JP7477763B2 - 低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法及びこれにより得られた溶接継手 - Google Patents

低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法及びこれにより得られた溶接継手 Download PDF

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本発明は、低温用Ni鋼を用いて溶接継手を製造する方法及びこれにより得られた溶接継手に関する。
液化温度が-162℃である液化天然ガス(LNG)は、クリーンなエネルギーとして知られており、環境問題への取り組みなどから、その需要は益々増加する傾向にある。このようなLNGを蓄える貯蔵タンクには、一般に、極低温での靱性を確保するために、6~9%程度のNiが添加された低温用Ni鋼が用いられる。液化石油ガス(LPG)を輸送するタンカー等においても、同様に低温用Ni鋼が使用されている。
この低温用Ni鋼の溶接では、極低温での溶接金属の強度と靱性確保のために、溶接材料としては、一般に、Niを60%程度含有したNi基合金(高Ni合金)が用いられている(例えば特許文献1参照)。このような溶接材料の使用については、Ni量が高いNi基合金はオーステナイト組織を有して、これが極低温において安定であり、脆性破壊を起こし難いためである。
ところが、上記のような高Ni合金の溶接材料では、多量のNi添加に伴い高温割れ感受性が高くなってしまうことから、溶接時の入熱を制御する必要がある。一方で、溶接入熱を低減すると、溶接効率が落ちるため、所定の溶接継手を得るための溶接回数(溶接パス数)が必然的に増えてしまう。すると、溶接熱源による再熱の影響を受けた溶接熱影響部(HAZ)が形成されやすくなるため、この再熱の影響を受けた再熱HAZは焼き戻し脆化が生じて低温靱性が低下してしまうおそれがある。
特開2015-123457号公報
上述したように、低温用Ni鋼の溶接では、溶接材料として高Ni合金を用いることで、脆性破壊が生じ難い溶接継手を製造するのが一般的である。ところが、それによって溶接効率を思うように上げられない点が問題にもなり、それに伴い、溶接パス数が増えることで、溶接熱源による再熱の影響を受けた再熱HAZの存在により低温靱性を低下させるおそれがある。加えて、本来であれば、仮に、き裂(亀裂)が発生した場合でも、比較的柔らかい溶接金属側にき裂を進展させて、大規模な脆性破壊を防ぐことができるところ、このような再熱HAZの存在によって、それを抑えることが難しくなることも考えられる。
そこで、本発明者らは、低温用Ni鋼の溶接効率を改善すると共に、上記のような再熱HAZの存在による低温靱性の低下の問題を解消でき、更には、非常時における溶接金属側への確実なき裂の進展をもたらすことができる手段について鋭意検討した結果、従来のように溶接材料として高Ni合金を用いながら、レーザビームを照射して溶融させながら通電加熱した溶接ワイヤを供給するホットワイヤ・レーザ複合溶接を採用して、低温用Ni鋼の溶接を行うことで、これらの問題をすべて解決することができるようになることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明の目的は、低温用Ni鋼の溶接において、その溶接効率を改善しながら、再熱HAZの存在による低温靱性の低下の問題を解消でき、しかも、大規模な脆性破壊をより確実に防ぐことができる溶接継手の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、再熱HAZの存在による低温靱性の低下や大規模な脆性破壊をより確実に防ぐことができる低温用Ni鋼の溶接継手を提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)レーザビームを照射して母材を溶融させながら、通電加熱した溶接ワイヤを供給して溶接継手を得るホットワイヤ・レーザ複合溶接により溶接継手を製造する方法であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.03~0.10%、
Si:0.01~0.5%、
Mn:0.3~1.5%、
Ni:5.0~10.0%、
P:0.015%以下、
S:0.003%以下、
Al:0.005~0.08%、
B:0.001%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、
V:0.010%以下、
N:0.010%以下、
O:0.005%以下、
Cu:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
残部:Fe及び不純物;
である低温用Ni鋼を母材として、該溶接継手を構成する溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線における旧オーステナイトの最大粒径が400μm以下である溶接継手を得ることを特徴とする、低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
(2)該溶接継手を構成する溶接金属の硬さがHv240~150であり、かつ、前記溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線から母材側に10mmまでの溶接熱影響部の最高硬さがHv270以上である溶接継手を得ることを特徴とする、(1)に記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
(3)該溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wが、母材である前記低温用Ni鋼の板厚Tに対してW≦0.8Tの関係を満たす、(1)又は(2)に記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
(4)前記低温用Ni鋼の板厚が5~60mmであり、1パス溶接により溶接継手を得る、(1)~(3)のいずれかに記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
(5)前記ホットワイヤ・レーザ複合溶接におけるエネルギー密度を300W/mm以下にする、(1)~(4)のいずれかに記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
(6)低温用Ni鋼を母材とする溶接継手であって、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.03~0.10%、
Si:0.01~0.5%、
Mn:0.3~1.5%、
Ni:5.0~10.0%、
P:0.015%以下、
S:0.003%以下、
Al:0.005~0.08%、
B:0.001%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、
V:0.010%以下、
N:0.010%以下、
O:0.005%以下、
Cu:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
残部:Fe及び不純物;
であり、
該溶接継手を構成する溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線における旧オーステナイトの最大粒径が400μm以下であることを特徴とする、低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
(7)該溶接継手を構成する溶接金属の硬さがHv240~150であり、かつ、前記溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線から母材側に10mmまでの溶接熱影響部の最高硬さがHv270以上である、(6)に記載の低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
(8)該溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wが、母材である前記低温用Ni鋼の板厚Tに対してW≦0.8Tの関係を満たす、(6)又は(7)に記載の低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
(9)前記低温用Ni鋼の板厚が5~60mmであり、1パス溶接による溶接継手である、(6)~(8)のいずれかに記載の低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
本発明によれば、低温用Ni鋼の溶接において、その溶接効率を改善しながら、再熱HAZの存在による低温靱性の低下を防ぐことができる。加えて、本発明によれば、大規模な脆性破壊をより確実に防ぐことができる溶接継手が得られるようになる。
以下、本発明について詳しく説明する。
先ず、本発明における溶接継手の製造方法では、溶接手段として、レーザビームを照射して母材を溶融させながら、通電加熱した溶接ワイヤを供給して溶接継手を得るホットワイヤ・レーザ複合溶接を採用する。このホットワイヤ・レーザ複合溶接は、溶接ワイヤを溶融温度付近まで加熱して挿入するホットワイヤシステムとレーザ熱源を組み合わせた溶接法であり、レーザ熱源をホットワイヤシステムと併用することで、開先精度に対する裕度が小さく、しかも、継手の特性に対する母材成分の影響が大きいといったレーザ熱源を利用したレーザ溶接の短所を補いつつ、ホットワイヤから供給される溶着金属が融点直下まで加熱されることから、エネルギー密度の低いレーザビームの照射でも、十分な溶融金属を形成することができる。
つまり、このようなホットワイヤ・レーザ複合溶接の特徴が、高Ni合金からなる溶接材料を用いた低温用Ni鋼の溶接において有利に作用し、溶接時の入熱をある程度制御しながらも、溶接パス数を減らして溶接継手を得ることができ、好適には1パス溶接も可能である。そのため、溶接熱源による再熱の影響を受けた再熱HAZの形成を防いで、再熱HAZによる低温靱性の低下を抑制することができ、しかも、非常時における溶接金属側への確実なき裂の進展をもたらすことができるようになる。
このホットワイヤ・レーザ複合溶接については、レーザビームを照射して母材を溶融すると共に、母材との間で溶接ワイヤに通電してホットワイヤとし、この通電加熱した溶接ワイヤを母材の溶融部分に供給して、溶融した母材と溶接ワイヤからなる溶融プールを形成しながらレーザビームを移動させて、溶接継手を得るようにすればよく、公知の方法と同様にすることができる。また、溶接継手の種類としては特に制限はなく、例えば、開先溶接やすみ肉溶接のほか、せん溶接やスロット溶接等を挙げることができる。その際、溶接熱影響部における旧オーステナイトの最大粒の抑制のためには、エネルギー密度を300W/mm以下に制御する。ここで、エネルギー密度とはレーザ溶接における出力(kW)を溶接時のスポット面積(mm)で割った値である。スポットの形状は円形、矩形等を用いたが、形状によらずエネルギー密度にて制御可能である。
また、本発明における溶接継手の製造方法では、所定の化学組成を有する低温用Ni鋼を母材として用いる。低温用Ni鋼の化学組成を特定する理由については、以下に説明するとおりである。なお、これらの説明における「%」は、特に断りがない限り「質量%」を表す。
(C:0.03~0.10%)
Cは、強度確保の観点から0.03%以上含有させる必要がある。しかしながら、含有量が多くなり過ぎると靱性の低下をきたすことから、その上限は0.10%とする。好ましくは、Cの含有量は0.04%以上0.07%以下であるのがよい。
(Si:0.01~0.5%)
Siは脱酸作用を有するほか、強度を向上させる元素であり0.01%以上の含有量が必要である。しかしながら、その含有量が多過ぎると溶接継手靱性などの低下をきたすため、その上限は0.50%であり、好ましくは0.03~0.3%である。
(Mn:0.3~1.5%)
Mnは、強度及び靱性を向上させる元素であり、0.3%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が多過ぎると母材およびHAZ分の靱性劣化をきたすことから、その上限は1.5%である。好ましくは0.4~1.2%である。
(Ni:5.0~10.0%)
Niは、強度及び靱性を同時に向上させる作用を有し、低温の液体を貯蔵するためのタンク、なかでも-165℃という極低温のLNGを貯蔵するLNGタンクを製造するための母材に欠かせない元素であり、5.0%以上の含有量が必要である。しかしながら、10.0%を超えて含有させても、その効果は飽和してコストが嵩むばかりである。好ましくは5.5~9.5%である。
(P:0.015%以下)
Pは、鋼に不可避的に含有される不純物元素であり、粒界偏析元素であるためにHAZにおける粒界割れの原因となる。母材の靱性を向上させると共に、溶接金属及びHAZの靱性を向上させ、更には、スラブ中心偏析を低減させるために、Pの含有量は0.015%以下にする。好ましくは0.014%、0.013%、0.012%、0.011%および0.010%以下である。Pの含有量は0であってもよいが、過度な低減はコストの増加を招くことなどから、0.003%以上とするのが好ましい。なお、Pは鉄鋼材料の製造において不可避的に混入される点で、後述する残部としての不純物と同じであるが、Pは、上記のとおり溶接金属やHAZの靭性向上の観点から、その含有量を別途規定している。
(S:0.003%以下)
Sは、多量に存在する場合、溶接割れ起点となるMnS単体の析出物を生成する。そのため、Sの含有量は0.003%以下にする必要がある。好ましくは0.002%以下である。Sの含有量は0であってもよいが、過度な低減はコストの増加を招くことなどから、0.0002%以上とするのが好ましい。なお、Sは鉄鋼材料の製造において不可避的に混入される点で、後述する残部としての不純物と同じであるが、Sは、上記のとおり溶接割れ抑制の観点から、その含有量を別途規定している。
(Al:0.005~0.08%)
Alは脱酸元素であり、鋼の清浄性を確保するために0.005%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が多過ぎると、粗大なAlを生成したり、溶接継手のCTOD(Crack Tip Opening Displacement)特性が低下するため、その上限は0.08%である。好ましくは0.01~0.05%である。
(B:0.001%以下)
Bは、強度を高める作用を有する。すなわち、Bは粒界に偏析して強度改善効果を有する。しかしながら、Bの含有量が0.001%を超えると、靱性が損なわれる。好ましくは0.0005%以下である。Bの含有量は0であってもよいが、上記の作用を発現させるためには0.0003%以上とするのがよい。
(Ti:0.010%以下)
Tiは、炭窒化物の形成を通じて破壊の起点増加による靱性劣化を招くため、0.010%以下に抑制する必要がある。好ましくは0.005%以下である。Tiの含有量は0であってもよいが、Tiは炭窒化物を形成し組織細粒化に寄与することから、このような作用を発現させるためには0.003%以上とするのがよい。
(Nb:0.010%以下)
Nbは、炭窒化物の形成を通じて破壊の起点増加による靱性劣化を招くため、0.010%以下に抑制する必要がある。好ましくは0.005%以下である。Nbの含有量は0であってもよいが、Nbは炭窒化物を形成し組織細粒化に寄与することから、このような作用を発現させるためには0.003%以上とするのがよい。
(V:0.010%以下)
Vは、炭窒化物の形成を通じて破壊の起点増加による靱性劣化を招くため、0.010%以下に抑制する必要がある。好ましくは0.005%以下である。Vの含有量は0であってもよいが、Vは炭窒化物を形成し組織細粒化に寄与することから、このような作用を発現させるためには0.005%以上とするのがよい。
(N:0.010%以下)
Nは不可避的不純物として混入する元素であり、靱性劣化を招く場合があるため0.010%以下に低減する。好ましくは0.009、0.008、0.007および0.006%以下である。Nの含有量は0であってもよいが、過度な低減はコストの増加を招くことなどから、0.002%以上とするのが好ましい。なお、Nは鉄鋼材料の製造において不可避的に混入される点で、後述する残部としての不純物と同じであるが、Nは、上記のとおり靱性劣化抑制の観点から、その含有量を別途規定している。
(O:0.005%以下)
Oは、酸化物の形成を通じて靱性劣化を招くため、0.005%以下とする必要がある。好ましくは0.003%以下である。Oの含有量は0であってもよいが、過度な低減はコストの増加を招くことなどから、0.001%以上とするのが好ましい。なお、Oは鉄鋼材料の製造において不可避的に混入される点で、後述する残部としての不純物と同じであるが、Oは、上記のとおり靱性劣化抑制の観点から、その含有量を別途規定している。
(Cu:1.0%以下)
Cuは、強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が1.0%を超えると、強度が過剰となり低温靭性が損なわれる。好ましくは0.5%以下である。Cuの含有量は0であってもよいが、上記の作用を発現させるためには0.02%以上とするのがよい。
(Cr:1.0%以下)
Crは、強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が1.0%を超えると、強度が過剰となり低温靭性のように溶接性が損なわれる。好ましくは0.8%以下である。Crの含有量は0であってもよいが、上記の作用を発現させるためには0.02%以上とするのがよい。
(Mo:1.0%以下)
Moは、強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が1.0%を超えると、強度が過剰となり低温靭性のように溶接性が損なわれる。好ましくは0.5%以下である。Moの含有量は0であってもよいが、上記の作用を発現させるためには0.02%以上とするのがよい。
上記成分の残部は、鉄(Fe)及び不純物である。ここで、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
そして、本発明においては、溶接熱影響部(HAZ)での靭性を確保する観点から、溶接継手を構成する溶接金属と母材である低温用Ni鋼との境界の溶融境界線(FL)における旧オーステナイトの最大粒径が400μm以下、好ましくはこの最大粒径が350μm以下、より好ましくは300μm以下であるようにする。なお、HAZにおいては融点近傍の熱履歴が付与されることなどから、この旧オーステナイトの最大粒径の下限値は実質的には40μmであると言える。
また、本発明においては、溶接継手を構成する溶接金属の硬さが、好ましくはHv240~150、より好ましくはHv230~160であるのがよく、また、母材である低温用Ni鋼と溶接金属との境界の溶融境界線(FL)から母材側に10mmまでの溶接熱影響部(HAZ)での最高硬さが、好ましくはHv270以上、より好ましくはHv280以上の溶接継手を得るようにするのがよい。このように溶接金属の硬さをHv240~150として比較的柔らかくしながら、溶融境界線(FL)から母材側に10mmまでの溶接熱影響部における最高硬さをHv270以上として硬くすることで、溶接熱影響部での靭性が確保される上に、仮に、き裂が発生した場合でも、き裂は溶接金属側に進展して停止するため、き裂が貫通することなく、継手が破壊には至らずに安全である。更に、HAZ硬さを高くすることで、塑性拘束の強化を通じて、溶金硬さが低い場合にも溶接継手の強度上昇を可能とする。なお、溶融境界線(FL)から母材側に10mmまでの溶接熱影響部における最高硬さについては、HAZ硬さの上昇による低温割れの危険性等を考慮すると、Hv400以下に抑制するのが望ましい。
ここで、上述したように溶接熱影響部における旧オーステナイトの最大粒を抑制するためや、溶接熱影響部における最高硬さをHv270以上にするためには、ホットワイヤ・レーザ複合溶接を採用すればよい。一方で、溶接継手を構成する溶接金属の硬さをHv240~150にするには、後述するような、高Ni合金の溶接材料からなる溶接ワイヤを用いるようにするのがよい。
すなわち、ホットワイヤ・レーザ複合溶接では、エレクトロガス溶接やエレクトロスラグ溶接と言った他の高効率溶接法に比べて溶接入熱を低減することができ、エネルギー密度の低いレーザビームの照射でも、十分な溶融金属を形成することができることから、高Ni合金を用いても高温割れを招くおそれがなく、溶接パス数をできるだけ減らして、溶接熱影響部(HAZ)の再熱による影響を最小限に抑えることができる。なお、溶接継手におけるこれらの部位の硬さは、JIS Z2244:2009に記載のビッカース硬さ試験の試験方法に準拠し、各部位での測定方法や手順は後述の実施例に示したとおりである。また、旧オーステナイトの最大粒径の測定方法等に関しても同様である。
本発明においては、ホットワイヤ・レーザ複合溶接を採用することで、エネルギー密度の低いレーザビームの照射でも、十分な溶融金属を形成することができることから、板厚Tが5~60mm、好ましくは12~50mmの低温用Ni鋼に対して、1パス溶接により溶接継手を得るようにするのが望ましい。また、一般に、継手強度は塑性拘束効果により向上させることができることから、溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wが、母材である低温用Ni鋼の板厚Tに対してW≦0.8Tの関係を満たすようにするのが望ましい。
また、溶接継手を得る際に用いる溶接材料については、ホットワイヤ・レーザ複合溶接において通電加熱しながら供給する溶接ワイヤとして用いることができるものであればよく、好ましくは、一般に、低温用Ni鋼の溶接で用いられるような高Ni合金の溶接材料であるのがよい。すなわち、Ni量が高いNi合金はオーステナイト組織を有して、これが極低温において安定であり、脆性破壊を起こし難い。そのため、例えば、質量割合でNiを50%以上、好ましくは55~80%含有するオーステナイト構造を有したNi基合金(高Ni合金)を用いるようにするのがよい。このような高Ni合金の溶接材料について、市販品の例としては、NITTETSU FILLER196(以上、日鉄溶接工業社製商品名)、TG-S709S(以上、神戸製鋼社製商品名)等を挙げることができる。
次に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
表1に示す化学成分及び機械特性を有する発明例1~10、比較例1~24の鋼板(低温用Ni鋼)を母材(被溶接材)として使用した。鋼板は焼入焼戻し(QT)若しくは熱加工制御圧延後焼戻し(TMCT)で製造した。このうち、QTは、鋳片を1000~1200℃に加熱した後、所定の寸法に圧延して冷却後、更に800~900℃に加熱して焼き入れした後に、更にまた560~600℃に加熱して焼戻しを行った。TMCTについては900~1200℃に加熱した後、700℃以上の温度で制御圧延を完了して冷却後、560~600℃に加熱して焼戻しを行った。QT、TMCTともに、必要に応じて焼き入れ前に605~750℃の中間熱処理を行った。
ここで、これらの鋼板の機械特性として、鋼板の引張特性については、板厚(T)が16mm以下の鋼板ではJIS Z2241:2011-5号試験片を全厚にて圧延方向と垂直方向に採取し、また、板厚(T)が16mmを超える鋼板ではJIS Z2241:2011-4号試験片を板厚1/4の位置(1/4t)から圧延方向と垂直方向に採取し、それぞれ室温にて試験して引張強さ(TS)を求めた。また、鋼板の衝撃特性については、全ての鋼板において板厚1/4の位置(1/4t)の位置、及び、圧延方向と並行に、JIS Z2242:2018に規定された2mmVノッチシャルピー試験片を採取し、-196℃の温度でシャルピー衝撃試験を実施して、吸収エネルギー値を求めた。なお、表1に示した各鋼板の化学組成は、それぞれの化学成分の残部がFe及び不純物である。
Figure 0007477763000001
また、溶接材料としては、JIS Z3332:2007に規定されるYGT9NI-2相当のニッケル(Ni)基合金ワイヤ(φ1.2mm)を用いて、ホットワイヤ・レーザ複合溶接で通電加熱する溶接ワイヤとし、表2に示す溶接条件で溶接継手を作製した。そして、表1に示した鋼板と上記のNi基合金ワイヤを用いて、ホットワイヤ・レーザ複合溶接方法により、溶接長500mmの溶接継手を1パス1層で作製した。レーザ溶接においては矩形レーザとした上でウイービングを実施した。シールドガスはAr(流量30L/min.)を用いた。ホットワイヤ溶接はワイヤ加熱電流100~400Aとし、ワイヤ供給速度は2~30m/min.とした。溶接におけるパラメータとして溶接速度1~5m/min.、レーザ出力3~20kWとし、溶接スポット径を調整することでエネルギー密度の制御を行った(表2)。
得られた溶接継手について、以下の方法により評価した。
先ず、溶接金属の硬さについては、JIS Z2244:2009に記載のビッカース硬さ試験の試験方法に準拠して、板厚1/4位置について、板厚と垂直方向に0.3mmピッチ荷重1kgの条件で5点以上測定した平均値を溶接金属の硬さとした。また、溶融境界線(FL)から母材側に10mmまでの溶接熱影響部(HAZ)における最高硬さについて、ビッカース硬さ試験の試験方法は同じくJIS Z2244:2009に準拠して、FLから母材側に10mmまでの溶接熱影響部について、板厚1/4位置を板厚と垂直方向に0.3mmピッチ荷重1kgの条件で当該溶接熱影響部における最高硬さを求めた。
また、溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wと鋼板の板厚Tとの比率(W/T)について評価した。ここで、溶接金属の最大幅Wは、溶接部の断面マクロ試験片を用いて、板厚1/4t位置における幅を測定して求めた。更には、HAZ組織の評価として、HAZにおける旧オーステナイトの最大粒径(FL最大旧γ粒径)を測定するために、得られた溶接継手をドデシル腐食液にて腐食させて、HAZの旧オーステナイト粒界を出現させた。評価位置は、板厚1/4の位置を中心に、FL(溶融境界線)に沿って10ケの旧オーステナイト粒を光学顕微鏡にて観察して、旧オーステナイトの最大粒径を求めた。
一方で、得られた溶接継手の衝撃特性を評価するために、母材である鋼板の板厚1/4の位置(1/4t)でのボンド部(溶接金属とHAZの厚みの比率が1:1)をノッチ位置としてJIS Z2242:2018に規定された2mmVノッチシャルピー試験片を採取し、-196℃の温度でシャルピー衝撃試験を実施して吸収エネルギー値を求めた。試験は3本行い、最低値を下記の表2に示した。一般にその最低値が50Jを下回るものは不合格とされる。また、溶接継手の引張強度について、JIS Z 3121:2013に規定された1A号試験片を用いて評価を行った。試験は2本行い、最低値を表2に示した。一般にその最低値が690MPaを下回るものは不合格とされる。更には、得られた溶接継手について、放射線透過試験法により溶接欠陥の有無を調べた。JIS Z 3106:2001に準じて試験を行い、2種以上の欠陥が確認されたものを「×」とし不合格、それ以外を「○」とし合格と判定した。これらの結果についても表2に示した。
Figure 0007477763000002
以上のとおり、本発明によれば、低温用Ni鋼の溶接において、その溶接効率を改善しながら、再熱HAZの存在による低温靱性の低下を防ぐことができると共に、信頼性に優れた高品質の溶接継手を得ることができるようになる。

Claims (5)

  1. レーザビームを照射して母材を溶融させながら、通電加熱した溶接ワイヤを供給して溶接継手を得るホットワイヤ・レーザ複合溶接により溶接継手を製造する方法であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.03~0.10%、
    Si:0.01~0.5%、
    Mn:0.3~1.5%、
    Ni:5.0~10.0%、
    P:0.015%以下、
    S:0.003%以下、
    Al:0.005~0.08%、
    B:0.001%以下、
    Ti:0.010%以下、
    Nb:0.010%以下、
    V:0.010%以下、
    N:0.010%以下、
    O:0.005%以下、
    Cu:1.0%以下、
    Cr:1.0%以下、
    Mo:1.0%以下、
    残部:Fe及び不純物;
    である低温用Ni鋼を母材として、該溶接継手を構成する溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線における旧オーステナイトの最大粒径が300μm以下であり、
    該溶接継手を構成する溶接金属の硬さがHv240~150であり、かつ、前記溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線から母材側に10mmまでの溶接熱影響部の最高硬さがHv270以上であり、
    該溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wが、母材である前記低温用Ni鋼の板厚Tに対してW≦0.8Tの関係を満たす溶接継手を得ることを特徴とする、低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
  2. 前記低温用Ni鋼の板厚が5~60mmであり、1パス溶接により溶接継手を得る、請求項1記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
  3. 前記ホットワイヤ・レーザ複合溶接におけるエネルギー密度を300W/mm以下にする、請求項1又は2に記載の低温用Ni鋼を用いた溶接継手の製造方法。
  4. 低温用Ni鋼を母材とする溶接継手であって、
    前記母材の化学組成が、質量%で、
    C:0.03~0.10%、
    Si:0.01~0.5%、
    Mn:0.3~1.5%、
    Ni:5.0~10.0%、
    P:0.015%以下、
    S:0.003%以下、
    Al:0.005~0.08%、
    B:0.001%以下、
    Ti:0.010%以下、
    Nb:0.010%以下、
    V:0.010%以下、
    N:0.010%以下、
    O:0.005%以下、
    Cu:1.0%以下、
    Cr:1.0%以下、
    Mo:1.0%以下、
    残部:Fe及び不純物;
    であり、
    該溶接継手を構成する溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線における旧オーステナイトの最大粒径が300μm以下であり、
    該溶接継手を構成する溶接金属の硬さがHv240~150であり、かつ、前記溶接金属と母材である前記低温用Ni鋼との境界の溶融境界線から母材側に10mmまでの溶接熱影響部の最高硬さがHv270以上であり、
    該溶接継手を構成する溶接金属の最大幅Wが、母材である前記低温用Ni鋼の板厚Tに対してW≦0.8Tの関係を満たすことを特徴とする、低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
  5. 前記低温用Ni鋼の板厚が5~60mmであり、1パス溶接による溶接継手である、請求項に記載の低温用Ni鋼を母材とする溶接継手。
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