JP3726674B2 - 蛍光体層の形成材料、蛍光体層の製造方法及び蛍光表示管 - Google Patents

蛍光体層の形成材料、蛍光体層の製造方法及び蛍光表示管 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光表示管の発光部である蛍光体層に係り、特に製造時に高温で焼成しても発光駆動時の輝度が低下しない蛍光体層の形成材料及び蛍光体層の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平8−92551号には、硫化物蛍光体中にB2 3 を添加して輝度を改善した蛍光表示管の発明が記載されている。即ち、蛍光体ペーストを通常の450℃程度で焼成した場合に比べ、高温の500℃で焼成すると輝度が約半分程度に低下するが、この発明のようにB2 3 を添加すれば前記高温で焼成しても輝度は低下しないとされている。ただし、B2 3 を含む蛍光体層の製造方法については具体的な開示はない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
蛍光表示管の蛍光体層は、蛍光体ペーストをスクリーン印刷法で基板上に印刷し、基板とともに焼成することで形成できる。ここで、従来の技術で説明したように蛍光体層中にB2 3 を含ませるため、蛍光体ペースト中にB2 3 を混ぜる方法について考察する。一般にB2 3 は粉末で市販されているが、その粒径は蛍光体のスクリーン印刷で使用するスクリーンのメッシュよりも大きく、実際にはメッシュを通過することができず、そのままでは使用できない。ところが、微細な粒径のものを用意して使用しようと考えても、B2 3 は吸湿性が高いので、スクリーン印刷可能な小さい粒径の粉末を使用することは実際には困難である。さらに、仮に適当な粒径のB2 3 をビークルと混合してペーストとすることができたとしても、B2 3 がビークルと反応してペーストは容易に固くなってしまう。さらにまた、B2 3 の粉末を添加した蛍光体ペーストを用いた場合、B2 3 は昇華しやすい性質があるため、蛍光表示管の製造工程における焼成時に蛍光体ペーストからB2 3 が昇華してフィラメント状陰極に付着してエミッションを低下させるという問題もあった。
【0004】
本発明は、硫化物蛍光体を高温で焼成した場合にも輝度の低下を生じないようにするために、B2 3 を硫化物蛍光体中に添加するものであり、その添加のための新規な工夫を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載された蛍光体層の形成材料は、50mol%以上のB2 3 を含みガラス転移温度が450℃以上550℃以下であるBi2 3 −B2 3 −ZnOガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト化したことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載された蛍光体層の形成材料は、請求項1記載の蛍光体層の形成材料において、前記ガラス粉末が粒径20μm未満であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載された蛍光表示管における蛍光体層の製造方法は、
蛍光体のペーストを基板上に所定パターンで塗布して基板とともに焼成する蛍光表示管における蛍光体層の製造方法において、
50mol%以上のB2 3 を含むBi2 3 −B2 3 −ZnOガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト状にした材料を所定のパターンで基板上に塗布し、前記基板を前記ガラスのガラス転移温度である450℃以上550℃以下で加熱して前記ガラス粉末を溶融させることによりB2 3 の少なくとも一部が昇華して前記蛍光体粒子の表面に低速電子線が通過しうる程度の厚さのB2 3 の被膜を形成させることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載された蛍光表示管における蛍光体層の製造方法は、請求項3記載の蛍光表示管における蛍光体層の製造方法において、前記ガラス粉末が粒径20μm未満であることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載された蛍光表示管は、
蛍光体のペーストを基板上に所定パターンで塗布して基板とともに焼成してなる蛍光体層と、フィラメント状陰極とを有する蛍光表示管において、
前記蛍光体層が、50mol%以上のB2 3 を含むBi2 3 −B2 3 −ZnO ガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト状にした材料を所定のパターンで基板上に塗布し、前記基板を前記ガラスのガラス転移温度である450℃以上550℃以下で加熱して前記ガラス粉末を溶融させることによりB2 3 の少なくとも一部が昇華して前記蛍光体粒子の表面に低速電子線が通過しうる程度の厚さのB2 3 の被膜を形成させてなる蛍光体層であることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載された蛍光表示管は、請求項記載の蛍光表示管において、前記ガラス粉末が粒径20μm未満であることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本例では、蛍光体中にB2 3 を直接添加するのでなく、B2 3 を含むある溶融温度範囲のガラスを作製してこれを粉末とし、蛍光体粉末とともにペースト化して蛍光表示管等における高温の製造工程に供するという手段を採用した。
【0013】
即ち、蛍光体硫化物蛍光体の粉末に導電材(In2 3 又はZnO)の粉末を混合し、B2 3 を含有したガラスの粉末をさらに混合し、ビークルを加えてペースト状とし、蛍光体層の形成材料(蛍光体ペースト)を得る。
【0014】
ここで、前記B2 3 を含有したガラスの粉末について説明する。
このガラスは、PbOやR2 O(Rはアルカリ金属)を主成分として含まず、B2 3 を含有するガラス、例えばBi2 3 −B2 3 −ZnO(B2 3 は例えば50mol%以上)とする。前記ガラスのガラス転移温度は450〜550℃の範囲であることが好ましい。
【0015】
前記ガラスの粉末は例えば次のように製造できる。各成分Bi2 3 、B2 3 、ZnOを、それぞれ15%、55%、30%の割合で混合し、800〜900℃で溶融してガラス化し、常温にしてから砕き、粉末とする。粒径は小さい方が好ましいが、実験によれば20μmより小さければ効果があり、本例では好ましい値の一例として粒径1μmとした。
【0016】
次に、前記硫化物系の蛍光体として、ZnCdS:Ag,Cl、ZnS:Znを例として取り上げ、これら各蛍光体の種類ごとにB2 3 含有ガラスを含む前記蛍光体ペーストを作製し、それぞれについて蛍光表示管を作製して輝度を確認する実験を行なった。
【0017】
具体的には、前記蛍光体ペーストを蛍光体の種類ごとに別々の基板の陽極導体上に所望のパターンでスクリーン印刷し、450℃から570℃の範囲内の複数の温度において焼成し、蛍光表示管として発光させた時の輝度を測定した。比較のために、各蛍光体ごとにB2 3 が含まれていないものも作製した。
【0018】
図1〜図3は、前記ガラス粉末を蛍光体粉末に対して重量比で0.3%添加した場合の結果を示す。図1はYellowish Orange(イエロウィシュオレンジ)発光の(Zn0.4 Cd0.6 )S:Ag,Clの場合、図2はReddish Orange(レディシュオレンジ)発光の(Zn0.22Cd0.78)S:Ag,Clの場合、図3はBlue(ブルー)発光のZnS:Znの場合である。いずれの蛍光体においても、焼成温度が高くなるにつれて、B2 3 が添加されていない試料は輝度が低下するのに対し、本例のB2 3 ガラス粉末を0.3%添加した蛍光体の試料はほとんど輝度が低下しない。
【0019】
これは次のような理由によるものと考えられる。B2 3 単体は300〜350℃程度の低温域より昇華するが、B2 3 ガラスは450℃以上のガラス転移温度でのみ昇華する。即ち、B2 3 自体は350℃程度から昇華するので、B2 3 を直接蛍光体に混合しておくと、蛍光表示管の組み立て工程である封着温度の範囲でも昇華してしまい、前記昇華したB2 3 がフィラメント等に付着し、エミッションを悪化させる原因となってしまう。しかし本例では、B2 3 ガラスが溶融する450℃以下ではガラス中に含まれるB2 3 が昇華することはないので、蛍光表示管の封着工程でも前記問題は生じない。一方で蛍光体が焼成時に酸化する450℃以上の温度範囲ではガラスが溶融して成分のB2 3 が蛍光体に保護被膜を作るので、蛍光体は酸化することがなく輝度の低下が防止されるのである。
【0020】
なお、図1〜図3の結果は、B2 3 ガラス粉末の添加が450℃から570℃の温度範囲で効果があることを示しているが、蛍光表示管の製造工程における焼成工程は450℃から550℃の温度範囲で行なわれるのが通常であり、この範囲での蛍光体の酸化を防止できれば、蛍光表示管の製造技術においては充分な効果として認識できる。
【0021】
表1は、上述のように製作した蛍光表示管におけるZnCdS:Ag,Cl蛍光体のエミッション特性(μA/mm2 )の相対値を、従来例の酸化硼素(B2 3 )直接添加の場合と、本例の酸化硼素(B2 3 )含有ガラス添加の場合と、酸化硼素(B2 3 )の添加なしの場合とで比較したものである。
【0022】
【表1】
Figure 0003726674
【0023】
前述したようにB2 3 を直接添加した従来例では封着工程にてB2 3 が昇華してフィラメントにダメージを与えているのでエミッションが本例及び添加なしの100に比べて50と低くなっている。
【0024】
550℃では、B2 3 を直接添加した従来例ではさらに低くなって40の値になり、添加なしの例も蛍光体が酸化によるダメージで蛍光体に飛散しやすくなり、この影響でエミッションは40の値に落ちている。これに反し、本例では450℃から550℃の温度範囲ではエミッションは安定しており100〜90となっている。
【0025】
図4は、上述のように製作したZnCdS:Ag,Cl蛍光体の蛍光表示管におけるSO2 の発生量(蛍光表示管内のガス圧で示ス)と焼成温度の関係を示したものである。この図から分かるように、酸化硼素(B2 3 )の添加なしの場合には520℃付近からSO2 ガスの発生が急激に増加しており、ZnCdS:Ag,Cl蛍光体の酸化分解が急速に増加することがわかるのに対し、本例の酸化硼素(B2 3 )含有ガラス添加の場合には温度に係わらずSO2 ガスの発生は低い値で一定しており、B2 3 によって蛍光体が保護されていることががわかる。
【0026】
図5は、本例において、ZnS:Cu,Al蛍光体ペーストに添加する前記B2 3 添加ガラスの量を0から2重量%の範囲で変化させ、各々550℃で焼成した場合の各輝度を相対値で表したものである。このグラフから明かなように、B2 3 添加ガラスの添加量0に対する輝度55に対し、0.01%の添加で輝度65となってすでに効果が現れており、0.3%でピークの輝度95となり、その後添加量の増加につれて輝度相対値は低下していくが、添加量2%においても依然相対輝度65で効果を示している。よって、この結果からはB2 3 添加ガラスの添加量は少なくとも0.01〜2%の範囲で効果があり、さらに相対値で85以上の好結果が得られる範囲0.1〜0.5%がさらに好ましい範囲である。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、B2 3 を含むガラスからなるガラス粉末を硫化物系の蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で添加した材料を用いて蛍光表示管の蛍光体層を形成した。通常、B2 3 を蛍光体層に直接添加すれば製造工程における450℃までの温度でこれが昇華してエミッション源にダメージを与えてしまうが、本発明によればそのような恐れがない。さらに450℃から550℃の温度範囲においてガラスが溶融し、昇華したB2 3 が蛍光体層に被着してこれを保護するので、当該温度範囲における加熱で蛍光体層が劣化して発光輝度が低下すると言う不都合が回避される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施の形態においてB2 3 を含有するガラス粉末を(Zn0.4 Cd0.6 )S:Ag,Cl蛍光体粉末に対して重量比で0.3%添加した場合の結果を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態においてB2 3 を含有するガラス粉末を(Zn0.22Cd0.78)S:Ag,Cl蛍光体粉末に対して重量比で0.3%添加した場合の結果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態においてB2 3 を含有するガラス粉末をZnS:Zn蛍光体粉末に対して重量比で0.3%添加した場合の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態の蛍光表示管において(Zn0.22Cd0.78)S:Ag,Cl蛍光体が発生するSO2 の発生量(蛍光表示管内のガス圧で示ス)と焼成温度の関係を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態の蛍光表示管において、(Zn0.22Cd0.78)S:Ag,Cl蛍光体ペーストに添加するB2 3 添加ガラスの量を0から2重量%の範囲で変化させ、各々550℃で焼成した場合の各輝度を相対値で表した図である。

Claims (6)

  1. 50mol%以上のB2 3 を含みガラス転移温度が450℃以上550℃以下であるBi2 3 −B2 3 −ZnOガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト化した蛍光体層の形成材料。
  2. 前記ガラス粉末が粒径20μm未満である請求項1記載の蛍光体層の形成材料。
  3. 蛍光体のペーストを基板上に所定パターンで塗布して基板とともに焼成する蛍光表示管における蛍光体層の製造方法において、
    50mol%以上のB2 3 を含むBi2 3 −B2 3 −ZnOガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト状にした材料を所定のパターンで基板上に塗布し、前記基板を前記ガラスのガラス転移温度である450℃以上550℃以下で加熱して前記ガラス粉末を溶融させることによりB2 3 の少なくとも一部が昇華して前記蛍光体粒子の表面に低速電子線が通過しうる程度の厚さのB2 3 の被膜を形成させることを特徴とする蛍光表示管における蛍光体層の製造方法。
  4. 前記ガラス粉末が粒径20μm未満である請求項3記載の蛍光表示管における蛍光体層の製造方法。
  5. 蛍光体のペーストを基板上に所定パターンで塗布して基板とともに焼成してなる蛍光体層と、フィラメント状陰極とを有する蛍光表示管において、
    前記蛍光体層が、50mol%以上のB2 3 を含むBi2 3 −B2 3 −ZnO ガラスのガラス粉末をZnCdS:Ag,Cl蛍光体粒子又はZnS:Zn蛍光体粒子に対して0.01〜2%の範囲で混合しビークルを加えてペースト状にした材料を所定のパターンで基板上に塗布し、前記基板を前記ガラスのガラス転移温度である450℃以上550℃以下で加熱して前記ガラス粉末を溶融させることによりB2 3 の少なくとも一部が昇華して前記蛍光体粒子の表面に低速電子線が通過しうる程度の厚さのB2 3 の被膜を形成させてなる蛍光体層であることを特徴とする蛍光表示管。
  6. 前記ガラス粉末が粒径20μm未満である請求項5記載の蛍光表示管。
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