JP3939563B2 - 鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤおよびソリッドワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材のレーザ溶接用溶加材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼材同士の接合は、一般のアーク溶接、或いは電子ビーム、レーザビームなどの高エネルギー密度ビーム溶接により広く行われている。なかでもレーザ溶接は深溶込みの高速溶接が可能であり、また電子ビームのように真空を必要とせず高能率な溶接を達成できる手法として注目をあびている。また大容量のレーザ溶接機も製作され厚鋼板の溶接も可能となった。しかし、レーザ溶接には以下の2つの問題がある。
【0003】
その第一は、気孔に起因するブローホール等の欠陥が発生し易い問題である。レーザビームによる深溶込み溶接においては、被溶接材である金属がレーザビームにより蒸発し、蒸発反力と蒸気圧によりキーホールと呼ばれる空洞が材料中に形成される。キーホールは金属蒸気により満たされており、キーホール口から蒸気は外部に噴出している。このようにレーザ溶接では、キーホールと呼ばれる非常に不安定な溶融池が形成され、気孔に起因するブローホール等の欠陥が発生し易い問題がある。
【0004】
第二は、溶接金属部が非常に狭いため冷却速度が速く、溶接金属部が硬化して靭性が低下する問題である。鋼材には量の大小はあるにせよ必須の含有元素としてCが含まれること、また通常のアーク溶接に比較して冷却速度が速いことから、これら両因子が重畳してマルテンサイト変態による溶接金属の低温割れが発生し易い問題である。
【0005】
従って、レーザ溶接を実用化するためには、特にブローホール発生防止と低温割れ防止を両立し、適切な強度の溶接継手を得ることが必要となる。更に、溶接そのものが安定して行えなければ、生産性を極めて重視する分野においては実用化ができない。
【0006】
このような問題点を解決することを目的に、産学ともにレーザ溶接金属の欠陥防止と靭性向上に関する研究が盛んに行われており、提案されたものがある。
【0007】
まずブローホールと言われる溶接欠陥を防止する方法として、例えば特開平9−314368号公報には、シールドガスの巻き込みにより発生するブローホールを抑制する方法として、レーザビームの波長を8.2μm以下に制限し、かつシールドガスの組成として窒素を体積比率で5%以上含有させる方法が提案されている。しかしながら本方法では、溶接欠陥を防止する方法は記載されているが、溶接金属の靭性を向上させる手法については記述がない。
【0008】
また溶接金属の靭性を向上させる方法として、例えばフィラー材料を供給しながらレーザ溶接する方法(特開平9−122957号公報、特開平6−670号公報)、レーザ溶接する鋼板母材の化学成分と焼入れ臨界直径Di値を制御する方法(特開平8−276286号公報、特開平10−94890号公報)、レーザ溶接する鋼板母材の化学成分と組織パラメータ(結晶粒径や第2相組織分率)や機械的特性(均一伸びと局部伸び)を制御する方法(特開平11−293398号公報)などが提案されている。しかしながら、いずれの方法も溶接金属部の靭性や成形性改善に着目したものである。この内、特開平8−276286号公報、特開平10−94890号公報、特開平11−293398号公報に提案の方法では、鋼材中に含まれるMnの蒸気やNが原因となりブローホールが発生すると解析し、ブローホールを抑制するために、鋼材中に含まれるMnとNの含有量を規制することが記述されている。しかしながら、特開平9−314368号公報に記述されているように、レーザ溶接で必須のシールドガスの巻き込みが原因で発生する気孔欠陥に対しては、何ら対策が施されていないと言える。
【0009】
以上のように、従来のレーザ溶接方法並びに溶加材では、欠陥発生防止、溶接金属部の靭性向上の点で不十分であり、これらを共に満足できるレーザ溶接方法並びに溶加材は見あたらないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
鋼材同士の接合に対しては、前述のレーザ溶接が適用できれば、溶込み深さ、強度、生産性、歪みの面で有利と考えられる。しかしながら、レーザ溶接では、キーホールと呼ばれる非常に不安定な溶融池が形成され、気孔に起因するブローホール等の欠陥が発生し易い問題がある。また鋼材には量の大小はあるにせよ必須の含有元素としてCが含まれること、また通常のアーク溶接に比較して冷却速度が速いこと、およびこれら両因子が重畳してマルテンサイト変態による溶接金属の低温割れが発生し易い問題がある。従ってレーザ溶接を実用化するためには、特にブローホール発生防止と低温割れ防止を両立し、適切な強度の溶接継手を得ることが必要となる。更に、溶接そのものが安定して行えなければ、生産性を極めて重視する分野においては実用化ができない。
【0011】
本発明は、かかる要請に応えるべくなされたものであって、その目的は、レーザ溶接による鋼材同士の接合において、ブローホールや低温割れ等の欠陥の発生が無い、鋼材のレーザ溶接用溶加材を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、固有のシールドガス条件下で行うレーザ溶接において、固有の溶加材の組成を設定することによって鋼材同士の接合が可能であることを見出し、ここに本発明をなしたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に溶加材として用いられるコアドワイヤであって、該コアドワイヤが軟鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:15〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤを要旨とする。
【0014】
また、前記コアドワイヤがオーステナイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを要旨とする。
【0015】
また、前記コアドワイヤがフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%、Ni:5〜15%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを要旨とする。
【0016】
前記金属粉が、さらにAl、Tiの1種又は2種を合計量で0.2〜3%含むものとしてもよい。
また、前記金属粉が、さらにCu:0.2%以下、B:0.003%以下、Ta:0.4%以下、V:0.1%以下、Nb:0.2%以下のいずれか1種を含むものとしてもよい。
【0017】
また、質量%でC:0.1〜1.2%、Si:2%以下、Mn:5〜40%、Ni:5〜15%、Cr:20%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用ソリッドワイヤを要旨とする。
【0018】
さらにAl、Tiのいずれか1種又は2種を合計量で0.2〜3%含むものとしてもよい。
また、さらにCa:0.1%以下、La:0.4%以下、Zr:0.3%以下、Mo:0.2%以下のいずれか1種を含むものとしてもよい。
【0019】
以下に本発明の構成並びに作用を更に詳述する。
【0020】
(作用)
レーザ溶接では、キーホールと呼ばれる非常に不安定な溶融池が形成され、気孔に起因するブローホール等の欠陥が発生し易い問題がある。また一般の鋼材には強度改善を目的としてCが添加されているため、このような鋼材を一般的なアーク溶接と比較して冷却速度が極めて速いレーザビームで溶接すると、溶接金属中に含まれるCが原因となり、溶接金属は靭性の乏しいマルテンサイトとなりやすく低温割れが発生し易い問題がある。
【0021】
上記問題の内、まずブローホールの発生に対しては、シールドガスに窒素ガスを用いることで防止する。レーザ溶接では一般に、大気中に含まれる酸素と溶融金属との反応を防止することを目的に、ヘリウム,アルゴンといった不活性ガスがシールドガスとして汎用されている。しかしながら、これら不活性ガスは一旦キーホール内に捕捉され溶融金属内に巻き込まれると、溶融金属が凝固するまでに外部に排出されないと溶接金属中に残留してブローホール欠陥の原因となる。
【0022】
一方、シールドガスに窒素を用いると、ヘリウムやアルゴンといった不活性ガスでシールドされている場合とは異なり、窒素は溶融Fe合金中に溶解するためブローホールの原因とはなりにくいのである。一般にアーク溶接では、窒素はブローホールの原因になるとして、できるだけ窒素が溶融金属に接触しないようにする努力が図られている。これはアーク溶接のように冷却速度が遅い場合の現象であり、このように溶接後の冷却速度が遅い場合には、溶融Fe合金中に溶解した窒素は冷却に伴う溶解度減少に伴い、折角、ブローホールの原因となる窒素が溶融Fe合金中に溶解しても、冷却過程で気泡が発生してしまい、ブローホールの原因となってしまう。本発明の従来知見との差異は、レーザ溶接のように溶接後の冷却速度が極めて速い場合には、アーク溶接の場合とは異なり、溶融Fe合金中に過飽和に溶解した窒素を、溶接後の冷却過程でも過飽和のまま凍結できることである。
【0023】
しかしながら、シールドガスを窒素にして単にレーザ溶接するのみでは、割れは防止できないので、本発明では固有の組成を有する溶加材(フィラーワイヤ)を用いる。すなわち、溶加材により所定量のC、Ni、Mn等のオーステナイト形成元素を供給し、Cr、Mo、Siを代表とするフェライト形成元素に対し、所定の比率以上に含有させた溶接金属の組成とする。これにより、溶接金属の組織がオーステナイト、或いはオーステナイトとマルテンサイトの混合組織となり、マルテンサイト変態が抑制され低温割れが防止できるのである。なお上記のとおり本発明ではブローホール抑制を目的に溶接金属中に窒素を強制固溶させることをポイントとしているが、NはCと同じようにオーステナイト形成能力が高く、溶接金属のオーステナイト化にともなう低温割れ防止にも効果を発揮する。
【0024】
また溶加材には、必要に応じて強力な脱酸剤であるAl、Ti等を所定量添加することでブローホール欠陥を抑制する効果が増大する。これは先にブローホールの原因が主に不活性ガスであると述べたが、例え窒素シールドガスを溶融金属に吹き付けても完全に大気と遮断することは不可能な場合がある。その際、大気から混入される酸素が原因となり発生するブローホールを抑制するためである。例えMn、Siを含めたとしても、Mn、Siの脱酸剤だけではブローホールの発生防止に対して不十分である場合には、前記Al、Ti等の脱酸剤を所定量(0.2〜3質量%)添加することにより、完全にブローホールの発生を防止できるのである。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の溶加材の成分限定理由について、以下の実施形態1〜4に基づいて詳細に説明する。
【0026】
(実施形態1)
まず、第1の実施形態(実施形態1)は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に用いる溶加材が、軟鋼製シース内に金属粉を封入してなるコアドワイヤであって、その金属粉が、ワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:15〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。
【0027】
すなわち、溶接金属のC含有量を鋼材並みあるいはそれ以上に保持した上で、Mnを所定量含有させ、Si含有量を制限したものである。
【0028】
Cはオーステナイト形成元素であるので所定量含有させることによりマルテンサイト変態が抑制され、溶接金属の組織がオーステナイト、あるいはオーステナイトとマルテンサイトの混合組織となり、低温割れが防止できる。被溶接材がS58Cに代表されるC含有量が比較的高い鋼材である場合には、C含有量が0.3%程度の溶加材で十分溶接金属のオーステナイト化を達成できる。一方、鋼材の中には例えば0.03%しかCを含有しないような薄鋼板や厚鋼板が汎用されており、このようにC含有量が少ない場合には、逆に溶加材からCを供給する必要がある。このような場合には、溶加材には最大1.2%程度のC含有量を必要とする。したがって、金属粉中のC含有量の適性範囲は、ワイヤ全質量に対して0.3〜1.2%である。
【0029】
Mnはオーステナイト形成元素であるので所定量含有させることによりCと同様、マルテンサイト変態が抑制され、溶接金属の組織がオーステナイト、あるいはオーステナイトとマルテンサイトの混合組織となり、低温割れが防止できる。またMnを添加することにより、鋼材に不可避的に含有されるSと結びつき、高温割れの防止に対しても有効に作用する。さらにMnは強力な脱酸剤であることから、大気巻き込みに起因したブローホールの発生防止に対しても寄与する。ここで溶加材中のMnが15%未満では溶接金属に歩留まるMn量が不足し、一方、30%を超える場合には溶加材の供給量を加減することにより接合はできるが、溶加材そのものの製造が困難になるとともに上記効果が飽和する。したがって、金属粉中のMn含有量の適正範囲は、ワイヤ全質量に対して15〜30%である。またMnは、溶融Fe合金中に溶解すると窒素の溶解度を高める効果がある。そのため溶融Fe合金中へ窒素が吸収されやすくなり、ブローホール抑制効果が高まる。なおブローホール抑制効果を高めるには、20%以上の添加が好ましい。
【0030】
Siは脱酸剤として有効であるが、フェライト形成元素であるので溶接金属のオーステナイト化を抑制し、マルテンサイト変態を助長する。したがって、Siの含有量は2%以下(0%を含む)に限定する。
【0031】
(実施形態2)
第2の実施形態(実施形態2)は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に用いる溶加材が、オーステナイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなるコアドワイヤであって、その金属粉が、ワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。
【0032】
溶加材を用いてレーザ溶接をする場合、溶け込み深さを確保するためには、溶加材の供給量が制限される。このため上記実施形態1の溶加材では、溶接金属の組織を完全にオーステナイトにすることが難しく、かなりの割合のマルテンサイトが含まれるため、靭性に乏しい溶接金属となりやすい。この問題に対しては、上記実施形態1の溶加材に用いた金属粉を、軟鋼のシースに替えて、ステンレス鋼のシース、好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼のシースに封入することにより解決することができる。すなわち、一般にオーステナイト系ステンレス鋼には、通常7〜8%程度のNiが含まれている。オーステナイト系ステンレス鋼シースからこのNiを溶接金属に添加することで、より少ない溶加材の供給量で溶接金属の組織をオーステナイトにすることができる。その結果、靭性に優れた溶接金属が得られ、低温割れが防止される。また、オーステナイト系ステンレス鋼シースに含まれる多量のCrは、Mnよりも溶融Fe合金中への窒素溶解度を高める効果があるため溶融Fe合金中へ窒素が吸収されやすくなる。これによりブローホール抑制効果が一層高まる。さらに、Cと同様にオーステナイト形成能力が高いNを多量に溶接金属中に固溶できることから、溶接金属中のオーステナイト比率を高めることができ、低温割れ防止にも効果を発揮する。なお、Crそのものはフェライト形成元素であることから溶接金属のオーステナイト化を阻害する元素である。しかし、上記のNi添加およびN固溶の効果により溶接金属の靭性は軟鋼製のシースを用いた場合よりも格段に向上するので問題とならない。
【0033】
したがって、シースとしてオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、軟鋼を用いた場合に比べより小さい溶加材(フィラーワイヤ)の供給量で溶接金属組織をオーステナイトにすることができる。その結果、溶け込み深さを確保しつつ、靭性に優れた溶接金属が得られる。
【0034】
また、シースをステンレス鋼製にすることによりワイヤ表面の錆発生が防止され、よりブローホールが発生しにくい溶加材を供給できる効果もある。
【0035】
金属粉中のC含有量の適正範囲は、上記実施形態1と同様の理由により、ワイヤ全質量に対して0.3〜1.2%である。
【0036】
金属粉中のSi含有量の適正範囲は、上記実施形態1と同様の理由により、ワイヤ全質量に対して2%以下(0%を含む)である。
【0037】
金属粉中のMn含有量の適正範囲は、上記実施形態1と同様の理由により、ワイヤ全質量に対して5〜30%である。なお、本実施形態2においては、Mnと同様のオーステナイト形成元素であるNiがシースから供給されるので、Mn含有量の下限は実施形態1より低くできる。なおブローホール抑制効果を高めるには、15%以上の添加が好ましい。
【0038】
(実施形態3)
第3の実施形態(実施形態3)は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に用いる溶加材が、フェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなるコアドワイヤであって、その金属粉が、ワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%、Ni:5〜15%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。
【0039】
シース材料として、上記実施形態2のオーステナイト系ステンレス鋼の替わりに、13Cr鋼などのフェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼を用い、内部に封入する金属粉にNiを適量添加することによっても、上記実施形態2と同様の特性が得られる。
【0040】
金属粉中のC、Si、Mn含有量の適正範囲は、上記実施形態2と同様の理由により、ワイヤ全質量に対してそれぞれ0.3〜1.2%、2%以下(0%を含む)、5〜30%である。
【0041】
金属粉中のNiの含有量は、オーステナイト化の効果を有効に発揮させるためには、溶接金属の歩留りを考慮するとワイヤ全質量に対して5%以上必要とする。好ましくは6%以上である。しかし15%を超えて添加してもその効果は飽和するとともに、ワイヤのコスト上昇となり無駄である。したがって、Ni含有量の適正範囲は5〜15%である。
【0042】
上記実施形態1〜3において、窒素シールド不良による大気巻き込みが原因で発生するブローホールを抑制するためには、Al、Tiに代表される脱酸剤を添加することも可能である。脱酸の効果を有効に発揮させるためには、いずれか1種または複数種を合計量で0.2%以上添加する必要がある。しかし3%を超えて添加しても脱酸の効果は飽和する。したがって、金属粉中のAl、Tiの含有量の適性範囲は、いずれか1種または2種を含有し、それらの合計量でワイヤ全質量に対して0.2〜3%である。
【0043】
(実施形態4)
第4の実施形態(実施形態4)は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に用いる溶加材がソリッドワイヤであって、質量%でC:0.1〜1.2%、Si:2%以下、Mn:5〜40%、Ni:5〜15%、Cr:20%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。
【0044】
一般にコアドワイヤを用いた場合、ワイヤに巻き癖が発生しやすいため、ワイヤを安定して被溶接部材の合わせ目部のレーザビームに的確に供給することが難しく、特に低出力ビームの条件化ではビームからのワイヤの離脱が著しくなる。そのためコアドワイヤ内の金属粉が溶解しないため、所定の金属粉全てを溶接金属に添加できない問題が生じる。またコアドワイヤにはシースに合わせ目が存在するため、ワイヤを長時間放置した場合には、この合わせ目から金属粉が吸湿して水分を多量に含み、この水分に起因して溶接金属にブローホールが発生する問題を引き起こすおそれがある。また低出力ビームに対しても安定供給を可能とすべくこれ以上細径化することは、コアドワイヤの構造上困難である。この問題に対しては、コアドワイヤに替えて、より細径化できるソリッドワイヤを採用することで解決できる。
【0045】
溶加材(ソリッドワイヤ)中のC含有量の適性範囲は、上記実施形態1と同様の理由により、0.1〜1.2%である。なお、本実施形態4においては、ソリッドワイヤの製造性を考慮すると、コアドワイヤと比較してCは少ない方が好ましいため、C含有量の下限は実施形態1〜3のコアドワイヤの場合の0.3%より低い0.1%とした。
【0046】
溶加材(ソリッドワイヤ)中のMn含有量の適性範囲は、上記実施形態2と同様の理由により、5〜40%である。なお、C含有量の下限を低くしたことにともなうオーステナイト形成元素の減少分を補うため、Mn含有量の上限は実施形態2の30%より高くした。ただし、Mnの過剰な添加はソリッドワイヤ製造時における伸線性を低下させるため上限を40%とした。
【0047】
溶加材(ソリッドワイヤ)中のNi含有量の適性範囲は、上記実施形態3と同様の理由により、5〜15%である。
【0048】
Crは溶接金属の耐食性を向上させるとともに、前述のN溶解度を高めてブローホール発生を防止する効果がある。しかしCrはフェライト形成元素であるため、過度の添加は溶接金属のオーステナイト化を阻害する。したがって、溶加材(ソリッドワイヤ)中のCr含有量の適性範囲は20%以下とする。なおブローホール抑制効果を高めるには、5%以上の添加が好ましく、11%以上の添加がさらに好ましい。
【0049】
また窒素シールド不良による大気巻き込みが原因で発生するブローホールを抑制するためにAl、Tiを添加することが好ましい。溶加材(ソリッドワイヤ)中のAl、Tiの含有量の適性範囲は、上記実施形態1〜3と同様の理由により、いずれか1種または2種を含有し、それらの合計量で0.2〜3%である。
【0050】
既述したように、本発明は、溶接金属の組織をオーステナイト、あるいはオーステナイトとマルテンサイトの混合組織とし、マルテンサイト変態を抑制して低温割れを防止することを要旨とする。そのため、溶加材中にオーステナイト形成能の高い元素であるC、Mn、Niを相当量添加するものであるが、その他のオーステナイト形成能が高い元素を適宜添加してもよい。このような元素として、Pt、Pd、Co、Cu、Auなどが非限定的に例示される。
【0051】
また、フェライト生成能が高い元素であっても、溶接金属の焼入性を高めてオーステナイトの安定度を高める元素を適宜添加してもよい。このような元素として、Bが非限定的に例示される。
【0052】
また、本発明では、溶融金属中に溶解したシールドガス成分の窒素を過飽和のまま溶接金属中に凍結することでブローホールの発生を防止することを要旨とする。そのため、溶融Fe合金中の窒素濃度を高める合金元素であるMn、Crを相当量添加するものである。一般にFeよりも炭化物形成傾向の大きい元素は溶融Fe合金中の窒素濃度を高めることが知られていることから、他の炭化物形成傾向の大きい元素を適宜添加してもよい。このような元素として、V、Ta、Mo、Ti、Nbなどが非限定的に例示される。
【0053】
また、本発明では、窒素シールド不良による大気巻き込みが原因で発生するブローホールを抑制するために、Al、Tiを脱酸剤として添加することを要旨とする。同様の脱酸効果を奏する元素としてZr、CaやREM(原子番号57〜71のすべての元素)を適宜添加してもよい。
【0054】
なお、これらブローホール抑制の目的で添加する元素を、溶接ワイヤの伸線性や耐食性、あるいは溶接金属の機械的特性(強度や靭性など)の改善を目的に添加しても問題はない。
【0055】
以上述べたように、本発明の溶加材は、窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に用いることにより、ブローホールの発生を防止するとともに低温割れを防止した靭性に優れる溶接金属が得られる。
【0056】
鋼材としては機械構造用炭素鋼や合金鋼(NiCr鋼、NiCrMo鋼、Cr鋼、CrMo鋼、Mn鋼、MnCr鋼など)、一般構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材などが非限定的に例示される。
【0057】
レーザ溶接方法としては、熱源としてレーザを利用するものであれば、汎用のCO2、YAG、半導体などのいずれのレーザ溶接方法でも適用可能である。
【0058】
【実施例】
(実施例1)
SM490鋼材同士(100W×300L×12t)の突き合わせレーザ溶接試験を、表1に示す条件で実施した。用いた溶加材はφ1.2mmの軟鋼製シースのコアドワイヤであり、シースに封入した金属粉の化学成分は表2に示す通りである。図1に溶接状況を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
溶接後、溶接部のX線と断面、および浸透探傷検査によりブローホール欠陥(単に「欠陥」ともいう。)と低温割れの有無を調査した。その結果を表2に併記する。欠陥についてはX線検査によりビード30mm長さあたりの欠陥数を測定し、以下の基準にて評価した。
欠陥数:25個以上は不合格、
欠陥数:24個以内は合格とするものの、以下の基準でランク分けした。
◎◎:0個、◎:1〜5個、○○:6〜10個、○:11〜24個
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、シールドガスに窒素を用いるとともに本発明で規定する化学成分の金属粉を封入した溶加材(コアドワイヤ)を用いた場合(No.1〜6)には、低温割れが防止できるとともにブローホール欠陥数も合格していることが分かる。一方、本発明以外の例では、ブローホールあるいは低温割れのいずれかが発生する問題がある。
【0063】
No.7〜12およびNo.13〜18は本発明例であるNo.1〜6とシールドガス以外の条件を同一とし、シールドガスを不活性ガスに替えて溶接試験した結果である。溶接金属の低温割れを防止し得る溶加材を供給しながら溶接しているため、No.7とNo.13以外は溶接金属の低温割れは防止できたが、シールドガスにAr、Heといった不活性ガスを用いたため、ブローホールが発生(ブローホール欠陥数が不合格)する問題が生じている。なお、No.7とNo.13はシールドガスに窒素を用いていないため、溶接金属中に固溶するN含有量が低くなり、溶接金属が靭性の高いオーステナイトになりにくいため低温割れが発生したものと思われる。
【0064】
No.19〜21は、金属粉の化学成分が本発明の規定する範囲から逸脱している例である。シールドガスに窒素を用いているためブローホール欠陥数は合格しているものの、金属粉のC、Mnのいずれか若しくは双方が所定の含有量の範囲にないため、低温割れが発生している。
【0065】
No.22は、シールドガス、金属粉の化学成分とも本発明の規定する範囲を逸脱している例である。ブローホール、低温割れともに発生を回避できなかった。
【0066】
No.23〜25は比較のため、溶加材を添加せずに溶接試験を行い、シールドガスの影響を調査した結果である。いずれも溶加材を添加していないため低温割れが発生しており、シールドガスが窒素以外の不活性ガスの場合(No.24、25)にはブローホールが発生した。
【0067】
(実施例2)
SM490(100W×500L×20t)とS45C(100W×500L×20t)の鋼材の突き合わせレーザ溶接試験を、表3に示す条件で実施した。用いた溶加材は、シースがステンレス鋼からなるφ1.2mmのコアドワイヤであり、シースに封入した金属粉の化学成分は表4に示す通りである。なお、実施例1の結果から、ブローホールの発生防止にはシールドガスに窒素を使用することが有効と確認されたため、本試験では、シールドガスに窒素のみを用いた。溶接試験後の評価方法は実施例1と同様である。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表4に試験結果を併せて示す。なおブローホールの判定基準は実施例1と同一である。本試験ではシールドガスに窒素を用いたため、ブローホール欠陥数に関しては全て合格であった。そして本発明で規定する化学成分の溶加材を用いた場合(No.26〜33)には、低温割れの発生も回避できている。なおNo.31とNo.33ではシース材としてNiを含まない13Cr鋼を用いた試験を行ったが、金属粉中にNiを添加し、ワイヤ全質量に対してNiが所定量含まれるようにすれば、シース材がSUS304の場合と同様の効果が得られることを確認した。特に溶加材中のMn含有量を15%以上とした場合(No.27、29、30、31)にはブローホール欠陥が全く認められず、ブローホール抑制と低温割れ防止が完全に両立できた。
【0071】
一方、No.34〜36は、金属粉の化学成分が本発明の規定する範囲から逸脱している例である。金属粉のC、Mnのいずれか若しくは双方が所定の含有量の範囲にないため、低温割れが発生している。
【0072】
(実施例3)
SS400鋼材同士(100W×500L×9t)の突き合わせレーザ溶接試験を、表5に示す条件で実施した。用いた溶加材はφ1.0mmのソリッドワイヤであり、化学成分は表6に示す通りである。実施例2と同様の理由から、シールドガスとしては窒素のみを用いた。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
表6に試験結果を併せて示す。なおブローホールの判定基準は実施例1と同一である。本試験でもシールドガスに窒素を用いたため、ブローホール欠陥数に関しては全て合格であった。そして本発明で規定する化学成分の溶加材を用いた場合(No.37〜43)には、低温割れの発生も回避できている。特に溶加材中のMn含有量が10%以上かつCrが5%以上とした場合(No.37、41、43)にはブローホール欠陥が全く認められず、ブローホール抑制と低温割れ防止が完全に両立できた。
【0076】
一方、No.44〜47は、溶加材の化学成分が本発明の規定する範囲から逸脱している例である。溶加材のC、Mn、Si、Ni、Crの少なくともいずれか1種が所定の含有量の範囲にないため、低温割れが発生している。
【0077】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に係る溶加材を用いれば、鋼材同士の接合において、従来のレーザ溶接法で問題となっていた、ブローホールの防止と溶接金属の低温割れ防止の兼備が可能となり、生産性のみならず信頼性の高い接合技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーザ溶接の要領及び溶接状況を示す説明図である。
【符号の説明】
1:母材
2:溶加材
3:レーザ取出ノズル
4:レーザビーム
5:溶接ビード
Claims (8)
- 窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に溶加材として用いられるコアドワイヤであって、該コアドワイヤが軟鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:15〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤ。
- 窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に溶加材として用いられるコアドワイヤであって、該コアドワイヤがオーステナイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤ。
- 窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に溶加材として用いられるコアドワイヤであって、該コアドワイヤがフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼製シース内に金属粉を封入してなり、該金属粉が、該コアドワイヤ全質量に対してC:0.3〜1.2%、Si:2%以下(0%を含む)、Mn:5〜30%、Ni:5〜15%で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤ。
- 前記金属粉が、さらにAl、Tiのいずれか1種又は2種を合計量で0.2〜3%含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤ。
- 前記金属粉が、さらにCu:0.2%以下、B:0.003%以下、Ta:0.4%以下、V:0.1%以下、Nb:0.2%以下のいずれか1種を含むものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼材のレーザ溶接用コアドワイヤ。
- 窒素を主成分とするシールドガスを用いて鋼材をレーザ溶接する際に溶加材として用いられるソリッドワイヤであって、質量%でC:0.1〜1.2%、Si:2%以下、Mn:5〜40%、Ni:5〜15%、Cr:20%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鋼材のレーザ溶接用ソリッドワイヤ。
- さらにAl、Tiのいずれか1種又は2種を合計量で0.2〜3%含むものである請求項6に記載の鋼材のレーザ溶接用ソリッドワイヤ。
- さらにCa:0.1%以下、La:0.4%以下、Zr:0.3%以下、Mo:0.2%以下のいずれか1種を含むものである請求項6または7に記載の鋼材のレーザ溶接用ソリッドワイヤ。
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