JP3827052B2 - 誘導電動機の可変速制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一次角周波数指令値と二次磁束指令値とを用いて交流電圧指令値を演算し、この電圧指令値をインバータ等の電力変換回路に与えて誘導電動機を駆動する可変速制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6に従来の誘導電動機の可変速制御装置の全体ブロック図を示す。
同図において、指令値発生回路3から出力される一次角周波数指令値ω1 *と二次磁束指令値φ2 *とに基づいて、電圧指令値演算回路4が回転座標系(d−q軸)における電圧指令値v1d *,v1q *を演算する。次に、ω1 *を入力とする積分器5により、位相角指令値θ*を演算する。
ここで、前記回転座標系は一次角周波数指令値ω1 *と等しい角速度で回転するものとし、そのd軸は位相角指令値θ*の方向に一致する座標軸、q軸はd軸に直交する座標軸である。
【0003】
座標変換回路7は、前記v1d *,v1q *を入力として前記位相角指令値θ*による回転座標変換を行い、交流電圧指令値ベクトルv1 *を出力する。インバータ等の電力変換回路1は前記交流電圧指令値ベクトルv1 *に従って各相の交流電圧を出力し、誘導電動機2を駆動する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の可変速制御装置において、電圧指令値演算回路4における演算誤差や電力変換回路1が出力する交流電圧の指令値と実際値との誤差等により、位相角指令値θ*の方向によって決まる二次磁束指令値φ2 *と誘導電動機2に発生する二次磁束との間にずれを生じることがある。
このため、指令値通りの磁束を発生できなくなり、発生トルクが減少する、あるいは電動機効率が低下する等の問題を生じていた。
【0005】
そこで本発明は、二次磁束指令値と誘導電動機に実際に発生する二次磁束との間のずれを補償する手段を備え、指令値通りの二次磁束を発生させて良好な制御を実現し、所望のトルクの発生や電動機効率の向上を可能にした誘導電動機の可変速制御装置を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
まず、d−q軸回転座標系から観測した誘導電動機の電圧方程式は、次の数式1によって表される。
【0007】
【数1】
Figure 0003827052
【0008】
なお、数式1において、v1dは一次電圧d軸成分、v1qは一次電圧q軸成分、i1dは一次電流d軸成分、i1qは一次電流q軸成分、φ2dは二次磁束d軸成分、φ2qは二次磁束q軸成分、R1は一次(固定子)巻線抵抗、R2は二次(回転子)導体抵抗、Lσは漏れインダクタンス、ω1は一次角周波数、ω2は二次(回転子)角周波数、τ2は二次時定数、pは微分演算子(=d/dt)である。
【0009】
ここで、制御装置において数式1の演算に使用する電圧、電流、電動機定数が、制御している誘導電動機のそれらと誤差がない場合を考える。このとき、誘導電動機の二次磁束φ2の向きと制御装置の二次磁束指令値φ2 *との間にはずれが生じていない。
一次角周波数指令値ω1 *及び二次磁束指令値φ2 *が与えられると、数式1においてφ2d=φ2 *,φ2q=0,ω1=ω1 *とおくことができ、一次電圧指令値のd軸成分v1d *、q軸成分v1q *は数式2のようになる。
【0010】
【数2】
1d *=(R1+pLσ)i1d−ω1 *Lσi1q
1q *=ω1 *φ2 *+(R1+pLσ)i1q+ω1 *Lσi1d
【0011】
次に、誘導電動機の二次回路の誘起電圧ベクトルe2=(e2d,e2qT(以下、誘起電圧という。( )T:行列( )の転置行列を表す)について考える。前述した数式1の第1行、第2行を変形することにより、誘起電圧のd軸成分e2d、q軸成分e2qは、次の数式3によって表される。ここで、数式3におけるv1d,v1qは、電力変換回路に入力される交流電圧指令値ベクトルv1 *または誘導電動機の端子電圧検出値から求めることができる。
【0012】
【数3】
2d=pφ2d−ω1φ2q=v1d−(R1+pLσ)i1d+ω1Lσi1q
2q=ω1φ2d+pφ2q=v1q−(R1+pLσ)i1q+ω1Lσi1d
【0013】
次に、前述した如く、交流電圧指令値の演算誤差等に起因して、誘導電動機の二次磁束φ2の向きと制御装置の二次磁束指令値φ2 *との間にずれが発生した場合を考える。
図5は、誘起電圧e2と二次磁束φ2との関係を表したベクトル図である。d−q軸は制御装置の内部演算で使用される座標軸、dm−qm軸は誘導電動機の二次磁束φ2に基づく座標軸である。
【0014】
誘起電圧e2は二次磁束φ2と直交するため、制御装置の座標軸(d−q軸)と誘導電動機の座標軸(dm−qm)との間にずれ(以下、軸ずれという)がない場合には、誘起電圧e2のd軸成分e2dは零であるが、軸ずれがある場合はe2d≠0となる。
また、図5に示すように軸ずれ角を△θとすると、一次角周波数指令値ω1 *の符号(正負)に応じて、△θとe2dの符号には数式4の関係がある。
【0015】
【数4】
ω1 *≧0のとき、
△θ>0のとき、e2d>0
△θ<0のとき、e2d<0
ω1 *<0のとき、
△θ>0のとき、e2d<0
△θ<0のとき、e2d>0
【0016】
従って、誘起電圧e2のd軸成分e2dを入力とする比例演算または比例積分演算を行い、その演算結果に第1の(もとの)一次角周波数指令値ω1 *の符号データを付加した信号(位置ずれ量)△ω1を第1の一次角周波数指令値ω1 *へ補償し、その結果を第2の一次角周波数指令値ω1 **として電圧指令値演算、位相角指令値演算の入力として用いれば、軸ずれ角△θを零とする動作を実現することができる。
【0017】
数式5及び数式6に、信号△ω1及び第2の一次角周波数指令値ω1 **の演算式を示す。この例は、e2dを入力として比例積分演算を行う例である。なお、数式5において、sgn(ω1 *)はω1 *の符号データであり、ω1 *≧0のときsgn(ω1 *)=1、ω1 *<0のときsgn(ω1 *)=−1である。また、Kpは比例ゲイン、TIは積分時定数である。
【0018】
【数5】
△ω1=sgn(ω1 *)・KP{e2d+(1/TI)∫e2ddt}
【0019】
【数6】
ω1 **=ω1 *−Δω1
【0020】
このように、本発明では、制御装置の座標軸と誘導電動機の座標軸との間に軸ずれがあり、誘導電動機の二次磁束φ2の向きと制御装置の二次磁束指令値φ2 *との間にずれが生じている場合には誘起電圧e2のd軸成分e2dが零にならないことに着目したもので、前記軸ずれ角を零にするように一次角周波数指令値を調節することを要旨とする。
【0021】
すなわち、請求項1記載の発明は、指令値発生回路からの一次角周波数指令値と二次磁束指令値とを用いて一次角周波数指令値と等しい角速度で回転するd−q軸回転座標上の交流電圧指令値を演算する電圧指令値演算手段と、
一次角周波数指令値を積分して位相角指令値を演算する積分手段と、
前記交流電圧指令値と前記位相角指令値とから求められた交流電圧指令値ベクトルに従って電力変換を行い、誘導電動機に交流電圧を供給する電力変換回路とを有する誘導電動機の可変速制御装置において、
誘導電動機の電流を検出する電流検出手段と、
誘導電動機の誘起電圧ベクトルのd軸成分(前記位相角指令値と同方向の軸成分)を、前記交流電圧指令値ベクトルと前記電流検出手段の出力と第1の一次角周波数指令値と電動機定数とから演算する誘起電圧演算手段と、
この誘起電圧演算手段の演算結果から、誘導電動機の二次磁束の座標軸と二次磁束指令値の座標軸との間の軸ずれを、一次角周波数の補償量である位置ずれ量として演算する位置ずれ量演算手段と、
第1の一次角周波数指令値へ前記位置ずれ量を補償することにより、前記電圧指令値演算手段及び積分手段に与える第2の一次角周波数指令値を生成する補償手段と、
を備えたものである。
【0022】
請求項2記載の発明は、上記誘起電圧演算手段が、誘導電動機の端子電圧検出手段の出力と前記電流検出手段の出力と第1の一次角周波数指令値と電動機定数とから誘起電圧ベクトルのd軸成分を演算するものである。
【0023】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載した可変速制御装置において、
前記位置ずれ量演算手段が、前記誘起電圧ベクトルのd軸成分を入力として比例演算または比例積分演算を行い、その演算結果と第1の一次角周波数指令値の符号データとを乗算して位置ずれ量を演算するものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は請求項1に記載した発明の実施形態である。なお、図6と同一の構成要素には同一の参照符号を付してあり、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0025】
図1において、図6と同様に、指令値発生回路3は一次角周波数指令値ω1 *(第1の一次角周波数指令値ω1 *)及び二次磁束指令値φ2 *を出力する。一次角周波数指令値ω1 *は加算器からなる補償器12に入力されており、後述する位置ずれ量演算回路11からの位置ずれ量△ω1を減算して第2の一次角周波数指令値ω1 **を出力する。電圧指令値演算回路4は前記φ2 *,ω1 **を入力としてd−q軸上の電圧指令値v1d *,v1q *を演算する。積分器5はω1 **を積分して位相角指令値θ*を演算する。座標変換回路7は前記v1d *,v1q *に対して前記θ*による座標変換を行い、交流電圧指令値ベクトルv1 *を演算する。インバータ等の電力変換回路1は、このベクトルv1 *に基づく各相の交流電圧を発生し、誘導電動機2を駆動する。
【0026】
誘起電圧演算回路10は、前記交流電圧指令値v1 *と電流検出器6により得られる電流検出値i1とを入力として、誘導電動機2の誘起電圧e2のd軸成分e2dを前記数式3に基づいて演算する。
位置ずれ量演算回路11には、このd軸成分e2dと第1の一次角周波数指令値ω1 *とが入力されており、前述の数式5を用いて位置ずれ量△ω1を演算する。そして、この位置ずれ量△ω1は補償器12に図示の符号で入力されて第1の一次角周波数指令値ω1 *から減じられ、第2の一次角周波数指令値ω1 **が演算される。
これにより、数式4に示したように、誘起電圧e2のd軸成分e2dと第1の一次角周波数指令値ω1 *の符号とに応じた軸ずれ角Δθを零とする制御が可能になり、制御装置の座標軸(d−q軸)と誘導電動機の座標軸(dm−qm)とを一致させることができる。
【0027】
次に、図2は、請求項2に記載した発明の実施形態を示している。
この実施形態は、誘起電圧演算回路10における誘起電圧e2のd軸成分e2dの演算に、図1の交流電圧指令値ベクトルv1 *に代えて電圧検出器9による端子電圧検出値v1を用いるようにしたものであり、その他の構成は図1と同様である。
本実施形態の基本的な動作は図1と同一であるので、重複を避けるために説明を省略する。
【0028】
図3は、請求項3に記載した発明の実施形態の主要部であり、図1または図2における位置ずれ量演算回路11の構成を示している。
この演算回路11は、誘起電圧e2のd軸成分e2dが入力されるP(比例)調節器20と、第1の一次角周波数指令値ω1 *が入力される符号演算回路22と、PI調節器20及び符号演算回路22の出力を乗算する乗算器21とから構成されている。既に述べたように、符号演算回路22はω1 *≧0のときに1、ω1 *<0のときに−1の符号データsgn(ω1 *)を出力する。
乗算器21では、以下の数式7の演算により位置ずれ量△ω1を演算し、この位置ずれ量△ω1を第1の一次角周波数指令値ω1 *の補償に用いる。
【0029】
【数7】
△ω1=sgn(ω1 *)・KP・e2d
【0030】
更に、図4は、請求項3に記載した発明の他の実施形態の主要部であり、位置ずれ量演算回路11AがPI(比例積分)調節器20Aを備えている構成である。
この実施形態における位置ずれ量△ω1の演算は数式5に示したとおりであり、乗算器21からは数式5により演算された位置ずれ量△ω1が出力される。
【0031】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、軸ずれがある場合の誘起電圧ベクトルのd軸成分に着目し、このd軸成分及び第1の一次角周波数指令値の符号を使用して比例演算や比例積分演算により求めた位置ずれ量により第1の一次角周波数指令値を補償して第2の一次角周波数指令値を生成するため、制御装置と誘導電動機との間の軸ずれ角を零にすることができ、指令値通りの磁束やトルクを発生させて誘導電動機を高効率で可変速制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1に記載した発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】請求項2に記載した発明の実施形態を示すブロック図である。
【図3】請求項3に記載した発明の実施形態の主要部を示すブロック図である。
【図4】請求項3に記載した発明の他の実施形態の主要部を示すブロック図である。
【図5】誘起電圧と磁束との関係を表すベクトル図である。
【図6】従来技術を示す全体のブロック図である。
【符号の説明】
1 電力変換回路
2 誘導電動機(IM)
3 指令値発生回路
4 電圧指令値演算回路
5 積分器
6 電流検出器
7 座標変換回路
9 電圧検出器
10 誘起電圧演算回路
11,11A 位置ずれ量演算回路
12 補償器(加算器)
20 P調節器
20A PI調節器
21 乗算器
22 符号演算回路

Claims (3)

  1. 指令値発生回路からの一次角周波数指令値と二次磁束指令値とを用いて一次角周波数指令値と等しい角速度で回転するd−q軸回転座標上の交流電圧指令値を演算する電圧指令値演算手段と、
    一次角周波数指令値を積分して位相角指令値を演算する積分手段と、
    前記交流電圧指令値と前記位相角指令値とから求められた交流電圧指令値ベクトルに従って電力変換を行い、誘導電動機に交流電圧を供給する電力変換回路とを有する誘導電動機の可変速制御装置において、
    誘導電動機の電流を検出する電流検出手段と、
    誘導電動機の誘起電圧ベクトルのd軸成分を、前記交流電圧指令値ベクトルと前記電流検出手段の出力と第1の一次角周波数指令値と電動機定数とから演算する誘起電圧演算手段と、
    この誘起電圧演算手段の演算結果から、誘導電動機の二次磁束の座標軸と二次磁束指令値の座標軸との間の軸ずれを、一次角周波数の補償量である位置ずれ量として演算する位置ずれ量演算手段と、
    第1の一次角周波数指令値へ前記位置ずれ量を補償することにより、前記電圧指令値演算手段及び積分手段に与える第2の一次角周波数指令値を生成する補償手段と、
    を備えたことを特徴とする誘導電動機の可変速制御装置。
  2. 指令値発生回路からの一次角周波数指令値と二次磁束指令値とを用いて一次角周波数指令値と等しい角速度で回転するd−q軸回転座標上の交流電圧指令値を演算する電圧指令値演算手段と、
    一次角周波数指令値を積分して位相角指令値を演算する積分手段と、
    前記交流電圧指令値と前記位相角指令値とから求められた交流電圧指令値ベクトルに従って電力変換を行い、誘導電動機に交流電圧を供給する電力変換回路とを有する誘導電動機の可変速制御装置において、
    誘導電動機の電流を検出する電流検出手段と、
    誘導電動機の端子電圧を検出する電圧検出手段と、
    誘導電動機の誘起電圧ベクトルのd軸成分を、前記電圧検出手段の出力と前記電流検出手段の出力と第1の一次角周波数指令値と電動機定数とから演算する誘起電圧演算手段と、
    この誘起電圧演算手段の演算結果から、誘導電動機の二次磁束の座標軸と二次磁束指令値の座標軸との間の軸ずれを、一次角周波数の補償量である位置ずれ量として演算する位置ずれ量演算手段と、
    第1の一次角周波数指令値へ前記位置ずれ量を補償することにより、前記電圧指令値演算手段及び積分手段に与える第2の一次角周波数指令値を生成する補償手段と、
    を備えたことを特徴とする誘導電動機の可変速制御装置。
  3. 請求項1または2に記載した誘導電動機の可変速制御装置において、
    前記位置ずれ量演算手段が、前記d軸成分を入力として比例演算または比例積分演算を行い、その演算結果と第1の一次角周波数指令値の符号データとを乗算して前記位置ずれ量を演算することを特徴とする誘導電動機の可変速制御装置。
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