JP4213830B2 - レーザ溶接用鋼 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は造船、機械、建築、産業プラント、その他の鋼構造物に適用されるレーザ溶接性に優れた鋼板、鋼管、H型鋼などの鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年レーザ溶接機の高出力化に伴い、厚板においてもレーザ溶接の適用が可能となりつつある。しかしながら、レーザ溶接を用いて厚鋼板を溶接する場合、ア−ク溶接に比べてブローホールや凝固割れが発生しやすく、これに起因する溶接部の強度、靭性、疲労特性等の劣化が溶接施工上で大きな問題となる場合がある。従来、これを防止するために特開昭60−206589号公報に開示されているように、レーザ照射位置の制御などによる対策が考えられてきたが、板厚や、溶接条件の変更に伴い、毎回照射位置を最適化する必要があり実用的ではない。
【0003】
また、実際の溶接現場では表面のミルスケールを残したままでの溶接や、レーザ切断、プラズマ切断、ガス切断等、スケールが付着した切断面をそのままの状態で溶接する場合が多く、これらの場合には機械加工の様な清浄な金属面を溶接する場合に比べてブローホールや凝固割れの発生が一層顕著となる。
しかしながら、鋼構造物をレーザ溶接で組み立てる際、切断端面のスケールやミルスケールを除去するのは効率的、経済的観点から現実的ではなく、ミルスケールを残したままでの溶接や、レーザ切断、プラズマ切断、ガス切断等も切断面をそのままの状態で溶接しても、ブローホール及び凝固割れの発生を抑制できる技術が望まれている。
【0004】
これに対する技術としては、例えば特開平8−300002号公報に開示されているようにフィラーワイヤを用いて脱酸元素を溶接金属に供給する方法がある。しかし、この方法では、脱酸元素の供給は鋼板表面からしかなされないので、板厚が厚くなると板厚方向での均一な脱酸元素の分布が確保できないという問題が生じる。このため厚板のレーザ溶接においては必要な脱酸元素は鋼中に成分として含有されることが望ましい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の背景を鑑み、レーザ溶接部にスケールを含む場合でもブローホール及び凝固割れの発生を抑制しうる、レーザ溶接性に優れた構造用鋼を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明者らはブローホール及び凝固割れの発生とスケール厚さ、脱酸元素の添加量について研究を進めた結果、成分とミルスケールの許容厚さなどの諸関係を把握するに至り完成させたものであって、その要旨とするところは、
(1)重量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.0005〜1.0%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、ミルスケール厚が50μm以下であり、さらに下記の式(1)により規定されるXの値が0.4<X<1.5であることを特徴とするレーザ溶接用鋼。
X=0.88[%Al]+1.14[%Si] … (1)
【0007】
(2)重量%で、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜2.0%、Cu:0.01〜3.0%、Ni:0.01〜7.0%、Cr:0.01〜5.0%、B:0.0001〜0.01%の1種又は2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)に記載のレーザ溶接用鋼。
【0008】
(3)重量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.0005〜1.0%を含有し、さらに、Ti:0.001〜0.1%、Zr:0.001〜0.1%、Mg:0.0001〜0.02%、Ca:0.0001〜0.02%、REM:0.001〜0.3%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、ミルスケール厚が50μm以下であり、さらに下記の式(2)により規定されるYの値が0.4<Y<1.5であることを特徴とするレーザ溶接用鋼。
Y=0.88[%Al]+1.14[%Si]+0.67[%Ti]
+0.35[%Zr]+0.66[%Mg]+0.40[%Ca]
+0.30[%REM] … (2)
【0009】
(4)重量%で、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜1.0%、Mo:0.001〜2.0%、Cu:0.01〜3.0%、Ni:0.01〜7.0%、Cr:0.01〜5.0%、B:0.0001〜0.01%の1種又は2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(3)に記載のレーザ溶接用鋼にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
ここでは先ず、スケールの付着した切断端面やミルスケールを含む鋼材をレーザ溶接する場合に、ブローホールが発生するメカニズム及び、これを抑制するための手段を述べる。
スケ−ルの付着した端面や鋼板のミルスケールを含むレーザ溶接では、
(スケ−ルから持ち込まれる酸素)+(鋼中のC)→COガス
が発生し、これにより溶接金属にブロ−ホ−ルが発生する。従って、この酸素を脱酸元素で固定し、COガスが発生しないようにすることがブローホールを抑制する上で重要であり、そのための必要且つ十分な条件が式(1)及び式(2)により規定されたX及びYの値が、0.4<X<1.5、0.4<Y<1.5である式(1)、式(2)に用いた各元素の係数及び、XとYの上限値、下限値は実験により決定した。
【0011】
以下にその実験内容を説明する。
まず最初に種々の切断端面スケールとミルスケールに関して、その厚みを調査した。その結果、ミルスケールの最大厚は58μm、最小厚は5μmであった。一方、切断端面のスケールに関しては、レーザ切断面が約5μm、プラズマ切断面が約15μmであり、ガス切断面が約25μmであった。切断端面のスケール厚は切断方法で主に決定され、試験片毎の差異は認められなかった。これらのスケールはX線回折を行った結果、Fe2 3 、Fe3 4 、FeOで構成されており、全て溶接金属に酸素を持ち込むことが確認された。
【0012】
ここで、脱酸元素の添加量のみを考慮する場合には、調査された中で最大のスケール厚である58μmまで考慮するべきであるが、後述するようにミルスケールが50μmを越える場合には溶接金属に凝固割れが多発する場合が生じるので、以下の議論ではミルスケールは50μmまでを検討している。
つまり、式(1)及び式(2)で規定されるX、Yの下限値は図1に示すように、厚さ49μmの鋼板ミルスケール1と厚さ25μmのガス切断端面2により形成されるL字角継手のレーザ溶接で決定された。また、上限値は図2に示すように、厚さ5μmの端面スケールを持つレーザ切断端面3同士の突合わせ継手をレーザ溶接して決定した。
【0013】
実験結果の一例を図3及び図4に示す。図3で検討した成分は重量%で、0.08%C−Si−1.3%Mn−0.01%P−0.005%S−0.5%Mo−Alであり、図4で検討した成分系は重量%で、0.08%C−Si−1.3%Mn−0.01%P−0.005%S−0.5%Mo−Al−Ti−Zr−Mg−Ca−REMであるが、これ以外の成分系でもスケール厚に差がなければ同等の結果が得られている。これよりX及びYの値が0.4重量%未満の場合には、脱酸元素不足で酸素が固定できないため、ブローホールが発生することが確認された。また、1.5重量%を越える場合にはレーザ溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損ない、逆にブローホールが増加することを確認した。従って式(1)及び式(2)で規定されるX、Yの値は0.4重量%超、1.5重量%未満とした。
【0014】
次に、凝固割れ発生のメカニズムとその抑制方法について述べる。レーザ溶接に関して種々の溶接金属を調査した結果、凝固割れは溶接金属の溶け込み形状に大きく依存することが確認され、この凝固形状を決定する因子はスケール厚であることを知見した。
ここでいうスケール厚とはレーザビームの貫通方向に平行に存在するスケール厚の合計値であり、例えば図1の様なL字型角継ぎ手の場合には74μm(25μm+49μm)となる。種々の切断端面を実験した結果、この合計値が75μmを越えると溶接金属に凝固割れが多発することを知見した。この合計値が75μmを越えるのは、図1に示すようにガス切断端面2と鋼材ミルスケール1と組み合わせるL字型角継ぎ手の場合である。
【0015】
前述したようにガス切断端面のスケール厚は約25μmで一定なので、鋼材ミルスケールが50μm以上の場合に凝固割れが多発するようになる。実験結果の一例を図5及び図6に示すが、ミルスケール厚が50μm超の場合には溶込み形状が中膨れとなり、これにより凝固割れが多発している。尚、図5及び図6で検討した成分系は、重量%で0.08%C−0.4%Si−1.3%Mn−0.01%P−0.005%S−0.5%Mo−0.05%Alであるが、これ以外の成分系でもスケール厚に差がなければ同等の結果が得られている。従って鋼板のミルスケール厚は50μm以下と規定した。
【0016】
次に、請求項で規定した各元素に関して、その規定理由を説明する。
C:0.01重量%未満の極低C量では強度が不足し、また溶接金属においても凝固割れが発生する。逆に、0.20重量%超のCでは溶接熱影響部及び溶接金属の靭性が低下する。よって、Cは0.01重量%以上、0.20重量%以下としたが、特にCOガス発生を抑制する観点からはC量は低い方が好ましい。
Si:Siは脱酸剤及び強化元素として添加されるが、0.01重量%未満ではその効果が十分ではなく、一方、1.5%超では圧延時にスケール起因の傷を多発するようになる。よって、Siは0.01重量%以上、1.5重量%以下とした。
【0017】
Mn:Mnは鋼板の強度を向上する有用な元素であるが0.2重量%未満ではその効果が無く、逆に2.0重量%超の添加は逆にブローホールの発生を助長することを知見し、Mnは0.2重量%以上、2.0重量%以下とした。
P及びS:P及びSの過剰な添加は鋼板及び熱影響部の靭性を劣化させるので、0.02重量%以下とした。
Al:Alは脱酸剤として重要な元素であるが、0.0005重量%未満にすることは製鋼上の負荷が高く現実的ではない。一方、1.0%超では鋼板の衝撃靭性が劣化する。よって、Alの添加量は0.0005重量%以上1.0重量%以下とした。
【0018】
Nb:NbはTMCPプロセスにおいて、鋼板のミクロ組織制御に重要な元素であるが、0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に過剰な添加は鋼板の靭性を損ねる。よって、Nbの添加量は0.001重量%以上、0.1重量%以下とした。
V:VはTMCPプロセスにおいて、鋼板のミクロ組織制御に重要な元素であり、また耐熱鋼においては高温強度の確保にも必要な元素であるが、0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に過剰な添加は靭性を損ねる。従って、Vの添加量は0.001重量%以上、1.0重量%以下とした。
【0019】
Mo:Moは溶接後熱処理(PWHT)脆化を抑制する元素であり、Mnの代替として添加できるが、0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に2.0重量%超では鋼板の靭性が低下する。よって、Moの添加量は0.001重量%以上、2.0重量%以下とした。
Cu:Cuは強度補償のためにMnの代替元素として添加することができる。但しその添加量は0.01重量%未満ではその効果が十分でなく、逆に3.0%超の場合には溶接金属に凝固割れが発生する。従って、Cuの添加量は0.01重量%以上、3.0重量%以下とした。
【0020】
Ni:Niは鋼板の低温靭性を向上させる代表的な元素であるが、0.01重量%未満ではその効果が十分でなく、逆に7.0重量%超では溶接金属に凝固割れを生じる。よってNiの添加量は0.01重量%以上、7.0重量%以下とした。
Cr:Crは強度向上元素として添加することができる。また、耐熱用鋼においては高温強度の確保にも必要な元素であるが、0.01重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に5.0重量%超の添加は鋼板の靭性を損ねる。従って、Crの添加量は0.01重量%以上、5.0重量%以下とした。
【0021】
B:Bも強度向上元素として添加することができるが、0.0001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.01重量%超の添加は鋼板の靭性を低下させる。従って、Bの添加量は0.0001重量%以上、0.01重量%以下とした。
Ti:Tiも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.1重量%超では鋼板の靭性が低下する。よって、Tiの添加量は0.001重量%以上、0.1重量%以下とした。
【0022】
Zr:Zrも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.1重量%超では鋼板の靭性が低下する。よって、Zrの添加量は0.001重量%以上、0.1重量%以下とした。
Mg:Mgも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.0001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.02重量%超の添加はレーザ溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、Mgの添加量は0.0001重量%以上、0.02重量%以下とした。
【0023】
Ca:Caも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.0001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.02重量%超の添加はレーザ溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、Caの添加量は0.0001重量%以上、0.02重量%以下とした。
REM:REMも脱酸元素として作用するので、添加しても差し支えない。但し0.001重量%未満ではその効果が十分ではなく、逆に0.3重量%超の添加はレーザ溶接時にキーホール内で発生するプラズマの安定性を損なう。よって、REMの添加量は0.001重量%以上、0.3重量%以下とした。
【0024】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明の効果を説明する。
実験に用いた鋼は転炉で溶製し、連続鋳造により250mm厚のスラブとした。各鋼種の成分を表1に示す。これらのスラブを熱間圧延で、厚さ6mm、9mm、15mm、20mmの鋼板とした。この際に圧延温度とデスケーリングの条件を変化させることで、鋼板ミルスケールの厚みを5μmから60μmまで変化させた。
【0025】
【表1】
Figure 0004213830
【0026】
これらの鋼板を6kWのレーザ切断機で酸素ガスを用いて切断し、レーザ切断面を端面に持つ供試鋼板を作成した。以上の鋼板をI型突合わせ及びL字型角継ぎ手の2種類の形状でレーザ溶接を実施した。溶接姿勢は6mm厚と9mm厚に関しては下向き、15mm厚と20mm厚に関しては横向きで溶接した。溶接条件を表2に示す。溶接後の鋼板には表3の試験を実施し、その結果を表4〜表6に示す。表4〜表6の中で、シャルピー試験の吸収エネルギは各鋼板における最低値を記してある。以上の結果より、本発明の鋼板は全ての検査において合格したが、比較例として検討した鋼板は不合格であった。
【0027】
【表2】
Figure 0004213830
【0028】
【表3】
Figure 0004213830
【0029】
【表4】
Figure 0004213830
【0030】
【表5】
Figure 0004213830
【0031】
【表6】
Figure 0004213830
【0032】
【発明の効果】
以上に示したように、本発明の鋼材を用いれば鋼板のミルスケールやスケールが付着した切断端面等をそのまま溶接しても、健全な溶接部と十分な機械的特性が確保されるので、そのメリットは多大であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーザ溶接形状の一例を示す図である。
【図2】レーザ溶接形状の一例を示す図である。
【図3】値Xのブローホール個数に与える影響を示す図である。
【図4】値Yブローホール個数に与える影響を示す図である。
【図5】スケール厚さと割れの関係を示した図である。
【図6】スケール厚さによる溶け込み形状を比較して示した写真の模式図である。
【符号の説明】
1 ミルスケール
2 ガス切断端面
3 レーザ切断端面

Claims (4)

  1. 重量%で、
    C:0.01〜0.20%、
    Si:0.01〜1.5%、
    Mn:0.2〜2.0%、
    P:0.02%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.0005〜1.0%
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、ミルスケール厚が50μm以下であり、さらに下記の式(1)に規定されるXの値が0.4<X<1.5であることを特徴とするレーザ溶接用鋼。
    X=0.88[%Al]+1.14[%Si] … (1)
  2. 重量%で、
    Nb:0.001〜0.1%、
    V:0.001〜1.0%、
    Mo:0.001〜2.0%、
    Cu:0.01〜3.0%、
    Ni:0.01〜7.0%、
    Cr:0.01〜5.0%、
    B:0.0001%〜0.01%
    の1種又は2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接用鋼。
  3. 重量%で、
    C:0.01〜0.20%、
    Si:0.01〜1.5%、
    Mn:0.2〜2.0%、
    P:0.02%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.0005〜1.0%を含有し、
    さらに、Ti:0.001〜0.1%、
    Zr:0.001〜0.1%、
    Mg:0.0001〜0.02%、
    Ca:0.0001〜0.02%、
    REM:0.001〜0.3%
    の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、且つ、ミルスケール厚が50μm以下であり、さらに下記の式(2)により規定されるYの値が0.4<Y<1.5であることを特徴とするレーザ溶接用鋼。
    Y=0.88[%Al]+1.14[%Si]+0.67[%Ti]
    +0.35[%Zr]+0.66[%Mg]+0.40[%Ca]
    +0.30[%REM] … (2)
  4. 重量%で、
    Nb:0.001%〜0.1%、
    V:0.001%〜1.0%、
    Mo:0.001%〜2.0%、
    Cu:0.01% 〜3.0%、
    Ni:0.01% 〜7.0%、
    Cr:0.01% 〜5.0%、
    B:0.0001%〜0.01%
    の1種又は2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項3に記載のレーザ溶接用鋼。
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