JP3790055B2 - 真空バルブ用接点材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、真空バルブ用接点材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
真空遮断器は、優れた遮断性能を有する反面、電流遮断時の急激な電流変化(電流裁断現象)により発生するサージが系統や負荷に及ぼす影響が問題であった。特に、モーターなどの高サージインピーダンスの負荷に用いる場合、大きなサージが発生するため、サージ保護装置を併用する場合が多かった。しかし、このようなサージ保護装置は、油を含むのが一般的で、真空遮断器の持つ環境調和及び不燃構造といった利点を阻害するものとなっていた。
【0003】
そこで、近年電流遮断瞬時の電流の落差(裁断電流値)が小さい低サージ型真空遮断器が発明され、7.2kVクラスの分野において使用されるようになってきた。
【0004】
このような遮断器には、Ag−WC−Co、あるいは、Ag/Cu−WC−CoのようなAgを主成分とする導電性金属と高融点炭化物のWCとを組み合わせた接点材料が用いられている。
【0005】
このうちAg−WC−Coの電流裁断特性は非常に優れているが、導電成分の蒸気圧が高すぎるため、遮断能力は十分とはいえず、高々20kA級の遮断器への適用のみにとどまっている。
【0006】
また、Ag/Cu−WC−Coは、Ag−WC−Coに比べて幾分高い遮断特性を有するが、31.5kA及び40kAといったさらに大きな遮断電流値の定格に適用するにはやはり遮断性能が不十分なため、非常に大きな接点を用いざるを得ない。
【0007】
そこで、Ag系導電成分に比べ蒸気圧の低いCuを用いたCu−TiC接点材料が開発されてきた。この接点材料では、裁断特性面で不利な蒸気圧の低いCuを用いながらも、熱電子放出特性の優れたTiCを耐アーク成分としてWCの替わりに用いることで、低裁断化を図っている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
Cu−TiCは、Ag−WCに比べ優れた裁断特性と遮断特性を有しているが、その裁断特性が最適な組成領域の接点材料を実現するためには解決が必要な製造上の問題がある。
【0009】
金属炭化物接点の場合、低裁断特性は、炭化物50〜60vol%の範囲で最も良好となる。この炭化物の量は、溶浸前の炭化物スケルトンの空隙量で制御するのが一般的である。目標の空隙量を、成形圧力の調整により達成しようとした場合、非常に高い圧力を要するので、従来Ag−WC−Co接点では、WCの焼結助材として有効な成分であるCoのスケルトンヘの添加により、1〜2tonの比較的低い圧力で成形しても焼結時にスケルトンの空隙が低減し、所定の空隙量にすることが可能であった。
【0010】
しかし、Cu−TiCは導電成分にCuを用いているため、このようなCo,Fe,Niといった焼結助材はCuの固溶により導電率を低減させてしまう。
本発明は、第1に、上記の問題に鑑みなされたものであり、最適組成のCu−TiCを実現することにより、優れた裁断特性を有する接点材料を提供することを第1の目的とする。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、Cu−TiC接点の遮断能力の向上である。Cu−TiCの遮断能力はAg−WCより優れているが、汎用の真空バルブ用接点であるCu−Crにはまだ及ばない。接点材料の遮断能力は、遮断瞬時の接点表面の温度が低く、熱電子放出量や蒸気発生量が少ないほど良好である。従って、Cu−TiCの場合、TiCの量をある程度減少させた方が遮断性能は高まるが、同時に裁断特性は低下してしまう。
【0012】
本発明は、第2に、上記に鑑みなされたもので、接点材料組織形態を最適化することにより、優れた裁断特性と同時に遮断特性を兼備させることを、第2の目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
第1の目的を達成するために、焼結助材を用いずに、スケルトンの相対密度の必要な値に到達するには、成形時に密度を高める必要がある。
そこで、本発明では、原料TiC粉の粒度分布の調整により、この目的が達成できることを見出した。
【0014】
すなわち、請求項1の真空バルブ用接点材料は、TiCの粒径が平均0.4〜0.9μmで最大粒径が5μm以下の粒度分布を有する粉末10〜50vol%と、TiCの粒径が平均1.0〜3.0μmで最大粒径が10μm以下である粉末50〜90vol%とで成形体を形成し、この成形体にCuを溶浸した、50vol%以下のCuと残部がTiCからなる真空バルブ用接点材料であって、TiCにおける5〜30vol%のTiC粒子の粒径が0.8μm以下で、残りのTiC粒子の粒径が平均0.8〜10.0μmであることを要旨とする。これにより、粗いTiC粉末の間に細かいTiC粉末が充填され、粉末の充填密度及び成形密度が高まるので、比較的低い圧力でスケルトンの密度が溶浸後の接点組成を最適組成とするのに適切な範囲とすることが可能となり、過大な裁断電流値の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
更に、被アーク面を50vol%以下のCuと50vol%以上のTiCとし、接点の厚さ方向にCuとTiCの比が変化し、被アーク面の裏側の面に向かって、Cuの割合が段階的に増加させる、すなわちTiCの割合を減少させるようにしても良い。これにより、過大な裁断電流値の発生を抑制すると同時に、接点内部に向かってTiCの割合を減らすことにより、遮断時に発生する熱を熱伝導によって接点表面から拡散し易く、優れた大電流遮断特性を発揮させることも可能となる。
【0016】
一方、請求項1のような真空バルブ用接点材料を得るために、請求項3の真空バルブ用接点材料の製造方法は、TiCの粒径が平均0.4〜0.9μmで最大粒径が5μm以下の粒度分布を有する粉末10〜50vol%と、TiCの粒径が平均1.0〜3.0μmで最大粒径が10μm以下である粉末50〜90vol%とを混合した粉末を成形し、この成形体にCuを溶浸して製造することを要旨とする。これにより、粗い粉末の間に細かい粉末が充填され、粉末の充填密度及び成形密度が高まる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の図において、同符号は同一部分または対応部分を示す。
まず、図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る真空バルブ用接点材料が適用される真空バルブの構成例を説明する。
【0026】
1において1は遮断室であり、遮断室1は、絶縁材料によりほぼ円筒状に形成された絶縁容器2と、その両端に封止金属3a,3bを介して設けた金属製の蓋体4a,4bとで真空気密に構成されている。
【0027】
遮断室1内には、電極棒5,6の対向する端部に取り付けられた電極7,8が配設され、図面上部の電極7は固定電極、下部の電極8は可動電極となっている。可動電極8と電極棒6との間にはベローズ9が取り付けられ、遮断室1内を真空気密に保持しながら、電極棒6を軸方向に移動可能としている。
【0028】
ベローズ9の上部には、金属製のアークシールド10が設けられ、アーク生成物の蒸着膜等がベローズ9に付着するのを防止している。また、遮断室1内には、固定電極7及び可動電極8を覆うように、アークシールド11が設けられ、アーク生成物の蒸着膜等が絶縁容器2に付着するのを防止している。
【0029】
可動電極8は、図2に示すように、電極棒6に、ろう付け層12によりろう付けされ(あるいはかしめにより)接続されている。
電極7、8の接触部には、本発明により製造される接点材料が配設されている。図2には、第1、第2、及び第3の層15,16,17からなる接点13bがろう付け層14により可動電極8にろう付けされ接続されたものが示されている。
【0030】
次に本発明の実施形態に係る真空バルブ用接点材料及びその製造方法を図3及び図4を用いて順に説明する。
図3に、各実施例及び比較例の製造方法について示す。最大粒径10μmのTiCと平均粒径40μmのCuとを体積比で84対16の混合比で混ぜ、6tonで成形し、1150℃で30分間の熱処理で成形体の空隙の1.05倍の体積のCuを溶かして溶浸する製造プロセスを本実施形態の第1の基本プロセスとする。
【0031】
この第1の基本プロセスの成形圧を変化させ、空隙率の異なる数種類のTiC−Cu混合粉末の成形体を作成し、これらを積層して成形体よりわずかに大きい径を有する型に入れ、重ねた方向に再度成形圧力を加えることにより一体化した後、Cuを溶浸して表面から裏面に段階的にTiC含有量が低下する接点を製造するプロセスを第2の基本プロセスとする。
【0032】
これらの基本プロセスの製造パラメータを変化させて、種々の接点を製造し、成形時に成形体のクラックの有無を調べ、クラック無しあるいはわずかな成形体のみCuを溶浸し、材料組成、ガス含有量を調べ、後述の方法に従い、遮断特性及び裁断特性を評価した。
【0033】
図4に示す各実施例及び比較例で製造した接点材料の材料的特性及び電気的特性のデータを得た方法及び評価条件について述べる。
本発明の製造方法で製造される接点材料は、大電流遮断特性、裁断特性及び大電流通電特性の兼備を目的としているので、これらのうち大電流遮断特性、裁断特性を下記に示す電気的特性評価により行った。また、通電特性については接点材料の導電率を渦電流測定方式の導電率計により測定し評価した。
1)大電流遮断特性:遮断試験をJEC規格の5号試験により行い、これにより遮断特性を評価し、合格、不合格を図4に示した。
2)電流裁断特性:各接点を取り付けて10-5Pa以下に排気した組み立て式バルブを作成し、この装置を0.8m/秒の開極速度で開極させ小電流を遮断した時の裁断電流値を測定した。遮断電流値は20A(実効値)、50Hzとした。開極位相はランダムに行い、500回遮断したときの裁断電流値を電極数3組につき測定し、その平均値及び最大値を図4に示した。なお、数値は、実施例2の裁断電流値の平均値及び最大値を1.0としたときの相対値で示した。
【0034】
[実施例1〜3及び比較例1〜2]
第1の基本プロセスのCu配合量を6〜30vol%の範囲で変化させ、6tonで成形して、40〜60vol%のCuを含有する接点を作成して調べた。Cu含有量が40vol%の比較例1は、成形体にクラックが幾分生じた。Cu含有量が45〜50vol%の実施例2〜3ではクラックが全く発生せず、遮断性能、裁断特性及び通電性能も良好である。しかし、Cu含有量が60vol%の比較例2では、裁断特性が不十分となっている。
【0035】
[実施例4〜5及び比較例3]
第1の基本プロセスのTiCの最大粒径を5〜15μmの範囲で変化させて調べた。TiCの最大粒径が15μmの比較例3では、最大裁断電流値が著しく高いが、TiCの最大粒径が10μm以下の実施例4〜5では遮断性能及び裁断特性はともに良好である。
【0036】
[実施例6〜7及び比較例4〜5]
粒径が平均0.5μmで最大粒径が5μmのTiC粉末5〜60vol%と、粒径が平均2.0μmで最大粒径が10μmのTiC粉末40〜95vol%を配合した混合粉末を用いて、TiC粒子の3〜35vol%の粒径が0.8μm以下で、残りのTiC粒子の粒径が平均2.0μmである混合粉末を作成し、この混合粉末84vol%とCu16vol%とを混合した後溶浸後のCuの含有量が45vol%となるように成形圧力を2〜8tonの範囲で調整し、Cuを溶浸して接点を製造し調べた。
【0037】
粒径が0.8μm以下のTiCの割合が3vol%の比較例4では、微細なTic粒子が少ないため、平均裁断電流値が高いが、この割合が5〜30vol%の実施例6〜7では平均裁断電流値が低く良好で、遮断性能も良好である。一方粒径が0.8μm以下のTiCの割合が35vol%の比較例5では、接点中のガス含有量が高く、遮断特性が不合格となっている。また粉末の成形性も悪いため成形に8ton/cm2 の圧力が必要である。
【0038】
[実施例8〜9及び比較例6]
3つの層から成る接点を製造する第2の基本プロセスにおいて、第2層のTiC含有率を40vol%、厚さを1mm、第3層のTiCの含有率を35%、厚さを1mmとし、被アーク面となる厚さ1.5mmの第1層のTiC含有率を45〜60vol%の間で変化させて調べた。
【0039】
第1層のTiC含有量が50vol%以上の実施例8〜9では、遮断特性、裁断特性ともに優れているが、TiC量が50vol%より少ない比較例6では、裁断特性が不十分である。
【0040】
[実施例10〜11及び比較例7]
2つの層から成る接点を製造する第2の基本プロセスにおいて、第2層のTiC含有率を40vol%、被アーク面となる第1層のTiC含有率を55vol%(即ち、第2層のTiC含有率を、第1層のTiC含有率の2/3以下)とし、第1層と第2層の厚さの合計を2.5mmとし、第1層の厚さを0.5mmから1.5mmの間で変化させて調べた。
【0041】
第1層の厚さが1mm以上の実施例10〜11では、遮断特性、裁断特性ともに優れているが、0.5mmの比較例7では、遮断特性が不十分である。これは、被アーク面からの熱の放散が不十分なため、接点の溶融、変形及びエロージョンが激しいためである。
【0042】
[実施例12〜13及び比較例8]
2つの層から成る接点を製造する第2の基本プロセスにおいて、第1層のTiC含有率を55vol%、厚さを1.5mmとし、厚さ1mmの第2層のTiCの含有率を37〜45vol%の間で変化させて調べた。
【0043】
第2層のTiC含有量が第1層の3/4(42vol%)以下の実施例12〜13では、遮断特性、裁断特性ともに優れているが、TiC量が第1層の3/4(42vol%)より多い比較例8では、遮断特性が不十分である。
【0044】
[実施例14〜15]
2つの層からなる接点を製造する基本プロセスにおいて、Cuを溶浸した後TiC含有量の少ない第2層のTiCスケルトン側の成形体表面からはみだしたCuを用いて第3層の純Cu層を形成した接点を製造し、第1層のTiC含有率を55vol%、厚さを1.5mmとし、第2層のTiCの含有率を40vol%、厚さ1mmとし、第3層を厚さ1mmの純Cuとした。比較のため、実施例15として、この接点と第1、第2層の組成が同じで、第3層のTiCの含有率を35%とした接点を実施例8と同じ方法で製造した。
【0045】
実施例14〜15は、遮断特性、裁断特性ともに優れているが、第3層が純Cuの実施例14の方が、第3層のTiC量が35vol%の実施例15より、遮断特性がより優れている。
【0046】
[実施例16]
3つの層から成る接点を製造する第2の基本プロセスにおいて、単層の実施例6及び7と同様に、粒径が平均0.5μmで最大粒径が5μmのTiC粉末20vol%と、粒径が平均2.0μmで最大粒径が10μmのTiC粉末80%を配合した混合粉末を用いて、TiC粒子の12vol%の粒径が0.8μm以下で、残りのTiC粒子の粒径が平均2.0μmである混合粉末を作成し、この混合粉末84vol%とCu16vol%とを混合した後3tonで成形して第1層の成形体を形成し、これに、実施例11と同様の方法で第2層の成形体を形成し、Cuを溶浸して接点を製造した。
【0047】
各層は、第1層のTiC含有率を55vol%、厚さを1.5mmとし、第2層のTiCの含有率を40vol%、厚さ1mmとし、第3層を厚さ1mmの純Cuとした。
第1層のTiCが微細粒子を多く含んでいるため、平均裁断電流値が低く良好で、また、成形時の成形圧力が3tonと低く抑えられている。
【0048】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、優れた裁断特性と大電流遮断特性を兼備した真空バルブ用接点材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係わる真空バルブ用接点材料が適用される真空バルブの一例を示す縦断面図。
【図2】 本発明の実施例8に係わる真空バルブ用接点材料の構成を示す断面図。
【図3】 本発明の各実施例及び比較例の製造方法及びクラックの有無を示す表図。
【図4】 本発明の各実施例及び比較例の材料的特性及び電気的特性を示す表図。
【符号の説明】
1…遮断室
2…絶縁容器
3a,3b…封止金具
4a,4b…蓋体
5,6…導電棒
7,8…電極
9…ベローズ
10,11…アークシールド
12…ろうづけ層
13a,13b…接点
14…ろうづけ層
15…第1の層
16…第2の層
17…第3の層
Claims (2)
- TiCの粒径が平均0.4〜0.9μmで最大粒径が5μm以下の粒度分布を有する粉末10〜50vol%と、TiCの粒径が平均1.0〜3.0μmで最大粒径が10μm以下である粉末50〜90vol%とで成形体を形成し、この成形体にCuを溶浸した、50vol%以下のCuと残部がTiCからなる真空バルブ用接点材料であって、前記TiCにおける5〜30vol%のTiC粒子の粒径が0.8μm以下で、残りのTiC粒子の粒径が平均0.8〜10.0μmであることを特徴とする真空バルブ用接点材料。
- 被アーク面を50vol%以下のCuと50vol%以上のTiCとし、接点の厚さ方向にCuとTiCの比が変化し、被アーク面の裏側の面に向かって、Cuの割合が段階的に増加することを特徴とする請求項1記載の真空バルブ用接点材料。
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