JP2004269905A - フィレット部の靭性の高い高パス間温度多層盛り溶接用h形鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼は、質量比で、C:0.07〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.6〜1.6%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.0030〜0.070%残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Ceq(炭素当量):0.42%以下、Ti/N:2〜4である鋼組成を有し、パス間温度720℃での多層盛り連続溶接における最終パス部の再現HAZ靭性が70J以上、かつ、フィレット部の0℃におけるVノッチシャルピー吸収エネルギーが70J以上である。ここにCeq(炭素当量)とは、
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14(mass%)
をいう。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭酸ガス溶接、EGW、SAWの多層盛り溶接が行われる圧延H形鋼に係り、特に、高いパス間温度で多層盛り溶接可能であるとともに、耐脆性破壊特性と溶接施工能率の観点からフィレット部の靭性が高い圧延H形鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧延H形鋼(以下単に「H形鋼」という)は社会基盤の整備に欠かせない鋼材であり、主としてJIS SN400MPa級およびJIS SN490MPa級のH形鋼が、建築構造用の素材として柱材や梁材として利用されている。このJISのSN規格では、建築構造部材の耐震性の観点から、降伏点および降伏比の上限が定められており、また、溶接性の観点から炭素当量の上限が定められている。
【0003】
このようなH形鋼を用いて建築、橋梁などの構造物を組み立てるに当たっては、炭酸ガス溶接、エレクトロガス溶接(EGW)、サブマージドアーク溶接(SAW)等の各種溶接方法による多層盛り溶接が行われる。この多層盛り溶接ではパス間温度が高くなり易く、それにより継ぎ手性能が低下し易い。そのため、鋼材の多層盛り溶接に当たっては、使用鋼材のグレード、板厚、溶接法に応じて溶接時の予熱温度、溶接材料などを最適に選ぶとともにパス間温度の上限を定め、これにしたがって厳しい作業管理基準のもとで溶着金属およびHAZの強度、靭性等を確保している。一般にパス間温度は350℃以下であることが要求される。
【0004】
特に、H形鋼からなる建築構造物の柱―梁の溶接施工では、炭酸ガスアーク溶接による柱通しダイアフラム形式の多層盛り梁端溶接が多用されるが、その構造上、パス間温度が高くなりやすく、上記作業管理基準の定めるパス間温度が350℃を越えることがしばしば起こる。このため、溶接作業を中断し、しかる後パス間温度の低下を待って溶接を再開しなければならず、溶接作業効率の低下を招いている。
【0005】
したがって、このような溶接作業効率の低下を招かない高パス間温度で多層盛り溶接のできるH形鋼の提供が望まれている。特に、梁端接合部や柱−柱接合部に多層盛り溶接を往復連続溶接として適用した場合には通常の炭酸ガスアーク溶接による場合に比べて施工工数が1/3以下まで軽減されるといわれているが、往復連続溶接を行うことにより、パス間温度は500℃以上まで上昇し、中でも梁下フランジ部では、溶接長がウェブ部の存在によりフランジ長の約半分となるため、場合によっては700℃以上までパス間温度が高温化するという問題があり、上記の高パス間温度で多層盛り溶接のできるH形鋼の提供の要求は一層強まっている。
【0006】
一方、構造物の梁材としてH形鋼が適用される場合、そのH形鋼には、裏当て金を通すためにフランジ部とウェブ部の交錯するフィレット部近傍にスカラップと称する切り欠け部を設けることが一般に行われている。その結果、地震時にこのスカラップからの脆性破壊の可能性が指摘されており、前記の溶接熱影響部とともにスカラツプに隣接するH形鋼のフィレット部の高靭性化が強く求められている。
【0007】
上記の技術的要求に関連して、多層盛り溶接におけるパス間温度を高温化できるようにするため、溶接材料に関する研究が進められており、たとえば、特許文献1、特許文献2および特許文献3などにその技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平10−230387号公報
【特許文献2】
特開平1−239892号公報
【特許文献3】
特開2000−288743号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの技術は発明の対象が性能のよい溶接金属を得ることに向けられており、溶接継手を構成するもう一方のメンバーである母材側(すなわちH形鋼)の改良に着目されていない。いいかえれば、高パス間溶接によって、母材側のH形鋼についてもその溶接熱影響部(HAZ)の靭性について依然として課題が残っていたのである。具体的には、梁端溶接部のCO2多層盛り溶接部や極厚H形鋼を柱材へ用いた場合の現場における50パスを超えるような柱−柱溶接部については、高パス間温度を許容することによる施工能率向上は極めて大きくなるが、現状では、その溶融線近傍のHAZ靭性が十分に得られないという問題がある。
【0010】
さらに、梁端溶接部に適用されるH形鋼には、先に述べた地震時に建築構造物がスカラップから脆性破壊する危険に対処できるようにする必要があり、溶接熱影響部とともにスカラツプに隣接するH形鋼のフィレット部の高靭性化、具体的にはフィレット部でのシャルピー吸収エネルギー値をvE0>70Jとすることが求められている。
【0011】
この発明は、上記問題点を有利に解決するもので、高いパス間温度で多層盛り溶接を行なっても溶接熱影響部(HAZ)の靭性が確保でき、同時にウェブ部とフランジ部の付け根にあたるフィレット部の靭性も確保できるフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、フィレット部の靭性不足の原因について検討し、フィレット部では再加熱温度時のオーステナイト粒が圧延による再結晶化することなしにそのまま維持され、粗大なオーステナイト粒から、最終ミクロ組織が粗大なフェライト+パーライト、あるいは粗大なフェライト+上部ベイナイトとして形成され、フランジやウェブと比較して靭性が不十分となることを知った。また、高パス間温度で多層盛り溶接を行った場合のHAZの靭性低下は、溶融線近傍に加熱された部分のオーステナイトが粗大化し、HAZのミクロ組織が粗大化すること、ミクロ組織が上部ベイナイト化し島状マルテンサイト(MA)を増加させるためであることを知った。そして、これらフィレット部の靭性不足及び高パス間溶接時のHAZ靭性低下の原因には、粗大オーステナイトの生成という共通点があり、したがって上記問題を解決するためには、第1に熱間圧延の際のオーステナイト粒を微細化させること、第2にフェライトの形成を促進すること、第3に鋼組成を調整してフィレット部やHAZ部に形成される第2相組織の量を制御することが重要であることを確認し、そのような条件が達成できる成分系及び処理条件について鋭意研究を行い、以下に示す成分系及び処理条件が好適であるとの結論に至った。
【0013】
本発明に係る高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼は、質量比で、C:0.07〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.6〜1.6%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.0030〜0.070%残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、Ceq(炭素当量):0.42%以下、Ti/N:2〜4である鋼組成を有し、パス間温度720℃での多層盛り連続溶接における最終パス部の再現HAZ靭性が70J以上であり、かつ、フィレット部については0℃におけるVノッチシャルピー吸収エネルギーが70J以上である、という特性を有する。ここにCeq(炭素当量)とは、
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14(mass%)
をいう。
【0014】
上記鋼組成には、さらに、Ca:0.0050%以下、Al:0.06%以下、REM:0.03%以下の1種または2種以上を含有させることができる。また、Cu:0.7%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.2%以下、V:0.08%以下、B:0.0030%以下の1種または2種以上含有させることができる。
【0015】
上記に記載の高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼は、上記に記載の鋼組成を有する素材を、1000〜1350℃に再加熱後、ユニバーサル圧延によりH形鋼に成形することによって製造するのが有利である。
【0016】
【発明の実施の形態】
H形鋼はユニバーサル圧延機を用いて成形されるが、その際、左右のフランジ部は水平ロールと垂直ロールにより、ウェブ部は垂直ロールにより圧下を受け組織の細粒化が行なわれて必要な靭性が与えられる。しかし、フィレット部には圧延による圧下効果がほとんど期待できず、しかも圧延後の冷却速度がフランジ部やウェブ部に比べて小さいという特徴がある。そのため、フィレット部では再加熱温度時にオーステナイト粒が圧延による再結晶化することなしにそのまま維持され、粗大なオーステナイト粒から、最終ミクロ組織として粗大なフェライト+パーライト、あるいは粗大なフェライト+上部ベイナイトが形成され、靭性が低下する。本発明者は、上記原因によるフィレット部の靭性不足に及ぼす素材化学組成の影響を明らかにするための次のテストを行なった。
【0017】
質量比で、C:0.07〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.6〜1.6%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Ti:0.005〜0.025%、N:0.0030〜0.070%残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼より板厚20mmのブロックを切りだし、これを1300℃に1h加熱した後、そのまま(圧延しないで)、800〜500℃間の冷却速度を0.4℃/sとして冷却した。このブロックについて組織調査を行なうとともに、JIS Z 2202 4号試験片により0℃におけるVノッチシャルピー試験を行なった。この試験結果は熱間圧延効果が小さいフィレット部の組織及び靭性の推定値を与えるものである。
【0018】
図1は上記テストで得られたフィレット部相当の靭性(シャルピー試験値、vE0)を、素材スラブ組成の炭素当量との関係で整理したグラフである。図中▲1▼の曲線は、鋼成分としてTi及びNを含有しないもの(不可避的不純物として含有するものは除く)であり、▲2▼の曲線はTi:0.010〜0.018mass%、N:0.035〜0.065mass%を含有するものである。なお図中▲印はCeq:0.039%、Ti:0.015%、N:0.0046%、Nb:0.012%を含有する鋼素材についてのものである。
【0019】
図1から分かるように、鋼成分としてTi及びNを含有しないものは、靭性は低いが、Ti及びNを適性量含有するものは全体に靭性高く、特に炭素当量が0.42mass%以下のときには100J以上の高い靭性が得られることが分かる。
【0020】
組織観察の結果、鋼成分としてTi及びNを含有しないものは、1300℃の加熱により平均オーステナイト粒径が約500μm程度まで粗大化すること、そのため冷却過程で粗大なフェライト+パーライト組織あるいは上部ベイナイト組織が生成し、上記の靭性低下の原因になっていることが分かった。一方、TiとNを適正量含有する鋼では、1300℃の加熱後であっても平均オーステナイト粒径が100μm程度と微細化であり、そのため冷却後の組織は、主として緻密なフェライト+パーライト組織となり、Ceq(炭素当量)を0.42mass%以下に制限すれば上部ベイナイト等の中間変態組織の発生も少なく、100J以上の高い靭性が得られるようになることが分かった。しかしながら、TiとNを適正量含有する鋼であっても、Nbを0.012mass%含有させたもの(▲印)はフィレット部の靭性の推定値が低い。このことについては後述する。
【0021】
上述のように鋼組成に適正量のTi及びNを含有させ、かつCeq(炭素当量)を0.42mass%以下に制限すれば圧下のほとんど掛からないフィレット部においても70Jを超える十分な靭性を確保することができる。しかしながら、H形鋼は建築用素材として用いられるとき、上記のフィレット部の靭性値をクリアすることが必要な上、高パス間温度での多層盛り溶接を行なっても十分な靭性を有することが要求される。
【0022】
図2は、前記実験1と同様の組成を有する素材からH形鋼を圧延し、そのフランジ部から試験切り出した試験片について、パス間温度550℃で最終ビードを行った場合に相当する溶接熱履歴を与え、その靭性を調べた結果である。図中の符号により示される成分系は、図1の場合と同様である。図2から鋼成分としてTi及びNを含有しないものは再現HAZ靭性は低いが、Ti及びNを適性量含有するものは全体に再現HAZ靭性高く、特に炭素当量が0.42mass%以下のときには70J以上の高い靭性が得られることが分かる。
【0023】
このようにTi、Nを適正量含有し、Ceq(炭素当量)が0.42mass%以下である場合には、H形鋼をフィレット部の靭性が高く、かつ高パス間温度での多層盛り溶接を行なっても十分な靭性を有するものとすることができる。本発明は、この知見を利用し、さらに以下の化学組成上の条件を満たすことによって必要な機械的・組織的条件を具備したH形鋼とするものである。以下、本発明に係るH形鋼の化学組成について具体的に説明する。
【0024】
C:0.07〜0.18%以下(mass%、以下同様)
Cは構造用鋼として必要な強度を得るための有効な元素であり、最低0.07%以上の含有させる必要がある。しかし、0.15%を超えて含有させると、ミクロ組織中に第2相の分率が増加し、特にCr、Mo等を合金した場合に、第2相が上部ベイナイトとなり、その中に多量のMA(島状マルテンサイト)が生成して高パス間温度での多層盛り溶接時にHAZ靭性を低下させる。そのためC含有量ので上限は0.18%とした。
【0025】
Si:0.05〜0.6%以下
Siは、鋼中に固溶し強度向上に有効であるが、その効果を得るためには0.05%以上が必要である。しかし、0.60%を超えると、MAを増加させ、HAZ靭性を低下させる。したがって、0.05〜0.6%の範囲とした。
【0026】
Mn:0.6〜1.6%以下
Mnも強度上昇に有効な元素であるが、0.6%未満ではその効果は小さく、1.6%を超えると焼入れ性を高め、溶接性を低下させるので0.6〜1.6%の範囲とした。
【0027】
P:0.020%以下、S:0.020%以下
Pは焼入れ性の上昇により強度を向上させるが、連続鋳造等の凝固段階で最終凝固部に偏析し、母材の靭性を低下させるとともに多層盛り溶接により繰返し熱履歴を受けた部分の靭性を低下させるので、上限を0.020%とする。一方、SはMnSを形成してH形鋼の延性と靭性を低下させるので、その量は低い方が望ましいが、0.020%以下であれば実用上問題がないのでその上限を0.020%とした。
【0028】
Al:0.005〜0.1%
Alは脱酸剤として添加される元素であるが、その量が0.005%未満では効果が小さく、逆に0.1%を超えて添加してもその効果が飽和するばかりか、かえって非金属介在物量の増加原因になるので、その含有量を0.005〜0.1%の範囲とした。
【0029】
Ti:0.005〜0.025%
TiはTiNを形成し、そのオーステナイト粒の微細化機能とフェライトの核生能によりフィレット部の組織の微細化、および高パス間温度多層盛り溶接時のHAZ組織の微細化に有効である。その効果は0.005%以上で現れるが、0.030%を超えでは飽和する。したがって0.005〜0.030%の範囲で含有させる。
【0030】
N:0.0030〜0.070%
Nは、Tiと結合してTiNを形成する。TiNは上述したようにオーステナイト粒の微細化に有効であるとともに、フェライトの核生成能も有しているおり、フィレット部の高靭性化および高パス間温度多層盛り溶接時にHAZ部の組織微細化に有効である。しかしながら、N量が0.0030%未満ではその効果が小さく、一方、0.0070%を超えて添加してもその効果は飽和するので0.0030〜0.0070%の範囲とした。
【0031】
Ti/N:2.0〜4.0
Ti/Nが2.0未満では、Nが化学量論的に過剰であり、Tiと結合しないフリーのNが鋼中に残留して歪時効脆化や降伏点(YP)の上昇をもたらし、建築物の耐震性能の低下を招く。一方、4.0を超えると、TiNが粗大化して鋼組織単位体積当たりのTiNの存在個数が減少し、TiNの機能が十分発揮されなくなる。そのため上限を4.0、下限を2.0とした。
【0032】
Nb:0.003%以下
Nbが0.003%以上存在すると、TiNによるフィレット部の高靭性化および高パス間温度多層盛り溶接部の組織微細化の効果が激減する(図1,2の▲印参照)ので、Nbは0.003%以下とすることが望ましい。
【0033】
Ceq(炭素当量):0.42%以下
Ceq(炭素当量)が0.42%を超えると、TiNを適正量鋼中に存在させた場合においても、フィレット部の靭性が向上せず(図1参照)、また高パス間温度多層盛り溶接時の溶融線近傍の靭性(再現HAZ靭性)が低下するので(図2参照)、Ceq(炭素当量)は0.42%以下とした。
【0034】
Ca:0.0050%以下、Al:0.06%以下、REM:0.03%以下の1種または2種以上
これらの元素は、脱酸剤として添加するものであり、上記の範囲で単独又は複合して含有させることができる。なお、Caは(Mn,Ca)(O,S)を形成してMnSを粒状化し、鋼材の靭性を向上させるととに、フェライト変態の生成核としても作用してフィレット部の靭性向上、高パス間温度多層盛り溶接時のHAZ靭性の向上にも寄与する。また、REMはREM(O,S)を形成してオーステナイトの微細化をもたらし、それによりフィレット部の靭性向上、高パス間温度多層盛り溶接時のHAZ靭性の向上に寄与する。
【0035】
Cu:0.7%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.2%以下、V:0.08%以下、B:0.0030%以下の1種または2種以上
これらの元素は母材の強度を向上させる元素であり、特に厚肉フランジのH形鋼においてその強度確保のために上記範囲で単独又は複合して含有させることができる。しかしながら、これらの過剰の含有は、Cuについては冷却時にCuが析出して靭性を低下させるため、Niについては高価でありその効果が飽和するために、CrおよびMoについては溶接性を低下させ、上部ベイナイト変態を促進させてMA(島状マルテンサイト)を増加させるために、VについてはVNあるいはVCとして析出してフィレット部の靭性を低下させるために、また、Bについては上部ベイナイト変態を促進させ低温割れを促進させるためにかえって不利益を招く。そのため、これら元素の含有量は上記範囲に限定される。
【0036】
本発明に係るH形鋼は、常法にしたがい、所定の化学組成に調整させた溶鋼をスラブあるいはビームブランク状に連続鋳造法により凝固させた素材を、再加熱した後に、ブレークダウン圧延および粗ユニバーサル圧延および仕上ユニバーサル圧延により、所定の形状に熱間圧延することにより製造する。仕上ユニバーサル圧延終了後、圧延されたH形鋼は、空冷または加速冷却する。加速冷却はフランジ部及び/又はウェブ部を水冷することにより行うことができる。
【0037】
上記圧延工程において、スラブ加熱温度は1200〜1350℃の範囲とするのがよい。加熱温度が1200℃よりも低いと、ユニバーサル圧延前のブレークダウン圧延機による孔型圧延の際の圧延負荷が大きくなって圧延パス数が増加する。それにより、ウェブ部の圧延温度が低下してウェブ部の圧延組織が極度に微細化し、場合によっては一部フェライト域で圧延されるようになり、ウェブ部の降伏点(あるいは耐力)が著しく上昇する。これは建築物の耐震性能低下の原因になる。一方、1350℃を超えての加熱は、スケールロスを助長させる。
【0038】
また、粗ユニバーサル圧延の終了温度はAr3温度以上とする必要がある。粗ユニバーサル圧延時の圧延仕上温度が、Ar3点以下となると、降伏点(あるいは耐力)が急激に上昇するためである。特に、フランジ部と比べて薄肉となっているウェブ部は圧延中の抜熱が大きく、低温となりやすいのでその圧延終了温度には十分に留意しAr3以上が維持されるようにすることが重要である。
【0039】
【実施例】
表1に示す組成を有する鋼素材を溶製し、表2に示す条件でH形鋼に圧延した。製造されたH形鋼のフランジ部及びウェブ部の機械的性質(降伏点(YP)、引張強度(TS)、降伏比(YR)及び靭性(vE0)及びフィレット部の靭性(vE0)を調査した。併せて、製造されたH形鋼のフランジ部から熱サイクル試験片を採取して入熱40kJ/cm、溶接長さ100mmの条件でCO2多層盛り溶接を連続溶接した際の最終溶接部の溶融線近傍の熱履歴(パス間温度は720℃相当)に相当する再現熱サイクル試験を行い、その再現HAZ靭性を評価した。結果は表3にまとめて示す。
【0040】
表3から分かるように、本発明によるH形鋼は、フィレット部の靭性(vE0)が100J以上と優れており、かつウェブ部とフランジ部の強度差も小さい。これに対し、比較例の場合はフィレット部の靭性が50J程度であった。また、パス間温度720℃を想定した多層盛り連続溶接における最終パス部の再現HAZ靭性は、本発明例では70J以上と良好であったが、比較例では30J程度であった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【発明の効果】
本発明により、フィレット部の靭性が70J以上と高く、かつ700℃以上の高パス間温度で多層盛り溶接を行なっても溶接熱影響部(HAZ)の靭性が70J以上を確保できる高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼を提供することができる。それにより、建築構造物の建設能率を向上することができ、併せて梁端溶接部や柱一柱溶接部の高靭化により構造物の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ti、N及びCeq(炭素当量)を変化させた組成を有する素材のフィレット部相当のシャルピー試験値を、素材スラブ組成の炭素当量の関係で整理したグラフである。
【図2】Ti、N及びCeq(炭素当量)を変化させた組成を有する素材からH形鋼を圧延し、そのフランジ部から試験切り出した試験片についての再現HAZ試験結果である。
Claims (5)
- 質量比で、C:0.07〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.6〜1.6%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Ti:0.005〜0.025%、N:0.0030〜0.070%残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、Ceq(炭素当量):0.42%以下、Ti/N:2〜4である鋼組成を有し、パス間温度720℃での多層盛り連続溶接における最終パス部のHAZ靭性が70J以上であり、かつ、フィレット部については0℃におけるVノッチシャルピー吸収エネルギーが70J以上であることを特徴とするフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼。ここにCeq(炭素当量)とは、
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14(mass%)
をいう。 - 鋼組成が、さらに、Ca:0.0050%以下、Al:0.06%以下、REM:0.03%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載のフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼。
- 鋼組成が、さらに、Cu:0.7%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.2%以下、V:0.08%以下、B:0.0030%以下の1種または2種以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載のフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼。
- 鋼組成において、Nb含有量が0.003%以下に制限されていることを特徴とする請求項1又は2記載のフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼。
- 請求項1、2、3及び4のいずれかに記載の鋼組成を有する素材を、1000〜1350℃に再加熱後、ユニバーサル圧延によりH形鋼に成形することを特徴とするフィレット部の靭性が高い高パス間温度多層盛り溶接用H形鋼の製造方法。
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