JP3740725B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接用フィラー材料 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はレーザ溶接を適用してマルテンサイト系ステンレス鋼の突き合わせ接合を行うにあたって健全な溶接継手を得ることができる溶接方法およびフィラー材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼板の製造プロセスにおける例えば圧延ラインなどでは、素材歩留りおよび生産性の向上を図るために、複数の鋼帯をつなぎ合わせて連続的な処理を行うようにしているのが一般的である。
【0003】
そして、このようなラインにおいて、鋼帯を接合するには、短時間で接合可能なフラッシュ溶接、シーム溶接、レーザ溶接などが適用されていて、なかでも、レーザ溶接は、高エネルギー密度の熱源を用いること、溶接および熱影響部の幅が狭いことから高品質な溶接が可能であり、しかも普通鋼をはじめ、高合金鋼、ステンレス鋼などの各種の鋼材に適用できるため、連続処理ラインの鋼帯接合用として優れた特性を有するものであった。
【0004】
レーザによる突き合わせ溶接では、溶接金属の組成制御あるいは突き合わせギャップに対する裕度確保を目的として、ガスシールドアーク溶接と同様にフィラーワイヤ等のフィラー材料を用いる場合があり、先の連続ラインにおけるレーザ溶接においても、安定した溶接を実施する観点から、フィラー材料を使用するのが一般的であった。
【0005】
ここに、フィラー材料は、接合予定部に形成されるギャップを埋め、欠陥のない健全な継手を形成する役目を果たすことの他、特に合金成分量が高く割れ感受性の高い鋼材においては、母材とフィラーを混合することにより、溶接金属組成を調整し、割れ防止および溶接金属部の冶金的、機械的性質を制御する機能を有するものである。
【0006】
とりわけレーザ溶接は、ガスシールドアーク溶接などに比べて低入熱で冷却速度が遅いため、鋼材の種類によっては凝固割れが発生し易く、また、溶接部を著しく硬化させるので溶接金属部の冶金的、機械的性質の制御の必要性は非常に高い。
【0007】
この点に関する先行文献として、例えば特開平6−670号公報には、溶接金属中のNiが7重量%を超える量になるようフィラー材料を供給しながらレーザ溶接を行うフェライト系ステンレス鋼の溶接方法が開示されていて、これによれば溶接金属中にオーステナイト相を析出させることができ、結晶粒の粗大化が防止され、靱性に優れた溶接部を得ることができるとされていた。
【0008】
ところで、マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接においては、溶接時の凝固割れや、マルテンサイト変態による硬化に起因した割れが生じやすく、健全な継手を作製し難い不具合があった。さらに、前述のようにNiを多量に添加することにより、オーステナイト主体の組織として硬化を防げたとしても、オーステナイト相は割れ感受性が高く炭素その他の添加元素の影響によりレーザ溶接においては一般にミクロ割れと呼ばれる凝固割れが生じやすくなる。
【0009】
また、この種のステンレス鋼においては、溶接直後における割れが防止できても、連続処理ラインにおいて溶接継手部に曲げあるいは圧下力が加わったりすると著しく硬化した溶接金属から割れを生じることになり、これは、鋼材中のC,Mn, Mo, Nbなどの合金元素量が増加した場合により一層顕著であり、さらに、フィラー材料を使用して溶接金属の組成を調整するにしてもレーザ溶接ではビード幅が細くなるため、接合予定部の突き合わせギャップ量を小さくしなければならない、あるいは入熱量が少ないためフィラー溶融量が限られるなど継手の開先形状の自由度が少なく、(母材溶融量/溶接金属量)で定義される希釈率は、通常の場合、60〜90%とガスシールドアーク溶接の場合に比べ高くなる。すなわち溶接金属部においてもフィラー材添加の効果が働きにくくマルテンサイト組成となり易い。
【0010】
また、ビード幅が狭く、高速のレーザ溶接では、溶接金属の混合が促進されにくく、特に母材の裏面近傍ではフィラー成分が十分に混合されず、実質的により高い希釈率の組成となりやすい。そのため、フィラー成分の影響がガスシールドアーク溶接に比べ効果的に働かず、現在一般に市販、使用されているアーク溶接用の溶接ワイヤでは、溶接金属の組成制御が不十分で凝固割れおよび硬化に起因する割れを完全に防止することができない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接において不可避な溶接金属の凝固割れ、溶接金属の硬化に起因する割れを防止することができる溶接方法およびその方法に適合するフィラー材料を提案するところにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼をレーザ溶接にて突き合わせ接合するに当たり、溶接金属の金属組織がフェライト相を5%以上含むフェライト+オーステナイト混相組織となるように、接合予定部にフィラー材料を充てんしつつ溶接することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接方法であり、フィラー材料としては、C:0.10 wt % (以下wt%を単に%で示す) 、Creq:35〜60%、Nieq:30%以下を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなり、このうちCreqとNieqについては下記の(1) 式、(2) 式を同時に満足するものとする。
【0013】
20Creq(%)+13 Ni eq(%)≧1000 ----(1)
2Creq(%)>3 Nieq(%) ----(2)
ただし、 Creq= Cr (%) +Mo(%) +1.5 Si(%) +0.5 Nb(%)
Nieq=Ni(%) +30 C (%) +0.5 Mn(%)
【0014】
この発明に適合するフィラー材料を使用することにより、アーク溶接に比べ母材希釈率が高く、急冷プロセスのレーザ溶接においても、溶接時および溶接後の曲げ、圧延時に割れを生じない溶接金属を得ることが可能になる。
【0015】
フィラー材料は母材と溶融混合して溶接金属を形成するものであり、使用形態としてはワイヤ状のものや粉末状のもの、あるいは箔状のものなどを使用することができ、その形状についてとくに限定はされない。
【0016】
【発明の実施の形態】
この発明では、溶接金属の金属組織をフェライト相を5%以上含むフェライト+オーステナイト混相組織としたが、その理由は、レーザ溶接においては、溶接部がマルテンサイト組成を含むと著しく硬化し低温での割れを生じやすく、オーステナイト主体の組成となると凝固割れを生じやすくなるからであり、これを防ぐためには溶接金属の金属組織を5%以上のフェライト相を含むフェライト+オーステナイト混相組織とするのが有利だからである。
【0017】
すなわち、マルテンサイト系ステンレス鋼の金属組織において5%以上のフェライトを含ませることによりS、Pなどの不純物元素をフェライト中に固溶させ、最終凝固部におけるS、Pなどの混化を避け、割れ感受性を低くすることができるからである(S、Pなどが割れを促進する元素であること、フェライトはオーステナイトよりS、Pなどの固溶度が高いことは一般的に知られている)。
【0018】
この発明に従えば、割れ感受性が高く、溶接部の硬化が著しいマルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接において、溶接時の凝固割れおよび硬化に起因する溶接金属の割れは回避され、鋼板製造過程の連続ラインにおいて継手部に繰り返しの曲げや圧延などの負荷が加わっても割れが生じるようなことはない。
【0019】
フィラー材料の化学組成の限定理由は以下のとおりである。
C:0.10以下
Cは鋼中の固溶元素として静的強度を高めるが、硬度および割れ感受性を増大させる元素である。また、Cはオーステナイト生成を促進させる強い働きがあるが、レーザ溶接のような急冷プロセスでは、オーステナイト主体の組織となった場合、一般にミクロ割れといわれる凝固割れが起こりやすくなる。溶接金属の凝固割れおよび硬化に起因する割れを防止するためには、溶接金属中のC量をある程度以下に抑える必要があり、このためこの発明においては、材料中におけるCの含有量を0.10%以下に制限した。
【0020】
Creq:35〜60%、Ni:30%
Crはフェライトの生成を、また、Niはオーステナイトの生成を促進させる元素であり、これらの元素をフィラー材料から溶接金属中に添加することによりマルテンサイトの生成を防止できる。
【0021】
Cr,Ni量と溶接金属組織の関係は、シェフラーの組織図などによって示されているが、母材希釈率が高く、凝固・冷却速度が速いレーザ溶接においては、従来のアーク溶接用ワイヤ等よりも多くのCrおよびNiを添加することによって溶接金属中のマルテンサイト生成を抑制し、硬化に起因する割れを防止できると考えられ、また、CrあるいはNiと同様の作用を有するMn, Mo, Si, Nbなどの影響をCr当量、Ni当量として考慮しその適正添加量を種々の試験により検討した結果によれば、
Creq≧35%,20[Creq%]+13[Nieq%]≧1000
を満たすCreqおよびNieqをフィラー材料中に含有させることにより、一般的なレーザ溶接条件において、溶接時および溶接後の曲げ、圧延などの加工時の割れを防止できる。
【0022】
Nieqの上限を30%とし、2Creq>3Nieqと規定したのは、Nieqを大きくすると溶接金属中のオーステナイトの割合が増加し、レーザ溶接の急速凝固過程でミクロ割れといわれる凝固割れを生じるのでこれを回避するために上記の如く規定したものである。
【0023】
Creqの上限を60%としたのは、Creqのフェライト生成による割れ防止の効果は、60%を超える添加で飽和する傾向にあること、また、フィラー材料としてワイヤを使用する場合に、60%を超えるものでは伸線加工が困難になるなど、ワイヤの製造技術およびコスト面からの理由による。
【0024】
【実施例】
実施例
表1に示す組成になる板厚4.5 mmのマルテンサイト系ステンレス鋼板を2種類用意して下記の条件下にそれぞれレーザ溶接を行い、その時点での溶接金属の割れの有無 (割れ無しを○で、割れ有りを×で表示) を確認するとともに、かかる溶接済の鋼板をさらに冷間圧延 (圧下率25%) して溶接金属における割れ発生の有無 (溶接ビードの外観観察と数カ所の断面観察) と割れに起因した板の破断が発生するかどうかについて調査した。その結果を溶接に際して使用したフィラーの組成とともに表2・表3に示す。なお適合例5は箔をインサートし、適合例14は粉末を供給した他はフィラーとしてワイヤを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
レーザ溶接条件
突き合わせギャップ量:0.2 mm
照射レーザ出力:7.2 kW (炭酸ガスレーザ, 波長10. 6 μm )
レーザビーム焦点位置:鋼板表面から1.5 mm内側
溶接速度: 3 m/min
フィラーの供給速度:4 m/min
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
この発明に従い溶接を行った適合例のNo.1〜14では、いずれも溶接金属の組織は5%以上のフェライトを含むフェライト+オーステナイト混相であり割れの発生はなく圧延にも耐える健全な溶接金属であることが確かめられた。
【0030】
これに対して比較例のNo.1〜7,16,17 では、Creq量および (20Creq+13Nieq) 量がこの発明で規定した量よりも不足し溶接金属がマルテンサイトを含むために硬化の抑制が不十分となり、これに起因した割れが避けられず、とくにこのような硬化に起因した割れは、フィラー成分の混合が十分に行われず溶接ビード下部のデンドライト組織会合部において起こりやすいことが確認できた。
【0031】
また、比較例のNo.8〜15においては、Nieqの量が30%を超えているか、あるいは 2Creq< 3Nieqの要件を満足していないため溶接金属中のオーステナイト組織の割合が増加し、凝固割れ感受性が高くなった結果としてミクロ割れが生じた。
そして、この割れは、上記の硬化に起因する割れと異なり溶接金属中のデンドライト組織間でデンドライトに沿った形で起こっていた。溶接金属中にミクロ割れがあっても比較例11,12 については圧延時に破断は起こらなかったが、圧下率の高い圧延や曲げ変形が繰り返されるような場合には、破断に至る可能性が高く、健全な溶接金属とはいい難かった。
【0032】
比較例のNo. 18〜20では、C量が0.1 %を超えているため溶接金属の硬化が著しく、溶接直後に割れが生じた。
【0033】
【発明の効果】
この発明によればアーク溶接に比較して母材希釈率が高い急冷プロセスのレーザ溶接を行っても割れの有しない健全な溶接金属を得ることができる。
【発明の属する技術分野】
この発明はレーザ溶接を適用してマルテンサイト系ステンレス鋼の突き合わせ接合を行うにあたって健全な溶接継手を得ることができる溶接方法およびフィラー材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼板の製造プロセスにおける例えば圧延ラインなどでは、素材歩留りおよび生産性の向上を図るために、複数の鋼帯をつなぎ合わせて連続的な処理を行うようにしているのが一般的である。
【0003】
そして、このようなラインにおいて、鋼帯を接合するには、短時間で接合可能なフラッシュ溶接、シーム溶接、レーザ溶接などが適用されていて、なかでも、レーザ溶接は、高エネルギー密度の熱源を用いること、溶接および熱影響部の幅が狭いことから高品質な溶接が可能であり、しかも普通鋼をはじめ、高合金鋼、ステンレス鋼などの各種の鋼材に適用できるため、連続処理ラインの鋼帯接合用として優れた特性を有するものであった。
【0004】
レーザによる突き合わせ溶接では、溶接金属の組成制御あるいは突き合わせギャップに対する裕度確保を目的として、ガスシールドアーク溶接と同様にフィラーワイヤ等のフィラー材料を用いる場合があり、先の連続ラインにおけるレーザ溶接においても、安定した溶接を実施する観点から、フィラー材料を使用するのが一般的であった。
【0005】
ここに、フィラー材料は、接合予定部に形成されるギャップを埋め、欠陥のない健全な継手を形成する役目を果たすことの他、特に合金成分量が高く割れ感受性の高い鋼材においては、母材とフィラーを混合することにより、溶接金属組成を調整し、割れ防止および溶接金属部の冶金的、機械的性質を制御する機能を有するものである。
【0006】
とりわけレーザ溶接は、ガスシールドアーク溶接などに比べて低入熱で冷却速度が遅いため、鋼材の種類によっては凝固割れが発生し易く、また、溶接部を著しく硬化させるので溶接金属部の冶金的、機械的性質の制御の必要性は非常に高い。
【0007】
この点に関する先行文献として、例えば特開平6−670号公報には、溶接金属中のNiが7重量%を超える量になるようフィラー材料を供給しながらレーザ溶接を行うフェライト系ステンレス鋼の溶接方法が開示されていて、これによれば溶接金属中にオーステナイト相を析出させることができ、結晶粒の粗大化が防止され、靱性に優れた溶接部を得ることができるとされていた。
【0008】
ところで、マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接においては、溶接時の凝固割れや、マルテンサイト変態による硬化に起因した割れが生じやすく、健全な継手を作製し難い不具合があった。さらに、前述のようにNiを多量に添加することにより、オーステナイト主体の組織として硬化を防げたとしても、オーステナイト相は割れ感受性が高く炭素その他の添加元素の影響によりレーザ溶接においては一般にミクロ割れと呼ばれる凝固割れが生じやすくなる。
【0009】
また、この種のステンレス鋼においては、溶接直後における割れが防止できても、連続処理ラインにおいて溶接継手部に曲げあるいは圧下力が加わったりすると著しく硬化した溶接金属から割れを生じることになり、これは、鋼材中のC,Mn, Mo, Nbなどの合金元素量が増加した場合により一層顕著であり、さらに、フィラー材料を使用して溶接金属の組成を調整するにしてもレーザ溶接ではビード幅が細くなるため、接合予定部の突き合わせギャップ量を小さくしなければならない、あるいは入熱量が少ないためフィラー溶融量が限られるなど継手の開先形状の自由度が少なく、(母材溶融量/溶接金属量)で定義される希釈率は、通常の場合、60〜90%とガスシールドアーク溶接の場合に比べ高くなる。すなわち溶接金属部においてもフィラー材添加の効果が働きにくくマルテンサイト組成となり易い。
【0010】
また、ビード幅が狭く、高速のレーザ溶接では、溶接金属の混合が促進されにくく、特に母材の裏面近傍ではフィラー成分が十分に混合されず、実質的により高い希釈率の組成となりやすい。そのため、フィラー成分の影響がガスシールドアーク溶接に比べ効果的に働かず、現在一般に市販、使用されているアーク溶接用の溶接ワイヤでは、溶接金属の組成制御が不十分で凝固割れおよび硬化に起因する割れを完全に防止することができない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接において不可避な溶接金属の凝固割れ、溶接金属の硬化に起因する割れを防止することができる溶接方法およびその方法に適合するフィラー材料を提案するところにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼をレーザ溶接にて突き合わせ接合するに当たり、溶接金属の金属組織がフェライト相を5%以上含むフェライト+オーステナイト混相組織となるように、接合予定部にフィラー材料を充てんしつつ溶接することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接方法であり、フィラー材料としては、C:0.10 wt % (以下wt%を単に%で示す) 、Creq:35〜60%、Nieq:30%以下を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなり、このうちCreqとNieqについては下記の(1) 式、(2) 式を同時に満足するものとする。
【0013】
20Creq(%)+13 Ni eq(%)≧1000 ----(1)
2Creq(%)>3 Nieq(%) ----(2)
ただし、 Creq= Cr (%) +Mo(%) +1.5 Si(%) +0.5 Nb(%)
Nieq=Ni(%) +30 C (%) +0.5 Mn(%)
【0014】
この発明に適合するフィラー材料を使用することにより、アーク溶接に比べ母材希釈率が高く、急冷プロセスのレーザ溶接においても、溶接時および溶接後の曲げ、圧延時に割れを生じない溶接金属を得ることが可能になる。
【0015】
フィラー材料は母材と溶融混合して溶接金属を形成するものであり、使用形態としてはワイヤ状のものや粉末状のもの、あるいは箔状のものなどを使用することができ、その形状についてとくに限定はされない。
【0016】
【発明の実施の形態】
この発明では、溶接金属の金属組織をフェライト相を5%以上含むフェライト+オーステナイト混相組織としたが、その理由は、レーザ溶接においては、溶接部がマルテンサイト組成を含むと著しく硬化し低温での割れを生じやすく、オーステナイト主体の組成となると凝固割れを生じやすくなるからであり、これを防ぐためには溶接金属の金属組織を5%以上のフェライト相を含むフェライト+オーステナイト混相組織とするのが有利だからである。
【0017】
すなわち、マルテンサイト系ステンレス鋼の金属組織において5%以上のフェライトを含ませることによりS、Pなどの不純物元素をフェライト中に固溶させ、最終凝固部におけるS、Pなどの混化を避け、割れ感受性を低くすることができるからである(S、Pなどが割れを促進する元素であること、フェライトはオーステナイトよりS、Pなどの固溶度が高いことは一般的に知られている)。
【0018】
この発明に従えば、割れ感受性が高く、溶接部の硬化が著しいマルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接において、溶接時の凝固割れおよび硬化に起因する溶接金属の割れは回避され、鋼板製造過程の連続ラインにおいて継手部に繰り返しの曲げや圧延などの負荷が加わっても割れが生じるようなことはない。
【0019】
フィラー材料の化学組成の限定理由は以下のとおりである。
C:0.10以下
Cは鋼中の固溶元素として静的強度を高めるが、硬度および割れ感受性を増大させる元素である。また、Cはオーステナイト生成を促進させる強い働きがあるが、レーザ溶接のような急冷プロセスでは、オーステナイト主体の組織となった場合、一般にミクロ割れといわれる凝固割れが起こりやすくなる。溶接金属の凝固割れおよび硬化に起因する割れを防止するためには、溶接金属中のC量をある程度以下に抑える必要があり、このためこの発明においては、材料中におけるCの含有量を0.10%以下に制限した。
【0020】
Creq:35〜60%、Ni:30%
Crはフェライトの生成を、また、Niはオーステナイトの生成を促進させる元素であり、これらの元素をフィラー材料から溶接金属中に添加することによりマルテンサイトの生成を防止できる。
【0021】
Cr,Ni量と溶接金属組織の関係は、シェフラーの組織図などによって示されているが、母材希釈率が高く、凝固・冷却速度が速いレーザ溶接においては、従来のアーク溶接用ワイヤ等よりも多くのCrおよびNiを添加することによって溶接金属中のマルテンサイト生成を抑制し、硬化に起因する割れを防止できると考えられ、また、CrあるいはNiと同様の作用を有するMn, Mo, Si, Nbなどの影響をCr当量、Ni当量として考慮しその適正添加量を種々の試験により検討した結果によれば、
Creq≧35%,20[Creq%]+13[Nieq%]≧1000
を満たすCreqおよびNieqをフィラー材料中に含有させることにより、一般的なレーザ溶接条件において、溶接時および溶接後の曲げ、圧延などの加工時の割れを防止できる。
【0022】
Nieqの上限を30%とし、2Creq>3Nieqと規定したのは、Nieqを大きくすると溶接金属中のオーステナイトの割合が増加し、レーザ溶接の急速凝固過程でミクロ割れといわれる凝固割れを生じるのでこれを回避するために上記の如く規定したものである。
【0023】
Creqの上限を60%としたのは、Creqのフェライト生成による割れ防止の効果は、60%を超える添加で飽和する傾向にあること、また、フィラー材料としてワイヤを使用する場合に、60%を超えるものでは伸線加工が困難になるなど、ワイヤの製造技術およびコスト面からの理由による。
【0024】
【実施例】
実施例
表1に示す組成になる板厚4.5 mmのマルテンサイト系ステンレス鋼板を2種類用意して下記の条件下にそれぞれレーザ溶接を行い、その時点での溶接金属の割れの有無 (割れ無しを○で、割れ有りを×で表示) を確認するとともに、かかる溶接済の鋼板をさらに冷間圧延 (圧下率25%) して溶接金属における割れ発生の有無 (溶接ビードの外観観察と数カ所の断面観察) と割れに起因した板の破断が発生するかどうかについて調査した。その結果を溶接に際して使用したフィラーの組成とともに表2・表3に示す。なお適合例5は箔をインサートし、適合例14は粉末を供給した他はフィラーとしてワイヤを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
レーザ溶接条件
突き合わせギャップ量:0.2 mm
照射レーザ出力:7.2 kW (炭酸ガスレーザ, 波長10. 6 μm )
レーザビーム焦点位置:鋼板表面から1.5 mm内側
溶接速度: 3 m/min
フィラーの供給速度:4 m/min
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
この発明に従い溶接を行った適合例のNo.1〜14では、いずれも溶接金属の組織は5%以上のフェライトを含むフェライト+オーステナイト混相であり割れの発生はなく圧延にも耐える健全な溶接金属であることが確かめられた。
【0030】
これに対して比較例のNo.1〜7,16,17 では、Creq量および (20Creq+13Nieq) 量がこの発明で規定した量よりも不足し溶接金属がマルテンサイトを含むために硬化の抑制が不十分となり、これに起因した割れが避けられず、とくにこのような硬化に起因した割れは、フィラー成分の混合が十分に行われず溶接ビード下部のデンドライト組織会合部において起こりやすいことが確認できた。
【0031】
また、比較例のNo.8〜15においては、Nieqの量が30%を超えているか、あるいは 2Creq< 3Nieqの要件を満足していないため溶接金属中のオーステナイト組織の割合が増加し、凝固割れ感受性が高くなった結果としてミクロ割れが生じた。
そして、この割れは、上記の硬化に起因する割れと異なり溶接金属中のデンドライト組織間でデンドライトに沿った形で起こっていた。溶接金属中にミクロ割れがあっても比較例11,12 については圧延時に破断は起こらなかったが、圧下率の高い圧延や曲げ変形が繰り返されるような場合には、破断に至る可能性が高く、健全な溶接金属とはいい難かった。
【0032】
比較例のNo. 18〜20では、C量が0.1 %を超えているため溶接金属の硬化が著しく、溶接直後に割れが生じた。
【0033】
【発明の効果】
この発明によればアーク溶接に比較して母材希釈率が高い急冷プロセスのレーザ溶接を行っても割れの有しない健全な溶接金属を得ることができる。
Claims (1)
- マルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接用フィラー材料において、
該フィラー材料は、C:0.10wt%以下、Creq:35〜60wt%、Nieq:30wt%以下を含み、残部が不可避的不純物およびFeからなり、このうちCreqおよびNieqについては下記(1) 式および(2) 式を同時に満足するものである、ことを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼のレーザ溶接用フィラー材料。
記
20 Cr eq(wt%)+ 13 Ni eq (wt%)≧1000 ----- (1)
2 Cr eq(wt%)>3 Ni eq (wt%) ----- (2)
ただし、Cr eq = Cr (wt%) +Mo(wt%) +1.5 Si(wt%) +0.5 Nb(wt%)
Ni eq=Ni(wt%) +30 C (wt%) +0.5 Mn(wt%)
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