JP3669675B2 - 紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法に関し、より詳細には、主として半導体素子製造分野に於いてエキシマレーザなどの短波長紫外線用の光学機器部材として使用され、特に紫外線照射時の蛍光の発生が抑制された紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体素子の超微細化に対応して、その集積回路製造用露光機の光源には、KrF(248nm)やArF(193nm)エキシマレーザなど、短波長の紫外線が使われるようになってきている。
これらの装置の光学用部材として、多数の合成石英ガラス部材が使用される。
合成石英ガラスは、このような短波長紫外線に対して高い透過率を有する優れた材料ではあるが、上記短波長の紫外線レーザ光の照射によって損傷を受けることが判ってきた。
そしてその損傷の結果として、650nm付近にピークを持つ可視域の蛍光を発する。
【0003】
この蛍光は、光学系の調整などに於いて使用されるHeーNeレーザ光の波長に近いために、実用上大きな問題となっている。
それ故、この蛍光発生の低減が、光学用石英ガラスに必須な条件とされている。この蛍光発生の挙動や発生メカニズムについては、例えば、フィジカル・レビユーB47巻、3078乃至3082頁(1993)(N.Kuzuu,Y.Komastu,M.Murahara著)、同48巻、6952乃至6956頁(1994)(N.Kuzuu,Y.Matsumoto,M.Murahara著), ジャーナル・オブ・ジ・アプライド・フィジックス68巻、3584乃至3591(1990)(K.Awazu ,H.Kawazoe著)などで報告され、該蛍光発生の原因として、ガラス中に不可避的に存在する過剰酸素に起因する酸素欠陥、所謂、非結合酸素正孔捕獲中心(NBOHC)の生成や、オゾン生成などが指摘されている。
【0004】
この蛍光は、ガラス合成時に使用する酸水素炎バーナーに供給する酸素と水素の割合を制御することにより低減できることが知られ、例えば、特開平2ー64645号公報には、四塩化珪素を酸水素火炎により加水分解する際、バーナーに供給する水素ガスと酸素ガスの比(H2 /O2 )を化学量論比より水素過剰にすることにより蛍光発生を低減する方法が提案されている。
また、特開平6−199531号公報には、四塩化珪素を、酸素/水素比が化学量論量より水素過剰の酸水素火炎中で加水分解して石英ガラスを合成する際、不活性ガスを含むバーナーの反応条件及び排ガスの排気条件等を調整することにより石英中に存在するシラノール基(SiOH)等のーOH基濃度を1000ppm以上にしたエキシマレーザー光照射時に於ける上記蛍光発生の抑制された光学用合成石英ガラスが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ガラス合成時の酸水素炎に於ける酸素/水素供給比は、石英の合成速度やガラスに残存する−OH基濃度、光透過率など光学用石英ガラスに必要とされる多くの諸特性に影響を与えるので、これらへの影響を考慮しながら最適条件を見出すのは、多大な手数と、微妙な熟練技術を必要とし、しかもその選択の範囲も限定される。
一方、ガラスを1300℃以下の高濃度の水素雰囲気中で処理することによって、水素と過剰酸素を反応させ、不活性化させる方法も既に提案されている(特開平1−201664号公報等)。
【0006】
しかし、この処理方法は効果が不安定であり、且つ、高濃度、即ち、圧(分圧)の高い水素を必要とするために、爆発などの危険性が高く、取り扱いに慎重さを要し、その分、時間、労力と費用を要する。
このように状況に鑑みても、エキシマレーザー等短波長紫外線照射時に於ける上記蛍光発生が抑制された光学用合成石英ガラスを簡便な処理により製造し、提供することができればその産業に及ぼす利点は多大である。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ステッパー等の半導体製造用露光機の光学用部材として使用される合成石英ガラスであって、エキシマレーザなどの短波長紫外線を照射したときに、通常、光照射損傷を受けて発生する650nm付近の可視域蛍光が顕著に低減された紫外線光学用石英ガラスを、簡便かつ安全な方法で処理、製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、合成石英ガラスを、水素圧力が1/10乃至1/1000気圧の雰囲気中で、1400℃以上の温度に於いて該石英ガラスの構造決定温度に到達するまでの時間(緩和時間)以上の時間、熱処理することを特徴とする紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記製造方法の一好適態様として、前記雰囲気が、不活性気体と水素との混合気体から成ることを特徴とする紫外線光学用石英ガラスの製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、前記不活性気体が、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び窒素から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法は、該ガラスの製造時に於いて、1400℃以上の温度で、かつ上記制御された特定低圧の水素圧雰囲気中で、該石英ガラスの構造決定温度に到達するまでの時間以上、即ち、緩和時間以上の期間熱処理するという、特定条件下での熱処理が構成上の特徴である。
【0011】
ガラスの構造決定温度は、以下に説明するように、石英ガラスの構造安定性を表すパラメータとして導入されたファクターである。
室温での石英ガラスの密度揺らぎ、即ち構造安定性は、高温で融液状態にある石英ガラスの密度、構造が冷却過程に於いてガラス転移点付近で凍結されたときの密度、構造によって決定される。
即ち、密度、構造が凍結されたときの温度に相当する熱力学密度、構造が室温下でも保存される。その密度、構造が凍結されたときの温度を構造決定温度という。
【0012】
石英ガラス製造時に、本発明の上記特定条件の熱処理を施すことにより、通常の方法で製造された光学用合成石英ガラスが紫外線照射時に生する650nm付近の可視域蛍光を有効に抑制することができる。
【0013】
このエキシマレーザ光等の紫外線照射時に石英ガラスから発生する蛍光は、赤色であって、例えば既に挙げた公知文献に記載されているように、ガラス中の過剰酸素が関与していると考えられており、その蛍光中心の生成反応は、例えば次のようになると推定されている。
≡SiーO−OーSi≡+紫外光線 → 2≡Si−O・(NBOHC)(1)
一方このような過剰酸素を持つ石英ガラスを水素処理すると、
≡SiーO−OーSi≡+H2 ←→ ≡Si−OH+H−OーSi≡ (2)
の反応で過剰の酸素が不活性なーOH基に変わり、蛍光発生が抑制される。
そしてこの反応が現実的な速度で充分安定に進行するためには、Si−Oの結合角や、分子の占める大きさなど、ミクロ的な幾何学的形状、即ち分子的な構造変化が生ずる必要があると考えられる。
従って、上記(2)式が右側に進行するためには、反応に預かる過剰酸素の周辺の分子群全体の再配列と構造の安定化が必要である。
さもないと反応生成物が不安定となり、(2)式が左側に進む逆反応も優勢となるため反応平衡に近づき、過剰酸素の上記不活性化が充分にできない。
そして、この(2)式の反応を少しでも多く右側に進ませるためには、高濃度の水素による処理が必要になる。
しかも、その後の熱処理などで溶存酸素が減れば、反応は更に左側に進み、処理前の状態に近づく。
【0014】
そこで、反応に預かる過剰酸素の周辺の分子全体の再配列と構造の安定化が極めて短時間内に可能となるガラス軟化温度、即ち、1400℃以上の温度で、その構造決定温度に到達するまでの時間(緩和時間)加熱処理した結果、極めて低い水素濃度の雰囲気でも、安定に反応が進行し、蛍光が低減されることが判った。
なお、熱処理温度がガラスの歪点より低ければ、緩和時間が無限大となるので、長時間の水素処理を施しても、当然、低圧の水素濃度での上記効果は期待できないことも実験により確認された。
従って、本発明の方法に於ける熱処理温度は、少なくとも石英ガラス軟化温度以上、即ち1400℃以上、であり、好ましくは1600℃以上である。
この熱処理温度は、高温であるほど反応速度上の見地からは好ましい、しかしながら、1900℃を越えるとSi02 分の蒸発や熱処理用容器材との反応等の別の不都合が生じるため1900℃以下の温度での熱処理が好ましい
【0015】
上記本発明の方法よれば、高圧あるいは高濃度の水素を用いて1150℃程度の温度で反応させる従来の方法に比べてむしろ安定した効果が得られるだけでなく、高圧あるいは高濃度の水素を扱う必要がないため、爆発などの危険性が無く、取り扱いが極めて容易で、時間的にも、労力的にも大きな節減効果を奏する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明をより詳細に、かつ、具体的に説明する。
本発明の製造方法に於いて、処理の対象物である合成石英ガラスは、典型的には、四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して得られる所謂、直接法合成石英ガラスを対象とするが、例えばVAD法合成石英ガラスなど、その他の合成方法の石英ガラスに適用して十分な効果が得られる。
【0017】
本発明の方法に於いは、石英ガラスを1400℃以上の温度で、その構造決定温度に到達するまでの時間より長く、即ち、その緩和時間より長く、1/10乃至1/1000気圧の低圧(分圧)水素雰囲気中で熱処理する。
熱処理温度は1400℃以上、即ち、通常の合成石英ガラスの軟化点以上の温度であれば充分にその目的を達成できるが、構造決定温度に到達するための緩和時間を可及的に短くし、短時間に、かつ、安定的に処理を完結するためには、好ましくは、1600℃以上で実施する。
また、1900℃を越えると石英の蒸発や容器材との反応等の不都合が生じるため、熱処理温度は1900℃以下とすることが好ましい。
【0018】
石英ガラスの熱処理温度と緩和時間との関係は、例えば、ダブリュ・プリマック(W.Primak)著、フィジックス・アンド・ケミストリ・オブ・グラス(Physics and Chemistry of Glass)24巻No.1、8〜18頁(1983)などに記載され、例えば、1400℃では、約1分程度である。なお、前記資料には具体的にには記載されていないが、1600℃では、約0.1分程度である。
【0019】
しかしながら、被処理ガラスの大きさや水素の圧(分圧)等のにより、水素と過剰酸素との反応に要する時間は多少変動する。
また、反応完結のため多少熱処理時間に余裕を持たせることが好ましく、この観点から1400乃至1600℃の熱処理温度で、水素圧(分圧)が1/10乃至1/1000気圧の場合、緩和時間〜30分程度、1600℃以上の場合は、水素圧5/10〜5/1000気圧で、緩和時間〜5分程度、5/1000気圧未満の低濃度では緩和時間〜30分程度の保持が好ましい。
なおガラスが完全に軟化流動化する高温(1600℃以上)での熱処理には、黒鉛容器などを用いれば形状保持できるので、石英ガラスの成形を同時に行うことができ好都合である。
【0020】
本発明の方法に於いて、水素ガス圧は、1/1000気圧以上あることが必要で、これより低い圧では効果が急減する。
このような水素圧(濃度)は、減圧された水素雰囲気、即ち水素ガスののみの雰囲気の場合は勿論、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン及び窒素等の不活性ガスで希釈された水素雰囲気でも充分に達成できる。
不活性気体との混合雰囲気を用いる場合、雰囲気ガスの水素分圧を所定とすれば良く、その全圧は石英ガラスの蛍光発生防止効果には何らの影響を与えないが、全圧が高いと石英ガラスの蒸発抑制に有効であるという利点がある。
但し、全圧が1気圧(105 Pa)を超えると、耐圧炉が必要となるため、炉の建設コストや操作の簡便性等の観点から1気圧以下が好ましい。
【0021】
【実施例】
「実施例1乃至9、比較例1乃至5」
四塩化珪素を酸水素炎で加水分解して得た合成石英ガラスのインゴット1kgを試料として用いた。
この試料を、内径120mm、縁の高さ50mmの円形の黒鉛容器に入れ、炭素発熱体を備え、真空から1気圧の不活性及び還元性雰囲気で加熱できる電気炉中に入れて熱処理した。
雰囲気の全圧は、1気圧であって、表ー1に示したような割合のArと水素の混合気体とした。
また、熱処理温度、時間は、それぞれ表ー1に記載した条件で実施した。
熱処理後の試料を、12×12×50mmの角柱に切り出し、面を光学研磨した。
この光学研磨した試料をArFエキシマレーザを用いて、100mJ/cm2のエネルギ密度で105 ショット照射した後、分光蛍光光度計(日立製作所(株)製650−10型)を用いて、255nmの励起光に於ける640nmの蛍光の強さを測定した。
一方、熱処理しないガラス試料について、同じ方法でレーザ照射後の蛍光強度を測定し、その値を1として、熱処理試料の蛍光強度との比を用いて、効果の評をを行った結果を表1に示す。
なおレーザ照射しない試料は蛍光が観察されなかった。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の比較例1、2にあっては、処理時間が不足し、強い蛍光を発することが認められた。また比較例3、4にあっては、強い蛍光を発しないものの、高圧・長時間の処理を必要とすることが認められた。
【0024】
また、表1から判るように、1400℃以上の温度に於いて、0.001〜0.1気圧の水素を含む雰囲気中で、その構造決定温度に到達するに充分な時間処理したガラスは、640nmの蛍光が検出されなかった(実施例1〜8)。あるいはまた、ほとんど検出されなかった(実施例9)。
しかし比較例5として、水素を含まない純アルゴンの雰囲気で熱処理したガラスは、未処理品の3倍の蛍光が発生した。
【0025】
「実施例10」
上記実施例1乃至9と同様の石英ガラス試料を、実施例1乃至9で使用した電気炉で熱処理した。
熱処理条件は、1700℃、15分とし、炉内に水素を流しながら真空ポンプで減圧する方法で、雰囲気水素の圧力を制御した。
得られたガラスを上記実施例1乃至9と同様の方法で処理し、レーザ照射後の蛍光を調べた。
水素圧が1、0.1、0.01、0.002、0.001(1/1000)気圧までの処理条件では、いずれも蛍光が観測されなかった。
しかし、2/10000気圧の減圧下で処理すると、未処理試料の60%の強さの蛍光が観測された。
【0026】
【発明の効果】
上述のように、本発明によれば、紫外線照射による赤色蛍光の発生が、安定して除去できるだけでなく、用いる水素圧力が極めて少なくて良いので、爆発や火災の危険が無く、安全対策に要する設備が簡素化されて低コストで済み、かつ処理に要する時間も短く、更に操作も極めて簡便に処理できる。
更に、本発明によれば、ガラス形状の成形と、蛍光除去操作が同時にできるので、実用上の利点が極めて大きい。
Claims (3)
- 合成石英ガラスを、水素圧力が1/10乃至1/1000気圧の雰囲気中で、1400℃以上の温度に於いて、該石英ガラスの構造決定温度に到達するまでの時間(緩和時間)以上の時間、熱処理することを特徴とする紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法。
- 前記雰囲気が、不活性気体と水素との混合気体から成ることを特徴とする請求項1記載の紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法。
- 前記不活性気体が、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び窒素から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の紫外線光学用合成石英ガラスの製造方法。
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