JP4505076B2 - 低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高靭性溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶接金属の低温靭性を改善する研究は古くから行われ、靭性は金属組織に大きく依存することが知られている。これらの知見によれば低温靭性が最も優れている組織はアシキュラ−フェライトであることが多くの研究報告例により示されている(例えば、溶接部の組織と靭性堀井行彦第128回西山記念講座)。これらの研究によれば、アシキュラ−フェライトの生成には、
(1)適切な強度設計(約600〜700MPa程度)、(2)Ti酸化物の生成、という2つの条件が同時に満たされることが必要である。
【0003】
レーザビーム溶接あるいは電子ビーム溶接においてこれらの条件を考えると、適切な強度設計は冷却速度に応じて合金成分を調整することで対応できる。しかしTi酸化物の生成に必要な酸素の供給は一般に困難であった。
これまでの知見では、レーザビーム溶接を行う際にフィラーワイヤを用いて溶接金属にTi、Oの添加を行うことで、溶接金属のミクロ組織をアシキュラーフェライトとする方法がある(例えばIAJones:TWIJ,Vol4,No.3,(1995),P427−485)。しかしこの方法では、フィラ−ワイヤの成分は鋼板表面からしか供給されないので、板厚が厚くなると板厚方向での均一な成分分布が確保できないという問題が生じる。従って、フィラ−ワイヤを用いるこのような方法は厚板のレーザビーム溶接や電子ビーム溶接には適さない。
【0004】
別の方法としては特開平8−141763号公報に開示されているように、Tiを含有した鋼材をレーザビーム溶接する際に、アシストガスに酸素や炭酸ガスを含んだ混合ガスを用いてTi酸化物を生成させ、これによりアシキュラーフェライトを生成させることで溶接金属を高靭性化する方法がある。しかしこの方法が適用できるのはレーザ出力が10kw程度までであり、さらに高出力のレーザビーム溶接では著しく多量のプラズマが発生し、溶け込み深さを劣化させるだけでなく、溶接時に生成するキーホ−ルの安定性も損ない、ビード形状が乱れるという問題を有している。また、この方法は真空中で溶接を実施する電子ビーム溶接には適応することは不可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の背景を鑑み、大出力の電子ビームで溶接する場合において、安定して溶接金属のミクロ組織をアシキュラーフェライトとし、高靭性溶接金属を得ることのできる電子ビーム溶接方法の提供を目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋼材組成、溶接部に含まれるスケール厚、溶接金属の組織及び靭性に関して研究を進めた結果、これらの間に存在する諸関係を知見するに至り、本発明を完成させたものであって、その要旨とするところは、下記(1)〜(3)のとおりである。
【0007】
(1)質量%で、
C :0.01〜0.15%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.2〜2%、
P :0.03%以下、
S :0.03%以下、
Al:0.0005〜0.1%、
Ti:0.001〜0.1%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつ、下記式1の値が0.05〜0.2を満足する鋼材を溶接する方法であって、溶接部分において相対する被溶接面の少なくとも1つがスケール付着面であり、該付着スケールの厚みが合計で、0.5〜80μmであることを特徴とする、低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
式1:0.05<([%C]+[%Si]/30+[%Mn]/20+[%Cr]/20+[%Ni]/60+[%Mo]/15+[%V]/10+5[%B]+[%Cu]/20)<0.2
(2)鋼材が、質量%で、
Cr:0.01〜3%、
Ni:0.01〜7%、
Mo:0.005〜2%、
Cu:0.01〜3%、
Nb:0.001〜0.1%、
V :0.001〜1%、
B :0.0001〜0.002%の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする、前記(1)に記載の低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
【0008】
(3)鋼材が、質量%で、
Mg:0.0001〜0.02、
Ca:0.0001〜0.02、
Zr:0.001〜0.1%、
REM:0.001〜0.3%の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
【0009】
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、溶接される鋼材に関して、添加元素の規定理由を説明する。
C:0.01質量%未満の極低C量では鋼板の強度が不足し、また溶接金属においても凝固割れが発生する。逆に、0.15質量%超のCでは溶接熱影響部及び溶接金属の靭性が低下する。よって、Cは0.01質量%以上、0.15質量%以下としたが、特に高靭性を確保する観点からはC量は低い方が好ましい。
【0011】
Si:Siは脱酸剤及び強化元素として添加されるが、0.01質量%未満ではその効果が十分ではなく、一方1.5%超では圧延時にスケ−ル起因の傷を多発するようになる。よって、Siは0.01質量%以上、1.5質量%以下とした。
Mn:Mnは鋼板の強度を向上する有用な元素であるが0.2質量%未満ではその効果が無く、逆に2質量%超の添加は逆にブロ−ホ−ルの発生を助長することを知見し、Mnは0.2質量%以上、2質量%以下とした。
【0012】
P及びS:P及びSの過剰な添加は鋼板及び熱影響部の靭性を劣化させるので、0.03質量%以下とした。
Al:Alは脱酸剤として重要な元素であるが、0.0005質量%未満にすることは製鋼上の負荷が高く現実的ではない。一方0.1%超では鋼板の衝撃靭性が劣化する。よって、Alの添加量は0.0005質量%以上0.1質量%以下とした。
【0013】
Ti:Tiはアシキュラーフェライトの変態核として重要な元素である。但し0.001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.1質量%超では鋼板の靭性が低下する。よって、Tiの添加量は0.001質量%以上、0.1質量%以下とした。
Cu:Cuは強度補償のためにMnの一部に代えて添加することができる。但しその添加量は0.01質量%未満ではその効果が十分でなく、逆に3%超の場合には溶接金属に凝固割れが発生する。従って、Cuの添加量は0.01質量%以上、3質量%以下とした。
【0014】
Cr:Crは強度向上元素として添加することができる。また、耐熱用鋼においては高温強度の確保にも必要な元素であるが、0.01質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に3質量%超の添加は鋼板の靭性を損ねる。従って、Crの添加量は0.01質量%以上、3質量%以下とした。
Ni:Niは鋼板の低温靭性を向上させる代表的な元素であるが、0.01質量%未満ではその効果が十分でなく、逆に7質量%超では溶接金属に凝固割れを生じる。よってNiの添加量は0.01質量%以上、7質量%以下とした。
【0015】
Mo:Moは溶接後熱処理(PWHT)脆化を抑制する元素であり、Mnの代替として添加できるが、0.005質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に2質量%超では鋼板の靭性が低化する。よって、Moの添加量は0.005質量%以上、2質量%以下とした。
Nb:NbはTMCPプロセスにおいて、鋼板のミクロ組織制御に重要な元素であるが、0.001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に過剰な添加は鋼板の靭性を損ねる。よって、Nbの添加量は0.001質量%以上、0.1質量%以下とした。
【0016】
V:VもTMCPプロセスにおいて、鋼板のミクロ組織制御に重要な元素であり、また耐熱鋼においては高温強度の確保にも必要な元素であるが、0.001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に過剰な添加は鋼板の靭性を損ねる。従って、Vの添加量は0.001質量%以上、1質量%以下とした。
B:Bも強度向上元素として添加することができるが、0.0001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.002質量%超の添加は鋼板の靭性を低下させる。従って、Bの添加量は0.0001質量%以上、0.002質量%以下とした。
【0017】
Mg:Mgは脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.0001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.02質量%超の添加は電子ビーム溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、Mgの添加量は0.0001質量%以上、0.02質量%以下とした。
【0018】
Ca:Caも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.0001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.02質量%超の添加は電子ビーム溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、Caの添加量は0.0001質量%以上、0.02質量%以下とした。
【0019】
Zr:Zrも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.1質量%超では鋼板の靭性が低下する。よって、Zrの添加量は0.001質量%以上、0.1質量%以下とした。
REM:REMも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.001質量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.3質量%超の添加は電子ビーム溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、REMの添加量は0.001質量%以上、0.3質量%以下とした。
【0020】
次に式1の規定理由を述べる。
これは適切な強度設計に関連するものである。つまり、レーザビーム溶接や電子ビーム溶接の溶接金属で靭性が低下する原因は、冷却速度が非常に大きいために焼き入れ効果によって溶接金属組織がマルテンサイトとになることであった。そこで式1の値を種々変化させ、試験の都合上、電子ビーム溶接と同等の非常に大きい冷却速度の得られるレーザビーム溶接を行い溶接金属の硬度を調査した。その結果を表1および表2に示す。
【0021】
表1および表2から明らかなように、式1の値が0.05〜0.2である鋼材を溶接して作成された溶接金属のビッカ−ス硬度は170〜230であり、アシキュラーフェライトの生成に適した硬度範囲といえる。
一方、式1の値が本発明の規定範囲を逸脱する場合はアシキュラーフェライトの生成には適さない硬度値である。これらの結果より、アシキュラーフェライトの生成には式1の値を特定することが有効であることが示唆されている。
【0022】
本発明におけるスケールの作用について説明する。本発明においてスケールは、鋼材に含有するTiを有効に酸化させ、Ti酸化物を生成させる。すなわち、Ti酸化物を生成するのに必要な酸素は、溶接部における相対する被溶接面の少なくとも1つに付着しているスケールより供給される。
ここで述べるスケールとは鉄の酸化物一般であるが、具体的にはレーザ切断端面スケール、プラズマ切断端面スケ−ル、ガス切断端面スケール、鋼板ミルスケール等が、図1および図2に示すように溶接部において相対する被溶接面の少なくとも1つに付着していることが必要である。酸素供給源として、特に有効に作用するのはレーザ切断面とプラズマ切断面のスケールである。
【0023】
種々の鋼種におけるレーザ切断端面スケール、プラズマ切断端面スケール、ガス切断端面スケ−ル、鋼板ミルスケ−ル等をX線回折で分析した結果、スケールは主にFeで構成されており、これらのスケ−ルからもたらされる酸素供給量に関してはスケール厚さのみを議論すればよいことが確認された。
そこで、相対する被溶接面のスケール厚の合計値を種々変化させ、溶接金属の酸素量を調査した結果を図3に示す。0.5μm以上あれば酸素供給源として十分に機能することが確認された。スケールの合計厚が0.5μm未満の場合は供給される酸素が不足してアシキュラーフェライトが十分に生成しない。逆に80μm超の場合には過剰な酸素が供給され靱性が損なわれるだけでなく、溶接時のキーホール安定性も損なわれビード外観が劣化し、ブローホール等の内質欠陥が発生する。よってスケールの合計厚は0.5〜80μm以下とした。
【0024】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明の効果を説明する。
実験に用いた鋼板は転炉で溶製し連続鋳造で250mm厚のスラブとした。これを熱間圧延した後に機械加工でミルスケールを研削して厚さ6mm、9mm、15mm、20mmの鋼板を準備した。鋼板の成分を表3に示す。この鋼板をレーザ切断、プラズマ切断、ガス切断して、切断端面にスケールが付着した供試鋼板を作成した。切断端面のスケール厚は切断方法及び切断条件を変化させて調整した。以上の鋼板を図3に示すI型突合わせ形状で電子ビ−ム溶接を実施した。電子ビーム溶接の溶接条件を表4に示す。溶接後の鋼板には表5の試験を実施し、その結果を表6〜8に示す。表6〜8の中で、シャルピー試験の吸収エネルギは各鋼板における最低値を記してある。以上の結果より、本発明の溶接方法で作成された溶接金属は全ての検査において合格したが、比較例として検討した鋼板は不合格であった。
【0025】
【表1】
Figure 0004505076
【0026】
【表2】
Figure 0004505076
【0027】
【表3】
Figure 0004505076
【0028】
【0029】
【表4】
Figure 0004505076
【0030】
【表5】
Figure 0004505076
【0031】
【0032】
【表6】
Figure 0004505076
【0033】
【表7】
Figure 0004505076
【0034】
【表8】
Figure 0004505076
【0035】
【発明の効果】
以上に示したように、本発明の方法を用いれば、電子ビーム溶接において健全な溶接部と高靭性な溶接金属が確保されるので、その効果は多大であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の溶接継手の一例(ギャップなし)を示す断面模式図である。
【図2】 図2は、本発明の溶接継手の一例(ギャップなし)を示す断面模式図である。
【図3】 図3は、スケール厚みと溶接金属の酸素量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
…電子ビーム
2…鋼板

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.01〜0.15%、
    Si:0.01〜1.5%、
    Mn:0.2〜2%、
    P :0.03%以下、
    S :0.03%以下、
    Al:0.0005〜0.1%、
    Ti:0.001%〜0.1%
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつ、下記式1の値が0.05〜0.2を満足する鋼材を溶接する方法であって、溶接部分において相対する被溶接面の少なくとも1つがスケール付着面であり、該付着スケールの厚みが合計で、0.5〜80μmであることを特徴とする、低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
    式1:[%C]+[%Si]/30+[%Mn]/20+[%Cr]/20+[%Ni]/60+[%Mo]/15+[%V]/10+5[%B]+[%Cu]/20
  2. 鋼材が、質量%で、
    Cr:0.01〜3%、
    Ni:0.01〜7%、
    Mo:0.005〜2%、
    Cu:0.01〜3%、
    Nb:0.001〜0.1%、
    V :0.001〜1%、
    B :0.0001〜0.002%
    の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
  3. 鋼材が、質量%で、
    Mg:0.0001〜0.02%、
    Ca:0.0001〜0.02%、
    Zr:0.001〜0.1%、
    REM:0.001〜0.3%
    の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の低温靭性に優れた溶接金属が得られる電子ビーム溶接方法。
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