JP3669360B2 - エポキシフルオレン化合物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なエポキシフルオレン化合物およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、耐熱性、低吸湿性、耐薬品性、光学特性等に優れた硬化物を与えるエポキシフルオレン化合物およびその製造方法に関するものである。
本発明のエポキシフルオレン化合物は、塗料、接着剤等のいわゆる従来のエポキシ樹脂が使用されていた分野ばかりではなく、殊に注型品、封止材、積層板、レジストインク等の電気・電子材料用途に好適に使用され得る。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂は、多くの分野で用いられ、その用途に応じて樹脂の改良・改質がなされてきた(例えば下記特許文献1〜5参照)。
殊に、半導体素子、液晶表示素子等の電子部品用途分野では、回路の高集積化、高性能化と併せて高微細化、高信頼化が進み、成形材、注型材料、ワニス、封止材料、絶縁膜、回路基板材あるいはレジスト材等への要求性能も一段と厳しいものが求められている。従ってこれらに必要な材料性能としては、例えば硬化物の耐熱性、低吸湿性、高強度、安定な電気特性、低収縮性、耐薬品性、基板への密着性など多くの性能であるが、これらの諸性能を満たすエポキシ樹脂は未だ存在しないのが実情である。
【0003】
特に、これらの電子部品用途分野において、エポキシ樹脂中の加水分解性塩素あるいはアルカリ金属等の不純物の存在は、素子の信頼性を損なわせるため、一層の高純度化が要求されつつある。例えば半導体素子内に加水分解性塩素が存在すると吸湿により分解遊離した塩素イオンが回路を腐食する原因となり、その結果、断線、剥離等の不具合を生じる恐れがあることが指摘されており、これらの不純物を可及的に低減させることが重要である。
【0004】
またナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンの存在も耐湿性の低下をもたらすばかりでなく、トランジスタについていえば、閾値電圧を変動させることから好ましくない。
【0005】
ところが現在使用されているエポキシ樹脂は、エピクロルヒドリンをアルカリ金属水酸化物存在下でフェノール、アルコール、アミン、あるいはカルボン酸等の活性水素化合物と反応させることによる所謂グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型あるいはグリシジルエステル型エポキシ樹脂であり、前記用途に使用し得るような高純度品とするには、製造方法に起因する副生アルカリ金属ハロゲン化物あるいは好ましくない副反応物等を生成物から除去するために、多大のエネルギーを必要とする問題がある。
【0006】
また近年、電子材料用の高耐熱性エポキシ樹脂として、9,9−ジフェノ−ルフルオレンにエピクロルヒドリンを縮合させて得られるフルオレン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が開発されている(例えば下記特許文献6参照)。確かにこのエポキシ樹脂の硬化物は、耐熱性、機械的強度、透明性に優れており、その理由としてフルオレン化合物の所謂カルド型構造と呼ばれる特異的な化学構造に起因するとされている。しかしながらこのエポキシ樹脂の製造もやはり従来法によることから、その問題点は解決されていない。
【0007】
その他のエポキシ樹脂の製造方法としては、炭素―炭素二重結合を有機または無機の過酸化物あるいは過酸化水素等を用いて直接酸化する所謂酸化法のエポキシ樹脂の製造方法が知られている。この方法では、エピクロルヒドリンを使用しないことによるアルカリ金属ハロゲン化物等の不純物量が極めて少ない特徴を有しているものの、原料が特定構造のポリエン化合物あるいは脂環式オレフィン化合物に限られることからエポキシ樹脂としての例は未だ多くないのが実情である。
【0008】
これとは別に、活性炭化水素化合物に直接エポキシ基を導入するため、K.Bangertらは、シクロペンタジエニルナトリウム塩にエピクロルヒドリンを作用させることを試みたが、反応生成物は予期したエポキシ化合物ではなく、シクロプロパン環を橋頭部に有するスピロヘプタジエン誘導体であるとしている(下記非特許文献1参照)。
【0009】
また、本発明者らもG.W.H.Sherfらの方法(下記非特許文献2参照)に準じて4級アンモニウム塩とアルカリ金属水酸化物存在下、無水ジメチルスルフォキサイド中、フルオレンとエピクロルヒドリンとの反応を試みたが、予期したエポキシ化合物は得られなかった。
【0010】
【特許文献1】
特開2002−194049号公報
【特許文献2】
特開2002−105166号公報
【特許文献3】
特開2001−164091号公報
【特許文献4】
特開2001−354754号公報
【特許文献5】
特開平9−328534号公報
【特許文献6】
特開昭63−218725号
【非特許文献1】
テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Lett.),#17,pp.1119(1963)
【非特許文献2】
カナディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー(Can.J.Chem.),38,697(1960))
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明の目的は、前記従来技術における問題点を解決することのできる、新規なエポキシフルオレン化合物およびその製造方法を提供することにあり、とくに例えば電子部品用途分野において、耐熱性、低吸湿性、耐薬品性、光学特性等に優れた硬化物を与えるエポキシフルオレン化合物およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、下記一般式(I)
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Zは9,9−フルオレニリデン基または芳香核置換9,9−フルオレニリデン基を示す)
で示されるエポキシフルオレン化合物である。
【0015】
請求項2の発明は、下記一般式(II)
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Zは9,9−フルオレニリデン基または芳香核置換9,9−フルオレニリデン基を示す)
で示される9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンまたは9,9−ジ(メタ)アリル芳香核置換フルオレンの(メタ)アリル基の炭素−炭素二重結合をエポキシ化することを特徴とする請求項1に記載のエポキシフルオレン化合物を製造する方法である。
【0018】
請求項3の発明は、得られたエポキシフルオレン化合物の加水分解性塩素濃度が500ppm未満である請求項2に記載のエポキシ型フルオレン化合物の製造方法である。
【0019】
請求項4の発明は、得られたエポキシフルオレン化合物のアルカリ金属含有量が3ppm未満である請求項2または3に記載のエポキシフルオレン化合物の製造方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のエポキシフルオレン化合物を製造するための出発物質として使用されるフルオレンは、フルオレン、芳香核置換フルオレン例えば1−メチルフルオレン、2,3−ベンゾフルオレン、1,2−ベンゾフルオレン、2,7−ジブロモフルオレン、2−アセチルフルオレン、1−ベンジルフルオレン、1−フェニルフルオレン等が挙げられる。
【0021】
9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンは、フルオレンまたは芳香核置換フルオレンと(メタ)アリルハライドをアルカリ存在下、縮合させることによって得られる。この反応は公知であり、例えばL.J.Mathias and G.J.Tregre、J.Polym.Sci.,Part B.Polym.Physics、36,2869(1998)、M.Makosza,Bull.De L‘Acad.Polonaise des sci.ser.chim.,XV(4)、165(1967)、G.W.H.Sherf et al.,Can.J.Chem.,38、697(1960)等に記載されている。得られた9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンは、水洗、蒸留、再結晶等の方法で不純物を除去するのがよい。
【0022】
このようにして得られたジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンの(メタ)アリル基の炭素―炭素二重結合を、エポキシ化することにより、本発明のエポキシフルオレン化合物が得られる。該エポキシ化は、例えば次の(1)〜(3)の方法により達成することができる。
【0023】
(1)過酸等の酸化剤を用いてエポキシ化する方法。
該方法は、例えばD.Swern,J.Am.Chem.Soc.,69,1692(1947)、D.Swern,OR,7,378(1951)、Y.Tanaka,“Epoxy Resins”p.16(1973)(Marcel& Dekker Inc.)、D.Swern,J.Am.Chem.Soc.,67,412(1945)等に記載されている。
過酸としては、公知の化合物を利用することが可能であり、無機過酸、有機過酸例えば、過酢酸、過ギ酸、モノ過フタル酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸、m−クロル過安息香酸等が挙げられる。また有機過酸としては、有機酸と過酸化水素とを混合使用することにより、有機過酸と同様の目的を達成し得る。中でも、入手性等の面から過酢酸、過安息香酸、過酸化水素と酢酸の混合物等が好ましく用いられる。
過酸等の酸化剤量は、例えば過酸の種類、あるいは反応系の濃度、反応温度等により変化するため、一概に規定できないが、オレフィン1当量に対して過酸あるいは過酸化水素水を1.0〜2.0当量、好ましくは1.0〜1.8当量、さらに好ましくは、1.1〜1.5当量である。オレフィンに対して過酸または過酸化水素水が1当量未満では、エポキシ化が不完全となりがちである一方、2当量を超える量を使用しても、さしたる効果は認められないばかりか、反応性の高いオレフィン化合物では過度の反応が行われることもあり好ましくない。
有機酸と過酸化水素とを混合使用して酸化剤とする場合、過酸化水素水は通常入手し得る3〜50重量%、好ましくは10〜35重量%の濃度品が使用される。濃度が3重量%未満では、酸化剤濃度が低く、エポキシ化に長時間を要することから生産的でない。一方50重量%を超える濃度の過酸化水素水は、酸化性が強いため、取り扱いに注意を要することから好ましくない。
【0024】
(2)ニッケル(II)錯体触媒存在下での分子状酸素による直接エポキシ化法該方法は公知であり、例えば(i)T.Mukaiyama,et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,63,179(1990);あるいはT.Mukaiyama,et al.,Chemistry Letters,1664(1990)に記載されている。
【0025】
(3)酸化剤として過酸化水素を用い、有機溶媒中で4級アンモニウム塩およびリン酸存在下タングステンのナトリウム塩からなる酸化触媒を用いてエポキシ化する方法
該方法は公知であり、例えばIshii,et al.、J.Org.Chem.53,3587(1988);あるいはR.Noyoriet al.、J.Org.Chem.,61,8310(1996);あるいは特開昭57−156475号公報に記載されている。
【0026】
なお、ジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンの(メタ)アリル基の炭素―炭素二重結合を、次亜塩素酸などによりハロヒドリン化合物とし、次いで苛性ソーダ等のアルカリで脱塩酸環化するエポキシ化(ハロヒドリン法)も可能であるが、アルカリによるエポキシへの閉環時に残留ハロヒドリン化合物の精製除去がしばしば困難であり、不純物が増加するため好ましくない。
これに対し、前記(1)〜(3)の方法は高選択性であり、さらに加水分解性塩素およびアルカリ金属含有量が低減できることから好ましく用いられる。
【0027】
本発明に使用される反応溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、クロルベンゼンのような(ハロゲン化)芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジオキサン、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレン、クロロフォルム、トリクレン等の塩素系炭化水素類、酢酸等のエポキシ化反応に不活性な溶媒が挙げられ、これらを適宜選定もしくは必要に応じて、混合して使用することができる。
【0028】
9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンの仕込み濃度は、使用する溶媒種、酸化剤種類、濃度、酸化反応の環境にもより異なるため、一概に規定できないが、溶媒に対して通常5〜100重量%、好ましくは10〜100重量%、さらに好ましくは15〜100重量%である。5重量%未満の濃度では、エポキシ化反応が遅く生産的でない。
一方、例えば4級アンモニウム塩共存下でのタングステン酸ナトリウム塩触媒利用の過酸化水素水によるエポキシ化反応では、過酸化水素水中の水が溶媒または分散媒としても作用するため、事実上無溶媒での反応も可能である。
【0029】
本発明で使用される反応温度は、酸化剤として使用する過酸化水素水あるいは過酸の分解による活性酸素の喪失あるいは要らざる副反応の抑制のため、通常0〜100℃、好ましくは10〜90℃、さらに好ましくは10〜85℃である。反応温度が0℃未満では、エポキシ化反応が遅く、生産的でない。
【0030】
エポキシ化に要する反応時間は、使用するジ(メタ)アリルフルオレンまたは芳香核置換9,9−ジ(メタ)アリルフルオレンの種類、反応温度、酸化剤種およびその濃度、反応溶媒種等によって異なるため、一概に規定できないが、通常0.02〜72時間、好ましくは0.05〜70時間、さらに好ましくは0.1〜60時間である。エポキシ化反応は一種の酸化反応であるため、例えば反応時間を0.01時間未満で行う条件設定は、要らざる副反応を生起することから好ましくない。一方長時間の反応は、過酸を使用する場合には、生成エポキシ基に分解生成した酸が付加し、エポキシ化合物の収率が低下する場合があることから好ましくない。
【0031】
このようにして得られた本発明のエポキシフルオレン化合物は、加水分解性塩素量が500ppm未満となり、および/または熱水抽出のアルカリ金属量が3ppm未満に低減されるため、電子部品用途分野に有用である。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を合成例および実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお合成例および実施例に記載の化合物の同定方法は以下の方法によった。
(1)1H−NMRおよび13C−NMR:テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質として、日本電子社製JNM―LA300核磁気共鳴装置で測定した。
(2)IRスペクトル:日本電子社製FTIR測定装置 JIR−RFX3002FT−IR Spectrophotometerを用いて測定した。
(3)DSC測定:SII社製DSC装置を用い、窒素気流下、温度範囲30〜300℃、昇温速度10℃/分で測定した。
(4)HPLC測定:昭和電工社製Shodex RISE―51(カラムKF−801、KF−802)を用い、カラム温度40℃、溶出液テトラヒドロフラン(THF)、溶出速度 1ml/分で測定した。
(5)エポキシ当量:塩酸法から求めた。
(6)Na+濃度:原子吸光法で測定した。
(7)加水分解性塩素濃度:定法に従い、1N KOH−エタノール/ジオキサン法で鹸化後、硝酸銀水溶液で電位差滴定して求めた。
【0033】
(合成例1)9,9−ジアリルフルオレンの合成
前出文献(Can.J.Chem.,38,697(1960))に記載の方法に準じて合成した。即ち、温度調節器、攪拌機、ジムロート冷却管、滴下ロートを付した2lの四つ口フラスコに、精製フルオレン166.2g(1.00モル)、トルエン400ml、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド9.68g(0.03モル)、精製ジメチルスルホキサイド22.0gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら30℃まで加熱してフルオレンを溶解した。これに50重量%のNaOH水溶液320g(NaOH160g)を滴下ロートより滴下した。次いで攪拌下アリルクロライド168.4g(2.2モル)を滴下した。フラスコの加熱で還流と共に内温は64℃から最高78℃まで上昇した。その後9時間反応させてから反応生成物を25%リン酸水溶液で中和、次いで1.2lのイオン交換水で2回水洗した後、トルエンを減圧留去し、50℃で真空乾燥することにより、242.32gのオレンジ色の室温で油状の液体を得た。化合物の1H−NMRスペクトル、IR−スペクトルから9,9−ジアリルフルオレンであること、1H−NMRスペクトルから純度は93%(残りはモノアリルフルオレン)ことを確認した。HPLCの保持時間は32.60分であった。
【0034】
(合成例2)9,9−ジメタリルフルオレンの合成
合成例1に記載の方法をわずかに変更して合成した。即ち温度調節機、攪拌装置、ジムロート冷却管、滴下ロートを付した500mlの四つ口フラスコに、フルオレン41.6g(0.25モル),テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド2.42g(7.5ミリモル)、50重量%NaOH水溶液80g、ジメチルスルホキサイド5.5gを仕込み、攪拌しながら40℃まで昇温した。そこにβ―メタリルクロライド57.4g(0.75モル)を10分かけて滴下し、滴下終了後70℃で4.5時間反応させた。得られた反応生成物に300mlのトルエンを加えて希釈してから溶液を2規定塩酸で中和した後、イオン交換水300mlで2回水洗した後、トルエンを減圧留去した。得られたオレンジ色の結晶を50℃で真空乾燥することによりDSCで68℃(ピークトップ)に融点を持つ目的物を得た。化合物の1H−NMRスペクトル、IR−スペクトルから9,9−ジメタリルフルオレンであること、1H−NMRスペクトルから純度は93%(残りはモノ−メタリルフルオレン)であることを確認した。HPLCの保持時間は32.00分であった。
【0035】
(実施例1)9,9−ジグリシジルフルオレンの合成−1
表示純度77%のm−クロロ過安息香酸11.21g(0.05モル)をトルエン450mlに溶解し、500mlの三角フラスコに仕込んだ。そこに合成例1で得た純度93%の9,9−ジアリルフルオレン6.62g(0.025モル)を5分で滴下し、時々攪拌しながら室温で48時間放置した。反応終了後、未反応のm−クロロ過安息香酸を亜硫酸水素ナトリウム水溶液で処理した。続いて10重量%NaOH水溶液で中和、イオン交換水で2回洗浄し、トルエンを留去した。得られた白色個体をヘキサンで3回再結晶し、50℃で真空乾燥することにより、融点が94℃の白色結晶1.55g(収率27.8%)を得た。HPLCは1スポットであり、その保持時間は33.06分であった。元素分析結果は実測値C:81.80%、H:6.41%(9,9−ジグリシジルフルオレンとした時の理論値C:81.99%、H:6.52%)と良く一致し、さらにエポキシ当量は148(理論値は139.2)であった。本実施例で得られた化合物の1H−NMRスペクトルを図1に、IRスペクトルを図2に示す。また13C−NMRスペクトルからフルオレン部分(52、120〜149ppm)以外に43,47,49ppmにピークがフルオレン部に対して2個分認められ、9,9−ジグリシジルフルオレンであると同定された。加水分解性塩素濃度は100ppmであり、Na+濃度は2ppmであった。
【0036】
(実施例2)9,9−ジ(メチルグリシジル)フルオレンの合成−1
実施例1と同様に、表示純度77%のm−クロロ過安息香酸11.21g(0.05モル)を塩化メチレン130mlに溶解し、500mlの三角フラスコに仕込んだ。そこに塩化メチレン20mlに溶解した純度93%の9,9−ジメタリルフルオレン6.85g(0.025モル)を5分間かけて滴下しながら時々攪拌して、室温で2.5時間放置した。反応修了後、析出したm−クロロ安息香酸を炉別した。続いて10重量%NaOH水溶液で中和、イオン交換水で2回水洗し塩化メチレンを留去した。得られた白色個体をヘキサンから再結晶を3回行い、50℃で真空乾燥することにより、融点が139℃の5.08gの白色生成物を得た(収率65.3%)。1H−NMRスペクトル、IR−スペクトル、元素分析から9,9−ジ(メチルグリシジル)フルオレンであることを確認した。またHPLCは1スポットであり、その保持時間は31.90分であった。元素分析結果は実測値C:82.01%、H:7.01%(9,9−(メチルグリシジル)フルオレンとした時の理論値C:82.32%、H:7.24%)と良く一致した。理由は不明であるが、エポキシ当量は160(理論値153.2)であった。13C−NMRスペクトルの測定結果からアルコール性OH基は不在で、9,9−ジ(メチルグリシジル)フルオレンと同定された。本実施例で得られた化合物の1H−NMRスペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示す。また13C−NMRスペクトルから22ppm(CH3)、49,54ppm(CH2)、55ppm(メチルグリシジル基の4級炭素の>C<)がフルオレン部に対して2個分認められ、目的物はできていると考えられる(60〜70ppmのアルコール領域にはピークは認められないことからエポキシはアルコールではなく環として2個分存在する)。加水分解性塩素濃度は120ppmであり、Na+濃度は1ppmであった。
【0037】
(実施例3)9,9−ジグリシジルフルオレンの合成−2
無水酢酸400mlに93%純度の9,9−ジアリルフルオレン26.48g(0.10モル)を溶解し、外部冷却により内温を40℃以下に維持しながら、30%の過酸化水素水溶液24.5ml(0.24モル相当)を30分かけて滴下した後、10時間この温度を保持した。反応後溶液を亜硫酸水素ナトリウム水溶液で処理し、次いで10重量%NaOH水溶液で中和後、イオン交換水で洗浄した。得られた白色結晶を実施例1と同様にヘキサンから再結晶することにより、9,9−ジグリシジルフルオレン20.9g(収率75%)を得た。融点、1H−NMR、HPLCによる保持時間は実施例1と同一の結果を示した。加水分解性塩素濃度は100ppmであり、Na+濃度は2ppmであった。
【0038】
(実施例4)9,9−ジ(メチルグリシジル)フルオレンの合成―2
実施例3で使用した9,9−ジアリルフルオレンに代えて、93%純度の9,9−ジメタリルフルオレン27.40gを用い、反応を室温で5時間とした他は、実施例3を繰り返すことにより、9,9−ジ(メチルグリシジルフルオレン)26.00g(収率85%)を得た。融点、1H−NMR、HPLCによる保持時間は実施例2と同一の結果を示した。加水分解性塩素濃度は130ppmであり、Na+濃度は2ppmであった。
【0039】
(実施例5)9,9−ジグリシジルフルオレンの合成―3
温度調節器、攪拌装置、冷却コンデンサーを付した2リットル四つ口フラスコに35重量%過酸化水素水197.5g(2.05モル)、タングステン酸ナトリウム・2水和物6.0gを加え、さらに75重量%リン酸4gを加えて水溶液を黄色から無色透明に変色させた。その水溶液に9,9−ジアリルフルオレン165.5g(0.665モル)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336)5.5gを加え、激しく攪拌しながら70℃で7時間反応させた。反応液を室温に冷却し、生成した固体をろ別し、固体をイオン交換水で2回洗浄した。固体をイソプロピルアルコールで洗浄し、次いで50℃で真空乾燥することにより、融点が93.5℃の9,9−ジグリシジルフルオレンを71.8%の収率で得た。同定は実施例1および実施例3と同様にして行った。なおエポキシ当量は143.3g/eqであった。加水分解性塩素濃度は100ppmであり、Na+濃度は2ppmであった。
【0040】
(実施例6)9,9−ジ(メチルグリシジル)フルオレンの合成―3
実施例5で使用した9,9−ジアリルフルオレンに代えて、93%純度の9,9−ジメタリルフルオレン27.40gを用い他は、実施例5に記載の反応条件を踏襲することにより、9,9−ジ(メチルグリシジルフルオレン)26.00g(収率85%)を得た。融点、1H−NMR、HPLCによる保持時間は実施例2と同一の結果を示した。加水分解性塩素濃度は110ppmであり、Na+濃度は2ppmであった。
【0041】
(比較例1)
温度調節器、攪拌装置、上部にジムロート冷却管を付したDean−Starkトラップ、滴下ロート、窒素導入管を付した300ml四つ口フラスコに、エピクロルヒドリン92.5g(1モル)、フルオレン16,6g(0.1モル)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド2.42g(7.5ミリモル)、を仕込み窒素気流下で攪拌しながら120℃に加熱した。この温度で50wt%のNaOH水溶液50wt%NaOH水溶液80g(1モル)を滴下し、エピクロルヒドリン/水を共沸除去した。8時間後に過剰のエピクロルヒドリンを留去した。反応生成物をろ過し、200mlのメタノールに投ずることにより、褐色沈殿を得たが、HPLCは多数のピークが存在し、またFTIRスペクトル、1H−NMRスペクトルからはエポキシ基の存在は認められなかった。
【0042】
(比較例2)
温度調節器、攪拌装置、上部にジムロート冷却管を付したDean−Starkトラップ、滴下ロート、窒素導入管を付した300ml四つ口フラスコに、フルオレン16.6g(0.1モル)、トルエン150g、ジメチルスルフォキサイド20gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら60℃に加熱してフルオレンを溶解させた。この温度を保ったまま、50wt%のNaOH水溶液32g(0.4モル)を加え、内温を120℃まで上げて、トルエン/水を共沸させた。水を除去した後、エピクロルヒドリン74g(0.8モル)を90分かけて滴下し、100℃で6時間後反応した時点で、反応液が紫色から赤橙色に変化し、その後4時間さらに反応させた。室温に戻した後、塩酸で中和し、沈殿物をろ過してイオン交換水にて5回洗浄を行った。50℃で真空乾燥して得られた固体は、クロロフォルム等に殆ど不溶であった。トルエン分別から可溶部は3.8g橙色の固体であり、トルエン不溶部は17.7gの淡黄色の固体であった。トルエン可溶部のHPLCスペクトルは多数のピークが存在し、また1H−NMRスペクトルも非常に複雑であり、エポキシ基の存在は認められなかった。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、耐熱性、低吸湿性、耐薬品性、光学特性等に優れた硬化物を与える新規なエポキシフルオレン化合物が提供される。
本発明のエポキシフルオレン化合物は、塗料、接着剤等のいわゆる従来のエポキシ樹脂が使用されていた分野ばかりではなく、殊に注型品、封止材、積層板、レジストインク等の電気・電子材料用途に好適に使用され得る。また精密成形材料、接着剤等の原料としても有用である。
また、本発明のエポキシフルオレン化合物は、従来公知のエポキシ樹脂と同様に、アミン、カルボン酸、カルボン酸無水物、フェノール樹脂等のエポキシ硬化剤及び硬化促進剤(触媒)による硬化が可能である。
さらに、本発明の新規なエポキシフルオレン化合物の製造方法によれば、加水分解性塩素が500ppm未満および/またはアルカリ金属が3ppm未満の不純物量である化合物が得られるので、該化合物は、封止材料、層間絶縁膜、パッシベーション膜等の絶縁材料、カラーフィルター用材料等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた化合物のIRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られた化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られた化合物のIRスペクトルである。
Claims (4)
- 得られたエポキシフルオレン化合物の加水分解性塩素濃度が500ppm未満である請求項2に記載のエポキシ型フルオレン化合物の製造方法。
- 得られたエポキシフルオレン化合物のアルカリ金属含有量が3ppm未満である請求項2または3に記載のエポキシフルオレン化合物の製造方法。
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