0040】
さらに、第2エステル化槽から取出したオリゴマーにテトラブトキシチタネートを生成ポリマーに対して0.03wt%の量で添加し、250℃、減圧下(1mmHg以下)で3時間回分法で重縮合反応を行ない、PBTポリマーを得、その溶液ヘイズを測定したところ6%であった。
【0041】
比較例1
ブチルヒドロキシスズオキサイドの代わりにテトラブトキシチタネートを、生成するPBTに対して0.03重量部になるように第1エステル化槽に添加した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行なった。その結果、第1エステル化槽の反応率は88%、第2エステル化槽の反応率は97%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり35g、ポリマーの溶液ヘイズは53%と高かった。
【0042】
比較例2
第2エステル化槽に添加していたテトラブトキシチタネートを、第1エステル化槽にブチルヒドロキシスズオキサイドと同時に添加した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行なった。その結果、第1エステル化槽の反応率は79%、第2エステル化槽の反応率は98%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり33g、ポリマーの溶液ヘイズは28%と高かった。
【0043】
比較例3
第1エステル化槽に添加するブチルヒドロキシスズオキサイドの量を生成するPBTに対して0.20重量部とし、第2エステル化槽へのテトラブトキシチタネートの添加を行わなかった以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行った。その結果、第1エステル化槽の反応率は85%、第2エステル化槽の反応率は96%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり32g、ポリマーの溶液ヘイズは25%であった。
【0044】
比較例4
第1エステル化槽の滞留時間を90分、第2エステル化槽の滞留時間を120分になるように調整した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行った。その結果、第1エステル化槽の反応率は75%と低くなり、第2エステル化槽の反応率は96%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり40g、ポリマーの溶液ヘイズは23%と高かった。
【0045】
【発明の効果】
本発明の製造方法によると副生物の生成を抑制しつつ異物の生成を抑制できるので、異物生成が少なく靭性の優れたPBTを連続直接エステル化法による方法で製造できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、副反応を抑制しつつ品質に優れたポリブチレンテレフタレートを、連続直接エステル化し重縮合することにより製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称する)は優れた成形性や耐熱性、機械的性質、耐薬品性などを有しているため、電気部品や自動車部品などの成形材料として、またソフト性やストレッチ性を生かして繊維用としても広く用いられている。
【0003】
このようなPBTの製造法の1つとして、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールからPBTオリゴマーを製造するエステル化工程と、生成したPBTオリゴマーを高重合度化する重縮合工程からなる直接重合法がある。かかるPBTの直接重合法におけるエステル化工程には触媒の存在が不可欠であり、その触媒としては有機チタン化合物が最も一般的に用いられている。
【0004】
しかし、有機チタン化合物(例えばチタン酸エステル)は、エステル化反応触媒として優れた触媒活性を示す一方、その反応や1,4−ブタンジオールの分解(脱水環化)で副生する水によつて加水分解を受け、不溶性異物の生成や、触媒としての活性低下を起こし易い。
【0005】
かかる有機チタン化合物の不溶化・失活問題に対して、有機チタン化合物をエステル化反応率50%を境に前半、後半の各々に添加する、添加方法の改善(例えば特開昭49−57092号公報)、多価アルコール系化合物とアルカリ金属化合物とを併用する手段(例えば特開昭62−225524号公報)、アルカノールアミンチタン酸エステル化合物を触媒として用いる方法(例えば特開昭62−141022号公報)、有機チタン化合物とアルカノールアミン化合物とを併用する方法(例えば特開昭62−199617号公報)、ヒンダードフェノール系化合物のエステル化段階で添加する方法(例えば特開平1−282215号公報)等が提案され、これらの手段によって触媒活性がある程度改良される。
【0006】
しかしながら、上記の改善策はPBTオリゴマーを回分法で製造する際には有効であるが、連続法で製造する際にはあまり効果がなく、不溶性の異物が多量に生成する。これは、連続法でPBTオリゴマーを製造する場合には、有機チタン化合物は水と反応するだけでなく、系中のテレフタル酸と反応し、金属塩を生成し不溶化、失活するためと考えられる。
【0007】
このようなエステル化段階での不溶性異物の生成や触媒活性の低下の問題は、当然ながら反応時間の短縮化にとっての阻害因子となるばかりか、反応生成物の透明性を著しく低下させ、ひいては重合反応性の低下のため所望の重合度が得られず、更にポリマーの成形過程では不溶性異物に由来する成形性の低下や成形品の品質低下などの問題が起こることになる。
【0008】
一方、有機チタン化合物以外の有効な触媒として、特公昭53−9796号公報に有機スズ化合物が開示されている。しかし有機スズ化合物を触媒に用いて連続法でエステル化反応を行った場合、反応が遅くそのため副生物の生成が多くなり、一方反応を速くするために多くの触媒量を添加すると、重合後のPBTの色調の悪化や耐熱性の悪化などの問題が新たに生じる。
【0009】
また、特開昭62−195017号公報には、1,4−ブタンジオール/テレフタル酸のモル比が2以上で、チタン触媒又はスズ触媒のいずれか一方を用いた連続直接重合法が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高モル比での連続エステル化ではエーテル結合の分子鎖への導入が起こり易いという問題があるのでそのモル比はできるだけ小さいほうが望ましいが、上記した従来の連続直接エステル化法ではモル比を小さくすることは困難であった。
【0011】
そこで、本発明は、副反応を抑制しつつ品質に優れたPBTを、連続直接エステル化し、重縮合することにより製造する方法の提供を主な目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものであり、本発明のPBT製造方法は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを連続的にエステル化反応し、次いで重縮合反応することによりPBTを製造するに際し、エステル化反応を、有機スズ化合物の存在下かつ有機チタン化合物の実質的な不存在下でエステル化反応率が80%以上になるまで、第1段階のエステル化反応を行ない、次いで有機チタン化合物を添加して第2段階のエステル化反応を行ない、次いで重縮合反応を行なうことを特徴とする。
【0013】
有機スズ化合物がモノアルキルスズ化合物及び/又はアルキルスタンノン酸であることが好ましく、ジカルボン酸に対するジオールのモル比(P)が1.1〜1.6であることが好ましい。
【0014】
第1段階のエステル化反応は、反応温度180〜240℃、圧力760mmHg以下で行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度190〜250℃、圧力760mmHg以下で行なうことが好ましく、特に、第1段階のエステル化反応を、反応温度200〜230℃、圧力100〜600mmHgで行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度200〜240℃、圧力100〜550mmHgで行なうことが好ましい。
【0015】
また、有機スズ化合物の添加量は、生成するPBT100重量部に対して0.02〜0.15重量部であることが好ましく、第2段階のエステル化反応で添加する有機チタン化合物の添加量は、生成するPBT100重量部に対して0.005〜0.3重量部であることが好ましい。
【0016】
【発明の実施の態様】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明でいうポリブチレンテレフタレート(PBT)とは、主たるジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用い、主たるグリコール成分として1,4−ブタンジオールを用いた、主鎖にエステル結合を有する高分子量の熱可塑性ポリエステルを指すが、その他に酸成分として、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などを、また、その他のグリコール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコ−ル、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを共重合成分として用いることもできる。これらの共重合成分はそれぞれ、テレフタル酸または1,4−ブタンジオールに対して40モル%以下であることが好ましい。
【0018】
また、酸成分とグリコール成分の比は特に限定するものではないが、1,4−ブタンジオールが環化して生じるテトラヒドロフラン(以下THFと称する)の副生抑制の観点からグリコール成分の酸成分に対するモル比が1.1〜1.6であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる有機スズ化合物は、下記一般式
【化1】
(ただし、Rはアルキル基またはアリール基、X1 〜X4 はアルキル基、アリール基、アリルオキシ基、シクロヘキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン等を含む1価の基を示し、同一であっても異なっていてもよい。また、X5 は硫黄または酸素原子を示す。)
で表される化合物で代表される。
【0020】
具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイドなどをあげることができる。その中でもモノアルキルズズ化合物が好ましい。
【0021】
また、他の有機スズ化合物としては、スタノキサンも用いることができ、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸が好ましい。
これらの有機スズ化合物は1種でもよく2種以上併用することもできる。
【0022】
本発明における有機スズ化合物の添加量は生成するPBT100重量部に対して0.02〜0.15重量部が好ましく、更に0.03〜0.1重量部が好ましい。
【0023】
上記有機スズ化合物は、第1段階のエステル化反応の初期段階から全量を添加することが好ましいが、そのエステル化反応の初期段階で一部を添加し途中で残部を添加してもよい。そして、エステル化率が80%以上になるまで、有機チタン化合物の実質的な不存在下でエステル化反応を続ける必要がある。本発明においては、この段階を第1段階のエステル化反応と称する。
【0024】
また本発明で用いる有機チタン化合物は、
(R1 O)n Ti(OR2 )4-n
(ただし、R1、R2 は炭素数1〜l0の脂肪族、脂環族または芳香族の炭化水素基、nは0〜4の数字(小数を含む)である。)
で表されるチタン酸エステル及び縮合物で代表される。
【0025】
具体的には、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどである。これらのうちで特にテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステルなどが好ましい。これらの有機チタン化合物は一種もしくは二種以上を併用することができる。
【0026】
有機チタン化合物の添加量としては、生成するPBT100重量部に対して0.005〜0.3重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部の範囲である。
【0027】
上記有機チタン化合物は、エステル化反応がある程度進行した段階、すなわち、反応率が80%以上になった段階で添加する必要がある。そうでない場合には、ポリマー中の異物が多くなり、本発明の目的を達成できない。そして、本発明ではこの段階を第2段階のエステル化反応と称する。
【0028】
本発明の実施に用いる連続エステル化装置は、特に限定されるものではないが完全混合槽型エステル反応器であることが好ましい。第1段階のエステル化反応は、反応温度180〜240℃、好ましくは200〜230℃で、圧力760mmHg以下、好ましくは100〜600mmHgの減圧下で反応率が80%以上になるよう実施されることが望ましい。(1mmHg=1.33322×102 Pa) 第2段階のエステル化反応は、反応温度190〜250℃、好ましくは200〜240℃で、圧力760mmHg以下、好ましくは100〜550mmHgの減圧下で実施されることが望ましい。第2段階のエステル化反応後のエステル化率は97%以上であることが好ましい。
【0029】
連続エステル化反応で製造されたPBTオリゴマーは次に重縮合反応されるが、この方法は特に限定されるものではなく、回分法でも連続法でも通常のPBTの製造に用いられる重合条件をそのまま適用することができ、例えば反応温度としては230〜260℃が好ましく、240〜255℃がさらに好ましい。
【0030】
本発明の方法でPBTを製造するに際し、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を添加することができる。特に本発明において、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、リン酸トリアミド、リン酸モノアンモニウム、リン酸トリメチル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル、ホスホン酸ジメチルフェニル等のリン化合物を添加すると、ポリマー色調改善に著しい効果がある。
【0031】
本製造法でPBTを製造した場合、従来の方法で製造した場合よりも樹脂靱性に優れたPBTを得ることができる。例えば、示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度が170℃〜180℃、溶液ヘイズが20%以下であるPBTを得ることができる。さらに、射出成形により成形品とした場合、従来法で製造したPBTを成形した場合よりも小さな平均球晶半径(例えば4μm以下)の成形品を与えることができる。
【0032】
本発明法によるPBTから得られる成形品は靱性、特に長期熱時の靱性に優れるという特徴を有するので、各種の自動車部品や電気・電子部品などに有用に用いることができる。
【0033】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【0034】
実施例中、得られたオリゴマーの反応率は反応物の酸価、ケン化価から次式に従って求めた。
反応率={(ケン化価−酸価)/ケン化価}×100(%)
酸価: 反応物をo−クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解し、エタノール性水酸化カリウムで滴定して得た値。
ケン化価: 反応物をアルカリ加水分解し、酸で逆滴定した値。
また、副生したテトラヒドロフラン(THF)の量はガスクロマトグラフにより定量した。
【0035】
溶液ヘイズ: 試料ポリマー5.4gをフェノールと四塩化エタン(60:40wt%)の混合溶媒40mLに加熱溶解し、この溶液を30mmのセルにいれて積分式ヘーズメーター(日本精密光学製)で測定する。この値が大きいほど異物が多いと言える。
【0036】
実施例1
連続エステル化反応は2槽の完全混合槽型の反応装置を用いて行なった。すなわち、予め反応率90%のPBTオリゴマーを充填した第1エステル化反応槽に、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを、テレフタル酸に対する1,4−ブタンジオールのモル比(P)が1.4になるようにスラリー状にして連続的に供給した。また同時に、ブチルヒドロキシスズオキサイドを、生成するPBT100重量部に対して0.04重量部になるように第1エステル化槽に連続的に供給した。第1エステル化槽は反応温度220℃、圧力300mmHgになるように制御した。
【0037】
第1エステル化槽のPBTオリゴマーは連続的に取り出され、予め反応率98%のPBTオリゴマーを充填した第2エステル化槽に供給した。第2エステル化槽は、反応温度230℃、圧力200mmHgになるように制御した。第2エステル化槽には、テトラブトキシチタネートを、生成するPBT100重量部に対して0.08重量部になるように添加した。第2エステル化槽のPBTオリゴマーは連続的に取り出し、フレーク状に粉砕した。
【0038】
スラリーの供給、オリゴマーの取り出しの速度は、第1エステル化槽の滞留時間が120分、第2エステル化槽の滞留し間が90分になるように調整した。
【0039】
反応開始8時間後に定常状態に達した後、6時間にわたってPBTオリゴマーの留出液のサンプリングを行ない、反応率、副生THF量の測定を行った。その結果、第1エステル化槽での反応率は85%、第2エステル化槽での反応率は99%、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり25gであった。
【0040】
さらに、第2エステル化槽から取出したオリゴマーにテトラブトキシチタネートを生成ポリマーに対して0.03wt%の量で添加し、250℃、減圧下(1mmHg以下)で3時間回分法で重縮合反応を行ない、PBTポリマーを得、その溶液ヘイズを測定したところ6%であった。
【0041】
比較例1
ブチルヒドロキシスズオキサイドの代わりにテトラブトキシチタネートを、生成するPBTに対して0.03重量部になるように第1エステル化槽に添加した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行なった。その結果、第1エステル化槽の反応率は88%、第2エステル化槽の反応率は97%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり35g、ポリマーの溶液ヘイズは53%と高かった。
【0042】
比較例2
第2エステル化槽に添加していたテトラブトキシチタネートを、第1エステル化槽にブチルヒドロキシスズオキサイドと同時に添加した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行なった。その結果、第1エステル化槽の反応率は79%、第2エステル化槽の反応率は98%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり33g、ポリマーの溶液ヘイズは28%と高かった。
【0043】
比較例3
第1エステル化槽に添加するブチルヒドロキシスズオキサイドの量を生成するPBTに対して0.20重量部とし、第2エステル化槽へのテトラブトキシチタネートの添加を行わなかった以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行った。その結果、第1エステル化槽の反応率は85%、第2エステル化槽の反応率は96%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり32g、ポリマーの溶液ヘイズは25%であった。
【0044】
比較例4
第1エステル化槽の滞留時間を90分、第2エステル化槽の滞留時間を120分になるように調整した以外は、実施例1と同様に連続エステル化、重縮合を行った。その結果、第1エステル化槽の反応率は75%と低くなり、第2エステル化槽の反応率は96%であり、副生THF量は1kgの生成オリゴマー当たり40g、ポリマーの溶液ヘイズは23%と高かった。
【0045】
【発明の効果】
本発明の製造方法によると副生物の生成を抑制しつつ異物の生成を抑制できるので、異物生成が少なく靭性の優れたPBTを連続直接エステル化法による方法で製造できる。
Claims (7)
- テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとを連続的にエステル化反応し、次いで重縮合反応することによりポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、エステル化反応を、有機スズ化合物の存在下かつ有機チタン化合物の実質的な不存在下でエステル化反応率が80%以上になるまで、第1段階のエステル化反応を行ない、次いで有機チタン化合物を添加して第2段階のエステル化反応を行ない、次いで重縮合反応を行なうことを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造法。
- 有機スズ化合物がモノアルキルスズ化合物及び/又はアルキルスタンノン酸であることを特徴とする請求項1記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
- ジカルボン酸に対するジオールのモル比(P)が1.1〜1.6であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
- 第1段階のエステル化反応を、反応温度180〜240℃、圧力760mmHg以下で行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度190〜250℃、圧力760mmHg以下で行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
- 第1段階のエステル化反応を、反応温度200〜230℃、圧力100〜600mmHgで行ない、かつ、第2段階のエステル化反応を、反応温度200〜240℃、圧力100〜550mmHgで行なうことを特徴とする請求項4記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
- 有機スズ化合物の添加量が、生成するポリブチレンテレフタレート100重量部に対して0.02〜0.15重量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
- 第2段階のエステル化反応で添加する有機チタン化合物の添加量が、生成するポリブチレンテレフタレート100重量部に対して0.005〜0.3重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの製造法。
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