JP3830792B2 - 感熱孔版印刷原紙用ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は感熱孔版印刷原紙用フィルムに関し、更に詳しくは印刷感度が高く、太さ斑、濃度斑がなく、鮮明な製版、印刷が可能であり、生産歩留まりの優れた感熱孔版印刷原紙用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、キセノンフラッシュランプ、サーマルヘッド、あるいは、レーザー光線等のパルス照射などによる熱を受けることにより穿孔製版される原紙を用いた感熱孔版印刷が注目されている。この製版方法の原理は、例えば特公昭41−7623号公報、特開昭55−103957号公報、特開昭59−143679号公報に記載されている。
【0003】
従来、かかる感熱孔版印刷に用いる原紙として感熱孔版印刷原紙用フィルムと多孔性支持体とを接着剤又は熱によりラミネートしたものが使用され、この感熱孔版印刷原紙用フィルムとしては、塩化ビニル、塩化ビニリデン共重合体フィルムやポリプロピレンフィルム、高結晶化ポリエチレンテレフタレートフィルムが使用され、さらに多孔性支持体としては薄葉紙やポリエステル紗などが使用されてきた。
【0004】
しかし、これらには次のような.問題点がある。
1)塩化ビニルや塩化ビニリデン共重合体フィルムを用いた場合、印刷後の文字が鮮明に出ない。
2)ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートフィルムでは、文字の鮮明なものが得られるが、ベタ印刷(●や■のような記号又は図形でインキの付着面積の大きいもの。以下、ベタ印刷という。)は鮮明なものが得られない。
3)また、いずれも印刷部分に濃淡が出る。
4)また、部分的に文字の太さのムラを生じる。
5)感度が悪く、黒色のうすい文宇等が印刷できない。
【0005】
これらの欠点を解消する為、特開昭62−149496号公報では結晶融解エネルギーの小さいフィルムの使用が、また特開昭62−282983公報では実質的に非晶な熱可塑性樹脂からなる高熱収(100℃×10min、熱収縮率≧15%)フィルムの使用が提案されている。
【0006】
しかし、前者は、フィルムを製造する工程中においてポリマーチップ乾燥時のブロッキング、テンター式横延伸機のクリップヘの縦延伸フィルムエッジの粘着等の製造上の問題点があり、またサーマルヘッドに穿孔時軟化したポリマーが付着しやすく、連続製版した際、ポリマー付着物に起因した筋状の白抜け斑が発生する等の印刷品質上の問題がある。
【0007】
また、後者は、穿孔するために充分な熱エネルギー以上の過大な熱エネルギーが加えられた場合、孔が過大に拡大する傾向が大さく、ベタ印刷のような穿孔ドット密度が高い印刷の際には穿孔された穴の周りの熱穿孔により変形した残存ポリマーが多孔性支持体の目につまる為、所々白抜けが生じ、印刷濃度が低下するという問題、さらにフィルム面に、スティッキング防止コーティングをする際や、多孔性支持体とフィルムを接着剤によりラミネートする際に、溶剤によりフィルムが収縮する等の孔版原版製造上の問題がある。
【0008】
これらの欠点を解消したものとして、第2507612号公報があり、使用実績を重ねつつあるが、生産歩留の向上、穿孔感度の向上、加工中の破断の減少、和紙とのラミネート時の収縮性の減少、マスター保存性の向上等の課題が残されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記欠点を解消し、文宇の印刷やベタ印刷がともに鮮明であり、印刷の太さ斑がなく、濃淡斑がなく、耐久性に優れ、感度が高く、その上フィルム生産時の生産性に優れ、加工性の高い感熱孔版印刷原紙用のフィルムとその製法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、2種以上の熱可塑性樹脂の混合物からなる厚さ0.2〜7μmの同時二軸延伸フィルムであって、該フィルムはフィルムの配向角が10度以下であり、フィルム表面の平均空気層厚さRpが2.2〜5.0μmであり、DSC昇温測定(サンプル量10mg、昇温速度:20℃/min)において2つ以上の融解ピーク(ショルダーも含む)を示し、かつ該融解ピークは下記の関係を全て満足することを特徴とする感熱孔版印刷原紙用フィルムである。
Tmp(max)≦260(℃)
Tmp(min)≧90(℃)
△Tmp≧10(℃)
△Hu(total)=5〜13(ca1/g)
△Hu(min)/△Hu(total)=0.1〜0.9
ここで、
Tmp(max):最も高温側の融解ピーク温度(℃)
Tmp(min):最も低温側の融解ピーク温度(℃)
△Tmp:Tmp(max)−Tmp(min)(℃)
△Hu(total)=全融解エネルギー(cal/g)
△Hu(min):最も低温側の融解ピークの融解エネルギー(ca1/g)
である。
【0011】
本発明は、好ましい実施態様として、平均粒径が異なる少なくとも2種の不活性粒子を含有する態様を含む。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[感熱孔版印刷原紙]
本発明における感熱孔版印刷原紙とは、キセノンフラッシュランプ、サーマルヘッド、レーザー光線などによる熱を受けることにより穿孔製版されるもので、感熱印刷原紙用フィルムと多孔性支持体を貼り合せたものである。
【0014】
そして、この感熱印刷原紙用フィルム(以下、単に感熱フィルムということがある)は、閃光照射を受けた時やサーマルヘッドと接触された時、被印刷原紙の文字等の部分が穿孔される部分を形成する。
【0015】
感熱フィルムの穿孔の過程は、下記の三段階に分けることができる。
1)サーマルヘッドとの接触、または電磁波(キセノンフラッシュランプ光、レーザーパルス等)照射により熱エネルギーが印加された部分が軟化・溶融し、孔のきっかけができる。
2)熱エネルギーが印加され、軟化した孔のきっかけの周囲のポリマーが拡散された熱エネルギーにより熱収縮・流動し、孔を広げる。
3)軟化したポリマーが熱収縮力により孔の周辺に引き寄せられ、自然冷却・放熱により固化し、孔端部が形成されることにより孔の形が維持される。
【0016】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、示差走査熱量計(以下「DSC」という)の昇温測定において、2つ以上の融解ピークを有し、比較的低温域に融解ピークをもつことにより、孔のきっかけをつくりやすくし、高温側にも融解ピークをもつことにより、孔の拡張及び孔の形状の維持を行ないやすくし、かつ感熱フィルムとして十分な機械的強度が得られる。
【0017】
[熱可塑性樹脂]
本発明では、フィルムを構成するポリマーとして、2種以上の熱可塑性樹脂の混合物を用いる。
【0018】
本発明において使用される熱可塑性樹脂は、加熱によって塑性流動を示すもので、化字構造的には主として線状ポリマーであるが、これに低分子量のオリゴマーが含まれたものであってもよい。
【0019】
代表的なものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリメチルペンテンなどで代表されるポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4−ジカルボキシレート,ポリカーボネートなどで代表されるポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルなどで代表されるハロゲン化ポリマー、ポリヘキサメチレンアジぺート(ナイロン66)、ポリε−カプロラクタム(ナイロン6)、ナイロン610などで代表されるポリアミド、さらにポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコールなどのビニルポリマー、ポリアセタール、ポリエーテルスルホンポリエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドおよびそれらの共重合体などがあげられる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、特にポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、これらの共重合体またはそれぞれのホモポリマー好ましい。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂の混合物としては、ポリエステルホモポリマーとポリエステル共重合体の混合物、異なるポリエステル共重合体の混合物が好ましい。
【0022】
[同時二軸延伸]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは同時二軸延伸されている必要がある。一軸延伸や未延伸のフィルムでは穿孔のムラを生じ、印刷後も欠陥部分を生じる。逐次二軸延伸されたフィルムは実用に供せられるレベルにあるが、2μm以下の薄番手フィルムの製膜時に破断が発生しやすく、生産歩留まりが低い。なお、延伸の程度は、面配向耐熱係数が0.90〜0.98にあることが好ましい。
【0023】
[厚み]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは厚さが0.2〜7μmであることが必要であり、好ましくは0.4〜5μm、さらに好ましくは0.6〜3.5μmである。この厚みが0.2μm未満のものでは多孔質支持体との貼合せが困難になり、印刷画像が不鮮明で濃淡斑を生じやすく、かつ耐刷性も低下する。一方、厚みが7μmを超えるものでは穿孔感度が低く、印刷画像に欠落部分を生じることがあり、太さの斑となる。
【0024】
[配向角]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、フィルムの配向角がフィルムのTD方向全幅で、10度以下であることが必要である。配向角は8度以下であるのが好ましく、更に好ましくは5度以下である。配向角が10度を超えると穿孔形状がMDとTD方向で等方化されず、印刷画像が鮮明にならない。
【0025】
ここでいう配向角はMD方向を基準とした配向角であり、フィルムの面内のセンターから50mmずつTD方向に離れた箇所をサンプリングして測定した全ての配向角を対象とする。
【0026】
[平均空気層厚さRp]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、フィルム表面の平均空気層厚さRpが2.2〜5.0μmである。Rpが5.0μmを超えるとサーマルヘッドに対向するプラテン圧を上げても熱伝達の斑を生じ、穿孔が不均一となり、解像度や熱感度が低下し、良好な画像が得られなくなる。また、Rpが2.2μm未満であると十分なオーバーコート層の保持力が得られず、スティックが発生する。
【0027】
このような平均空気層厚さRpを得る手段として熱可塑性樹脂フィルム中に不活性微粒子を分散含有させることが好ましい。不活性微粒子の平均粒径は0.5〜4.0μmであることが好ましく、フィルムの厚みより小さいことが好ましい。粒径比は1.0〜1.3であること、すなわち球形に近いことが好ましく、Rpを効果的に大きくできる。含有量は0.05〜3重量%が好ましい。0.05重量%未満ではRpが2.2μmに到達し難く、3重量%を超えて含有させるとフィルムが切断しやすくなる。
【0028】
かかる不活性微粒子の具体例には、球状シリカ、球状シリコーン樹脂、球状架橋ポリスチレン、球状架橋アクリル樹脂等がある。
【0029】
また、平均空気層厚さへの寄与は小さいが、上記の不活性微粒子であって、平均粒径が0.05〜0.5μmの粒子を上記の粒子と共に添加すると滑り性がより改良される。添加量は上記の比較的大粒径の粒子との合計量で好ましくは0.2〜3.0重量%である。0.2重量%未満では滑り性改良の効果が発現し難い。また、3重量%を超えると2μm未満のフィルムの場合、製膜中に切断が多発する。
【0030】
[融解ピーク]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、DSC昇温測定(サンプル量10mg、昇温速度:20℃/min)において2つ以上の融解ピーク(ショルダーも含む)を示すことが必要である。
【0031】
そして、2つ以上の融解ピークのうち最も高温側の融解ピーク温度Tmp(max)が260℃以下であることが必要であり、さらに250℃以下、特に240℃以下であることが好ましい。この温度が260℃より高いと、穿孔性が不十分となり、感度の悪いものとなる。
【0032】
また、2つ以上の融解ピークのうち最も低温側の融解ピーク温度Tmp(min)が90℃以上であることが必要であり、さらに100℃以上、特に110℃以上であることが好ましい。この温度が90℃より低いと、サーマルヘッドに穿孔時軟化したポリマーが付着しやすく、印刷品質上に問題が生じたり、閃光照射による穿孔の際、原稿に付着する。
【0033】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、2つ以上の融解ピークのうち最も高温側のピーク温度Tmp(max)と最も低温側の融解ピーク温度Tmp(min)の差△Tmpが10℃以上であることを必要とし、さらに20℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。この温度差が10℃未満であると穿孔性が不十分となる。
【0034】
また本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、全融解エネルギー△Hu(total)が5〜13cal/gであることを要し、さらに6〜12cal/g、特に7〜11cal/gであることが好ましい。このエネルギーが5ca1/g未満ではサーマルヘッドや原稿へのポリマーの融着が生じ、十分な機械的強度や耐溶剤性が得られず、多孔性支持体とのラミネート及び印刷時の作業に耐えられなくなる。また△Hu(total)が13cal/gを超えるものでは、十分な穿孔性が得られない為、欠落部分を生じた文字となり、また、感度の悪いものとなる。
【0035】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、さらに、最も低温側の融解ピークの融解エネルギー△Hu(min)の全融解エネルキー△Hu(total)に対する割合が0.1〜0.9であることを必要とする。この割合が0.1未満でも、0.9を超えても、2つ以上の融解ピークをもつ効果が現われなくなる。この割合が0.1未満では短時間のエネルギー印加、または印加エネルギー量が小さいと十分な穿孔性が得られず、一方0.9を超えるものでは、穿孔するために十分な熱エネルギー以上の過大な熱エネルギーが加えられた場合、孔の形状の維持が困難で、変形したポリマーが多孔性支持体の目につまり、印字濃度が低下するという問題が生じる他、感熱フィルムとして十分な機械的強度が得られない。
【0036】
[その他の物性]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、フィルムの最も高温側の融解ピーク温度Tmp(max)から(Tmp(max)−20℃)の範囲内で熱収縮率が10%以上、更に20%以上であることが好ましい。この熱収縮率が10%未満では、製版感度が低くなるため実用上問題を生じることがある。
【0037】
さらに本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、引張弾性率が1000MPa以上、さらに1500MPa以上、特に2000MPa以上であることが、孔版原紙の作業性、耐刷性がより良好となり、好ましい。但し、ここでいう引張弾性率はいずれも縦、横方向の平均値で表わす。
【0038】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、面としてマクロレベルでの熱的性質(DSC挙動)が上述した特性を満足するものであれば、ホモポリマー、交互共重合体、ランダム共重合体、相溶系ポリマーブレンドのようなミクロレベルでも均一組成を形成しているものは勿論のこと、ブロック共重合体、グラフト共重合体、半相溶系・非相溶系ポリマーブレンドのようなミクロレベルでみた場合、不均一組成を形成しているものからなっていてよく、また層構成としては単層は勿論のこと、多層状(2層以上)のものでもよい。面としてのマクロレベルでの熱的性質の均一性は、少なくとも50μm四方以下、好ましくは30μm四方以下、さらに好ましくは10μm四方以下の面積の範囲で熱的性質が均一であることが望ましい。50μm四方を超える範囲でしか熱的性質が均一とならない場合、サーマルヘッドのドット毎に穿孔性が異なり、濃淡斑が出やすくなる。
【0039】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムには、閃光照射する波長域に吸収ピークをもつ添加剤等を添加しても良い。
【0040】
多孔性支持体との接着性を向上させるため、感熱フィルムの表面を、空気、炭酸ガス又は窒素ガス中で、コロナ放電処理をしたものでも良い。また、易接性塗液を未延伸フィルムに塗布し、延伸熱固定工程で密着乾燥させてもよい。
【0041】
また、本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムに、潤滑剤、界面活性剤を塗布又は練り込んだ場合、原紙との離型性が改されるため、好適である。
【0042】
さらに、感熱フィルムの滑り性を改良するため有機、無機の添加剤を含有させるのが好ましい。
【0043】
[多孔質支持体]
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、多孔室質支持体と貼り合せて用いるが、多孔質支持体としては、和紙、天具帖、合成繊維抄造紙、各種織布、不織布などをその代表例として挙げることができる。また、使用する多孔質支持体の坪量は、特に限定されないが、通常は2〜20g/m2、好ましくは5〜15g/m2程度のものが使用される。また、メッシュ状シートを用いる場合は、20〜60μmの太さの繊維を織ったものを使用するのが、また格子間隔としては20〜250μmのものを使用するのが好ましい。
【0044】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムと多孔質支持体を貼り合せるのに使用される接着剤としては、特に限定されないが、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂をその代表例として挙げることができる。
【0045】
[フィルムの製造法]
次に本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムの製造方法について説明する。
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、例えばより高温域に融解ピークをもつ熱可塑性樹脂成分に、より低温域に融解ピークをもつ熱可塑性樹脂成分を共重合するか、ブレンドするか、或いは多層積層することによって得られた樹脂原料を所定の条件で十分乾燥した後、押出機に供給し、スリット状ダイ(例えばT−ダイ)より溶融製膜した後、同時二軸延伸することにより得られる。
同時二軸延伸機の縦方向の延伸機構には従来の方式であるスクリューの溝にクリップを乗せてクリップ間隔を拡げていくスクリュー方式、パンタグラフを用いてクリップ間隔を拡げていくパンタグラフ方式がある。これ等には、製膜速度が遅いこと、延伸倍率等の条件変更が容易でない等の問題があったが既にこのような設備を所有する場合、本発明に用いることができる。一方、近年、リニアモーター方式の同時二軸テンターが開発され、その製膜速度の高さ等から注目を集めている。リニアモーター方式の同時二軸延伸では、これらの問題を一挙に解決できる。従って新規に同時二軸延伸機を導入する場合にはこの方式の設備を使用するのが好ましい。また、同時二軸延伸では、逐次二軸延伸のように縦延伸ローラーを使用しないため、フィルム表面の傷が少なくなるという長所がある。その他、逐次二軸延伸ではポリエステル樹脂原料の場合、ベンゼン環又はナフタレン環の面がフィルム面と平行になりやすく、厚み方向の屈折率nzが小さくなり、引裂き伝播抵抗が小さく、層状剥離し易い。同時二軸延伸ではこれが改善される。同時二軸延伸機には熱固定領域で縦弛緩できる構造のものがあり、200℃近辺の縦方向の熱収縮率を加減できる。また、延伸中にボイドができにくいので熱伝導性が高く、そのため穿孔感度が高い。フィルムと和紙を貼り合わせる際に収縮の小さいフィルムを得ることができる。70℃以下の熱収縮率を小さくできるのでマスター(フィルムと和紙等を貼り合わせた印刷用原紙)のカールが小さくできる。また、2μm以下の極薄フィルムの生産において、逐次二軸延伸に比べ格段に安定する。これらの特徴が孔版印刷原紙用フィルムへの要求特性と合致するので、本発明においては同時二軸延伸を実施する必要がある。
【0046】
本発明でいう同時二軸延伸とは、フィルムの縦方向、横方向に同時に配向を与えるための延伸であり、同時二軸延伸機を用い、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、縦方向および横方向に延伸する操作をいう。尚、ここで、フィルムの縦方向とはフィルムの長手方向であり、横方向とはフィルムの幅方向である。もちろん、縦方向と横方向の延伸が時間的に同時に延伸されている部分があればよいのであって、従って、横方向または縦方向に単独に先に延伸した後に、縦方向と横方向とを同時に延伸する方法や、さらに同時二軸延伸後に横方向または縦方向に単独に更に延伸する方法なども本発明の範囲に含まれる。また、安定して生産するためにはリニアモーター式の同時二軸遠心機が好ましい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを製造するには、所定の不活性微粒子を含有させた後、例えば通常の押出温度、すなわち融点(以下Tmと表わす)以上(Tm+90℃)以下の温度で溶融押出されたフィルム状溶融物を回転冷却ドラムの表面で急冷し、未延伸フィルムを得る。この工程でフィルム状溶融物と回転冷却ドラムの密着性を高める目的で、フィルム状溶融物に静電荷を付与する静電密着法が知られている。熱可塑性樹脂は一般に溶融物の電気抵抗が高いため、上記静電密着が不十分である場合がある。この対策として、本発明のフィルム用樹脂がポリエステルの場合は、2官能性カルボン酸成分に対し0.05〜40mmol%のエステル形成性官能基を有するスルホン酸4級ホスホニウムを含有させるのが好ましい。或るいは回転冷却ドラムの表面に水などの液体を薄く塗布してもよい。
【0048】
未延伸フィルムの端部と中央部の厚みの比率(端部の厚み/中央部の厚み)は、望ましくは、1以上、10以下であり、好ましくは1以上、5未満、さらに好ましくは1以上、3未満である。前記厚みの比率が1未満であるか、10を越えるとフィルム破れまたはクリップ外れが多発するので好ましくない。
【0049】
次いで、この未延伸フィルムを、同時二軸延伸機に該フィルムの両端部をクリップで把持して導き、予熱ゾーンで、(ポリエステルの場合Tg−10)〜(Tg+70)℃に加熱し、一段階もしくは二段階以上の多段階で、面積倍率10〜40倍の同時二軸延伸する。続いて、(Tm−150)〜(Tm−30)℃の温度範囲で定長熱固定を施した後、熱固定からの冷却過程で、好ましくは50〜180℃の温度範囲で縦および横方向に、好ましくは各方向に対して1〜10%の範囲で弛緩処理を行う。その後、フィルムを室温まで、必要なら縦および横方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする同時二軸延伸フィルムを得る。尚、本発明では、フィルムの表面特性を付与するため、例えば易接着性、易滑性、離型性、制電性を付与するために、同時二軸延伸の前の工程で、熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗剤をコーテングすることも好ましく行うことができる。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は以下の如く測定されたものであり、また定義される。
(1) 融解ピーク温度Tmp(℃){Tmp(min),Tmp(max)}フィルム10mgをセイコー電子工業(株)製熱分析システムSSC5200,DSC20にセットし、窒素気流中で20℃/minの昇温速度で加熱し、 該フィルムの融解にともなう吸熱挙動を1次微分、2次微分で解析し、ピークまたはショルダーを示す温度を決定し、これを融解ピーク温度とした。
【0051】
(2) 融解エネルギー△Hu(cal/g)
(2−1)全融解エネルギー△Hu(total)(ca1/g)
(1)と同様に、フィルム10mgをセイコー電子工業(株)製熱分析システムSSC5200,DSC20にセットし、窒素気流中で20℃/minの昇温速度で加熱し、該フィルムの融解にともなう吸熱エネルギーに対応するDSCチャート上の融解側の面積から求めた。この面積は、昇温することによりベースラインから吸熱側にずれ、さらに昇温を続けて、最も高温側の融解ピークを経た後、ベースラインの位置までもどるまでの吸熱側の面積であり、融解開始温度位置から終了温度位置までを直線で結び、面積(a)を求めた。同じDSCの測定条件でIn(インジウム)を測定し、この面積(b)を6.8cal/gとして次の式より求めた。
(a/b)×6.8=△Hu(total) (cal/g)
【0052】
(2−2)最も低温側の融解ピークの融解エネルギー△Hu(min)(cal/g)
上記(2−1)の方法でもとめた吸熱ピークを、上記(1)の方法でもとめた各融解ピーク温度(Tmp(min),Tmp(max))をピークにもつガウス曲線に分割し、そのうち最も低温側のピークのガウス曲線とベースラインで囲まれる面積(c)を求め、上記(2−1)と同様に次の式より求めた。
(c/b)×6.8=△Hu(min) (cal/g)
したがって、
△Hu(min)/△Hu(total)=c/a
である。
【0053】
(3) フィルム厚さ
フィルムの厚さt(μm)は該フィルムの幅をW(cm)、長さをl(cm)にサンプリングした時の重さをG(g)、密度をd(g/cm3)としたとき、次式で計算する。
t=10000G/Wld
【0054】
(4)配向角
フィルムを幅方向のセンターから50mmピッチでエッジ方向にサンプリングした後、全サンプルについて偏光顕微鏡を用いてMD方向を角度0度としてサンプルを時計周り並びに反時計周りの方向に回転させて、各方向にて初めに消光する角度を測定した。その測定角度のうち小さい角度を配向角とした。
【0055】
(5) フィルムの平均空気層厚み(Rp)
マイクロトポグラフ((株)東洋精機製作所製)により測定する。試料フィルムを圧力1.5kg/cm2で密着させたガラスプリズムに光を入射し、反射光量を測定し、次式によりガラスプリズムとフィルムの接触状態での平均空気層厚みを求める。
【0056】
【数1】
【0057】
ここに、
λ:波長
φ0:入射光量
φ:反射光量
F:光学接触率
【0058】
(6) 固有粘度
o−クロロフェノールを溶媒として用い、25℃で測定した値、単位100cc/gである。
【0059】
(7) 面配向耐熱係数
フィルムの厚み方向の屈折率(Nz)と、該フィルムを融点より50℃高い温度で5分間保ち(ただし、面が凹凸にならないようにガラス板にはさみ)、その後このサンプルを取り出し、厚み方向の屈折率(Nzo)を求め、下記式により求めた。
面配向耐熱係数=Nz/Nzo
屈折率の測定は、アッベの屈折計を用いた。
【0060】
(8)引張弾性率(ヤング率)(MPa)
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度100mm/分でインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られた荷重−伸び曲線の立ち上がり部の接線より引張弾性率(ヤング率)を計算する。
【0061】
(9) 文字印刷の評価
(9−1)文宇の鮮明さの評価
JIS第1水準の文字を、文字サイズ2.0mm□の原稿とし、ポリエステル紗でできた多孔性支持体と感熱フィルム(実施例、比較例も同様にして)とを貼り合せたものを、閃光照射方式としては“RISO名刺ごっこ”製版印刷器(理想科学工業(株)製)を用いて、サーマルヘッド穿孔方式としてはデジタル印刷器PRIPORT SS950(リコー(株)製)を用いて製版し、印刷したものを、次のようにして評価した。尚、最終的評価は、各実施例・比較例とも、閃光照射穿孔方式とサーマルヘッド穿孔方式のうちの評価結果の悪い方を示した。評価は肉眼判定でA,B,Cの3段階とし、Aは原稿と同様に見えるもの、Bは原稿と異なり線が部分的に切れたりくっついたりしているが判読は可能なもの、Cはほとんど判読が出来ない状態まで切れたり、ついたりしているもの
である。
【0062】
(9−2)文字の欠落の評価
(9−1)と同様の製版、印励を行い、文宇の欠け方を評価した。
明らかに欠けた部分のあるものを使用不能とし×印で示した。また、完全な欠落状態ではないが、わずかに(判読可能な範囲で)欠落が認められるものを△印で示した。
【0063】
(9−3)文字の太さ斑の評価
(9−1)と同様の製版、印刷機を用いて、文宇サイズ5.0mm□の文字を印刷し、 その印刷状態を内眼で評価した。
原稿の文宇に比べ、明らかに文字の太さ斑のあるものを外観が悪く使えないものとして×印、太さ斑のないものを外観が良く、使用可能として○印で示した。
【0064】
(9−4)文宇の太さの評価
(9−3)と同じように製版、印刷し、文字の太さの変化について、肉眼で評価した。
原稿の文字の太さと比較し、明らかに太くなったり、細くなったりしているものを使用できないものとして×印で示し、太さの変化のないものを○印で示した。また、わすかに太くなったり、細くなったりしているが使用可能なものを△印で示した。
【0065】
(10) ベタ印刷の評価
(10−1)ベタ印刷の鮮明さの評価
1〜5mmφの●(丸で中が黒くぬりつぶされたもの)を原稿として用いて、前述と同様の製版、印刷したものを次のように評価した。
原稿のサイズを基準として、その輪郭の凹凸(部分的な)で判定した。原稿のサイズより200μm以上凹凸のできたものを外観悪く不鮮明とし×印で、50μm以下の凹凸のものを鮮明なものとし○印で示した。これらの中間のものを△印で示した。使い方によって△印のものでも使用可能である。
【0066】
(10−2)ベタ印刷の原稿サイズとの対応性
(10−1)と同様に印刷し、全方向(0°と180°、45°と225°、90°と270°、135°と315°の位置で)のサイズを評価し、原稿のサイズとの大きさの対応性を評価した。原稿サイズに比べ500μm以上異なるもの(大きい時も小きい時もある)を対応性が悪いものとして×印で示し、50μm以下のもを対応性が良いものとして○印で示した。その中間のものを△印で示したが、用途によっては使用可能なものである。
【0067】
(10−3)ベタ印刷の濃淡斑の評価
(10−1)と同様に印刷し、ベタ印刷の濃淡の斑があるか、ないかを肉眼で評価した。濃淡斑のあるものを×印で示し、ないものをOで示した。
【0068】
(11) 感度の評価
鉛筆硬度5H、4H、3H、2H及びHの5種類を用意し、押付け圧150gで文字を書いたものを原稿とし、この原稿を用いて、その文字が判読できるか否かで評価した。5Hで書いた最も淡色の字が判読できるものが最も高感度であり、より濃色の鉛筆で書いた文字しか判読できないもの程低感度であると判定する。
【0069】
(12) 耐久性の評価
前述した印刷機で感熱フィルムが破損するまでに刷れる枚数(以下、耐刷枚教という。)で表した。
【0070】
(13) 製膜性
フィルムを24時間連続で製膜したときのフィルムの製膜状態を観察し、次の基準で評価する。
◎:破断回数は0回/24時間であり、極めて安定な製膜が可能
○:破断回数は1〜3回/24時間であり、安定な製膜が可能
×:破断回数は4回以上/24時間であり、製膜が不安定
【0071】
(14) ラミネート性
ラミネート後の原紙の状態を光学顕微鏡にて観察し、次ぎの基準で評価する。
○:フィルムにタルミがなく、シワが入っていない。
×:フィルムにタルミが見られ、シワが入っている。
【0072】
(15) カール性
温度30℃、相対湿度70%の高湿環境下にて原紙の通版試験を行い、カール性を下記の基準で評価する。
◎:殆どカールがなく、良好に通版する
○:ややカールがあるものの通版する
△:カールがあり、時々通版できない
×:カールが大きく、通版トラブルが頻繁に発生する
【0073】
(16) 耐スティッキング性
◎:ドット間の穿孔が明瞭で画像再現性に優れているレベルにおいて、スティック音の発生なし
○:ドット間の再現性が良く、実用上可のレベルでスティック音の発生なし
×:ドット間の再現性が悪く、スティック音の発生が著しく、融着防止層の剥離が発生する
【0074】
【実施例1〜3、比較例1〜4】
熱可塑性樹脂原料として、〔η〕=0.65であるポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略記する)、イソフタレートが10モル%の割合で共重合された〔η〕=0.90であるポリブチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体(以下「PBT/I10」と略記する)を表1に示すように用いた。
また、滑剤微粒子は表1に示すように用いた。
【0075】
【表1】
【0076】
上記原料を十分乾燥した後、押出機に供給し、使用した樹脂組成に適した温度を245〜310℃から選択して溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。
【0077】
この未延伸フィルムを、使用した樹脂組成に適した延伸温度を50〜100℃から選択して縦方向に4.0倍、横方向に4.5倍の倍率で同時二軸延伸を施した後、一旦冷却した後110℃で2%弛緩しつつ熱処理を施した。
【0078】
このようにして得られた厚さ1.5μmの二軸延伸フィルムをポリエステル紗(ポリエチレンテレフタレート繊維よりなる)と貼り合わせ、製版・印刷機にかけ評価し、その結果をフィルムの特性と共に表2に示した。
【0079】
これらの組成の樹脂の製膜を逐次二軸延伸でも試行したが、表1に示すように製膜性が不良であった。
【0080】
【表2】
【0081】
【発明の効果】
本発明の感熱孔版印刷原紙用フィルムは、次のような優れた作用効果を発現する。
【0082】
すなわち、該フィルムを用いた原紙は、
(1)文宇およびベタ印刷のいずれにも鮮明な製版、印刷が可能である、
(2)文宇およびベタ印刷で太さ斑、濃淡斑のない製版、印刷が可能である、
(3)感度が著しく高い、
(4)カールが少なく、保存性に優れている、
等の特徴を有する。またフィルム製膜に際し、2μm未満の薄番手のフィルムにおいても切断が少なく生産性が高い。また、印刷原紙への加工時の作業性が優れている。
Claims (2)
- 2種以上の熱可塑性樹脂の混合物からなる厚さ0.2〜7μmの同時二軸延伸フィルムであって、該フィルムはフィルムの配向角がフィルムのTD方向全幅で10度以下であり、フィルム表面の平均空気層厚さRpが2.2〜5.0μmであり、サンプル量10mg、昇温速度20℃/minの条件でのDSC昇温測定において、ショルダーがある場合にはショルダーも融解ピークとして読み2つ以上の融解ピークを示し、かつ該融解ピークは下記の関係を全て満足することを特徴とする感熱孔版印刷原紙用フィルム;
Tmp(max)≦260(℃)
Tmp(min)≧90(℃)
△Tmp≧10(℃)
△Hu(total)=5〜13(ca1/g)
△Hu(min)/△Hu(total)=0.1〜0.9
ここで、
Tmp(max):最も高温側の融解ピーク温度(℃)
Tmp(min):最も低温側の融解ピーク温度(℃)
△Tmp:Tmp(max)−Tmp(min)(℃)
△Hu(total)=全融解エネルギー(cal/g)
△Hu(min):最も低温側の融解ピークの融解エネルギー(ca1/g)
である。 - 平均粒径が異なる少なくとも2種の不活性粒子を含有する請求項1記載の感熱孔版印刷原紙用フィルム。
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