JP2012106290A - 耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手 - Google Patents

耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手 Download PDF

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Abstract

【課題】降伏強度が355MPaクラス以上で、板厚が50mm超の電子ビーム溶接用高強度鋼板を突合せ溶接して、破壊靭性値δcが十分に高い溶接継手を形成する。
【解決手段】溶接構造体の突合せ溶接継手において、(a)溶接金属部の硬さが母材の硬さの110%以上220%以下であり、かつ、(d)溶接溶融線と接する溶接影響部(HAZ)の旧オーステナイト粒径が100μm以下であり、必要に応じ、(b)溶接金属部の幅が母材板厚の20%以下であり、及び/又は、(c)熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接影響部領域の幅が3mm以上であることを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
【選択図】図1

Description

本発明は、溶接構造体、特に、板厚50mm超の鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手に関する。
石油等の化石エネルギーから脱却し、再生可能な自然エネルギーを利用しようとする社会的ニーズは極めて高まっており、大規模な風力発電も世界的に普及しつつある。
風力発電に最も適している地域は、絶えず強風を期待できる地域であり、洋上風力発電も世界的規模で実現されている。洋上に風力発電塔を建設するためには、海底の地盤に塔の基礎部分を打ち込む必要があり、海水面から風力発電のタービン翼の高さを十分確保するためには、基礎部分も十分な長さが必要である。
そのため、風力発電塔の基礎部分では、板厚100mm程度、直径が4m程度の大断面を有する管構造となり、塔の全体高さは80m以上にもなる。そのような巨大構造物を建設現場近くの海岸において、簡易に、しかも高能率で溶接組み立てすることが求められている。
そこで、上記のように、板厚100mmにもおよぶ極厚鋼板を高能率で、しかもオンサイトで溶接するという、従来にないニーズが生じてきた。
一般に、電子ビーム溶接方法は、高密度・高エネルギービームにより効率的に溶接できる溶接方法であるが、真空チャンバー内で高真空状態を維持して溶接する必要があるので、従来は、自動車部品等、比較的小さい部品の溶接に用いられてきた。
これに対して、近年、板厚100mm程度の極厚鋼板を効率よく現地溶接できる溶接方法として、低真空下で施工が可能な電子ビーム溶接方法(RPEBW:Reduced Pressured Electron Beam Welding: 減圧電子ビーム溶接)が英国の溶接研究所で開発され、提案されている(例えば、特許文献1、参照)。
このRPEW法を用いることにより、風力発電塔のような大型構造物を溶接する場合にも、溶接する部分だけを局所的に真空にして、効率的に溶接ができることが期待される。
しかし、一方で、このRPEBW法では、真空チャンバー内で溶接する方法に比べて、真空度が低下した状態で溶接するために、電子ビームで溶融され、その後凝固する溶融金属部分(以下、溶接金属部と称する)の靭性確保が困難となるという、新たな課題が浮かび上がってきた。
この対策として、RPEBW法を用いて溶接する際に、予め溶接開先部に、Ni等の元素を含有するインサートメタルを挟み込むことにより、溶接金属部のシャルピー吸収エネルギーなどの靭性を確保する方法も提案されている。
しかし、この方法では、インサートメタル中のNi等の元素が溶接熱影響部まで均一に拡散しないため、特に溶接熱影響部の靭性が大きくばらつくという新たな課題が浮かび上がった。
一般に、溶接構造物の安全性を定量的に評価する指標として、CTOD試験により求められる、破壊力学に基づいた破壊靭性値δc値が知られている。従来のRPEBW法により溶接して得られる溶接継手は、上記溶接熱影響部の靭性が大きくばらつくため、破壊靭性値δc値を十分に確保することは困難であった。
一方、エレクトロガス溶接等の大入熱溶接継手における破壊靭性値Kcを確保するために、溶接金属と母材の硬さ比を110%以下となるように制御して、溶接金属部と母材部の境界(FL部)の破壊靭性Kcを改善する方法が提案されている(例えば、特許文献2、参照)。
しかしながら、電子ビーム溶接継手の破壊靭性値δcを確保するためには、FL部と溶接金属部の両方の破壊靭性値δcを満足させる必要があり、大入熱溶接継手と同様に母材の硬さの110%以下にまで低下させると、電子ビーム溶接継手における溶接金属部の破壊靭性値を確保できなくないという問題が生じる。
また、電子ビーム溶接法は、電子ビームの持つエネルギーにより溶接部の母材を一旦溶融し再凝固して溶接する方法であり、エレクトロガス溶接等の大入熱アーク溶接法のように、溶接ワイヤー等による溶接金属部の硬さや破壊靭性値δcなどの特性を、容易にコントロールすることは難しい。
WO99/16101 特開2005−144552号
上記従来技術に鑑みて、本発明は、電子ビーム溶接継手における溶接金属部、及び、特に局所的な応力が増大する溶接金属部と溶接熱影響部との境界(FL部)の両方の破壊靭性値δcを向上させ、溶接継手の破壊靭性を安定的に向上する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため、母材と溶接継手の機械的性質について調査した。その結果、本発明者は、溶接金属部の靭性を向上させるために使用したインサートメタルの存在により溶接金属部の強度や硬さが上昇し、母材の強度や硬さよりも著しく高くなっていることにより、溶接金属部に接している溶接熱影響部(HAZ部)との境界近傍で局所的な応力が増大し、そのため、FL部の破壊靭性値δcが低下することを知見した。
そして、上記知見に基づいて、電子ビーム溶接部に関する新規な継手設計技術を見出した。
即ち、電子ビーム溶接継手の継手設計において、溶接金属部の硬さを母材の硬さの220%以下となるように制御し、好ましくは、溶接金属部の硬さを母材の硬さの110%以上220%以下、溶接金属部の幅を、母材板厚の20%以下とすることにより、オーバーマッチングによる継手靭性の低下を防止できることを見出した。
そして、上記知見に基づいて、降伏強度が355MPaクラス以上で、板厚が50mm超(好ましくは、50mm超〜100mm程度)の高強度厚鋼板の電子ビーム溶接において、安定的に優れた靭性を確保できる溶接継手を具現化する技術として、本発明を完成した。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
(a)溶接金属部の硬さが母材部の硬さの110%超220%以下であり、
(b)溶接金属部の幅が母材部の板厚の20%以下であり、かつ、
(d)溶接溶融線と接する溶接影響部(HAZ)の旧オーステナイト粒径が100μm以下である
ことを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
(2) 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
(a)溶接金属部の硬さが母材の硬さの110%超220%以下であり、
(c)熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接熱影響部領域の幅が5mm以上であり、かつ、
(d)溶接溶融線と接する溶接影響部(HAZ)の旧オーステナイト粒径が100μm以下である
ことを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
(3) 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
(a)溶接金属部の硬さが母材部の硬さの110%超220%以下であり、
(b)溶接金属部の幅が母材部の板厚の20%以下であり、
(c)熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接影響部領域の幅が3mm以上であり、かつ、
(d)溶接溶融線と接する溶接影響部の旧オーステナイト粒径が100μm以下であることを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
(4) 前記溶接構造体が板厚50mm超の高強度鋼板を突合せ、電子ビーム溶接したものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
(5) 前記溶接構造体が高強度鋼板を突合せ、そのまま電子ビーム溶接するか、又は、溶接開先部にインサートメタルを挿入して電子ビーム溶接したものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
本発明によれば、降伏強度が355MPaクラスで、板厚が50mm超の高強度鋼板を電子ビーム溶接する時、破壊靭性値δcが十分に高い溶接継手を形成することができる。
溶接金属及びHAZ、FL部のδc値に及ぼす溶接金属部と母材の硬さの影響を示す図である。 HAZ軟化幅とHAZ、FL部のCTOD値との関係に及ぼす溶接金属部と母材の硬さ比、γ粒経の影響を示す図である。 板厚70mmの試験片につき、溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)との境界部(FL)、及び、溶接熱影響部(HAZ)にノッチを設け、ノッチ先端でのCTOD(Crack Tip Opening Displacement:亀裂端開口変位)が0.05mmになる場合のノッチ先端から亀裂進展方向に離れた各位置における亀裂開口応力分布を、FEM(3次元有限要素法)で解析した結果の一例を示す図である。
一般の電子ビーム溶接継手では、母材部の一部を溶融し再凝固して形成された溶接金属部において、所要の破壊靭性δcを確保することは困難である。このため、従来、電子ビーム溶接の際、溶接開先部にニッケル箔などのインサートメタルを挿入し、溶接金属部の焼入れ性を向上させ、この相乗効果により、破壊靭性値δcを確保する方法が知られている。
しかし、本発明者は、この方法では、電子ビーム溶接継手における溶接熱影響部、特に溶接金属部と溶接熱影響部との境界(FL部)の破壊靭性値δcが大幅に低下し、電子ビーム溶接継手の破壊靭性値δcを十分に確保できないことを知見した。
そこで、本発明者は、降伏強さで460MPaクラスの鋼板を試作し、Ni含有量が4%のインサートメタルを溶接開先に挿入して、電子ビーム溶接を実施し、CTOD試験により得られた溶接継手の破壊靭性値δcを測定し、評価した。
上記溶接継手のCTOD試験の結果、溶接金属部の破壊靭性値δcは0.2mm以上と十分高い値を示したが、溶接金属部とHAZ部との境界部(FL部)の破壊靭性値δcは、0.02mm以下と極めて低い値を示すことが判明した。
そこで、上記溶接継手のCTOD試験での破壊発生点を詳細に調査した結果、
(i)破壊の発生位置は、溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)の境界(溶接溶融線[FL])部であること、及び、上記溶接継手のCTOD試験において、破壊のドライビングフォースとなる局所応力の分布形態を3次元有限要素法で解析した結果、
(ii)FL部の局所応力は、隣接する溶接金属部(WM)の硬さの影響を著しく受けることを知見した。
図3は、板厚70mmの試験片につき、溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)との境界部(FL)、及び、溶接熱影響部(HAZ)にノッチを設け、ノッチ先端でのCTOD(Crack Tip Opening Displacement:亀裂端開口変位)が0.05mmになる場合のノッチ先端から亀裂進展方向に離れた各位置における亀裂開口応力分布を、FEM(3次元有限要素法)で解析した結果の一例を示す。
この図から、(iv)板厚が50mmを超え70mm程度になると、板厚方向での拘束度(力)が著しく増大し、溶接金属部(WM)の強度が母材(BM)や溶接熱影響部(HAZ)の強度よりも高いと(WM−Hの場合)、局所応力が溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)との境界部(FL)で著しく増大することが解る(図中、□[WM−H]及び黒四角印[WM−L]、参照)。
一方、溶接金属部(WM)の強度が、母材(BM)や溶接熱影響部(HAZ)の強度よりも高い場合(WM−Hの場合)であっても、溶接熱影響部(HAZ)では、局所的な応力は増大せず、溶接金属部(WM)の強度が低い場合(WM−Lの場合)とほぼ同じになる。
このことから、δc値が低下する理由は、溶接金属部(WM)の強度が、母材(BM)や溶接熱影響部(HAZ)の強度よりも高い場合(WM−Hの場合)に、溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)との境界部(FL)で、局所的な応力が増大するためであると考えられる。
即ち、上記解析の結果、本発明者は、(v)溶接金属部(WM)と溶接熱影響部(HAZ)との境界部(FL)での局所応力の著しい増大を抑制し、δc値を向上させるためには、溶接金属部(WM)の強度をできるだけ低くすることが必要であることを見出した。
しかしながら、溶接金属部の硬さを低下させると、溶接金属部(WM)の焼入れ性を確保することができないため、粗大なフェライトが生成し、その結果、CTOD値が低下することを見出した。
ここで、上記解析結果を基に、溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]を種々変化させて、FL部のCTOD値δcを測定し、δc値を“溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]/母材の硬さ[Hv(BM)]”に対してプロットした結果、図1中「●」に示すように、溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]を母材の硬さ[Hv(BM)]の220%以下に抑制すれば、局所的な応力の増大による破壊靭性値δcの低下を防止できることを知見した。
δc値は高いほど望ましいが、ノルウェー海事協会(DNV)等の規格では、設計温度にて0.1〜0.2mm程度の値が要求されていることを踏まえ、本発明において目標とするδc値は、0.15mm以上とした。
なお、従来法による電子ビーム溶接継手において、破壊靭性値δcを、―20℃で0.15mm以上を安定的に確保することは難しかった。
このように、溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]を、母材の硬さ[Hv(BM)]より低くすることにより、FL部のδcは向上するが、溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]を過度に低下させると、溶接金属部のδc値が低下し、その結果、電子ビーム溶接継手の破壊靭性値δcを確保することができない。
本発明者の検討の結果、図1中、○印で示すように、溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]を母材の硬さ[Hv(BM)]の110%以上確保すれば、溶接金属部において、所要のCTOD値を確保できることを見出した。
HAZ軟化幅とFL部のCTOD値との関係に及ぼす溶接金属部と母材の硬さ比、γ粒径の影響を図2に示す。HAZ幅が広くなるほど,FL部のCTOD値が向上する傾向を示す。
これは,HAZ軟化により強度マッチングの影響が緩和されているためであり、HAZ幅は3mm以上が望ましい。
また、本発明者は、溶接金属部に接する溶接溶融線(FL)における局所応力の発生ないし分布は、溶接金属部の硬さに支配されるが、FLに接しているHAZ領域において“軟化している領域”が大きい場合には、FLの局所応力が緩和される傾向にあることを見出した。
図2に示す実験結果によれば、HAZ軟化幅が広くなるほど上記緩和現象が認められ、3mm以上存在した場合に、特に顕著となるので、HAZ軟化幅は3mm以上とすることが好ましい。
HAZ部の硬さが母材の硬さより低くなる程、原理的にFL部の局所応力は低減するが、本発明者の実験結果によれば、FL部の局所応力低減効果が明確に認められるのは、HAZ部の硬さが、母材の硬さよりも5%以上低くなっている場合であった。
それ故、本発明においては、熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接熱影響部領域の幅を3mm以上とすることが好ましい。
また,溶接熱影響部領域の幅が10mm以上となると継手強度確保や疲労強度の観点から軟化部に歪が集中する懸念があるので、10mm以下とすることが好ましい。
溶接継手において所定のCTOD値δcを確保するためには、溶接継手の最脆弱部である溶接溶融線(FL)において局所応力が増大しないようにすることが肝要であることは前述したが、同時に、FL近傍での微視的な耐脆性破壊発生特性を向上させることも重要である。
FL近傍で脆性破壊が発生するメカニズムを調査、検討した結果、旧オーステナイト周辺に生成する初析フェライトや、旧オーステナイト内部にラス状に生成する上部ベーナイトやフェライトサイドプレート等が破壊の起点となることを突き止めた。
この上部ベーナイトやフェライトが璧開破壊するときの破面単位は,オーステナイト相の粒径に依存するので、旧オーステナイト粒径を小さく抑制することにより、上部ベーナイトやフェライトの寸法を小さくして、耐脆性破壊発生特性を改善することができることを知見した。
また、本発明者の検討の結果、“溶接金属部の硬さ[Hv(WM)]/母材の硬さ[Hv(BM)]”が、本発明で規定する220%に近づくと、溶接金属とHAZ部との強度マッチング及び組織の影響による破壊靭性値δcの低下が無視できなくなる。
したがって、このような条件においても、安定して、継ぎ手の破壊靭性値δcを確保するために、溶接溶融線(FL)と接する溶接熱影響(HAZ)部の旧オーステナイト粒径を100μm以下とし、旧オーステナイト粒径の粗大化を抑制することが好ましい(図2、参照)。
また、電子ビーム溶接時に電子ビームの照射領域が大きくなると、鋼板に与える入熱量が過大となり、FL部の組織が粗大化してしまい、安定してFL部の破壊靭性値δcを確保する上で好ましくない。
また、RPEBW溶接を用いて電子ビーム溶接継手を作製する場合は、真空チャンバー内で、高真空状態で電子溶接(EBW溶接)により作製した溶接継手に比べ、溶接金属の幅が増大する傾向にある。
このため、本発明では、RPEBW溶接を用いた場合でも、電子ビーム溶接継手の破壊靭性値δcを安定して確保するために、溶接金属部の幅を、母材部の板厚の20%以下とするのが好ましい。
本発明で用いる溶接構造体の高強度鋼板は、公知の成分組成の溶接用構造用鋼から製造したものでよい。例えば、質量%で、C:0.02〜0.20%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.3〜2.0%、Al:0.001〜0.20%、N:0.02%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下を基本成分とし、母材強度や継手靭性の向上等、要求される性質に応じて、Ni、Cr、Mo、Cu、W、Co、V、Nb、Ti、Zr、Ta、Hf、REM、Y、Ca、Mg、Te、Se、Bの内の1種又は2種以上を含有する鋼が好ましい。
鋼板の板厚は特に限定されないが、本課題が顕在化するのは、板厚が50mm超の高強度鋼板である。
また、電子ビーム溶接金属部(溶融部)の破壊靭性δc値を確保するために、開先部分に、Ni元素等を含むインサートメタルを使用する場合でも、本発明に規定する特性を有していればよく、特に成分組成が、特定の成分組成に限定されるものではない。
例えば、溶接材料の化学成分として、C:0.01〜0.06%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.5〜2.5%、Ni:0〜4.0%、Mo:0〜0.30%、Al:0〜0.3%、Mg:0〜0.30%、Ti:0.02〜0.25%、B:0〜0.050%が望ましいが、溶接材料の化学成分は、鋼材の化学成分を考慮して、適宜、選択すればよい。
電子ビーム溶接は、例えば、板厚80mmの場合、電圧175V、電流120mA、溶接速度125mm/分程度の条件で行なう。通常、10-3mbar以下の高真空下で溶接するが、簡易的な設備でも施工できる低真空度、例えば、1mbar程度の真空下で溶接した継手であっても、本発明の範囲内である。
以下、本発明を、実施例に基いて説明するが、実施例における条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、該一条件例に限定されるものではない。
本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件ないし条件の組合せを採用し得るものである。
(実施例1)
板厚50〜100mmの厚鋼板を準備し、溶接継手の特徴及び性能を試験、調査した。その結果を表1に示す。溶接は、電子ビーム溶接である。
表2に、溶接に用いた鋼種の化学成分(mass%)を示す。また、表3に、溶接に用いたインサートメタルの化学成分(mass%)を示す。
Hv(BM)は、10kgの圧痕により測定した母材の板厚方向における硬さの平均値である。Hv(WM)は、溶接金属部の板厚中央部において、10kgの圧痕により測定した硬さの値である。
ビード幅は、溶接金属部の表面、裏面、及び、板厚中心の3点で測定した平均値である。
HAZ軟化幅は、母材の硬さより5%軟化したHAZ領域を、溶接溶融線から母材方向へ測定した時の領域の幅である。
HAZの旧γ粒径は、溶接溶融線に接するHAZ部での旧オーステナイト粒を、円相当径で表記したものである。
溶接継手の性能に関し、δc(mm)は、前述のCTOD試験において、−10℃の試験温度で求めた値である。
継手引張強度(MPa)は、NKU1号試験片を作製して、継手引張試験を行った結果であり、破断した強度を示すものである。
表1に示すように、本発明例のNo.1〜11、13、14、16、17は、各種条件が本発明で規定する範囲内にあるものであり、δc値が十分な値を示している。
これらの発明例の中で、No.1〜11、13、14は、Hv(WM)/Hv(BM)、及び、ビード幅/板厚、HAZ軟化幅が本発明で規定する範囲内であるため、溶接継手のHAZ部のδc値及び継手引張強度ともに、十分な値を示している。
なお、本発明例No.14は、HAZ軟化幅が、本発明で規定する好ましい範囲より小さいので、本発明例であるNo.1〜11、13と比較して、δc値は若干低いものの、0.1mm以上の良好な値である。
参考例No.15は、Hv(WM)/Hv(BM)の好ましい範囲より低いため、溶接金属部の焼入れ性が不足して、初析フェライトの生成を抑制できなかったものであり、HAZ部のδc特性は、本発明例No.1〜11、13、14と比較して、低いレベルとなっている。
本発明例No.16及び17は、ビード幅/板厚が、本発明で規定する好ましい範囲より高いため、溶接金属部の領域が大きく、母材よりも硬さの高い溶接金属によるマッチングの影響がより顕著であるため、HAZ部、FL部のδc値が、本発明例No.1〜11、13、14と比較して低いレベルとなっている。
これに対して、比較例No.18、20〜22、24は、Hv(WM)/Hv(BM)が、本発明で規定する範囲を超えているため、溶接金属部のδc値は十分であるが、HAZ部、FL部のδc値が低いものである。
また、比較例19と23は、Hv(WM)/Hv(BM)が、本発明で規定する範囲を下回っているため、十分な焼入れ性を確保できず、溶接金属部のδc値が低いものである。
したがって、本発明は、YPが355MPa以上の高強度鋼で、かつ、板厚が50mm以上と厚手の領域でのδc値確保に適用されるものである。
Figure 2012106290
Figure 2012106290
Figure 2012106290
本発明によれば、高強度でかつ板厚の大きい高強度鋼板の電子ビーム溶接継手において、万一、溶接欠陥が存在したり、疲労亀裂が発生、成長しても、脆性破壊が発生し難いので、溶接構造体が破壊するような致命的な損傷、損壊を防止することができる。
よって、本発明は、溶接構造体の安全性を顕著に高めるという顕著な効果を奏し、産業上の利用価値の高い発明である。

Claims (5)

  1. 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
    (a)溶接金属部の硬さが母材部の硬さの110%超220%以下であり、
    (b)溶接金属部の幅が母材部の板厚の20%以下であり、かつ、
    (d)溶接溶融線と接する溶接影響部(HAZ)の旧オーステナイト粒径が100μm以下である
    ことを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
  2. 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
    (a)溶接金属部の硬さが母材の硬さの110%超220%以下であり、
    (c)熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接熱影響部領域の幅が3mm以上であり、かつ、
    (d)溶接溶融線と接する溶接影響部(HAZ)の旧オーステナイト粒径が100μm以下である
    ことを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
  3. 鋼板を突合せ溶接して構成した溶接構造体の電子ビーム溶接継手において、
    (a)溶接金属部の硬さが母材部の硬さの110%超220%以下であり、
    (b)溶接金属部の幅が母材部の板厚の20%以下であり、
    (c)熱影響を受けていない母材部の硬さの95%以下の硬さに軟化している溶接影響部領域の幅が3mm以上であり、かつ、
    (d)溶接溶融線と接する溶接影響部の旧オーステナイト粒径が100μm以下であることを特徴とする耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
  4. 前記溶接構造体が板厚50mm超の高強度鋼板を突合せ、電子ビーム溶接したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
  5. 前記溶接構造体が高強度鋼板を突合せ、そのまま電子ビーム溶接するか、又は、溶接開先部にインサートメタルを挿入して電子ビーム溶接したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐脆性破壊発生特性に優れた電子ビーム溶接継手。
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