JP6448844B1 - 溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】靱性に優れた接合部材を製造することができる溶接方法を提供する。【解決手段】第1の熱源によって入熱することによりフェライト系単相ステンレスどうしを接合した接合部を形成する第1入熱工程と、第1入熱工程後に前記接合部の温度が700℃まで冷却される前に、前記接合部の温度が1300℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が500℃/s以下となるように第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う第2入熱工程と、を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、フェライト系単相ステンレスどうしを溶接する溶接方法などに関する。
レーザ溶接では、集光された高エネルギー密度の熱源を利用するため、TIG溶接に代表されるアーク溶接に比べ、(1)高速深溶込み溶接が可能、(2)溶接熱影響が非常に少ない、(3)溶接変形が少ない、という特長がある。
ただ、レーザ溶接は冷却速度がはやく、溶接部の硬度が母材部に比べ上昇し靭性低下が課題である。レーザ溶接部の加工性を確保するための従来の公知技術は、以下のとおりである。
特許文献1は、フェライト単相ステンレス鋼溶接金属部の結晶粒を微細化する方法であり、第1レーザビームにより貫通溶接をし、溶接部の温度が400℃以下になると、該当溶接部に低入熱の第2レーザビームを照射して、部分的に溶接する方法を提供する。しかし、2つのレーザビームを用いて溶接金属部の結晶粒を微細化するこの手法は、接部ビード中央部ビッカース硬さと母材部ビッカース硬さの低減の改善にはならない。
特許文献2は、フェライト単相ステンレス鋼のレーザ造管溶接前に250℃以上に予熱し、内面ビードの突出高さを0.15mm以上に溶接し、溶接部を板厚方向に圧下して加工性を向上させる方法を提供する。しかし、レーザ造管溶接前に250℃以上に予熱することは、造管設備に加熱装置を付帯させるコスト上の問題だけでなくステンレス母材に酸化皮膜を付与させることでの耐食性低下の懸念がある。
本発明で着眼したレーザ・TIG複合溶接でステンレス鋼板に限った品質改善に着眼した例はない。特許文献3で金属材料全般の溶接でスパッタ低減にステンレス鋼も使用できると言及している程度である。
特開平8−155665号公報(平成8年6月18日公開) 特開平5−277769号公報(平成5年10月26日公開) 特表2015−526295号公報(2015年9月10日公開)
フェライト単相ステンレス鋼は溶接を施すことで、母材部に比べ硬度が著しく上昇する。溶接部は合金元素の偏析や組織粗大化が起こり、靭性低下の要因を多く含んでいる。その溶接部の硬度が高いことは、言い換えれば延性が低下していることであり、この溶接部硬度低減が重要である。
本発明の一態様は、靱性に優れた接合部材を製造することができる溶接方法を実現することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る溶接は、質量%で、(1)Ti:0.05〜0.50%、およびNb:0.05〜0.50%のうち1種以上と、(2)C:0.015%以下と、(3)N:0.020%以下と、(4)Cr:11.0〜35.0%と、を含有するフェライト系単相ステンレスどうしを溶接する溶接方法であって、第1の熱源によって入熱することにより前記フェライト系単相ステンレスどうしを接合した接合部を形成する第1入熱工程と、前記第1入熱工程後に前記接合部の温度が700℃まで冷却される前に、前記接合部の温度が1300℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が500℃/s以下となるように第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う第2入熱工程と、を含む。
本発明の一態様によれば、靱性に優れた接合部材を製造することができる。
(a)は、純Feベースにおける、窒化ニオブ(NbN)および炭化ニオブ(NbC)の溶解度曲線を示す図であり、(b)は、純Feベースにおける、窒化チタン(TiN)および炭化チタン(TiC)の溶解度曲線を示す図である。 本発明の実施形態に係るレーザ・TIG複合溶接方法について説明する図である。 本発明の実施形態に係るレーザ・TIG複合溶接部材のビード外観の一例である。 本発明の実施形態に係るレーザ・TIG複合溶接部材のビード断面の一例である。 本発明の実施例である、レーザ・TIG複合溶接部材とレーザ単独溶接部材について、ビード中央部からの距離と断面ビッカース硬さの関係を示すグラフである。
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の組合せが可能であり、それらも本発明の範囲に含まれる。なお、本明細書中の「A〜B」は「A以上、B以下」を意味する。
初めに、フェライト単相ステンレス鋼の溶接部(接合部)の硬度が上昇する理由として、Nb系炭窒化物またはTi系炭化物の析出強化と、NbおよびTiの固溶強化とがあることが知られている。フェライト単相ステンレス鋼は溶接部の耐食性や成形性を維持するために、C、Nをマトリックス中に固溶させずにTiやNbの炭窒化物でC、Nを固定している。フェライト単相ステンレス鋼の溶接において、溶接により鋼が液相になった段階では、TiNを除いて液相中にTi、Mn、C、Nが固溶した状態である。この液相状態からの冷却過程において、まずは液相からフェライト相が生成する。このあと、平衡状態としてはフェライト相からNb系の炭窒化物ならびにTi系炭化物が析出する。
本願の発明者らは、析出強化よりも固溶強化が、溶接部の硬度を上昇させる度合いが高いことを見出した。しかしながら、Nb系の炭窒化物ならびにTi系炭化物がフェライト相中から析出するには析出までの潜伏期があり、また上記液相状態からの冷却過程における冷却速度も速いためTiやNbの析出物を形成しにくく、TiおよびNbがフェライト相中に過飽和に固溶した状態となる。
そこで、本願の発明者らは、溶接部の硬度を低下させる手段として、溶接直後からの冷却過程に着眼した。より詳細には、冷却過程における冷却速度を遅くすることにより、TiおよびNbの炭窒化物を析出させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。ここで、Nb系の炭窒化物ならびにTi系炭化物の析出は、下記の(1)および(2)の温度依存性がある。
(1)高温側:析出は拡散現象が伴うため、温度が高いほど析出しやすい。ただし、析出するNbおよびTi量は温度が高いと少なくなる。換言すれば、温度が高いと固溶した状態が安定状態になる。
(2)低温側:拡散が起きにくくなるため、析出し難い。一方で、析出するNb、Ti量は多くなる。また、Nb、Tiが、その温度で理論的に固溶できるNb、Tiの量よりも過飽和にマトリックス中に固溶しているために、析出の駆動力が高くなる。
このように、温度に応じて、TiおよびNbの析出しやすい要因と析出し難い要因とが混在している。本発明者らは、TiとNbの炭化物・窒化物が析出する温度域(700〜1300℃)を緩冷却することにより、TiとNbの炭化物・窒化物を析出させ、鋼中のTi、Nbをマトリックス中に固溶させないようにすることができることを見出し、本発明に至った。
<フェライト系単相ステンレスの組成>
本発明において使用するフェライト系単相ステンレスの組成について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は特に示さない限り「質量%」を意味する。
Cは、炭化物を形成し、それが最終焼鈍での再結晶フェライトのランダム化の再結晶核として働く。しかしCは冷延焼鈍後の強度を上昇させる元素であり、あまり高いと延性の低下を招くため、0.015%以下とした。
Nは、窒化物を形成し、Cと同様にそれが最終焼鈍での再結晶フェライトの結晶方位ランダム化の再結晶核として働く。しかしNは冷延焼鈍材の強度を上昇させる元素であり、あまり高いと延性の低下を招くため、0.020%以下とした。
TiはC,Nを固定し、加工性および耐食性を向上させる元素であり、その効果が現れる最低量は0.05%である。しかし、Tiを添加すると、鋼材コストの増大を招き、Ti系介在物が原因の表面欠陥が問題となることから、Ti含有量の上限を0.50%に設定した。
Nbは、C,Nを固定し、耐衝撃特性や二次加工性を向上させる元素であり、これらの効果が現れる最低量は、0.05%である。しかし、Nbを添加しすぎると材料が硬化し加工性に悪影響をもたらす。また、再結晶温度を上げることから、上限を0.50%とする。
Crは、ステンレス鋼としての耐食性を備えるために、11.0%の含有が必要である。しかし、Cr量が高くなると、靭性や加工性の低下を招くためCr含有量の上限を35.0%とする。
以下の元素は請求項の中では記載していないが、含有してもさしつかえない。
Siは、通常脱酸の目的のために使用するが、固溶強化能が高く、あまりその含有量が多いと材質が硬化し延性の低下を招くので、0.5%以下とした。
Bは、Nを固定し、耐食性や加工性を改善する作用をもつ合金成分であり、必要に応じて添加される。上記作用を発揮させるためには0.0005%以上添加することが望ましい。しかし、過剰に添加すると熱間加工性の低下や溶接性の低下を招くため、上限を0.0100%に設定した。
Moは、耐食性を改善するために有効な元素であるが、過度の添加は高温での固溶強化や動的再結晶の遅滞により、熱間加工性の低下をもたらすので3.0%以下とした。
Niは、オーステナイト形成元素であり、2.0%を越える添加は硬質化やコスト上昇を招くため、2.0%を上限とした。
Cuは、溶製時のスクラップからの混入等、不可避的に含有されるが、過度の添加は熱間加工性や耐食性を低下させるので2.0%以下とした。
Alは、脱酸や耐酸化性のために有効な元素であるが、過剰な添加は表面欠陥の原因となるため上限を4.0%とした。
Mnは、オーステナイト形成元素であり、固溶強化能が小さく材質への悪影響が少ない。しかし、含有量が多いと溶製時にMnヒュームが生成する等、製造性が低下するので、望ましくは成分範囲を2.0%以下とする。
Pは、熱間加工性に有害な元素である。とくに0.050%を超えるとその影響は顕著になるので望ましくは0.050%以下である。
Sは、結晶粒界に偏析しやすく、粒界脆化により熱間加工性の低下等を促進する元素である。0.020%を超えるとその影響は顕著になるので望ましくは0.020%以下である。
Vは、固溶Cを炭化物として析出させる効果による加工性向上、Zrは鋼中の酸素を酸化物として捕えることによる加工性や靭性向上の面から有用な元素である。しかしながら、多量に添加すると製造性が低下するので、V、Zrの適正含有量は0.01〜0.30%である。
これら以外にもCa、Mg、Co、REM(希土類金属)などは、溶製中に原料であるスクラップ中より含まれることもあるが、とりたてて多量に含まれる場合を除き、本発明のフェライト単相ステンレス溶接部の特性に影響しない。
<溶接方法>
本発明の一態様の溶接方法は、質量%で、(1)Ti:0.05〜0.50%、およびNb:0.05〜0.50%のうち1種以上と、(2)C:0.015%以下と、(3)N:0.020%以下と、(4)Cr:11.0〜35.0%と、を含有するフェライト系単相ステンレスどうしを溶接する溶接方法である。本発明の一態様の溶接方法は、第1入熱工程と、第2入熱工程とを含む。
(第1入熱工程)
第1の熱源によって入熱することによりフェライト系単相ステンレスどうしを接合した接合部を形成する工程である。第1の熱源は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザ溶接、TIG溶接、プラズマ溶接などを用いることができる。第1入熱工程では、1400℃以上、より具体的には、1450℃〜1700℃までフェライト系単相ステンレスを加熱することによりフェライト系単相ステンレスどうしを融解して接合する。
(第2入熱工程)
第2入熱工程は、第1入熱工程後に接合部の温度が700℃まで冷却される前に、第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う工程である。具体的には、接合部の温度が1300℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が500℃/s以下となるように第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う。
第2の熱源は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザ溶接、TIG溶接、プラズマ溶接などを用いることができる。ただし、接合部全体に対して入熱することが好ましいため、第2の熱源は、より広い範囲に入熱を行うことができるTIG溶接、およびプラズマ溶接が好ましい。また、第1の熱源と、第2の熱源とは、同じ種類の熱源であってもよい。
また、第2の熱源として複数の熱源を用いてもよい。これにより、より広い範囲において接合部に対して入熱を加えることができる。
図1の(a)は、純Feベースにおける、窒化ニオブ(NbN)および炭化ニオブ(NbC)の溶解度曲線を示す図であり、図1の(b)は、純Feベースにおける、窒化チタン(TiN)および炭化チタン(TiC)の溶解度曲線を示す図である。これらの溶解度曲線は、理論溶解度積から求めた。各溶解度曲線の右側が析出域、左側が固溶域である。
図1の(a)に示すように、フェライト系単相ステンレスに含まれるNbが0.42質量%である場合、約1300℃でNbNが析出する。また、Nbが完全に析出してフェライト母相中にNbが固溶できる下限温度は約700℃である。本発明におけるフェライト系単相ステンレスに含まれるNbは、Nb:0.05〜0.50質量%であるので、NbNの析出温度は、700〜1300℃であると予想される。同様に、NbCおよびTiNの析出温度は、それぞれ700〜1100℃および700〜900℃であると予想される。ただし、図1の(a)および(b)に示す図は、純Feベースの溶解度曲線である。そのため、フェライト単相ステンレス鋼のようにCrを中心とした合金元素を含む場合、NbN、NbCおよびTiNの析出温度域は、多少変動する。
したがって、接合部の温度が700〜1300℃の温度範囲において溶接部の冷却速度を低く抑えることにより、溶接部においてNbN、NbC、およびTiCの析出量を増加させることができる。本実施形態では、第2の熱源を用いて700〜1300℃の温度範囲において溶接部の冷却速度を低く抑えることにより、NbN、NbC、およびTiCの析出量を増加させる。より詳細には、700〜1300℃の温度範囲における溶接部の冷却速度を500℃/s以下となるように入熱することにより、接合部材が良好な靱性を有するように、NbN、NbC、およびTiCを析出させる。
また、図1の(a)および(b)に示すように、接合部の温度が700〜1000℃において、NbN、NbC、およびTiCの析出量が多くなる。したがって、接合部の温度が700〜1000℃の温度範囲における溶接部の冷却速度を400℃/s以下となるように入熱することがより好ましい。さらに、本発明者らは、(1)接合部の温度が1300〜1000℃の温度範囲において溶接部の冷却速度が900℃/s以下となるように入熱するとともに、(2)接合部の温度が1000〜700℃の温度範囲において溶接部の冷却速度が400℃/s以下となるように入熱することがさらに好ましいことを見出した。
以下に、本実施形態における接合方法の一例としての、レーザ・TIG複合溶接方法について図に基づいて説明する。図2は、本発明に係るレーザ・TIG複合溶接方法についてTIG先行溶接を説明する図である。
図2において、符号1はレーザ溶接を行うレーザ光のビームであり、符号2はTIG溶接トーチである。また、符号3は、素材であるフェライト単相ステンレス鋼材である。
この溶接方法によってレーザ・TIG複合溶接する場合、TIG溶接トーチ2によるTIG溶接が先行して行われ、続いてレーザ光のビーム1によるレーザ溶接が行われる。
図3および図4にレーザ・TIG複合溶接を施したフェライト単相ステンレス溶接部材のビード外観とビード断面の一例を示す。本例におけるフェライト単相ステンレス溶接部材では、図3に示すようにスパッタが少なく、かつ、図4に示すようにアンダーカットも0.1mmと小さい特徴がある。
<接合部材>
上記の溶接方法によって本実施形態におけるフェライト系単相ステンレスを接合することにより、接合部の中央部におけるビッカース硬さをHv(w)、フェライト系単相ステンレス鋼において溶接部の熱影響を受けない母相のビッカース硬さをHv(b)としたときに、Hv(w)−Hv(b)≦50を満たす接合部材とすることができる。本実施形態における接合部材は、Hv(w)−Hv(b)≦50となっていることにより、良好な靱性を有する。換言すれば、本実施形態における接合部材は、良好な加工性を有する。
また、本実施形態における接合部材は、Nbの炭化物、Nbの窒化物、およびTiの炭化物の中から選択される1種以上の化合物を含み、接合部の垂直断面(接合部の延伸方向に対して垂直な断面)をFE−EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ、Field Emission - Electron Probe Micro Analysis)を用いて分析したときに、上記化合物の面積率が1.8%以上である。本発明者らは、上記面積率が1.8%以上である接合部を有する接合部材は、良好な加工性を有することを見出した。
本発明の溶接方法の実施例および比較例について以下に説明する。
表1に、本実施例において使用したフェライト系単相ステンレス1〜9の成分組成を示す。表1に示す数値は、すべて質量%としての値である。
表1に示すフェライト系単相ステンレス1〜6は、下記の条件1を満たすフェライト系単相ステンレスであり、表1に示すフェライト系単相ステンレス7〜9は、下記の条件1を満たしていないフェライト系単相ステンレスである。
条件1:(1)Ti:0.05〜0.50%、およびNb:0.05〜0.50%のうち1種以上と、(2)C:0.015%以下と、(3)N:0.020%以下と、(4)Cr:11.0〜35.0%と、を含有する。
本実施例では、表1に示す成分・組成を有する板厚2.0mmのフェライト単相ステンレス鋼板(焼鈍材)を素材とし、レーザ・TIG複合溶接、レーザ単独溶接、またはTIG単独溶接を実施した。なお、溶加材は用いなかった。
溶接は突合せ溶接で行い、端面は機械加工仕上げしたものを用いた。溶接条件は以下のとおりである。レーザ・TIG複合溶接を行う場合、TIG溶接を行うトーチとレーザ溶接を行うビームの間隔は3mmとした。また、レーザ溶接のアシストガスは、レーザ単独溶接を行う場合のみ使用し、レーザ・TIG複合溶接を行う場合は用いなかった。
配置: TIG先行、またはレーザ先行
レーザ溶接:出力 4kW、
スポット直径φ0.6mm、
傾斜0°、
アシストガス Ar100%、10L/min
TIG溶接:後退角度30°、
電流300A、または400A
アーク長 1.5mm、
シールドガス Ar100%、15L/min
溶接速度: レーザ・TIG複合溶接 8.0m/min、
レーザ単独溶接 4.0m/min
TIG単独溶接 5.0m/min。
本実施例では、表2に示す実験条件でNo.1〜22の接合部材を作製した。また、表2には、これらの接合部材についての、レーザ・TIG複合溶接後のビード中央部のビッカース硬さHv(w)、母材部のビッカース硬さHv(b)、およびそれらの差も示している。
ビッカース硬さは、板厚中心t/2、板厚t/4(表裏)の計3点の平均から求めた。なお、母材部のビッカース硬さは、溶接前のビード中央から1.5mm、1.75mmならびに2.0mmの位置における3点平均値で定義している。
冷却速度は、溶接後の溶接部を放射温度計により測定した温度から算出した。放射温度計の放射率は、予め板表面溶接部近傍に熱電対をつけて冷却速度を求め、その冷却曲線に合うように設定した。
表2に示すように、700〜1300℃の温度範囲における溶接部の冷却速度が500℃/s以下となるように入熱して接合された、本願の発明例であるNo.1〜13の接合部材では、溶接部ビード中央部のビッカース硬さ(Hv(w))と母材部のビッカース硬さ(Hv(b))との差が50以下を満足している。特に、TIG溶接先行のほうがレーザ溶接先行よりもビッカース硬さ差が小さくなる。
No.1〜13の接合部材では、溶接後の冷却速度が遅いため、NbN、NbCおよびTiCが析出し、その結果、接合部の硬度上昇を抑えることができたと考えられる。
これに対して、700〜1300℃の温度範囲における溶接部の冷却速度が500℃/sよりも大きくなるように入熱して接合された、本願の比較例であるNo.14〜18、および22の接合部材では、溶接部ビード中央部のビッカース硬さ(Hv(w))と母材部のビッカース硬さ(Hv(b))との差が50よりも大きくなった。これは、溶接後の冷却速度が速いため、NbN、NbCおよびTiCの析出量が少なく、固溶強化によって硬度が上昇したと考えられる。
No.19の接合部材では、フェライト系単相ステンレスに含まれるCの量が多いため、溶接部におけるCの固溶量が大きくなったため、接合部の硬度が高くなった。
No.20の接合部材では、フェライト系単相ステンレスに含まれるNbおよびTiの量が少ないため、CおよびNを十分に固定することができなかった(換言すれば、析出することができなかった)ため、接合部の硬度が高くなった。
No.21の接合部材では、フェライト系単相ステンレスに含まれるCrの量が少ないため、冷却中にマルンテンサイト層が生成し、接合部の硬度が高くなった。
No.6〜8および15の接合部材は、接合する際のレーザ・TIG間距離が異なっている。表2に示すように、レーザ・TIG間距離が大きくなるにつれて、2つの熱源供給の間で冷却効果が働き、冷却速度が速くなることがわかる。
また、No.5の接合部材とNo.8の接合部材との結果から、後行に熱源が大きいTIG溶接を用いることにより冷却速度が遅くなることがわかる。
また、No.6の接合部材とNo.9の接合部材との結果から、TIG電流値が大きくなるほど(換言すれば、熱源が大きくなるほど)、冷却速度が遅くなることがわかる。
具体例を図5に示す。図5は、素材として表1のNo.4のフェライト単相ステンレス鋼を用いて、レーザ・TIG複合溶接(TIG先行)を施したNo.11の接合部材と、レーザ単独溶接を施したNo.22の接合部材について、ビード中央部からの距離と断面ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。ビード部中央部が最もビッカース硬さが高いが、ビード部中央部と母材部とのビッカース硬さ差を比較すると、レーザ・TIG複合溶接を施したNo.11の接合部材は、明らかにレーザ単独溶接を施したNo.22の接合部材よりも硬度上昇が抑制されている。
次に、発明例であるNo.5〜9の接合部材、および比較例であるNo.15〜17の接合部材について、溶接部の析出物の面積率の測定、V曲試験、および、歪み時効測定を行った。
溶接部の析出部の面積率は、FE−EPMAを用いて行った。条件は、以下のとおりである。
使用装置:JXA−8530F(日本電子株式会社製)
加速電圧:15kV
分析領域:100μm×100μm (500×500視野、測定間隔0.2μm)
分析元素:Nb、Ti、C、N(ただし、TiN介在物は除く)
当該試験では、面分析から、NbおよびTiの特性X線波長を基に析出物を同定した。NbおよびTi系の析出物がない固溶状態におけるNbおよびTiの特性X線のカウント数がnの場合、統計処理学に基づいて算出した下記の式(1)に示す値Nを析出部と判定する閾値とした(参考文献::副島啓義 : 「電子線マイクロアナリシス―走査電子顕微鏡、X線マイクロアナライザ分析法」,日刊工業新聞社,東京, (1987), 111-113.)。
N≧n+3√n ・・・(式1)
当該試験では、nを9カウント、析出物と同定する閾値Nを20カウントとして測定した。Nが20カウント以上である視野の比率を析出物の面積率とした。なお、この方式で算出される析出物の面積率は、実際の析出物の面積率よりも過大評価される。
溶接部の靱性を評価するため、オートグラフの圧出試験装置を用いて、V曲げ試験を行った。試験片の大きさは幅20mm×長さ60mmであり、長さ方向のほぼ中央部に幅20mmの溶接部が含まれる。この試験片の溶接部の位置が曲げの稜線となるように、先端がV字形状となっているパンチを押込んで曲げ試験とした。パンチの先端のRは1mm、押込み速度は30mm/minとした。
試験温度は、以下のように調整した。熱電対を取り付けた試験片を液体窒素(−196℃)に浸漬し、試験片の温度が−180℃以下となってから1分間その温度を維持した。その後、試験片を液体窒素から取り出し、試験片の温度が常温に戻っていく過程で、試験片が−20℃になった段階でV曲げ試験を行った。
歪み時効測定では、400℃−20%の引張試験後の溶接部の硬度と、当該引張試験前の溶接部の硬度との差ΔHvを測定した。ΔHvが小さいほど、歪み時効が小さくなる。すなわち、ΔHvが小さいほど、溶接部に固溶しているNbおよびTiの量が少ないことを示唆する。
表3に、溶接部の析出物の面積率の測定、V曲試験、および、歪み時効測定の結果を示す。
表3に示すように、発明例であるNo.5〜9の接合部材では、析出物の面積率が1.8%以上であった。これに対して、比較例であるNo.15〜17の接合部材では、析出物の面積率が1.8%よりも小さかった。
また、No.5〜9の接合部材では、V曲げ試験において割れが発生しなかった。これに対して、No.15〜17の接合部材では、V曲げ試験において割れが発した。
また、No.5〜9の接合部材は、比較例であるNo.15〜17の接合部材に比べて、ΔHvが小さかった。すなわち、No.5〜9の接合部材における接合部では、溶接部に固溶しているNbおよびTiの量が少ないことがわかる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
1 レーザ溶接を行うレーザ光のビーム
2 TIG溶接を行うトーチ
3 素材

Claims (4)

  1. 質量%で、(1)Ti:0.05〜0.50%、およびNb:0.05〜0.50%のうち1種以上と、(2)C:0.015%以下と、(3)N:0.020%以下と、(4)Cr:11.0〜35.0%と、を含有するフェライト系単相ステンレスどうしを溶接する溶接方法であって、
    第1の熱源によって入熱することにより前記フェライト系単相ステンレスどうしを接合した接合部を形成する第1入熱工程と、
    前記第1入熱工程後に前記接合部の温度が700℃まで冷却される前に、前記接合部の温度が1300℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が500℃/s以下となるように第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う第2入熱工程と、を含み、
    前記第2入熱工程における前記第2の熱源による入熱範囲は、前記第1入熱工程における前記第1の熱源による入熱範囲よりも広いことを特徴とする溶接方法。
  2. 前記第2入熱工程では、前記接合部の温度が1000℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が400℃/s以下となるように入熱することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
  3. 前記第2入熱工程では、
    前記接合部の温度が1300℃〜1000℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が900℃/s以下となるように入熱するとともに、
    前記接合部の温度が1000℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が400℃/s以下となるように入熱することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
  4. 質量%で、(1)Ti:0.05〜0.50%、およびNb:0.05〜0.50%のうち1種以上と、(2)C:0.015%以下と、(3)N:0.020%以下と、(4)Cr:11.0〜35.0%と、を含有するフェライト系単相ステンレスどうしを溶接する溶接方法であって、
    第1の熱源によって入熱することにより前記フェライト系単相ステンレスどうしを接合した接合部を形成する第1入熱工程と、
    前記第1入熱工程後に前記接合部の温度が700℃まで冷却される前に、前記接合部の温度が1300℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が500℃/s以下となるように第2の熱源により当該接合部に対して入熱を行う第2入熱工程と、を含み、
    前記第2入熱工程では、
    前記接合部の温度が1300℃〜1000℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が900℃/s以下となるように入熱するとともに、
    前記接合部の温度が1000℃〜700℃の温度範囲において、前記接合部の冷却速度が400℃/s以下となるように入熱することを特徴とする溶接方法。
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