JP3698051B2 - モータ駆動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気調和機などに用いられるモータを任意の周波数で駆動するインバータを用いた位置センサレス方式のモータ駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、空気調和機の圧縮機などのモータを任意の周波数で駆動するモータ駆動装置では、複数のスイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された環流ダイオードとを3相のブリッジに構成したインバータを備え、前記インバータに接続されるモータにはエンコーダなどの位置センサを設けず、すなわち位置センサレスで前記モータのロータの磁極の位置(以下、回転子位置と称す)を検出するようにしたモータ駆動装置が広く使用されている。
【0003】
たとえば、位置センサレス方式として、各相について上側スイッチング素子と下側スイッチング素子との両方を遮断状態として通電しない状態を形成して電流がゼロになる期間を設け、その期間に検出される回転子の磁極に誘起される誘起電圧と所定の設定値とを比較し、その比較結果に基づいて回転子位置を検出する。その検出された回転子位置に基づいて印加電圧を切り替えてモータを回転させていた。これは、120度通電と言う通電方式であり、モータに流れる相電流は矩形波状となる。このような方式として、特開平2−32790号公報、特開昭59−25038号公報などに開示された手段がある。
【0004】
さらに、電流がゼロになる期間に検出される誘起電圧の値をA/D変換により読み取り、その誘起電圧の時間変化に基づいて回転子位置を推定する方式が提案されている。このような方式として、特開平7−123773号公報などに開示された手段がある。
【0005】
また、さらに広角通電を実現する手段として、誘起電圧のゼロクロスを検出せずに回転子位置を推定して直流ブラシレスモータを駆動し、120度以上の広角通電を実現して高効率で低振動なモータ駆動装置として、同一相のスイッチング素子のデツドタイム期間中の端子電圧を電圧出力回路により検出し、電流符号変化検出部が前記端子電圧から相電流の符号が変化したタイミングを検出し、電流符号変化検出部から出力された相電流符号変化タイミングと相印加電圧との位相に基づいて印加電圧制御回路がスイッチング素子変調回路に相印加電圧指令を入力するように構成された手段が提案されている(特願平10−195396号:「モータの制御装置」)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これらの従来のモータ駆動装置において、120度通電方式のモータ駆動装置では、電流波形が通電角120度とした矩形波となるため、電流が電気角で60度ごとに大きく変動し、それに起因する騒音、すなわちコギング成分の騒音がかなり大きくなっていた。また、モータ効率を最大にするためにはモータの誘起電圧と同形状の電流により駆動することが必要であるが、矩形波状の電流であるため効率の最大化は実現できなかった。
【0007】
また、無通電区間におけるモータの端子電圧を直接にA/D変換し、その値に基づいて回転子位置を推定するモータ駆動装置では、前記端子電圧の時間に対する変化率を用いて相の切り替えポイントを決定していた。そのため、前記端子電圧の時間に対する変化を検出するのに充分な広さの無通電区間が必要であり、それにより通電角を120度よりも広角で駆動することが困難であった。また、モータの磁極により発生する誘起電圧の値が、直線のような1次の形状ではない場合、推定した回転子位置に大きな誤差が発生し、効率が大きく低下するとともに、振動、騒音も増大していた。とくに、リラクタンス分が大きいモータの種類によっては、誘起電圧の波形は直線形状ではなく、コギング成分からなる高次成分を有した形状となっており、単に直線と仮定して転流タイミングを決定した場合には位相誤差が大きくなり、駆動性能が低下するものであった。さらに、モータの運転条件、たとえば、温度などによりモータ常数(インダクタンス、抵抗など)が変化し、その誤差から回転子位置の推定値が誤差を持つものであった。
【0008】
また、通電角を120度よりも広角にすることにより効率向上および振動騒音低下を図ったモータ駆動装置も、たとえば、実公昭59−15269号公報に開示された「ブラシレスモータ駆動回路」のように使用されているが、通電角を120度から広角に変化させる場合、出力電圧が変化するため、回転速度変動が発生していた。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するもので、モータの端子電圧を検出し、その端子電圧と、記憶されたモータの端子電圧の値のモデルとからモータの回転子位置を推定し、さらに、誘起電圧のゼロクロス点を検出し、そのゼロクロス点の情報を用いて前記モデルを補正することにより、常に正確なモデルにより回転子位置を推定し、運転条件の変動に対して常に最適な設定で自動的に運転する低振動、低騒音、高効率のモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係わる本発明は、複数個のスイッチング素子と、モータの端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記モータの回転子位置に対応する前記端子電圧の値のモデルを記憶するモデル記憶手段と、検出された端子電圧値と前記モデルの値とから回転子位置を推定する回転子位置推定手段と、前記推定された回転子位置に対応して前記スイッチング素子を駆動するゲート信号を出力して前記モータを通電駆動する通電制御手段と、通電角を通電制御手段に設定する通電幅設定手段とを備え、直流電源を入力として前記モータを交流駆動するモータ駆動装置において、前記モデル記憶手段に記憶されたモデルを補正するモデル補正手段を設け、前記モデル補正手段が、前記端子電圧の値と、その値を検出した時点と誘起電圧のゼロクロス点との時間差、とから前記モデルを一定周期で補正するモードと、通常運転動作中の動作を表すモードとを有するとともに、前記通電幅設定手段は、前 記モデルを補正するモードより、通常運転動作中の動作を表すモードの方の通電角を大きく設定するようにしたモータ駆動装置である。
【0011】
本発明により、端子電圧とモデルとにより回転子位置を推定して制御するので制御の簡略化とともに広角度通電を可能にし、また、前記モデルをモータの実状に基づいて補正するので、常に最適な動作を行うモータ駆動装置を実現することができる。
【0012】
本発明により、モデル補正のための誘起電圧のゼロクロス点を確実に検出することができ、モデルを常に正確に把握することができる。
【0013】
請求項2に係わる本発明は、通常運転時には、120度以上、180度未満の通電角で駆動するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置である。
【0014】
本発明により、通常運転時には広角通電として高効率、低振動、低騒音を実現することができる。
【0015】
請求項3に係わる本発明は、モデル補正手段は、起動時、もしくは所定の周期でモデル補正を実行するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置である。
【0016】
本発明により、定期的にモデルを補正し、モータの変化を把握して正確なモータ駆動装置を実現する。
【0017】
請求項4に係わる本発明は、通電制御手段は、通電角を変更するとき、スイッチング素子に出力するパルス幅をその通電角に応じて連続的に変更するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置である。
【0018】
本発明により、円滑な通電角変更時の運転が実現される。
【0019】
【発明の実施の形態】
請求項1に係わる本発明は、複数個のスイッチング素子と、モータの端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記モータの回転子位置に対応する前記端子電圧の値のモデルを記憶するモデル記憶手段と、検出された端子電圧値と前記モデルの値とから回転子位置を推定する回転子位置推定手段と、前記推定された回転子位置に対応して前記スイッチング素子を駆動するゲート信号を出力して前記モータを通電駆動する通電制御手段と、通電角を通電制御手段に設定する通電幅設定手段とを備え、直流電源を入力として前記モータを交流駆動するモータ駆動装置において、前記モデル記憶手段に記憶されたモデルを補正するモデル補正手段を設け、前記モデル補正手段が、前記端子電圧の値と、その値を検出した時点と誘起電圧のゼロクロス点との時間差、とから前記モデルを一定周期で補正するモードと、通常運転動作中の動作を表すモードとを有するとともに、前記通電幅設定手段は、前記モデルを補正するモードより、通常運転動作中の動作を表すモードの方の通電角を大きく設定するようにしたモータ駆動装置とする。
【0020】
本発明において、モデル記憶手段は、モータの端子電圧の値のモデルを回転子位置に対応して記憶しているものである。実施例では、端子電圧を回転角度で表した回転子位置θに対して折れ線近似しており、特定の回転子位置θ1、・・、θ4を折れ点とし、それらの位置における端子電圧をパラメータX1、・・、X4とし、さらにパラメータXは回転速度ωに対して直線的に変化するとして、その変化係数をパラメータFX1、・・、FX4とし、これらのパラメータXとパラメータFXとをモデルの値として記憶している。ただし、これらに限定されるものではない。また、回転子位置を回転角度で示したが、回転時間差で表現してもよいことは言うまでもない。
【0021】
回転子位置推定手段は、回転子位置を推定する手段であり、電圧検出手段により検出したモータの端子電圧と前記モデルの値とから回転子位置を推定する。回転子位置をモデルから推定して制御することにより、回転子位置を常にリアルタイムに確定する作業を不要とし、制御を簡略化するとともに、処理の高速化に寄与する。なお、端子電圧の値には基準電位が必要であり、実施例では、基準電位として直流部電圧検出手段で検出した直流部の電圧の1/2を用いている。
【0022】
モデル補正手段は、前記モデルの値を駆動中の実状に合わせて補正する手段であり、端子電圧を検出した時点と誘起電圧のゼロクロス点との時間差は、回転時間で表現した回転子位置を意味し、要は、その時点における回転子位置の確定値である。このように、端子電圧と回転子位置の確定値とから前記モデルを補正することにより、モデルをモータの実状に合致したものにする。実施例では、上記のように、回転子位置を回転角度で表現し、この場合、回転子位置の確定値は、端子電圧から無通電区間における誘起電圧のゼロクロス点をリアルタイムに検出し、回転子の現位置の前記ゼロクロス点に対する時間的相対位置と回転速度とから角度表現の回転子位置θとして確定する。このモデル補正には前記ゼロクロス点を検出できるだけの広い無通電区間が必要であり、高効率駆動などを目的とした広角通電の駆動時にはモデル補正が困難となるので、狭角通電、たとえば120度通電の駆動状態でモデル補正を行う。なお、回転子位置の推定には前記ゼロクロス点の検出が不要であることは言うまでもない。
【0023】
本発明において、通電幅設定手段は、モータを駆動する通電角を通電制御手段に設定する手段であり、上記のように、モデル補正時にはモデル補正手段が誘起電圧のゼロクロス点を必要とすることから、ゼロクロス点を検出可能なだけの広い無通電区間を確保できるように、通電角を通常運転時よりも狭く設定する。たとえば、120度通電に切り替えて設定する。
【0024】
請求項2に係わる本発明は、通常運転時には、120度以上、180度未満の通電角で駆動するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とする。
【0025】
本発明において、通電制御手段は、通電角を120度以上、180度未満の広角通電でスイッチング素子を駆動し、高効率、低振動、低騒音を実現する。
【0026】
請求項3に係わる本発明は、モデル補正手段は、起動時、もしくは所定の周期でモデル補正を実行するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とする。
【0027】
本発明において、モデル補正手段は、起動時、もしくは所定の周期、たとえば1分ごとにモデル補正し、常に実状に合致した正確なモデルに補正して環境変化などに対応できるようにする。
【0028】
請求項4に係わる本発明は、通電制御手段は、通電角を変更するとき、スイッチング素子に出力するパルス幅をその通電角に応じて連続的に変更するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とする。
【0029】
本発明において、通電制御手段は、通電幅設定手段の設定にしたがって通電角を変更するとき、通電角の変更に伴ってモータへの出力が変化しないように、スイッチング素子への出力パルス幅を通電角に対応して連続的に変更する。
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0031】
【実施例】
以下、本発明のモータ駆動装置の一実施例について図面を参照しながら説明する。図1は本実施例の構成を示すブロック図である。図1において、交流電源1からの入力を整流回路2で直流に整流された直流電圧は、モータ駆動装置3におけるスイッチング素子5a 〜5f と環流ダイオード6a 〜6f との対で構成されたインバータにより3相の交流電圧に変換され、それによりブラシレスDCモータであるモータ4が駆動される。
【0032】
モータ駆動装置3において、電圧検出手段7a 〜7c は、モータ4の端子電圧を検出し、回転子位置推定手段8は、電圧検出手段7a 〜7b で検出されたモータ4の端子電圧を用いてモータ4の回転子位置を推定し、通電制御手段9は、推定された回転子位置の情報に基づいて、モータ4を駆動するためのドライブ信号に対応して、スイッチング素子5a 〜5f を駆動するための信号を出力する。また、通電制御手段9は、前記推定された回転子位置から推定されるモータ4の回転子速度と、外部から与えられる目標速度との偏差の情報から、回転子速度が目標速度となるようにスイッチング素子5a 〜5f の通電を制御する。
【0033】
回転子位置推定手段8においては、電圧検出手段7a 〜7c により検出された端子電圧と、直流部電圧検出手段10により検出された直流部の電圧と、モデル記憶手段11に記憶されたモータの端子電圧のモデル値とを使用して、モータの回転子位置を推定する。また、モデル補正手段12は、定期的にモデル記憶手段11に記憶されたモデルを補正するために、モータの誘起電圧のゼロクロスを検出するために必要となる通電角を通電幅設定手段13に出力する。さらに、通電幅設定手段13は、モデル補正手段12から入力されたモデル補正に必要な通電角を実現するように通電制御手段9を制御する。モデル補正手段12は、誘起電圧のゼロクロス点とモータの端子電圧値の情報を用いてモデルに補正を加える。
【0034】
以下、本実施例における回転子位置推定手段8の動作原理について説明する。図2は、モータ通電時の1相の端子電圧の一例を示す波形図である。その相のPWM出力を停止した状態の無通電時には、他の相のPWM信号がオンであるタイミングにおいて、その相の誘起電圧が端子電圧として図2に示したように現れる。
【0035】
一般的なブラシレスモータのモータ駆動装置では、この誘起電圧のモータの仮想中性点電位、もしくは直流部電圧VDCの1/2の電圧との交差点を前記ゼロクロス点として検出し、そのゼロクロス点を回転子位置の基準点として、回転子位置を常に確定して転流動作などを実行しているが、本実施例のモータ駆動装置では、回転子位置を推定して制御する。すなわち、端子電圧をA/D変換により検出した後、その値とモデル記憶手段11に記憶された誘起電圧のモデル値と比較することによりモータの回転子位置を推定して決定する。
【0036】
たとえば、時刻A点で検出された端子電圧がVAであった場合を考える。いま、モデル記憶手段11に記憶されたモータの端子電圧から得られる誘起電圧の値のモデルとして、図3に示したようなモデルが設定されていたとする。ロータ回転角度、すなわち回転子位置θに対応して誘起電圧の値が3本の直線で近似されているとし、さらに、モデルのパラメータX1、X2、X3、X4が、図4に示したように、モータの回転速度ωに対応して直線的に変化すると考える。現在のモータの回転速度がRAであったとすると、端子電圧VA、回転速度ω=RAから、パラメータX1、X2、X3、X4は、
X1=FX1×RA
X2=FX2×RA
X3=FX3×RA
X4=FX4×RA
となり、回転子位置θは、 VA<X2の場合、
θ=θ2−(θ2−θ1)×(X2−VA)/(X2−X1)
X2<VA<X3の場合、
θ=θ2+(θ3−θ2)×(VA−X2)/(X3−X2)
VA>X3の場合、
θ=θ3+(θ4−θ3)×(VA−X3)/(X4−X3)
と推定される。このように、検出された端子電圧と回転速度とから回転子位置が推定される。
【0037】
つぎに、本実施例におけるモデル補正手段12の動作原理について説明する。本実施例のモータ駆動装置が、ある回転速度RBでモータを駆動している場合の端子電圧の波形が図5に示したようであったとする。すなわち、誘起電圧のゼロクロス点を観測しつつ、ゼロクロス点の前後の端子電圧とそれに対する回転子位置が観測されているとする。その場合、モデルにおける回転子位置θ1、θ2、θ3、θ4対して、観測された端子電圧からパラメータX1、X2、X3、X4を決定する。その後、決定されたX1、X2、X3、X4と、そのときの回転速度RBからパラメータFX1、FX2、FX3、FX4が、
FX1=X1/RB
FX2=X2/RB
FX3=X3/RB
FX4=X4/RB
により、決定される。
【0038】
たとえば、図6に示したように、前回検出された回転速度RBのときの回転子位置θ4の端子電圧値X4’が、今回はX4と変化した場合、新しいモデルは補正後のX4で示したようなモデルに補正され、FX4’もFX4に補正される。
【0039】
以上の手順により、観測された端子電圧の値と、誘起電圧のゼロクロス点からの回転子位置とから、モデル記憶手段11に記憶されたモデルを補正することができ、それにより、モータ駆動時の運転環境の変化によるモデル変動に対応して、常に正確な回転子位置の推定を実現することができる。
【0040】
つぎに、本実施例における通電幅設定手段13の動作原理について説明する。モデル補正手段12は、上記のようにしてモデル記憶手段11のモデルを観測された端子電圧により補正を加えるが、その場合、そのときの位相基準値が必要となるため、誘起電圧のゼロクロス点が必要となる。そのため、モデル補正時には、ゼロクロス点の検出が可能となるだけの無通電区間が確保されていなければならない。一方、モデル補正を実施しない場合には、効率向上、振動、騒音の低減のために、できるだけ広角で運転することが望ましい。したがって、モデル補正時は120度通電で駆動し、通常運転時には通電角が120度より大きい広角通電により通電することが望ましい。
【0041】
これを実現するために、本実施例のモータ駆動装置では、通常運転時には広角通電を通電幅設定手段13に設定し、モデル補正時には120度通電を通電幅設定手段13に設定する。通電幅設定手段13は、その設定に従い、図7に示したような通電方式により、通常運転時には図7(B)のような広角通電方式により、またモデル補正時には図7(A)のような通電方式によりスイッチング素子の通電を制御することで実現している。そのときのモータの端子電圧は、図8に示したようになり、各々の無通電区間の端子電圧によりモータの回転子位置を推定する。
【0042】
さらに、このモデル補正の処理を、たとえば、1分ごとのように一定周期で実行する。これにより、モータの温度上昇などの環境の変化により発生するモータの誘起電圧定数の変化などに対応して、モータの回転子位置を正確に推定し、それにより高効率、低振動、低騒音のモータ駆動を、運転環境が変化しても確実に実行することができる。
【0043】
以上のモデル補正の動作をフローチャートに従って説明する。図9は、モデル補正の動作を示すフローチャートである。まず、ステップS1において端子電圧を検出し、ステップS2において検出した端子電圧をメモリに格納する。つぎに、ステップS3において、検出された端子電圧からモデル記憶手段11に記憶されたモデルに基づいてモータの回転子位置を推定する。つぎに、ステップS4において現在のモードに従って2通りの動作に分岐する。このモードは、モデル補正の動作中を表すゼロクロス点検出モードと、通常運転動作中を表す広角通電モードである。ゼロクロス点検出モード時には、誘起電圧のゼロクロス点を検出してモデル補正を実行する。一方、通常運転時には、誘起電圧のゼロクロス点を検出する必要がないので、効率面、振動騒音面で利点のある広角通電により駆動を行う。さらに、この2つのモードは、タイマにより制御され、通常の広角通電モードから一定周期でゼロクロス点検出モードに切り替えが実行される。
【0044】
まず、ゼロクロス点検出モード時には、ステップS5において、すでにゼロクロス点が検出されたか否かを判断する。ゼロクロス点が検出されていない場合には、今回は補正動作を実行せずに通電角のみ設定し、次回の実行に移る。通電角はゼロクロス点が検出できるように120度通電とする。何回かこの処理を実行し、ゼロクロス点が検出された場合には、すでに検出されてメモリに格納された誘起電圧値とこのゼロクロス点との時間差の情報とから、モデル補正をステップS6において実行する。モデル補正は上記に説明した通り、パラメータFX1、FX2、FX3、FX4を補正することにより行う。つぎに、広角通電モード時には、効率面、振動騒音面で最適な通電角、たとえば、150度通電で通電するように通電角をステップS8で設定する。
【0045】
通電幅設定手段13は、モデル補正手段12においてモデルの補正動作が選択されたときには、通電角を誘起電圧のゼロクロス点の検出可能な120度通電に設定し、さらに通常運転時には、広角通電に設定するが、この通電角の切り替え時には、図10に示したように通電角を連続的に変更する。
【0046】
一方、この通電角の切り替え時には、出力電圧の平均値が通電角により変化するため、モータの回転速度が変動する現象が発生する。それを防ぐため、通電制御手段9は、図10に示したように、通電角の連続的な切り替えと同時に、出力パルスのデューティを連続的に変更して、出力電圧の変動を防止することにより、安定したモータ回転速度制御を可能とする。この出力パルスのデューティは、たとえば、120度通電から通電角がφに変化する場合は、デューティをd1から、
d2=d1×120/φ
なるデューティd2へ変化させことにより実現される。これにより、出力電圧変動がなくなり、安定なモータ駆動装置が実現される。
【0047】
なお、本実施例における通電制御手段9は、専用のハード回路で実現しても、またマイクロコンピュータを利用したソフトウェアで実現してもよいことは言うまでもない。
【0048】
【発明の効果】
請求項1に係わる本発明は、複数個のスイッチング素子と、モータの端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記モータの回転子位置に対応する前記端子電圧の値のモデルを記憶するモデル記憶手段と、検出された端子電圧値と前記モデルの値とから回転子位置を推定する回転子位置推定手段と、前記推定された回転子位置に対応して前記スイッチング素子を駆動するゲート信号を出力して前記モータを通電駆動する通電制御手段と、通電角を通電制御手段に設定する通電幅設定手段とを備え、直流電源を入力として前記モータを交流駆動するモータ駆動装置において、前記モデル記憶手段に記憶されたモデルを補正するモデル補正手段を設け、前記モデル補正手段が、前記端子電圧の値と、その値を検出した時点と誘起電圧のゼロクロス点との時間差、とから前記モデルを一定周期で補正するモードと、通常運転動作中の動作を表すモードとを有するとともに、前記通電幅設定手段は、前記モデルを補正するモードより、通常運転動作中の動作を表すモードの方の通電角を大きく設定するようにしたモータ駆動装置とすることにより、常に正確なモデルにより回転子位置を推定して、安定したモータ駆動装置を実現することができる。
【0049】
また、通電角を通電制御手段に設定する通電幅設定手段を備え、モデル補正手段は、モデル補正を実行するときには、誘起電圧のゼロクロス点の検出可能な無通電区間を確保するように通電幅設定手段に通電角を通常運転時よりも狭角に設定させるようにしたことにより、確実にモデル補正を実行することができる。
【0050】
請求項2に係わる本発明は、通常運転時には、120度以上、180度未満の通電角で駆動するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とすることにより、高効率、低振動、低騒音のモータ駆動装置を実現することができる。
【0051】
請求項3に係わる本発明は、モデル補正手段は、起動時、もしくは所定の周期でモデル補正を実行するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とすることにより、モータ駆動の環境変化に対して効率低下を最小限にして、安定したモータ駆動装置を実現することができる。
【0052】
請求項4に係わる本発明は、電制御手段は、通電角を変更するとき、スイッチング素子に出力するパルス幅をその通電角に応じて連続的に変更するようにした請求項1に係わるモータ駆動装置とすることにより、円滑な通電角変更運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のモータ駆動装置の一実施例の構成を示すブロック図
【図2】 同実施例におけるモータの端子電圧の一例を示す波形図
【図3】 同実施例における端子電圧のモデルの一例を示す特性図
【図4】 同実施例における回転速度に対応する端子電圧のモデルのパラメータの変化の一例を示す特性図
【図5】 同実施例における通電時の端子電圧の一例を示す波形図
【図6】 同実施例におけるモデル補正手段のモデル補正の動作の一例を示す特性図
【図7】 同実施例における通電時の駆動電圧の一例を示す波形図
【図8】 同実施例における通電時の端子電圧の一例を示す波形図
【図9】 同実施例におけるモデル補正手段のモデル補正の動作を示すフローチャート
【図10】 同実施例における通電角の切り替え時の推移を示す特性図
【符号の説明】
1 交流電源
2 整流回路
3 モータ駆動装置
4 モータ
5a〜5f スイッチング素子
6a〜6f 環流ダイオード
7a〜7c 電圧検出手段
8 回転子位置推定手段
9 通電制御手段
10 直流部電圧検出手段
11 モデル記憶手段
12 モデル補正手段
13 通電幅設定手段

Claims (4)

  1. 複数個のスイッチング素子と、モータの端子電圧を検出する電圧検出手段と、前記モータの回転子位置に対応する前記端子電圧の値のモデルを記憶するモデル記憶手段と、検出された端子電圧値と前記モデルの値とから回転子位置を推定する回転子位置推定手段と、前記推定された回転子位置に対応して前記スイッチング素子を駆動するゲート信号を出力して前記モータを通電駆動する通電制御手段と、通電角を通電制御手段に設定する通電幅設定手段とを備え、直流電源を入力として前記モータを交流駆動するモータ駆動装置において、前記モデル記憶手段に記憶されたモデルを補正するモデル補正手段を設け、前記モデル補正手段が、前記端子電圧の値と、その値を検出した時点と誘起電圧のゼロクロス点との時間差、とから前記モデルを一定周期で補正するモードと、通常運転動作中の動作を表すモードとを有するとともに、前記通電幅設定手段は、前記モデルを補正するモードより、通常運転動作中の動作を表すモードの方の通電角を大きく設定するようにしたモータ駆動装置。
  2. 通常運転時には、120度以上、180度未満の通電角で駆動するようにした請求項1記載のモータ駆動装置。
  3. モデル補正手段は、起動時、もしくは所定の周期でモデル補正を実行するようにした請求項1記載のモータ駆動装置。
  4. 通電制御手段は、通電角を変更するとき、スイッチング素子に出力するパルス幅をその通電角に応じて連続的に変更するようにした請求項1記載のモータ駆動装置。
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