JP3713214B2 - 伝送路特性測定器および回り込みキャンセラ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定の周波数チャネルのサブキャリア信号を多重化して含むOFDM(Orthogonal Frequency Division Multi-plexing;直交周波数分割多重)信号の伝送路特性の測定に関し、特に、単一周波数ネットワーク(SFN:Single Frequency Network)における中継装置等において生じる信号の回り込み波の特性の測定、および回り込み波の消去に関する。
【0002】
【従来の技術】
OFDM通信方式による単一周波数ネットワーク(SFN:Single Frequency Network)が構成された場合、ネットワーク内に設けられる中継装置では、同一周波数の電波(信号)で送受信を行うため、再送信電波(信号)の回り込みが問題となることがある。この回り込み現象について、図を参照して説明する。図4は従来の中継装置の概略構成を、図5は回り込みが生じた場合の伝搬遅延特性の模式図を、また図6は実際に回り込みが発生した場合の伝搬遅延特性の一例を示す。
【0003】
図4に示すように、中継装置50は、上位局から所定の搬送周波数fの信号を受信する受信アンテナ52と、下位局に向けて同じ搬送周波数fの信号を送信する送信アンテナ54と、増幅処理等の中継処理を行う中継処理部56と、を備える。
【0004】
ここで、回り込み波の伝達関数をR(ω)[ω:角周波数]、中継処理の伝達関数をG(ω)、および、
【数1】
とすると、観測点P(図4)における系全体の伝達関数S(ω)は、
【数2】
と表すことができる。ここに、αi:振幅比、τi:遅延時間、θi:位相、また、R(ω),G(ω)およびS(ω)は複素数である。この場合の伝搬遅延特性は、図5に示すように、直接波(p0;遅延無し)とともに回り込み波の各次数成分(p1[1次],p2[2次],・・・)に応じた複数のインパルスを含む。このうち、2次以上の成分は、回り込み波が繰り返し帰還する(帰還発振する)ことにより生じたものである。
【0005】
単一の回り込み波の場合(伝搬遅延特性:図5)は、2次以上の成分が含まれていてもその解析は比較的容易であるが、特性(振幅比,遅延時間,位相など)の異なる回り込み波が複数存在した場合には(伝搬遅延特性:図6)、その解析が難しくなってしまう。
【0006】
そこで、図7に示すように、従来の伝送路特性の測定では、同一チャネルでの上位局(親局)からの送信を停止して受信器58と送信器60との間を遮断するとともに、実際の送信信号と同じ信号を送信器60から送信することにより、回り込みの2次以上の成分を無くし1次成分のみを再現させ、特性測定器62で伝搬遅延特性を取得していた。図8に、このような手法によって測定した伝搬遅延特性の一例を示す。但し、この場合には、図8の破線より右側の伝搬遅延特性のみが得られる。この図8は、図6と同じ回り込み状況下で測定した伝搬遅延特性である。図からわかるように、特性の異なる回り込み波が複数存在する場合にも、この手法によって得られた結果(例えば伝搬遅延特性[図8])には各回り込み波の1次成分しか出現しないので、比較的容易にかつ精度良く測定を行うことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の測定手法では、上位局(親局)からの送信を停止するとともに中継装置の受信器と送信器との間を遮断するため、測定中には本来のOFDM信号の中継処理を行うことができない。このため、OFDM信号の送信開始前や送信休止中など、中継の必要のない状況でしか測定を行うことができない。また、測定を終えて送信を再開した後(すなわち中継開始後)に回り込み状況が変化する場合もあり、その場合、上記従来の手法では迅速に対応できないという問題があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み、本発明にかかる伝送路測定器は、所定の周波数チャネルのサブキャリア信号を多重化して含むOFDM信号の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器において、受信OFDM信号の直接波成分と回り込み波の各数次成分とを含む遅延プロファイルデータをフーリエ変換して伝達関数(またはエネルギスペクトル)を算出する伝達関数算出部を備え、前記算出された伝達関数(またはエネルギスペクトル)の逆数に基づいて直接波成分と回り込み波の1次成分とのみからなる伝送路特性を取得することを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明にかかる伝送路特性測定器の測定原理について説明する。上記の系全体の伝達関数S(ω)[スペクトル]の逆数T(ω)[=1/S(ω)]は、式(2)より、
T(ω) = 1− C(ω) ・・・(3)
である。この逆数T(ω)は、直接波(遅延無し)と回り込み波の1次成分のみを含むことがわかる。すなわち、本発明によれば、電界強度のスペクトルT(ω)の逆数から回り込み波の1次成分C(ω)をより容易に抽出し、その特性をより容易に取得することができる。また、この逆数T(ω)の算出および伝送路特性の測定は、上位局(親局)からの送信を停止することなく、また中継装置の受信器と送信器との間を遮断することもなく、中継処理中に行うことができるので、本発明によれば、中継処理開始後の伝送路特性の変化にもより迅速に対応することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の第一の実施形態にかかる伝送路特性測定器について図1および図2を参照して説明する。図1は、伝送路特性測定器10のブロック図を、また図2は、伝送路特性測定器10の各部の処理によるデータの変化を示す説明図である。なお、図2では、説明を簡単にするため、1波回り込み成分のみを含む遅延プロファイルデータの変化について示す。
【0011】
本実施形態にかかる伝送路特性測定器10は、受信されたOFDM信号より取得された遅延プロファイルデータに対してその複素共役成分を生成付加する複素共役成分生成部12と、複素共役成分を含む遅延プロファイルデータに対して離散フーリエ変換処理を行うことによりスペクトルを算出するFFT処理部14と、算出されたスペクトルの逆数のスペクトルを算出する複素逆数算出部16と、逆数のスペクトルに対して逆離散フーリエ変換処理を行うIFFT処理部18と、を備える。
【0012】
この伝送路特性測定器10に入力される遅延プロファイルデータ(図2(a))は、公知の遅延プロファイル測定手法(例えば、相関法,インパルス法,あるいはエネルギスペクトルに対して逆フーリエ変換を施す方法など)により取得することができる。このうち、相関法またはエネルギスペクトルに対して逆フーリエ変換を施す方法によって取得された遅延プロファイルデータの場合、そのデータは、OFDM信号の有効シンボル長Tより短い遅延時間(例えば有効シンボル長Tに対して遅延時間τ:0〜T/2)に対するデータであるのが望ましい。なお、伝送路特性測定器10は、このようにしてOFDM受信信号から遅延プロファイルを取得する図示しない遅延プロファイル測定部を、複素共役成分生成部12(またはFFT処理部14)の前段に備えてもよいし、予め取得され所定の外部記憶装置(例えばフロッピーディスク,ハードディスク等)に格納された遅延プロファイルデータをその記憶装置から取得する機構(例えばフロッピーディスクドライブ,モデム等)を備えてもよい。
【0013】
複素共役成分生成部12は、以降の処理を複素数データによって行うため、入力された遅延プロファイルデータが複素共役成分の無いデータであった場合には、その複素共役成分を生成付加する。より具体的には、複素共役成分生成部12は、複素共役成分を含まない遅延プロファイルデータP(τ)(τ:遅延時間;図2の(a))を、遅延時間0の時点を中心に時間方向に折り返した鏡像成分
P*(τ)=P(−τ) ・・・ (4)
(ここに*は複素共役を示す)を生成付加する(図2の(b))。なお、伝送路特性測定器10に入力された遅延プロファイルデータが既に複素共役成分を含む場合には、そのデータはこの複素共役成分生成部12を介さずにFFT処理部14に入力される。
【0014】
FFT処理部14は、複素共役成分を含む遅延プロファイルデータ(すなわち、P(τ)およびP*(τ))に離散フーリエ変換を施し、OFDM受信信号の離散的な周波数毎のスペクトルS(n)(ただし、0≦n<N,N:離散フーリエ変換のポイント数;図2(c))を取得する。このS(n)は、離散的なスペクトルに相当する。なお、S(n)の取得点(すなわちn)は、サブキャリア信号の周波数に必ずしも整合させる必要はなく、nの取得点数NもOFDM信号(すなわちOFDM信号に含まれるサブキャリア信号)の周波数帯域から、必要な精度を確保できる程度に適宜選択すればよい。
【0015】
複素逆数算出部16は、このスペクトルS(n)の振幅の二乗値(すなわちエネルギスペクトル)
|S(n)|2=S(n)・S*(n)=[Re{S(n)}]2+[Im{S(n)}]2 ・・・(5)
に対し、その逆数
T(n) = A/|S(n)|2 ・・・(6)
を算出する(ただし、Aは補正係数であり、*は複素共役を示す;図2(d))。なお、補正係数Aは、これ以降の算出結果の電界強度(受信電力)レベルを調整するために設定する。この補正係数Aは、例えば、スペクトルS(n)から算出した値(例えばS(n)の信号強度の平均値[複数のタイミング分のスペクトルS(n)の所定周波数帯域での平均値])の二乗値としてもよいし、予め定めた所定値としてもよい。
【0016】
IFFT処理部18は、逆数のエネルギスペクトルT(n)に対して逆離散フーリエ変換を行う。上述したように、逆数のエネルギスペクトルT(n)を逆離散フーリエ変換した結果では、回り込み波の2次以上の高調波成分が除去され、直接波と回り込みの1次成分が残存する。すなわち、本実施形態にかかる伝送路特性測定器10によれば、回り込み波の1次成分に対する特性(振幅比,遅延時間,位相)をより容易に取得することができる(図2(e))。なお、伝送路特性測定器10の出力を鏡像成分(遅延時間τがマイナスの成分)を除去した出力としてもよい(図2(f))。以上のような処理により、実際には、多波回り込み成分を含む場合の伝搬遅延特性として、図8に示したのと同様の伝搬遅延特性を得ることができる。また、このIFFT処理部18による逆離散フーリエ変換の算出結果は複素数値であるので、以上の処理結果から、各(遅延)時間ポイントにおける振幅、位相を取得することもできる。そして、IFFT処理部18は、算出結果に対して電界強度による補正を行う。より具体的には、例えば直接波の電界強度(または受信電力)を基準(0[dB])とした相対値で示すよう、対数表示値を直接波の電界強度(受信電力)で除算した値を出力値とする。なお、IFFT処理部18は、この後の任意のタイミングで各特性の取得を行うために、取得した複素数値自体を図示しない記憶部に保存しておいても良い。
【0017】
次に、本発明の第二の実施形態にかかる伝送路特性測定器について図1および図2を参照して説明する。上記第一の実施形態では、遅延プロファイルデータは複素共役成分生成部12に入力されたが、本実施形態では、遅延プロファイルデータは複素共役成分生成部12を介さずにFFT処理部14に入力される。すなわち、図2の(b)を生成する処理が無くなる。
【0018】
本実施形態にかかる伝送路特性測定器10は、受信されたOFDM信号より取得された遅延プロファイルデータに対して離散フーリエ変換処理を行うことにより伝達関数を算出するFFT処理部14と、算出された伝達関数の逆数の伝達関数を算出する複素逆数算出部16と、逆数の伝達関数に対して逆離散フーリエ変換処理を行うIFFT処理部18と、を備える。
【0019】
この伝送路特性測定器10に入力される遅延プロファイルデータ(図2(a))は、公知の遅延プロファイル測定手法(ここでは、伝達関数[例えばパイロット信号を求めて用いる]に対して逆フーリエ変換を施す方法)により取得することができる。遅延プロファイルデータのデータ長(時間方向)は、OFDM信号の有効シンボル長Tとする。なお、伝送路測定測定器10は、このようにしてOFDM受信信号から遅延プロファイルを取得する図示しない遅延プロファイル測定部を、FFT処理部14の前段に備えてもよいし、予め取得され所定の外部記憶装置(例えばフロッピーディスク,ハードディスク等)に格納された遅延プロファイルデータをその記憶装置から取得する機構(例えばフロッピーディスクドライブ,モデム等)を備えてもよい。
【0020】
FFT処理部14は、遅延プロファイルデータに離散フーリエ変換を施し、OFDM受信信号の離散的な周波数毎の伝達関数S1(n)(ただし、0≦n<N,N:離散フーリエ変換のポイント数;図2(c))を取得する。
【0021】
複素逆数算出部16は、この伝達関数
S1(n)=Re{S(n)}+Im{S(n)} ・・・(7)
に対し、その逆数
【数3】
を算出する。
【0022】
IFFT処理部18は、逆数の伝達関数T1(n)に対して逆離散フーリエ変換を行う。上述したように、逆数の伝達関数T1(n)を逆離散フーリエ変換した結果では、回り込み波の1次成分が残存する。すなわち、本実施形態にかかる伝送路特性測定器10によれば、回り込み波の1次成分に対する特性(振幅比,遅延時間,位相)をより容易に取得することができる(図2(f))。以上のような処理により、実際には、多波回り込み成分を含む場合の伝搬遅延特性として、図8に示したのと同様の伝搬遅延特性を得ることができる。また、このIFFT処理部18による逆離散フーリエ変換の算出結果は複素数値であるので、以上の処理結果から、各(遅延)時間ポイントにおける振幅、位相を取得することもできる。そして、IFFT処理部18は、取得した複素数値自体を図示しない記憶部に保存しておいても良い。
【0023】
次に、本発明の第三の実施形態にかかる回り込みキャンセラについて図3を参照して説明する。回り込みキャンセラ30を含むOFDM中継装置40は、上位側装置から所定の搬送周波数fの信号を受信する受信アンテナ42と、下位側装置に向けて同じ搬送周波数fの信号を送信する送信アンテナ44と、増幅処理等の中継処理を行う中継処理部46と、を備える。そして回り込みキャンセラ30は、受信アンテナ42と送信アンテナ44との間(本実施形態では、受信アンテナ42と中継処理部46との間;中継処理部46に入力される前)に設けられる。この回り込みキャンセラ30は、回り込み波を消去する回り込み波消去部32と、回り込み波の特性を検出し、回り込み波消去部32の制御パラメータを算出する制御パラメータ算出部34とを備える。
【0024】
このうち制御パラメータ算出部34は、上述した遅延プロファイル測定部と上記第一および第二の実施形態にかかる伝送路特性測定器10とを含み(いずれも図示せず)、上記逆数の伝達関数に対する逆離散フーリエ変換の算出結果より取得した複素数値または各回り込み波の特性値(振幅比,遅延時間,位相,伝搬遅延特性など)に基づいて制御パラメータを算出する。
【0025】
また回り込み波消去部32は、加算器36とフィルタ38(例えば複素FIRフィルタ)とを含む。加算器36は、受信アンテナ42で受信したOFDM信号からフィルタ38の出力信号を減算することで、受信信号に含まれる回り込み波(1次成分以上所定次数成分まで)を消去する。またフィルタ38は、加算器36から出力された信号の特性を制御パラメータに基づいて変化させ、これをフィルタ38の出力信号とする。このような構成において、制御パラメータ算出部34は、制御パラメータを、直接波成分を含まず、回り込み波の次数成分を該受信信号に同期して含む信号をフィルタ38から出力させるよう、係数(例えば複素FIRフィルタのタップ係数)を算出する。尚、係数更新の際にはよく知られた更新係数などを導入することもできる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、多数の回り込み波が生じた状況下でも、回り込み波の特性をより容易に測定することができる。また、中継処理を遮断することなく随時回り込み波の特性を検出することができるので、中継処理開始後に回り込み状況が変化したような場合にも、より迅速かつより確実に回り込み波の特性を検出し、これを消去することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第一および第二の実施形態にかかる伝送路特性測定器の概略構成図である。
【図2】 本発明の第一および第二の実施形態にかかる伝送路特性測定器の各部の処理によるデータの変化を示す説明図である。
【図3】 本発明の第三の実施形態にかかる回り込みキャンセラの概略構成図である。
【図4】 OFDM通信方式の単一周波数ネットワーク中継装置の概略構成および伝達関数を示す説明図である。
【図5】 OFDM通信方式の単一周波数ネットワーク中継装置において1波回り込みが生じた場合の伝搬遅延特性を模式的に示した説明図である。
【図6】 OFDM通信方式の単一周波数ネットワーク中継装置において多波回り込みが発生した場合の伝搬遅延特性の一例である。
【図7】 伝搬遅延特性の測定を行うための従来の装置構成を示す図である。
【図8】 図6の伝搬遅延特性から回り込み波の2次以上の高調波成分を除去した伝搬遅延特性の一例を示す図である。
【符号の説明】
10 伝送路特性測定器、12 複素共役成分生成部、14 FFT処理部、16 複素逆数算出部、18 IFFT処理部、30 回り込みキャンセラ、32 回り込み波消去部、34 制御パラメータ算出部、36 加算器、38 フィルタ、40 OFDM中継装置、42 受信アンテナ、44 送信アンテナ、46 中継処理部。
Claims (2)
- 所定の周波数チャネルのサブキャリア信号を多重化して含むOFDM信号の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器において、
受信OFDM信号の直接波成分と回り込み波の各次数成分とを含む遅延プロファイルデータをフーリエ変換して伝達関数(またはエネルギスペクトル)を算出する伝達関数算出部を備え、
前記算出された伝達関数(またはエネルギスペクトル)の逆数に基づいて直接波成分と回り込み波の1次成分とのみからなる伝送路特性を取得することを特徴とする伝送路特性測定器。 - 所定の周波数チャネルのサブキャリア信号を多重化して含むOFDM信号の回り込み成分を消去する回り込みキャンセラであって、
受信OFDM信号の直接波成分と回り込み波の各次数成分とを含む遅延プロファイルデータからフーリエ変換して算出された伝達関数(またはエネルギスペクトル)の逆数に基づいて取得された直接波成分と回り込み波の1次成分とのみからなる伝送路特性に基づいて、前記回り込み成分を消去することを特徴とする回り込みキャンセラ。
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