JP3884355B2 - 鋼材のレーザ溶接接合体 - Google Patents

鋼材のレーザ溶接接合体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材同士をレーザ溶接して得られる溶接接合体に関するものであり、特に、溶接金属部に生ずるブローホールや低温割れといった欠陥が抑制され、かつ溶接金属部の特性にバラツキのない、鋼材の溶接接合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼材同士を溶接接合する方法として、各産業分野で汎用されているガスシールドアーク溶接法やサブマージアーク溶接法といったアーク溶接法や、電子ビームやレーザビーム等を用いた高エネルギー密度ビーム溶接法などが挙げられる。その中でもレーザ溶接法は、狭幅で深溶込みの溶接を高速で行うことができ、また、電子ビーム溶接法のように溶接雰囲気を真空とする必要もないので、産業機械、建設、造船等の幅広い分野で汎用されている。殊に近年では、高出力レーザ溶接機の開発により厚鋼板同士の溶接も可能となったため、適用分野は一層拡大していくものと期待される。
【0003】
しかし、レーザ溶接法の信頼性を高めるとともに、その適用分野を更に拡大していくには、以下の3つの課題を解決しなければならない。
【0004】
第1番目の課題として、レーザ溶接して形成される溶接金属部に、ブローホールといわれる気孔欠陥が発生しやすいことが挙げられる。レーザビームを用いて溶接を行う場合、被溶接材である金属がレーザビーム照射により蒸発し、該金属蒸気の蒸発反力と蒸気圧のバランスから「キーホール」とよばれる空洞が形成される。このキーホールは、溶接時には金属蒸気で満たされており、キーホール口から金属蒸気が外部に噴出しているが、このキーホールが、金属蒸気を含んだままで溶融金属中に取り残されたり、あるいは不安定な溶融池が形成されることに起因して大気やシールドガスを巻き込むことにより、上記ブローホールが形成されるのである。
【0005】
第2番目の課題として、レーザ溶接で形成された溶接金属部は、急冷されて硬化しやすく靭性に劣ることが挙げられる。その理由として、▲1▼溶接対象となる鋼材には、Cが、含有量に差はあるものの必須成分として含まれており、また、▲2▼レーザ溶接時に形成される溶融金属部分は非常に狭幅であり、該溶融金属の冷却速度は他の溶接法より非常に速いことから、これら▲1▼▲2▼の因子が相俟って、冷却時にマルテンサイト変態しやすく靭性が低下することから、低温割れが発生しやすいといった問題が生じ易い。
【0006】
また第3番目の課題として、レーザ溶接法では、例えば溶加材を供給しながら溶接を行う場合、溶加材と溶融金属が十分に攪拌されにくいので、形成される溶接金属部の成分組成が偏りがちとなり、溶接金属部の特性にバラツキを生じやすいことが挙げられる。
【0007】
レーザ溶接の実用化を進めるにあたっては、これらの課題を克服し、溶接金属部の特性に優れた溶接接合体を得ることが要求されている。また、溶接作業時にスパッタ等を発生させず、安定して効率よく溶接を行うことができるといった、優れた溶接作業性も確保することが望まれており、これまでにも、レーザ溶接法で形成された溶接金属部の欠陥防止や溶接金属部の靭性向上を目的として、数多くの研究がなされ、様々な方法が提案されている。
【0008】
まずブローホールの発生を防止する方法として、シールドガスの巻き込みに起因するブローホールの発生を防止すべく、レーザビームの波長を8.2μm以下に制御し、かつ、シールドガス中の窒素を体積比率で5%以上に制御することが提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
また、溶接金属部の靭性を向上させる方法として、形成される溶接金属部の組織を制御すべく、溶加材の成分組成を調整することが提案されており(例えば、特許文献2、特許文献3参照)、レーザ溶接の対象となる鋼板の成分組成と焼入れ臨界直径(Di値)を制御することも提案されている(特許文献4、特許文献5参照)。
【0010】
溶接金属部の靭性を向上させる別の方法として、レーザ溶接の対象となる鋼板の成分組成、金属組織に関するパラメータ(結晶粒径や、第2相組織の分率)および機械的特性(均一伸び、局所伸び)を制御することも提案されている(特許文献6参照)。
【0011】
溶加材を供給しながらレーザ溶接する方法は、溶接対象となる金属材料の化学成分や金属組織等に関係なく採用することができるので、その適用範囲は広く、レーザ溶接方法として望ましい。しかし該方法には、溶加材成分が溶融金属内で均一に混合され難いという問題があるので(非特許文献1参照)、溶接金属部の成分組成を均一にし、特性のバラツキの少ない溶接金属部を得るには更なる検討を要する。
【0012】
またその他のいずれの方法も、ブローホールや低温割れといった個々の問題は解決できるものの、溶接金属部のブローホールや低温割れを阻止しつつ、溶接金属部の特性バラツキも抑制し、安定して高品質の溶接接合体が得られるようなレーザ溶接技術は確立されていない。
【0013】
【特許文献1】
特開平9−314368号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平9−122957号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平6−670号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開平8−276286号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開平10−94890号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献6】
特開平11−293398号公報 (特許請求の範囲)
【0014】
【非特許文献1】
溶接学会 全国大会講演概要集 2002年 第70集 p.18〜19
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、レーザ溶接で鋼材同士を接合して得られる鋼材の溶接接合体であって、溶接金属部に生ずるブローホールや低温割れといった欠陥が抑制され、かつ溶接金属部の特性バラツキのない、鋼材の溶接接合体を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る鋼材の溶接接合体は、鋼材同士のレーザ溶接接合体であって、
溶接金属部の化学成分が、N:0.01%(質量%の意味、以下同じ)以上、S、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素:0.01〜0.5%、Si:0.7〜7%を満たし、かつ、溶接金属部の金属組織が、オーステナイトを面積率で30%以上含むところに特徴を有するものであり、前記溶接金属部が、更に、C:0.1〜1.2%、Mn:5〜40%を満たしているものを好ましい形態とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した様な状況の下で、溶接金属部に生じるブローホールや低温割れといった欠陥が抑制され、かつ溶接金属部の特性バラツキのない、鋼材の溶接接合体を得るべく、様々な角度から検討を行った。その結果、溶接金属部の化学成分と金属組織を制御すればよいこと、特に、
溶接金属部の化学成分として、
▲1▼Nを0.01%以上含有させること、
▲2▼S、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を、0.01〜0.5%含有させること、
▲3▼Siを0.7〜7%含有させること、がよく、
かつ、
▲4▼溶接金属部の金属組織が、オーステナイトを面積率で30%以上含むようにすること、が有効な手段であることを見出し、上記本発明に想到した。
【0018】
まず本発明で、上記▲1▼〜▲3▼に示す溶接金属部の化学成分を規定した理由を述べる。
【0019】
▲1▼溶接金属部のN量:0.01%以上
溶接金属部のN量が0.01%以上となるようにすることで、溶接金属部にブローホールが発生するのを確実に抑制することができ、溶接金属部の強度を確保できることがわかった。
【0020】
溶接金属部のN量を0.01%以上とすることで、ブローホール発生の抑制された溶接金属部が得られる理由は次のように考えられる。一般に、レーザ溶接では、シールドガスとしてヘリウム、アルゴンといった不活性ガスを使用して、大気中に含まれる酸素と溶融金属との反応を防止しているが、このシールドガス(不活性ガス)がキーホール内に捕捉されたのち溶融金属内に巻き込まれ、溶融金属が凝固するまで外部に排出されないまま残留すると、ブローホールが生ずると考えられている。
【0021】
これに対し、シールドガスとして窒素を使用すると、たとえ溶融金属内にシールドガス(窒素)が巻き込まれた場合であっても、上記不活性ガスの場合と異なり、窒素は溶融金属中に溶解するため、ブローホールが生じ難いのである。
【0022】
尚、アーク溶接では、一般に、窒素がブローホールの原因になりやすいため、溶接時に窒素が溶融金属と接触しないよう工夫されている。これは、アーク溶接での溶融金属の冷却速度がレーザ溶接の場合より遅く、冷却に伴う溶融金属のガス溶解度減少の影響を受けやすいので、溶融金属中に一旦溶解した窒素が、冷却時に再び気泡として放出され、ブローホールを形成するからである。
【0023】
これに対しレーザ溶接の場合には、溶接後の溶融金属の冷却速度がアーク溶接の場合より極めて速く、溶融金属中の窒素が、冷却途中で気泡として放出されることなく過飽和のまま凍結した状態で冷却されるため、ブローホールが形成されないのである。
【0024】
この様な溶接金属部を得るには、レーザ溶接時にシールドガスとして窒素を主成分とするガスを用いるとともに、溶融金属中に溶解した窒素を冷却過程で気泡として放出させないようにすることが重要である。
【0025】
溶融金属中に溶解した窒素を冷却過程で放出させないようにする具体的な方法としては、溶接後の冷却速度が小さくならないよう、例えば溶接時の予熱温度を高めすぎないことや、レーザ溶接時の入熱が過大とならないようレーザ出力を過度に高めないこと等が挙げられる。
【0026】
また、溶融金属へのNの溶解度を上昇させて、溶接金属中のN固溶量を増加させるには、MnやCrを溶融金属中に存在させることが望ましい。しかしCrは後述する通り、フェライト形成元素でもあるため、溶接金属部のオーステナイト確保の観点からは、過剰に含有させないことが望ましい。従って、これらの元素量を適宜調節して含有させることが推奨される。
【0027】
▲2▼溶接金属部のS、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも
1種の元素量:0.01〜0.5%
溶接金属部のS、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも1種を適量含有させることで、溶接金属部の特性バラツキが少ない溶接接合体が得られる。その機構は次の通りである。一般にレーザ溶接では、上述した通り、溶加材の成分が溶融金属中に均一に混合され難く、溶融金属内で成分組成に偏りが生じたまま凝固して、成分組成の不均一な溶接金属部が形成され、その結果、溶接金属部の特性にバラツキが生ずる。
【0028】
しかし、上記元素(S、Se、Te)を溶融金属中に存在させると、溶接時の溶融金属の表面張力が著しく低下する。この様に溶融金属の表面張力が低下すると、溶融金属が溶融池の下方へ流れようとする駆動力が働き、その結果、溶融金属が対流して溶加材の成分が十分攪拌・混合されるので、均一な成分組成の溶接金属が形成されるのである。
【0029】
この様な効果を有効に発揮させるには、形成される溶接金属部に含まれるS、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも1種が、0.01%以上となるようにする必要がある。好ましくは、0.02%以上、より好ましくは0.05%以上である。
【0030】
一方、上記元素が過剰に含まれると、溶接時にスパッタ発生量が著しく増大して溶接作業性が著しく劣化するので、上記元素は、0.5%以下に抑えるのがよく、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下である。
【0031】
尚、上記元素(S、Se、Te)と同族の元素であるO(酸素)も、同様の効果を発揮することが知られているが、効果の程度はSやSe、Teと比較して小さい。従って、O単独では、溶加材成分の十分な攪拌・混合を図ることは難しいが、SやSe、Teとともに含有させれば攪拌を促進させることが可能である。
【0032】
尚、S、Se、Teを上記含有量に制御する方法は、特に限定されるものでなく、例えばこれらの元素量を調整した溶加材を、ソリッドワイヤー(裸ワイヤー)やコアドワイヤ等といったワイヤーの形態で溶接時に供給する方法や、薄膜形状のものを、予め溶接材料間に挿入して溶接を行うといった方法を採用することができる。また、O(酸素)を添加する方法も特に限定されず、例えばシールドガス中に酸素源である酸素ガスやCO2ガス等を加えて供給する方法や、フラックスコアドワイヤ内に酸化物粉末等の態様で添加する方法などが挙げられる。
【0033】
▲3▼溶接金属部のSi:0.7〜7%
溶融金属を十分に攪拌させて、特性の均一な溶接金属部を得るには、溶融金属の流動性も高めることが重要である。この様に溶融金属の流動性を高めるべく、溶融金属の粘性を十分に低下させるには、Siを適量含有させた溶加材を用いて溶接を行うことが効果的であり、該効果を十分に発揮させるには、溶接金属部のSiが0.7%以上となるよう調整することが必要である。好ましくは溶接金属部のSiが1.0%以上となるよう調整するのがよい。
【0034】
一方、溶接金属部のSi量が過剰になると、鋼の靭性劣化を招き、溶接金属部に割れが生じ易くなるので、Si量は7%以下(好ましくは6%以下)に抑える必要がある。
【0035】
Siを上記含有量に制御する方法は、特に限定されるものでなく、上記S、Se、Teの場合と同様に、溶加材の成分を調整することなどが挙げられる。
【0036】
▲4▼また、溶接金属部の金属組織が、オーステナイトを面積率で30%以上(好ましくは面積率で70%以上、最も好ましくはオーステナイト組織のみからなる場合である)含むようにすることで、溶接金属部に低温割れや遅れ割れが生じにくくなり、靭性に優れた溶接接合体が得られることがわかった。
【0037】
この様な組織を得るには、溶接金属部の成分組成を調整することが特に有効であり、具体的には、溶加材として、オーステナイト形成元素であるC、Ni、Mn等を含有するもの(フェライト形成元素であるCr、Mo、Siも適量であればオーステナイト形成に有効に作用するので、これらの元素を併せて適量含有するものでもよい)を、ワイヤの形態で溶接時に連続的に供給したり、鋼材の開先面に薄膜形状のものを予め挿入して溶接を行うことなどが挙げられる。
【0038】
尚、本発明では、ブローホールの発生防止のため、溶接金属中に窒素を強制固溶しているが、Nは、Cと同様にオーステナイトの形成能力が高く、溶接金属部のN量を高めることでオーステナイト化も促進される。即ち、溶接金属中にNを大量に固溶させることが、ブローホールの発生を抑制するとともに、溶接金属部のオーステナイト形成を促進して低温割れの防止にも有効に働くのである。
【0039】
尚、本発明は、オーステナイト以外の残部組織を特に規定するものでなく、マルテンサイトやベイナイト等の組織が形成されていてもよい。
【0040】
本発明は、溶接金属部のその他の成分を規定するものではないが、溶接金属部の強度や靭性等を確保するには、例えば下記に示す様な成分を含み、残部が実質的にFeである組成とすることが推奨される。
【0041】
C:0.1〜1.2%
Cは、溶接金属部の強度を向上させ、またオーステナイト形成にも有効な元素であるので、0.1%以上(より好ましくは0.2%以上)含有させるのがよいが、C含有量が過剰になると、マルテンサイトを生成して靭性が低下するので1.2%以下(より好ましくは1.1%以下)に抑えることが好ましい。
【0042】
Mn:5〜40%
Mnもオーステナイト形成元素であり、また固溶強化、変態強化および結晶粒微細化強化等の作用によって、溶接金属部の強度と靭性の双方を向上させる効果も発揮するので、5%以上(より好ましくは7%以上)含有させることが望ましい。しかしMn含有量が過剰となっても、上記効果は飽和するだけであるので、40%以下(より好ましくは30%以下)に抑えることが好ましい。
【0043】
Ni:5〜15%
Niは、溶接金属部の靭性改善および強度向上に有効な元素であり、またオーステナイト形成元素でもあるので、5%以上含有させることが望ましい。しかし過剰になると、添加効果は飽和し経済的に無駄となるので、15%以下に留めておくことが望ましい。
【0044】
Cr:20%以下(0%を含む)
Crは溶接金属部の耐食性を向上させるのに有効であり、また、Nの溶解度を上昇させて、Nに起因するブローホールの形成を抑制するのに有効な元素である。しかし上述の通り、Crはフェライト形成元素であり、オーステナイトの形成が抑制されるおそれがあるので、20%以下の範囲内で含有させることが望ましい。
【0045】
本発明で溶接の対象となる鋼材は、特に限定されるものでなく、機械構造用炭素鋼材や合金鋼材(Ni−Cr鋼、Ni−Cr−Mo鋼、Cr鋼、Cr−Mo鋼、Mn鋼、Mn−Cr鋼など)を用いたり、圧延鋼材として、一般構造用圧延鋼材や、溶接構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材等を用いた溶接接合体が、本発明に含まれる。
【0046】
また本発明は、レーザ溶接接合体に関するものであり、溶接方法としてレーザ溶接法を採用するが、その具体的な方法は限定されず、熱源としてレーザを利用するものであればよく、例えば汎用されているCO2レーザ、YAGレーザ、半導体レーザ等を熱源としたレーザ溶接法を採用できる。
【0047】
また、溶接方法も特に限定されず、溶加材としてコアドワイヤやソリッドワイヤ等のワイヤを供給しながら溶接する方法や、予め鋼材の溶接接合面間に上記ワイヤと同成分を有する金属薄膜を挿入しておくか、該ワイヤを予め挿入しておき溶接する方法等が挙げられるが、これらの場合の詳細な条件まで規定するものでない。
【0048】
本発明にかかる溶接接合体としては、例えば産業機械や建築鉄骨の溶接仕口部、造船の溶接部等が挙げられる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
<実施例1>
鋼種がSM490(100mm×500mm×9mm)からなる2つの鋼片を突き合わせて、レーザ溶接試験を行った。レーザ溶接は、溶加材として表1に示すいずれかの成分組成のワイヤ(直径1.2mm)を供給しながら、下記条件および表2に示す条件で行った。
【0051】
<レーザ溶接条件>
・レーザ種類:YAG
・予 熱 :なし
・溶接速度 :1m/min
・出 力 :5kW
・シールドガス:窒素またはAr
・シールドガスの流量:20L/min
・溶加材供給速度:0〜4m/min
得られた溶接接合体の溶接金属部について以下の(a)〜(d)の測定を行った。
【0052】
(a)まず、溶接金属部のX線検査、断面検査および浸透探傷検査を行って、表面と内部のブローホールの有無、低温割れの有無を確認した。また、光学顕微鏡の観察結果から、溶接金属部に占めるオーステナイト組織の面積率を測定した。尚、ブローホールの有無は、ビード30mmあたりのブローホールの個数をX線で測定し、欠陥が25個以上認められたものを比較例とした。
【0053】
(b)溶接金属部の表層から切粉を採取して分析に供し、溶接金属部の化学成分量を求めた。
【0054】
(c)上記検査(a)で、ブローホールの個数が25個未満であり、また、低温割れが認められなかった試料を対象に、溶接金属部断面の硬度を測定し、硬度のバラツキを調べた。硬度のバラツキについては、図1に示すように溶接金属部断面の中央部を0.5mmピッチで硬度を測定(ビッカース硬度:荷重200g)し、最高値と最低値の差が300以内のものをバラツキがないと評価した。
【0055】
(d)また溶接作業性は、目視にてスパッタ、ヒュームの発生程度を観察して評価した。
【0056】
これらの結果を表2に併記する。
【0057】
【表1】
Figure 0003884355
【0058】
【表2】
Figure 0003884355
【0059】
表2から次の様に考察することができる。尚、以下のNo.は、表2の実験No.を示す。
【0060】
No.12〜14は、本発明で規定する要件を全て満たすものであり、得られた溶接接合体は、溶接金属部にブローホールや低温割れ、溶接金属部内部の硬度バラツキがみられず、均一に健全な特性を有するものが得られた。また溶接時にはスパッタが発生せず、溶接作業性にも優れていることを確認した。
【0061】
これに対し、No.1〜11は、本発明で規定する要件のいずれかを満足しないので、ブローホール、低温割れ、または溶接金属部の硬度バラツキが生じる結果となった。詳細には、No.1〜8では、SとSiの含有量がいずれも少ないワイヤ(A)を用いて溶接した際に、ワイヤの成分が十分に攪拌・混合されなかったので、形成された溶接金属部のS、Si量がともに少なく、溶接金属部の硬度にバラツキが生じる結果となった。
【0062】
またNo.1〜4では、シールドガスをArとし、溶接金属部のN量が規定範囲を下回った結果、ブローホールが発生した。更に、No.1および5では、ワイヤを供給せずに溶接を行い、C、Mn、Cr、Ni等の添加が不十分となったため、溶接金属部のオーステナイト量を十分確保することができず、低温割れが発生した。
【0063】
No.9〜11は、溶接金属部のS、Siが本発明の規定量を満たすようSとSiの含有量を調整したワイヤを用いて溶接を行ったので、溶接時にワイヤの成分が十分に混合されて、溶接金属部の硬度のバラツキは抑えられた。しかしNo.9〜11では、シールドガスとしてArを用いたため、溶接金属部に含まれるN量が規定範囲を下回り、ブローホールが発生する結果となった。
【0064】
またNo.9は、ワイヤの供給量が十分でなく、溶接金属部のオーステナイト量を十分確保できなかったので、低温割れが発生した。
【0065】
<実施例2>
鋼種がS45C(100mm×500mm×12mm)からなる2つの鋼片を突き合わせ、レーザ溶接試験を実施した。レーザ溶接は、下記条件および表3に示す条件で行った。シールドガスは、上記実施例1と異なり窒素のみを使用した。また、図2に示すように、溶加材として前記表1に示す成分組成Bの薄膜2を、母材1同士の突き合わせ面(開先面)に予め挿入して溶接を行った。
【0066】
得られた溶接接合体の溶接金属部の化学成分、オーステナイトの面積率、ブローホールの有無、低温割れの有無、および硬度のバラツキ、更には溶接作業性を、上記実施例1と同様にして調べた。これらの結果を前記表3に併記する。
【0067】
<レーザ溶接条件>
・レーザ種類:CO2
・溶接速度 :1.5m/min
・出 力 :6kW
・シールドガス:窒素
・シールドガスの流量:20L/min
【0068】
【表3】
Figure 0003884355
【0069】
表3より次のように考察することができる。尚、以下のNo.は表3の実験No.を示す。
【0070】
No.1および2は、本発明の要件を全て満たすものであり、溶接金属部のオーステナイト量を十分確保できたので、低温割れが発生しなかった。また溶融金属中に含まれるS、Si量も規定範囲を満たしており、溶接金属部の硬度に大きなバラツキは生じなかった。更に溶接作業性にも優れていることを確認した。
【0071】
尚、No.1および2では、予熱の有無により溶接後の冷却速度を変化させているが、No.2のように予熱を行った場合でも、予熱温度が低い場合には、高速冷却を実現でき、溶融金属中に溶解した窒素を過飽和状態のまま冷却することができるので、ブローホールが発生していないことがわかる。
【0072】
これに対し、No.3〜6は、本発明で規定するいずれかの要件を満たすものでないため、ブローホールまたは低温割れが生じた。詳細には、No.3および4は、溶接金属部のN量が少なく、ブローホールが生じる結果となった。No.3および4で、シールドガスとして窒素を用いたにもかかわらず、溶接金属部のN量が少なくなった理由として、予熱温度が高く溶接後の冷却速度が遅くなったため、溶融金属中に溶解していた窒素が、冷却過程で気泡として外部に排出されたことが考えられる。
【0073】
尚、No.3および4は、オーステナイト量が本発明の規定を満たすので、低温割れは発生せず、また、溶接金属部のS、Si量も本発明の要件を満たすので、溶接金属部の硬度にバラツキは生じなかった。
【0074】
No.5および6では、溶加材を供給せずに溶接を行った。No.5は、予熱しなかったため冷却速度を速めることができ、シールドガス成分であるNを、溶接金属部に固溶させてブローホールの発生を防止することができた。しかし、溶加材を供給せずに溶接したため、溶接金属部のオーステナイトが30%を下回ってマルテンサイト主体となり、低温割れが発生した。一方、No.6では、予熱温度が高すぎて冷却速度が遅くなったので、組織がマルテンサイトからベイナイトに変化し、所定のオーステナイト量を確保できなかったが低温割れは回避できた。しかし予熱温度が高いため、前記No.3やNo.4と同様に溶接金属中のN量を確保できなかったためブローホールが発生した。
【0075】
<実施例3>
鋼種がSM490(100mm×500mm×12mm)からなる2つの鋼片を突き合わせ、図3に示すように溶加材(ワイヤ)12を供給しながらレーザ溶接試験を行った。レーザ溶接は、下記条件および表4に示す条件で行った。
【0076】
<レーザ溶接条件>
・レーザ種類:CO2
・予 熱 :なし
・溶接速度 :1.5m/min
・出 力 :8kW
・シールドガス:窒素またはAr
・シールドガスの流量:20L/min
・溶加材供給速度:1〜4m/min
溶加材(ワイヤ)12として、下記成分組成の軟鋼製シースのコアドワイヤ(直径1.2mm)を製作し、該溶加材(ワイヤ)12を供給しながら溶接を行った。
【0077】
C :0.2〜1.3%、
Si:1〜9%、
Mn:10〜35%、
S :0.01〜0.8%、
Se:0.01〜0.8%、
Te:0.01〜0.8%を満たし、残部は実質的にFe。
【0078】
得られた溶接接合体の溶接金属部について下記(a)〜(d)の測定を行った。
【0079】
(a)まず、溶接金属部のX線検査、断面検査、および浸透探傷検査を行って表面および内部のブローホールの有無、低温割れの有無を確認した。また、光学顕微鏡の観察結果から、溶接金属部に占めるオーステナイト組織の面積率を測定した。尚、ブローホールは、ビード30mmあたりのブローホールの個数をX線で測定し、ブローホールの個数が25個以上認められたものを比較例とした。
【0080】
(b)溶接金属部から試験片を採取し、溶接金属部の化学成分を測定した。
【0081】
(c)上記検査(a)で、ブローホールの個数が25個未満であり、また、低温割れが認められなかった試料を対象に、溶接金属部断面の硬度を測定し、硬度のバラツキを調べた。硬度のバラツキについては、前記図1と同様に溶接金属部断面の中央部を0.5mmピッチで硬度を測定(ビッカース硬度:荷重200g)し、最高値と最低値の差が300以内のものをバラツキがないと評価した。
【0082】
(d)また溶接作業性は、目視にてスパッタ、ヒュームの発生程度を観察して評価した。
【0083】
これらの結果を前記表4に併記する。
【0084】
【表4】
Figure 0003884355
【0085】
表4より次のように考察することができる。尚、以下のNo.は表4の実験No.を示す。
【0086】
No.1〜3は、本発明の要件を全て満たすものであり、溶接金属部のオーステナイトを十分確保できたので、低温割れが発生しなかった。また溶接金属中に含まれるS、Se、Te、Si、N量も本発明での規定範囲を満たしており、溶接金属部の硬度に大きなバラツキはみられず、ブローホールの発生も抑えることができた。更に溶接作業性にも優れていることを確認した。
【0087】
これに対しNo.4〜10は、本発明で規定する要件のいずれかを満足しないものであるため、ブローホール、低温割れ、または溶接金属部内部の硬度バラツキが生じたり、溶接作業性に劣るなどの問題が生じている。
【0088】
即ち、No.4は、溶接金属部のオーステナイトが所定量に満たないため、靭性が劣化して低温割れが発生する結果となった。No.5は、シールドガスにArを用いているため、溶接金属部のN量が少なく、ブローホールが生じる結果となった。
【0089】
No.6および7は、S、Se、Teの合計量の多過ぎるワイヤを用いて溶接したため、溶接作業性が好ましくなく、溶接金属部のS、Se、Teの合計量が過剰のものが得られた。一方、No.8は、S、Se、Teの合計量の少なすぎるワイヤを用いて溶接したため、溶加材成分が均一に攪拌されず、その結果、溶接金属部のS、Se、Teの合計量が規定量に満たず、溶接金属部の特性にバラツキの生じる溶接接合体が得られた。
【0090】
No.9は、Si含有量の少なすぎるワイヤを用いて溶接を行ったものであり、ワイヤの成分が溶融金属内で十分に攪拌されず、溶接金属部の成分組成に偏りが生じたため、溶接金属部の特性にバラツキが生じた。またNo.10は、Si含有量の多すぎるワイヤを用いて溶接を行ったため、得られた溶接接合体の溶接金属部のSi量が多く、靭性が低下して低温割れが発生する結果となった。
【0091】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成されており、溶接金属部に生ずるブローホールや低温割れが抑制され、かつ、溶接金属部の特性バラツキのない、溶接接合部が均一に健全な特性を発揮する溶接接合体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】硬度測定箇所(溶接金属部断面)の一例を示した写真である。
【図2】実施例2で実施した溶接試験方法を模式的に示した図である。
【図3】実施例3で実施した溶接試験方法を模式的に示した図である。
【符号の説明】
1,11 母材(鋼材)
2 溶加材(薄膜)
3,13 レーザ取出しノズル
4,14 レーザビーム
15 溶接ビード
12 溶加材(ワイヤ)

Claims (1)

  1. 鋼材同士のレーザ溶接接合体であって、
    溶接金属部の化学成分が、
    N :0.01%(質量%の意味、以下同じ)以上、
    S、SeおよびTeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素:0.01〜0.5%、
    Si:0.7〜7%
    C :0.1〜1.2%、
    Mn:5〜40%を満たし、
    残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ、
    溶接金属部の金属組織が、オーステナイトを面積率で30%以上含むことを特徴とする鋼材のレーザ溶接接合体。
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