JP3629021B2 - 熱剥離型接着構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定量の熱硬化性接着剤成分および有機系熱膨張性粒子を含み、初期接着力が高い一方、加熱処理、特に熱水処理を実施することにより接着力が著しく低下して、容易に剥離可能な熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、加熱処理により接着力が低下して容易に剥離可能な熱剥離型接着剤組成物が提案されている。
例えば、加熱により膨張する膨張性微小球(発泡倍率:約2〜150倍)を、アクリル系熱可塑性樹脂からなる接着剤成分100重量部に対して、30〜100重量部含有した粘着剤が開示されており、ビニルテープやラベル等の用途に用いることが示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、同様の粘着剤が、他の特許公報に開示されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
しかしながら、開示されたこれらの粘着剤は、それぞれ粘着剤成分が基本的にアクリル系熱可塑性樹脂から構成されており、接着力や耐熱性に乏しいという問題が見られた。したがって、例えば、3MPa以上の高い接着力や機械的特性が要求される用途には、事実上使用することが困難であった。また、開示された接着剤は、加熱処理した場合の接着力の低下が乏しく、一方で、無理やり剥離しようとすると、被着体を汚染しやすくなり、いずれにしてもリサイクルが困難であるという問題が見られた。
【0003】
また、加熱により膨張する膨張性微小球(発泡倍率:約20〜150倍)を、接着剤成分100重量部に対して、10重量部程度含有した熱膨張性接着剤が開示されており、ラベル等に用いることが例示されている(例えば、特許文献6参照)。
しかしながら、開示された接着剤は、接着力の向上を目的として膨張性微小球を添加しているため、膨張性微小球の添加量が適当でなく、また、硬化処理後に膨張性微小球を発泡させて、接着力を低下させることにより、自己剥離性を得るという意図は全くなかった。
【0004】
また、粘着剤と、放射線重合性化合物と、熱膨張性微小球とからなる粘着剤を塗布した粘着シートが開示されており、半導体素子のダイシング工程に用いられることが例示されている(例えば、特許文献7参照)。
しかしながら、開示された粘着シートは、使用するにあたって、粘着剤に配合された放射線重合性化合物を放射線硬化しなければならないという使用上の制約が見られた。そのため、放射線を透過させることができない用途には使用することが困難であった。また、開示された粘着シートは、半導体素子をダイシングする際に、仮固定することが主目的であって、例えば、3MPa以上の高い接着力や機械的特性が要求される用途には、事実上使用することが困難であった。
【0005】
また、粘着剤と、平均粒径差が3μm以上異なる2種以上の熱膨張性微小球とを配合した加熱剥離性接着剤が開示されている(例えば、特許文献8参照)。
しかしながら、開示された加熱剥離性接着剤は、2種類以上の熱膨張性微小球を使用しなければならず、逆に剥離性にばらつきが見られたり、経済的に不利になったりするばかりか、複数の熱膨張性微小球を均一に混合することが困難となるなどの製造上の問題も見られた。また、開示された加熱剥離性接着剤は、例えば、3MPa以上の高い接着力や機械的特性が要求される場合には、使用することが困難であった。
【0006】
また、ブロック共重合体と、複数の粘着付与剤と、熱膨張性微小球とを配合した剥離性感圧接着剤が開示されている(例えば、特許文献9参照)。
しかしながら、開示された剥離性感圧接着剤は、被着体に対する接着力が乏しく、例えば、3MPa以上の高い接着力や機械的特性が要求される場合には、使用することが困難であった。また、ブロック共重合体に対して、熱膨張性微小球を均一に混合するには、溶剤を使用しなければならないなどの製造上の制約が大きく、また、環境上も好ましくないという問題が見られた。
【0007】
さらにまた、硬化性樹脂中に、膨張開始温度が150℃以上の熱膨張性無機物を配合した熱剥離型接着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献10参照)。
しかしながら、開示された熱剥離型接着剤組成物は、加熱処理による接着力の低下が乏しく、実質的に被着体をリサイクルすることが困難であるという問題が見られた。また、熱膨張性無機物は比重や粒径が大きく、硬化性樹脂中に均一に混合することが困難であり、そのため、初期接着力がばらつくばかりか、接着力の低下が不均一であるという問題も見られた。
【0008】
一方、通常の使用時においては強力な接着力を示し、温水に接触すると接着力が低下する粘着ラベルの提供を目的として、熱収縮性のプラスチックフィルムないしシートを基材とし、その片面に、吸水性ポリマーを配合したアクリル系粘着剤層を形成した粘着ラベルが開示されている(例えば、特許文献11参照)。
しかしながら、開示された粘着ラベルに使用される粘着剤は、接着力や耐熱性に乏しいという問題が見られた。また、開示された粘着ラベルに使用される粘着剤は、水処理による接着力の低下が乏しいという問題も見られた。
したがって、例えば、3MPa以上の高い接着力や機械的特性が要求される一方、容易にリサイクルすることが要求される熱剥離型接着剤組成物の用途には使用することが困難であった。
【0009】
さらに、モーター等における接着剤で固定した磁石の回収方法が開示されており、エポキシ系接着剤等を熱分解以上の高温で加熱して、エポキシ系接着剤等を炭化除去することを特徴としている(例えば、特許文献12参照)。
しかしながら、開示された磁石の回収方法では、高温での加熱処理の実施が不可欠であって、危険性を伴う一方、磁石自身が熱劣化しやすく、リサイクル性に乏しいという問題が見られた。
【0010】
【特許文献1】
特開昭56−61468号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭60−252681号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平11−228921号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開2000−86994号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開2000−239620号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献6】
特開昭56−61467号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献7】
特開昭63−17981号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献8】
特開平6−184504号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献9】
特開平6−33025号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献10】
特開2000−204332号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献11】
特開平3−354442号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献12】
特開2001−85233号公報 (特許請求の範囲)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、エポキシ樹脂や反応性アクリル樹脂等の熱硬化性接着剤成分を用いるとともに、当該熱硬化性接着剤成分に対して、所定量の有機系熱膨張性粒子を添加することにより、接着剤成分が硬化処理後、加熱処理前は、高い接着力が得られる一方、加熱処理後には、短時間で急激に接着力が低下し、より好ましくは自己剥離(自然剥離)し、被着体を容易に回収して、リサイクルできることを見出したものである。
すなわち、本発明は、所定量の熱硬化性接着剤成分および有機系熱膨張性粒子を含み、初期接着力が高い一方、加熱処理により接着力が著しく低下して、容易に剥離可能な熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、加熱処理により接着力が低下する熱剥離型接着剤組成物を被着体間に用いて接着してなる熱剥離型接着構造体であって、熱剥離型接着剤組成物が、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、有機系熱膨張性粒子を30〜300重量部の割合で含有するとともに、熱剥離型接着剤組成物の硬化処理後、加熱処理前のJIS K 6850に準拠した引っ張りせん断接着力を3MPa以上の値とした熱剥離型接着構造体が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このように構成することにより、熱硬化性接着剤成分を含みながら、加熱処理前は、高い接着力や耐熱性が得られる一方、加熱処理後には、有機系熱膨張性粒子の働きにより、急激に接着力が低下するため、被着体を容易に回収してリサイクルすることができる。
なお、本発明の熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体の場合、硬化処理後の加熱処理によって、初期接着力が所定量低下して、被着体を回収できる程度の接着剤組成物を用いれば良い。その場合、例えば、60分間加熱処理することにより、初期接着力が1/2〜1/100の範囲で低下する接着剤組成物であることが好ましく、より好ましくは、被着体から自己剥離する接着剤組成物である。
【0013】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、熱硬化性接着剤成分の硬化後のガラス転移点を60〜250℃の範囲内の値とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、熱剥離型接着剤組成物が、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.1〜20重量部のカップリング剤を含むことが好ましい。
このように構成することにより、アルミニウム等の難接着被着体に対する初期接着力を高めることができるとともに、耐湿性や耐水性を向上させることもできる。その一方で、カップリング剤の添加量が所定範囲に制限されているため、熱水等を用いた場合であっても、容易に自己剥離させることができる。
【0015】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、熱剥離型接着剤組成物が、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.001〜20重量部の界面活性剤を含むことが好ましい。
このように構成することにより、界面活性剤の添加量が所定範囲に制限されているため、初期接着力の低下を抑制できる一方、加熱処理によって、均一に接着力を低下させたり、容易に自己剥離させたりすることができる。
【0016】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、熱剥離型接着剤組成物が、フィルム形成樹脂を含むとともに、厚さが10〜200μmのフィルム状であることが好ましい。
このように構成することにより、取り扱いが容易になるばかりか、初期接着力のばらつきが小さくなる一方、所定温度で加熱処理した場合に、均一に接着力を低下させることができる。
【0017】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、70〜250℃の温度での加熱処理により、60分以内に自己剥離することが好ましい。
このように構成することにより、加熱処理中の被着体の熱劣化を有効に防止することができるため、回収した被着体を容易にリサイクルすることができる。
【0018】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、70〜250℃の熱水による加熱処理により、10分以内に自己剥離することが好ましい。
このように構成することにより、剥離処理が容易かつ短時間で可能になるとともに、加熱処理中の被着体の熱劣化を有効に防止することができる。また、加熱媒体として、水(水蒸気を含む。)が使用できるため、大量、短時間処理が可能となり、極めて経済的であるばかりか、剥離プロセス制御上の安全性も高くなる。そして、剥離した後の被着体をそのまま加熱媒体によって洗浄することができるため、回収した被着体を容易にリサイクルすることもできる。
【0019】
また、本発明の熱剥離型接着構造体を構成するにあたり、加熱処理の温度をT2(℃)とし、硬化処理の温度をT1(℃)とした場合に、T2≧T1+30℃の関係式を満足することが好ましい。
このように硬化処理の温度(T1)と、加熱処理の温度(T2)の値が離れていることにより、加熱処理前は、高い接着力や耐熱性が得られる一方、加熱処理後には、急激に接着力が低下するため、被着体を容易に回収してリサイクルすることができる。
なお、硬化処理の温度(T1)は、JIS K 6850に準拠した引っ張りせん断接着力(被着体:ステンレス板同士)として、3MPa以上の値が得られる硬化温度であって、加熱処理の温度(T2)は、引っ張りせん断接着力が1/10以下に低下する温度とそれぞれ定義される。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態は、加熱処理により接着力が低下する、より好ましくは、自己剥離可能な熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体であって、熱剥離型接着剤組成物が、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、有機系熱膨張性粒子を30〜300重量部の割合で含有するとともに、硬化処理後、加熱処理前のJIS K 6850に準拠した引っ張りせん断接着力を3MPa以上の値とした熱剥離型接着構造体である。
【0021】
1.接着剤
(1)熱硬化性接着剤成分
本発明に使用する熱硬化性接着剤成分としては、例えば、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、反応性アクリル系樹脂、シアネートエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シアノアクリレート系接着剤、フェノールアルデヒド系接着剤、メラミンアルデヒド系接着剤、尿素アルデヒド系接着剤、レゾルシノールアルデヒド樹脂、キシレンアルデヒド樹脂、フラン樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、これらの熱硬化性接着剤成分のうち、硬化処理後の加熱処理条件(剥離処理条件)が通常、70℃以上の温度であることを考慮して、70℃未満の温度、より好ましくは、室温付近の温度であっても硬化が可能な低温硬化型接着剤成分を使用することが好適である。
【0022】
また、機械的特性や接着特性に優れ、しかも、通常70℃未満の温度での低温硬化が可能であることから、熱硬化性接着剤成分として、エポキシ系樹脂を使用することがより好ましい。
このようなエポキシ系樹脂を使用する場合、その主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、あるいはそれらの変性物等を挙げることができる。
また、硬化剤としては、脂肪族ポリアミン化合物、ポリアミド樹脂、芳香族ジアミン化合物、脂環族ジアミン化合物、ジシアンジアミド化合物、複素環式アミン化合物、イミダゾール化合物、メラミン化合物、フェノール化合物、メルカプタン系化合物、酸無水物、三フッ化ホウ素錯体、あるいはそれらの変性物等を挙げることができる。
さらに、エポキシ系樹脂を用いる場合、剥離接着力の値が低い場合があるので、エポキシ系樹脂100重量部に対して、数平均分子量が1,000〜5,000の液状ゴム、例えばカルボキシル基末端NBR(CTBN)を1〜500重量部の割合で予め反応させて得られる変性エポキシ系樹脂を用いることが好ましい。あるいは、同様の理由から、後述するフィルム形成樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂やフェノキシ樹脂等を、エポキシ系樹脂100重量部に対して、10〜50重量部の範囲で添加し、熱硬化性樹脂/熱可塑性樹脂からなる混合物として使用することも好ましい。
【0023】
また、30〜50℃の室温付近温度であっても、硬化反応が速く、しかもせん断接着力のみならず剥離接着力の値も著しく高いことから、熱硬化性接着剤成分として、反応性アクリル系樹脂を使用することがより好ましい。
このような反応性アクリル系樹脂を使用する場合、その主剤として、アクリルモノマーとラジカル発生剤との組み合わせるとともに、硬化促進剤として、アクリルモノマーと還元剤の組み合わせを使用することが好ましい。
さらに、70℃未満の温度であっても、硬化反応が極めて速く、しかも熱硬化のみならず、光硬化も併用できることから、シアネートエステル樹脂を使用することも好ましい。
その場合、その主剤として、シアネートエステル樹脂を使用し、硬化剤として、シクロペンタジエニル鉄(フェロセン)等の有機金属化合物を添加するとともに、加水分解防止剤として、エポキシ樹脂等を添加することが好ましい。
【0024】
また、硬化性接着剤成分の数平均分子量を100〜10,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる数平均分子量が100未満の値となると、取り扱いが困難となったり、あるいは、有機系熱膨張性粒子を均一に分散することが困難となったりする場合があるためである。一方、かかる数平均分子量が10,000を超えると、流動性が低下して、取り扱いが困難となったり、あるいは、硬化速度が低下したりする場合があるためである。
したがって、硬化性接着剤成分の数平均分子量を200〜5,000の範囲内の値とすることがより好ましく、300〜3,000の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、熱硬化性接着剤成分の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレン換算分子量として、測定することができる。
【0025】
また、硬化性接着剤成分(硬化後)のガラス転移点を60〜250℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるガラス転移点が60℃未満の値となると、耐熱性が低下したり、耐クリープ性が不十分となったりする場合があるためである。一方、かかるガラス転移点が250℃を超えると、有機系熱膨張性粒子を均一に分散することが困難となったり、加熱後に速やかに接着力が低下しなかったりする場合があるためである。
したがって、硬化性接着剤成分のガラス転移点を70〜200℃の範囲内の値とすることがより好ましく、80〜150℃の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、熱硬化性接着剤成分のガラス転移点は、示差走査型熱量計(DSC)により、例えば、窒素中、10℃/分の条件で昇温させた場合に現れる比熱の変化点として測定することができる。
【0026】
(2)添加剤
▲1▼カップリング剤
また、熱剥離型接着剤組成物には、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、およびチタンカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一つのカップリング剤を添加することが好ましい。
この理由は、このようなカップリング剤を添加することにより、水処理前には、空気中等の水分によって、接着力が低下することを防止することができるためである。
このようなカップリング剤としては、具体的に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシアルミニウム、γ−アミノプロピルトリメトキシチタン等が挙げられる。
なお、カップリング剤を添加する場合、当該カップリング剤の添加量を、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜10重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜5重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0027】
▲2▼界面活性剤
また、熱剥離型接着剤組成物には、界面活性剤を添加することが好ましい。このように界面活性剤を添加することにより、熱水処理等を実施した場合に、より迅速に剥離することができる。
このような界面活性剤の種類は特に制限されるものではなく、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子界面活性剤のいずれであっても良い。
より具体的には、脂肪酸、脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルエーテル、ソルビトール脂肪酸エステルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
特に、ポリエチレングリコールモノステアリルエーテルやデカグリセリントリステアリルエステル、ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノラウリレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウリレート、ショ糖ジステアレート、ショ糖モノジステアレート等を使用することにより、少量の添加で添加効果が発現させることができる一方、初期接着力の低下についても、有効に防止することができる。
【0028】
また、界面活性剤の添加量を、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.001〜20重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる界面活性剤の添加量が、0.001重量部未満となると、添加効果が発現せず、熱水処理等を実施した場合に、迅速に接着力が低下しない場合があるためである。一方、かかる界面活性剤の添加量が20重量部を超えると、均一に混合分散することが困難となったり、あるいは初期接着力が低下したりする場合があるためである。
したがって、かかる界面活性剤の添加量を、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜5重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0029】
▲3▼有機溶剤
溶液型の熱剥離型接着剤組成物とする場合、適当な有機溶剤を添加することも好ましい。
このような有機溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、エチルエーテル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、1−ブタノール等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0030】
▲4▼その他
また、熱剥離型接着剤組成物中に、例えば、チクソトロピー剤、粘性調整剤、可塑剤、着色剤、顔料、耐候剤、変色防止剤、酸化防止剤、無機粒子、カーボン粒子、炭素繊維、導電性粒子等の一種単独または二種以上の組み合わせを本発明の目的を逸脱しない範囲で添加することも好ましい。
【0031】
(3)引っ張りせん断接着力
熱剥離型接着剤組成物の硬化後であって、剥離前のJIS K 6850に準拠した引っ張りせん断接着力を3MPa(約30kgf/cm2)以上の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる引っ張りせん断接着力が3MPa以上の値であれば、機械的特性に優れ、粘着剤では使用することができない構造用接着剤として、一般に使用することができるためである。逆に、かかる引っ張りせん断接着力が3MPa未満の値となると、使用中の被着体等の振動や温度上昇等によって、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物が剥離するおそれが生じるためである。
ただし、かかる引っ張りせん断接着力の値が過度に大きくなると、加熱処理によって容易に剥離することが困難となる場合がある。
したがって、熱剥離型接着剤組成物の硬化後であって、剥離前の引っ張りせん断接着力を4〜60MPaの範囲内の値とすることがより好ましく、5〜40MPaの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0032】
2.有機系熱膨張性粒子
(1)種類1
有機系熱膨張性粒子(単に、熱膨張性粒子と称する場合がある。)としては、マイクロカプセル内に、有機材料(ポリマー)により有機溶剤が封入された熱膨張性のマイクロカプセルを使用することができる。すなわち外殻の有機材料が加熱により軟化するとともに内殻の溶剤がガス化し、体積が、例えば5〜250倍に膨張する粒子である。
より具体的には、内殻の溶剤としては、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、オクタン、イソオクタン等の有機溶剤が挙げられ、それらの有機溶剤を、外殻である塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等からなる熱可塑性樹脂で包み込んだ熱膨張性マイクロカプセルを好ましく使用できる。
【0033】
(2)種類2
有機系熱膨張性粒子の発泡温度を制御するために、上述した有機系熱膨張性粒子の周囲に、無機材料や熱硬化性樹脂からなる最外層を設けることも好ましい。
すなわち、熱剥離型接着剤組成物を、発熱状態で使用する場合、例えばモーター等における磁石固定用接着剤に使用し、かかるモーター等が過度に発熱した場合には、所定の加熱処理前であっても、熱可塑性樹脂からなる外殻を有する有機系熱膨張性粒子が発泡するおそれがあるためである。
したがって、有機系熱膨張性粒子の発泡温度を制御するために、上述した有機系熱膨張性粒子の周囲に、メッキ法、蒸着法、スパッタリング法、印刷法、浸漬法、光硬化法等の手法により、無機材料、例えば、金、銀、アルミニウム、銅、ニッケル、鉛、半田、錫、二酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等を被覆したり、熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等を被覆したりすることが好ましい。
また、最外層として、無機材料や熱硬化性樹脂を被覆する場合、その厚さを0.01〜10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、最外層の厚さが0.01μm未満の値となると、被覆効果が得られずに、発泡温度を制御することが困難となる場合があるためである。一方、最外層の厚さが10μmを超えると、有機系熱膨張性粒子の発泡性が過度に抑制されて、熱剥離型接着剤組成物の剥離性が低下する場合があるためである。
【0034】
(3)添加量
有機系熱膨張性粒子の添加量を、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、30〜300重量部の範囲内の値とする。
この理由は、かかる有機系熱膨張性粒子の添加量が30重量部未満の値になると、有機系熱膨張性粒子の熱膨張性が不十分となって、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物の剥離性が低下する場合があるためである。一方、かかる有機系熱膨張性粒子の添加量が300重量部を超えると、剥離前の熱剥離型接着剤組成物の接着力が著しく低下する場合があるためである。
したがって、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物の剥離性と、剥離前の熱剥離型接着剤組成物の初期接着力とのバランスがより良好となることから、有機系熱膨張性粒子の添加量を、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、40〜200重量部の範囲内の値とすることが好ましく、50〜150重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0035】
ここで、図1〜図3を参照して、熱剥離型接着剤組成物における有機系熱膨張性粒子の添加量の影響をより詳細に説明する。
図1は、横軸には、熱硬化性接着剤成分100重量部に対する有機系熱膨張性粒子の添加量を採って示してあり、縦軸には、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物が3加熱条件(105℃オーブン、120℃のオーブン、90℃の熱水)により、それぞれ自己剥離するまでの時間を採って示してある。また、図2は、図1の部分拡大図である。なお、熱硬化性接着剤成分および有機系熱膨張性粒子は、実施例1で使用したものと同様である。
これらの図1および図2から容易に理解できるように、有機系熱膨張性粒子の添加量が25重量部を超えたあたりから、急激に自己剥離性を生じる傾向が見られる。そして、有機系熱膨張性粒子の添加量が30重量部以上となると、90℃の熱水によれば5分以内、105℃のオーブン加熱によれば40分以内、および120℃のオーブン加熱によれば20分以内の加熱時間によって、容易に自己剥離することが可能であることが理解される。
【0036】
また、図3は、横軸には、熱硬化性接着剤成分100重量部に対する有機系熱膨張性粒子の添加量を採って示してあり、縦軸には、熱剥離型接着剤組成物の初期接着力(ステンレス板同士)の値を採って示してある。
この図3から容易に理解できるように、有機系熱膨張性粒子の添加量が増加する程、熱剥離型接着剤組成物の初期接着力は若干低下する傾向が見られるものの、有機系熱膨張性粒子の添加量が、100重量部を相当量超えるまでは、実用上、十分な初期接着力(3MPa以上)が得られることが推定される。
したがって、熱剥離型接着剤組成物の剥離性の低下防止と、熱剥離型接着剤組成物の初期接着力の低下防止との観点から、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、有機系熱膨張性粒子の添加量を40〜200重量部の範囲内の値とすることが好ましく、50〜150重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
(4)平均粒径
有機系熱膨張性粒子の平均粒径を5〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる有機系熱膨張性粒子の平均粒径が5μm未満の値になると、熱剥離型接着剤組成物の剥離性が低下する場合があるためである。一方、かかる有機系熱膨張性粒子の平均粒径が100μmを超えると、剥離前の熱剥離型接着剤組成物の接着力が低下する場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物の剥離性と、剥離前の熱剥離型接着剤組成物の接着力とのバランスがより良好となることから、有機系熱膨張性粒子の平均粒径を10〜70μmの範囲内の値とすることが好ましく、15〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0038】
(5)表面処理
有機系熱膨張性粒子の表面に、上述した最外層を設けるほかに、カップリング剤処理や、無機物粒子添加、金属メッキ、金属蒸着、無機物蒸着あるいは、有機系熱膨張性粒子の外殻材料よりもガラス転移点が高い高分子を用いて被覆しておくことが好ましい。
このように有機系熱膨張性粒子を表面処理すると、耐熱性や混合分散性を向上させることができる。
また、表面処理していない有機系熱膨張性粒子を、エポキシ樹脂やオキセタン樹脂、あるいはフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に添加した場合、有機系熱膨張性粒子が硬化触媒となって、加熱硬化前に、熱硬化性樹脂の硬化を促進してしまう場合がある。そのような場合、有機系熱膨張性粒子に対して、カップリング剤処理等の表面処理を施すことにより、かかる硬化触媒としての弊害を有効に防止することができる。
【0039】
3.形態
(1)溶液状接着剤
溶液状の熱剥離型接着剤組成物とする場合、その粘度を0.1〜1,000Pa・s(測定温度25℃)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる粘度が0.1Pa・s未満の値となると、熱剥離型接着剤組成物の取り扱い性が低下する場合があるためであり、所定場所に均一に塗布することが困難となる場合があるためである。一方、かかる粘度が1,000Pa・sを超えた値となると、逆に取り扱いが困難となって、被着体を均一に接着することが困難となる場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物の粘度を1〜100Pa・sの範囲内の値とすることがより好ましく、5〜50Pa・sの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、熱剥離型接着剤組成物の粘度は、使用する熱硬化性接着剤成分の種類を選択したり、あるいは、稀釈剤として、有機溶剤やグリシジルエーテル化合物等を添加したりすることにより、適宜調整することができる。
【0040】
(2)フィルム状接着剤1
図4(a)に示すように、フィルム状の熱剥離型接着剤組成物とする場合、フィルム形成樹脂を含むとともに、熱剥離型接着剤組成物の厚さを10〜200μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、熱剥離型接着剤組成物の厚さが10μm未満の値となると、取り扱いが困難となったり、接着力が低下したりする場合があるためである。一方、熱剥離型接着剤組成物の厚さが200μmを超えた値となると、被着体を均一に接着することが困難となる場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物の厚さを20〜150μmの範囲内の値とすることがより好ましく、30〜100μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
また、フィルム形成樹脂の添加量は、熱剥離型接着剤組成物の硬化速度や接着力等を考慮して定めることが好ましいが、例えば、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、5〜70重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるフィルム形成樹脂の添加量が5重量部未満の値となると、フィルム化が不十分となる場合があるためである。一方、かかるフィルム形成樹脂の添加量が70重量部を超えると、硬化速度やせん断接着力が著しく低下する場合があるためである。
したがって、フィルム形成樹脂の添加量を熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、10〜60重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜50重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0042】
また、フィルム形成樹脂としては、熱硬化性接着剤成分と相溶性があるとともに、GPCで測定される数平均分子量が1,000〜1,000,000の高分子量物であることが好ましい。好ましいフィルム形成樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、カルボキシル化SEBS樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、フィルム形成樹脂は、熱硬化性接着剤成分と反応可能な官能基を有することが好ましい。例えば、熱硬化性接着剤成分がエポキシ樹脂の場合、フィルム形成樹脂が、分子内に水酸基やカルボキシル基等の官能基を有することが好ましい。このように熱硬化性接着剤成分と反応可能な官能基を有することにより、熱剥離型接着剤組成物の硬化速度を高めることができる。
【0043】
(3)フィルム状接着剤2
図4(b)に示すように、フィルム状の熱剥離型接着剤組成物(第1の接着剤層と称する場合がある。)の片面(図中B側)に、有機系熱膨張性粒子を全く含まないか、あるいは第1の接着剤層よりも少量の有機系熱膨張性粒子を含む熱硬化性接着剤成分からなる接着剤層(第2の接着剤層と称する場合がある。)を設けることが好ましい。
このように構成すると、第1の接着剤層と基材とが接し、第2の接着剤層と被着体とが接するように接着することにより、剥離面を選択することができ、第1の接着剤層と基材との界面において、被着体を容易に剥離することができる。
また、図4(b)に示すような構成であれば、第1の接着剤層において、有機系熱膨張性粒子の平均粒径と、接着剤の厚さを実質的に等しくすることができる。すなわち、必要な熱硬化性接着剤成分やフィルム形成樹脂の量は、片面に設けた第2の接着剤層の厚さで調節することができるため、第1の接着剤層における熱硬化性接着剤成分量やフィルム形成樹脂量を低下させることができる。よって、剥離するために加熱処理した場合、第1の接着剤層において、比較的少量の有機系熱膨張性粒子を添加した場合であっても、それらが均一に膨張するため、より効果的に被着体を剥離することができる。
【0044】
また、図4(c)に示すように、2枚の熱剥離型接着剤組成物(第1の接着剤層)の間に、有機系熱膨張性粒子を含まないか、あるいは第1の接着剤層よりも少量の有機系熱膨張性粒子を含む熱硬化性接着剤成分からなる接着剤層(第3の接着剤層と称する場合がある。)を設けることも好ましい。
このように構成すると、両面に第1の接着剤層が設けてあり、フィルムの裏表がなくなるため使い勝手が良好となる一方、上述したように、有機系熱膨張性粒子の平均粒径と、第1の接着剤層の厚さを実質的に等しくすることができる。したがって、第1の接着剤層において、有機系熱膨張性粒子を少量使用するだけで、熱剥離型接着剤組成物を容易に剥離することができる。
【0045】
4.対象物および剥離処理法
(1)被着体
接着するとともに、リサイクルする対象物としての被着体は、特に制限されるものではないが、例えば、モーターにおける永久磁石と、円筒状部材であるヨークとの間の接合や、家電リサイクル法対象の冷蔵庫、エアコン、洗濯機、またはテレビにおける金属部材と、樹脂部材との間の接合や、パソコンにおける回路基板と、ハウジングとの間の接合や、自動車やバイクにおける金属部材と、樹脂部材との間の接合等が挙げられる。
さらに、本発明の熱剥離型接着剤組成物を基材上に積層し、電子部品の搬送用テープ材料や仮止めテープ材料の一部として用いたり、あるいは、金属箔上に積層して、加熱剥離可能なシールドテープ材料の一部として用いたりすることも好ましい。
【0046】
(2)剥離処理法1
熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の加熱温度を、70〜250℃の範囲内の値とすることが好ましい。逆に言えば、70℃未満の加熱温度でも、250℃超の加熱温度でも、熱剥離型接着剤組成物が良好に剥離しない場合があるためである。
すなわち、かかる加熱温度が70℃未満となると、有機系熱膨張性粒子の発泡性が不十分となって、せん断接着力の低下が不十分となる場合があるためである。一方、かかる温度が250℃を超えると、被着体自身が熱変形したり、熱劣化したりするため、被着体をリサイクルすることが困難となる場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の温度を、90〜200℃の範囲内の値とすることがより好ましく、105〜180℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
一方、熱剥離型接着剤組成物を適用する被着体の熱変形温度を考慮して、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の温度を決定することが好ましい。例えば、被着体の熱変形温度が150℃未満の場合には、当該加熱温度を70〜150℃の範囲内の値とすることが好ましく、被着体の熱変形温度が150℃以上の場合には、当該加熱温度を150〜250℃の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0047】
また、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の加熱時間を、1秒〜24時間の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる加熱時間が1秒未満となると、接着力が十分に低下しない場合が生じるためである。一方、かかる加熱時間が24時間を超えると、被着体をリサイクルするための生産性が著しく低下する場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の加熱時間を、5秒〜6時間の範囲内の値とすることがより好ましく、10秒〜1時間の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の加熱手段についても特に制限されるものではないが、例えば、オーブン、ドライヤー、加熱蒸気、フッ素系炭化水素蒸気、フッ素系炭化水素浴、赤外線加熱炉、高周波加熱炉等を用いることが好ましい。
【0048】
(3)剥離処理法2
また、熱剥離型接着剤組成物として、熱硬化型接着剤組成物を使用し、硬化処理の温度をT1(℃)とし、加熱処理の温度をT2(℃)とした場合に、T2≧T1+30℃の関係式を満足することが好ましい。
このように加熱処理の温度(T2)と、硬化処理の温度(T1)との値が30℃以上離れていることにより、加熱処理前は、高い接着力や耐熱性が得られる一方、加熱処理後には、急激に接着力が低下するため、被着体を容易に回収してリサイクルすることができるためである。
ただし、過度に異なると、使用可能な接着剤組成物の種類が過度に制限される場合がある。
したがって、T1+150℃≧T2≧T1+30℃の関係式を満足することがより好ましく、T1+120℃≧T2≧T1+50℃の関係式を満足することがさらに好ましい。
なお、硬化処理の温度(T1)および加熱処理の温度(T2)の定義は、それぞれ上述したとおりである。
【0049】
(4)剥離処理法3
また、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物を、熱水を利用して剥離することも好ましい。そして、その際の熱水処理条件は、熱水(アルコールや界面活性剤等を含む場合がある。以下、同様である。)に浸漬して、熱剥離型接着剤組成物中の有機系熱膨張性粒子が急速に発泡膨張可能な条件であれば良い。
したがって、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物を熱水処理する際の温度を、加圧条件下も含めて、70〜250℃の範囲内の値とすることが好ましい。
すなわち、かかる温度が70℃未満となると、有機系熱膨張性粒子の発泡膨張が不十分となる場合があるためである。一方、かかる温度が250℃を超えると、被着体自身が熱変形したり、熱劣化したりするため、被着体をリサイクルすることが困難となる場合があるためである。
したがって、熱水処理する際の温度を、加圧条件下も含めて、75〜120℃の範囲内の値とすることがより好ましく、80〜100℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、熱水処理する際の処理時間を、10秒〜12時間の範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかる処理時間が10秒未満となると、接着力が十分に低下しない場合が生じるためである。一方、かかる処理時間が12時間を超えると、被着体をリサイクルするための生産性が著しく低下する場合があるためである。
したがって、熱剥離型接着剤組成物を剥離する際の熱水による処理時間を、30秒〜60分の範囲内の値とすることがより好ましく、60秒〜10分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
【実施例】
[実施例1]
(1)熱剥離型接着剤組成物の作成
攪拌機付きの容器内に、エピコート828(ジャパンエポキシレジン(株)製)100gと、有機系熱膨張性粒子としてのマツモトマイクロスフェアー F−30D(松本油脂製薬(株)製、発泡開始温度:70℃)50gとをそれぞれ添加した後、ミキサーを用いて1時間攪拌し、均一に混合した。次いで、エポキシ樹脂の硬化剤であるエポメートB002(ジャパンエポキシレジン(株)製)50gを添加した後、さらに5分間攪拌して、粘度10,000Pa・s(測定温度:25℃)の熱剥離型接着剤組成物を作成した。
【0051】
(2)熱剥離型接着剤組成物の評価
▲1▼初期接着力測定
JIS K 6850に準拠して引っ張りせん断接着力を測定した。すなわち、得られた熱剥離型接着剤組成物を2枚のSUS板(長さ120mm×幅25mm×厚さ1.5mm)の間に、接着面積が3.125cm2となるように挟みこんだ。次いで、オーブン中、60℃、2時間の条件で加熱し、熱剥離型接着剤組成物を加熱硬化させて、接着力測定試料とした。
得られた接着力測定試料の引っ張りせん断強度(初期接着力、n数=5)を、温度25℃、湿度65%RHの環境条件下、万能抗張力試験試験機5569型(インストロンジャパン(株)製)を用いて測定した。
【0052】
▲2▼加熱/熱水剥離性評価
作成した接着力測定試料を、熱水(90℃)、105℃オーブン、120℃オーブン中にそれぞれ放置し、自己剥離するまでの時間を測定した。得られた結果を表1に示す。
なお、表1中、×印は、所定の加熱処理を12時間実施した後も自己剥離しない場合を示している。
【0053】
[実施例2〜4および比較例1、3]
表1に示すように、有機系熱膨張性粒子の添加量を変更したほかは、実施例1と同様に熱剥離型接着剤組成物を調製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
結果から容易に理解されるように、硬化処理後の熱剥離型接着剤組成物の剥離性は、有機系熱膨張性粒子の添加量に対応しており、例えば、熱硬化性接着剤成分100重量部あたり、30〜150重量部の範囲であれば、短時間での加熱処理によって自己剥離が可能である一方、初期接着力の低下も確実に抑制することが可能である。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例5〜7]
表2に示すように、シランカップリング剤の添加量を変更したほかは、実施例1と同様に熱剥離型接着剤組成物を調製し、評価した。また、被着体として、2枚のアルミニウム板(長さ120mm×幅25mm×厚さ1.6mm)からなる測定試料も評価した。得られた結果を表2に示す。
結果から理解されるように、熱剥離型接着剤組成物の接着力や、剥離性は、シランカップリング剤の添加量に対応しており、例えば、全体量に対して、0.1〜10重量%の添加量であれば、ステンレス板のみならず、通常、難接着性のアルミニウム板に対しても良好な接着特性を示す一方、短時間の加熱処理(熱水処理含む。)によっても自己剥離が可能であることを確認した。
【0056】
【表2】
【0057】
[実施例8〜10]
表3に示すように、界面活性剤の添加量を変更したほかは、実施例1と同様に熱剥離型接着剤組成物を調製し、評価した。得られた結果を表3に示す。
結果から理解されるように、熱剥離型接着剤組成物の接着力や、剥離性は、界面活性剤の添加量に対応しており、例えば、全体量に対して、0.1〜20重量%の添加量であれば、良好な接着特性を示す一方、短時間の加熱処理(熱水処理含む。)によっても自己剥離が可能であることを確認した。
【0058】
【表3】
【0059】
[実施例11〜13]
表4に示すように、フィルム形成樹脂として、デンカブチラール#6000−EP(ポリビニルブチラール樹脂、重合度2400、Tg89℃)を使用し、その添加量を10〜30重量部の範囲で変更して、厚さ20μmのフィルム状接着剤としたほかは、実施例1と同様に熱剥離型接着剤組成物を調製し、評価した。また、被着体として、SUS板(長さ120mm×幅25mm×厚さ1.5mm)と、アルミニウム箔(長さ300mm×幅25mm×厚さ0.1mm)を用いて、180°剥離接着力を測定した。さらに以下の基準により、フィルム形成性を評価した。得られた結果を表4に示す。
◎:フィルムとして取り扱うことができる。
○:一部、破損や亀裂があるが、フィルムとして取り扱うことができる。
△:大きな破損や亀裂があるが、フィルムとして取り扱うことができる。
×:フィルムとして取り扱うことができない。
結果から理解されるように、熱剥離型接着剤組成物の接着力や剥離性は、フィルム形成樹脂の添加量に対応しており、例えば、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、5〜70重量部の範囲であれば、良好な接着特性を示す一方、短時間の加熱処理(熱水処理含む。)によっても自己剥離が可能であることを確認した。
【0060】
【表4】
【0061】
[実施例14〜16および比較例4]
表5に示すように、エポキシ樹脂に対するカルボキシル基末端液状ゴム(CTBN)の反応効果、および反応性アクリル樹脂(ハードロックC−320K−03、電気化学工業(株)製)の種類効果を検討したほかは、実施例1と同様に熱剥離型接着剤組成物を調製し、評価した。また、実施例11〜13と同様に、180°剥離接着力を測定した。得られた結果を表5に示す。
結果から理解されるように、エポキシ樹脂に対して、所定量のCTBNを予め反応させることにより、初期せん断接着力の値を低下させることなく、初期剥離接着力の値を著しく向上させることが可能になった。
また、エポキシ樹脂のかわりに、反応性アクリル樹脂を使用することにより、30〜40℃の温度で、反応時間が5分以内で十分に硬化させることができる一方、初期せん断接着力および初期剥離接着力の値を、いずれも著しく増加させることが可能になった。
【0062】
【表5】
【0063】
[実施例17〜18]
実施例1におけるF−30Dのかわりに、実施例17では、F−85D(松本油脂製薬(株)製、発泡開始温度:140℃)を使用するとともに、加熱剥離性評価において、オーブン温度を180℃に設定し、実施例18では、F−100D(松本油脂製薬(株)製、発泡開始温度:130℃)を使用するとともに、加熱剥離性評価において、オーブン温度を200℃に設定した以外は、実施例1と同様に、被着体同士が自己剥離するまでの時間を測定した。得られた結果を、実施例2の結果と比較しながら表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、所定量の熱硬化性接着剤成分および有機系熱膨張性粒子を含むことにより、初期せん断接着力が3MPa以上と高い一方、加熱処理により接着力が著しく低下して、容易に自己剥離可能な熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体を提供できるようになった。
また、特に熱水処理を実施することにより、接着力が著しく低下して、10分以内で自己剥離可能な熱剥離型接着剤組成物を用いて接着してなる熱剥離型接着構造体を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機系熱膨張性粒子の添加量と、自己剥離時間の関係を示す図である。
【図2】有機系熱膨張性粒子の添加量と、自己剥離時間の関係を示す図であって、図1の部分拡大図である。
【図3】有機系熱膨張性粒子の添加量と、初期せん断接着力との関係を示す図である。
【図4】本発明の熱剥離型接着剤組成物からなるフィルム状接着剤の断面図である。
【符号の説明】
10、20,30 熱剥離型接着剤組成物
12 有機系熱膨張性粒子
14 熱硬化性接着剤成分
16 有機系熱膨張性粒子を含まない熱硬化性接着剤層(第2または第3の接着剤層)
Claims (8)
- 加熱処理により接着力が低下する熱剥離型接着剤組成物を被着体間に用いて接着してなる熱剥離型接着構造体であって、前記熱剥離型接着剤組成物が、熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、有機系熱膨張性粒子を30〜300重量部の割合で含有するとともに、前記熱剥離型接着剤組成物の硬化処理後、加熱処理前のJIS K 6850に準拠した引っ張りせん断接着力を3MPa以上の値とすることを特徴とする熱剥離型接着構造体。
- 前記熱硬化性接着剤成分の硬化後のガラス転移点を60〜250℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の熱剥離型接着構造体。
- 前記熱剥離型接着剤組成物が、前記熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.1〜20重量部のカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱剥離型接着構造体。
- 前記熱剥離型接着剤組成物が、前記熱硬化性接着剤成分100重量部に対して、0.001〜20重量部の界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱剥離型接着構造体。
- 前記熱剥離型接着剤組成物が、フィルム形成樹脂を含むとともに、厚さが10〜200μmのフィルム状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱剥離型接着構造体。
- 70〜250℃の温度での加熱処理により、60分以内に自己剥離することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱剥離型接着構造体。
- 70〜250℃の熱水による加熱処理により、10分以内に自己剥離することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱剥離型接着構造体。
- 前記加熱処理の温度をT2(℃)とし、前記硬化処理の温度をT1(℃)とした場合に、T2≧T1+30℃の関係式を満足することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱剥離型接着構造体。
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