JP3838430B2 - 吸湿発熱する高伸縮性編地 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は吸放湿性に優れ、吸湿時に発熱加温効果があり、加湿停止後の放熱速度が遅く、ウォームアップを助成し、快適性に優れた高伸縮性編地に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、繊維に高吸湿性を付与し、繊維が吸湿する際の吸湿発熱を利用して保温性を高める試みがなされている。例えば、特許文献1には、シリカゲル、シリカアルミナ系の乾燥剤やモレキュラーシーブスなどのセラミック系の乾燥剤などの微粉末を各種繊維材料に混合したものが挙げられ、具体的には、親水性基がカルボン酸ソーダとされたアクリル酸系吸放湿吸水発熱性繊維が挙げられている。しかしながら、無機系の乾燥剤などの微粉末では、高吸湿性を付与するためには、多量の微粉末を混合する必要があるとともに、紡糸が非常に困難であり、また、アクリル酸系吸放湿吸水発熱性繊維では、製造工程が複雑で製造しにくいのみならず、かつ得られる繊維は強度、伸度が著しく低い欠点があった。したがって、中綿や不織布としての使用には問題がなくても、編物や織物としての使用には問題があり、吸湿発熱による保温性に優れ、かつ伸縮性にも優れた編地の提供は困難であった。
【0003】
【特許文献1】
特公平7−59762号公報(段落0015)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、吸湿発熱性が高く、この発熱により保温性に優れ、かつ伸縮性にも優れた編地を提供しようとするものであり、特に、吸湿による加温効果に優れ、スポーツなどの運動時のウォームアップ効果に優れた編地を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
これらの状況に鑑み、検討の結果、本発明に至った。即ち本発明は下記の構成を採用するものである。
1.高吸湿性有機微粒子を含有する弾性糸と非弾性繊維からなる合成フィラメント糸とより構成された高伸縮性編地であって、高吸湿性有機微粒子を含有する弾性糸をドラフトしながら合成フィラメント糸と複合した複合仮撚り加工糸が、複合仮撚り加工糸単独もしくは他フィラメント糸と丸編み機で交編されてなり、定荷重伸長率が50%以上で定荷重伸長回復率が50%以上であり、かつ吸湿時の編地の表面温度上昇が3℃以上であることを特徴とする吸湿発熱する高伸縮性編地。
2.高吸湿性有機微粒子が、アクリロニトリルを50質量%以上有するアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアネート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであり、該有機微粒子を0.2〜50質量%含有した弾性糸が構成編地の10質量%以上複合されていることを特徴とする第1に記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
3.編地の表裏表面は非弾性繊維で覆われ、該非弾性繊維表面には高吸湿性有機微粒子が実質的に存在しないことを特徴とする第1又は2に記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
4.弾性糸がポリウレタン繊維であることを特徴とする第1〜3のいずれかに記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明における編地を構成する弾性糸とは、ポリウレタン系合成繊維、ポリエーテルエステル系合成繊維からなる糸を意味する。伸縮回復性が優れることから、ポリウレタン系合成繊維が好ましい。本発明においては、弾性糸は原料樹脂中に吸湿発熱性を有する高吸湿性有機微粒子を含有するものである。
【0007】
弾性糸中に含有している高吸湿性有機微粒子は、架橋構造を有し、かつ親水性基を有する高吸湿性の有機性微粒子である。吸湿率(20℃、65%RH)は25%以上が好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。粒子径は2μm以下が、混和性及び紡糸性の点で好ましい。
本発明における高吸湿性有機微粒子は、分子間架橋構造を有し、かつ親水性基を有するため、弾性樹脂との混和性に優れ、かつ高度に吸湿しても体積の変化が小さいが、吸湿によって体積が膨張しても弾性樹脂が体積膨張を吸収できるので安定な高吸湿性の弾性糸となる。
親水性基としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムなどの塩型であり、塩型カルボキシル基、塩型スルホン酸基、塩型リン酸基、塩型ホスホン酸基などである。
【0008】
本発明における高吸湿性有機微粒子の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
アクリロニトリルを50質量%以上含むアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアネート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものが挙げられる。
塩型カルボキシル基の有機微粒子中の量は、1.0mmol/g以上有することが好ましく、高濃度であることが好ましいが、製造上の限界から6.0mmol/g程度が好ましい。該有機微粒子の弾性糸中の含有量は、0.2〜50質量%であることが好ましい。塩型カルボキシル基濃度(mmol/g)と粒子の含有量(質量%)の積が40から80であることが好ましい。
【0009】
本発明の編地は、前記の弾性糸と非弾性繊維とより構成された高伸縮性編地であるが、本発明における非弾性繊維とは、羊毛、綿、絹等の天然繊維やナイロン、ポリエステル等の合成フィラメントで破断伸度が100%未満の繊維である。非弾性糸は実質的に吸湿発熱性有機微粒子を含んでおらず、編地の表裏表面は非弾性繊維で覆われていることが好ましい。ここでいう実質的に吸湿性有機微粒子を含まないということは編地の吸湿率を左右する以上の粒子量を含まないことを意味し、多少であれば含んでいても差し支えない。
【0010】
本発明の編地における弾性糸の混用率は、構成編地の20質量%以上であることが吸湿加温効果を得る上で好ましく、着用時の心地よさを保つ上で50質量%未満とすることが好ましい。本発明における弾性糸は、綿繊維や羊毛繊維に比べ、吸放湿速度が遅く吸湿到達レベルが高いため、結果として発熱、放熱がマイルドで長時間継続することに特徴があり、特に発汗停止後の繊維温度の低下速度が遅く、運動停止後の冷え感を抑止する効果がある。また塩型カルボキシル基は吸湿発熱効果のほかに、消臭、制菌抗菌、pH緩衝、制電などの各種効果をもたらし、ウォームアップスーツとして理想的な性能を備えた製品である。また陰干ししても菌が繁殖しないので水着としても好適である。
【0011】
本発明の編地は、吸湿時の編地の表面温度上昇が3℃以上である。この吸湿時の発熱は、編地を70℃で2時間乾燥後シリカゲルを入れたデシケーター中で8時間以上調温後、32℃、70%RHに調整された雰囲気中で、サーモグラフィーで編地表面を5分間連続して表面温度を測定し、最大となる温度を計測し、32℃との差異を上昇温度とする。この温度が3℃未満では体感効果がなく、上昇温度が高いほど好ましいが、おおよそ10℃程度が性能の限界と考えられる。
【0012】
編地の伸長特性は重要な用件であり、保温性を高め、できるだけ身体に密着し、かつ運動性を阻害しない衣料であるためには、編地は50%以上の定荷重伸長率が必要であり、好ましくは定荷重伸長率が60〜100%の伸長性があることが望ましい。また、身体との密着性を保つことと、回復性に優れて見栄えを損なわないためには、定荷重伸長回復率が50%以上の伸長回復性があることが望ましい。より好ましくは、60〜95%である。
【0013】
弾性糸と非弾性繊維の混用は複合糸とした後、編地とする方法や弾性糸と非弾性糸とを交編とする方法を採用することができる。但し交編とする場合は編地表裏の表面に弾性糸が直接出ない工夫が好ましい。これは、吸湿により吸湿繊維表面がべたつくため、実質的に多量の水分を吸湿しない非弾性繊維でべたつき感を肌に感じさせないようにするためである。
【0014】
複合糸とする方法としては、複合紡績糸やカバリング糸とする方法がある。複合紡績糸とする方法の具体例としては、非弾性繊維の精紡工程の粗糸ドラフト域に弾性糸を適当なドラフト倍率して供給してシースコア複合糸とする方法がある。カバリング糸とする方法の具体例としては、弾性糸を適当なドラフト倍率で供給して、その上に非弾性糸を巻回する方法等がある。前者の場合、非弾性繊維として羊毛、綿、麻及びポリエステル短繊維、ナイロン短繊維を用いることができる。後者の場合、絹、ポリエステルフィラメント糸、ナイロンフィラメント糸、綿及び羊毛の紡績糸を用いることができる。またポリエステルフィラメント糸、ナイロンフィラメント糸の場合は複合仮撚り加工糸としても使用可能である。
【0015】
これらの複合糸は単独もしくは、他の繊維糸と交編して丸編み地として利用でき、丸編み地は比較的伸度を大きくすることの利点がある。組織は伸度が必要条件を満たせばとくに限定されない。
【0016】
経編地とする場合は、特別で編み目を形成する非弾性フィラメント糸と供給する筬の後であればどの筬に弾性糸を用いても、弾性糸が非弾性フィラメント糸で包みこまれて編地となるため、弾性糸はベアーで用いることができる。この場合、非弾性糸は紡績糸を用いることもできるが、毛羽や風綿での操業性の低下を抑止するためには、フィラメント糸が好ましい。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳述するが、本発明は、これらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中、単に部とあるのは質量部を意味する。[定荷重伸長率と定荷重伸長回復率の測定方法]
「風合い評価の標準化と解析」(日本繊維機械学会編集)の第IV章 「布の力学的特性の測定」に記載の方法に準拠して測定した。測定試料の大きさは幅20cm、長さ5cmであり、布帛の経方向、緯方向についてそれぞれ採取した。測定試料を長さ方向に4.00×10ー3 /secの一定速度で、最大荷重500gf/cmまで引張り、次いで変形回復過程に移り、最大荷重(500gf/cm)時の伸長率を求めた。経方向と緯方向の平均値を伸長率とした。また、定荷重伸長回復率は、最大荷重での伸長率に対する除荷重により回復した伸長率の比率から求めた(除荷重により回復した伸長率÷最大荷重での伸長率×100)。
【0018】
参考例1]
分子量1800のポリオキシテトラメチレングリコール200部とメチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)45部を80℃で3時間反応させ、両末端イソシアネート基の中間重合体を得た。中間重合体を40℃まで冷却した後、N,N−ジメチルアセトアミド375部を加え10℃まで冷却した。エチレンジアミン4.0部、ジエチルアミン0.4部をN,N−ジメチルアセトアミド147.6部に溶解したジエチルアミン溶液を用意し、高速攪拌されている中間重合体溶液にジエチルアミン溶液を一気に添加し、溶液濃度32.2質量%、粘度2500ポイズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液を得た。
得られたポリウレタン重合体溶液に、n−ブチルアミン/N,N−ジメチルヒドラジン末端封鎖ポリマー4%、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物を添加混合した。
引続き、ポリウレタン重合体溶液に、平均粒径0.5μm(光散乱光度計で測定)、膨潤度80%の高吸放湿性有機微粒子(アクリロニトリル、アクリル酸メチル、p−スチレンスルホン酸ソーダを共重合した原料微粒子水分散体をヒドラジン架橋し、NaOHにて加水分解処理したもの。親水性基としてカルボン酸ソーダとスルホン酸ソーダを保有)を13質量%添加混合し紡糸原液とした。
【0019】
紡糸原液を脱法後、孔径0.5mmの口金から吐出し、235℃の加熱空気を流した紡糸筒内に押し出し、油剤を5%omf付与して速度550m/分で巻き取った。得られた糸条を40℃で72時間加熱処理し、44dtex、4フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0020】
得られたポリウレタン弾性糸をバック筬に、カチオン常圧可染ポリエステルフィラメント糸56デシテックス36フィラメントをフロント筬に用いて28ゲージのトリコット編み機でハーフ組織の経編地(弾性繊維の含有率は25質量%)を得た。得られた経編地を、常法で精練、プレセット、常温染色、ファイナルセットをして、コース密度が102C/2.54cm、 ウェール密度が62W /2.54cm、目付が200g/m2 の仕上げ編地を得た。この編地の伸長特性、吸湿発熱特性を表1に示した。
この編地を縫製して、レオタードとスパッツを作成し、冬季の体育館内でテニス選手の下着として着用したところ初期の肌寒さが感じられず、未着用時の約半分の10分間のウォーミングアップで競技可能に体調になり、蒸れ感もないとの評価を得た。
【0021】
[実施例
参考例1と同法で得た弾性糸78デシテックスを3.3倍にドラフトしながら、ナイロン6フィラメント77デシテックス24フィラメントと引き揃え2,500T/mで1段仮撚り加工をし、巻取り前でおおむね60個/mのインターレースを入れて、巻き取った。該仮撚り複合糸を用いて28Gの丸編み機で天竺組織の編地を得た。得られた編地を常法で精練、染色、セットして、目付が150g/mで弾性糸の含有率が25質量%の仕上げ編地とした。この編地の伸長特性、吸湿発熱特性を表1に示した。また、仕上げ編地から、タイツを縫製した。このタイツを陸上選手に着用してもらい、ウォーミング時に着用感を評価してもらった結果は、体温の上昇がはやく、蒸れ感もないとの評価であった。
【0022】
[比較例1]
高吸湿有機微粒子を含有しないこと以外は実施例と同法でタイツを作成した。この編地の伸長特性、吸湿発熱特性を表1に示した。また実施例と同法で評価した結果、ウォーミングアップに急激な運動が必要で、発汗とともに蒸れ感を感じ、運動をやめ、しばらくするとひやり感も感じたとの評価であった。
【0023】
【表1】
Figure 0003838430
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、吸湿性に優れるばかりか、吸湿初期に発熱加温効果があり、ウォーミング効果を増進させ、発汗停止後の急冷によるべとつき感もない快適性に富んだウォーミングアップスーツに最適な編地であり、加えて、抗菌性、消臭性、pH緩衝性等の衛生機能や制電性能をも兼ね備えた高伸縮編地を提供することができる。

Claims (4)

  1. 高吸湿性有機微粒子を含有する弾性糸と非弾性繊維からなる合成フィラメント糸とより構成された高伸縮性編地であって、高吸湿性有機微粒子を含有する弾性糸をドラフトしながら合成フィラメント糸と複合した複合仮撚り加工糸が、複合仮撚り加工糸単独もしくは他フィラメント糸と丸編み機で交編されてなり、定荷重伸長率が50%以上で定荷重伸長回復率が50%以上であり、かつ吸湿時の編地の表面温度上昇が3℃以上であることを特徴とする吸湿発熱する高伸縮性編地。
  2. 高吸湿性有機微粒子が、アクリロニトリルを50質量%以上有するアクリロニトリル系重合体にヒドラジン、ジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアネート処理により架橋構造を導入し、残存しているニトリル基を加水分解により塩型カルボキシル基に化学変換せしめたものであり、該有機微粒子を0.2〜50質量%含有した弾性糸が構成編地の10質量%以上複合されていることを特徴とする請求項1に記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
  3. 編地の表裏表面は非弾性繊維で覆われ、該非弾性繊維表面には高吸湿性有機微粒子が実質的に存在しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
  4. 弾性糸がポリウレタン繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸湿発熱する高伸縮性編地。
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