JP2007289965A - ガスシールドアーク溶接フラックス入りワイヤ及び溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.16〜1.50%、Si:0.30〜1.50%、Mn:0.50〜5.00%、O:0.020%以上、及びN:0.0020〜0.0400%を含有し、P:0.030%以下、S:0.030%質量以下、Ti:0.15%以下、Al:0.20%以下、F及びCa:各元素あたり0.100%以下、K、Na、及びLi:総量で0.200%以下、Mg:1.00%以下、REM(希少金属元素):0.50%以下、Ni、Cr、Nb、V、Mo及びCu:各元素あたり2.00%未満、B:0.0100質量以下%に規制し、残部はFe及び不可避不純物からなり、かつフラックス率が7〜30%である。
【選択図】なし
Description
特許文献5、特許文献6は残留応力を低下させるために溶接金属を塑性変形させやすくする方法が提案されている。
Cは、その添加により、Ms点を低下させるために本発明で最も重要な成分である。Cの含有量が0.16質量%未満であると、溶接金属になった時に炭素量が不足してMs点が上昇してしまう。一方、Cの添加量が1.50質量%を超えると、高温割れ、低温割れが発生しやすくなる。従って、Cの添加量を0.16乃至1.50質量%とするが、望ましくは0.21%以上、さらに望ましくは0.30%以上である。さらに、Cを過剰に添加すると炭化物を析出して疲労破壊の起点になり逆に疲労強度が低下し、ヒューム発生量も多くなる。望ましくは1.00%以下、さらに望ましくは0.80%以下である。なお、後述するが、Cのみの添加ではMs点が不安定であり、Nを添加することで効果的にMs点は安定低下し、膨張変態を起こす。
Siは、その添加により、ビード形状を改善する効果がある。Siの含有量が0.30質量%未満であると、ビード形状を改善する機能が不足し、ビード形状のなじみ性が悪くなり、止端形状が劣化して応力集中しやすくなる。その結果、疲労強度が低下する。一方、Siの含有量が1.50質量%を超えると、溶融池の粘性が過剰となり、高速溶接時にハンピングしやすくなる。また、スラグを多量に発生させるので電着塗装性も劣化する。従って、Siの添加量を0.30乃至1.50質量%とするが、望ましくは0.60%以上である。
Mnは、その添加により、ビード形状を改善し、多量添加で焼入れ性を高めてMs点を下げる効果がある。Mnの含有量が0.50質量%未満であると、ビード形状のなじみ性が悪くなって止端形状が劣化して応力集中しやすくなる。その結果、疲労強度が低下する。一方、Mnの含有量が5.00%を超えると、溶融池の粘性が過剰となり、高速溶接時にハンピングしやすくなると共に、ヒューム発生量が過剰となる。スラグを多量に発生させるので電着塗装性も劣化する。従って、Mnの添加量を0.50乃至5.00質量%とするが、望ましくは1.00乃至3.00質量%である。
酸素は、その添加により、MIGアーク溶接時に陰極点、陽極点を安定させ、良好なアーク安定性を得る為に必須である。また、溶滴の酸素量を上昇させて表面張力を低下させ、溶滴の離脱性を改善して低スパッタ化が可能となる。特にパルス溶接時にはその効果は大きい。ソリッドワイヤでは安定して酸素の含有量を0.020質量%以上添加することは難しいが、例えば、フラックス入りワイヤに鉄粉を用いることにより単位体積あたりの表面酸素が増加し、容易に酸素の多量添加が可能である。従って、酸素の添加量を0.020質量%以上とするが、望ましくは0.040%以上である。なお、多量であることで弊害はなく、フラックス率との兼ね合いで上限は実質上決まるので本発明において上限は設けない。
一般的に、炭素鋼の溶接において、窒素は、その添加により、靭性を低下させ、ブローホールを発生させるだけで特段の長所はないので極力低減されている。しかし、Cの多量添加のみでMs点を安定して下げる事は困難な事が判明し、残留オーステナイトにさせずに効果的にマルテンサイト変態を起こさせるには、CとNの両添加が必須である事が分かった。本発明において、窒素は、その添加により、オーステナイト安定化元素であり、適正量の添加で溶接金属のMs点を低下させる。Nの含有量が0.0020質量%未満であると、本発明による効果が得られない。一方、Nの含有量が0.0400質量%を超えると、アークの安定性が悪くなり、ブローホールを発生させる事になる。従って、Nの添加量を0.0020乃至0.0400質量%とするが、望ましくは0.0035乃至0.0200質量%である。なお、炭素鋼系のソリッドワイヤでNを添加すると溶製時に気孔欠陥が発生しやすい為、溶製が困難であるが、フラックス入りワイヤとすることでフラックスからNを積極的に添加させることができるのもフラックス入りワイヤを選択する長所である。
P、Sは、その添加により、耐高温割れ性を低下させる元素であるが、本発明の目的において特段の添加の意味はない。従って、従来ワイヤと同等に工業的生産性とコストを考慮し、P、及びSの各添加量を0.030質量%以下に規制する。
Ti及びAlは、アーク安定剤及び脱酸元素として多くのフラックス入りワイヤに添加されている。しかし、本発明は薄板用であり、使用環境としてスラグ剥離工程が設けられておらず、電着塗装される場合が非常に多い。そのためスラグを生成するTiやAlの添加は塗装性を阻害するので望ましくない。また、TiやAlが多いと薄板で用いられる低電流溶接時のアーク安定性が劣化し大粒のスパッタを発生する。従って、工業的生産性とコストを考慮し、Tiの添加量を0.15質量%以下、及びAlの添加量を0.20質量%%以下に規制するが、望ましくはTi、及びAl共に0.10質量%以下である。
フラックス率(充填率)が7質量%未満であると、所定の窒素や酸素量を含ませる事が不可能となり、かつフラックス成分の偏析が生じると共に、外皮が肉厚となって溶滴が大きくなってスパッタが増加する。一方、フラックス率が30質量%を超えると外皮が薄くなり伸線加工中に断線が発生しやすくなり、製造が困難である。従って、フラックス率を7乃至30質量%とする。
Ni、Cr、Nb、V、Mo及びCuは、無添加でも本発明の効果を達成できる。しかし、Ni、Cr、Nb、V、Mo又はCuの添加により、Ms点を低下させ、適度な強度を確保する効果がある。この効果を得るには、Ni、Cr、Nb、V、Mo及びCuからなる群から選択された少なくとも1種を、各元素あたり0.05質量%以上添加することが必要である。即ち、これらの元素を添加する場合は、各元素あたり0.05質量%以上添加する。一方、これらの元素の含有量が各元素あたり2.00質量%以上になると、ワイヤの製造コストが増大する。また、溶融池の粘性が上昇して高速溶接時にハンピングしたり、スパッタ発生量が増加する。特に、Cuの場合、高温割れが発生するなどの短所が生じる。従って、Ni、Cr、Nb、V、Mo及びCuからなる群から選択された少なくとも1種の元素は、これらを添加する場合も添加しない場合も、2.00質量%未満に規制する。なお、Cuはワイヤ表面へめっきした場合、アーク溶接フラックス入りワイヤの成分として含むこととする。
Bは、無添加でも本発明の効果を達成できるが、少量添加でMs点を低下させ、かつ溶接金属の靭性を向上できる。この効果を得るためには、Bの含有量が0.0010質量%以上であることが必要である。一方、Bの含有量が0.0100質量%を超えると、高温割れを発生させる。従って、Bを添加する場合は、0.0100質量%以上とし、Bを添加する場合も添加しない場合も、Bの含有量は0.0100質量%以下に規制する。
REM(Rare Earth Metal:希土類元素)としては一般的にLa、Ce等がある。REMは、無添加でも本発明の効果を達成できるが、REMの含有量が0.01質量%以上であると、MIG溶接時にアーク安定性が向上し、かつ溶接金属の酸素量をより低下させてMs点を低下できる。一方、REMの含有量が0.05質量%以上を超えると、アーク安定化効果が飽和し、逆に溶滴が大粒化してスパッタが増加すると共に、コストも高価となる。従って、REMを添加する場合は、その添加量を0.01質量%以上とし、REMを添加する場合も添加しない場合も、REMの含有量は0.50質量%以下に規制する。
Mgは、無添加でも本発明の効果を達成できるが、Mgは強力な脱酸成分であり、その添加により、溶接金属の焼入れ性を高め、Ms点を低下させるという作用効果がある。その効果を得るためには、Mgの含有量が0.05質量%以上であることが必要である。一方、Mgの含有量が1.00質量%を超えると、溶融池の粘性が上昇して高速溶接時にハンピングが生じると共に、スパッタ発生量及びヒューム量が増加する。従って、Mgを添加する場合は、その添加量を0.05質量%以上とし、Mgを添加する場合も添加しない場合も、Mgの含有量は1.00質量%以下に規制する。
F及びCaは、無添加でも本発明の効果を達成できるが、Fe及びCaは強力な脱酸成分であり、その添加により、溶接金属の焼入れ性を高め、Ms点を低下させる。その効果を得るためには、F及びCaは各元素あたり0.005質量%以上添加することが必要である。一方、F及びCaは、各元素あたり0.10質量%を超えると、溶融池の粘性が上昇して高速溶接時にハンピングが生じ、スパッタ発生量及びヒューム量が増加する。従って、F及びCaを添加する場合も添加しない場合も、夫々その添加量を0.100質量%以下に規制する。
K、Na及びLiは無添加でも発明の効果を達成できるが、その添加により、電子放出を容易にし、アーク安定化と溶滴移行を円滑にしてスパッタ発生量を低下させるという作用効果が得られる。特に、MIGアーク溶接ではその効果が大きい。このような効果は、K、Na、及びLiからなる群から選択された少なくとも1種の含有量が総量で0.001質量%以上であることが必要である。一方、K、Na、及びLiからなる群から選択された少なくとも1種の含有量が総量で0.200質量%を超えると、効果が飽和してしまうと共に、アーク力が弱まって溶込み深さが浅くなると共に、溶融池が不安定となってハンピングするなどの問題が生じる。従って、K、Na、及びLiからなる群から選択された少なくとも1種を添加する場合も添加しない場合も、その添加量は総量で0.200質量%以下に規制する。なお、K、Na及びLiはK2O、Na2O及びLi2Oを主成分とする長石、ソーダガラス及びカリガラス等を原料としてフラックスに添加されるのが一般的である。
シールドガスは溶接金属の酸素量を低下させMs点を下げるため、更にヒューム発生量を抑制するためにできるだけ非酸化性が望ましい。最低でもAr80体積%以上、CO220体積%以下の高Ar比でなければ、残留応力低減及びヒューム量抑制が困難であり、Ar96体積%以上のAr比が推奨される。また、実質的に純Arガスをシールドガスに使用すると、劇的にこれらの特性を高めることが可能である。一般のワイヤでは純Arガスシールドガスでのアーク安定性確保は不可能であるが、本発明のワイヤは、純Arガスでも安定なアーク安定性を維持できる。従って、シールドガスの成分をArが96体積%以上であり、残部がCO2又はO2で構成される混合ガスとするか、望ましくは実質的に純Arガスとすることが必要である。なお、実質的に純Arガスとは、Arに不可避的不純物が含有されたガスも許容されることを示すものである。
溶接機は一般的な消耗電極式アーク溶接用として用いられる定電圧特性電源でも残留応力低減には問題ない。しかし、薄板溶接における高速溶接性、アーク安定性、及び低ヒューム化を図るため、前記ガスシールドアーク溶接フラックス入りワイヤとパルスアーク溶接機の組合せが推奨される。特に、シールドガスとして純Arを用いる場合は、アーク安定性確保の為にはパルス溶接機が有効である。パルスの設定については特に限定しないが、ピーク電流が350乃至600A、ベース電流が30乃至100A、1ピーク(立上り開始〜ピーク定常期〜立下り終了)の期間で0.8乃至5ミリ秒が一般的に使われ、問題ない範囲である。また、パルスアーク溶接機では定電圧特性波形の溶接に比べて同一溶着量の場合電流値が1乃至2割ほど低下し、入熱も減少することから、溶接部の冷却速度が増大する。その結果、焼入れ性が高まり、Ms点の低下につながって残留応力の低減に対しても好ましい。
本発明は、以下の強度の鋼板と板厚に適用することがより効果的である。即ち、溶接金属の変態膨張で鋼材熱影響部に発生する残留応力を低減できる理由は、溶接金属が膨張する時に鋼材側に発生する応力も溶接金属への反力により圧縮応力になることによる。このため、より高い反力が期待できる高強度鋼板ほど疲労特性の改善も大きいと期待できる。鋼材強度が低い場合は、反力も低くならざるを得ず、変態終了後の熱収縮で再び引張応力状態に戻ってしまう危険があるためである。引張応力が残留してしまえば疲労強度改善は望めない。そのため、本発明では特に疲労強度向上が期待できる下限として、鋼板の母材強度が490MPa以上とした。なお、上限については特に限定する必要はない。現在一般に実用化されている薄鋼板の強度は1500MPa程度が最大であり、この程度までの鋼板であれば、本発明ワイヤで疲労強度の改善がはかれ、かつ継手引張強度の面でも溶接金属のオーバーマッチングが達成できる。
板厚が1mm未満であると、溶接時の入熱によって表・裏がほぼ均一に熱せられ、さらには溶融金属が裏側に達して裏波と呼ばれる状態になる。このような状態になると溶接金属がマルテンサイト変態時にほとんど自由に熱膨張してしまう。そのため、鋼材熱影響部側に反力が発生せず、疲労強度の改善効果は限定的になってしまう。一方、板厚が5mm超えると、拘束力が過剰になり、高強度な溶接金属となる性質をもつ本発明ワイヤでは低温割れが発生する可能性がある。また、すみ肉脚長が大きくなることによって必然的にのど厚も大きくなり、高温割れも発生しやすくなる。従って、板厚を1乃至5mmとする。
溶接ワークから図2に示す疲労試験片を採取し、両振平面曲げ疲労試験を行った。(周波数25Hz,正弦波応力) 200万回の時間強度を疲労強度として測定した。780MPa級鋼板のSP1の場合、200MPa以上を◎、170MPa以上200MPa未満を○、170MPa未満を×、490MPa級鋼板のSP2の場合、170MPa以上を◎、140MPa以上170MPa未満を○、140MPa未満を×とし、それぞれ×を疲労改善効果無しとして不合格とした。なお、ハンピングビードを発生した場合も、試験片は安定個所を探し、その場所から試験片を採取した。
溶接時のアーク安定性を○△×の3段階で官能評価した。良好な場合を○、多少スパッタが発生する場合を△、アークがふらついたり、大粒のスパッタが発生した場合を×とした。○、△を合格とし、×を実用に耐えないとして不合格とした。
すみ肉ビード形状を官能にて○△×の3段階で官能評価した。良好を○、若干なじみ性が劣る場合を△、オーバーラップ状の止端形状になるもの、溶接線方向のビード幅が不均一な場合を×とした。○、△を合格とし、×を実用に耐えないとして不合格とした。
溶接後の電着塗装工程でスラグの剥離によって塗装も剥離してしまう危険性を評価する為に、ビード上に生じたスラグの面積を○△×の3段階で官能評価した。ビード表面積に対しスラグ面積が10%未満を○、10%以上20%未満を△、20%以上を×とし、×を実用に耐えないとして不合格とした。
溶接部に割れの発生、ブローホール、ピットといった気孔欠陥、ビードが切れてしまうハンピング現象が発生した場合は全て不合格とした。
材料費や製造コストを織り込んだワイヤの価格として、最も一般的に薄板用に適用されている汎用ワイヤJIS・Z3312・YGW12に対するコスト比較で2倍以下を○、2倍超え3倍以下を△、3倍超えを×とし、×を実用に耐えないとして不合格とした。
2:ワイヤ
3:溶接部
Claims (5)
- 鋼製外皮にフラックスを充填してなるアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全体の成分組成が、ワイヤ全質量に対して、C:0.16乃至1.50質量%、Si:0.30乃至1.50質量%、Mn:0.50乃至5.00質量%、O:0.020質量%以上、及びN:0.0020乃至0.0400質量%を含有し、P:0.030質量%以下、S:0.030%質量以下、Ti:0.15質量%以下、Al:0.20質量%以下、F及びCa:各元素あたり0.100質量%以下、K、Na、及びLi:総量で0.200質量%以下、Mg:1.00質量%以下、REM(希少金属元素):0.50質量%以下、Ni、Cr、Nb、V、Mo及びCu:各元素あたり2.00質量%未満、B:0.0100質量以下%に規制し、残部はFe及び不可避不純物からなり、かつフラックス率が7乃至30質量%であることを特徴とするガスシールドアーク溶接フラックス入りワイヤ。
- ワイヤ全体の成分組成が、更に、ワイヤ全質量に対して、F及びCaからなる群から選択された少なくとも1種:各元素あたり0.005乃至0.100質量%、K、Na、及びLiからなる群から選択された少なくとも1種:総量で0.001乃至0.200質量%、Mg:0.05%乃至1.00質量%、REM(希少金属元素):0.01乃至0.50質量%、Ni、Cr、Nb、V、Mo、及びCuからなる群から選択された少なくとも1種:各元素あたり0.05質量%以上2.00質量%未満、又はB:0.0010乃至0.0100質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接フラックス入りワイヤ。
- 請求項1又は2に記載のワイヤを使用し、Arが96体積%以上、残部はCO2又はO2の混合ガスをシールドガスとして使用してMIGアーク溶接することを特徴とするMIGアーク溶接方法。
- 請求項1又は2に記載のワイヤを使用し、実質的に純Arガスをシールドガスとして使用してMIGアーク溶接することを特徴とするMIGアーク溶接方法。
- パルスアーク溶接機を使用することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のMIGアーク溶接方法。
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