JP3670196B2 - プリント配線板の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリント配線板の製造方法に関する。特に、炭酸ガスレーザーによる穴明け加工を行うものであるプリント配線板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、プリント配線板のスルーホール(PHT)の形成には、精密ドリルによる加工が行われてきたが、今日のプリント配線板の高密度回路形成及び高密度実装化に対する要求の高まりより、3層以上の多層プリント配線板の領域ではIVH、BVH、マーカー穴等の貫通孔又は穴部の微細加工が要求されるようになってきた。
【0003】
これらのプリント配線板に対する市場の要求の変化を受けて、ドリル加工技術に替わるものとして、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等を用いたレーザー光を用いての加工技術が発達してきた。
【0004】
ところが、プリント配線板の製造に用いる銅張積層板の表面には、導電回路を形成する銅箔が位置しており、その銅箔表面は光沢面と呼ばれ、平均粗さ(Ra)0.01〜0.3μm程度のものであり、研磨されたと同程度の鏡面となっている。従って、炭酸ガスレーザーを用いて、この銅箔表面にレーザー光を照射しても、レーザー光の反射率が高く、銅張積層板の表面に銅箔が存在する状態では、短時間に銅張積層板への所望の形状加工は出来ず、実操業で用いることは困難であった。
【0005】
従って、銅張積層板にレーザー加工を施す場合は、予めIVH、BVH、マーカー穴等の貫通孔又は穴部を形成する部位の銅箔のみをエッチングにて除去してレーザー照射を行い加工するコンフォーマルマスク法が、炭酸ガスレーザーを用いる場合には採用されてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、コンフォーマルマスク法は、レーザー加工前に、加工位置の銅箔をエッチング除去するため、エッチングレジスト形成、露光、現像、銅エッチング、エッチングレジスト除去の工程等余分に必要な工程が多くなると言う欠点を有しているため、プリント配線板の製造コストを引き上げる要因と成っていた。
【0007】
炭酸ガスレーザーを用いる場合、このコンフォーマルマスク法の欠点を解決しようとして、その他銅張積層板の銅箔表面でのレーザー光の吸収効率を高めるため、銅張積層板の表面にいわゆる黒化処理を施したり、銅箔表面にレーザー光の吸収効率の高い樹脂層を設ける等の対策が採られ、照射したレーザー光の吸収効率を高め、短時間で銅箔と基材樹脂とを同時に除去しようとする技術が検討されてきた。
【0008】
ところが、銅張積層板の表面にいわゆる黒化処理を行った場合を考えると、本来の黒化処理とは、IVH、BVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通銅メッキを行い、エッチングで回路形成を行った後に行うものであり、多層基板の内層基材に用いられるものである。従って、プリント配線板の外層銅箔を適用対象とすることは困難である。
【0009】
一方、銅箔表面にレーザー光の吸収効率の高い樹脂層を設ける方法は、樹脂層を形成するフィルムを銅張積層板表面にラミネートするか、液体の状態で塗布し硬化させることで形成されるものである。ラミネート法を採用しようとすると、安定したラミネートを行うためには精度の高い装置を導入しなければ成らず、製造コストを上昇させる要因となり好ましくない。液体の状態で塗布し硬化させる場合にも硬化炉等の設備が必要となり、かなり大がかりな設備投資を必要とすることになり、結果として製品価格を押し上げることになる。また、樹脂層を形成する材料は、有機剤であり、殆ど再利用することは不可能であり、自然環境を保護するとの観点からも好ましいものとは言えない。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本件発明者等は鋭意研究の結果、従来のエッチングラインを僅かに改良するだけで、銅張積層板を炭酸ガスレーザーを用いて銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工できる状態とし、一貫したプリント配線板製造を可能としたのである。なお、本件発明ではニッケル、コバルト若しくは亜鉛のいずれかをレーザー穴明け加工用の補助金属層として用い、最終的には当該補助金属層を除去して用いるが、この補助金属層を構成する金属は再生利用することが可能なものとなる。以下、本件発明について説明する。
【0011】
まず、一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法は、基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に所定厚の補助金属層を形成し、銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該補助金属層の表面にレーザー光を照射することで補助金属層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、エッチング法又は物理研磨法のいずれか若しくは双方を組み合わせて用いて、レーザー加工後の銅張積層板の表層の補助金属層を除去し、補助金属層を除去した銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理をし、銅メッキ後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法としている。
【0012】
この補助金属層としては、ニッケル、コバルト、亜鉛を用いることができる。
【0013】
図1〜図3に、一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法の一連のフロー概略を示している。ここでは、図1(a)に示す4層銅張積層板の模式断面を基本的に用いて説明することとする。なお、以上及び以下において、「基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板」とは、片面板を除く、両面板、3層以上の多層銅張積層板を含む概念として用いており、3層以上の多層板の場合、内層コア材を含んでいるものとして用いている。
【0014】
最初に、図1(a)に示す銅張積層板の表面に、図1(b)に示すように外層に位置する銅箔の表面に所定厚の補助金属層として0.08〜2μm厚のニッケル層、0.05〜3μm厚のコバルト層若しくは0.03〜2μm厚の亜鉛層のいずれかを形成することになる。このニッケル層の形成には、湿式である電解法、乾式である蒸着法等を用いることが可能である。但し、生産性と管理の煩雑さを考慮すれば、電解法を用いることが有利であると考えられる。
【0015】
一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法において、電解法でニッケル層を形成する場合は、ニッケルメッキ液として用いられる溶液を広く使用することが可能である。例えば、(1)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5〜30g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度0.3〜10A/dm2の条件、(2)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5〜30g/l、ピロリン酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH8〜11、電流密度0.3〜10A/dm2の条件、(3)硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が10〜70g/l、ホウ酸20〜60g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度1〜50A/dm2の条件、その他一般のワット浴の条件とする等である。また、電気化学的手法を用いたものとして、無電解ニッケルメッキ法を採用することも可能である。
【0016】
そして、ここでニッケル層の厚さを0.08〜2μmとした。この範囲を定めた意味合いについては、後により詳しく説明するが、ここで簡単に述べると、現実の製品製造を考慮して、以下に述べるニッケル層のレーザー穴明け加工性能を改善する役割が十分に発揮できる範囲として定めたものである。即ち、ニッケルは、金属材料の中で高価な金属と言えるものである。従って、多く用いれば用いるほど製品価格を上昇させるものとなり、少量で本件発明の目的が達成できる範囲であれば十分なのである。上限値である2μmを越える厚さのニッケル層を形成しても、レーザー穴明け加工性がそれ以上に増加するものでもなく、経済性を損なうものとなるからである。
【0017】
また、下限値である0.08μmを下回る厚さの場合は、レーザー穴明け加工性能にバラツキを生じるのである。例えば、0.03μmの厚さの場合でも、ニッケル層を全く備えていない銅張積層板を用いた場合と比較して、レーザー穴明け加工性能が向上しないわけではない。遙かに優れたレーザー穴明け加工性能が得られるが、ロット間によるバラツキが大きくなると共に、工程管理の中で行うX線を用いたメッキ厚測定に長時間を要することとなり、工程管理が煩雑になるのである。なお、ここで形成するニッケル層の表面は、光沢を有する平滑な金属面であっても、艶消し状の面であっても全く支障はない。この点が、光沢を有する銅箔表面を直接穴明けする場合と根本的に異なるのである。
【0018】
また、ニッケルの場合、リン酸系溶液を用いることで、ニッケル−リン合金メッキとして用いることも可能である。この場合、硫酸ニッケル120〜180g/l、塩化ニッケル35〜55g/l、H3PO430〜50g/l、H3PO320〜40g/l、液温70〜95℃、pH0.5〜1.5、電流密度5〜50A/dm2の条件等である。本明細書において、補助金属層として「ニッケル層」を用いている場合には、本来正確にはニッケル合金とすべきであるが、ニッケル−リン合金をも含むものとする。
【0019】
一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法において、コバルト層を形成する場合は、コバルトメッキ液として用いられる溶液を使用することが可能である。例えば、(1)硫酸コバルトを用いコバルト濃度が5〜30g/l、クエン酸三ナトリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度0.3〜10A/dm2の条件、(2)硫酸コバルトを用いコバルト濃度が5〜30g/l、ピロリン酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH8〜11、電流密度0.3〜10A/dm2の条件、(3)硫酸コバルトを用いコバルト濃度が10〜70g/l、ホウ酸20〜60g/l、液温20〜50℃、pH2〜4、電流密度1〜50A/dm2の条件とする等である。コバ ルト層は0.05〜3μm厚とした。この厚さの上限値及び下限値の意味合いは、上記したニッケル層の場合と同様であり、後に詳細に説明する。
【0020】
これらのニッケル層若しくはコバルト層の形成は、単純蒸着やスパッタリング蒸着等の乾式法と、電気化学的手法を用いてのメッキ法のいずれかにより形成することが望ましい。これらの手法は、層厚制御が容易だからである。単純蒸着は、0.13Paレベルの低真空チャンバー内で、ニッケル若しくはコバルトを加熱バスケットに入れ、高温加熱することで蒸発させ銅箔表面へ蒸着するものであり、スパッタリング蒸着は、ニッケル若しくはコバルトのターゲット材を用い、このターゲット材にアルゴン等のイオンを衝突させ、ニッケル若しくはコバルトの原子を弾き出し、銅箔表面に着地させることで補助金属層を形成するものである。これらの製造条件は、生産性を考慮して工程にあったそれぞれの条件を任意に選択すればよい。
【0021】
一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法において、亜鉛層を形成する場合は、電解で防錆元素を電解銅箔層の表面上に析出させる方法、その他いわゆる置換析出法等を用いることが可能である。例えば、亜鉛防錆処理を行うとして、ピロ燐酸亜鉛メッキ浴、シアン化亜鉛メッキ浴、硫酸亜鉛メッキ浴等を用いることが可能である。例えば、ピロ燐酸亜鉛メッキ浴であれば、濃度が亜鉛5〜30g/l、ピロ燐酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH9〜12、電流密度0.3〜10A/dm2の条件とする等である。亜鉛層は0.03〜2μm厚のとした。この厚さの上限値及び下限値の意味合いは、上記したニッケル層の場合と同様であるため、重複した説明は省略する。
【0022】
補助金属層の形成が終了すると、図1(c)に示すように、IVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成形成しようとする部位にレーザー光の照射を行い、貫通孔若しくは穴部の形状加工を行うことになる。前述したように銅張積層板の外層に位置する銅箔の光沢面に対してレーザー光を照射して、銅箔と基材樹脂とを同時に除去しようとしても、ほとんど満足のいく穴明け加工は出来なかった。ところが、銅張積層板の外層に位置する銅箔の光沢面に補助金属層を設けてやると、極めて容易に穴明け加工が可能となるのである。
【0023】
現段階において、なぜ銅箔の上にニッケル層、コバルト層若しくは亜鉛層があると容易にレーザー穴明け加工性能が向上するのかについて、明確な理論は確立できていない。しかしながら、本件発明者等は、以下のような理論を想定している。
【0024】
本件発明者等は、単なる銅箔のレーザー光による穴明け加工が困難な理由を以下のように考えた。このように銅箔等に関してレーザー加工性を理論的に追求した例は従来に存在しない。ここで、レーザー出力エネルギーをPとし、表面反射及び熱伝導損失をηとすると、被加工物の温度上昇に寄与するエネルギーはP(1−η)となる。従って、P(1−η)= m・C・ΔTが成立する。このときのmは、レーザー光による加工穴の直径をd、加工厚さをHとし、銅の比重をρとするとP(1−η)= π(d/2)2・H・ρ・C・ΔTとなる。よって、ΔT=4P(1−η)/(π・d2・H・ρ・C)となる。この式を用いて、銅が溶解する条件を考えてみる。ここでは、パルス幅60μsec.、パルスエネルギー16.0mJ、レーザー光径160μmとし、種々の厚さの銅箔に125μmの加工径の穴を形成するものとし、ρ=8.94g/cm3、C=0.39J/K・gとし、ΔT=4P(1−η)/(10.95・d2・H)を用いて、これを理論式とする。
【0025】
レーザー光により銅箔の穴明けを可能とするためには、レーザー光が銅を溶解させ、沸点以上の温度に導けるものでなければならない。この理論式を基に、銅箔表面における反射率をηの値として用い、上昇温度を銅箔の厚さ別にシュミレートした結果を図4に示す。この図4から分かるように、反射率が1%変化するだけで、上昇温度に1000℃以上の差が生じることになる。そして、シュミレートの結果としてみれば、厚さ3〜4μ厚の極薄銅箔の穴明けを可能とするには、98%以下の反射率でなければ、実操業上使用できないと判断できる。
【0026】
以上のシュミレートは、加工開始から終了まで、レーザー光の照射を受ける銅箔表面が常に想定した反射率を維持したことを前提としている。銅箔の初期表面の粗さ等を変えることで、初期照射面の反射率を狙い通りに作り込むことは可能であり、一般的に銅張積層板の外層銅箔の表面は銅箔光沢面の持つ本来の粗さ若しくは研磨による所定の粗さを有しているものであり、滑らかな鏡面とは言えない。しかしながら、レーザー光の照射を開始すると、所定の粗さを持つ銅箔表面が溶解を初め、初期照射面の銅成分が溶解し蒸発すると、その下には滑らかな鏡面の銅表面が形成されることとなる。この鏡面となった銅箔表面の持つ反射率は、通常98%以上の反射率を持つ表面となる。この結果、一定深さ以上の銅箔層のレーザー加工が困難となるのである。
【0027】
レーザー加工で銅に穴明け加工を行おうとすると、所定の銅箔の厚さ分だけ、銅が連続して蒸発するプロセスが再現できるものでなければならない。即ち、レーザーが照射されている間、少なくとも、照射部位が銅の沸点温度を超えるものとなっていなければならないのである。
【0028】
そこで、まずニッケルとコバルトの場合を考える。銅箔表面に所定厚のニッケル層若しくはコバルト層を設けると、レーザー光による加工部位の温度を銅の沸点以上の温度に容易に維持することのできるものとなるのである。ニッケル層及びコバルト層は、次に述べるように作用していると考えている。銅は、周期律表第IB族の貴金属に分類される元素であり、融点1083℃、沸点2582℃、1.01×105Paの条件下で融解エンタルピー(融解熱)13.3kJ/molという物性を持つ。
【0029】
これに対し、ニッケルは周期律表第VIII族に分類される元素であり、融点1455℃、沸点2731℃、1.01×105Paの条件下で融解エンタルピー(融解熱)17.6kJ/molという物性を持つ。そして、コバルトは周期律表第VIII族に分類される元素であり、融点1492℃、沸点2747℃、1.01×105Paの条件下で融解エンタルピー(融解熱)14.4kJ/molという物性を持つものである。このニッケルとコバルトとの物性は非常に近似しており、双方とも沸点温度を比較すると銅の沸点より150〜160℃程度高い温度となっている。これらの物性から判断する限りにおいて、熱に対しては、銅よりニッケル及びコバルトが安定と考えられる。従って、レーザー光を用いた加工は、レーザー光を照射する部分に高エネルギーを与えることで、その部位の温度を急激に上昇させ、その部位の材料を溶融させ蒸発させることで行うのであるから、銅に比べニッケル及びコバルトが容易に穴があきやすいと言う理論は成立しないように考えられる。
【0030】
ところが、ここで銅とニッケル及びコバルトとの熱伝導性能を比較してみる。銅の熱伝導率は、700℃において354W・m−1・K−1という熱の良導体である。これに対し、ニッケルは700℃において71W・m−1・K−1、コバルトは700℃において69W・m−1・K−1
であり、ニッケルもコバルトもその熱伝導率は銅の熱伝導率の約1/5程度であり、銅と比べ熱の伝導性が極めて遅いことが分かる。このことを考えるに、ニッケル層若しくはコバルト層を備えていない銅張積層板の銅箔表面にレーザー光を照射すると、その照射開始より、そのレーザー光の一部が鏡面の銅箔表面から反射され、その残りのレーザー光が熱エネルギーとしてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置に加えられる。このとき、銅箔表面が鏡面状態であるほど、レーザー光の反射率は高く熱エネルギーに変換される割合は小さくなる。そして、銅張積層板全体の面積で見れば、レーザー加工を行っている部位の面積は非常に狭く、その部位が瞬間的に高温となったとしても、熱の良導体である銅は、レーザー光により与えられた熱量を直ぐに拡散させ、集中した熱量が一部分に止まることが困難になると考えられる。即ち、初期照射表面の除去された後の鏡面の銅箔表面はレーザー光の反射率が高くなり、レーザー光を照射した銅箔部に与えられる熱エネルギーの供給量が減り、銅箔層に与えられた熱量を拡散して分散する熱量とが銅の沸点以下の温度で平衡してしまい、照射部位の銅箔温度が沸点以上に上昇することが困難になっているものと考えられる。
【0031】
これに対し、ニッケル若しくはコバルトは、銅の熱伝導率の約1/5の速度でしか熱を伝達しない。従って、レーザー光が銅張積層板の銅箔の上に形成したニッケル層若しくはコバルト層の表面に照射されると、その補助金属層の照射部位のみに熱エネルギーが集中し、熱の拡散速度に比べ、レーザー光による熱エネルギーの供給速度の方が速く、レーザーの照射部位が容易にニッケル若しくはコバルトの融点に達するものと考えられる。しかも、同一の表面粗さを持つ銅とニッケル及びコバルトとのレーザー光反射率を比較すると、明らかにニッケル及びコバルトの反射率が少なくとも1〜2%程度小さくなり、レーザー光の吸収効率が高くなる。これは、上述の銅箔の温度上昇シュミレーションからも分かるように、照射部位の温度が1000℃以上高くなっている可能性を示唆することになる。
【0032】
その結果、ニッケル及びコバルトは銅箔に比べ、その融点が高いにも拘わらず、レーザー光照射による温度上昇が素早く起こり、容易に溶解し、蒸発することになるものと考えられる。そして、レーザー光の照射により、銅よりも融点の高いニッケル若しくはコバルトが一旦溶解を始め沸点に達すると、ニッケル若しくはコバルトを沸点温度にまで上昇させた熱量が熱の良導体である銅からなる銅箔層に伝達され、連続したレーザー光照射による熱エネルギーの供給と併せて容易に銅の溶解温度を越えた温度上昇を起こさせ、レーザー照射部位の銅箔温度を銅の沸点温度に導くドライビングフォースとなることで、レーザー光による銅箔層の除去が容易に行え、銅張積層板の銅箔層と基材樹脂層とを同時に除去できるものとなると考えている。以下に説明する表面処理銅箔及びキャリア箔付電解銅箔におけるニッケル若しくはコバルトからなる補助金属層は、上述したと同様の役割を果たすものとなる。
【0033】
また、一方で、なぜ銅箔層の上に一定厚の亜鉛層があると容易にレーザー穴明け加工性能が向上するのかについても、明確な理論は確立できていない。しかしながら、研究を続けていく中で、本件発明者等は、以下のような原理でレーザー穴明け加工性能が向上するものとの心証を得ている。
【0034】
本件発明者等は、前述のΔT=4P(1−η)/(10.95・d2・H)を用いた理論式から分かるように、図2に示すように反射率が1%変化するだけで、上昇温度に1000℃以上の差が生じることになる。現実には、潜熱、融解熱等があるため数100℃のレベルと考えられる。そして、厚さ3〜4μ厚の極薄銅箔の穴明けを可能とするには、98%以下の反射率でなければ、実操業上使用できないことが分かる。このシュミレートは、加工開始から終了まで、レーザー光の照射を受ける銅箔表面が常に想定した反射率を維持したことを前提としていることも前述の通りであり、銅箔だけで炭酸ガスレーザーを用いた穴明け加工が困難な理由は前述の通りである。
【0035】
ところが、銅箔表面に所定厚の亜鉛層を設けると、レーザー光による加工部位の温度を銅の沸点以上の温度に容易に維持することのできるものとなるのである。亜鉛層は、次に述べるように作用していると考えている。銅の物性は、前述した通りである。
【0036】
これに対し、亜鉛は周期律表第IIB族に分類される元素であり、融点419℃、沸点906℃、1.01×105Paの条件下で融解エンタルピー(融解熱)7.5kJ/molという物性を持つものである。沸点温度を銅と比較すると銅の沸点より1700℃程度低い温度となる。これらの物性から判断する限りにおいて、亜鉛は銅よりも熱に対して弱く、銅より熱に対して不安定と考えられる。レーザー光を用いた加工は、レーザー光を照射する部分に高エネルギーを与えることで、その部位の温度を急激に上昇させ、その部位の材料を溶融させ蒸発させることで行うのであるから、銅に比べ亜鉛は素早く蒸発し消失してしまうと考えるのが一般的のように思われる。
【0037】
ところが、亜鉛は空気中の酸素と容易に結びつき、酸化亜鉛に変わっていくという性質を有している。特に、亜鉛を1500℃付近の温度で大気中におくと、亜鉛は燃焼反応を始める。この燃焼反応が起こると、極めて容易に亜鉛は酸化亜鉛となるのである。即ち、亜鉛層を補助金属層として備えた銅箔の表面にレーザー光を照射することで、照射開始からすぐに亜鉛層は加熱され1500℃程度の温度に達し、燃焼反応を開始し、酸化亜鉛へと転化していると考えられる。
【0038】
ここで、酸化亜鉛の物性を考えると、酸化亜鉛は固体の状態から、大気圧下では溶融状態を経ることなく、一定の温度に達すると昇華するという性質を有している。酸化亜鉛の場合、この昇華温度は1725℃であり、銅の融点温度から700℃程度高い温度となるのである。
【0039】
しかも、亜鉛と銅との熱伝導率を考えると、銅の熱伝導率は20℃において0.989cal・cm−1・deg−1という熱の良導体であり、亜鉛の熱伝導率は20℃において0.268cal・cm−1・deg−1である。従って、亜鉛が酸化亜鉛になる前の状態で銅の熱伝導率の約1/4程度のものである。ところが、亜鉛が酸化することで変化する酸化亜鉛の熱伝導率は、亜鉛と比べても極端に悪くなる。これらの事実を、元に本件発明者等は、亜鉛層の存在により銅箔のレーザー穴あけか高性能が向上する理由を次のように考えた。
【0040】
以上のことから、亜鉛層を備えていない銅張積層板の銅箔表面にレーザー光を照射すると、その照射開始より、そのレーザー光の一部が鏡面の銅箔表面から反射され、その残りのレーザー光が熱エネルギーとしてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置に加えられる。このとき、銅箔表面が鏡面状態であるほど、レーザー光の反射率は高く熱エネルギーに変換される割合は小さくなる。そして、銅張積層板全体の面積で見れば、レーザー加工を行っている部位の面積は非常に狭く、その部位が瞬間的に高温となったとしても、熱の良導体である銅は、レーザー光により与えられた熱量を直ぐに拡散させ、集中した熱量が一部分に止まることが困難になると考えられる。しかも、初期照射表面の除去された後は、溶融表面が完全な鏡面状態を作り銅箔表面はレーザー光の反射率が高くなり、レーザー光を照射した銅箔部に与えられる熱エネルギーの供給量が減り、銅箔層に与えられた熱量を拡散して分散する熱量とが銅の沸点以下の温度で平衡してしまい、照射部位の銅箔温度が沸点以上に上昇することが困難になっているものと考えられる。
【0041】
これに対し、亜鉛は酸化亜鉛に転化し、極めて遅い熱伝導しか行わないようになる。従って、レーザー光が銅張積層板の銅箔の上に形成した亜鉛層が燃焼反応で酸化亜鉛層に転化し、その酸化亜鉛層の照射部位のみに熱エネルギーが集中し、熱の拡散速度に比べ、レーザー光による熱エネルギーの供給速度の方が速くなり、レーザーの照射部位が容易に酸化亜鉛の昇華点に達するものと考えられる。しかも、同一の表面粗さを持つ銅と亜鉛とのレーザー光反射率を比較すると、明らかに亜鉛の反射率が少なくとも2〜3%程度は小さくなり、レーザー光の吸収効率が高くなる。これは、上述の銅箔の温度上昇シュミレーションからも分かるように、照射部位の温度が銅の場合と比べ、容易に数100℃以上高い領域に導ける可能性を示唆することになる。
【0042】
その結果、酸化亜鉛は銅箔に比べ、レーザー光照射による温度上昇が素早く起こり、容易に昇華することになるものと考えられる。そして、レーザー光の照射により、銅の融点より700℃以上高い温度領域での酸化亜鉛の昇華が開始すると、酸化亜鉛を昇華温度に導いた熱量が熱の良導体である銅からなる銅箔層に伝達され、連続したレーザー光照射による熱エネルギーの供給と併せて容易に銅の溶解温度を越えた温度上昇を起こさせ、レーザー照射部位の銅箔温度を銅の沸点温度に導くドライビングフォースとなることで、レーザー光による銅箔層の除去が容易に行え、銅張積層板の銅箔層と基材樹脂層とを同時に除去できるものとなると考えている。即ち、亜鉛は、銅に比べて低融点を有する金属であるにもかかわらず、亜鉛からなる補助金属層は、上述したニッケル及びコバルトと同様の役割を果たすものとなると考えられるのである。
【0043】
そして、補助金属層として、ニッケル層を用いる場合は0.08〜2μm厚、コバルト層を用いる場合は0.05〜3μm厚、亜鉛層を用いる場合は0.03〜2μm厚であることが好ましい。これは、一般的に炭酸ガスレーザーで用いられる12〜30mJのパルスエネルギーで容易に加工できる範囲として定めたものである。この範囲の補助金属層を形成した銅張積層板に関する炭酸ガスレーザーによる開孔率は全て100%であり、銅箔と基材成分とを同時に確実に穴明けすることが可能である。そこで、この補助金属層の厚さを規定するに当たり、本件発明者等は、表面処理銅箔の補助金属層厚さと加工穴径の実測値との関係に着目したのである。
【0044】
図5には、ニッケル、コバルト及び亜鉛を用いたそれぞれの補助金属層厚さと加工穴径の実測値との関係を示している。このときの炭酸ガスレーザー照射条件は、周波数2000Hz、マスク径5.0mm、パルス幅60μsec.、パルスエネルギー16.0mJ、オフセット0.8、レーザー光径140μmとし、種々の厚さの銅箔を用いた銅張積層板に110μmの加工径の穴を形成することを予定して行ったものである。パルスエネルギー16.0mJとしたのは、低エネルギーである方がレーザー穴あけ加工性の差異が顕著に現れやすいからである。従って、本件発明者等は判断基準として、加工後の穴径が100〜110μmとなった範囲で、加工が良好に行われたものとした。
【0045】
この図5から、上述のように補助金属層がニッケルの場合は0.08μm厚、コバルトの場合は0.05μm厚、亜鉛層の場合は0.03〜2μm厚であることが好ましいと言えるのである。これらの下限値は、クリティカルな値として、急激に加工後の穴径が良好なものになる点の層厚としていることが分かる。そして、補助金属層が厚くなるに従って、一旦加工穴径はより良好になるが、更に補助金属層の厚さが増すと逆に加工後の穴径は小さくなっている。これは、レーザー光が補助金属層を貫通して銅箔層に至るまでの距離が長いと、補助金属層に形成された穴が深くなりレーザー光のフォーカシングが起こり、実質的に銅箔層に当たるレーザー光が絞り込まれるためと考えられる。
【0046】
また、補助金属層が厚すぎると補助金属層を構成するニッケル、コバルト若しくは亜鉛の一旦溶解した表面が滑らかになりレーザー光の反射率が増加するため、レーザー光の照射を開始した初期の補助金属層と同等の温度上昇が望めず、結果として、加工速度が遅くなり穴径を悪くしているとも考えられる。従って、図5から目的とした100μmの加工穴径を達成できなくなったと判断できる層厚として、ニッケルの場合は2μm厚、コバルトの場合は3μm厚、亜鉛の場合は2μm厚が上限となるのである。更に、N数を上げて試験を繰り返した結果として、加工後の穴径を目標の穴径により近づけるためには、ニッケルの場合は0.2〜0.8μm厚、コバルトの場合は0.1〜0.9μm厚、亜鉛の場合は0.08〜0.8μm厚の範囲であることが、より好ましいものと言える。この領域で、最も安定した加工精度が得られるとのデータに基づいたものである。
【0047】
この図3から分かるように、亜鉛の場合は0.03μm厚をクリティカルな値として、急激に加工後の穴径が良好なものになることが分かる。そして、亜鉛の補助金属層が厚くなるに従って、逆に加工後の穴径は小さくなっている。これは、レーザー光が補助金属層を貫通して銅箔層に至るまでの距離が長いと、補助金属層に形成された穴が深くなりレーザー光のフォーカシングが起こり、実質的に銅箔層に当たるレーザー光が絞り込まれるためと考えられる。
【0048】
以上に述べたようにして、ニッケル層、コバルト層及び亜鉛層の作用によりレーザー光による銅箔層の除去が完了すると、続けてレーザー光を照射することで容易に基材樹脂層は除去できる。このようにして、銅張積層板の表面に補助金属層を形成することで、レーザー光により補助金属層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去することが出来るのである。図1(c)にレーザー穴明け加工後の様子を模式断面図として示している。
【0049】
上述のレーザー加工が終了すると補助金属層を除去することになる。この補助金属層の除去には、銅張積層板という形態から、エッチング法及びバフ研磨、ブラシ研磨等の物理研磨法等を用いることができる。また、これらを任意に組み合わせ、それぞれの工程に適合させて用いることも可能である。中でも理想的なのは、例えば、補助金属層としてニッケル層を形成した場合、銅を溶解させることのない選択エッチング液を用いてレーザー加工後の銅張積層板の表層のニッケル層を選択剥離するのが好ましい。補助金属層を除去した状態を図1(d)に模式的に示している。補助金属層を残留させておくと、後の層間導通銅メッキ後に、銅層と銅層との間に補助金属層が位置することになる。このような状態で、大気中に放置しておくと、イオン化傾向の異なる銅と補助金属層とは局部電池を構成し、銅回路側の腐食を促すものとして機能し、メッキ層剥離に到る可能性も考えられるからである。しかしながら、現実には、ニッケル及びコバルトの場合、プリント配線板の種類によれば、補助金属層剥離を行うことなく、銅メッキ処理を行いプリント配線板に加工することも可能である。
【0050】
ここで、特にニッケル層の場合には、選択エッチング液を用いることができる。この溶液は、銅を溶解させることなくニッケルのみを溶解させる選択エッチング液であり、銅を溶解しないため銅箔層は損傷を受けず、厚さ変化もないため、後の回路エッチング工程での管理が容易となるのである。中でも選択エッチング液として、(1)550ml/l〜650ml/l濃度の硫酸溶液、(2)硫酸と硝酸との混酸溶液、(3)硫酸とm−ニトロベンゼンスルホン酸との混合溶液のいずれかを用いることできる。第1の溶液は、より望ましくは580〜620ml/l濃度の硫酸溶液を用いて、この溶液中で銅張積層板をカソード分極し電解でニッケル層を剥離するために用いるものである。ここで、硫酸濃度を550ml/l〜650ml/lとしたのは、550ml/lを下回る濃度では剥離速度が遅く実操業に適さない。650ml/lを越える濃度としても剥離速度は増加せず、むしろニッケルの溶解反応性は遅くなるからである。そして、より望ましいとした580〜620ml/l濃度の範囲は、剥離速度と溶液品質の安定性に最も優れた領域である。
【0051】
そして、補助金属層を除去した銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理が行われるのである。銅メッキ処理した後の銅張積層板の模式断面を図1(e)に示している。この時の層間導通形成工程は、特に方法を限定して考える必要があるものではなく、層間の回路導通を確保する手段であれば、銅ペースト、銀ペースト等の金属ペースト及び導電性樹脂で、レーザー加工して得られた孔部若しくは穴部を埋設する形とする充填法を採用するもの等であっても構わない。しかし、一般的には、無電解銅メッキ工程と電解メッキ工程とから成る銅メッキ処理が採用される。この無電解銅メッキ工程と電解メッキ工程にも、特段の限定はなく、広く一般的に採用されている方法を用いればよい。
【0052】
以下に示す工程は、広く一般に知られた工程条件を採用して良いため、ここでの詳細な説明は省略し、実施例をもって説明することとする。図2(f)に示すように銅メッキ後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、図2(g)に示すように露光し現像し、図3(h)に示すように回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことで図3(i)に示すようなプリント配線板を得ることができるのである。
【0053】
次に、二つめの本願発明のプリント配線板の製造方法は、基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、当該有機層の表面に所定厚の補助金属層を形成し、銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該補助金属層の表面にレーザー光を照射することで補助金属層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、当該補助金属層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理をし、銅メッキ後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法としている。
【0054】
二つめの本願発明のプリント配線板の製造方法は、図6〜図8に示す一連の製造フローのようになる。この製造方法と上記で説明した一つめの本願発明の製造方法との違いは、補助金属層の形成前に、銅張積層板の表面に有機層を形成することにある。即ち、有機層を形成し、その上に補助金属層を形成することで、レーザー加工後に、その補助金属層は作業者の手作業で容易に引き剥がせるものとなるのである。
【0055】
ここでは、亜鉛層を補助金属層として用いる場合は対象としていない。これは、本件発明者等の研究により、40℃の塩化銀−銀飽和電極を参照電極として測定した析出電位が−900mV以下の−1000mVを越える領域に含まれる亜鉛は、有機層を有する本件発明に係るプリント配線板の製造方法に応用した場合に、亜鉛層が容易に引き剥がし可能なものとならないからである。これに対し、ニッケル、コバルトのように、前記析出電位が−900mV以上の領域にあるものとすれば、補助金属層と銅箔層とが容易に引き剥がし可能なものとなるのである。
【0056】
ここでいう有機剤は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなるものを用いることが好ましい。
【0057】
窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のうち、窒素含有有機化合物には、置換基を有する窒素含有有機化合物を含んでいる。具体的には、窒素含有有機化合物としては、置換基を有するトリアゾール化合物である1,2,3−ベンゾトリアゾール(以下、「BTA」と称する。)、カルボキシベンゾトリアゾール(以下、「CBTA」と称する。)、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア(以下、「BTD−U」と称する。)、1H−1,2,4−トリアゾール(以下、「TA」と称する。)及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、「ATA」と称する。)等を用いることが好ましい。
【0058】
硫黄含有有機化合物には、メルカプトベンゾチアゾール(以下、「MBT」と称する。)、チオシアヌル酸(以下、「TCA」と称する。)及び2−ベンズイミダゾールチオール(以下、「BIT」と称する)等を用いることが好ましい。
【0059】
カルボン酸は、特にモノカルボン酸を用いることが好ましく、中でもオレイン酸、リノール酸及びリノレイン酸等を用いることが好ましい。
【0060】
以上に述べた有機剤の使用方法について、銅張積層板の銅箔表面への有機層の形成方法について述べつつ、説明することとする。銅張積層板の銅箔表面への有機層の形成は、上述した有機剤を溶媒に溶解させ、その溶媒中に銅張積層板を浸漬させるか、銅張積層板に対しシャワーリング、噴霧法、滴下法及び電着法等を用いて行うことができ、特に限定した手法を採用する必要性はない。このときの溶媒中の有機剤の濃度は、上述した有機剤の全てにおいて、濃度0.01g/l〜10g/l、液温20〜60℃の範囲が好ましい。有機剤の濃度は、特に限定されるものではなく、本来濃度が高くとも低くとも問題のないものである。
【0061】
また、有機層の形成は、前述の有機剤を適宜組み合わせて行うことも可能で、或いは、有機層は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択された1種の有機剤若しくは2種以上を混合した有機剤を複数回繰り返し塗布することにより形成するものであってもよい。さらに、この有機層は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される2種以上の有機剤を交互に繰り返し塗布することにより形成したものであっても本件発明に係る製造方法でプリント配線板を効率よく製造することが可能である。これらの方法により、より精度の高い有機層の厚さ制御が可能となる。
【0062】
有機層の形成原理からすると、上述の有機剤は、次のような理由により銅張積層板の銅箔表面へ安定的に存在するものと考える。例えば、金属である銅箔に有機層を形成する場合、銅箔の表層に形成されている金属酸化被膜である酸化金属層に対し、有機剤が吸着することになる。そして、その酸化金属層に吸着した状態から、表層に存在する酸素等の結合子と結びつき、有機層を形成する有機剤が安定するものと推測している。従って、有機剤の濃度が高いほど有機剤が銅箔表面に吸着する速度が速くなると言え、基本的に有機剤の濃度は製造ラインの速度に応じて定められるものである。銅箔と溶媒に溶解させた有機剤とを接触させる時間も製造ラインの速度から決まり、実用的には5〜60秒の接触時間となる。
【0063】
これらのことを考慮した結果、有機剤の濃度0.01g/lよりも低い濃度となると、短時間での銅箔表面への吸着は困難であり、しかも形成される有機層の厚さにバラツキが生じ、製品品質の安定化が不可能となるのである。一方、10g/lを越える濃度としても、特に有機剤の銅箔表面への吸着速度が添加量に応じて増加するものでもなく、生産コスト面から見て好ましいものとは言えないためである。上述した有機剤を使用することにより、有機層を形成する際の量的制御を容易にすることが可能となる。
【0064】
このようにして形成した有機層の上に補助金属層を形成するとその補助金属層が容易に引き剥がせるものとなるのである。このときの補助金属層の引き剥がし強さは1〜300gf/cmの範囲に収まり、人間の手作業で簡単に除去できるものとなるのである。そこで、本件発明では補助金属層の厚さをそれぞれの金属の種類に応じて規定としている。製造コストを考慮し、可能な限り補助金属層を薄く、使用金属量を少なくしたいことは先に説明した本願発明の製造方法の場合と同様であるが、人間の手作業で引き剥がして除去際の補助金属層の破断等を回避することを考えると、本来1ミクロン以上の厚さがあれば円滑な引き剥がし作業を達成できると考えられ、上述した加工穴径の問題も加味して上限値が定まることになる。そして、下限値は、上述したように円滑なレーザー穴明け加工を行うための最低限の厚みを採用すればよい。1μm未満の厚さの補助金属層の場合には、テープで貼り付けて剥離除去する等の手法を用いなければならない場合もある。しかしながら、このようにテープを用いて剥離すると、補助金属層の確実な除去が可能となる。また、この場合のニッケル層及びコバルト層は、箔状態で引き剥がされるため、ニッケル箔若しくはコバルト箔としての回収再利用が可能となるのである。
【0065】
図7(e)に示すように、補助金属層を引き剥がすと、有機剤のほとんどは補助金属層の剥離と同時に除去される。そして、一部の有機剤が銅箔層の表層に有機被膜として残留しているが、この残留した有機剤は、後の銅メッキ工程等に影響を及ぼすレベルのものではない。但し、確実に有機剤を除去するためには、希硫酸、希塩酸等の溶液で酸洗する事で容易に除去することが可能なものである。
【0066】
これらの有機剤は、本来一般に、導電性材料ではなく、絶縁性を有する材料ある。従って、二つめの本願発明に係るプリント配線板の製造方法では、銅張積層板の銅箔自体を陰極として分極し、有機層を形成した銅箔上に直接的にニッケルを電解析出させるものであり、有機層を通しての通電可能な状態とする必要がある。即ち、有機剤からなる有機層の厚さは自ずと限界が生じ、適正な引き剥がし強度の確保を可能とし、しかも補助金属層の安定した電解析出が可能な厚さとする必要がある。
【0067】
従って、有機剤をどのような濃度の溶媒を用いて、いかなる処理時間で有機層を形成するかが重要なのではなく、結果として形成された有機層の厚さ、言い換えると、有機層を構成する有機剤の量が重要となるのである。本件発明者等の研究によれば、有機層の厚さが、好ましくは1nm〜1μmの範囲であることが判明している。
【0068】
ここに明記した厚さ範囲で、適正な補助金属層の剥離強度の確保が可能で、しかも補助金属層の安定した電解析出が可能となるのである。即ち、有機層の厚さが、下限値である1nmを下回る厚さでは、有機層の厚みにバラツキが生じ、均一な有機層が形成できない。その結果として、補助金属層を引き剥がせない事態が発生する。
【0069】
上限値である1μmを越えると、通電状態が不安定になり、補助金属層の析出状況が不安定で、均一な厚さの補助金属層の形成が困難となる。また、長時間掛けて補助金属層を析出させても、安全にエッチング工程で用いることのできる程度の、最低必要とされる引き剥がし強度を満足しないものとなる。そして、有機層の厚さが更に大きくなると、完全に通電不能な状態となる。このときの有機層の厚さはnm〜μmレベルと、非常に薄いものであるため、その測定には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した。
【0070】
以上のようにして、図6(b)に示すように有機層の形成が終了すると、図6(c)〜図8(j)に到る補助金属層の形成から以降のプリント配線板の製造プロセスは、先に説明した一つめの本願発明のプリント配線板の製造方法と同様であり、重複した記載となるため省略する。
【0071】
更に、三つめの本願発明のプリント配線板の製造方法は、基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、当該有機層の表面に所定厚の補助金属層を形成し、銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該補助金属層の表面にレーザー光を照射することで補助金属層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理をし、当該補助金属層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、補助金属層を除去した後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法としている。この一連の製造フローを図9〜図11に示している。以下、この図を参照しつつ説明する。
【0072】
これは、上記した二つめの本願発明のプリント配線板の製造方法が、レーザー穴明け加工を行った直後に、補助金属層を引き剥がすのに対し、この3つめの本願発明のプリント配線板の製造方法は、図9(d)〜図10(f)に示したフローから分かるように、レーザー穴明け加工を行った後に、銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理を行い、その後補助金属層を引き剥がす点で異なっている。
【0073】
このような製造方法を採用したのは、レーザー穴明け加工を行った後に、銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理を、無電解銅メッキと電解銅メッキを用いて行うと考える。すると、無電解銅メッキと電解銅メッキとで形成された銅層は、図10(e)に示したように、補助金属層の上にもメッキ銅層として形成される。この状態で、補助金属層を引き剥がすと、図10(f)に示すようにレーザー加工にて形成したBVH等の凹部の内壁面にのみメッキ銅層を残し、補助金属層の除去と同時に補助金属層上のメッキ銅層も同時に除去されることになる。このようにして、外層のプリント回路形成時のエッチング対象となる銅箔厚さを薄く維持することで、ファインピッチ回路の形成が容易となるのである。
【0074】
その他、有機層の形成、補助金属層の形成、及び以降のエッチングプロセスに関しては、上記した二つめの本願発明のプリント配線板の製造方法と何ら変わるところがないため、重複した説明は省略する。以下、実施形態について説明する。
【0075】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るプリント配線板の製造方法の実施の形態について説明する。以下の全ての実施形態で採用するレーザー穴明け加工の条件は、炭酸ガスレーザーを用い、照射条件は、周波数2000Hz、マスク径5.0mm、パルス幅60μsec.、パルスエネルギー16.0mJ、オフセット0.8、レーザー光径140μmとし、種々の厚さの銅箔を用いた銅張積層板に110μmの加工径の穴を形成することを予定して行ったものである。なお、各実施形態において、可能な限り、共通の符号を用いて説明することとする。
【0076】
第1実施形態: 本実施形態では、一つめの本願発明においてニッケル層を形成する場合のプリント配線板1の製造方法に関して、図1〜図3を用いて説明する。本実施形態では、4層銅張積層板2のレーザー穴明け加工を行い、プリント配線板1を製造した。この4層銅張積層板2の内層コア材3としては、内層回路4形成後の両面基板を用い、その内層コア材3の両面に樹脂付銅箔Aを配して、熱間プレス加工することで、内層コア材と外層銅箔5との間には、ガラスクロスの存在しない樹脂層Rのみの状態とした。
【0077】
最初に、4層銅張積層板2の外層銅箔5の表面に、補助金属層6として、ニッケル層を形成した。この補助金属層6形成には、電解法を用い、ニッケルメッキ液として、その組成を硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が20g/l、液温35℃、pH3、電流密度8A/dm2の条件で、約1μm厚のニッケル層を形成した。
【0078】
補助金属層6の形成が終了すると、水洗し、補助金属層6の表面を乾燥させ、レーザー穴明け加工が行われることになる。レーザー穴明け加工の条件は、実施形態の説明の冒頭に述べた通りである。形成したBVHの加工穴径は、開口率100%、103〜108μm径の分布を持ち、十分に実操業上使用可能なレベルのものとして仕上がった。
【0079】
レーザー穴明け加工が終了すると、補助金属層6を構成するニッケル層を剥離する工程に入る。ここでは、室温下で600ml/l濃度の硫酸溶液を用いて、当該溶液に銅張積層板を浸漬することで、銅箔層に損傷を与えることなく補助金属層6を構成するニッケルのみを剥離した。
【0080】
補助金属層6の剥離後、層間導通形成処理を行うことになる。層間導通形成処理は、無電解銅メッキで1〜2μmの銅層を形成し、電解銅メッキで10μmの銅メッキ層7に成長させた。このときの無電解銅メッキ液としては、一般的に使用される硫酸銅・5水和物 0.06mol/l、EDTA・4Na 0.12mol/l、HCHO 0.5mol/l、2,2’−ジピリジル 10mg/l、PEG1000 250mg/l、pH=12.5、液温70℃の溶液を用いて短時間の間に行った。そして、無電解銅メッキが終了すると、硫酸銅溶液であって、濃度150g/l硫酸、65g/l銅、液温45℃、電流密度15A/dm2の平滑メッキ条件で電解し、10μm厚の銅メッキ層7を得た。
【0081】
その後、水洗、乾燥し、紫外線硬化型のドライフィルムを銅メッキ層7の形成された外層銅箔5の表面にロールラミネートし、エッチングレジスト層8を形成した。そして、パターンフィルムを当該エッチングレジスト層8の上に重ね露光し、現像することで、外層回路9として残す部位にのみエッチングレジスト層8を残留させた。そして、塩化銅溶液でエッチングし外層回路9を形成した。最終的な、エッチングレジスト層8の除去には、水酸化ナトリウム溶液を用いて、硬化したエッチングレジスト層8の膨潤除去を行った。以上のようにして、プリント配線板の製造が可能であった。
【0082】
第2実施形態: 本実施形態では、一つめの本願発明においてコバルト層を形成する場合のプリント配線板1の製造方法に関して、図1〜図3を用いて説明する。本実施形態では、4層銅張積層板2のレーザー穴明け加工を行い、プリント配線板1を製造した。この4層銅張積層板2の内層コア材3としては、内層回路4形成後の両面基板を用い、その内層コア材3の両面に樹脂付銅箔Aを配して、熱間プレス加工することで、内層コア材と外層銅箔5との間には、ガラスクロスの存在しない状態のものとした点は第1実施形態と同様である。以下、実施形態について説明する。
【0083】
最初に、4層銅張積層板2の外層銅箔5の表面に、補助金属層6として、コバルト層を形成した。この補助金属層6形成には、電解法を用い、コバルトメッキ液として、その組成を硫酸コバルトを用いコバルト濃度が20g/l、クエン酸三ナトリウム200g/l、液温35℃、pH3、電流密度7A/dm2の条件で、約1μm厚のコバルト層を形成した。
【0084】
補助金属層6の形成が終了すると、水洗し、補助金属層6の表面を乾燥させ、レーザー穴明け加工が行われることになる。レーザー穴明け加工の条件は、実施形態の説明の冒頭に述べた通りである。形成したBVHの加工穴径は、開口率100%、105〜110μm径の分布を持ち、十分に実操業上使用可能なレベルのものとして仕上がった。
【0085】
レーザー穴明け加工が終了すると、補助金属層6を構成するコバルト層を剥離する工程に入る。ここでは、#1000のロール状バフを用いて、物理研磨することで均一に除去した。
【0086】
補助金属層6を構成するコバルトを除去した後の工程は、第1実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。以上のようにして、プリント配線板の製造が可能であった。
【0087】
第3実施形態: 本実施形態では、一つめの本願発明において亜鉛層を形成する場合のプリント配線板1の製造方法に関して、図1を用いて説明する。本実施形態では、4層銅張積層板2のレーザー穴明け加工を行い、プリント配線板1を製造した。この4層銅張積層板2の内層コア材3としては、内層回路4形成後の両面基板を用い、その内層コア材3の両面に樹脂付銅箔Aを配して、熱間プレス加工することで、内層コア材と外層銅箔5との間には、ガラスクロスの存在しない状態のものとした点は第1実施形態と同様である。以下、実施形態について説明する。
【0088】
最初に、4層銅張積層板2の外層銅箔5の表面に、補助金属層6として、亜鉛層を形成した。この補助金属層6形成には、電解法を用い、亜鉛メッキ液として濃度が亜鉛25g/l、ピロ燐酸カリウム300g/l、液温40℃、pH10、電流密度5A/dm2の条件として、約1μm厚の亜鉛層を形成した。
【0089】
補助金属層6の形成が終了すると、水洗し、補助金属層6の表面を乾燥させ、レーザー穴明け加工が行われることになる。レーザー穴明け加工の条件は、実施形態の説明の冒頭に述べた通りである。形成したBVHの加工穴径は、開口率100%、103〜110μm径の分布を持ち、十分に実操業上使用可能なレベルのものとして仕上がった。
【0090】
レーザー穴明け加工が終了すると、補助金属層6を構成する亜鉛層を剥離する工程に入る。ここでは、3%の塩酸溶液を用いて、この溶液中に4層銅張積層板2を浸漬することで、エッチング除去した。
【0091】
補助金属層6を構成する亜鉛除去した後の工程は、第1実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。以上のようにして、プリント配線板の製造が可能であった。
【0092】
第4実施形態: 本実施形態では、二つめの本願発明においてニッケル層を形成する場合のプリント配線板1の製造方法に関して、図6〜図8を用いて説明する。本実施形態では、4層銅張積層板2のレーザー穴明け加工を行い、プリント配線板1を製造した。この4層銅張積層板2の内層コア材3としては、内層回路4形成後の両面基板を用い、その内層コア材3の両面に樹脂付銅箔Aを配して、熱間プレス加工することで、内層コア材と外層銅箔5との間には、ガラスクロスの存在しない状態のものとした。
【0093】
最初に、4層銅張積層板2の酸洗処理槽を行った。この酸洗処理は、必要に応じて行われるもので、ここでは有機層10の密着性を向上させるため、酸洗処理として濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に浸漬し、浸漬時間20秒として、4層銅張積層板2の外層銅箔5に付いた油脂成分を除去し、表面酸化被膜の除去を行った。
【0094】
酸洗処理が終了すると4層銅張積層板2の外層銅箔5の表面に有機層10を形成した。有機層10の形成は、4層銅張積層板2を濃度5g/lのCBTAを含む、液温40℃、pH5の水溶液に30秒間浸漬することで行った。
【0095】
有機層10を形成し、水洗した後に、有機層10の表面に、補助金属層6として、ニッケル層を形成した。この補助金属層6形成には、電解法を用い、ニッケルメッキ液として、その組成を硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が20g/l、液温35℃、pH3、電流密度8A/dm2の条件で、約1μm厚のニッケル層を形成した。
【0096】
補助金属層6の形成が終了すると、水洗し、補助金属層6の表面を乾燥させ、レーザー穴明け加工が行われることになる。レーザー穴明け加工の条件は、実施形態の説明の冒頭に述べた通りである。形成したBVHの加工穴径は、開口率100%、104〜111μm径の分布を持ち、十分に実操業上使用可能なレベルのものとして仕上がった。
【0097】
レーザー穴明け加工が終了すると、補助金属層6を構成するニッケル層を剥離する工程に入る。ここでは、作業者が銅張積層板の隅部から、補助金属層6をテープを用いて手作業で引きはがした。このときの補助金属層は、極めて容易に引き剥がしが可能であり、銅張積層板表面にニッケル成分が残留することもなかった。
【0098】
補助金属層6の剥離後に行う、層間導通形成処理を行い銅メッキ層7を形成し、その後、水洗、乾燥し行う紫外線硬化型のドライフィルムラミネート、露光、現像、回路エッチング等に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでの記載は省略する。以上のようにして、プリント配線板の製造が可能であった。
【0099】
第5実施形態: 本実施形態では、三つめの本願発明においてニッケル層を形成する場合のプリント配線板1の製造方法に関して、図9〜図11を用いて説明する。本実施形態では、4層銅張積層板2のレーザー穴明け加工を行い、プリント配線板1を製造した。この4層銅張積層板2の内層コア材3としては、内層回路4形成後の両面基板を用い、その内層コア材3の両面に樹脂付銅箔を配して、熱間プレス加工することで、内層コア材と外層銅箔5との間には、ガラスクロスの存在しない状態のものとした。
【0100】
最初に、4層銅張積層板2の酸洗処理槽を行った。この酸洗処理は、必要に応じて行われるもので、ここでは有機層10の密着性を向上させるため、酸洗処理として濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に浸漬し、浸漬時間20秒として、4層銅張積層板2の外層銅箔5に付いた油脂成分を除去し、表面酸化被膜の除去を行った。
【0101】
酸洗処理が終了すると4層銅張積層板2の外層銅箔5の表面に有機層10を形成した。有機層10の形成は、4層銅張積層板2を濃度5g/lのCBTAを含む、液温40℃、pH5の水溶液に30秒間浸漬することで行った。
【0102】
有機層10を形成し、水洗した後に、有機層10の表面に、補助金属層6として、ニッケル層を形成した。この補助金属層6形成には、電解法を用い、ニッケルメッキ液として、その組成を硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が20g/l、液温35℃、pH3、電流密度8A/dm2の条件で、約1μm厚のニッケル層を形成した。
【0103】
補助金属層6の形成が終了すると、水洗し、補助金属層6の表面を乾燥させ、レーザー穴明け加工が行われることになる。レーザー穴明け加工の条件は、実施形態の説明の冒頭に述べた通りである。形成したBVHの加工穴径は、開口率100%、105〜111μm径の分布を持ち、十分に実操業上使用可能なレベルのものとして仕上がった。
【0104】
レーザー穴明け加工が終了すると、この段階で、層間導通形成処理を行った。層間導通形成処理は、無電解銅メッキで1〜2μmの銅層を形成し、電解銅メッキで10μmの銅メッキ層7に成長させた。このときの無電解銅メッキ液としては、一般的に使用される硫酸銅・5水和物 0.06mol/l、EDTA・4Na 0.12mol/l、HCHO 0.5mol/l、2,2’−ジピリジル 10mg/l、PEG1000 250mg/l、pH=12.5、液温70℃の溶液を用いて短時間の間に行った。そして、無電解銅メッキが終了すると、硫酸銅溶液であって、濃度150g/l硫酸、65g/l銅、液温45℃、電流密度15A/dm2の平滑メッキ条件で電解し、10μm厚の銅メッキ層7を得た。
【0105】
そして、層間導通形成処理が終了すると、ここで補助金属層6を構成するニッケル層を剥離した。ここでは、作業者が銅張積層板の隅部から、補助金属層6を手作業で引きはがし、補助金属層6とその表面に形成した銅メッキ層7を同時に引きはがし、BVHの内壁面にのみ銅メッキ層7を残すものとした。このときの補助金属層の引きはがし強さは、銅メッキ層7の曲げ応力分の負荷が加わるため、80.6g/cmで、容易に引き剥がしが可能であり、銅張積層板表面にニッケル成分が残留することもなかった。
【0106】
そして、補助金属層6の剥離後に、水洗、乾燥し行う紫外線硬化型のドライフィルムラミネート、露光、現像、回路エッチング等に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでの記載は省略する。以上のようにして、プリント配線板の製造が可能であった。
【0107】
【発明の効果】
本発明に係るプリント配線板の製造方法を用いることで、従来から困難と言われてきた炭酸ガスレーザーを用いて、銅箔と基材樹脂とを同時に除去し、レーザー穴明け加工を行うことが可能となった。本件発明に係るプリント配線板の製造方法を用いると、従来のコンフォーマル法のように予めレーザー加工部位の銅箔を除去する必要が無く、従来のエッチング工程をそのまま応用することが可能で、設備投資費用を大幅に低減し、プリント配線板のトータル製造コストの低減が可能となり、安価な製品の市場供給が可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図2】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図3】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図4】 レーザー照射による銅箔の上昇温度シュミレーション。
【図5】 加工穴径と補助金属層厚との関係を表す図。
【図6】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図7】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図8】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図9】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図10】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【図11】 プリント配線板の製造フローを表す概略図。
【符号の説明】
1 プリント配線板
2 4層銅張積層板
3 内層コア材
4 内層回路
5 外層銅箔
6 補助金属層
7 メッキ銅層
8 エッチングレジスト層
9 外層回路
10 有機層
Claims (7)
- 基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、
銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、
当該有機層の表面に補助金属層として0.08〜2μm厚のニッケル層を形成し、
銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該ニッケル層の表面にレーザー光を照射することでニッケル層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、
当該ニッケル層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、
銅張積層板の層間の導通を得るための銅メッキによる層間導通形成処理をし、
銅メッキ後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。 - 基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、
銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、
当該有機層の表面に補助金属層として0.05〜3μm厚のコバルト層を形成し、
銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該コバルト層の表面にレーザー光を照射することでコバルト層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、
当該コバルト層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、
銅張積層板の層間の導通を得るための銅メッキによる層間導通形成処理をし、
銅メッキ後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。 - 基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、
銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、
当該有機層の表面に補助金属層として0.08〜2μm厚のニッケル層を形成し、
銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該ニッケル層の表面にレーザー光を照射することでニッケル層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、
銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理をし、
当該ニッケル層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、
ニッケル層を除去した後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。 - 基材樹脂に銅箔を張り合わせた銅張積層板にレーザーを用いてIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成し、層間導通形成処理をし、回路形成を行うものであるプリント配線板の製造方法において、
銅張積層板の外層に位置する銅箔表面に有機層を形成し、
当該有機層の表面に補助金属層として0.05〜3μm厚のコバルト層を形成し、
銅張積層板のIVH若しくはBVH等の貫通孔又は穴部を形成する所定の位置の当該コバルト層の表面にレーザー光を照射することでコバルト層、有機層、銅箔層及び基材樹脂層を同時に除去し所望の形状に加工し、
銅張積層板の層間の導通を得るための層間導通形成処理をし、
当該コバルト層を銅張積層板表面より引き剥がして除去し、
コバルト層を除去した後の銅張積層板の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光し、現像し、回路エッチングし、エッチングレジスト除去を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。 - 有機層は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなるもので形成したものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
- 有機層は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択された1種の有機剤若しくは2種以上を混合した有機剤を複数回繰り返し塗布することにより形成するものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
- 有機層は、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される2種以上の有機剤を交互に繰り返し塗布することにより形成したものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載のプリント配線板の製造方法。
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