JP3582676B2 - サーボ系の制御ゲイン調整装置およびその調整方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーボモータを駆動源とする産業用ロボットまたはNC(数値制御)において、サーボ系の制御ゲインを自動的に調整する装置およびその調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
産業用ロボットやNCの動力源となっているサーボモータのフィードバック制御には、一般に比例積分制御が用いられる。この場合、要求の応答性、安定性を満足させるには適切な制御ゲインの設定が必要である。しかし、多軸になれば、状態変化による負荷変動、各軸の相互干渉や要求仕様による制御ゲインの制約等から、理論通りには設定できない。そのため、従来は作業者がオーバーシュート、速度リップル等の特徴量を観測し、試行錯誤で変更していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の制御装置では、制御ゲインの設定に時間がかかる上、作業者の経験に頼るところが大きく、状況に応じた設定変更などが困難であった。本発明が解決すべき課題は、制御ゲインを状況に応じて自動的に高速かつ最適に調整することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明のサーボ系の制御ゲイン調整装置は、サーボモータを動力源とし、フィードバック制御を用いて位置および速度の制御を行なうサーボ系の制御装置において、負荷を考慮した制御対象の近似モデルの応答と規範とする応答モデルとの応答偏差を評価値とする評価関数比較手段と、前記評価関数の評価値をもとに制御ゲインを調整する手段と、基準範囲内の応答が得られた場合に、前記サーボモータを制御するコントローラの出力信号を前記近似モデルから制御対象側へ切り換える手段とを備え、さらに制御対象と負荷を考慮した制御対象の近似モデルとに同一の指令を与え、その応答偏差により近似モデルの各パラメータを修正するモデル同定部と、モータに結合された減速機で生じるねじり角およびねじり角速度の状態推定量をフィードバックする状態量推定器を備える。
【0005】
また、本発明のサーボ系の制御ゲイン調整方法は、調整する制御ゲインをそれぞれ記号列に変換し、前記記号列をつなぎ合わせたものを制御ゲインおよびその組合せを表すコード列とするとき、前記調整する制御ゲインの選択および調整条件を入力する第1工程と、前記調整条件に応じて解候補となるコード列の初期集団を生成する第2工程と、前記各コード列について、制御ゲインへのデコードを行ない、前記制御ゲインにより得られた応答から評価値を求める第3工程と、前記評価値に応じて各候補(M)の選択確率を計算し、選択確率により重複を含んでM/2組の組み合わせを決定し、各ペアで交叉位置をランダムに決定し、決定された交叉位置で各ぺアの前後のコード列を入れ換え、M個の新しい解候補となるコード列を生成する交叉操作と、突然変異確率に従い、各コード列について、ランダムに突然変異の発生位置を宣言し、突然変位の発生を宣言された位置のビットを反転させる突然変異操作を施し、生成されたM個の子のコード列を次の世代のコード列群とする子となる解候補コード列を生成する第4工程と、収束を判定する第5工程とを有し、前記第3工程から第5工程を繰り返し実行することによって、制御ゲインの最適化を行なうものである。
【0006】
【発明の実施の態様】
図1は本発明の制御ゲイン調整装置の構成を示すブロック図である。同図において、1はサーボシステム、2はサーボシステム1のコントローラ、3は近似モデル、4はモデル同定部、5は制御ゲイン調整装置、7は規範応答モデル、8は評価値演算部である。
本発明は、図1に示すように、近似モデル3を作成するためのモデル同定部4と遺伝的アルゴリズムの手法を用いて制御ゲインの自動調整を行なう制御ゲイン調整装置5を有する。
モデル同定部4に関しては、調整を行なうに妥当なモデルを近似モデル3に予め設定しておき、未知の定数のみを最小二乗法等により同定する。
制御ゲイン調整装置5については、図3に示すように、調整する制御ゲインの選択および調整条件を入力する第1工程と、前記調整条件に応じて解候補となるコード列の初期集団を生成する第2工程と、前記各コード列について、制御ゲインへのデコードを行ない、前記制御ゲインにより得られた応から評価値を求める第3工程と、前記評価値に応じて各コード列に対して遺伝的アルゴリズムに基づく遺伝子操作を施し、子となる解候補コード列を生成する第4工程と、収束を判定する第5工程とを有し、前記第3工程から第5工程を繰り返し実行することによって、制御ゲインの最適化を行なう。
また、調整中は制御対象を近似した近似モデル3を用い、安全に調整を行ない、最適化終了後にコントローラ2の出力信号を制御対象側へ切り替え、通常運転に入る。
前記の調整装置および調整方法により、局所解に陥ることなく、しかも高速にサーボ系の制御ゲインを最適に調整できる。
【0007】
【実施例】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
〔実施例1〕
本発明の実施例1では、一般的なサーボ系の制御ゲイン調整について説明する。ここでは、速度ループ積分型のPI制御の場合の制御ゲインとして、位置ループゲインKp、速度ループゲインKv、速度ループ積分ゲインKiの調整について述べる。また、図1の近似モデル3については妥当なモデル化ができているものとする。この妥当なモデル化とは、例えば各軸を2慣性系に近似し、各々の干渉を考慮したモデル化で、2軸で表せば後述の数2の状態方程式のようになる。
図2に本発明の実施例の制御ゲイン調整装置5を持った制御系の構成を示すブロック図を示す。また、本発明の制御ゲイン調整方法の手順を説明するフローチャートを図3に示す。
【0008】
まず、はじめに条件の入力を行ない(第1工程)、初期集団を作成する(第2工程)。各制御ゲインの下限値と必要あるいは設定できる数値の刻みを基にしたスケーリングと2進数変換により各制御ゲインをコード化し、この制御ゲインを表すビット列をつなぎ合わせたものをーつの制御ゲインの組み合わせ候補となるコード列とする。本実施例では各ビットをランダムに設定したコード列をM個発生させ初期集団としている。
次に、各コード列をデコードした制御ゲインにより応答シミュレーションを行ない、前記各候補の評価値を求める(第3工程)。本実施例では、位置ステップ指令に対する評価用近似モデル3の応答を予め設定した理想の規範応答モデル7と比較している。評価値Viについては次の評価関数により求めている。
【数1】
ここで、Nは評価する状態変数の数、Tは評価時間、Xjは近似モデルの状態変数(位置、速度等)、Xjmodelは理想モデルの状態変数、Kiは各評価変数の重みを表している。
【0009】
次に、評価値Viを基に次式のように各候補の選択確率Piを計算する。
Pi=1/Vi
この選択確率に従って、重複を含みながらM/2組のコード列の対を作り、交叉、突然変異の遺伝的操作を行なう。
交叉については図4、図5に、突然変異については図6、図7に、処理を説明するフローチャートと処理のイメージを示す。
【0010】
図4および図5について、交叉の場合の処理を説明する。すなわち、選択確率により重複を含んでM/2組の組合せを決定する(ステップ210、図5(a))。次に、各ペアで交叉位置をランダムに決定する(ステップ220、図5(b))。次いで、決定された交叉位置で各ペアの前後のコード列を入れ替える(ステップ230、図5(c))。最後に、M個の新しい解候補となるコード列を生成する(ステップ240)。
次に、図6および図7について、突然変異の場合の処理を説明する。すなわち、突然変異確率に従い、各コード列(図7(a))について、ランダムに突然変異の発生位置を宣言する(ステップ310、図7(b))。次に、突然変異の発生を宣言された位置のビットを反転させる(ステップ320、図7(c))。
このようにして生成されたM個の子のコード列を次の世代のコード列群とする(図3第4工程)。その後、設定しておいた条件により、収束の判定を行なう(第5工程)。第3工程から第5工程の作業を繰り返すことにより制御ゲインが最適化される。決定された制御ゲインをコントローラ2’に設定する。最後に、コントローラ2’の出力信号を制御対象側に切り換え、通常の運転に入る。
【0011】
〔実施例2〕
本発明の実施例2では、2軸ロボットの制御ゲイン調整について説明する。図8にモデルの外観図を示す。近似モデルは、2軸ロボットアームを、べース11→モータ12→減速機13−剛体アーム14→モータ15→剛体アーム16→負荷17の結合とし、モータ12、15と減速機13、18の間はバネとダンパで結合、その他の部分は剛体結合としている。また、2軸間には干渉があるものとしている。この近似モデル3の状態方程式を次のように表す。ここで、1軸目をL軸、2軸目をU軸としておく。
【数2】
ただし、θmL,θmUをモータ角度、θSL,θSUをねじり角、JmL,JmUをモータ慣性、JIL,JIUを負荷慣性、NL,NUを減速比、KJL(=JIL/JmLNL 2),KJUを慣性比、KCL,KCUを減速機バネ定数、DIL,DIUを減速機減衰係数、ωL,ωUを機構部固有角振動周波数、dULをU軸からL軸への干渉、dLUをL軸からU軸への干渉とする。
【0012】
まず、モデルの同定を行なう。ここで、上述の近似モデル3を用いた場合、未知の定数は減速機バネ定数と減速機減衰係数および機構部固有振動数と考えられる。そこで、近似モデル3とサーボシステム1の応答の違いから、モデル同定部4により、これらの定数を同定する。同定方法については、図1のコントローラ2の出力信号をa側にし、あらかじめ設定しておいた制御ゲインによるサーボシステム1の応答波形をモデル同定部4に記憶する。次にコントローラ2の出力信号をb側に切り換え、制御ゲインを固定したまま、近似モデル3の応答を求め、その応答偏差から、最小2乗法等を用いて、前記の未知の定数を同定する。
次に、近似モデル3の応答によって制御ゲインの調整を行なう。
本実施例では、ねじり角およびねじり角速度、状態推定量フィードバック制御の場合について示す。図9にねじり角状態推定量フィードバック制御のブロック線図を示す。ここで状態量推定器6の状態方程式は次のように定義している。ここで用いている状態量推定器6は、コントローラ2”の出力信号Urefとモータ位置のフィードバック値θmに基づき、次のステップでのモータ位置、速度、減速機のねじり角、ねじり角速度を推定しており、コントローラ2”へフィードバックする値としてはねじり角およびねじり角速度の推定値である。
【0013】
【数3】
ここで、LwLは状態量推定器6のフィードバック行列である。l1〜l4は適当に設定する。U軸もL軸同様に定義している。ここで調整する制御ゲインは、KpL,KvL,KiL,KsL,KsdL,KpU,KvU,KiU,KsU,KsdUである。調整方法については、実施例1と同様に行なう。ただし、評価関数は以下のように定義している。
【数4】
ここで、K1,K2,K3,K4は重み係数、θmmodelは規範モデルの応答、θmrefは位置指令、θSLmax,θSUmaxはねじり角速度の最大値、‖a‖=Σa2とする。ここで第1項および第2項はモデルとの応答誤差、第3項および第4項は振動の減衰の評価量である。
上記評価関数により、応答性を落とさず、相互干渉が少なく、減衰の良い制御ゲインを探索できる。
この実施例2においても、実施例1と同様に、近似モデルによる調整が終了したら、コントローラ2”の出力信号を制御対象側(b側)に切り換え、通常運転で、ねじり角および、ねじり角速度状態推定量フィードバック制御を行なう。
【0014】
【発明の効果】
上述したように、本発明によれば、下記の効果を奏する。
(1)遺伝的アルゴリズムを用いて、サーボ系の制御ゲインの自動調整を行なうことにより、非線形の大きな系についても高速かつ高精度に制御ゲインを調整できる。
(2)近似モデルを用いて制御ゲインの調整を行うことにより、調整中に不安定な系が生じても、安全に自動調整をすすめることができる。
(3)同定部を備えることにより、設置条件や減速機の劣化などによりモデルが変わっても、何度でも制御ゲインの調整をやり直すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御ゲイン調整装置の構成を示すブロック線図である。
【図2】本発明の実施例1の制御ゲイン調整装置を持った制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の制御ゲイン調整方法の手順を説明するフローチャートである。
【図4】交叉の処理を説明するフローチャートである。
【図5】交叉の処理のイメージ図である。
【図6】突然変異の処理を説明するフローチャートである。
【図7】突然変異の処理のイメージ図である。
【図8】モデルの外観図である。
【図9】本発明の実施例2の制御ゲイン調整装置を持った制御系の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 サーボシステム、2,2’,2” コントローラ、3 近似モデル、4 モデル同定部、5 制御ゲイン調整装置、6 状態量推定器、7 規範応答モデル、8 評価値演算部、9 切り換え手段、11 ベース、12 モータ、13 減速機、14 剛体アーム、15 モータ、16 剛体アーム、17 負荷、18 モータ
Claims (2)
- サーボモータを動力源とし、フィードバック制御を用いて位置および速度の制御を行なうサーボ系の制御装置において、負荷を考慮した制御対象の近似モデルの応答と規範とする応答モデルとの応答偏差を評価値とする評価関数比較手段と、前記評価関数の評価値をもとに制御ゲインを調整する手段と、基準範囲内の応答が得られた場合に、前記サーボモータを制御するコントローラの出力信号を前記近似モデルから制御対象側へ切り換える手段とを備え、さらに
制御対象と負荷を考慮した制御対象の近似モデルとに同一の指令を与え、その応答偏差により近似モデルの各パラメータを修正するモデル同定部と、モータに結合された減速機で生じるねじり角およびねじり角速度の状態推定量をフィードバックする状態量推定器を備えたことを特徴とするサーボ系の制御ゲイン調整装置。 - 調整する制御ゲインをそれぞれ記号列に変換し、前記記号列をつなぎ合わせたものを制御ゲインおよびその組合せを表すコード列とするとき、前記調整する制御ゲインの選択および調整条件を入力する第1工程と、前記調整条件に応じて解候補となるコード列の初期集団を生成する第2工程と、前記各コード列について、制御ゲインへのデコードを行ない、前記制御ゲインにより得られた応答から評価値を求める第3工程と、前記評価値に応じて各候補(M)の選択確率を計算し、選択確率により重複を含んでM/2組の組み合わせを決定し、各ペアで交叉位置をランダムに決定し、決定された交叉位置で各ぺアの前後のコード列を入れ換え、M個の新しい解候補となるコード列を生成する交叉操作と、突然変異確率に従い、各コード列について、ランダムに突然変異の発生位置を宣言し、突然変位の発生を宣言された位置のビットを反転させる突然変異操作を施し、生成されたM個の子のコード列を次の世代のコード列群とする子となる解候補コード列を生成する第4工程と、収束を判定する第5工程とを有し、前記第3工程から第5工程を繰り返し実行することによって、制御ゲインの最適化を行なうことを特徴とするサーボ系の制御ゲイン調整方法。
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